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偏食は発達障害のサイン?関係性や見極め方を徹底解説

お子様やご自身の偏食について、「もしかして、発達障害と関係があるのでは?」とご心配されている方は少なくありません。確かに、発達障害、特に自閉症スペクトラム障害(ASD)を持つ方の中には、食に関する強いこだわりや感覚過敏から偏食がみられるケースが多く存在します。しかし、偏食は発達障害だけでなく、様々な要因で起こりうる非常に一般的なものです。偏食があるからといって、必ずしも発達障害であるというわけではありません。この記事では、偏食と発達障害の関係性、発達障害以外の偏食の原因、そして「これは発達障害と関係があるのかも?」と見分けるためのポイント、そしてもし偏食がひどい場合の対応策について、専門家の視点を交えながら詳しく解説していきます。偏食に悩む方やそのご家族が、偏食の背景を理解し、適切なサポートを見つける一助となれば幸いです。

目次

発達障害と偏食の関係性

発達障害とは、生まれつき脳機能の発達に特性があることで、コミュニケーションや対人関係、物事の捉え方、行動などにユニークな特性が現れる様々な状態を指します。代表的なものに、自閉症スペクトラム障害(ASD)、注意欠如・多動性障害(ADHD)、学習障害(LD)、発達性協調運動症などがあります。これらの特性は、本人の努力不足や育て方の問題ではなく、脳の機能的な違いによるものです。

発達障害の特性は多様ですが、その中には感覚の過敏さや鈍感さ、特定の物事への強いこだわり、変化への抵抗といったものが含まれます。これらの特性が、食事や食行動に影響を与え、結果として偏食という形で現れることがあるのです。特に、ASDの特性を持つ方において、偏食は比較的頻繁に見られる行動特性の一つとして知られています。

なぜ発達障害では偏食が多いのか

発達障害のある人が偏食を示す理由は、主にその認知特性や感覚特性に深く根ざしています。

最も大きな要因の一つは、感覚過敏や感覚鈍麻です。私たちの体は、五感(視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚)を通して外部の情報を取り入れ、脳で処理しています。定型発達の人であれば、これらの感覚情報はバランス良く処理されますが、発達障害のある人、特にASDの人では、特定の感覚が非常に鋭敏であったり(過敏)、逆に非常に感じにくかったり(鈍麻)することがあります。

食事に関わる感覚としては、以下のものが挙げられます。

  • 味覚: 特定の味(苦味、酸味など)を強く感じすぎる、あるいは特定の味(甘味、塩味など)しか受け付けない。
  • 嗅覚: 食材や調理中の匂いを非常に強く感じ、苦手な匂いだと全く食べられない。
  • 触覚(食感): 食材の舌触り(ドロドロ、ザラザラ、ネバネバ、プチプチなど)、硬さ、温度(熱すぎる、冷たすぎる)に対して強い不快感や拒否反応を示す。特定の食感(例:柔らかいもの、カリカリしたもの)しか受け付けない。
  • 視覚: 食材の色(特に緑色)、形、盛り付け(色々なものが混ざっている)に対して強いこだわりや拒否を示す。
  • 聴覚: 食べる時の音(噛む音、すする音)が気になって食事ができない。

これらの感覚特性により、特定の食品に対して不快感や恐怖を感じやすくなります。例えば、ブロッコリーの独特な食感や匂いが耐えられないほど嫌だったり、複数の食材が混ざった料理(カレーやシチューなど)の見た目が苦手だったりすることがあります。

次に、変化への強い抵抗やこだわりも偏食の原因となります。発達障害のある人、特にASDの人の中には、予測可能な状況やルーティンを好む特性があります。食事に関しても、いつもと同じメニュー、いつもと同じ食器、いつもと同じ食べ方といった「お決まり」を強く求め、少しでも変化があると受け入れられないことがあります。新しい食べ物を試すことに対して強い不安や恐怖を感じ、「未知のもの」に対する抵抗感から食べることを拒否してしまうのです。

また、認知的な特性も影響することがあります。例えば、「これは体に良いから食べなさい」と言われても、その理由を抽象的に理解するのが難しかったり、具体的なメリットを感じられなかったりすると、食べる意欲につながりにくいことがあります。また、過去に特定の食品を食べて嫌な経験(例:お腹を壊した、無理やり食べさせられた)があると、その食品や似た食品に対して強い恐怖や不安を感じ、避けるようになることもあります。

これらの感覚特性、こだわり、認知特性が複雑に絡み合い、結果として食べられるものの種類が限られたり、極端な偏食につながったりするのです。偏食は、決してわがままや好き嫌いではなく、発達障害の特性に由来する困難さの表現であると理解することが重要です。

発達障害の種類と偏食の特徴

発達障害の種類によって、偏食の現れ方にはある程度の傾向が見られます。もちろん、個人差が非常に大きいため、あくまで参考として捉えるべきですが、それぞれの特性と偏食の結びつきを知ることは、対応を考える上で役立ちます。

自閉症スペクトラム障害(ASD)の偏食

ASDのある人の偏食は、前述の感覚過敏やこだわりが強く影響している場合が典型的です。その特徴としては、以下のような点が挙げられます。

  • 食べられるものが極めて少ない(選択的摂食障害に近いケースも): 特定の数種類の食品や、特定のメーカー・ブランドの特定の食品しか食べられないというケースがよく見られます。「白米しか食べない」「パンと麺類しか食べない」「特定のフライドポテトしか食べない」といった極端な例も存在します。
  • 強い食感や温度、匂いへの拒否: ドロドロしたものがダメ、ネバネバがダメ、熱いものがダメ、冷たいものがダメ、生臭い匂いがダメ、といった特定の感覚刺激に対する強い不快感が偏食に直結します。
  • 見た目へのこだわりや拒否: 食材の色(特に緑色や赤い色)、形、複数の食材が混ざっていること(ミートソース、カレー、混ぜご飯など)を強く嫌うことがあります。
  • 新しい食品への強い抵抗: 家族が食べていても、安全だとわかっていても、新しい食品を口にすること自体に強い恐怖や不安を感じ、試すことが非常に難しいです。一口でも食べさせるのに根気と時間が必要、あるいは全く受け入れられないこともあります。
  • ルーティン化: いつも同じ時間に、いつも同じ場所で、いつも同じ方法で食べるといった食事のルーティンを強く求めることがあります。

ASDの偏食は、単なる好き嫌いではなく、特定の感覚刺激を処理する脳の機能の違いや、変化への強い抵抗から生じていることが多いため、無理強いすると強いパニックや混乱を引き起こす可能性があります。

注意欠如・多動性障害(ADHD)の偏食

ADHDの主な特性は、不注意、多動性、衝動性です。ASDほど感覚過敏やこだわりが強く偏食に結びつくケースは少ないですが、ADHDの特性も食行動に影響を与えることがあります。

  • 衝動性による食行動: 目についたお菓子ばかり食べてしまう、好きなもの(甘いもの、塩辛いものなど)を見つけると衝動的に食べてしまい、栄養バランスが偏る。
  • 不注意による食事の偏り: 食事の準備や片付けがおっくうで、手軽に食べられるもの(パン、カップ麺など)に偏ってしまう。食事中に気が散ってしまい、最後まで食べられない。
  • 特定の味への強い好み: 報酬系の機能の違いから、脳の報酬を得やすい甘いものや刺激的な味付けのものを強く好む傾向があるという研究報告もあります。
  • 飽きやすさ: 新しい食品には飛びつくが、すぐに飽きてしまい、また別のものに興味が移る。

ADHDの場合、ASDのような特定の感覚刺激への強い拒否よりも、衝動性や不注意による栄養バランスの偏りや、食事時間の不規則さといった形で食に関する困難が生じやすい傾向があります。ただし、ADHDとASDの特性を併せ持つ場合(併存)もあり、その場合はより複雑な偏食が見られることもあります。

発達障害以外の偏食の原因

偏食は発達障害の特性として現れることが多い一方で、発達障害とは関連しない、あるいは診断基準を満たさない場合でも様々な原因で起こりえます。偏食を見たときに、すぐに「発達障害かも?」と決めつけるのではなく、広く他の可能性も考慮することが重要です。

感覚過敏や感覚鈍麻

前述したように、特定の感覚(味覚、嗅覚、触覚、視覚、聴覚)に対する過敏さや鈍感さは、発達障害の主要な特性の一つですが、発達障害の診断基準を満たさない人の中にも、特定の感覚が強い、あるいは弱いといった特性を持つ人は存在します。

例えば、特定の食品の匂いを他の人より強く感じてしまう、ざらざらした食感に強い不快感を感じてしまうといった「感覚の偏り」は、発達障害の診断とは関係なく、個人の生まれ持った特性として偏食の原因となることがあります。このような場合、コミュニケーションや対人関係、こだわりといった他の発達障害の主要な特性は見られないため、偏食だけが目立つ形になります。

食事への不安や経験

過去の嫌な食事経験や、特定の食品に対するネガティブな感情も偏食の大きな原因となります。

  • トラウマとなる経験: 無理やり食べさせられた、吐いてしまった、特定の食品を食べた後にお腹を壊した、といった経験は、その食品や似た食品に対して強い恐怖心や嫌悪感(条件付けられた嫌悪)を引き起こし、避けるようになることがあります。
  • 特定の食品に関する情報への不安: テレビやインターネットで特定の食品に関するネガティブな情報を見聞きし、それを信じ込んでしまい食べられなくなる。
  • 食べること自体の不安: 過去の経験や周囲からの圧力により、「ちゃんと食べなければいけない」「残してはいけない」といったプレッシャーを感じすぎ、食事の時間が苦痛になり、食べられるものが限られてしまう。

特に子どもにおいては、親や保育者からの過度な干渉や叱責が、食事そのものへの抵抗感や不安につながり、偏食が悪化することもあります。

環境要因や心理的な問題

家庭や学校、職場の環境、あるいは本人の心理状態も偏食に影響します。

  • 家庭の食事環境:
    • 食事のバリエーションの少なさ: 常に同じようなメニューが食卓に並ぶと、新しい食品に触れる機会が少なくなり、食べられるものが増えにくい。
    • 食事中の雰囲気: 食事中に家族間で喧嘩が多い、テレビがついていて会話がない、といった環境は、食事を楽しい時間として捉えられず、食欲不振や偏食につながることがあります。
    • 親の食べ方: 親自身が特定の食品を避けていると、子どももそれを真似て偏食になることがあります。
  • 心理的なストレスや不安: 学校での人間関係の悩み、家庭内の問題、仕事のプレッシャーなど、強いストレスや不安を抱えていると、食欲不振になったり、特定の食べ物しか受け付けなくなったりすることがあります。
  • うつ病や適応障害: 精神的な不調が、食行動の変化(過食、拒食、偏食)として現れることがあります。
  • 遊びや活動の少なさ: 体を動かす機会が少ないと、お腹が空きにくく、食事への関心が薄れることがあります。
  • 睡眠不足や生活リズムの乱れ: 生活リズムが崩れると、食欲や食事時間も不規則になり、偏食につながることがあります。

これらの要因は、発達障害の有無にかかわらず、誰にでも偏食を引き起こす可能性があります。偏食の背景を理解するためには、本人の感覚や認知特性だけでなく、生育歴や現在の環境、心理状態など、多角的に見ていく視点が不可欠です。

偏食が発達障害によるものか見分けるポイント

偏食があるからといって、すぐに「発達障害だ」と決めつけることはできません。しかし、偏食が発達障害の特性に根ざしている場合、偏食以外にもいくつかの特徴が見られることが多いです。これらの他の特性と偏食を合わせて見ることで、偏食の背景に発達障害の特性が関連している可能性が高いかどうかを判断するための手がかりが得られます。

重要なのは、偏食「だけ」で判断しないことです。偏食の背景に発達障害があるかどうかを見極めるためには、偏食の様子だけでなく、コミュニケーション、対人関係、こだわりといった他の発達障害の主要な特性がどのように現れているかを確認することが不可欠です。

偏食以外の発達障害の特性を確認する

発達障害の診断は、医師や専門家が問診、行動観察、心理検査などを通して総合的に判断します。特にDSM-5(精神疾患の診断・統計マニュアル第5版)といった診断基準では、以下の3つの領域における特性の有無とその程度を確認します。偏食が発達障害に関連している可能性がある場合、偏食に加えて、これらの領域に何らかの困難さが見られることが多いです。

コミュニケーションの特徴

発達障害、特にASDのある人には、コミュニケーションにおいて以下のような特徴が見られることがあります。

  • 言葉のやり取りの困難さ: 会話のキャッチボールが一方的になりやすい(自分の好きなことばかり話す、相手の話を聞くのが苦手)、話の意図を汲み取るのが苦手、言葉を文字通りに受け取ってしまう(皮肉や比喩が分からない)。
  • 非言語コミュニケーションの困難さ: 相手の表情や声のトーン、視線から感情や意図を読み取るのが苦手。自分の気持ちや意図を表情や身振り手振りで伝えるのが苦手。
  • 文脈理解の困難さ: 状況に応じた話し方や振る舞いが難しい。場の雰囲気を読むのが苦手。

対人関係の特徴

発達障害のある人は、対人関係において以下のような困難さを抱えることがあります。

  • 他者の気持ちを想像するのが苦手: 相手の立場に立って物事を考えるのが難しい。共感性が低いように見えることがある。
  • 集団行動への適応困難: グループでの活動になじめない、孤立しやすい。集団での暗黙のルールや空気を読むのが苦手。
  • 友達を作るのが苦手、特定の友達としか関わらない: 友達との関わり方が一方的になる、深いつながりを築くのが難しい。
  • 対人関係における予測不可能性への不安: 人との関わりの中で次に何が起こるか予測できない状況に強い不安を感じやすい。

こだわりや反復行動

これはASDに顕著な特性であり、偏食と密接に関わることが多い特徴です。

  • 特定の物事への強い興味やこだわり: 特定の分野やテーマに対して異常なほど強い興味を持ち、それ以外のことにあまり関心を示さない。
  • 変化への極端な抵抗: 普段のルーティンや環境の変化を極端に嫌い、強い不安や混乱を示す。予測可能な状況を強く好む。
  • 反復行動や常同行動: 体を揺らす、手をひらひらさせる、特定の言葉やフレーズを繰り返す、特定の物を集めるなど、意味のないように見える行動を繰り返す。
  • 感覚刺激への強いこだわりや反復行動: 特定の音、光、匂い、手触りなどに強く惹かれたり、逆に強く避けたりする。同じものを見続けたり、触り続けたりする。

もし偏食に加えて、これらのコミュニケーション、対人関係、こだわりといった領域に複数の特徴が見られる場合、偏食が発達障害の特性と関連している可能性が高いと考えられます。

偏食の始まり方や程度の判断基準

偏食が発達障害に関連するかどうかを見分けるには、偏食そのものの「始まり方」や「程度」も重要な手がかりとなります。

  • いつ頃から始まったか: 幼少期、特に離乳食期や幼児期といった早期から特定の食品を強く拒否し、食べられるものの種類が増えずに持続している場合、感覚特性やこだわりといった生まれつきの特性が影響している可能性が考えられます。一方、学童期以降に急に偏食が始まった場合は、心理的な要因や環境の変化などが影響している可能性も考慮する必要があります。
  • どの程度極端か: 食べられるものの種類が極めて限られている(例:特定の数種類の食品のみ)、食品の種類だけでなく特定のブランドや形状、調理法にまで強いこだわりがあるといった極端な偏食は、発達障害の特性(感覚過敏、こだわり)との関連性が高いと考えられます。
  • 偏食が生活に与える影響: 偏食により、栄養不足(低体重、貧血など)が生じている、成長曲線から外れている、体調を崩しやすいといった健康への影響があるか。また、給食が食べられない、外食できる場所が限られる、友達との食事の機会を楽しめないなど、社会生活に大きな支障が出ているかどうかも重要な判断基準です。
  • 年齢に不釣り合いな偏食であるか: 幼児期にある程度の偏食が見られることは珍しくありませんが、年齢が上がるにつれて改善していくのが一般的です。しかし、学童期や思春期、成人になっても極端な偏食が続いている場合、背景に何らかの特性や困難がある可能性が高まります。

白米しか食べないなど極端な例

「白米しか食べない」「特定のブランドのプレーンヨーグルトしか食べない」「特定のメーカーのチキンナゲットしか食べない」といった、食べられるものが極めて限られる極端な偏食は、感覚過敏や強いこだわりといった発達障害の特性と関連が深い可能性を示唆します。

  • 特定の「色」への拒否: 緑色の野菜、赤い色の肉や野菜、茶色いソースなど、特定の色の食品を一切受け付けない。
  • 特定の「食感」への拒否: ドロドロしたもの(スープ、カレー)、ネバネバしたもの(納豆、オクラ)、ザラザラしたもの(すりおろしリンゴ)、弾力のあるもの(きのこ、こんにゃく)などを強く嫌う。
  • 特定の「形」へのこだわり: 丸いものしか食べない、細長いものしか食べないなど、食品の形に強いこだわりがある。
  • 「混ぜる」ことへの拒否: 複数の食材が混ざった料理(カレー、シチュー、混ぜご飯、サラダなど)を強く嫌い、食材が少しでも混ざっていると食べられない。
  • 新しいものへの強い恐怖: 見たことがない、食べたことがない食品を前にすると、強い不安を示し、パニックになることもある。

このような極端な偏食は、単なる好き嫌いの範疇を超えていることが多く、食事を通して様々な感覚刺激を受け取ることに対する困難さや、自分の「安心できる範囲」から外れることへの強い抵抗感が背景にあると考えられます。このようなケースでは、偏食だけでなく、他の領域にも発達障害の特性が見られる可能性が高いと言えるでしょう。

偏食がひどい場合の対応策

偏食がひどく、栄養不足の心配がある、成長に影響が出ている、あるいは家庭内での食事の時間が常に争いの場になっているといった状況は、本人にとっても家族にとっても大きなストレスとなります。このような深刻な偏食に対しては、適切な対応が必要です。

医療機関・専門家への相談の必要性

偏食の背景に発達障害の特性が関連している可能性がある場合や、偏食が深刻で日常生活に支障をきたしている場合は、一人で抱え込まず、必ず専門家へ相談することが最も重要です。専門家による適切な評価やアドバイスを受けることで、偏食の真の原因を特定し、効果的なサポートや介入につなげることができます。

相談できる専門家としては、以下のような医療機関や専門職が挙げられます。

  • 小児科医: お子様の偏食の場合、まずはかかりつけの小児科医に相談できます。栄養状態のチェックや、身体的な問題がないかの確認、専門機関への紹介などを行ってくれます。
  • 精神科医・心療内科医: 成人の偏食で、心理的な問題や発達障害との関連が疑われる場合に相談します。診断や、必要に応じた薬物療法、心理療法を検討します。
  • 発達専門医: 小児の発達障害の診断と治療を専門とする医師です。偏食が発達障害の特性と関連が深いかを診断し、総合的な支援計画を立てます。
  • 児童精神科医: 小児の精神的な問題や発達障害を専門とする医師です。
  • 臨床心理士・公認心理師: 心理的な側面から偏食の原因を探り、本人や家族へのカウンセリング、認知行動療法などを通して食行動の改善をサポートします。
  • 管理栄養士・栄養士: 栄養バランスの偏りや、食事の工夫について専門的なアドバイスを行います。偏食があっても必要な栄養素を摂取するための具体的な献立や調理法を提案してくれます。
  • 作業療法士: 感覚統合の視点から、感覚過敏や鈍感さが食行動に与える影響を評価し、感覚特性へのアプローチを含めた支援を行います。

専門機関での相談によって期待できることは、以下の通りです。

  • 正確な診断: 偏食が発達障害の特性によるものなのか、あるいは他の原因によるものなのかを専門的に評価してもらうことができます。
  • 原因の特定: 偏食の背景にある具体的な要因(感覚特性、こだわり、不安など)を詳しく調べ、理解することができます。
  • 個別のアドバイスと支援計画: 本人の特性や状況に合わせた具体的な対応策や、必要な療育、支援サービスなどに関するアドバイスを得られます。
  • 他の合併症の確認: 発達障害に合併しやすい他の困難さ(例えば、不安障害、睡眠の問題など)がないかも確認し、必要であればそちらの治療も並行して行えます。
  • 家族へのサポート: 偏食に悩む家族が抱えるストレスや不安に対して、心理的なサポートや、適切な関わり方に関するペアレントトレーニングなどが提供されることもあります。

自己判断で誤った対応(無理強い、叱責など)を続けてしまうと、偏食が悪化したり、本人の食事への嫌悪感や家族関係の悪化を招いたりする可能性があります。専門家と連携しながら、適切なアプローチを見つけていくことが非常に重要です。

家庭でできる食事の工夫とステップ

専門家からのアドバイスや診断を基に、家庭でできる食事の工夫はたくさんあります。大切なのは、無理強いせず、本人のペースに合わせて、肯定的な雰囲気の中で進めることです。

以下に、家庭でできる食事の工夫のステップと具体例を挙げます。

ステップ1:偏食の背景を理解する

  • 本人をよく観察する: どのような食品、食感、色、匂い、温度を嫌がるのか、具体的に観察し記録します。なぜ嫌がるのか、本人の言葉(もし話せるなら)や行動から推測します。
  • 発達障害の特性との関連を考える: 偏食が、感覚過敏、こだわり、変化への抵抗といった他の特性とどのように結びついているのかを理解しようと努めます。
  • 無理強いは絶対にしない: 嫌がるものを無理やり食べさせると、食事そのものへの抵抗感が強まり、逆効果になります。

ステップ2:安心できる食事環境を作る

  • リラックスできる雰囲気: 食事中は、楽しかった出来事を話す、落ち着いた音楽を流すなど、リラックスできる雰囲気を作ります。テレビやスマートフォンは消し、食事に集中できる環境を整えます。
  • 食事のルーティンを作る: 毎日決まった時間に食事をする、いつも同じ席に座るなど、予測可能なルーティンを作ることで、本人に安心感を与えます。
  • 使用する食器やカトラリーへの配慮: 特定の形や素材の食器、カトラリーを嫌がる場合、本人が受け入れられるものを選びます。

ステップ3:食べられるものを活用する

  • 食べられるものをリストアップ: 本人が問題なく食べられるものを書き出し、それらを基本とします。
  • 栄養の偏りを補う: 食べられるものの中で、栄養バランスを考え、不足しがちな栄養素を補えるような工夫をします。(例:野菜が苦手なら、野菜の栄養を含むジュースやゼリー、あるいは専門家と相談の上サプリメントを検討するなど)。
  • 食べられるものに混ぜる: 食べられるものに、苦手な食品を少量、形や色、匂いが分かりにくいように混ぜてみることから始めます。ただし、これに気づいて拒否反応が強くなる可能性もあるため、慎重に行います。

ステップ4:新しい食品への慣れを促す(スモールステップ)

新しい食品を「食べる」ことだけでなく、「慣れる」ことから始めます。

  1. 見る: 食卓に並べる、一緒に買い物に行く、絵本や図鑑で見るなど、食品の存在に慣れさせます。
  2. 触る: 食品に触れてみる(自分で触る、親が触るのを見る)。
  3. 匂いを嗅ぐ: 食品の匂いを嗅いでみる。
  4. 口に近づける: 食品を口元に近づけてみる。
  5. 唇に触れる: 唇に軽く触れさせてみる。
  6. 舌に乗せる: ほんの少量、舌に乗せてみる。
  7. 噛んでみる: 噛んでみるが、飲み込まなくても良い。
  8. 飲み込んでみる: 少量飲み込んでみる。

これらのステップを、本人のペースに合わせて、根気強く、一つずつクリアしていくことを目指します。成功したら大げさに褒めます。強制はせず、「嫌ならやめても良い」という姿勢を見せることが大切です。

ステップ5:調理法や見た目を工夫する

  • 調理法を変える: 焼く、煮る、揚げる、蒸すなど、調理法によって食感や風味が変わります。本人が受け入れやすい調理法を見つけます。(例:生野菜はダメだが、ポタージュなら大丈夫など)。
  • 形や大きさを変える: 細かく刻む、すりおろす、型抜きで楽しい形にするなど。
  • 味付けを変える: 薄味にする、好みの味付けに近づける。
  • 見た目の工夫: 苦手な色や形を隠す(ハンバーグの中に野菜を混ぜる、カレーに溶け込ませる)、彩りを工夫して楽しそうに見せる(ただし、色が混ざるのが苦手な場合は逆効果)。
  • 食品を分離させる: 複数の食材が混ざるのが苦手な場合、おかずを一つずつ別の皿に盛り付けたり、ワンプレートでも区切りを使ったりする。

ステップ6:ポジティブな声かけと成功体験

  • できたことを具体的に褒める: 「人参を一口食べられたね、すごいね!」「新しいジュースを飲んでみたね、えらいね!」など、具体的に褒めることで本人の自信と意欲につながります。
  • 無理強いせず、プレッシャーをかけない: 「全部食べなさい」「残しちゃダメ」といった否定的な声かけや強制は避けます。
  • 食事の時間を楽しい経験にする: 食事中に笑顔で話しかける、今日の出来事を話すなど、食事の時間を楽しいコミュニケーションの場にします。

表:家庭でできる食事の工夫 具体例

偏食の背景(例) 苦手な対象(例) 具体的な工夫例
感覚過敏(食感) ドロドロしたもの(スープ、カレー) 具材を大きめに切る、ポタージュを諦める、代わりに固形のスープを提供する、ドライカレーにする。
感覚過敏(食感) ざらざらしたもの(すりおろしリンゴ) すりおろさずに小さく切って提供する、ジュースにする。
感覚過敏(嗅覚) 魚の生臭さ 新鮮な魚を選び、レモンやハーブを使う、煮付けやフライなど匂いが抑えられる調理法にする。
感覚過敏(視覚) 緑色の野菜 細かく刻んでハンバーグやオムライスに混ぜる、すりおろしてスープやソースに溶け込ませる(ただし、混ざるのが苦手な場合は注意)、ジュースで栄養補給。
こだわり(混ぜるのが苦手) 混ぜご飯、カレー、サラダ 食材を別々の皿に盛り付ける、具材を後乗せにする、自分で混ぜることを許可する、一つ一つの食材の形が分かるようにする。
こだわり(新しいもの) 初めて食べるもの 食卓に並べるだけ、家族が美味しそうに食べる姿を見せる、ごっこ遊びに取り入れる、絵本や図鑑で見る、一口だけ挑戦してみる(強制しない)。
不安やトラウマ 無理やり食べさせられた食品 その食品をしばらく食卓に出さない、少量だけ挑戦する(本人が選び、食べたいと思った時だけ)、その食品に関する楽しいエピソードを話す。

これらの工夫は、発達障害の特性に基づく偏食だけでなく、他の原因による偏食にも有効な場合があります。ただし、個々の状況や特性によって最適な方法は異なります。専門家と相談しながら、本人のペースと特性に合ったアプローチを見つけていくことが大切です。

まとめ:偏食だけで発達障害と決めつけず専門家に相談を

「偏食」は、お子様から大人まで、多くの人が経験しうる食に関する困難です。その原因は多様であり、単なる好き嫌いから、感覚特性、過去の経験、心理的な問題、そして発達障害の特性まで、様々な要因が考えられます。

確かに、発達障害、特に自閉症スペクトラム障害(ASD)を持つ方の中には、感覚過敏やこだわりといった特性からくる偏食が多く見られます。食べられるものが極端に少ない、特定の食感や匂いを強く拒否するといった偏食は、発達障害の可能性を示唆するサインの一つとなりえます。

しかし、偏食があるからといって、それだけで発達障害だと決めつけるのは早計です。 偏食の背景に発達障害があるかどうかを見極めるためには、偏食の様子だけでなく、コミュニケーション、対人関係、こだわりといった他の発達障害の主要な特性がどのように現れているかを総合的に確認することが不可欠です。また、偏食がいつ頃から始まり、どの程度深刻で、日常生活にどのような影響を与えているのかといった点も重要な判断基準となります。

もし、お子様やご自身の偏食について、「これは単なる好き嫌いではないかも」「発達障害と関係があるのかもしれない」とご心配されている場合、あるいは偏食が深刻で栄養面や社会生活に影響が出ている場合は、一人で悩まず、必ず専門家へ相談してください。

小児科医、精神科医、発達専門医、臨床心理士、公認心理師、管理栄養士といった専門家は、偏食の背景にある真の原因を専門的に評価し、個々の状況に合わせた適切なアドバイスや支援を提供することができます。適切な診断とサポートを受けることで、偏食による困難さを軽減し、より豊かな食生活を送るための道が開ける可能性があります。

偏食は、本人にとっても家族にとっても大きな負担となることがあります。しかし、偏食は「わがまま」や「育て方が悪い」のではなく、多くの場合、本人にとって乗り越えがたい困難さに由来するものです。偏食の背景にあるものを理解し、適切な専門家のサポートを得ながら、焦らず、根気強く、そして何よりも本人の気持ちに寄り添いながら対応していくことが大切です。

本記事は一般的な情報提供を目的としており、個別の診断や治療の代わりになるものではありません。偏食に関する具体的なお悩みや健康上の問題については、必ず専門の医療機関にご相談ください。

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