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「葉酸サプリは飲まない方がいい」は間違い?妊活・妊娠中に必要な理由

「葉酸サプリは飲まない方がいい」という言葉を見聞きして、不安を感じていませんか?インターネット上には様々な情報があふれており、「本当に必要なの?」「デメリットがあるのでは?」といった疑問を持つ方も少なくありません。特に、これから妊娠を考えている方や、すでに妊娠初期の方にとっては、お腹の赤ちゃんのために何を信じれば良いのか、非常に悩ましい問題でしょう。この記事では、葉酸サプリに関するこうした疑問や不安に対し、医師の視点から科学的根拠に基づいて分かりやすく解説します。「飲まない方がいい」と言われる背景にある誤解を解き明かし、葉酸がなぜ重要なのか、飲まなかった場合にどのようなリスクがあるのか、そして安全なサプリメントの選び方まで、葉酸に関する正しい知識を提供します。この記事を読めば、葉酸サプリに対する疑問が解消され、ご自身にとって最適な選択をするための判断材料が得られるはずです。

目次

葉酸サプリ「飲まない方がいい」と言われる理由とは?

「葉酸サプリ 飲まない方がいい」という言説は、いくつかの要因が複合的に絡み合って生まれた誤解や懸念に基づいていると考えられます。多くの場合、葉酸自体の重要性を否定するものではなく、特定の状況や情報不足から生じる不安が背景にあります。

考えられる主な理由としては、以下のような点が挙げられます。

  • 過剰摂取による健康への影響の懸念:
    特定の疾患(例えば、悪性貧血の診断の遅れ)を隠してしまう可能性が指摘されることがあります。
    一部で発がんリスクとの関連が示唆された研究もありますが、これは限定的な条件での研究結果であり、一般的な摂取量での明確なエビデンスは確立されていません。
    ビタミンB12欠乏症の診断を遅らせる可能性も指摘されますが、これは葉酸単独で大量摂取した場合のリスクであり、多くの葉酸サプリにはビタミンB12も含まれています。
  • 「天然葉酸」神話と「合成葉酸」への不信感:
    サプリメントに主に使用される「合成葉酸(モノグルタミン酸型)」が「天然葉酸(ポリグルタミン酸型)」よりも体に悪い、不自然であるといった誤解があります。
    実際には、サプリメントに含まれる合成葉酸の方が体内での吸収率が非常に高く、安定しているため、推奨量どおりに摂取することで効率的に必要量を補うことができます。厚生労働省も、特に妊活・妊娠初期にはサプリメント等からのモノグルタミン酸型葉酸の摂取を推奨しています。
  • 食事からの摂取で十分という考え方:
    葉酸は緑黄色野菜などに含まれる栄養素であり、「バランスの良い食事をしていればサプリメントは不要」と考える方がいます。
    しかし、後述しますが、葉酸は調理による損失が大きく、食事だけで推奨される付加量を摂取することは非常に難しいのが現実です。
  • サプリメント全般に対する不信感:
    粗悪なサプリメントや過剰な広告、特定の成分への不安などから、サプリメントそのものに対して懐疑的な見方をする方もいます。

これらの懸念や誤解について、医学的な視点からさらに詳しく見ていきましょう。

葉酸サプリに危険性や副作用はある?

葉酸サプリメントを推奨量(特に妊活・妊娠初期の女性に対する400μg/日)を摂取する限りにおいて、重篤な危険性や副作用はほとんど報告されていません。葉酸は水溶性ビタミンであり、過剰に摂取された分は尿として排出されやすいため、通常の食事やサプリメントによる摂取で過剰症を引き起こすことは稀です。

ただし、極めて大量(例えば、推奨量の数十倍など)に摂取した場合に、以下のような懸念が指摘されることがあります。

  • ビタミンB12欠乏症の診断遅延: 高用量の葉酸摂取は、ビタミンB12欠乏によって生じる巨赤芽球性貧血という症状を改善してしまうため、根本的な原因であるビタミンB12欠乏症の発見を遅らせる可能性があります。ビタミンB12欠乏が続くと、神経障害などの重篤な症状を引き起こす可能性があるため注意が必要です。ただし、これは主に葉酸単独の大量摂取に関わる懸念であり、多くの葉酸サプリにはビタミンB12も配合されています。
  • 亜鉛の吸収阻害: 極端な高用量摂取は、亜鉛の吸収を妨げる可能性も指摘されています。
  • 薬剤との相互作用: 特定の薬剤(てんかん薬など)の効果に影響を与える可能性が指摘されています。

これらの懸念は、あくまで「極めて高用量」を摂取した場合のリスクであり、厚生労働省が推奨するサプリメントからの葉酸摂取量(モノグルタミン酸型400μg/日)では、これらの問題が生じる可能性は極めて低いと考えられています。サプリメントは医薬品とは異なり、あくまで食品の分類ですが、摂取量目安を守ることが重要です。

葉酸サプリが必要ない人はいるのか?

基本的な考え方として、葉酸は体の様々な機能にとって不可欠なビタミンであり、健康維持のためには誰にでも必要な栄養素です。したがって、「葉酸サプリが全く必要ない人」と断言することは難しいです。

しかし、特に葉酸サプリによる積極的な補給が強く推奨されるグループと、比較的食事からの摂取で足りている可能性があるグループを区別することはできます。

  • 葉酸サプリ摂取が強く推奨されるグループ:
    妊娠を計画している女性: 神経管閉鎖障害のリスク低減のため、妊娠の1ヶ月以上前から妊娠初期(妊娠12週頃まで)にかけて、通常の食事からの摂取に加え、サプリメント等からモノグルタミン酸型葉酸を1日400μg摂取することが強く推奨されています。
    妊娠初期の女性: 上記と同様の理由から、妊娠12週頃までサプリメント等からの摂取が推奨されます。
    特定の疾患がある方: 葉酸の吸収や代謝に影響する疾患がある場合や、葉酸の必要量が増加する状態にある場合(例:溶血性貧血、透析など)は、医師の判断で治療目的で葉酸製剤が処方されることがあります。
  • 比較的食事からの摂取で足りている可能性があるグループ:
    妊娠の予定がなく、特別な健康上の問題もない成人で、かつ葉酸を豊富に含む食品(ほうれん草、ブロッコリー、豆類、レバーなど)を毎日十分に、かつ調理法に注意して摂取できている方。

ただし、現代の食生活では、葉酸を含む食品を意識的に選んで調理しても、熱や水に弱いため損失が多く、必要量を十分に摂取することは容易ではありません。特に、妊娠を計画している、あるいは妊娠初期の女性にとって、後述する神経管閉鎖障害のリスク低減のために必要な「付加量」を食事だけで摂取することは、ほぼ不可能とされています。

したがって、「絶対的に必要ない人」はごく限られます。多くの人にとって、特に妊娠を望む女性や妊娠初期の女性にとっては、葉酸サプリは「必要性が非常に高い」ものであり、「飲まない方がいい」どころか、むしろ積極的に摂取すべきものであると言えます。

葉酸サプリを飲まなかった場合のリスク

葉酸サプリメントを摂取しないこと、すなわち葉酸が不足した状態で特に妊娠初期を迎えることには、赤ちゃんや母体の健康にとって看過できないリスクが伴います。葉酸は細胞分裂やDNA合成といった、生命の根幹に関わるプロセスに深く関わっているため、不足すると様々な問題が生じうるのです。

赤ちゃんの神経管閉鎖障害との関連

葉酸不足の最も深刻なリスクとして、赤ちゃんの神経管閉鎖障害の発症リスクを高めることが挙げられます。

神経管閉鎖障害とは何か?

神経管閉鎖障害とは、妊娠初期の非常に早い時期に形成される、赤ちゃんの脳や脊髄の元となる「神経管」がうまく閉じずに生じる先天異常の総称です。主なものに以下の二つがあります。

  • 無脳症: 脳が正常に形成されない、あるいは一部が欠損している状態。ほとんどの場合、出生後すぐに死亡するか、死産となります。
  • 二分脊椎: 脊髄やそれを覆う骨(脊椎)が完全に閉じず、下肢の麻痺、排泄機能の障害、水頭症などを引き起こす状態。重症度には幅があり、生涯にわたる医療的ケアが必要となることが多いです。

これらの神経管閉鎖障害は、通常、妊娠のごく初期、多くの女性が自分が妊娠していることに気づく前の妊娠4週から12週頃に発生します。

なぜ葉酸が重要なのか?

葉酸は、細胞が新しく作られ、増えていく「細胞分裂」に不可欠なビタミンです。特に、赤ちゃんの神経管が形成される妊娠初期は、細胞がものすごいスピードで分裂し、組織が作られていく非常に重要な時期です。この時期に葉酸が十分に供給されないと、神経管の細胞分裂がスムーズに行われず、正常に閉じることができなくなるリスクが高まります。

葉酸摂取によるリスク低減効果

世界中の多くの研究により、妊娠を計画している女性が、妊娠の1ヶ月以上前から妊娠初期にかけて葉酸を適切に摂取することで、赤ちゃんの神経管閉鎖障害の発症リスクを大幅に低減できることが明らかになっています。具体的なリスク低減率は、研究によって異なりますが、約70%程度のリスクを減らすことができるという報告もあります。

この強力なエビデンスに基づき、世界保健機関(WHO)や多くの国の保健機関(日本の厚生労働省を含む)は、妊娠可能な年齢の女性、特に妊娠を計画している女性に対して、葉酸の積極的な摂取を強く推奨しています。そして、この推奨量(食事からの摂取に加え、サプリメント等からモノグルタミン酸型葉酸を1日400μg)は、食事だけで摂取するのが難しい量であるため、サプリメントの利用が不可欠とされています。

葉酸サプリを飲まないこと = リスク低減の機会損失

葉酸サプリを「飲まない方がいい」と考えて摂取しないことは、この神経管閉鎖障害という重篤な先天異常のリスクを、本来は大きく減らせるはずだったにもかかわらず、その機会を失うことを意味します。特に、予期せぬ妊娠であった場合、妊娠に気づいた時点では既に神経管が形成される非常に重要な時期を過ぎてしまっている可能性が高いため、妊娠を計画し始めた段階から葉酸サプリの摂取を開始することが極めて重要視されています。

その他の健康への影響

葉酸不足は、赤ちゃんの神経管閉鎖障害リスクを高めるだけでなく、母体やその他の健康状態にも様々な影響を与える可能性があります。

  • 母体の貧血: 葉酸は赤血球を作るために必要なビタミンであり、不足すると「巨赤芽球性貧血」という貧血を引き起こすことがあります。特に妊娠中は鉄と葉酸の両方が不足しやすく、貧血のリスクが高まります。
  • ホモシステイン血症: 葉酸は、体内で有害な物質であるホモシステインを無害なメチオニンに変換する代謝経路に関わっています。葉酸が不足すると、ホモシステインが血液中に蓄積し、ホモシステイン血症を引き起こす可能性があります。ホモシステイン血症は、心血管疾患(心筋梗塞や脳卒中など)や認知機能障害のリスクを高めることが示唆されています。
  • 流産・早産のリスク上昇の可能性: 一部の研究では、葉酸不足が流産や早産のリスク上昇と関連する可能性が示唆されていますが、これについてはさらなる研究が必要です。
  • 胎児の発育への影響の可能性: 葉酸は胎児の成長や発育全体に関わるため、重度の葉酸不足は胎児の健康に様々な影響を与える可能性があります。

これらのリスクを避けるためにも、特に妊活・妊娠中の女性にとって、葉酸の適切な摂取は非常に重要です。そして、それを効率的かつ確実に達成するためには、葉酸サプリメントの活用が推奨されます。

厚生労働省が推奨する葉酸の必要量と摂取方法

日本の公衆衛生を司る厚生労働省は、国民の健康増進のために必要な栄養素の摂取基準を定めています。葉酸についても、その重要性から明確な摂取推奨量が設定されています。

妊娠を計画している女性・妊娠初期の推奨量

最も重要な推奨量は、妊娠を計画している女性および妊娠初期の女性に対するものです。

厚生労働省の「日本人の食事摂取基準(2020年版)」では、神経管閉鎖障害のリスク低減を目的として、通常の食事から摂取する葉酸(食事性葉酸)に加え、サプリメント等からモノグルタミン酸型葉酸を1日400μg摂取することを推奨しています。

これは、通常の成人女性に必要な葉酸量とは別に、「付加量」として定められています。この付加量400μgは、サプリメントから摂取されるモノグルタミン酸型葉酸である必要があります。なぜなら、後述するように食事性葉酸は吸収率が低く、同じ量でも体内で利用されにくいためです。

推奨される摂取期間は、妊娠の1ヶ月以上前から妊娠初期(妊娠12週頃まで)です。これは、神経管が形成される非常に早い時期に対応するためです。

通常時の推奨量

妊娠を計画していない成人女性および成人男性に対する葉酸の推奨量は、1日240μgです。これは、体の機能維持に必要な基本的な量です。妊娠中期・後期の女性や授乳中の女性についても、通常時の推奨量に加え、付加量が設定されています(妊娠中期・後期は+240μg/日、授乳中は+80μg/日)。これらの付加量については、食事からの摂取でも良いとされていますが、必要に応じてサプリメントを活用することも有効です。

葉酸の食事摂取基準のまとめ

対象者 推奨量(μg/日) 内、サプリメント等からのモノグルタミン酸型葉酸推奨量(μg/日) 備考
成人(男女) 240
妊娠を計画している女性 240 + 400 400 妊娠1ヶ月以上前から開始
妊娠初期(~12週)の女性 240 + 400 400 妊娠12週頃まで継続
妊娠中期・後期(13週~)の女性 240 + 240 必要に応じてサプリメントも活用 食事からの摂取も可(吸収率に注意)
授乳中の女性 240 + 80 必要に応じてサプリメントも活用 食事からの摂取も可(吸収率に注意)

(※上記は「日本人の食事摂取基準(2020年版)」に基づいた一般的な推奨量です。個々の状態によって必要な量は異なります。)

食事で十分な葉酸を摂る難しさ

「バランスの良い食事をしていれば葉酸は十分」と考えるのは、残念ながら現実的ではありません。その主な理由は以下の通りです。

  1. 葉酸の不安定性: 葉酸は光、熱、酸素に非常に弱い性質を持っています。食材を洗う、切る、加熱するといった調理過程で、葉酸の多くが失われてしまいます。例えば、ほうれん草を茹でると、葉酸の約半分が失われると言われています。
  2. 食品中の葉酸の形態(ポリグルタミン酸型): 食品に含まれる葉酸は、主に「ポリグルタミン酸型」という形態で存在します。この形態の葉酸は、体内で吸収される際に「モノグルタミン酸型」に分解される必要があります。この分解・吸収プロセスは効率が悪く、食事性葉酸の体内での利用率(生物学的利用能)は、サプリメントなどに含まれるモノグルタミン酸型葉酸の半分程度(約50%)にすぎません。
  3. 妊娠初期に必要な付加量: 特に妊娠を計画している女性や妊娠初期の女性に推奨されている「サプリメント等からのモノグルタミン酸型葉酸400μg」という付加量は、食事性葉酸に換算すると約800μgに相当します。これを食事だけで摂取しようとすると、葉酸が豊富な食品を毎日大量に、かつ生や蒸すなど損失の少ない調理法で食べ続ける必要がありますが、それは非常に困難です。例えば、ほうれん草なら毎日1束以上、ブロッコリーなら毎日1個以上といった量が必要になる計算になります。

これらの理由から、妊娠を望む女性や妊娠初期の女性が、神経管閉鎖障害のリスク低減に効果が期待できる量の葉酸を食事だけで摂取することは、現実的に難しいと言わざるを得ません。そのため、サプリメントによる補給が有効かつ現実的な手段として強く推奨されているのです。

「飲まない方がいい」は間違い!葉酸サプリ摂取のメリット

これまでの解説で明らかになったように、「葉酸サプリは飲まない方がいい」という考え方は、葉酸の持つ重要な役割や、食事だけでは必要量を満たすことが難しいという事実を見落としています。特に、特定の時期の女性にとっては、葉酸サプリの摂取は明確なメリットがあり、むしろ「飲まない方がリスク」であると言えます。

葉酸サプリ摂取の主なメリットは以下の通りです。

神経管閉鎖障害のリスク低減

これは葉酸サプリ摂取の最も重要なメリットであり、厚生労働省がサプリメントからの摂取を推奨する最大の理由です。前述の通り、妊娠のごく初期に十分な葉酸を摂取することで、赤ちゃんの神経管閉鎖障害という重篤な先天異常の発症リスクを統計的に大幅に減らすことができます。

この効果は、葉酸サプリに含まれるモノグルタミン酸型葉酸の高い吸収率と安定性によって、体内での葉酸濃度を効率良く、安定して高めることで得られます。食事からの摂取だけでは、妊娠初期の神経管形成というクリティカルな時期に必要な葉酸量を十分に確保することが難しいため、サプリメントが有効な手段となります。

母体の健康維持(貧血予防など)

葉酸は赤血球の生成に関与しているため、葉酸サプリを摂取することで、特に妊娠中にリスクが高まる貧血(巨赤芽球性貧血)の予防に役立ちます。妊娠中は、赤ちゃんへの栄養供給のために母体の血液量が増加し、鉄や葉酸といった造血に必要な栄養素の需要が増大します。サプリメントでこれらの栄養素を補うことは、母体の健康維持にも寄与します。

また、葉酸は前述のホモシステインの代謝にも関わるため、適切な葉酸摂取はホモシステイン値の上昇を抑え、長期的な心血管疾患リスク低減にも繋がる可能性があります。

ダウン症予防の可能性について(※補足)

葉酸サプリが「ダウン症を予防できる」という情報を見かけることがありますが、これについては現時点では神経管閉鎖障害ほど明確な科学的エビデンスは確立されていません

一部の研究では、母体の葉酸代謝に関わる特定の遺伝子変異を持つ場合に、葉酸不足がダウン症の発症リスクと関連する可能性が示唆されています。葉酸はDNAのメチル化というプロセスにも関わっており、このプロセスが染色体の分離などに関係している可能性も考えられています。

しかし、これらの研究はまだ発展途上であり、「葉酸サプリを飲めばダウン症を予防できる」と断定できる段階ではありません。厚生労働省の推奨も、あくまで神経管閉鎖障害のリスク低減を目的としたものです。

葉酸サプリの摂取は、神経管閉鎖障害予防という非常に重要なメリットがあるため推奨されますが、ダウン症予防を主な目的として過度に期待したり、過剰摂取したりすることは避けるべきです。

自分に合った葉酸サプリの選び方

葉酸サプリメントは多くのメーカーから様々な種類のものが販売されており、どれを選べば良いのか迷うことがあります。ご自身や赤ちゃんの健康のために、安心して飲める、効果が期待できるサプリを選ぶためには、いくつかのポイントがあります。

合成葉酸と天然葉酸(モノグルタミン酸型とポリグルタミン酸型)

葉酸サプリを選ぶ上で最も重要なポイントの一つが、葉酸の「形態」です。主に以下の二つがあります。

  • モノグルタミン酸型葉酸: サプリメントや葉酸が強化された食品に添加されている合成の葉酸です。体内での吸収率が非常に高く(約85%)、安定しています。厚生労働省が神経管閉鎖障害のリスク低減を目的として、妊娠を計画している女性や妊娠初期の女性に推奨しているのは、このモノグルタミン酸型葉酸です。
  • ポリグルタミン酸型葉酸: 食品中に天然に存在する葉酸です。複数のグルタミン酸が結合した複雑な構造をしており、体内で利用されるためにはモノグルタミン酸型に分解される必要があります。そのため、体内での吸収率がモノグルタミン酸型に比べて低い(約50%)という特徴があります。

一部で「天然葉酸の方が体に優しい」「合成葉酸は不自然で危険」といった誤解がありますが、化学構造としてはモノグルタミン酸型もポリグルタミン酸型も同じ葉酸であり、体内で同じように利用されます。重要なのは、体内への吸収効率です。神経管閉鎖障害のリスク低減に必要な付加量400μgを確実に摂取するためには、吸収率の高いモノグルタミン酸型葉酸をサプリメントで摂ることが推奨されています。

「天然葉酸」と謳っているサプリメントの中には、食品由来の葉酸を濃縮したものもありますが、これがポリグルタミン酸型である場合、表示されている量に対して実際に吸収される量は少なくなります。また、「酵母葉酸」として販売されているものも、酵母に取り込ませた葉酸であり、これも主にポリグルタミン酸型です。神経管閉鎖障害予防を第一に考えるならば、「モノグルタミン酸型葉酸」と明確に表示されている製品を選ぶことが推奨されます。

他の栄養素(鉄、ビタミンB群など)の含有

多くの葉酸サプリメントには、葉酸以外の栄養素も配合されています。特に妊活・妊娠中に不足しがちな栄養素や、葉酸の働きをサポートする栄養素が含まれているかどうかも、サプリメント選びの参考になります。

  • 鉄: 妊娠中は血液量が増加し、胎児や胎盤への酸素供給のために鉄の需要が非常に高まります。多くの妊婦さんが鉄欠乏性貧血になりやすいため、鉄が含まれている葉酸サプリメントは便利です。
  • ビタミンB12: 葉酸とビタミンB12は、体内でお互いを助け合いながら働いています(特にDNA合成やホモシステイン代謝)。ビタミンB12が不足すると葉酸の働きも阻害されるため、両方が含まれているとより効率的です。また、ビタミンB12は前述の葉酸過剰摂取によるビタミンB12欠乏症の診断遅延リスクも軽減します。
  • ビタミンB6: ビタミンB6もホモシステインの代謝に関与しています。また、つわり軽減に役立つ可能性も指摘されています。
  • カルシウム、マグネシウム、ビタミンDなど: これらの栄養素も妊娠中の母体と胎児の健康にとって重要です。

ただし、必要以上に多くの種類の栄養素や高用量の栄養素が含まれている製品が良いとは限りません。ご自身の食事内容や健康状態を考慮し、必要な栄養素が過不足なく含まれている製品を選ぶことが大切です。

安全性や品質(GMP、無添加など)

毎日口にするものだからこそ、サプリメントの安全性や品質は非常に重要です。以下の点を参考に、信頼できる製品を選びましょう。

  • GMP認定工場での製造: GMP(Good Manufacturing Practice)とは、「適正製造規範」のことです。原材料の受け入れから製造、出荷までの全ての過程において、製品が「安全に作られ、一定の品質が保たれる」ように定められた基準と管理体制のことです。GMP認定工場で製造された製品は、品質管理が徹底されているため安心です。
  • 無添加表示: 着色料、香料、保存料などの添加物を気にする方も多いでしょう。「無添加」と表示されている製品は、特定の添加物を含まないことを示しています。ただし、何が無添加なのかは製品によって異なるため、気になる添加物がある場合は成分表示をしっかり確認することが重要です。
  • 原材料のトレーサビリティ: どのような原材料が、どこで生産され、どのように製品になるのか、追跡可能な体制が整っているかどうかも品質管理の一つの指標になります。
  • 第三者機関による品質チェック: 公的な機関や民間の信頼できる検査機関によって、製品の成分量や安全性が定期的にチェックされているかも確認ポイントになります。
  • 販売実績と口コミ: 長年の販売実績があり、多くの人から支持されている製品は、一定の品質が期待できます。ただし、口コミは個人の感想であり、全てを鵜呑みにせず参考程度に留めることが重要です。

サプリメントは食品であり、医薬品のような厳格な製造・販売規制はありません。だからこそ、ご自身で信頼できるメーカーや製品を選ぶ目を養うことが大切です。不明な点があれば、メーカーの公式サイトで確認したり、問い合わせたりすることも有効です。

葉酸サプリ選びのポイントまとめ

チェックポイント 詳細
葉酸の形態 モノグルタミン酸型を選ぶ。吸収率が高く、神経管閉鎖障害予防に有効。表示をしっかり確認する。
葉酸の含有量 妊娠を計画中~妊娠初期は1日400μgが目安。それ以外の時期は必要に応じて選択。
その他の栄養素 鉄、ビタミンB12、ビタミンB6など、妊活・妊娠中に不足しがちな栄養素が含まれていると便利。ただし、過剰摂取にならない量か確認。
安全性・品質 GMP認定工場での製造、不要な添加物の有無、原材料のトレーサビリティ、第三者機関によるチェックなどを確認。信頼できるメーカーを選ぶ。
価格と継続性 毎日飲み続けるものなので、無理なく続けられる価格帯か考慮。ただし、安さだけで選ばず品質も重視する。
匂いや粒の大きさ 特に妊娠初期はつわりなどで敏感になることも。口コミなどを参考に、飲みやすい形状や匂いか確認する。

葉酸サプリに関するよくある質問(FAQ)

葉酸サプリメントについて、多くの方が疑問に思う点や、よく質問される内容について、Q&A形式で解説します。

葉酸サプリはいつからいつまで飲むべき?

神経管閉鎖障害は妊娠のごく初期、神経管が形成される時期(通常、妊娠4週から12週頃)に発生します。そのため、葉酸サプリの摂取は、妊娠を計画し始めた時点から開始し、少なくとも妊娠12週頃まで継続することが強く推奨されています。

これは、妊娠に気づいてから慌てて摂取を始めても、既に神経管の形成期が終了している可能性があるためです。予期せぬ妊娠もあり得るため、妊娠可能な年齢の女性であれば、妊娠希望の有無にかかわらず、日頃から葉酸を含むバランスの良い食事を心がけ、必要に応じて葉酸サプリメントを摂取しておくことも有効です。

妊娠12週以降(妊娠中期・後期)や授乳中についても、葉酸は母体と赤ちゃんの健康に必要な栄養素であり、食事だけでは不足しやすい場合もあるため、サプリメントでの補給を続けることも問題ありません。特に妊娠中期・後期は貧血予防などのためにも鉄分との同時摂取が推奨されます。

妊娠中・授乳中に葉酸サプリは必要?

はい、妊娠中期・後期、および授乳中も葉酸は必要です

  • 妊娠中期・後期: 赤ちゃんの臓器や組織がさらに発達し、体重が増加する時期です。母体自身の健康維持や、増加する血液量に対応するためにも葉酸は重要です。厚生労働省は、この時期に通常の推奨量(240μg/日)に加え、付加量として240μg/日の葉酸摂取を推奨しています。この付加量は食事からの摂取でも良いとされていますが、食事だけでは不足しやすいため、葉酸サプリメントを継続して利用することも有効です。
  • 授乳中: 母乳を通じて赤ちゃんに葉酸が移行するため、母体自身の必要量に加え、付加量が必要になります。厚生労働省は、授乳中の女性に通常の推奨量(240μg/日)に加え、付加量として80μg/日の葉酸摂取を推奨しています。この時期も、食事からの摂取に加え、葉酸サプリメントを活用することで必要量を確実に満たすことができます。

妊娠期間全体を通して、葉酸は母体と赤ちゃんの健康に重要な役割を果たします。

男性も葉酸サプリを飲むべき?

必須ではありませんが、男性が葉酸を十分に摂取することは、妊活において推奨される場合があります

近年の研究では、葉酸は男性の精子の質(数や運動性など)にも影響を与える可能性が示唆されています。葉酸はDNAの合成や修復に関わるため、精子のDNAが損傷するのを防ぎ、質の良い精子を形成するために重要な役割を果たしていると考えられています。

男性が葉酸を摂取することによる妊孕性(妊娠しやすさ)への具体的な影響については、まだ研究段階の部分もありますが、夫婦で一緒に妊活に取り組むという観点から、男性も通常の推奨量(240μg/日)を意識的に摂取することは有益と考えられます。食事からの摂取が基本ですが、不足が心配な場合は、男性向けの葉酸サプリメントや、夫婦で一緒に飲めるタイプの葉酸サプリメントを利用するのも良いでしょう。

葉酸サプリが体に合わない場合の対処法

葉酸サプリメントを飲んでみて、吐き気、胃部不快感、皮膚のかゆみなどの症状が出たり、「体に合わない」と感じたりすることがあります。このような場合の対処法としては、以下の点が考えられます。

  1. 摂取量やタイミングの見直し: 規定の摂取量を超えていないか確認しましょう。また、空腹時に飲むと胃に負担がかかる場合があるため、食事中や食後に飲むようにタイミングを変えてみるのも一つの方法です。
  2. 製品を変えてみる: サプリメントに含まれる葉酸以外の成分(添加物、他の栄養素など)が原因で症状が出ている可能性も考えられます。他のメーカーの製品や、含まれている成分が異なる製品に変えてみることで、合うものが見つかる場合があります。特に、着色料、香料、保存料などが含まれていない無添加の製品を試してみるのも良いでしょう。
  3. 医師や薬剤師に相談する: 症状が続く場合や、特定の症状(例:じんましん、呼吸困難など)が現れた場合は、速やかに摂取を中止し、医師や薬剤師に相談してください。アレルギー反応や、基礎疾患との関連性の可能性も考えられます。現在服用している医薬品がある場合は、飲み合わせについても必ず相談しましょう。

自己判断で摂取量を大幅に変更したり、症状を我慢して飲み続けたりすることは避け、専門家の意見を聞くことが大切です。

まとめ:葉酸サプリは飲まない方がいい?必要な理由と正しい選び方

この記事では、「葉酸サプリ 飲まない方がいい」という疑問に対し、医学的な視点から葉酸の重要性、リスク、そして正しい知識について解説しました。

結論として、「葉酸サプリは飲まない方がいい」という言説は、特に妊娠を計画している女性や妊娠初期の女性にとっては大きな誤解であり、むしろ葉酸サプリの適切な摂取は強く推奨されるものです。その最大の理由は、赤ちゃんの神経管閉鎖障害という重篤な先天異常の発症リスクを大幅に低減できるという、確かな科学的根拠に基づいたメリットがあるからです。

葉酸は、食事からも摂取できるビタミンですが、光や熱に弱く調理による損失が多いこと、食品中の葉酸が体内で利用されにくい形態であることから、食事だけで推奨される必要量、特に妊娠初期に重要な付加量を満たすことは現実的に困難です。そこで、吸収率の高いモノグルタミン酸型葉酸を含むサプリメントの活用が有効な手段となります。

葉酸サプリメントの摂取において、過剰摂取による懸念や、サプリメント全般に対する不信感から不安を感じる方もいらっしゃいますが、厚生労働省が推奨する摂取量を守る限りにおいて、重篤な副作用の心配はほとんどありません。

ご自身に合った葉酸サプリを選ぶためには、葉酸の形態(モノグルタミン酸型が推奨)、含有量、必要な他の栄養素が含まれているか、そして何よりも安全性と品質(GMP認定など)を確認することが大切です。

もし葉酸サプリの摂取について疑問や不安が解消されない場合は、一人で悩まずに、かかりつけの医師や薬剤師に相談することをおすすめします。専門家はあなたの健康状態やライフスタイルに合わせた適切なアドバイスを提供してくれるでしょう。

葉酸サプリは、特に未来の赤ちゃんを迎える準備として、非常に重要な役割を担っています。正しい知識を持って、安心してご自身の健康管理に取り組んでいきましょう。


【免責事項】
本記事は、葉酸サプリメントに関する一般的な情報提供を目的としており、特定の製品の推奨や医療行為を代替するものではありません。栄養摂取基準や医学的見解は変更される可能性があります。個々の健康状態や治療状況によっては、葉酸摂取に関する注意点や制限がある場合があります。葉酸サプリメントの摂取を検討される際は、必ず医療専門家(医師、薬剤師など)にご相談ください。本記事の情報に基づいて発生したいかなる結果に関しても、当方は一切の責任を負いません。

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