トリコモナス腟炎は、膣トリコモナス原虫という小さな寄生虫によって引き起こされる性感染症の一つです。
主に性交渉によって感染しますが、男性も女性も感染する可能性があり、多くの場合、特に男性は自覚症状がないまま経過します。
自覚症状がない場合でも、放置すると様々な健康上のリスクにつながる可能性があります。
この記事では、トリコモナス腟炎の原因、特徴的な症状、検査・診断方法、そして効果的な治療法について詳しく解説します。
早期発見と適切な治療、そしてパートナーとの同時治療が非常に重要となる病気ですので、心当たりがある方もない方も、ぜひ最後までお読みいただき、ご自身の健康を守るための参考にしてください。
トリコモナス腟炎とは?原因・症状・治療法を解説
トリコモナス腟炎は、世界中で見られる一般的な性感染症(STI: Sexually Transmitted Infection)です。
原因となるのは「膣トリコモナス原虫(Trichomonas vaginalis)」と呼ばれる単細胞の寄生虫です。
この原虫は、女性の腟や尿道、膀胱、男性の尿道や前立腺などに寄生します。
主に性行為によって人から人へ感染が広がりますが、感染してもすぐに症状が現れるとは限りません。
特に男性は無症状であることが多く、感染していることに気づかないままパートナーに感染させてしまうケースが少なくありません。
トリコモナス腟炎は、適切な抗生剤(抗菌薬)による治療で完治が可能です。
しかし、治療せずに放置すると、不快な症状が続くだけでなく、より深刻な健康問題を引き起こす可能性もあります。
早期に発見し、適切な治療を受けることが非常に重要です。
トリコモナス腟炎の原因と感染経路
トリコモナス腟炎の原因は、学名をTrichomonas vaginalisという「膣トリコモナス原虫」という微生物です。
この原虫がどのようにして感染し、広がっていくのかを詳しく見ていきましょう。
膣トリコモナス原虫とは
膣トリコモナス原虫は、直径が約10〜20マイクロメートルほどの非常に小さな単細胞生物です。
この原虫は、体から生えた4本の鞭毛(べんもう)と、もう1本の波動膜(はどうまく)を使って活発に動き回るという特徴があります。
この動き回る性質が、女性の腟分泌液に泡状の特徴的な変化をもたらす一因と考えられています。
トリコモナス原虫は、湿っていて温かい環境で比較的長く生存できます。
人間の体内、特に女性の腟内のような環境は、原虫の増殖に適しています。
ただし、乾燥には弱いため、体外で長時間生存することは難しいとされています。
主な感染経路は性交渉
トリコモナス腟炎の最も一般的な感染経路は、性交渉です。
腟性交だけでなく、オーラルセックスやアナルセックスによっても感染する可能性が指摘されていますが、主には粘膜同士の接触、特に腟粘膜や尿道粘膜を介して感染が成立します。
感染者との一度の性交渉によって感染する確率が高い性感染症の一つとされています。
コンドームを使用することは感染リスクを減らす上で有効ですが、コンドームで覆われていない部分からの感染の可能性もゼロではありません。
あくまでリスクを低減させるものであり、完全に防ぐものではないという理解が必要です。
性交渉以外の感染経路(心当たりがない場合)
「性交渉に心当たりがないのにトリコモナス腟炎と診断された」というケースは稀にあります。
過去には、公衆浴場、温泉、プール、タオル、便器などを介して感染するという説もありました。
しかし、現在の医学的な見解では、体外に出たトリコモナス原虫は乾燥に弱く、長時間生存できないため、性交渉以外の経路での感染は極めて可能性が低いと考えられています。
では、なぜ性交渉の心当たりがないのに感染することがあるのでしょうか。
考えられる主な理由は以下の通りです。
- 過去の性交渉による感染: 潜伏期間が長い場合や、長期間無症状で経過している場合があります。何ヶ月、何年も前の性交渉が原因である可能性も否定できません。
- 無症状のパートナーからの感染: パートナーが無症状であったため、本人が感染に気づいていなかった、あるいはパートナーが感染していることを知らなかったというケースが最も多いと考えられます。特に男性は無症状が多いため、気づかないうちにパートナーに感染させてしまうことがあります。
- 稀なケースとしての非性的な感染: 理論的には、原虫が生存可能な湿った環境(例えば、清掃が行き届いていない可能性のある浴場やプールなどの水辺、タオルの共用など)を介した感染の可能性もゼロとは言えませんが、これは極めて限定的な状況と考えられており、主な感染経路ではありません。
心当たりがない場合でも、診断されたら必ずパートナーにも検査・治療を勧めることが重要です。
トリコモナス腟炎の女性の症状
女性がトリコモナス腟炎に感染した場合、様々な症状が現れることがあります。
ただし、全ての女性に症状が出るわけではなく、無症状の場合も少なくありません。
症状が現れる場合は、他のおりもの異常やかゆみを伴う疾患(カンジダ腟炎や細菌性腟症など)と似ていることも多いため、自己判断はせずに医療機関を受診することが重要です。
特徴的なおりもの(泡、色、臭い)
トリコモナス腟炎の女性の症状として最も特徴的なのは、おりものの変化です。
- 泡状のおりもの: 腟分泌液に空気が混ざり、泡立つような、あるいはフワフワとしたおりものが出ることがあります。これは、トリコモナス原虫が腟内で動き回る際にガスを発生させたり、粘液を攪拌したりすることによると考えられています。ただし、泡状にならない場合もあります。
- 色: 通常の透明や乳白色のおりものとは異なり、黄色や黄緑色に変色することが多いです。
- 臭い: 不快な、魚のような臭いや腐敗臭を伴うことがあります。特に性交後や月経時に臭いが強くなる傾向があります。
おりものの量が普段より増えることも一般的です。
これらの特徴的なおりものが見られる場合は、トリコモナス腟炎を強く疑う必要があります。
外陰部のかゆみや痛み
おりもの異常と並んで多く見られる症状が、外陰部や腟の強いかゆみです。
かゆみの程度は個人差がありますが、夜間に強くなるなど、日常生活に支障をきたすほどのかゆみを訴える方もいます。
かゆみに加えて、外陰部や腟の灼熱感(ヒリヒリ感)や、痛みを感じることもあります。
性交時に痛み(性交痛)を伴うこともよくあります。
その他の症状
上記以外にも、以下のような症状が現れることがあります。
- 排尿時の痛み(排尿痛): 尿道にも感染が及ぶと、排尿時に軽い痛みや不快感を感じることがあります。
- 頻尿: 尿道や膀胱に炎症が起きると、トイレに行く回数が増えることがあります。
- 腟や外陰部の発赤・ただれ: 強い炎症が起きている場合、腟の入り口や外陰部が赤く腫れたり、ただれたりすることがあります。
これらの症状は、トリコモナス腟炎だけでなく他の婦人科疾患でも見られるため、症状だけで自己判断はせず、必ず医療機関で検査を受けるようにしてください。
潜伏期間と初期症状
トリコモナス腟炎の潜伏期間は、感染してから症状が現れるまでの期間で、平均的には5日から28日(約1ヶ月)程度とされています。
ただし、この期間は個人差が大きく、数日以内に症状が出る人もいれば、数ヶ月、あるいはそれ以上の期間を経てから症状が出る人もいます。
初期症状としては、軽いおりもの異常やわずかなかゆみから始まることが多いです。
しかし、多くの場合は初期段階では症状がほとんどなく、気づきにくいのが現状です。
無症状で経過することも多い
トリコモナス腟炎の大きな特徴の一つは、女性でも無症状で経過するケースが少なくないということです。
感染している女性の約1割から5割は、目立った症状がないまま過ごしていると言われています。
無症状であっても、腟の内部ではトリコモナス原虫が増殖しており、パートナーに感染させる可能性があります。
また、無症状だからといって放置しておくと、後述するように様々なリスクが高まります。
そのため、パートナーがトリコモナス腟炎と診断された場合や、性感染症の検査を受ける機会がある場合は、症状がなくても検査を受けることが推奨されます。
トリコモナスとカンジダの違い
トリコモナス腟炎とカンジダ腟炎は、どちらもおりもの異常やかゆみを引き起こす腟炎ですが、原因となる微生物や症状、治療法が異なります。
症状が似ているため、自己判断は危険です。
以下に主な違いを表でまとめました。
項目 | トリコモナス腟炎 | カンジダ腟炎 |
---|---|---|
原因微生物 | 膣トリコモナス原虫(寄生虫) | カンジダ菌(真菌、カビの一種) |
主な感染経路 | 性交渉が主(稀に非性的経路) | 常在菌の増殖(性交渉でも感染あり) |
おりものの特徴 | 泡状、黄色~黄緑色、悪臭(魚臭) | カッテージチーズ状、酒粕状、白~黄色 |
かゆみの特徴 | 強いかゆみ、灼熱感 | 強いかゆみ |
その他の症状 | 排尿痛、頻尿、性交痛など | 外陰部の赤み、腫れなど |
パートナー | 同時治療が必須 | 男性に症状が出ることは稀(亀頭炎など) |
治療薬 | 抗原虫薬(メトロニダゾールなど) | 抗真菌薬(クロトリマゾールなど) |
市販薬 | 有効な市販薬はない | 市販薬がある |
このように、症状には類似点がありますが、特におりものの性状(泡状か、チーズ状か)や臭い、そしてパートナーへの影響、治療薬の種類が大きく異なります。
自己判断でカンジダの市販薬を使っても、トリコモナス腟炎は治りません。
正確な診断には医療機関での検査が必要です。
トリコモナス腟炎の男性の症状
トリコモナス腟炎は女性の病気というイメージがあるかもしれませんが、男性も感染します。
しかし、男性の場合、女性よりも症状が出にくいという特徴があります。
男性の場合の症状
男性がトリコモナス原虫に感染した場合、多くは尿道に原虫が寄生します。
症状が現れる場合の例としては、以下のようなものが挙げられます。
- 軽い尿道のかゆみや不快感: ムズムズとしたかゆみを感じることがあります。
- 排尿時の軽い痛み: 尿を出すときにわずかな痛みを感じることがあります。
- 少量のおりもの: 朝起きたときなどに、尿道から透明や白っぽい少量のおりもの(分泌物)が見られることがあります。
これらの症状は、クラミジアや淋病など他の性感染症による尿道炎の症状と似ているため、症状だけでは区別が難しいことが多いです。
ごく稀ではありますが、トリコモナス原虫が尿道からさらに奥に進み、前立腺に感染して前立腺炎を引き起こしたり、精巣上体(副睾丸)に感染して副睾丸炎を引き起こしたりする可能性も報告されています。
これらの場合は、会陰部(えいんぶ)の痛みや睾丸の腫れ、痛みなどの症状が現れることがあります。
男性も無症状が多い
女性に症状が現れやすいトリコモナス腟炎ですが、男性の場合は感染しても約半数、あるいはそれ以上の割合で全く症状が出ない(無症状)と言われています。
男性が無症状であるにもかかわらず、尿道などにトリコモナス原虫が潜んでおり、性交渉を通じて女性パートナーに感染させてしまうケースが非常に多いです。
女性がトリコモナス腟炎と診断された場合、特別な理由がない限り、男性パートナーもトリコモナス原虫に感染している可能性が非常に高いと考えられます。
したがって、女性が治療を受けている間、または治療が完了しても、パートナーが未治療であればすぐに再感染してしまいます。
パートナーが複数いる場合は、全てのパートナーに検査・治療を勧めることが理想的です。
パートナーと協力して、同時に治療を完了させることが、トリコモナス腟炎を根絶し、再感染を防ぐための鍵となります。
治療期間中、および治癒が確認されるまでの期間は、性交渉を控える必要があります。
トリコモナス腟炎の検査・診断
トリコモナス腟炎が疑われる場合、正確な診断のためには医療機関での検査が必要です。
自己判断での市販薬使用や放置は、症状の悪化や感染の拡大を招く可能性があります。
どのような検査を行うのか
トリコモナス腟炎の検査方法は、主に以下の通りです。
-
女性の場合:
- 問診: 症状(おりものの色、量、臭い、かゆみ、痛みなど)、性交渉歴、過去の性感染症の既往などを医師に伝えます。
- 内診: 腟や外陰部の状態を観察します。
-
腟分泌液(おりもの)の検査: 腟から採取したおりものを検査します。
- 鏡検(顕微鏡検査): 採取したおりものを顕微鏡で観察し、その場で活発に動き回るトリコモナス原虫を確認する検査です。迅速性に優れていますが、原虫の数が少ない場合は見つけにくいことがあります。
- 培養検査: 原虫を培養して増やすことで、検出率を高める検査です。診断が確定するまでに数日かかります。
- 遺伝子検査(PCR法など): おりもの中に含まれるトリコモナス原虫のDNAを検出する検査です。感度が高く、少量の原虫でも検出できるため、最も確実な診断法の一つとされています。結果が出るまでに数日かかります。
-
男性の場合:
- 問診: 症状(尿道のかゆみ、痛み、分泌物など)、性交渉歴、女性パートナーの感染状況などを伝えます。
- 尿検査: 尿道内の原虫を調べるために、初尿(出始めの尿)を採取して検査することが一般的です。顕微鏡検査、培養検査、遺伝子検査が行われます。
- その他の検体: 症状によっては、前立腺液や精液を検査することもあります。
- 男性の検査は女性に比べて原虫の検出が難しい場合があります。
医療機関によって行われる検査の種類は異なりますが、感度の高い遺伝子検査や培養検査を組み合わせることで、より確実に診断することができます。
検査にかかる費用
トリコモナス腟炎の検査および治療は、通常、性感染症として健康保険が適用されます。
これにより、医療費の自己負担は原則として3割となります。
ただし、検査方法(鏡検、培養、遺伝子検査など)や医療機関の種類(クリニック、病院など)によって費用は多少異なります。
また、性感染症の場合、検査のみの費用は数千円程度となることが多いです。
治療薬が処方される場合は、別途薬代がかかります。
正確な費用については、受診される医療機関に直接お問い合わせいただくか、診察時に医師やスタッフにご確認ください。
保険適用外となる自由診療で性感染症のセット検査などを受ける場合もありますが、トリコモナス腟炎の診断と治療であれば保険適用となるのが一般的です。
トリコモナス腟炎の治療法
トリコモナス腟炎は、適切な治療薬を用いることで完治が可能な病気です。
治療の中心は、トリコモナス原虫に効果がある薬の服用です。
処方薬による治療
トリコモナス腟炎の治療には、原因となる膣トリコモナス原虫を死滅させるための抗原虫薬が使用されます。
これらの薬は医師の処方箋が必要であり、薬局やドラッグストアで市販されているものではありません。
主に使用される薬の種類
トリコモナス腟炎の治療で最も一般的に使用されるのは、「メトロニダゾール」という成分を含む薬です。
メトロニダゾールは、トリコモナス原虫に対して高い効果を発揮します。
メトロニダゾールには、主に以下の剤形があります。
- 内服薬: 飲み薬です。通常、1日1回または1日2回、数日間にわたって服用します。症状の有無にかかわらず、全身の原虫を排除するために男女ともに内服薬による治療が推奨されます。
- 腟錠: 女性の場合、腟に挿入するタイプの薬です。通常、内服薬と併用するか、内服薬が使えない場合に用いられます。腟内の原虫に直接作用しますが、全身への効果は限定的です。
治療期間は、使用する薬の種類や量によって異なりますが、内服薬の場合は数日(例えば250mgを1日2回、7日間)で完了することが多いです。
1回の服用で治療を完了させる大量療法(例えば2gを1回服用)もありますが、副作用が出やすい場合があるため、通常は短期間の服用療法が選択されます。
メトロニダゾールの他に、チニダゾールという成分を含む薬が使用されることもあります。
メトロニダゾールにアレルギーがある場合や、メトロニダゾールで効果が不十分な場合に検討されることがあります。
【重要】治療中の注意点
メトロニダゾール(およびチニダゾール)による治療期間中は、アルコールの摂取を絶対に避けてください。
メトロニダゾールは、アルコールの分解を阻害する作用があるため、服用中にアルコールを摂取すると、「ジスルフィラム様作用」と呼ばれる強い副作用が現れることがあります。
ジスルフィラム様作用の症状としては、以下のようなものがあります。
- 顔面紅潮
- 動悸
- 吐き気、嘔吐
- 頭痛
- めまい
- 腹痛
これらの症状は非常に不快であり、重篤な場合は危険を伴うこともあります。
薬を服用している間はもちろんのこと、服用終了後も少なくとも24~72時間はアルコールの摂取を控える必要があります。
医師や薬剤師から指示された期間は、必ず禁酒を守るようにしてください。
市販薬での対応は可能か?
現在、日本国内で薬局やドラッグストアなどで市販されている薬の中に、トリコモナス原虫に対して有効な成分を含むものはありません。
カンジダ腟炎の場合、市販の抗真菌薬(腟坐剤など)で対応できるものがありますが、これは原因菌が異なるためです。
トリコモナス腟炎の原因は寄生虫であり、その治療には特異的な抗原虫薬が必要です。
自己判断で市販のカンジダ治療薬やその他の腟炎用の薬を使用しても、トリコモナス腟炎は治りません。
むしろ、症状が一時的に紛れて診断が遅れたり、原虫が増殖して病状が悪化したり、パートナーへの感染を広げ続けたりするリスクがあります。
トリコモナス腟炎が疑われる症状がある場合、またはパートナーがトリコモナス腟炎と診断された場合は、必ず医療機関を受診し、医師の診察を受けて適切な処方薬による治療を受けてください。
パートナーも必ず一緒に治療
トリコモナス腟炎の治療において、最も重要な点の一つが、性交渉のパートナーも同時に検査を受け、感染が確認された場合は症状の有無にかかわらず一緒に治療を受けることです。
これは、「ピンポン感染」を防ぐためです。
ピンポン感染とは、一方が治療で治癒しても、治療していないパートナーから再び感染してしまうことを繰り返す状況を指します。
特に男性は無症状のことが多いため、本人が気づかないうちに感染源となっているケースがよくあります。
女性がトリコモナス腟炎と診断された場合、特別な理由がない限り、男性パートナーもトリコモナス原虫に感染している可能性が非常に高いと考えられます。
したがって、女性が治療を受けている間、または治療が完了しても、パートナーが未治療であればすぐに再感染してしまいます。
パートナーが複数いる場合は、全てのパートナーに検査・治療を勧めることが理想的です。
パートナーと協力して、同時に治療を完了させることが、トリコモナス腟炎を根絶し、再感染を防ぐための鍵となります。
治療期間中、および治癒が確認されるまでの期間は、性交渉を控える必要があります。
治療期間と治癒の確認
メトロニダゾール内服薬による一般的な治療期間は、通常5日から7日間です。
短期間で治療が完了するため、指示通りに薬を服用することが大切です。
症状は、治療開始後数日で改善することが多いです。
しかし、症状が改善したからといって、原虫が完全にいなくなったとは限りません。
治療を途中でやめてしまうと、原虫が完全に排除されず、再発したり、パートナーへの感染源になったりする可能性があります。
処方された薬は、症状が軽快しても最後まで全て服用するようにしてください。
治療が終了したら、本当にトリコモナス原虫がいなくなったかを確認するための治癒確認検査を行うことが推奨されます。
通常は、治療終了から1週間~2週間程度期間を置いてから再度検査を行います。
この検査で陰性であることが確認されれば、治癒したと判断できます。
治癒確認検査を受けずに治療を終了してしまうと、気づかないうちに原虫が残っており、再感染やパートナーへの感染を繰り返すリスクが残ります。
必ず医師の指示に従って治癒確認検査を受けるようにしましょう。
また、治癒が確認されるまでは性交渉を控えましょう。
トリコモナス腟炎を放置するとどうなる?
トリコモナス腟炎は、治療せずに放置しておくと、単なる不快な症状だけでなく、様々な健康上のリスクにつながる可能性があります。
自然治癒はしない
多くの性感染症と同様に、トリコモナス腟炎が自然に治ることはほとんど期待できません。
確かに、症状が軽くなったり、一時的に消えたりすることはあるかもしれませんが、体内にトリコモナス原虫が完全にいなくなることは稀です。
症状が落ち着いても、原虫は体内に潜伏し続け、ストレスや体調の変化などで免疫力が低下した際に再び症状が現れたり、無症状のままパートナーに感染を広げ続けたりします。
トリコモナス腟炎を完治させるためには、必ず医療機関で正確な診断を受け、適切な抗原虫薬による治療が必要です。
放置によるリスク(不妊、流産など)
トリコモナス腟炎を放置することによって生じる主なリスクは以下の通りです。
- 症状の慢性化・悪化: 不快なおりもの、かゆみ、痛みなどが慢性的に続き、生活の質が著しく低下します。
- 上行性感染による炎症の拡大: 女性の場合、腟だけでなく子宮頸部、子宮、卵管、卵巣など骨盤内の他の臓器へ原虫が広がり、「骨盤内炎症性疾患(PID)」を引き起こす可能性があります。PIDは、激しい腹痛や発熱を伴い、子宮外妊娠や不妊症の原因となることがあります。
- 妊娠への影響: 妊娠中にトリコモナス腟炎を放置すると、早産や低出生体重児のリスクが高まることが報告されています。また、出産時に産道を通じて赤ちゃんに感染させる可能性も否定できません(ただし、新生児の感染は稀です)。妊娠を希望している方や、妊娠中の場合は、早期の検査と治療が非常に重要です。
- 他の性感染症への感染リスク増加: トリコモナス腟炎によって腟や外陰部の粘膜に炎症や損傷があると、HIVやクラミジア、淋病、ヘルペスなど、他の性感染症に感染しやすくなることが知られています。
- 男性における合併症: 稀ですが、男性の場合も放置すると、尿道炎が慢性化したり、前立腺炎や副睾丸炎といった合併症を引き起こし、不妊の原因となる可能性もゼロではありません。
- パートナーへの感染: 無症状の場合でも、性交渉によってパートナーに感染させ続けます。これにより、パートナーも上述のような様々なリスクを抱えることになります。
このように、トリコモナス腟炎を放置することは、ご自身の健康だけでなく、パートナーの健康、さらには将来の妊娠・出産にも影響を及ぼす可能性があるため、非常に危険です。
不快な症状がある場合はもちろん、パートナーが感染したとわかった場合や、不安な場合は、症状がなくても必ず医療機関を受診して検査・治療を行うことが強く推奨されます。
トリコモナス腟炎に関するよくある質問
トリコモナス腟炎に関して、よくある疑問にお答えします。
トリコモナス腟炎は自然に治りますか?
いいえ、トリコモナス腟炎が自然に治ることはほとんど期待できません。
症状が一時的に軽くなったり消えたりすることはありますが、原因となる膣トリコモナス原虫が体内に残り続けるため、再発したりパートナーに感染させたりするリスクがあります。
トリコモナス腟炎を完治させるためには、必ず医療機関で診断を受け、抗原虫薬による適切な治療が必要です。
自己判断で放置したり、市販薬を使ったりすることは避けましょう。
感染に心当たりがありませんが?
性交渉の心当たりがないのにトリコモナス腟炎と診断された場合、いくつかの可能性が考えられます。
最も多いのは、過去の性交渉による感染で、長期間無症状で経過していたケースです。
トリコモナス腟炎の潜伏期間は数日から1ヶ月程度とされていますが、それ以上に長く無症状で経過することもあります。
また、無症状のパートナーからの感染である可能性も高いです。
特に男性は無症状であることが多いため、パートナーが感染していることに気づいていない場合があります。
非常に稀ではありますが、性交渉以外の経路(例えば、不衛生な公衆浴場やタオルなど)からの感染も理論上は考えられますが、これは極めて限定的な状況と考えられています。
感染経路に心当たりがない場合でも、診断されたということは感染している証拠です。
ご自身の健康とパートナーへの感染を防ぐためにも、必ず適切な治療を受けてください。
可能であれば、過去や現在のパートナーにも検査・治療を勧めることが重要です。
再感染を防ぐにはどうすればいいですか?
トリコモナス腟炎の再感染を防ぐためには、以下の点が非常に重要です。
- パートナーとの同時治療: これが最も重要です。ご自身が治療で治癒しても、パートナーが感染したままではすぐに再感染してしまいます。パートナーも必ず検査を受け、感染が確認された場合は症状の有無にかかわらず一緒に治療を受けてください。
- 治癒確認検査: 治療終了後、医師の指示に従って必ず治癒しているかを確認するための検査を受けましょう。陰性であることが確認されるまでは、性交渉を控えるか、コンドームを正しく使用しましょう。
- コンドームの適切な使用: 性交渉の際には、最初から最後までコンドームを正しく使用することで、トリコモナスを含む多くの性感染症のリスクを低減できます。ただし、コンドームで覆われていない部分からの感染の可能性もゼロではないため、過信は禁物です。
- 不特定多数との性交渉を避ける: 性感染症のリスクを減らす上で、パートナーの数を限定することは有効な手段です。
- 定期的な検査: 性交渉の機会が多い方や、パートナーが変わった際などは、定期的に性感染症の検査を受けることを検討しましょう。早期発見につながります。
治療をしても再感染を繰り返す場合は、パートナーが治療を受けていない、あるいは他のパートナーから感染した可能性が考えられます。
トリコモナス腟炎かな?と思ったら
おりもの異常、かゆみ、排尿時の不快感など、「もしかしてトリコモナス腟炎かも?」と感じたら、まずは医療機関を受診することが大切です。
不安なまま自己判断したり、放置したりすることは避けましょう。
医療機関を受診しましょう(何科?)
トリコモナス腟炎の検査や治療を受けられるのは、主に以下の科です。
- 女性: 婦人科、または性感染症科を受診しましょう。一般の産婦人科クリニックでも対応している場合がほとんどです。
- 男性: 泌尿器科、または性感染症科を受診しましょう。一般の泌尿器科クリニックでも対応していることが多いです。
性感染症専門のクリニックは、性感染症全般の知識や経験が豊富で、プライバシーへの配慮も期待できます。
また、最近ではオンライン診療で性感染症の検査キットの郵送や、治療薬の処方を行っているクリニックもあります。
対面での受診に抵抗がある方や、忙しくて通院の時間が取れない方にとっては、オンライン診療も選択肢の一つとなるでしょう。
受診のタイミング
以下のような場合は、早めに医療機関を受診しましょう。
- トリコモナス腟炎に特徴的な症状(泡状・黄色~黄緑色で悪臭のあるおりもの、強いかゆみ、排尿時の不快感など)がある場合。
- 性交渉のパートナーがトリコモナス腟炎と診断された場合(ご自身は症状がなくても、感染している可能性が高いです)。
- 性感染症の検査を受ける機会があり、トリコモナスが含まれている場合。
- 特に症状はないけれど、性感染症にかかったのではないかと不安な場合。
早期に診断を受けて適切な治療を開始することで、症状の改善が早まり、ご自身の健康を守り、パートナーへの感染を防ぐことができます。
不安があれば、一人で悩まずにまずは相談してみましょう。
【まとめ】トリコモナス腟炎は早期発見とパートナーとの同時治療が鍵
トリコモナス腟炎は、膣トリコモナス原虫によって引き起こされる性感染症です。
女性に特徴的な泡状のおりものやかゆみが見られることがありますが、男性を含め無症状で経過することも少なくありません。
この病気は、適切な抗原虫薬(主にメトロニダゾール)による治療で完治が可能です。
しかし、市販薬で治すことはできず、医療機関での正確な診断と処方箋が必要です。
トリコモナス腟炎の治療で最も大切なのは、パートナーも症状の有無にかかわらず一緒に検査を受け、感染していれば同時に治療を行うことです。
これにより、再感染を防ぎ、病気を根絶することができます。
放置すると、女性では骨盤内炎症性疾患による不妊や、妊娠中の早産リスク増加、男性でも稀に合併症を引き起こすなど、様々な健康上のリスクが高まります。
もし、トリコモナス腟炎が疑われる症状がある場合や、パートナーが感染したとわかった場合は、一人で悩まずに医療機関(女性は婦人科、男性は泌尿器科、または性感染症科)を受診しましょう。
オンライン診療という選択肢もあります。
早期発見と適切な治療が、ご自身の健康とパートナーの健康を守るための最も重要なステップです。
免責事項: この記事はトリコモナス腟炎に関する一般的な情報提供を目的として作成されたものであり、特定の疾患の診断や治療を推奨するものではありません。
記事内の情報は、必ずしも全ての方に当てはまるわけではありません。
ご自身の症状や治療については、必ず医療機関で医師の診察を受け、専門的なアドバイスに従ってください。
この記事の情報に基づいて行った行為によって生じたいかなる結果についても、当方は一切の責任を負いかねます。