「生理はあるのに、なかなか妊娠しない」「生理周期が以前と違う気がする」といった悩みを抱えている場合、もしかしたら無排卵月経かもしれません。
無排卵月経とは、月経(生理)のような出血があっても、実際には排卵が伴っていない状態を指します。
一見、生理があるから大丈夫と思いがちですが、排卵がなければ妊娠はできませんし、放置すると将来の健康に影響を及ぼす可能性もあります。
この記事では、無排卵月経の基本的な知識から、その原因、自分でできるセルフチェック方法、そして医療機関での検査や治療法について詳しく解説します。
気になる症状がある方や、妊娠を希望している方は、ぜひ参考にしてください。
無排卵月経とは?定義と正常な周期との違い
女性の体は、妊娠のために非常に精密なホルモンバランスによってコントロールされています。
その周期的な変化の一つが月経周期です。
無排卵月経を理解するためには、まず正常な月経周期で何が起きているのかを知ることが大切です。
正常な月経周期の仕組み
正常な月経周期は、脳の視床下部、下垂体、そして卵巣が連携して働くことで保たれています。
このシステムは、ホルモンを介して互いに情報をやり取りしています。
- **卵胞期:** 月経が終わると、下垂体から分泌される卵胞刺激ホルモン(FSH)の働きにより、卵巣内のいくつかの卵胞が発育を始めます。
卵胞が成長するにつれて、女性ホルモンであるエストロゲン(卵胞ホルモン)が分泌されます。
エストロゲンは子宮内膜を厚くしていきます。 - **排卵:** 最も大きく成長した卵胞が十分に成熟すると、下垂体から黄体形成ホルモン(LH)が大量に分泌されます(これをLHサージといいます)。
LHサージの約24~36時間後に、成熟した卵胞が破裂して卵子が飛び出します。
これが排卵です。 - **黄体期:** 排卵後の卵胞は黄体へと変化し、プロゲステロン(黄体ホルモン)とエストロゲンを分泌します。
プロゲステロンは、厚くなった子宮内膜をさらに充実させ、受精卵が着床しやすい状態を整えます。
この期間、基礎体温は上昇し、高温期となります。 - **月経:** もし妊娠が成立しなければ、黄体は退化し、プロゲステロンとエストロゲンの分泌が急激に減少します。
これにより、維持されていた子宮内膜が剥がれ落ち、出血として体の外に排出されます。
これが月経(生理)です。
月経期間は約3~7日程度で、個人差があります。
この一連の周期は通常、約25日から38日のサイクルで繰り返されます。
無排卵月経の状態
無排卵月経は、このような一連のホルモン分泌と卵巣の働きの中で、「排卵」が起こらないにも関わらず、月経のような出血が見られる状態を指します。
無排卵月経の状態については、より詳細な情報がWikipediaでも確認できます。
なぜ排卵がなくても出血が起こるのでしょうか。
これは、卵胞は少しは成長してエストロゲンが分泌されるものの、LHサージが起こるほどには成熟せず、排卵に至らないためです。
排卵しないため黄体も形成されず、プロゲステロンの分泌がほとんどありません。
しかし、ある程度分泌されたエストロゲンによって子宮内膜が厚くなり、その後エストロゲンの分泌量が減少することで、内膜が剥がれ落ちて出血が起こるのです。
この出血は、正常な月経と区別がつきにくい場合があります。「生理が来た」と思っていても、実は排卵を伴わない出血である可能性があり、これが無排卵月経の診断を遅らせることがあります。
無排卵月経の場合、正常な月経周期で見られる排卵後のプロゲステロン分泌がないため、基礎体温は高温期に移行せず、一相性(低温期のみ)のグラフパターンを示すことが多いです。
無排卵月経の主な原因
無排卵月経を引き起こす原因は多岐にわたります。
多くの場合、脳の視床下部・下垂体・卵巣系のホルモンバランスが乱れることによって発生します。
以下に主な原因を挙げ、それぞれについて詳しく見ていきましょう。
ストレスや精神的な要因
精神的なストレスは、脳の視床下部に大きな影響を与えます。
視床下部は、性腺刺激ホルモン放出ホルモン(GnRH)を分泌し、これが下垂体からのFSHやLHの分泌をコントロールしています。
強いストレスがかかると、GnRHの分泌が抑制され、結果として卵巣からのホルモン分泌や排卵がうまくいかなくなります。
受験、仕事のプレッシャー、人間関係の悩み、環境の変化など、さまざまな要因がストレスとなり得ます。
心身のリラックスを心がけることが重要です。
過度なダイエットや急激な体重変動
極端な食事制限や、短期間での大幅な体重減少は、体が飢餓状態にあると認識し、生殖機能を一時的にストップさせることがあります。
体脂肪が急激に減少すると、エストロゲンの生成に必要な脂肪組織が減ることも影響します。
また、体重が適正範囲から大きく外れた肥満も、ホルモンバランスを乱す原因となります。
特にBMI(体格指数)が18.5未満の低体重や、急激な体重減少は無排卵のリスクを高めます。
健康的な食事と適正な体重維持が大切です。
激しい運動
プロのアスリートや、アマチュアでも非常に強度の高いトレーニングを日常的に行っている女性の場合、無月経や無排卵月経になることがあります。
これは、体脂肪率の低下、エネルギー不足、運動によるストレスなどが複合的に作用し、ホルモンバランスが乱れるためと考えられています。
特に、持久力を必要とするスポーツや、体重管理が厳しい競技でよく見られます。
適切な休息と栄養補給が重要になります。
多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)
多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)は、無排卵月経の最も一般的な原因の一つです。
卵巣の中に小さな卵胞(嚢胞)がたくさんできてしまい、うまく成熟・排卵できない状態です。
排卵障害の他にも、男性ホルモンが高くなる(アンドロゲン過剰)ことによるニキビや多毛、肥満などを伴うことがあります。
PCOSの診断基準には、以下の3つのうち2つ以上を満たすことが含まれます。
- 月経異常(無月経、無排卵、希発月経など)
- 多嚢胞性卵巣の超音波所見(卵巣内に多数の小卵胞が見られる)
- 高アンドロゲン血症またはその臨床症状(ニキビ、多毛など)
PCOSは代謝異常(インスリン抵抗性など)を伴うこともあり、将来的な糖尿病や心血管疾患のリスクにも関連することが知られています。
治療には生活習慣の改善、排卵誘発剤、ホルモン療法などがあります。
高プロラクチン血症
プロラクチンは、通常、妊娠中や授乳中に母乳を作るために分泌されるホルモンです。
妊娠・授乳期以外でプロラクチンの値が高くなりすぎると、脳の下垂体からのFSHやLHの分泌が抑制され、排卵が止まってしまうことがあります。
これが高プロラクチン血症による無排卵です。
原因としては、下垂体の腫瘍(プロラクチノーマ)、一部の薬剤(向精神薬など)、甲状腺機能低下症、ストレスなどが挙げられます。
血液検査でプロラクチン値を測定し、原因に応じた治療(薬物療法など)が行われます。
甲状腺機能の異常
甲状腺ホルモンは体の代謝を幅広く調節しており、生殖機能にも影響を与えます。
甲状腺ホルモンの分泌が多すぎる甲状腺機能亢進症(バセドウ病など)や、少なすぎる甲状腺機能低下症(橋本病など)のどちらも、月経周期の異常や無排卵の原因となることがあります。
甲状腺機能の異常が疑われる場合は、血液検査で甲状腺ホルモン値を測定し、内分泌内科などと連携して治療が行われます。
その他の内分泌疾患
視床下部や下垂体に影響を及ぼす他の内分泌疾患(クッシング病、アジソン病など)や、副腎の異常なども、間接的にホルモンバランスを乱し、無排卵月経を引き起こす可能性があります。
これらの疾患は比較的まれですが、専門的な検査が必要です。
思春期や更年期による一時的なもの
月経が始まったばかりの思春期や、月経が不規則になり始める更年期では、ホルモンバランスが不安定なため、一時的に無排卵周期になることがよくあります。
思春期のうちは月経周期が不規則でも自然に整ってくることが多いですが、数年経っても不規則な場合や、無月経が続く場合は医療機関への相談が必要です。
更年期の場合は、閉経に向けて卵巣機能が低下していく自然な過程の一部と考えられますが、他の原因が隠れていないか確認するために受診が推奨されます。
無排卵月経に見られる症状・特徴
無排卵月経は、必ずしも自覚症状がはっきりしているわけではありませんが、いくつかのサインが見られることがあります。
これらの症状に気づくことが、早期発見につながります。
生理周期の乱れ(長い・短い・不規則)
無排卵月経で最もよく見られる症状は、生理周期の乱れです。
正常な月経周期は25日から38日とされていますが、無排卵の場合はこの範囲から外れることが多くなります。
- 周期が非常に長い(希発月経): 排卵が起こらない場合、黄体期がないため次の月経までの期間が長くなり、周期が40日以上になることがあります。
数ヶ月に一度しか生理が来ないというケースもあります。 - 周期が短い: まれに、短期間のうちにエストロゲンの分泌が上がり下がりを繰り返すことで、短い周期で出血を繰り返すこともあります。
- 不規則: 月によって周期が大きく変動し、いつ生理が来るか予測できない状態になることも多いです。
ただし、周期が不規則だからといって必ず無排卵というわけではありません。
逆に、無排卵でも見かけ上はほぼ定期的な周期で出血が起こるケースもあります(この場合、出血はあっても排卵していません)。
不正出血がある(鮮血を含む)
無排卵の場合、子宮内膜が不安定になりやすいため、月経期間ではない時期に不正出血が見られることがあります。
この出血は、少量で数日続くこともあれば、比較的量が多くて通常の生理のように見えることもあります。
出血の色は、鮮血であったり、茶色っぽいおりもののような色であったりと様々です。
排卵に伴う黄体ホルモンの分泌がないため、内膜が脆弱になりやすく、出血しやすいと考えられます。
月経とは異なるタイミングや性状の出血がある場合は注意が必要です。
基礎体温が一相性(低温期と高温期の差がない)
基礎体温を毎日測定している場合、無排卵月経の非常に重要なサインとなります。
正常な排卵周期では、排卵後に黄体ホルモン(プロゲステロン)が分泌されることで基礎体温が上昇し、高温期(通常36.7℃以上が目安)が約2週間続きます。
しかし、無排卵の場合、黄体が形成されないためプロゲステロンの分泌がほとんどなく、基礎体温は低温期のまま推移し、高温期への明確な移行が見られません。
基礎体温グラフが全体的に平坦で、低温期と高温期の二相性に分かれない状態を「一相性」といいます。
下図は、正常な排卵周期と無排卵周期の基礎体温グラフの一般的なイメージを比較したものです。(※実際には個人差があります)
項目 | 正常な排卵周期の基礎体温グラフ | 無排卵周期の基礎体温グラフ |
---|---|---|
グラフの形 | 低温期と高温期の二相性 | 全体的に平坦な一相性 |
温度の変化 | 排卵後に約0.3~0.5℃上昇する | 高温期への明らかな上昇がない |
高温期の期間 | 約12~14日続く | 高温期がない |
基礎体温の記録は、無排卵をセルフチェックするための有効な方法の一つです。
おりものの変化が乏しい
正常な月経周期では、排卵期に近づくとエストロゲンの影響でおりものの量が増え、透明で粘り気のある、伸びるような性状になります。
これは精子が子宮内に入りやすくなるように体が準備するサインです。
しかし、無排卵の場合、卵胞が十分に成熟しないためエストロゲンの分泌が少なく、排卵期特有のおりものの変化が見られないことがあります。
おりものの量や性状が月周期を通じてあまり変化しない、または全体的に量が少ないと感じる場合は、無排卵の可能性が考えられます。
月経痛がない、または軽度
正常な月経痛の主な原因の一つは、子宮内膜を剥がすために分泌されるプロスタグランジンという物質です。
このプロスタグランジンは、主に黄体ホルモン(プロゲステロン)が内膜に作用することで生成されます。
無排卵月経では、黄体ホルモンの分泌がほとんどないため、プロスタグランジンの生成が少なくなり、月経痛が全くないか、非常に軽度であることが多いです。
以前は月経痛があったのに、最近全く感じなくなったという場合も、無排卵のサインかもしれません。
妊娠しにくい(不妊の原因となる)
当然のことながら、排卵がなければ卵子と精子が出会うことができないため、妊娠は成立しません。
無排卵月経は、不妊の主要な原因の一つです。
妊娠を希望しているにも関わらず、なかなか妊娠しない場合は、無排卵を含めた排卵障害の可能性を考慮する必要があります。
無排卵の状態が続くと、妊活をしていても妊娠に至ることはありません。
妊娠を希望する場合は、早期に医療機関を受診し、原因を特定して適切な治療を受けることが重要です。
無排卵月経のセルフチェック方法
無排卵月経の可能性があるかどうかを自宅でチェックする方法がいくつかあります。
これらのセルフチェックはあくまで目安であり、確定診断はできませんが、自身の体の状態を知り、医療機関を受診するべきか判断するのに役立ちます。
基礎体温の記録によるチェック
基礎体温の記録は、無排卵月経をセルフチェックする最も基本的な方法です。
- 準備: 婦人体温計(小数点以下2桁まで測れるもの)を用意します。
- 測定のタイミング: 毎朝目が覚めたら、体を動かす前に、布団の中で舌の裏側のつけ根に体温計を当てて測定します。
毎日ほぼ同じ時間に測ることが望ましいです。 - 記録: 測定した体温を基礎体温グラフに記録します。
生理が始まった日、終わった日、性交のあった日、体調の変化なども一緒に記録しておくと、グラフを読み解く上で参考になります。 - グラフの見方:
- 正常な排卵周期の場合、月経期から排卵期にかけて低温期(通常36.5℃前後)が続き、排卵後に体温が約0.3~0.5℃上昇して高温期(通常36.7℃以上)に移行し、この高温期が約12~14日続きます。
次の月経が来る前に体温が下がります。 - 無排卵周期の場合、基礎体温は低温期のまま推移し、高温期への明らかな移行が見られません。
グラフ全体が平坦な一相性になります。
- 正常な排卵周期の場合、月経期から排卵期にかけて低温期(通常36.5℃前後)が続き、排卵後に体温が約0.3~0.5℃上昇して高温期(通常36.7℃以上)に移行し、この高温期が約12~14日続きます。
数周期分の基礎体温を記録し、低温期と高温期の二相性が確認できない場合は、無排卵月経の可能性が高いと言えます。
ただし、体温測定の仕方や体調によってグラフは変動するため、正確な判断のためには専門家に見てもらうことが必要です。
生理周期や出血の状態の観察
生理が始まった日と終わった日をカレンダーやスマートフォンのアプリに記録しましょう。
これにより、生理周期がどれくらいか、規則的かどうかを把握できます。
- 周期の長さ: 正常な周期(25~38日)から大きく外れていないかを確認します。
周期が40日以上と長い場合や、数ヶ月来ない場合は無排卵の可能性が高いです。 - 周期の規則性: 毎月の周期が大きく変動しないかを確認します。
周期が月によって大きくバラつく場合も、無排卵のサインかもしれません。 - 出血の性状: 出血量、期間、色などを観察します。
正常な月経と比較して、量が極端に少なかったり、期間が短かったり、ダラダラと続いたり、鮮血の不正出血があったりする場合は注意が必要です。
おりものの変化の確認
排卵期にはおりものが増え、透明で伸びる性状になるのが一般的です。
日頃からおりものの状態を観察し、月周期に伴う変化があるか確認してみましょう。
排卵期特有のおりものの変化が乏しい場合は、無排卵のサインかもしれません。
ただし、おりものの変化は個人差が大きく、これだけで無排卵と判断することは難しいです。
他のセルフチェック方法や医療機関での検査と合わせて判断することが重要です。
これらのセルフチェックは、あくまで無排卵の可能性を探るためのものです。
セルフチェックで気になる点が見つかった場合は、必ず医療機関を受診し、医師の診断を受けてください。
無排卵月経の検査・診断
無排卵月経の診断は、医療機関(主に婦人科)で行われます。
問診から始まり、いくつかの検査を経て総合的に診断されます。
問診と内診
まず、医師による問診が行われます。
月経が始まった年齢、これまでの月経周期(初潮からの変化、規則性、量、期間など)、不正出血の有無、月経痛の程度、これまでの妊娠・出産の経験、現在の健康状態、服用している薬、アレルギー、仕事や生活の状況、ストレスの有無、急激な体重変動の有無、運動習慣など、様々なことが聞かれます。
特に、現在の月経周期のパターンや症状を具体的に伝えることが重要です。
次に、内診が行われることがあります。
子宮や卵巣の大きさ、位置、触診での状態などを確認します。
性交経験がない場合は、触診のみや超音波検査のみとなることもあります。
血液検査(ホルモン値測定)
無排卵月経の原因を特定し、診断を確定するために最も重要な検査の一つが血液検査によるホルモン値測定です。
月経周期の特定の時期(通常は月経開始から3~5日目の卵胞期初期や、排卵が予想される時期、黄体期など)に採血を行い、さまざまなホルモンの値を測定します。
主に測定されるホルモンとその役割、無排卵との関連は以下の通りです。
ホルモン名 | 略称 | 主な役割 | 無排卵との関連 |
---|---|---|---|
卵胞刺激ホルモン | FSH | 卵胞の発育を促す | 高値:卵巣機能の低下 低値:視床下部・下垂体の機能低下 |
黄体形成ホルモン | LH | 排卵を促し、黄体形成に関わる | LHサージの確認、PCOSなどでLHが高値になることがある |
エストラジオール(エストロゲン) | E2 | 子宮内膜を厚くし、卵胞の発育に伴い増加する女性ホルモン | 卵胞の発育状態を示す 低値:卵胞の発育不全、視床下部・下垂体の機能低下 |
プロゲステロン | P | 子宮内膜を着床に適した状態にし、高温期を維持する女性ホルモン | 排卵の有無を確認する 排卵があれば黄体期に高値になる 無排卵では低値 |
プロラクチン | PRL | 母乳生成に関わる | 高値:排卵を抑制する原因となる(高プロラクチン血症) |
甲状腺刺激ホルモン | TSH | 甲状腺ホルモンの分泌を促す | 甲状腺機能異常の指標 |
遊離サイロキシン | FT4 | 甲状腺ホルモンの一つ | 甲状腺機能異常の指標 |
遊離トリヨードサイロニン | FT3 | 甲状腺ホルモンの一つ | 甲状腺機能異常の指標 |
総テストステロン | T | 男性ホルモンの一つ(女性の体内にも存在) | 高値:多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)などで見られる |
これらのホルモン値を測定することで、無排卵が視床下部・下垂体の問題によるものか、卵巣自体の問題によるものか、あるいは他の内分泌疾患によるものかなど、原因の手がかりを得ることができます。
超音波検査
超音波検査は、主に経腟超音波プローブを用いて、子宮と卵巣の状態を観察する検査です。
- 子宮: 子宮内膜の厚さや状態を確認します。
エストロゲンの影響で内膜が厚くなっているか、不正出血の原因となるポリープや筋腫がないかなどを調べます。 - 卵巣: 卵巣の大きさや、卵胞の数、大きさを確認します。
正常な周期であれば、排卵期に近づくにつれて主席卵胞(一番大きくなる卵胞)が1つまたは複数個確認できますが、無排卵の場合は主席卵胞が見られない、または小さな卵胞がたくさん見える(多嚢胞性卵巣)といった所見が得られることがあります。
卵巣の腫れや嚢腫がないかも確認します。
血液検査と超音波検査の結果を合わせて、無排卵月経の診断を確定し、原因を特定します。
必要に応じて、さらに詳しい検査(MRIなど)が行われることもあります。
無排卵月経の治療法
無排卵月経の治療法は、その原因や、患者さんが妊娠を希望しているかどうかによって異なります。
多くの場合、原因を取り除くことや、ホルモンバランスを整えることを目的とします。
生活習慣の改善
ストレス、過度なダイエット、激しい運動などが原因であると考えられる場合は、まず生活習慣の改善が治療の第一歩となります。
- ストレスの軽減: 十分な休息、睡眠時間の確保、趣味などでリフレッシュする時間を作る、リラクゼーションを取り入れるなど、ストレスを管理・軽減する方法を見つけることが重要です。
- 適切な体重管理: 急激なダイエットはやめ、バランスの取れた食事を心がけましょう。
痩せすぎている場合は、適正体重に戻すことが目標となります。
肥満の場合は、無理のない範囲での減量を目指します。
管理栄養士に相談するのも良いでしょう。 - 適度な運動: 激しい運動が原因の場合は、運動量を減らしたり、軽い運動に切り替えたりします。
全く運動していない場合は、血行改善やストレス解消のために適度な運動を取り入れることも有効です。
生活習慣の改善だけで、ホルモンバランスが整い、自然に排卵が再開することもあります。
しかし、すぐに効果が出るとは限らないため、根気強く取り組む必要があります。
薬物療法(ホルモン補充療法、排卵誘発剤など)
生活習慣の改善だけでは効果が見られない場合や、原因疾患がある場合、あるいは妊娠を強く希望している場合には、薬物療法が行われます。
- ホルモン補充療法: 卵巣機能の低下や視床下部・下垂体の機能低下によってホルモン分泌が不足している場合、不足しているホルモンを補う治療です。
エストロゲンとプロゲステロンを周期的に投与することで、見かけ上の月経周期(消退出血)を作り出し、子宮内膜を保護したり、ホルモンバランスを整えたりします。
これにより、無月経が続くことによる子宮内膜萎縮や骨密度低下(骨粗鬆症リスク上昇)を防ぐ目的もあります。
ただし、この治療自体は排卵を起こさせるものではありません。 - 排卵誘発剤: 妊娠を希望している場合に行われる治療です。
脳や卵巣に働きかけ、排卵を促す薬剤を使用します。- クロミフェンクエン酸塩(クロミッドなど): 脳の視床下部に作用し、FSHやLHの分泌を促すことで卵胞の発育を刺激します。
比較的軽度の排卵障害に用いられ、内服薬のため手軽に始められます。
しかし、子宮内膜が薄くなる、頸管粘液が少なくなるなどの副作用や、多胎妊娠のリスクがわずかに上昇する可能性もあります。 - ゴナドトロピン製剤: FSHやLH製剤を注射で投与し、直接卵巣に働きかけて卵胞を発育させます。
クロミッドで効果が見られない場合や、視床下部・下垂体の機能が低下している場合などに用いられます。
クロミッドに比べて卵胞がたくさん育ちやすく、多胎妊娠や卵巣過剰刺激症候群(OHSS)のリスクが高まるため、慎重な管理(超音波検査で卵胞の発育を頻繁にチェックするなど)が必要です。 - その他の薬剤: PCOSに対して、インスリン抵抗性を改善する薬(メトホルミンなど)が排卵回復に有効な場合があります。
また、高プロラクチン血症が原因の場合は、プロラクチンの分泌を抑える薬(カベルゴリン、ブロモクリプチンなど)を使用します。
甲状腺機能異常が原因の場合は、甲状腺ホルモンの分泌を調整する薬が用いられます。
- クロミフェンクエン酸塩(クロミッドなど): 脳の視床下部に作用し、FSHやLHの分泌を促すことで卵胞の発育を刺激します。
排卵誘発剤による治療中は、超音波検査や血液検査で卵胞の発育状態やホルモン値をモニターし、最も妊娠しやすいタイミングで性交したり、人工授精を行ったりします。
原因疾患に対する治療
PCOS、高プロラクチン血症、甲状腺機能異常などが無排卵の原因である場合は、これらの疾患に対する専門的な治療が必要となります。
多くの場合、婦人科医と内分泌内科医が連携して治療を進めます。
原因疾患が適切に治療されることで、排卵が再開し、月経周期が整うことが期待できます。
無排卵月経の治療法は、個々の原因や体の状態によって異なります。
医師とよく相談し、最適な治療計画を立てることが重要です。
無排卵月経と妊娠への影響
無排卵月経は、妊娠を希望する方にとって大きな問題となります。
しかし、適切に診断・治療を行えば、妊娠の可能性は十分にあります。
無排卵月経で妊娠は可能?
結論から言うと、無排卵月経の状態では自然に妊娠することは不可能です。
妊娠するためには、卵子と精子が出会って受精し、それが子宮に着床する必要があります。
無排卵ということは、卵子が放出されないため、受精の機会がありません。
見かけ上、生理のような出血があっても、排卵が伴っていなければ妊娠のチャンスはゼロです。
そのため、妊娠を希望しているのに無排卵の状態が続いている場合は、積極的な治療が必要となります。
治療による妊娠可能性
無排卵月経の治療は、排卵を回復させることを主な目標とします。
原因に応じた適切な治療を行うことで、多くのケースで排卵が再開し、妊娠が可能になります。
- 生活習慣の改善: ストレスや体重問題が原因の場合は、生活習慣を改善することで自然に排卵が再開し、妊娠に至るケースも少なくありません。
- 薬物療法(排卵誘発剤): 排卵誘発剤による治療は、無排卵性不妊に対する効果的な治療法の一つです。
クロミッドやゴナドトロピン製剤などを用いて排卵を起こさせ、性交や人工授精のタイミングを合わせることで妊娠を目指します。
排卵誘発剤を用いた治療の成功率は、原因や年齢、体の状態によって異なりますが、多くの女性がこの治療で妊娠に至っています。 - 原因疾患の治療: PCOSや高プロラクチン血症、甲状腺機能異常などが原因の場合、それぞれの原因疾患を適切に治療することで、排卵機能が回復し、自然妊娠や排卵誘発剤を用いた治療での妊娠の可能性が高まります。
ただし、無排卵月経以外の不妊原因(例えば卵管の閉塞、男性側の問題など)が併存している可能性もあります。
そのため、無排卵月経と診断された場合は、他の不妊検査も合わせて行うことが推奨されます。
また、女性の妊娠力は年齢とともに低下します。
無排卵が長期間続いている場合や、年齢が35歳を超えている場合などは、より早期に専門的な治療を開始することが望ましいとされています。
無排卵月経は不妊の原因にはなりますが、治療によって克服できる可能性が高い排卵障害の一つです。
一人で悩まず、医療機関に相談することが妊娠への第一歩となります。
こんな時は医療機関へ相談を
自分の生理周期や体の状態について、「これって普通なのかな?」と疑問に思うことはありませんか?
無排卵月経の可能性を考え、以下のような場合は迷わず医療機関(婦人科)を受診しましょう。
セルフチェックで気になる症状がある場合
自宅で基礎体温をつけている場合や、生理周期を記録している場合、以下のような状態が見られたら医療機関に相談してください。
- 基礎体温グラフが一相性である: 数周期続けて、低温期と高温期の二相性がはっきりと分かれない場合。
- 生理周期が大きく乱れている、または長い: 周期が40日以上と長すぎる場合や、これまでは規則的だったのに急に周期が大きく変動し始めた場合。
- 不正出血が続く: 月経期間ではないのに、出血が頻繁に見られる、またはダラダラと続く場合。
- 月経痛が全くない、または非常に軽くなった: これまで月経痛があったのに、最近全く感じなくなった、あるいは極端に軽くなった場合。
- おりものの変化が乏しい: 月経周期を通じて、おりものの量や性状にほとんど変化が見られない場合。
これらの症状は、無排卵月経の可能性を示唆するサインです。
自己判断せず、専門医に相談して正確な診断を受けましょう。
妊娠を希望している場合
妊娠を希望しているにも関わらず、避妊をやめて1年以上経過しても妊娠しない場合(35歳以上の女性は半年)は、「不妊症」と考えられます。
不妊の原因は様々ですが、その中でも排卵障害(無排卵含む)は大きな原因の一つです。
- 妊娠を希望していて、上記のような無排卵を疑う症状がある場合は、妊活を始める前に一度婦人科を受診することをお勧めします。
- セルフチェックでは無排卵のサインが見られない場合でも、妊活を開始して一定期間妊娠しない場合は、排卵の有無を含めた不妊検査を受けることが重要です。
排卵がなければ妊娠は成立しません。
無排卵月経と診断された場合でも、適切な治療によって排卵を回復させ、妊娠の可能性を高めることができます。
早期に受診することで、治療を開始するタイミングを逃さずに済みます。
生理が長期間止まっている場合
3ヶ月以上月経が来ない状態を「無月経」といいます。
無月経の原因は様々ですが、多くの場合、排卵が起こっていない状態です。
無月経を放置すると、以下のようなリスクがあります。
- 不妊: 当然ながら、排卵がなければ妊娠できません。
- 骨粗鬆症: エストロゲンには骨密度を維持する働きがあります。
無月経が続くとエストロゲンの分泌が低下し、骨密度が低下して骨粗鬆症のリスクが高まります。 - 子宮内膜増殖症・子宮体がんのリスク増加: 排卵がなくプロゲステロンが分泌されない状態が続くと、エストロゲンのみに刺激された子宮内膜が異常に厚くなることがあります(子宮内膜増殖症)。
これは子宮体がんの前段階となることがあり、将来的に子宮体がんのリスクを高める可能性があります。
無月経は単に生理が来ないというだけでなく、将来の健康にも関わる重要なサインです。
自己判断で様子を見たりせず、必ず婦人科を受診してください。
原因を特定し、必要に応じてホルモン補充療法などを行い、子宮内膜を保護することが大切です。
無排卵月経は、適切な診断と治療によって多くの場合改善が見込める状態です。
自分の体の変化に気づき、気になることがあれば迷わずに専門の医療機関へ相談することが、自身の健康を守り、将来の可能性を広げるために非常に重要です。
まとめ:
無排卵月経は、生理のような出血があっても排卵が伴わない状態であり、不妊の大きな原因の一つとなります。
ストレス、過度なダイエット、激しい運動、多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)、高プロラクチン血症、甲状腺機能異常など、様々な原因によって引き起こされます。
無排卵月経の主な症状としては、生理周期の乱れ(長い・短い・不規則)、不正出血、基礎体温が一相性になること、おりものの変化が乏しいこと、月経痛がないまたは軽度であることが挙げられます。
基礎体温の記録や生理周期の観察などでセルフチェックをすることも可能ですが、自己判断は禁物です。
診断のためには、医療機関での問診、内診、ホルモン値測定を含む血液検査、超音波検査などが必要です。
原因に応じて、生活習慣の改善指導、ホルモン補充療法、排卵誘発剤を用いた薬物療法、あるいは原因疾患に対する治療が行われます。
無排卵月経の状態では自然妊娠は難しいですが、適切な治療を受けることで排卵が回復し、妊娠の可能性を十分に高めることができます。
また、妊娠を希望していない場合でも、無月経や無排卵の状態を放置することは、将来的な骨粗鬆症や子宮体がんのリスクを高める可能性があるため、早期に診断・治療を受けることが重要です。
生理周期の異常や、基礎体温の乱れなど、気になる症状がある場合は、一人で悩まず、必ず婦人科を受診して相談してください。
専門医の適切なアドバイスとサポートを受けることが、自身の体と向き合い、健やかな未来を築くための第一歩となります。
免責事項:
この記事は、無排卵月経に関する一般的な情報提供を目的としており、医学的な診断や治療の代替となるものではありません。
個々の症状や状態については個人差があり、必ず専門の医療機関を受診し、医師の診断と指導を受けてください。
この記事の情報に基づくいかなる行動についても、執筆者および運営元は一切の責任を負いません。