双極性障害は、気分が高まる「躁状態」と気分が落ち込む「うつ状態」を繰り返す精神疾患です。「躁うつ病」とも呼ばれ、単なる気分の波とは異なり、日常生活や社会生活に大きな影響を及ぼすことがあります。この病気は、その症状の現れ方が多様であり、本人だけでなく周囲の人も症状に気づきにくい場合があります。早期に適切な診断と治療を受けることが、症状を安定させ、病気と向き合っていく上で非常に重要になります。この記事では、双極性障害の具体的な症状やタイプ、診断方法について詳しく解説し、病気の理解を深める一助となることを目指します。ご自身や大切な人の変化に気づいた際の、専門機関への相談のきっかけとなれば幸いです。
双極性障害は、脳の機能障害によって引き起こされると考えられている気分障害の一種です。特徴的なのは、抑うつ状態だけが続く「うつ病」とは異なり、気分の波が大きく変動する点です。具体的には、活動的で気分が高揚する「躁状態」、またはそれに近い「軽躁状態」と、意欲や活動性が著しく低下し、気分が落ち込む「うつ状態」を繰り返します。
この気分の波は、外界の出来事とは無関係に起こることが多く、その波の大きさや頻度、持続期間は人によって大きく異なります。気分の波があることから、「性格の問題」や「わがまま」と誤解されることもありますが、これは病気による症状であり、本人の努力だけではコントロールが難しいものです。適切な治療を受けることで、症状を安定させ、日常生活を送ることが可能になります。
双極性障害の主な症状:躁状態とうつ状態
双極性障害の診断には、躁状態(または軽躁状態)とうつ状態の両方のエピソードを経験していることが鍵となります。それぞれの状態は、気分、思考、行動、身体症状など、様々な側面に影響を及ぼします。
躁状態の具体的な症状
躁状態は、気分が異常に高揚したり、開放的になったり、またはイライラしやすくなったりする期間が一定期間続く状態です。この期間、活動性が増し、自分はなんでもできるという万能感を持つこともあります。以下に、躁状態で見られる具体的な症状を挙げます。
気分の高揚・易刺激性
気分が高揚し、異常に上機嫌になることが特徴的です。些細なことでも面白く感じたり、根拠なく楽観的になったりします。幸福感や多幸感を感じ、自分は非常に優れていると感じることもあります。
一方、些細なことでイライラしやすくなる(易刺激性)こともあります。自分の思い通りにならない状況や、行動を制限されることに対して、激しい怒りや不満を表すことがあります。高揚感と易刺激性が混在することもあります。
活動性の増加
エネルギーに満ち溢れ、睡眠時間を削っても疲れを感じないなど、活動レベルが著しく上昇します。じっとしていることができず、次から次へと新しい活動を始めたり、複数のプロジェクトを同時に進めようとしたりします。物理的な動きも多くなり、落ち着きがなくなることもあります。
観念奔逸(思考の加速)
考えが次々と浮かび、頭の中で思考が高速に回転している感覚になります。一つの考えから別の考えへと、まるで飛ぶように思考が移り変わるため、話の筋道が追えなくなったり、話が脱線しやすくなったりします。アイデアが泉のように湧き出ると感じる人もいますが、まとまりがなく、現実的でない内容であることも少なくありません。
話し方の特徴(多弁・早口)
思考の加速に伴い、話すスピードが異常に速くなり、言葉数が非常に多くなります(多弁・早口)。相手の話を遮って一方的に話し続けたり、話題が目まぐるしく変わったりします。声が大きくなることもあり、会話のキャッチボールが難しくなります。
睡眠欲求の減少
眠らなくても十分に休めたと感じたり、睡眠時間が極端に短くなったりします。通常は数時間の睡眠で活動できるようになりますが、これは健康的な休息ができているわけではありません。睡眠時間の減少にもかかわらず、本人は疲れを感じていないため、病気であるという認識が持ちにくい症状の一つです。
自己評価の肥大
自分には特別な能力がある、偉大な人物である、という根拠のない自信(誇大妄想に近い考え)を持つことがあります。自己評価が現実離れして肥大し、自分は失敗しないと考えたり、不可能な計画を立てたりします。他者よりも優れていると信じ込み、傲慢な態度をとることもあります。
無謀な行動・判断力低下
衝動的な行動が増え、結果を十分に考えずに危険な行動をとることがあります。多額の借金をする、ギャンブルにのめり込む、性的に奔放になる、常識外れの買い物をする、など、社会的信用や経済状況を破綻させるような行動に出やすいです。判断力が著しく低下するため、これらの行動を自分で制御することが非常に難しくなります。
うつ状態の具体的な症状
うつ状態は、気分が著しく落ち込み、興味や喜びを感じられなくなる期間が一定期間続く状態です。エネルギーが枯渇したように感じ、日常生活を送ることが困難になります。以下に、うつ状態で見られる具体的な症状を挙げます。
気分の落ち込み・興味の喪失
気分がひどく沈み込み、憂うつな状態が一日中、ほぼ毎日続きます。何をしても楽しくなく、今まで興味があったことや趣味に対しても全く関心を持てなくなります(興味・喜びの喪失)。感情が麻痺したように感じ、何も感じられないと訴える人もいます。
意欲・活動性の低下
何かをしようという気力が全く湧かず、ベッドから起き上がれない、着替えられない、食事を準備できないなど、日常生活を送る上で最低限必要な活動すら困難になります。仕事や学業、家事はもちろんのこと、人と会うことや外出することも億劫になり、閉じこもりがちになります。
疲労感・倦怠感
体が鉛のように重く感じ、強い疲労感や倦怠感が常にあります。十分な睡眠をとっても疲れが取れず、些細な活動でもすぐにへとへとになってしまいます。この疲労感は、休息によって改善されないのが特徴です。
睡眠障害(不眠・過眠)
睡眠に関する問題が多く見られます。最も一般的なのは不眠で、寝つきが悪い、夜中に何度も目が覚める、早朝に目が覚めてそれ以上眠れない(早朝覚醒)などがあります。特に早朝覚醒はうつ病の特徴的な症状とされています。一方、眠りすぎてしまう(過眠)症状が現れる人もいます。これは、特に若い人に多く見られる傾向があります。
食欲・体重の変化
食欲がなくなって食事量が減り、体重が減少することがあります。反対に、食欲が増して過食になり、体重が増加する人もいます。食事の準備や摂食自体が億劫になり、栄養状態が悪化することもあります。
集中力・思考力の低下
物事に集中するのが難しくなり、本や新聞が読めない、テレビの内容が頭に入ってこないといった症状が出ます。考えがまとまらず、決断力が著しく低下するため、簡単なことでも自分で決められなくなります。物忘れが増えたと感じる人もいます。
自分を責める気持ち・無価値感
自分自身を強く責めたり、自分には価値がないと感じたりします。過去の失敗や些細な出来事を後悔し続け、自分はダメな人間だと感じます。強い罪悪感に苛まれたり、将来に対して絶望的な見通しを持ったりします。死について考えたり、自殺を企てたりすることもあり、注意が必要な症状です。
混合状態の症状
双極性障害では、躁状態とうつ状態の症状が同時に現れたり、ごく短い期間で交互に現れたりする混合状態が見られることがあります。例えば、気分はひどく落ち込んでいるのに、思考は加速し、活動的で衝動的な行動をとってしまう、といった状態です。
混合状態は、診断が難しく、患者さん自身も「気分が不安定でよく分からない」と感じることが多いです。躁状態のエネルギーとうつ状態の苦しさが合わさるため、非常に苦痛が強く、自殺のリスクが高まることもあるため、迅速かつ適切な対応が必要になります。
双極性障害のタイプによる症状の違い
双極性障害は、症状の重さやパターンによっていくつかのタイプに分類されます。主に双極I型障害、双極II型障害、そして気分循環性障害が挙げられます。それぞれのタイプで、躁状態とうつ状態の現れ方に違いがあります。
タイプ | 躁状態の特徴 | うつ状態の特徴 | 診断の基準 |
---|---|---|---|
双極I型障害 | 完全な躁病エピソード(著しい機能障害)を経験 | 大うつ病エピソードを経験(必須ではないが典型的) | 少なくとも1回以上の躁病エピソード(または混合性エピソード)を経験していること |
双極II型障害 | 軽躁状態(完全な躁病ではないが、気分・活動の変化)を経験 | 大うつ病エピソードを経験(必須) | 少なくとも1回以上の軽躁状態と1回以上の大うつ病エピソードを経験していること |
気分循環性障害 | 軽躁状態の症状(基準を満たさない軽いもの)を経験 | うつ状態の症状(基準を満たさない軽いもの)を経験 | 少なくとも2年以上(子ども・青年は1年以上)、基準を満たさない軽躁症状とうつ症状の期間が続いていること。その期間の半分以上で気分の波があり、症状がない期間が2ヶ月を超えないこと |
双極I型障害は、本格的な躁病エピソードを経験するのが特徴です。躁病エピソード中は、社会的・職業的な機能が著しく障害されたり、入院が必要になったりするほどの重症になることがあります。うつ状態も経験することが多いですが、診断には躁病エピソードの存在が必須となります。
双極II型障害は、完全な躁病エピソードではなく、軽躁状態を経験するのが特徴です。軽躁状態は、気分や活動性の高まりが見られるものの、躁病ほど重篤ではなく、多くの場合、社会的・職業的な機能は保たれます。しかし、双極II型障害の人は、大うつ病エピソードを必ず経験しており、多くの場合、うつ状態の期間が長く、日常生活への影響はこちらが大きい傾向があります。周囲からはうつ病としてしか認識されず、診断が遅れることも少なくありません。
気分循環性障害は、双極性障害よりも軽度ですが、基準を満たさない軽躁状態とうつ状態の症状が長期間(成人で2年以上)続く慢性の気分変動疾患です。気分の波はあるものの、個々のエピソードが双極I型やII型の診断基準を満たすほど重くない場合に診断されます。しかし、気分循環性障害を持つ人は、後に双極I型やII型に移行するリスクが高いとされています。
双極性障害の経過と症状の波
双極性障害の症状は、多くの場合、周期的な波を伴って現れます。躁状態やうつ状態のエピソードは、数週間から数ヶ月続き、その後、比較的症状のない間隔期(寛解期)を挟んで繰り返されるのが典型的な経過です。
症状の波・サイクル
双極性障害の経過における「波」とは、気分の変動がエピソードとして現れることを指します。エピソードの長さや間隔は個人によって大きく異なります。ある人は年に数回のエピソードを経験し、また別の人は数年に一度のエピソードを経験するといった具合です。多くの場合、最初はうつ病として診断され、その後に躁状態や軽躁状態が現れて双極性障害と診断されるケースが見られます。また、年齢とともに症状のパターンが変化することもあります。
ラピッドサイクラーとは
双極性障害の中でも、特に症状の波が速いタイプをラピッドサイクラーと呼びます。これは、1年の間に躁病、軽躁病、うつ病、または混合状態のエピソードを4回以上繰り返す病態です。ラピッドサイクラーは、一般的な双極性障害に比べて治療が難しく、症状が不安定になりやすい傾向があります。女性に多く見られ、甲状腺機能の異常が関連している場合もあります。
重症化による症状の変化(末期症状に関する注意)
「末期症状」という言葉は適切ではないかもしれませんが、双極性障害を治療せずに長期間放置した場合、病状が悪化し、以下のような困難が生じることがあります。
- エピソードの頻度や重症度の増加: 治療を受けないと、気分の波がより頻繁に、より激しくなることがあります。
- 精神病症状の出現: 重症の躁状態やうつ状態では、幻覚や妄想といった精神病症状(現実検討能力の障害)を伴うことがあります。例えば、躁状態では自分が特別な力を持つという誇大的な妄想、うつ状態では自分は罪を犯したという罪業妄想などが見られます。
- 社会生活の破綻: 衝動的な行動や判断力の低下により、経済的な問題、人間関係の悪化、失業などを招き、社会生活が困難になるリスクが高まります。
- 併存疾患: 不安障害、物質使用障害(アルコールや薬物依存)、パーソナリティ障害などの他の精神疾患や、心血管疾患などの身体疾患を合併する可能性が高まります。
- 認知機能の低下: 繰り返される気分の波により、注意、集中、記憶、計画性などの認知機能に影響が出ることがあります。
- 自殺リスク: 特にうつ状態や混合状態では、強い苦痛や絶望感から自殺のリスクが高まります。双極性障害は、うつ病よりも自殺率が高いというデータもあります。
このように、双極性障害は治療を受けずに放置すると、深刻な結果を招く可能性があります。しかし、早期に適切な診断を受け、薬物療法や精神療法などの治療を継続することで、症状を安定させ、病気の進行や重症化を防ぐことが可能です。「末期」という不可逆的な状態ではなく、回復を目指せる病気であることを理解することが大切です。
双極性障害の原因と症状の関連性
双極性障害の原因は完全に解明されていませんが、遺伝的要因、脳機能の異常、環境要因など、複数の要因が複雑に絡み合って発症すると考えられています。
- 遺伝的要因: 双極性障害は、家族に同じ病気の方がいる場合に発症リスクが高まることが知られています。特定の遺伝子が病気と関連している可能性が研究されていますが、特定の遺伝子だけで発症が決まるわけではありません。
- 脳機能の異常: 脳内の神経伝達物質(ドーパミン、セロトニン、ノルアドレナリンなど)のバランスの崩れや、脳の特定の部位(扁桃体、前頭前野など)の機能や構造の異常が、気分の調節に影響を及ぼしていると考えられています。これらの脳機能の変化が、躁状態やうつ状態といった症状として現れると考えられます。
- 環境要因: ストレスの多い出来事(人間関係のトラブル、喪失体験、大きなライフイベントなど)が、病気の発症や再発のきっかけとなることがあります。しかし、すべてのストレスが病気を引き起こすわけではなく、生物学的な脆弱性を持つ人がストレスにさらされた場合に発症しやすいと考えられています(ストレス脆弱性モデル)。
これらの要因が単独で作用するのではなく、相互に影響し合いながら、双極性障害の多様な症状が現れると考えられています。例えば、脳内の神経伝達物質の過活動が躁状態に、活動の低下がうつ状態に関連しているといった研究結果があります。
双極性障害の症状チェックリスト(セルフチェック)
以下のリストは、双極性障害でよく見られる症状をまとめたものです。ご自身の気分や行動の変化を振り返る際の参考にしてください。ただし、これはあくまで目安であり、自己診断はできません。これらの症状に心当たりがあり、日常生活に支障が出ている場合は、必ず専門機関を受診してください。
過去の一定期間(例えば、普段の自分とは明らかに違う期間)について、以下の項目で「はい」と思うものにチェックを入れてみましょう。
【気分や活動が高まっていると感じた期間(躁状態・軽躁状態)】
- 普段より気分が異常に高揚したり、興奮したり、イライラしたりしていましたか?
- 普段より自信満々で、なんでもできるという気分でしたか?
- 普段より眠らなくても大丈夫だと感じていましたか?
- 普段よりおしゃべりになり、話すスピードが速かったですか?
- 考えが次々と浮かび、頭の中がせわしなかったですか?
- 注意散漫になりやすく、一つのことに集中するのが難しかったですか?
- 普段より活動的になり、いろいろなことを始めようとしていましたか?
- 衝動的になり、後先考えずに危険なこと(買い物、ギャンブル、無謀な運転、性的行動など)をしていましたか?
- これらの変化は、周囲の人から見ても明らかでしたか?
【気分や活動が落ち込んでいると感じた期間(うつ状態)】
- 気分がひどく落ち込み、ゆううつな状態がほぼ一日中続いていましたか?
- 今まで楽しかったことや趣味にも全く興味や喜びを感じなくなりましたか?
- 意欲がなくなり、何もする気が起きませんでしたか?
- 体がだるく、疲れやすくなりましたか?
- 眠れなくなったり(寝つきが悪い、途中で目が覚める、早く目が覚める)、逆に眠りすぎたりしましたか?
- 食欲がなくなって体重が減ったり、逆に食欲が増して体重が増えたりしましたか?
- 集中力が続かず、物事を決めたり考えたりするのが難しくなりましたか?
- 自分を責めたり、自分には価値がないと感じたりしましたか?
- 死について考えたり、死にたいと思ったりしましたか?
【混合状態の可能性】
- 落ち込んでいるのに、同時に落ち着きがなく、考えがまとまらないと感じた期間はありましたか?
【全体を通して】
- これらの気分の波によって、仕事、学業、家庭、人間関係などに問題が生じましたか?
- これらの気分の波は、薬物やアルコールの影響、あるいは他の病気によって引き起こされたものではないと考えられますか?
いくつかの項目に「はい」がつく場合、双極性障害の可能性が考えられます。しかし、繰り返しますが、これは診断ではありません。専門医の診察を受けて、正確な診断を受けることが重要です。
双極性障害の診断方法
双極性障害の診断は、専門的な知識と経験を持つ精神科医や心療内科医が行います。単一の検査で診断できるものではなく、主に患者さんからの症状の聞き取り(問診)と、必要に応じて診断基準を用いて総合的に判断されます。
医師による問診と診断基準(DSM-5など)
医師は、患者さんのこれまでの病歴、現在の症状について詳しく聞き取ります。特に、気分や活動性の高まり(躁状態・軽躁状態)のエピソードがあったかどうかが重要です。その際、症状の種類、重さ、持続期間、頻度、社会生活への影響などが詳細に確認されます。
診断の際には、国際的な診断基準が用いられることが一般的です。代表的なものとしては、アメリカ精神医学会が発行する『精神疾患の診断・統計マニュアル 第5版』(DSM-5)や、世界保健機関(WHO)が定める『国際疾病分類 第10版』(ICD-10)(まもなくICD-11に移行)があります。これらの診断基準には、躁病エピソード、軽躁病エピソード、大うつ病エピソードの定義や診断に必要な症状の数、期間などが具体的に記載されています。医師は、患者さんの症状がこれらの基準に合致するかどうかを慎重に評価します。
また、甲状腺機能亢進症など、双極性障害に似た症状を引き起こす可能性のある他の病気を除外するために、身体的な検査(血液検査など)が行われることもあります。
症状の聞き取りの重要性
双極性障害の診断において、患者さん本人からの症状の聞き取りは最も重要な情報源です。しかし、特に躁状態の時には、病気であるという認識が乏しいため、症状を軽視したり、正確に伝えられなかったりすることがあります。
そのため、可能であればご家族や親しい友人など、患者さんの普段の様子をよく知っている人にも同席してもらい、情報を提供してもらうことが非常に役立ちます。周囲の人から見た「普段と違う行動」や「気分の異常な高まり」に関する具体的なエピソードは、診断の精度を高める上で invaluable(非常に貴重)な情報となります。
診断は一度で確定しない場合もあります。時間をかけて経過を観察したり、様々な角度から情報を集めたりしながら、慎重に診断を進めていきます。
双極性障害かなと思ったら:専門機関への相談
もし、ご自身やご家族に双極性障害の症状に心当たりがあり、「もしかしたら?」と感じた場合は、ためらわずに専門機関に相談することをおすすめします。
相談先としては、主に精神科や心療内科の医療機関が挙げられます。精神科は精神疾患全般を専門としており、心療内科は主に心と体の関連する疾患を扱いますが、どちらでも双極性障害の診断と治療を受けることができます。
相談の際には、以下のような機関も利用できます。
- 精神保健福祉センター: 各都道府県・政令指定都市に設置されており、精神的な問題に関する相談に応じています。専門のスタッフ(精神保健福祉士、作業療法士、医師など)が、電話や面接での相談、適切な医療機関の紹介などを行っています。
- 保健所: 地域住民の健康に関する様々な相談に応じており、精神的な健康に関する相談窓口を設けているところもあります。
- 地域の相談支援事業所: 障害者総合支援法に基づき、精神疾患を持つ方の相談に応じ、必要な支援の情報提供などを行っています。
早期に専門家の診断を受けることのメリットは多岐にわたります。
- 正確な診断: 専門医によって症状を適切に評価してもらい、双極性障害であるかどうかの診断を受けることができます。これにより、不適切な自己判断による不安や誤った対応を防ぐことができます。
- 適切な治療の開始: 双極性障害と診断された場合、病状や個々の状況に合わせた最適な治療計画(薬物療法、精神療法など)を立ててもらい、症状の安定を目指すことができます。
- 病気への理解: 医師や専門家から病気について正しい知識を得ることで、病気に対する不安を軽減し、主体的に病気と向き合う準備ができます。
- 症状の悪化予防: 早期に治療を開始することで、症状が重症化したり、頻繁に繰り返したりするのを防ぐことが期待できます。
- QOL(生活の質)の向上: 症状が安定することで、仕事、学業、人間関係などを良好に保ち、より質の高い生活を送ることが可能になります。
「これくらいの症状で相談していいのかな」「気のせいかもしれない」とためらってしまう気持ちもあるかもしれませんが、少しでも気になる変化があるなら、専門家のアドバイスを求めてみることが大切です。勇気を出して一歩踏み出すことが、回復への第一歩となります。
まとめ:双極性障害の症状を理解し適切な対応を
双極性障害は、躁状態(または軽躁状態)とうつ状態という対照的な気分の波を繰り返す疾患であり、単なる一時的な気分の変動とは異なります。躁状態では気分の高揚、活動性の増加、衝動的な行動などが見られ、うつ状態では気分の落ち込み、意欲の低下、疲労感などが現れます。これらの症状は、日常生活や社会生活に深刻な影響を与える可能性があります。また、躁状態とうつ状態が混じり合った混合状態が見られることもあります。
双極性障害には、症状の重さによって双極I型、双極II型、気分循環性障害などのタイプがあり、それぞれ経過や治療法が異なります。症状の波は人によって様々であり、ラピッドサイクラーのように短期間にエピソードを繰り返す場合もあります。治療せずに放置すると、症状が重症化したり、他の精神疾患や身体疾患を合併したり、社会生活が困難になったりするリスクが高まります。
双極性障害の原因は複合的であり、遺伝、脳機能、環境などの要因が関連していると考えられています。診断は、主に医師による詳細な問診と、DSM-5などの診断基準に基づいて総合的に行われます。患者さん本人の情報に加え、家族などからの情報も診断に役立ちます。
もし、ご自身や周囲の方に双極性障害を疑わせる症状が見られる場合は、決して自己判断せず、速やかに精神科や心療内科などの専門機関に相談することが最も重要です。早期に診断を受け、適切な薬物療法や精神療法、心理社会的支援などを組み合わせた治療を開始することで、症状をコントロールし、病気と上手に付き合いながら安定した生活を送ることが十分に可能です。
双極性障害は根治療法が確立されている病気ではありませんが、適切な治療とセルフケアによって、症状を管理し、再発を防ぎ、健康的な生活を取り戻すことができます。病気について正しく理解し、早期に専門家の力を借りる勇気を持つことが、回復への道を開きます。
免責事項
この記事は、双極性障害の症状に関する一般的な情報提供を目的として作成されたものです。個々の症状や状況は人によって大きく異なり、この記事の情報だけで診断や治療を行うことはできません。ご自身の状態について不安がある場合や、双極性障害の可能性があると思われる場合は、必ず医師などの専門家にご相談ください。この記事の情報によって生じたいかなる不利益や損害についても、筆者および公開者は責任を負いかねます。