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精神疾患の一覧と症状をわかりやすく解説

心の不調は誰にでも起こりうるものです。「精神疾患」と聞くと特別な病気のように感じるかもしれませんが、風邪や高血圧と同じように、脳の機能や心の働きに一時的または継続的な影響が生じる状態を指します。心の健康に不安を感じている方、ご自身や周囲の方のことで気になる症状がある方にとって、精神疾患についての正しい知識を得ることは、適切な対処や回復への第一歩となります。

この記事では、精神疾患の主な種類を一覧で解説し、それぞれの特徴や症状、考えられる原因、そして診断や治療法について分かりやすく説明します。統計情報や利用できる制度、相談先についてもご紹介しますので、心の病気への理解を深め、必要な情報を見つけるためにお役立てください。この記事が、心の健康について考えるきっかけとなり、一人で悩まず専門家へ相談することの後押しになれば幸いです。

「精神疾患」や「精神障害」という言葉は、日常生活やメディアでも耳にすることがありますが、それぞれの正確な定義や違いについて理解している方は少ないかもしれません。

精神疾患とは、思考、感情、行動、記憶、学習などの精神機能に何らかの障害が生じ、日常生活や社会生活に支障をきたす病気の総称です。脳の機能的な問題や、心理的・社会的な要因など、様々な要因が複雑に絡み合って発症すると考えられています。

一方、「精神障害」は、精神疾患によって生じた機能的な障害、つまり日常生活や社会生活を送る上での困難さに焦点を当てた言葉として使われることがあります。精神疾患そのものを指す場合もあれば、疾患によって生じる後遺症や長期的な機能低下の状態を指す場合もあります。法的な文脈(障害者手帳など)では、「精神障害」という言葉が用いられ、その障害の程度によって行政的な支援の対象となるかが判断されます。

どちらの言葉も、心の健康に関する課題を示すものですが、厳密には「精神疾患」が病気の状態を指し、「精神障害」はその病気によって生じた機能的な影響や困難さを指す傾向があります。

精神疾患の診断は、世界保健機関(WHO)の国際疾病分類(ICD)や、アメリカ精神医学会(APA)の精神疾患の診断・統計マニュアル(DSM)といった国際的な診断基準に基づいて行われます。これらの診断基準は、研究の進展や臨床の知見を踏まえて改訂されており、現在は主にICD-11やDSM-5が用いられています。これらの基準では、具体的な症状の組み合わせや持続期間などが示されており、医師はこれらを参照しながら、患者さんの状態を総合的に評価して診断を行います。

心の不調を感じた際に、自己判断で特定の疾患名を決めつけることは避け、必ず専門家である精神科医や心療内科医に相談することが重要です。

目次

主な精神疾患の種類を分類別に解説

精神疾患は非常に多岐にわたるため、診断や理解のためにいくつかのカテゴリーに分類されています。ここでは、ICDやDSMといった国際的な診断基準で用いられている主な分類に基づき、代表的な精神疾患の種類を一覧でご紹介します。

気分障害

気分障害は、感情や気分の状態が極端に変動したり、持続的に偏ったりすることで、日常生活に大きな支障をきたす疾患群です。抑うつ状態や躁状態が特徴的です。

うつ病(大うつ病性障害)

うつ病は、精神疾患の中でも最も一般的な疾患の一つです。持続的な「抑うつ気分」や「興味・喜びの喪失」を核とする症状に加え、睡眠障害、食欲不振または過食、疲労感、集中力低下、自責感、希死念慮など、様々な精神症状や身体症状が現れます。これらの症状が2週間以上続き、日常生活や社会生活に影響を与えている場合に診断されます。

うつ病の原因は一つではなく、脳内の神経伝達物質のバランスの変化といった生物学的要因、ストレスに対する脆弱性といった心理的要因、そして人間関係や仕事などの環境要因が複合的に影響すると考えられています。真面目で責任感が強い人、環境の変化に適応しにくい人などが発症しやすい傾向があると言われますが、誰にでも起こりうる病気です。

双極性障害(躁うつ病)

双極性障害は、うつ状態に加え、気分が高揚し活動的になる「躁状態」を繰り返す精神疾患です。以前は「躁うつ病」と呼ばれていました。うつ病と異なり、単なる気分の波ではなく、躁状態では睡眠時間が短くても平気でいられる、多弁になる、衝動的な行動をとる(浪費、無謀な投資など)、尊大になるなどの症状が現れ、大きなトラブルにつながることもあります。

双極性障害には、激しい躁状態とうつ状態を繰り返す「双極I型障害」と、比較的軽い躁状態(軽躁状態)とうつ状態を繰り返す「双極II型障害」があります。うつ状態の症状はうつ病と似ているため、双極性障害のうつ状態をうつ病と誤診されているケースも少なくありません。診断には、過去の気分の波について詳しく問診することが重要です。原因としては、脳機能の異常や遺伝的な要因が強く関与していると考えられています。

不安症群

不安症群は、過剰な不安や恐怖、心配が中心的な症状となる疾患群です。不安を感じる対象や状況によって、様々な種類があります。

パニック症

パニック症は、予期せぬ強い動悸、息苦しさ、めまい、吐き気、手足の震えなどの身体症状を伴う「パニック発作」を繰り返し経験する疾患です。発作は突然起こり、死んでしまうのではないか、気がおかしくなるのではないかといった強い恐怖感を伴います。発作自体は短時間で治まることが多いですが、発作を繰り返すうちに、また発作が起こるのではないかという「予期不安」や、発作が起きたときに逃げられない場所や状況を避ける「広場恐怖」を伴うことがあります。

原因は完全に解明されていませんが、脳内の神経伝達物質のバランス異常、ストレス、過労、睡眠不足などが関係すると考えられています。カフェインの摂取やアルコールも発作を誘発することがあります。

社交不安症

社交不安症(SAD: Social Anxiety Disorder)は、人前で話すこと、初対面の人と会うこと、注目を浴びる状況など、社会的な状況や行為に対して強い不安や恐怖を感じる疾患です。人前で恥をかくのではないか、変に思われるのではないかといった恐れが強く、そのような状況を避けようとします。症状としては、顔が赤くなる、汗をかく、声が震える、動悸、吐き気などがあります。

思春期頃に発症することが多く、性格的なものや人見知りとして片付けられてしまうこともありますが、本人は強い苦痛を感じ、学業や仕事、人間関係に大きな影響を及ぼします。原因としては、遺伝的な要因、脳機能の偏り、過去の否定的な経験などが考えられています。

全般性不安症

全般性不安症(GAD: Generalized Anxiety Disorder)は、特定の対象や状況だけでなく、様々なことに対して過剰でコントロールできない心配が持続する疾患です。仕事、健康、家族のことなど、様々なことを必要以上に心配し、その心配が頭から離れず、落ち着かない、イライラする、集中できない、疲労感、肩こり、頭痛などの身体症状も伴います。

慢性的な経過をたどることが多く、本人だけでなく周囲の人も疲弊してしまうことがあります。原因は単一ではなく、遺伝、脳機能、ストレス、生活環境などが複合的に影響すると考えられています。

広場恐怖症

広場恐怖症は、特定の場所や状況に対して強い不安を感じ、そこから逃げ出せない、助けが得られない場合に閉じ込められることを恐れる不安症の一種です。具体的には、公共交通機関(電車、バス、飛行機)、広い場所(広場、駐車場)、閉鎖空間(映画館、エレベーター)、列に並ぶこと、家に一人でいることなどが挙げられます。これらの状況でパニック発作やそれに類する症状が起きることを恐れ、そのような場所や状況を回避するようになります。

パニック症と併発することが多く、パニック発作を繰り返した後に広場恐怖が現れるケースが一般的です。しかし、パニック発作の既往がなくても広場恐怖症が診断されることもあります。回避行動によって日常生活範囲が狭まり、社会的に孤立してしまうこともあります。

心的外傷およびストレス関連障害

この分類は、トラウマとなるような出来事や、重度または慢性のストレスに曝された後に発症する精神疾患を含みます。

PTSD(心的外傷後ストレス障害)

PTSD(Post-Traumatic Stress Disorder)は、生命に関わるような出来事(事故、災害、暴力、虐待など)を体験したり目撃したりした後に発症する精神疾患です。トラウマ体験の記憶がフラッシュバックのように繰り返し蘇る、悪夢を見る、体験に関連する場所や状況を避ける、常に身構えて緊張している、集中できない、眠れないといった症状が特徴的です。これらの症状がトラウマ体験から1ヶ月以上経っても続き、日常生活に支障をきたしている場合に診断されます。

トラウマ体験をした人全てが発症するわけではなく、個人の脆弱性や周囲のサポートなども影響します。適切な治療によって症状の改善が期待できますが、長期化することもあります。

適応障害

適応障害は、特定のストレス要因(引っ越し、転職、人間関係の変化、病気など)によって引き起こされる精神的、行動的な症状です。ストレス要因に反応して、抑うつ気分、不安、イライラ、不眠、無断欠勤、攻撃的な行動などが現れます。症状はストレス要因が生じてから3ヶ月以内に現れ、そのストレス要因がなくなったり、状況に適応したりすると通常6ヶ月以内に改善するのが特徴です。

うつ病や不安症群と似た症状が現れることがありますが、適応障害は特定のストレス因と発症時期が明確に関連している点が異なります。ストレス因から離れることが最も効果的な治療法となることが多いですが、精神療法や薬物療法が用いられることもあります。

統合失調症スペクトラム障害およびその他の精神病性障害

この分類には、現実検討能力の障害(幻覚や妄想)、思考・行動の異常、感情表現の平板化などを特徴とする疾患が含まれます。

統合失調症は、思考、知覚、感情、行動などを統合する能力が障害される精神疾患です。「陽性症状」(実際にはないものが見えたり聞こえたりする幻覚、ありえないことを信じ込む妄想、まとまりのない思考や行動)と「陰性症状」(意欲の低下、感情表現の減少、会話が少なくなる、引きこもり)、「認知機能障害」(記憶力、集中力、判断力の低下)が主な症状です。これらの症状によって、社会生活や職業生活に大きな支障をきたします。

発症は思春期後期から青年期にかけてが多いですが、中年期以降に発症することもあります。原因は、脳の機能や構造の変化、遺伝的な要因、環境要因(ストレス、薬物使用など)の複合的な影響と考えられています。早期発見と適切な治療(主に薬物療法と精神科リハビリテーション)によって、症状をコントロールし、社会生活を送ることが十分可能です。この分類には統合失調症以外にも、短期精神病性障害、妄想性障害など、様々な精神病性障害が含まれます。

強迫症・関連症群

この分類は、強迫観念(不快で繰り返し頭に浮かぶ考えやイメージ)と強迫行為(強迫観念による不安を打ち消すために繰り返される行動や心の活動)を特徴とする疾患や、それに関連する疾患を含みます。

強迫症は、本人の意思に反して頭に浮かんでくる不快な考え(強迫観念)によって強い不安や苦痛を感じ、その不安を打ち消すために特定の行為を繰り返してしまう(強迫行為)精神疾患です。例えば、「手が汚れているのではないか」という強迫観念から「何度も手を洗う」という強迫行為を繰り返す、「鍵を閉め忘れたのではないか」という強迫観念から「何度も鍵を確認する」といった行動が見られます。強迫行為は一時的に不安を軽減させますが、根本的な解決にはならず、むしろ強迫観念を強化してしまうことがあります。

強迫観念や強迫行為に多くの時間(1日1時間以上)を費やしたり、それらによって日常生活や社会生活に大きな支障が生じたりする場合に診断されます。原因としては、脳機能の偏り、遺伝、特定の性格特性などが考えられています。この分類には、強迫症のほか、身体醜形障害、ためこみ症、抜毛症、皮膚むしり症なども含まれます。

摂食障害・食行動障害

この分類は、食事や体重、体型に関する問題が中心となる精神疾患です。

摂食障害には、主に「神経性やせ症(Anorexia Nervosa)」、「神経性過食症(Bulimia Nervosa)」、「過食性障害(Binge-Eating Disorder)」があります。

  • 神経性やせ症:極端な食事制限などにより、健康を損なうほど低体重になるにもかかわらず、体重増加への強い恐怖や、体型・体重への過度のこだわりが見られます。歪んだ身体イメージを持ち、実際は痩せているのに自分は太っていると感じることがあります。
  • 神経性過食症:短時間で大量の食事を制御不能に食べてしまう「過食」と、体重増加を防ぐための代償行為(自己誘発嘔吐、下剤乱用、過度な運動など)を繰り返します。体重は正常範囲内にあることが多いですが、体型や体重へのこだわりが強いです。
  • 過食性障害:神経性過食症と同様に制御不能な過食を繰り返しますが、代償行為(嘔吐など)は行いません。このため、肥満につながることが多いです。

摂食障害は、単なる食事の問題ではなく、心理的な問題(自己肯定感の低さ、完璧主義、抑うつなど)や、社会文化的な要因(痩せていることへのプレッシャー)が複雑に絡み合って発症すると考えられています。身体合併症のリスクが高いため、早期の専門的な治療(精神療法、栄養指導、場合によっては薬物療法)が必要です。

物質関連障害・嗜癖性障害(依存症)

この分類は、アルコール、薬物(覚醒剤、大麻、処方薬など)、ギャンブル、インターネットなど、特定の物質の使用や行為が問題となり、やめたくてもやめられない状態(依存症)を特徴とする疾患を含みます。

依存症は、特定の物質や行為に対して強い渇望が生じ、使用や行為をコントロールできなくなり、結果として心身の健康や社会生活に重大な問題が生じるにもかかわらず、それをやめたり減らしたりできない状態です。物質依存の場合、使用を中止すると離脱症状(震え、吐き気、不安など)が現れることもあります。嗜癖性障害には、ギャンブル障害などが含まれます。

依存症は、単なる意志の弱さではなく、脳の報酬系に異常が生じる病気と考えられています。遺伝的な要因、生育環境、精神的な問題などが発症に関与します。治療は、本人の回復したいという意志が重要ですが、精神療法(認知行動療法など)、薬物療法、自助グループへの参加など、多角的なアプローチが必要です。

パーソナリティ障害

パーソナリティ障害は、個人のものの見方、感じ方、他人との関わり方、衝動のコントロールといったパーソナリティ(人格)のパターンが、文化的な期待から大きく偏っており、かつ広範で硬直していて、青年期または成人期早期に始まり、時間とともに安定しており、苦痛または機能の障害を引き起こしている状態です。10種類に分類され、それぞれ特徴的な対人関係のパターンや感情制御の問題が見られます。

  • A群(奇妙で風変わり):妄想性、スキゾイド、スキゾタイパル
  • B群(劇的で感情的、衝動的):反社会性、境界性、演技性、自己愛性
  • C群(不安で恐れが強い):回避性、依存性、強迫性

例えば、境界性パーソナリティ障害では、不安定な対人関係、感情の激しい変動、衝動的な行動、慢性的な空虚感、自傷行為などが特徴的です。パーソナリティ障害は診断が難しく、他の精神疾患と併発していることも多いです。治療には、長期的な精神療法(弁証法的行動療法など)が有効とされています。

神経発達症群

神経発達症群(神経発達障害)は、発達早期(通常は乳幼児期や学童期)に現れる、脳機能の発達の偏りに関連する疾患群です。知的な発達の遅れ、コミュニケーションや対人関係の困難、学習の困難、注意や行動の偏りなどが特徴的です。これらの特性は、生涯にわたって続くことが多く、日常生活や社会生活に様々な影響を与えます。

注意欠如・多動症(ADHD)

ADHD(Attention-Deficit/Hyperactivity Disorder)は、不注意、多動性、衝動性といった特性が年齢や発達レベルに不釣り合いに強く見られ、社会生活や学業に支障をきたす神経発達症です。

  • 不注意:集中力が続かない、忘れ物が多い、指示を聞き漏らす、整理整頓が苦手など。
  • 多動性:じっとしていられない、落ち着きがない、ソワソワするなど。
  • 衝動性:考える前に行動する、順番が待てない、人の話を遮るなど。

これらの特性は組み合わさって現れることが多く、タイプによって不注意優勢型、多動・衝動性優勢型、混合型に分けられます。原因は脳機能の偏りと考えられており、遺伝的な要因も関与します。治療は、環境調整、行動療法、ソーシャルスキルトレーニング、薬物療法など、多角的なアプローチが行われます。

自閉スペクトラム症(ASD)

ASD(Autism Spectrum Disorder)は、対人関係やコミュニケーションの困難、限定された興味やこだわり、感覚の過敏さや鈍感さといった特性が見られる神経発達症です。以前は「自閉症」「アスペルガー症候群」「広汎性発達障害」などと呼ばれていましたが、現在は「自閉スペクトラム症」という一つの概念に統合されています。「スペクトラム」とは、症状の現れ方が多様であることから、連続体として捉えるという意味が込められています。

  • 対人関係・コミュニケーションの困難:視線が合いにくい、表情や声の調子から相手の気持ちを読み取るのが苦手、暗黙の了解や比喩が分かりにくい、一方的な話し方になるなど。
  • 限定された興味・こだわり:特定の分野に強い興味を持ち、それ以外のことに無関心になる、特定のルーティンや手順に強くこだわる、変化を嫌うなど。

原因は脳機能の偏りと考えられており、遺伝的な要因も関与します。治療法は、これらの特性を理解した上で、構造化された環境調整、ソーシャルスキルトレーニング、コミュニケーション支援などが行われます。

神経認知障害(認知症など)

この分類は、脳の病気や損傷によって、記憶、思考、判断、学習といった認知機能が低下する疾患を含みます。代表的なものが認知症です。

認知症は、後天的な脳の器質的な変化(脳の萎縮や血管障害など)により、一度獲得された認知機能が持続的に低下し、日常生活や社会生活に支障をきたす状態です。単なる加齢による物忘れとは異なり、時間や場所が分からなくなる(見当識障害)、判断力が低下する、言葉が出てこなくなる(失語)、道具の使い方が分からなくなる(失行)、目的を持った一連の行動ができなくなる(遂行機能障害)といった症状が現れます。

認知症の原因疾患は様々ですが、代表的なものにはアルツハイマー型認知症、レビー小体型認知症、血管性認知症などがあります。多くの場合、進行性の疾患ですが、原因疾患によっては治療可能なもの(正常圧水頭症など)もあります。治療は、原因疾患に対する薬物療法や、症状を和らげるための対症療法、リハビリテーション、適切なケア環境の調整などが行われます。

その他の精神疾患

上記の主要な分類以外にも、精神疾患には様々な種類があります。例えば、

  • 睡眠・覚醒障害:不眠症、過眠症、ナルコレプシー、概日リズム睡眠・覚醒障害など、睡眠に関する問題。
  • 破壊的・衝動制御・素行症群:反抗挑戦性障害、間欠爆発性障害、品行障害、放火癖、窃盗癖など、自己制御や行動に関する問題。
  • 性機能障害:性欲の低下、勃起障害、オーガズムの困難など、性的な活動に関する問題。
  • 排泄症群:遺尿症(おねしょ)、遺糞症など、排泄に関する問題。
  • 解離症群:解離性同一症(多重人格)、解離性健忘など、意識、記憶、同一性の障害。
  • 身体症状症・関連症群:身体的な症状があるにもかかわらず、医学的な説明が困難で、心理的な要因が強く影響していると考えられる疾患。

これらの疾患も、適切な診断と治療が必要となる場合があります。精神疾患の分類は複雑であり、一つの疾患が他の疾患と併発していることも少なくありません。また、時代や文化によって診断基準や概念が変化することもあります。最も重要なことは、ご自身の状態について、専門家である精神科医に相談し、適切な診断と助言を得ることです。

精神疾患の原因は?遺伝との関連性も

精神疾患の原因は、しばしば「脳の病気」と表現されますが、実際には特定の原因物質や単一のメカニズムで説明できるほど単純ではありません。多くの精神疾患は、生物学的要因、心理的要因、社会的要因が複雑に絡み合い、お互いに影響し合って発症すると考えられています。これを「生物-心理-社会モデル」と呼びます。

  1. 生物学的要因:
    • 脳機能の偏り: 脳内の神経伝達物質(セロトニン、ドーパミン、ノルアドレナリンなど)のバランスの乱れや、脳の特定の部位の機能異常・構造的な変化などが関与すると考えられています。例えば、うつ病ではセロトニンやノルアドレナリンの不足、統合失調症ではドーパミン系の過活動などが示唆されています。
    • 遺伝: 多くの精神疾患において、遺伝的な要因が関与することが研究によって示されています。例えば、統合失調症や双極性障害、うつ病、ADHD、ASDなどは、家族内に同じ疾患を持つ人がいると、そうでない場合に比べて発症リスクが高まることが分かっています。しかし、これは遺伝子が「疾患そのものを決定する」というよりは、「疾患にかかりやすい体質や傾向(脆弱性)」を遺伝させるという意味合いが強いです。特定の遺伝子のみで発症が決まるわけではなく、複数の遺伝子や他の要因が組み合わさることで影響が出ると考えられています。両親ともに精神疾患があっても、子どもが必ず発症するわけではありません。
    • 脳の発達の問題: 特に神経発達症群(ADHD, ASDなど)では、胎児期から乳幼児期にかけての脳の発達における特定の偏りが原因と考えられています。
    • 身体的な病気: 甲状腺機能異常、貧血、脳腫瘍、脳卒中など、身体の病気が原因で精神症状が現れることもあります。
  2. 心理的要因:
    • ストレス: 仕事、人間関係、経済的な問題、病気、死別など、様々な種類のストレスが精神疾患の発症や悪化に関与します。特に慢性的または強度のストレスは影響が大きいと考えられています。
    • 性格・気質: ストレスに対する脆弱性(ストレスに弱い傾向)、完璧主義、内向性、悲観的な思考パターンなども影響する可能性があります。
    • 過去の経験: 幼少期の虐待やネグレクト、トラウマ体験などが、後の精神疾患の発症リスクを高めることが知られています。
  3. 社会的要因:
    • 環境: 不安定な家庭環境、学校や職場での孤立、貧困、差別、災害なども精神的な負担となりえます。
    • 社会文化的な要因: 社会的な期待、文化的な価値観(例:痩せていることへのプレッシャーが摂食障害に影響)なども関与することがあります。
    • 人間関係: 家族、友人、同僚との関係性も心の健康に大きな影響を与えます。孤立はリスク要因となりえますが、良好なサポートシステムは心の健康を守る上で重要です。

これらの要因は単独で作用するのではなく、相互に影響し合います。例えば、「遺伝的にうつ病になりやすい体質(生物学的要因)」を持っていた人が、「仕事で強いストレス(社会的要因)」にさらされ、「落ち込みやすい性格(心理的要因)」である場合に、うつ病を発症するリスクが高まるといった具合です。

精神疾患の原因を理解することは、病気への偏見をなくし、適切な予防策や治療法を考える上で重要です。原因が多岐にわたるということは、治療も多角的なアプローチが必要であることを意味します。

精神疾患の診断と主な治療法

心の不調を感じたとき、それが一時的なものなのか、それとも専門的なケアが必要な精神疾患なのかを見極めることは重要です。しかし、自己判断は難しく、誤った対応につながることもあります。

自分でできる精神疾患のチェックはある?

インターネット上には、精神疾患のセルフチェックリストや診断テストが多数存在します。これらは、ご自身の状態を客観的に振り返るきっかけになる可能性はありますが、あくまでも簡易的なものであり、医学的な診断の代わりにはなりえません。 チェックリストで「可能性あり」と出たからといって、すぐに病気だと決めつけたり、過度に心配したりする必要はありません。

もし、セルフチェックを通じてご自身の心の状態に不安を感じたり、日常生活に支障が出ていると感じたりするようであれば、迷わず精神科や心療内科といった専門の医療機関を受診することをお勧めします。専門医による正確な診断こそが、適切なケアへの第一歩となります。

精神科での診断方法

精神科や心療内科を受診すると、医師は様々な方法を用いて診断を行います。主な診断方法は以下の通りです。

  • 問診: 最も重要な診断方法です。医師は患者さん本人から、現在の症状(いつから、どのような症状があるか)、症状による困りごと、既往歴(過去にかかった病気)、家族歴(家族に同じような病気の人がいるか)、生活習慣、生育歴、現在のストレス状況などを詳しく聞き取ります。症状だけでなく、患者さんの言葉遣い、表情、雰囲気、思考の進み具合なども観察します。必要に応じて、家族や近親者から情報収集することもあります(ただし、患者さんの同意が必要です)。
  • 精神医学的診察: 医師が患者さんの精神状態(気分、思考内容、知覚、行動、意識レベルなど)を観察し、評価します。
  • 心理検査: 質問紙法(自己記入式のアンケート)、投影法(あいまいな刺激に対する反応から心理を分析)、知能検査、人格検査など、様々な心理検査が行われることがあります。これらは診断の補助や、患者さんの性格特性、認知機能、病状の程度などを把握するために用いられます。
  • 身体診察・検査: 精神症状が身体的な病気によって引き起こされている可能性を除外するために、血液検査、尿検査、脳波検査、頭部CT/MRI検査などが行われることがあります。例えば、甲状腺機能異常がうつ病のような症状を引き起こすこともありますし、脳腫瘍が精神症状の原因となることもあります。
  • 診断基準に基づく評価: 医師は、問診や検査の結果を総合的に評価し、ICD-11やDSM-5といった国際的な診断基準を参照しながら、診断名をつけていきます。

診断は一度で確定しない場合もあります。症状の変化や経過を見ながら、慎重に行われるのが一般的です。

精神疾患の様々な治療法

精神疾患の治療法は、疾患の種類や重症度、患者さんの状態や希望によって異なります。複数の治療法を組み合わせて行うことも多く、主な治療法には以下のものがあります。

薬物療法

精神疾患の治療において、薬物療法は非常に重要な位置を占めます。精神疾患の原因の一つである脳内の神経伝達物質のバランスの乱れを調整することで、症状の改善を目指します。様々な種類の薬があり、疾患や症状に応じて使い分けられます。

  • 抗うつ薬: うつ病、不安症群、強迫症などに用いられます。セロトニンやノルアドレナリンといった神経伝達物質の働きを調整し、抑うつ気分や不安を和らげます。効果が出るまでに数週間かかることが多く、自己判断で中断すると再発のリスクが高まります。
  • 抗精神病薬: 統合失調症、双極性障害の躁状態、重度のうつ病などに用いられます。ドーパミンやセロトニンといった神経伝達物質の働きを調整し、幻覚や妄想といった陽性症状、思考の混乱などを改善します。
  • 抗不安薬: 不安や緊張を和らげます。即効性がありますが、長期的な使用は依存につながる可能性があるため、必要に応じて限定的に使用されることが多いです。
  • 気分安定薬: 双極性障害の躁状態とうつ状態の波を抑えるために用いられます。リチウム、バルプロ酸、ラモトリギンなどがあります。
  • 睡眠薬: 不眠症状に対して用いられます。入眠困難、中途覚醒、早朝覚醒など、不眠のタイプに応じて様々な種類の薬が使い分けられます。依存のリスクを考慮し、慎重に使用されます。

薬には効果だけでなく副作用もあります。医師は患者さんの状態を見ながら、最適な種類の薬を適切な量で処方します。気になる副作用があれば、自己判断せずに必ず医師に相談することが重要です。

精神療法(カウンセリングなど)

精神療法は、「心と心」「人と人」との関わりを通して、精神的な問題を解決したり、症状を軽減させたり、心の健康を高めたりすることを目指す治療法です。一般的に「カウンセリング」と呼ばれるものも精神療法の一種です。様々な技法があり、疾患や患者さんの特性に合わせて用いられます。

  • 認知行動療法(CBT: Cognitive Behavioral Therapy): 自分のものの見方(認知)や行動のパターンに働きかけ、つらい気分や問題を解決していくことを目指す療法です。例えば、「自分はダメだ」というネガティブな認知や、不安な状況を避ける行動パターンを変えることで、うつ病や不安症、強迫症などの症状を改善します。構造化されており、具体的な技法を学び、実践していく点が特徴です。
  • 対人関係療法(IPT: Interpersonal Psychotherapy): 対人関係の問題が気分障害の発症や維持に関与しているという考えに基づき、対人関係の課題(例:役割の変化、人間関係の葛藤、悲嘆)に焦点を当てて解決を図ることで、うつ病などの改善を目指す療法です。
  • 精神分析・力動的精神療法: 無意識にある心の葛藤や過去の経験(特に幼少期の親子関係など)に焦点を当て、それらが現在の問題にどのように影響しているかを理解することで、精神的な成長や症状の改善を目指す療法です。
  • 家族療法: 患者さん本人だけでなく、家族全体を対象として行う療法です。家族間のコミュニケーションや相互作用のパターンを改善することで、患者さんの回復を支援します。
  • 集団療法: 複数人の患者さんとセラピストで行う療法です。他の参加者との交流を通じて、共通の悩みを持つ仲間がいる安心感を得たり、様々な視点を学んだりすることができます。

精神療法は、薬物療法と組み合わせて行われることも多く、疾患に対するより包括的なアプローチを可能にします。効果が出るまでに時間がかかることもありますが、病気への理解を深め、対処スキルを身につけることで、再発予防にもつながります。

精神科リハビリテーション

精神科リハビリテーションは、精神疾患によって損なわれた社会生活や職業生活を送るための能力を回復・維持し、地域で自分らしい生活を送ることを目指す支援全般を指します。単に症状をなくすだけでなく、患者さんが社会の中で自立し、充実した生活を送れるようにサポートすることが目的です。

  • デイケア・ナイトケア: 精神科の医療機関や施設で、日中または夜間にプログラム(作業療法、レクリエーション、ミーティング、SSTなど)に参加し、生活リズムを整えたり、対人スキルや社会生活スキルを身につけたりします。
  • 作業療法: 患者さんの興味や能力に合わせて、様々な作業活動(手芸、陶芸、園芸、軽作業など)を行います。作業を通じて、集中力、持続力、達成感を得ること、社会性や協調性を養うことなどを目指します。
  • SST(Social Skills Training): 日常生活や対人関係で必要なスキル(例:あいさつ、頼み方、断り方、感情の表現方法)をロールプレイングなどを通じて練習し、習得することを目指す訓練です。
  • 認知機能リハビリテーション: 記憶力、注意、思考力といった認知機能の低下に対して、特定の課題やトレーニングを通じて改善を図る試みです。
  • 就労支援: 一般企業での就労を目指す患者さんに対して、職業リハビリテーションや就労移行支援事業所などと連携し、準備や定着のサポートを行います。

精神科リハビリテーションは、病気の回復段階や患者さんのニーズに応じて様々なプログラムが提供されます。これにより、患者さんは症状をコントロールしながら、地域社会の中で活動の場を見つけ、生きがいを持って生活できるようになります。

精神病院とは?

精神病院は、精神疾患の専門的な入院治療を行う医療機関です。精神疾患の治療は外来で行われることがほとんどですが、以下のような場合には入院が必要となることがあります。

  • 症状が重く、自宅での療養が困難な場合(例:ひどい幻覚・妄想が激しい、自殺の危険が高い、重度の抑うつ状態で身動きがとれない、重度の躁状態で衝動的な行動が止められないなど)
  • 集中的な治療が必要な場合(例:薬物調整、危機介入など)
  • 休息や環境調整が必要な場合
  • 精神科リハビリテーションを集中的に行う必要がある場合

精神病院には、原則として患者さん本人の同意に基づく「任意入院」と、患者さん本人の同意がなくても、精神保健指定医の診察に基づいて都道府県知事等が行う入院形態(医療保護入院、応急入院、措置入院など)があります。

精神病院はかつて閉鎖的なイメージを持たれることもありましたが、近年は地域の生活支援機関と連携を深め、入院期間の短縮や退院後の地域生活への移行を支援する役割が強まっています。病棟の種類も、自由度が高い開放病棟や、より手厚いケアが必要な閉鎖病棟などがあります。入院治療は、症状の急性期を乗り切り、回復への足がかりを得るための重要な選択肢の一つです。

日本で一番多い精神疾患は?統計情報

日本における精神疾患の患者数は増加傾向にあり、国民の誰にとっても無関係ではない身近な病気になってきています。厚生労働省が実施している患者調査(2020年)によると、精神疾患の患者数(継続的な治療を要する外来・入院患者数)は、419.3万人となっています。これは、調査対象となった全疾病の中で最も多い数です。

具体的に、どのような精神疾患の患者数が多いのでしょうか。患者調査のデータを見ると、以下の疾患の患者数が多いことが分かります。

疾患分類 患者数(千人)
神経症性障害、ストレス関連障害および身体表現性障害 1754
気分障害 1131
統合失調症、統合失調症型障害および妄想性障害 706
認知症 602
物質使用による精神および行動の障害 164

※2020年患者調査より、主な精神疾患を抜粋、概数。

この統計を見ると、「神経症性障害、ストレス関連障害および身体表現性障害」が最も患者数が多く、次いで「気分障害」が多いことが分かります。

  • 神経症性障害、ストレス関連障害および身体表現性障害: この分類には、不安症群(パニック症、社交不安症、全般性不安症、広場恐怖症など)や、適応障害、強迫症などが含まれます。日常的なストレスと関連して発症しやすい疾患が多く、比較的多くの人が経験しやすい不調が含まれているため、患者数が多くなっています。
  • 気分障害: うつ病や双極性障害が含まれます。これらの疾患もまた、現代社会のストレスと関連して患者数が増加しています。
  • 統合失調症: 以前は精神疾患の代表的な疾患として知られていましたが、患者数としては気分障害や不安症群を下回ります。
  • 認知症: 高齢化に伴い、患者数が急速に増加しています。

これらの統計情報は、あくまで医療機関を受診して診断を受けている患者さんの数です。実際には、心の不調を感じていても医療機関を受診していない人や、診断に至っていない人も多数いると考えられます。そのため、潜在的な患者数はさらに多いと推測されます。

日本で精神疾患の患者数が増加している背景には、社会構造の変化、ストレスの増加、精神疾患に対する認知度の向上、医療へのアクセスの改善など、様々な要因が考えられます。この統計は、精神疾患が特別な人だけがかかる病気ではなく、誰もがなりうる身近な病気であることを示しています。

精神疾患の重症度|精神障害者手帳について

精神疾患の重症度は、疾患の種類や症状の程度、そしてそれによって日常生活や社会生活にどの程度の支障が生じているかによって評価されます。単に症状があるかないかだけでなく、「症状によって、その人がどれくらい普段通りの生活を送ることができるか」という視点が重要になります。

精神疾患の重症度を判断する一つの目安として、行政のサービスを利用する際に用いられる基準があります。特に、精神障害者保健福祉手帳の取得において、精神疾患による障害の程度が等級分けされます。

精神障害者手帳1級・2級について

精神障害者保健福祉手帳は、精神疾患のために長期にわたり日常生活または社会生活への制約がある方に交付される手帳です。この手帳を持つことで、様々な福祉サービスや支援制度を利用できるようになります。手帳の等級は、精神疾患による障害の程度に応じて、1級、2級、3級に区分されます。

  • 1級: 精神疾患により、日常生活への制限がきわめて著しい状態にある方。
    • 例:ひどい幻覚・妄想が続き、指示や命令に従えず、他者とのコミュニケーションがほとんど取れない。重度の抑うつ状態で、食事や着替えなどの身の回りのことがほとんど一人ではできない。常に周囲の注意が必要で、外出が不可能。
  • 2級: 精神疾患により、日常生活への制限が著しい状態にある方。
    • 例:症状のために、一人で買い物や公共交通機関の利用などが難しい。対人関係が極めて苦手で、社会的な活動に参加できない。就労することが難しく、常時援助が必要。感情や意欲の障害のために、規則正しい生活を送ることが難しい。
  • 3級: 精神疾患により、日常生活または社会生活に制限がある方。
    • 例:症状のために、一定の作業を続けることや、対人関係の中で緊張感が強い状況に置かれることが難しい。病状によっては援助が必要となることがある。

等級の判定は、精神疾患の状態(病状)、能力障害の状態(日常生活や社会生活を送る上での具体的な困難さ)、精神科医の意見書などを総合的に審査して行われます。手帳の有効期間は2年間で、継続して手帳の交付を受けるためには更新手続きが必要です。

手帳の等級は、精神疾患による障害の程度を示すものであり、病気そのものの重症度や予後と必ずしも一致するわけではありません。例えば、うつ病でも重症であれば1級になることもありますし、統合失調症でも症状がコントロールされていれば3級や手帳取得の対象とならない場合もあります。

精神障害者手帳を取得することで、医療費助成、税金の控除や減免、公共料金の割引、就労支援サービスの利用など、様々なメリットがあります。ご自身の状態が手帳の対象となるか知りたい場合や、申請方法について知りたい場合は、お住まいの市区町村の精神保健福祉担当窓口や、精神保健福祉センターに相談してみることをお勧めします。

精神疾患の重症度は、症状だけでなく、その方がどのような生活を送りたいか、どのような社会的な役割を果たしたいかといった視点も考慮して、包括的に理解することが重要です。

精神疾患に関するQ&A

精神疾患について、多くの方が疑問に思うであろうことについて、Q&A形式でお答えします。

世界一うつ病が多い国は?

「世界一うつ病が多い国」を正確に特定するのは、実は非常に難しい問題です。なぜなら、国によって文化、医療制度、精神疾患に対する認識、そして調査方法や診断基準が異なるため、単純な国際比較が困難だからです。

世界保健機関(WHO)は、うつ病が世界中で最も一般的な精神疾患の一つであり、障害の原因としても主要な位置を占めていると報告しています。特定の調査によっては、紛争地域や貧困率の高い国などで有病率が高いといったデータが示されることもありますが、これは特別な状況を反映している場合もあります。

日本においても、患者調査の統計からも分かるように、うつ病を含む気分障害の患者数は多く、決して少ない状況ではありません。先進国全体でストレスが増加していることなどから、うつ病は世界的な課題となっています。

重要なのは、特定の国が「世界一」であることよりも、うつ病がどの国においても多くの人々が経験しうる身近な疾患であり、適切なケアが必要であるという認識を持つことです。

精神疾患の治し方は?

精神疾患の「治し方」は、疾患の種類、重症度、個人の状態によって異なります。全ての精神疾患が風邪のように短期間で「完全に治る」とは限りませんが、多くの精神疾患は適切な治療を受けることで、症状をコントロールし、病気と付き合いながら質の高い生活を送ることが十分に可能です。

主な治療法としては、先述したように薬物療法精神療法(カウンセリングなど)、そして精神科リハビリテーションがあります。

  • 薬物療法: 脳機能の偏りを調整し、つらい症状を和らげます。
  • 精神療法: 病気への理解を深め、ストレスへの対処スキルを身につけ、思考や行動パターンを修正し、対人関係を改善するなど、心理的な側面から回復をサポートします。
  • 精神科リハビリテーション: 日常生活や社会生活を送る上での能力を回復・維持し、社会参加を促進します。

これらの治療法は、単独で行われることもあれば、組み合わせて行われることもあります。また、規則正しい生活、十分な睡眠、バランスの取れた食事、適度な運動、ストレス管理など、セルフケアも非常に重要です。

「治癒」の定義は難しいですが、症状が消失または大幅に軽減し、社会生活や職業生活を支障なく送れるようになれば、「寛解」と呼ばれる状態です。寛解に至った後も、再発予防のために服薬を続けたり、精神療法を継続したりすることが推奨される場合があります。

最も大切なのは、一人で抱え込まず、精神科医や他の専門家と協力して、ご自身に合った治療計画を立て、根気強く取り組むことです。回復には時間がかかることもありますが、適切なケアを受けることで、希望を持つことができます。

精神障害者ってどんな人?

「精神障害者」という言葉を聞くと、特別なイメージを持つ人がいるかもしれません。しかし、精神障害者とは、精神疾患によって日常生活や社会生活に何らかの困難を抱えている人々です。

精神疾患の種類や重症度は多様であり、それによって抱える困難さも人それぞれです。

  • 見た目では分からない: 多くの精神障害は、外見からは分かりにくいものです。これは、周りの理解を得る上で難しさとなることもあります。
  • 能力や得意なことは様々: 精神障害があるからといって、全ての能力が失われているわけではありません。得意なことやできることもたくさんあります。
  • 回復の過程は人それぞれ: 症状が完全に消失する人もいれば、症状と付き合いながら生活する人もいます。適切な支援があれば、社会の中で自分らしい役割を見つけ、活躍することも可能です。
  • 病気であると同時に一人の人間: 精神障害者である以前に、一人の人間であり、個性や価値観、人生を持っています。

精神障害について正しい知識を持ち、偏見をなくすことが重要です。偏見や差別は、精神障害者が回復し、社会参加する上で大きな障壁となります。精神障害を持つ人々が安心して暮らせる社会を作るためには、病気に対する理解を深め、困難を抱えている人がいれば、温かい目で見守り、必要なサポートをすること大切です。

精神疾患かもしれないと思ったら|相談先

ご自身やご家族、身近な人が精神疾患かもしれないと感じたとき、一人で悩まず、誰かに相談することが非常に重要です。早期に適切な相談機関につながることで、早期発見・早期治療につながり、回復への道のりがスムーズになる可能性が高まります。

以下に、精神疾患かもしれないと思ったときに相談できる主な窓口や専門機関をご紹介します。

  • 精神科・心療内科:
    • 心の不調を感じた際に、最も専門的な診断や治療を受けることができる医療機関です。精神科医や心療内科医は、精神疾患の診断や薬物療法、精神療法などを行います。まずは最寄りの精神科や心療内科を受診することを検討しましょう。予約が必要な場合が多いので、事前に電話などで確認してください。
  • かかりつけ医:
    • 普段から通っている内科などの医師に相談してみるのも良いでしょう。精神的な不調が身体的な病気と関連している可能性がないか診てもらうこともできますし、適切な精神科や心療内科を紹介してもらうことも可能です。
  • 精神保健福祉センター:
    • 各都道府県や指定都市に設置されている、心の健康に関する専門的な相談機関です。精神科医、精神保健福祉士、臨床心理士などの専門家が、精神疾患に関する相談、社会復帰のための相談、家族からの相談などに応じます。電話相談や面接相談を行っており、匿名で相談できる場合もあります。医療機関を受診する前に、まずは相談したいという場合にも利用できます。
  • 保健所:
    • 地域の身近な健康相談窓口です。精神保健に関する相談にも応じており、必要に応じて専門機関を紹介してもらえます。
  • 地域の相談支援事業所:
    • 精神障害を持つ方の地域での生活をサポートするための事業所です。日常生活の困りごとや、利用できるサービスに関する相談に応じます。
  • いのちの電話:
    • 自殺予防などを目的とした、電話による心の健康相談窓口です。つらい気持ちを誰かに聞いてもらいたいときに利用できます。
  • よりそいホットライン:
    • 様々な困難を抱える方に寄り添い、行政、NPOなど適切な支援機関につなぐための相談窓口です。精神的な悩みに関する相談も受け付けています。
  • 家族会・自助グループ:
    • 同じ精神疾患を経験した本人同士や、その家族同士が集まり、経験や情報を共有し、支え合う場です。当事者や家族ならではの悩みを分かち合うことができます。

相談する際には、症状がいつから始まったか、どのような症状があるか、それによってどのようなことに困っているかなどを具体的に伝えられると、より適切なアドバイスや支援につながりやすくなります。また、緊急性の高い状況(例えば、自殺の危険が高い、他者を傷つける恐れがあるなど)の場合は、救急外来や精神科救急情報センターに連絡することも検討してください。

心の不調は、早期に発見し、適切なケアを受けることで、回復の可能性が高まります。一人で抱え込まず、勇気を出して相談の一歩を踏み出しましょう。

【まとめ】精神疾患一覧から見えること

この記事では、精神疾患の主な種類を一覧としてご紹介し、それぞれの特徴や症状、原因、診断・治療法、日本の統計情報、そして精神障害者手帳や相談先について解説しました。

精神疾患は、単一の原因で起こるものではなく、生物学的、心理的、社会的な様々な要因が複雑に絡み合って発症する病気です。うつ病や不安症群、統合失調症、依存症、神経発達症など、多岐にわたる疾患があり、それぞれ異なる特徴を持っています。

日本においても精神疾患の患者数は増加しており、誰もが心の不調を経験する可能性があります。心の病気は特別な病気ではなく、身体の病気と同じように、適切な診断と治療が必要です。

重要なポイントとして:

  • 心の不調を感じたら、自己判断せず、早めに専門家(精神科医、心療内科医など)に相談することが大切です。
  • 精神疾患の診断は、専門医による問診や検査に基づいて総合的に行われます。インターネット上のセルフチェックはあくまで参考程度に留めましょう。
  • 治療法には、薬物療法、精神療法、精神科リハビリテーションなどがあり、疾患や状態に合わせて組み合わせて行われます。
  • 多くの精神疾患は、適切な治療を受けることで症状をコントロールし、社会生活を送ることが可能です。
  • 精神障害者保健福祉手帳などの制度は、精神疾患による困難を抱える方の社会参加や自立を支援するためのものです。
  • 身近な相談先として、精神保健福祉センター、保健所、地域の相談支援事業所などがあります。

精神疾患に対する理解を深め、病気を持つ人々への偏見をなくすことは、誰もが安心して暮らせる社会を作る上で不可欠です。もしあなたが心の不調を抱えているなら、一人で悩まず、この記事をきっかけに相談の一歩を踏み出してみてください。周りに心の不調を抱えている人がいるなら、温かく見守り、必要であれば相談先を一緒に探すなど、サポートを検討してください。

心の健康は、身体の健康と同様に大切なものです。この記事が、精神疾患への理解を深め、適切な情報や支援につながるための一助となれば幸いです。

免責事項: この記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、医療行為や診断を代替するものではありません。ご自身の状態については、必ず精神科医や心療内科医にご相談ください。

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