子宮筋腫は、多くの女性に見られる良性の腫瘍です。
すべての子宮筋腫が症状を引き起こすわけではありませんが、筋腫が大きくなったり、できる場所によっては様々な症状が現れることがあります。
中でも「お腹の張り」は、子宮筋腫を自覚するきっかけとなることの多い症状の一つです。
お腹が張る、ぽっこりする、触ると硬い塊があるように感じるなど、その症状は様々で、日常生活に影響を及ぼすことも少なくありません。
この記事では、子宮筋腫がなぜお腹の張りを引き起こすのか、その原因や具体的な症状、そしてどのように対処し、どのような場合に医療機関を受診すべきかについて詳しく解説します。
ご自身の症状と照らし合わせながら、子宮筋腫とお腹の張りについて理解を深めていきましょう。
子宮筋腫とお腹の張りの関係性
子宮筋腫は、子宮の筋肉の細胞が増殖してできる良性の腫瘍です。
発生する場所によって、子宮の外側にできる漿膜下筋腫、子宮の筋肉の中にできる筋層内筋腫、子宮の内側(子宮内腔)に飛び出す粘膜下筋腫に分類されます。
小さかったり、子宮の外側に向かってできる筋腫(漿膜下筋腫の一部)の場合は、特に症状が出ないことも多くあります。
しかし、筋腫が大きくなると、その物理的な存在感によって、周囲の臓器を圧迫したり、子宮自体のサイズを大きくしたりします。
この「子宮が大きくなること」や「周囲臓器が圧迫されること」が、お腹の張りや膨満感といった症状を引き起こす主な原因となります。
お腹の張りは、ガスが溜まったような膨満感、重苦しさ、またはお腹が物理的に大きくなったことによる圧迫感として感じられます。
子宮筋腫によるお腹の張りは、単なる消化不良による張りとは異なり、筋腫の増大に伴って徐々に、あるいは持続的に現れることが多いのが特徴です。
子宮筋腫がお腹の張りを引き起こす原因
子宮筋腫がお腹の張りを引き起こす原因は一つだけではありません。
主に筋腫の増大による物理的な影響が大きいですが、それに伴う合併症や、間接的な影響も関わってきます。
筋腫の増大による物理的圧迫
子宮筋腫が成長して大きくなると、まるで妊娠後期の子宮のように、下腹部の中でかなりの容積を占めるようになります。
これにより、物理的に下腹部が膨らみ、お腹が張っていると感じたり、実際に見た目にもぽっこりと出ているように見えたりします。
この物理的な大きさは、筋腫の数や位置によっても異なります。
例えば、複数の筋腫がある場合や、子宮全体が大きくなるようなタイプの筋腫の場合、単一の小さな筋腫よりもお腹の張りを感じやすくなります。
筋腫の大きさと腹部膨満感(何センチから?)
「子宮筋腫が何センチになったらお腹の張りを感じるの?」という疑問を持たれる方は多いでしょう。
しかし、これには明確な基準があるわけではなく、非常に個人差が大きいのが現状です。
一般的には、筋腫の大きさが10cmを超えると、その物理的な大きさからお腹の張りや腹部膨満感を自覚しやすくなると言われています。
子宮全体が妊娠週数でいうと16週(妊娠4ヶ月)〜20週(妊娠5ヶ月)相当の大きさになった場合も、お腹の膨らみや張りを感じることが増えます。
しかし、筋腫の「位置」も重要です。
例えば、たとえ小さくても、お腹側に大きく突出するタイプの漿膜下筋腫であれば、比較的早い段階(例えば5cm程度でも)でお腹の膨らみや張りを自覚することがあります。
逆に、子宮の奥深くにある筋層内筋腫や、骨盤腔内に収まっている小さな筋腫の場合は、ある程度大きくなるまで自覚症状が出にくいこともあります。
また、個人の体型や、お腹周りの筋肉のつき方によっても、症状の感じ方や見た目の変化の現れ方は異なります。
例えば、痩せている方の方が、小さめの筋腫でもお腹の膨らみに気づきやすい傾向があります。
重要なのは、「何センチだから大丈夫/大丈夫ではない」と安易に判断せず、お腹の張りが気になる場合は一度医療機関を受診することです。
医師の診察や超音波検査によって、筋腫の正確なサイズや位置、数を確認することが、症状の原因を特定し、適切な対応を考える上で不可欠です。
周辺臓器への圧迫(胃、膀胱、腸など)
大きく成長した子宮筋腫は、子宮の周囲にある様々な臓器を圧迫します。
この圧迫が、お腹の張りだけでなく、多岐にわたる不快な症状を引き起こします。
このように、筋腫の大きさだけでなく、どの臓器を圧迫しているかによって、現れる症状の種類や程度が変わってきます。
お腹の張りだけでなく、他の消化器症状や泌尿器症状を伴う場合は、子宮筋腫による周辺臓器への圧迫が原因である可能性を考える必要があります。
- 胃への圧迫: 子宮筋腫が上方に大きくなると、胃を圧迫することがあります。
これにより、食後の胃もたれ、膨満感、吐き気、食欲不振といった症状が現れることがあります。 - 膀胱への圧迫: 子宮筋腫が前方に位置したり、大きくなったりすると、膀胱を圧迫します。これは非常に多い症状で、頻尿(トイレが近くなる)、尿意切迫感(急にトイレに行きたくなる)、排尿困難、ひどい場合には尿失禁を引き起こすことがあります。
膀胱に常に圧迫感があることで、下腹部の張りのように感じられることもあります。 - 腸への圧迫: 子宮筋腫が後方や側方に大きくなると、大腸や小腸を圧迫します。腸の動きが悪くなることで、便秘を引き起こしやすくなります。
便秘になると、腸内にガスが溜まりやすくなり、お腹の張りやゴロゴロとした不快感、おならの増加につながります。腸が圧迫されることによる直接的な腹痛や、便秘による二次的な腹痛も起こり得ます。
合併症によるお腹の張り(下腹部痛、ガス、おなら)
子宮筋腫自体が物理的な圧迫を起こすだけでなく、子宮筋腫に伴う合併症も、お腹の張りや不快感の原因となることがあります。
- 筋腫の変性: 子宮筋腫が急速に大きくなると、血液供給が追いつかなくなり、筋腫の一部が壊死したり出血したりすることがあります。これを筋腫の変性(赤色変性など)と呼びます。
筋腫の変性は急激な炎症を引き起こし、激しい下腹部痛や発熱、そしてお腹の張り(腹部膨満感)を伴うことがあります。この痛みは突然現れ、持続することが特徴です。 - 茎捻転: 茎を持つタイプの漿膜下筋腫(有茎筋腫)が、その茎の部分でねじれてしまうことがあります。これを茎捻転と言います。
茎がねじれると筋腫への血流が途絶え、激痛や吐き気、嘔吐を引き起こします。
同時に、お腹全体が強く張ることもあります。
茎捻転は緊急手術が必要になることもあります。 - 月経困難症と下腹部痛: 子宮筋腫があると、特に筋層内筋腫や粘膜下筋腫の場合、月経困難症(生理痛が重くなること)が起こりやすくなります。
強い生理痛に伴って、お腹全体や下腹部が強く張る、重苦しいといった症状を感じることがあります。 - 腸機能への影響とガス: 前述の通り、筋腫による腸の圧迫は便秘を引き起こし、ガスが溜まりやすくなります。このガス(おなら)の増加自体がお腹の張りの原因となります。
また、筋腫による炎症や、子宮周囲の血行不良が、間接的に腸の動きを悪くし、ガス症状を招く可能性も指摘されています。
おならが頻繁に出たり、お腹が鳴ったり、苦しいほどのガス溜まりを感じる場合は、子宮筋腫による腸への影響が考えられます。
これらの合併症は、お腹の張りだけでなく、痛みを伴うことが多いのが特徴です。
特に急激な痛みや発熱を伴う場合は、速やかに医療機関を受診することが重要です。
その他のお腹の張りの原因
子宮筋腫があるからといって、お腹の張りの原因がすべて子宮筋腫にあるとは限りません。
お腹の張りは非常に一般的な症状であり、子宮筋腫以外にも様々な原因が考えられます。
子宮筋腫がある方がお腹の張りを訴える場合、まず子宮筋腫によるものかどうかを疑いますが、他の原因も考慮して総合的に判断することが大切です。
原因 | 特徴 | 子宮筋腫との関連 |
---|---|---|
機能性ディスペプシア | 胃の痛みやもたれ、膨満感など。検査では異常が見られない。ストレスが関連。 | 間接的に関連 |
過敏性腸症候群 | 便秘や下痢、腹痛、ガス溜まり。排便によって症状が和らぐことが多い。ストレスが関連。 | 間接的に関連 |
慢性便秘 | 腸に便が溜まりガスが発生。お腹が張る、苦しい。 | 子宮筋腫が原因で起こりやすい |
食事内容 | 炭酸飲料、食物繊維の急な摂取、特定の食品(豆類、芋類など)によるガスの発生。 | 直接の関連なし |
呑気症(空気嚥下症) | 無意識に空気をたくさん飲み込んでしまう。げっぷやガスが多い。ストレスが関連。 | 間接的に関連 |
他の婦人科疾患 | 卵巣腫瘍(特に大きいもの)、子宮内膜症など。 | 症状が類似 |
消化器系疾患 | 腸閉塞、炎症性腸疾患、胆石など。 | 直接の関連なし |
腹水 | 腹腔内に異常に水分が溜まる。 | 子宮筋腫が非常に大きい場合、または悪性腫瘍の場合に合併することがある |
これらの原因の中には、子宮筋腫による圧迫が間接的に誘発するもの(例: 子宮筋腫による便秘が悪化してガスが増える)や、子宮筋腫と症状が似ているもの(例: 卵巣腫瘍によるお腹の張り)があります。
お腹の張りが続く場合は、自己判断せずに医療機関を受診し、正確な診断を受けることが最も重要です。
特に、痛みが強い、急に症状が現れた、発熱や体重減少を伴うなど、いつもと違う症状がある場合は、放置せずに早めに医師に相談しましょう。
子宮筋腫によるお腹の張りの具体的な症状
子宮筋腫によるお腹の張りは、単に「お腹が張る」という一言では片付けられない、様々な具体的な症状として現れます。
ご自身の症状が子宮筋腫によるものかどうかの参考にしてください。
お腹の見た目の変化(ぽっこりお腹)
筋腫が大きくなると、下腹部が物理的に膨らみ、「ぽっこりお腹」として見た目に変化が現れます。
まるで妊娠中期〜後期のように下腹部だけが膨らんで見えることがあり、周囲から妊娠と間違われることもあります。
この膨らみは、特に仰向けになった時や、朝と比べて夕方になると顕著になることがあります。
筋腫が非常に大きい場合、お腹全体が大きくなることもあります。
体重が増えたわけではないのに、お腹周りだけが大きくなる、以前履いていたズボンやスカートのウエストがきつくなる、といった変化は、筋腫の増大による物理的な膨らみを示唆している可能性があります。
腹部を触った感触(触ると硬いコブ)
筋腫が皮膚のすぐ近くまで大きくなったり、お腹の筋肉が薄い方や痩せている方の場合は、下腹部を自分で触ると、硬いコブや塊のような感触があることに気づくことがあります。
これは子宮筋腫自体を触知している可能性があります。
子宮は通常、成人女性では鶏の卵くらいの大きさで、骨盤の中に収まっているため、お腹の上から触ってその形や硬さを感じることはほとんどありません。
しかし、子宮筋腫ができて大きくなると、子宮全体または筋腫の一部が大きくなり、お腹の上から触れるようになるのです。
触った時に石のように硬く感じたり、押すと少し痛みを感じたりすることもあります。
ご自身で下腹部を触ってみて、以前は感じなかった硬い塊がある、明らかに一部分だけが硬くなっていると感じる場合は、子宮筋腫が大きくなっている可能性を疑い、医療機関を受診することをお勧めします。
下腹部痛やガス症状
子宮筋腫によるお腹の張りは、しばしば下腹部痛や消化器症状(ガス、おなら)を伴います。
- 下腹部痛: 筋腫の大きさや位置による圧迫、筋腫の変性、または月経困難症の悪化などが原因で下腹部痛が現れます。
痛みは鈍痛であったり、生理痛のような周期的な痛みであったり、筋腫の変性や茎捻転の場合は急激で激しい痛みであったりと様々です。
お腹の張りと同時に、重苦しい痛みや、ズキズキとした痛みを下腹部に感じることがあります。 - ガス症状(おなら、腹鳴): 筋腫による腸の圧迫や、それに伴う便秘は、腸内にガスが溜まりやすくなる大きな原因です。
お腹がゴロゴロ鳴る(腹鳴)頻度が増えたり、普段よりもおならの量が増えたり、おならが出そうで出ない、お腹が張って苦しいといった症状が現れます。
これらのガス症状自体がお腹の張りを悪化させる要因にもなります。
これらの症状は、子宮筋腫がない場合でも起こりうる一般的な症状ですが、子宮筋腫がある方がこれらの症状を頻繁に、または以前より強く感じるようになった場合は、筋腫の影響を考慮する必要があります。
その他の関連症状
子宮筋腫がある場合、お腹の張りだけでなく、他の様々な症状を伴うことが多くあります。
これらの症状が複数組み合わさって現れることで、子宮筋腫の存在に気づくことも少なくありません。
- 過多月経・過長月経: 経血の量が異常に増える(過多月経)または生理期間が長引く(過長月経)は、子宮筋腫の最も代表的な症状です。
これは、子宮内腔に近い場所にある筋腫や、子宮全体が大きくなることで、子宮内膜の表面積が増えたり、子宮の収縮が悪くなったりすることが原因です。 - 貧血: 過多月経が続くことにより、体内の鉄分が失われ、貧血(鉄欠乏性貧血)になることがあります。
貧血になると、めまい、立ちくらみ、だるさ、息切れ、顔色が悪い、爪が割れやすいなどの症状が現れます。
重度の貧血は日常生活に大きな支障をきたします。 - 頻尿・尿漏れ: 前述の膀胱圧迫による症状です。
夜中に何度もトイレに起きる、外出中にトイレの場所が気になる、咳やくしゃみで少し尿が漏れる(腹圧性尿失禁)といった症状が現れることがあります。 - 便秘: 前述の腸圧迫による症状です。
排便回数が減る、便が硬くなる、排便が困難になる、残便感があるといった症状が現れます。 - 腰痛・足のむくみやしびれ: 筋腫が骨盤内の神経や血管を圧迫することで、腰痛、臀部の痛み、足のむくみやしびれを引き起こすことがあります。
- 不妊・流産: 子宮筋腫がある場所や大きさによっては、受精卵の着床を妨げたり、妊娠を継続しにくくしたりすることがあります。
特に子宮内腔に変形をもたらす筋腫は、不妊や流産のリスクを高める可能性があります。
お腹の張りに加えて、これらの症状のいずれか、あるいは複数を経験している場合は、子宮筋腫が原因である可能性がさらに高まります。
ご自身の体の変化に注意を払い、気になる症状があれば早めに医療機関に相談することが大切です。
子宮筋腫によるお腹の張りの対処法
子宮筋腫によるお腹の張りは、筋腫が原因である限り、根本的な解決には筋腫そのものに対する治療が必要となります。
しかし、症状を一時的に和らげる対症療法や、日常生活でできる工夫もあります。
対症療法について
対症療法は、筋腫を小さくしたりなくしたりするものではなく、あくまでお腹の張りや痛みを和らげることを目的とします。
- 鎮痛剤: 痛みを伴うお腹の張りに対しては、市販の鎮痛剤(ロキソプロフェン、イブプロフェンなど)が有効な場合があります。
ただし、痛みが強い場合や、市販薬で効果がない場合は、医師に相談してより効果的な鎮痛剤を処方してもらうことも可能です。 - 漢方薬: 漢方薬は、個人の体質や症状に合わせて処方され、お腹の張りや痛みを和らげたり、血行を改善したりする効果が期待できます。
子宮筋腫に伴う症状によく用いられる漢方薬としては、当帰芍薬散(むくみや冷えを伴う場合)、桂枝茯苓丸(のぼせやイライラを伴う場合)、加味逍遙散(精神的な症状が強い場合)などがあります。
漢方薬は効果が出るまでに時間がかかることがありますが、体質改善を目指す目的でも用いられます。 - 低用量ピル(LEP製剤): 低用量ピルは、月経困難症や過多月経の症状緩和に非常に効果的です。
排卵を抑制し、子宮内膜の増殖を抑えることで、生理の量や痛みを軽減します。
結果として、生理に伴うお腹の張りや痛みが和らぐことが期待できます。
ただし、低用量ピル自体に筋腫を小さくする効果はほとんどありません。
これらの対症療法は、筋腫が小さく症状が軽度な場合や、手術などの根本治療を行うまでの間の症状緩和に用いられます。
どのような方法が適しているかは、筋腫のタイプ、症状の程度、年齢、妊娠希望の有無などを考慮して、医師と相談して決定します。
根本的な治療法について
子宮筋腫によるお腹の張りの根本的な治療は、原因となっている子宮筋腫そのものを取り除くか、小さくすることです。
治療法の選択肢は多岐にわたり、筋腫の大きさ、位置、数、症状の程度、年齢、そして最も重要な妊娠希望の有無によって大きく異なります。
子宮筋腫の治療法については、医療機関のウェブサイトなどでも情報が提供されています。
子宮筋腫の主な根本治療法には、薬物療法と手術療法があります。
薬物療法(筋腫を小さくする目的)
- GnRHアゴニスト/アンタゴニスト製剤: これらの薬剤は、卵巣からの女性ホルモンの分泌を強力に抑制し、一時的に閉経に近い状態を作り出すことで、筋腫を小さくする効果があります。
筋腫が縮小することで、お腹の張りや圧迫症状も軽減されます。
しかし、更年期障害のような副作用(ほてり、発汗、骨密度の低下など)が現れるため、使用期間に制限があります(通常6ヶ月以内)。
主に手術までの期間に筋腫を小さくして手術を容易にする目的や、閉経が近い場合に閉経までの期間を乗り切る目的で用いられます。
手術療法
手術療法は、子宮筋腫を最も確実に治療する方法です。
手術にはいくつかの種類があります。
手術の種類 | 概要 | 適応例 | メリット | デメリット |
---|---|---|---|---|
筋腫核出術 | 子宮筋腫だけを取り除き、子宮を温存する手術。 | 将来妊娠を希望する場合、筋腫が小さく数も少ない場合 | 子宮を温存できる(妊娠の可能性を残せる) | 筋腫の再発リスクがある、術後の癒着による不妊リスク、開腹の場合は傷が大きい |
*開腹筋腫核出術* | お腹を大きく切開して行う。 | 大きな筋腫、複数の筋腫、癒着が予想される場合 | 比較的どんな筋腫にも対応できる | 傷が大きい、回復に時間がかかる |
*腹腔鏡下筋腫核出術* | お腹に数カ所の小さな穴を開け、内視鏡や手術器具を入れて行う。 | 比較的限られた数・サイズの筋腫、位置によっては難しい場合 | 傷が小さい、回復が早い、痛みが少ない | 対応できる筋腫に限りがある、術後の癒着リスクは開腹より少ないがゼロではない |
*ロボット支援筋腫核出術* | 腹腔鏡下手術をロボットのアームを使って行う。より精密な操作が可能。 | 腹腔鏡下手術の適応となるが、より複雑なケースや大きな筋腫にも対応可能な場合 | 腹腔鏡下手術のメリットに加え、より精緻な手術が可能 | ロボット設置可能な施設に限られる |
子宮全摘術 | 子宮全体を摘出する手術。最も再発の心配がない根治療法。 | 筋腫が非常に大きく多発している、症状が重い、将来妊娠を希望しない場合、悪性の可能性が否定できない場合 | 筋腫の再発が完全に防げる、過多月経や生理痛などの症状が全てなくなる | 妊娠できなくなる、閉経前でも生理がなくなる、女性ホルモンの分泌は卵巣が残れば続く |
*開腹子宮全摘術* | お腹を大きく切開して行う。 | 筋腫が非常に大きい、癒着が予想される場合 | どんな筋腫にも対応できる | 傷が大きい、回復に時間がかかる |
*腹腔鏡下子宮全摘術* | お腹に数カ所の小さな穴を開けて行う。 | 比較的サイズの筋腫、癒着が少ないと予想される場合 | 傷が小さい、回復が早い、痛みが少ない | 対応できる筋腫に限りがある |
*ロボット支援子宮全摘術* | 腹腔鏡下手術をロボットのアームを使って行う。 | 腹腔鏡下手術の適応となる場合 | 腹腔鏡下手術のメリットに加え、より精緻な手術が可能 | ロボット設置可能な施設に限られる |
その他の治療法
手術以外の治療法もあります。
- MRIガイド下集束超音波治療(FUS/MRgFUS): MRIで筋腫の位置を確認しながら、体外から超音波を照射して筋腫を焼灼する治療法。
メスを使わないため体への負担が少ないですが、治療できる筋腫の種類や位置に限りがあります。 - 子宮動脈塞栓術(UAE): 筋腫に栄養を送っている血管を塞栓物質で詰まらせ、筋腫を壊死・縮小させる治療法。
カテーテルを使って行うため大きな傷はできませんが、術後に痛みや発熱を伴うことがあります。
将来の妊娠への影響については、まだ慎重な検討が必要です。
どの治療法を選択するかは、医師が検査結果や患者さんの希望、ライフスタイルなどを総合的に判断して提案します。
お腹の張りが日常生活に支障をきたしている場合は、これらの根本的な治療法も選択肢として検討することが重要です。
日常生活での注意点(やってはいけないこと)
子宮筋腫がある場合、日常生活で特定の行動が症状を悪化させる可能性があります。「やってはいけないこと」というよりは、「症状を和らげるために気をつけるべきこと」として捉えるのが良いでしょう。
- 体を冷やさない: 体が冷えると血行が悪くなり、骨盤内のうっ血が進み、お腹の張りや痛みが悪化することがあります。
特に冬場や夏場の冷房対策、冷たい飲食物の過剰摂取には注意し、腹部や足元を温めるように心がけましょう。
腹巻やカイロ、温かい飲み物などが有効です。 - 過労やストレス: 精神的なストレスや肉体的な疲労は、自律神経のバランスを崩し、ホルモンバランスにも影響を与える可能性があります。
これにより、筋腫に関連する症状(月経困難症、お腹の張りなど)が悪化することがあります。
十分な休息をとり、ストレスを溜めないように工夫することが大切です。 - 締め付けの強い下着や衣類: 締め付けの強いガードルや下着は、腹部や骨盤内の血行を妨げる可能性があります。
お腹の張りを感じやすい時は、ゆったりとした締め付けの少ない衣類を選ぶと良いでしょう。 - 無理な姿勢: 長時間同じ姿勢でいることや、無理な体勢は、骨盤内の血行を悪化させたり、腹部に負担をかけたりすることがあります。
デスクワークなどで長時間座る場合は、こまめに休憩をとって体を動かすようにしましょう。 - 急激な運動: 筋腫が大きい場合や、茎捻転のリスクがある有茎筋腫の場合は、激しい運動や急な体のひねりなどが茎捻転を誘発する可能性があります。
普段から運動習慣がない方が急に激しい運動をするのは避け、適度なウォーキングや軽い体操など、無理のない範囲で体を動かすことをお勧めします。 - バランスの悪い食事: 偏った食事やインスタント食品中心の食生活は、腸内環境を悪化させ、便秘やガス溜まりの原因となり、お腹の張りを悪化させる可能性があります。
食物繊維を豊富に含む野菜、海藻、きのこ類などを積極的に摂取し、バランスの取れた食事を心がけましょう。
また、体を冷やすような食べ物(冷たい飲み物、生野菜の過剰摂取など)にも注意が必要です。
これらの点に注意することで、お腹の張りを含めた子宮筋腫に伴う不快な症状を少しでも和らげることが期待できます。
しかし、これはあくまで症状の緩和や悪化予防であり、筋腫そのものを治療するものではないことを理解しておくことが大切です。
お腹の張りが続く場合の受診目安
お腹の張りは、消化不良や便秘などでも起こりうる一般的な症状ですが、子宮筋腫によるものである場合は、放置すると症状が悪化したり、貧血が進行したりする可能性があります。
どのような症状があれば医療機関を受診すべきか、また、受診した場合にどのような検査が行われるのかを知っておきましょう。
どのような症状があれば受診すべきか
以下のような症状が見られる場合は、子宮筋腫を含む婦人科疾患の可能性を疑い、婦人科を受診することをお勧めします。
- お腹の張りが数週間以上にわたって続く、または悪化している。
- 以前にはなかったお腹の膨らみ(ぽっこりお腹)が目立つようになった。
- 下腹部を触ると、硬い塊のような感触がある。
- お腹の張りに加えて、生理の量が増えた(過多月経)、生理期間が長引く(過長月経)。
- 生理痛が以前よりひどくなった(月経困難症)。
- めまい、立ちくらみ、だるさなど、貧血が疑われる症状がある。
- トイレに行く回数が異常に増えた(頻尿)、尿漏れがある。
- ひどい便秘が続くようになった。
- 腰痛や足のむくみ、しびれを伴う。
- お腹の張りに加えて、急激な下腹部痛や発熱がある(筋腫の変性や茎捻転の可能性)。
特に、急激な症状の悪化や、強い痛み、発熱を伴う場合は、緊急性の高い状態(筋腫の変性や茎捻転など)の可能性もあるため、我慢せずに速やかに医療機関を受診することが重要です。
たとえ上記の症状がなくても、健康診断や他の目的で行った検査で子宮筋腫を指摘されたことがある場合は、定期的に婦人科で経過観察を受けることが大切です。
婦人科での検査内容
婦人科を受診すると、まず問診が行われます。
症状が現れた時期、症状の種類や程度、月経周期や経血量、既往歴、妊娠・出産歴、家族歴などが詳しく聞かれます。
お腹の張りについては、いつから、どのような時に、どのくらい気になるかなどを具体的に伝えましょう。
次に、症状の原因を探るためにいくつかの検査が行われます。
検査内容 | 概要 | 子宮筋腫に関する情報 |
---|---|---|
内診 | 医師が腟に指を挿入し、子宮や卵巣の大きさ、形、硬さなどを触診する。 | 子宮全体の大きさや形、筋腫による変形、硬さなどを確認できる。お腹の張りとの関連を触診で確認。 |
超音波(エコー)検査 | 腟内またはお腹の上から超音波を当て、子宮や卵巣の状態を画像で観察する。経腟超音波がより詳細に観察できる。 | 筋腫の有無、数、大きさ、位置、形状を正確に把握できる。診断に最も重要な検査。 |
MRI検査 | 磁気を使って体の断面画像を撮影する。 | 超音波では分かりにくい小さな筋腫や、筋腫の正確な位置(特に子宮内腔や粘膜下筋腫)、性質(悪性の可能性など)をより詳しく評価できる。他の骨盤内臓器との位置関係も把握しやすい。 |
血液検査 | 採血して行う検査。 | 過多月経による貧血の有無や程度を確認できる。炎症を示す数値や、他の病気(腫瘍マーカーなど)の可能性を調べることもある。 |
これらの検査結果を総合的に判断し、子宮筋腫の診断が確定されます。
そして、診断された筋腫のタイプ、大きさ、症状の程度、年齢、妊娠希望の有無などを考慮して、今後の治療方針が決定されます。
お腹の張りが子宮筋腫によるものだった場合、その後の治療や経過観察によって症状が改善することが期待できます。
一人で悩まず、まずは医療機関で相談してみましょう。
まとめ
子宮筋腫は多くの女性が経験する可能性のある良性の腫瘍ですが、その存在や増大によって、お腹の張りやぽっこりお腹、下腹部の硬い感触など、様々な不快な症状を引き起こすことがあります。
これらの症状は、筋腫そのものが大きくなることによる物理的な圧迫や、それに伴う周辺臓器(胃、膀胱、腸など)への影響、さらには筋腫の変性といった合併症が原因となって現れます。
お腹の張りだけでなく、過多月経、貧血、頻尿、便秘、腰痛など、他の症状を伴うことも多く、これらの症状が複数見られる場合は、子宮筋腫が原因である可能性が高いと考えられます。
お腹の張りが続く、悪化する、または他の気になる症状がある場合は、自己判断せずに速やかに婦人科を受診することが非常に重要です。
医療機関では、問診や内診、超音波検査、必要に応じてMRI検査などを行い、子宮筋腫の有無や正確な状態を診断します。
子宮筋腫によるお腹の張りに対する対処法としては、症状を一時的に和らげる対症療法(鎮痛剤、漢方薬など)や、筋腫を小さくしたり取り除いたりする根本的な治療法(薬物療法、手術療法など)があります。
どの治療法が適切かは、筋腫の状態や患者さんの状況によって異なりますので、医師と十分に相談して決定することが大切です。
また、日常生活では体を冷やさない、過労やストレスを避ける、バランスの取れた食事を心がけるといった注意点も、症状の緩和に役立ちます。
お腹の張りという比較的ありふれた症状であっても、その背景に子宮筋腫がある場合は、適切な診断と治療が必要です。
一人で悩まず、まずは婦人科の専門医に相談し、ご自身の状態を正確に把握することから始めましょう。
早期に適切なケアを行うことで、症状の悪化を防ぎ、快適な日常生活を取り戻すことができます。
【免責事項】
本記事は一般的な情報提供を目的としており、個別の病状や治療法に関するアドバイスではありません。掲載されている情報は、必ずしも最新の医学的知見を反映しているとは限りません。ご自身の症状については、必ず医療機関を受診し、医師の診断と指導を受けてください。本記事の情報に基づいて行われた行為によって生じた不利益や損害について、当方は一切責任を負いかねます。