急性アルコール中毒は、短時間に多量のアルコールを摂取した際に発生する中毒症状です。
脳や全身の臓器に急激に影響が及び、最悪の場合、死に至ることもある非常に危険な状態です。
単なる泥酔とは異なり、命に関わる事態に進展する可能性があります。
急性アルコール中毒の症状は、アルコールの摂取量や体質によって異なりますが、初期には軽い酔いから始まり、進行すると意識障害や呼吸抑制など、重篤な症状が現れます。
自分や周りの人が急性アルコール中毒になった際に、適切な対応を取るためには、症状の種類や危険な兆候を知っておくことが重要です。
この記事では、急性アルコール中毒の具体的な症状、重症度による段階、もしもの場合の対処法、救急車を呼ぶべき判断基準、回復にかかる時間、そして予防策について詳しく解説します。
急性アルコール中毒とは?原因とメカニズム
急性アルコール中毒は、短時間のうちに体の許容量を超えるアルコールを摂取することで起こります。
アルコールは消化管から吸収され、主に肝臓で分解されますが、分解能力を超えたアルコールは血液に乗って全身を巡り、特に脳に強い影響を与えます。
アルコールの分解は、まずアルコール脱水素酵素(ADH)によってアセトアルデヒドに、次にアルデヒド脱水素酵素(ALDH2)によって酢酸に分解されます。
このALDH2の活性が低い(いわゆる「お酒に弱い」体質)人は、アセトアルデヒドが体内に溜まりやすく、少量の飲酒でも顔が赤くなったり吐き気を感じたりします。
さらに大量に摂取すると、肝臓での分解が追いつかず、血中アルコール濃度が急上昇し、脳の機能が麻痺して急性アルコール中毒を引き起こします。
脳は、思考や判断、運動、意識、呼吸などを司る重要な器官です。
アルコールが脳に到達すると、神経細胞の働きを抑制し、これらの機能に障害をもたらします。
特に、生命維持に重要な脳幹(呼吸中枢などがある)が抑制されると、呼吸が浅くなったり止まったりする危険な状態になります。
急性アルコール中毒の症状の種類
急性アルコール中毒の症状は、血中アルコール濃度の上昇に伴って段階的に進行します。
一般的に、酔いの程度は以下の段階に分けられ、それぞれで現れる症状が異なります。
初期に見られる症状(酔いの段階別)
酔いの段階と症状、そしておおよその血中アルコール濃度(BAC: Blood Alcohol Concentration)の目安は以下の通りです。
ただし、体質や体調によって個人差が大きいため、あくまで一般的な目安として捉えてください。
酔いの段階 | 血中アルコール濃度(目安) | 主な症状 |
---|---|---|
爽快期 | 0.02~0.05% | 陽気になる、開放的になる、判断力がやや鈍る、皮膚が赤くなる、脈が速くなる。飲酒初期の気持ちが良い状態。 |
ほろ酔い期 | 0.05~0.10% | 気持ちが大きくなる、多弁になる、抑制が効かなくなる、注意力・集中力が低下する、運動能力が鈍る。 |
酩酊期 | 0.10~0.15% | 立てばふらつく、真っ直ぐ歩けない、呂律が回らない、感情的になりやすい(怒りや悲しみなど)、記憶が途切れ途切れになる。 |
泥酔期 | 0.15~0.25% | 意識が混濁する、自分で立てない・座れない、吐き気・嘔吐が起こる、体温が下がる、失禁する場合がある。 |
これらの段階のうち、「泥酔期」に至ると、すでに自分で体をコントロールすることが難しくなり、危険な状態への入り口に差し掛かっています。
危険な症状
泥酔期を超えてさらにアルコール濃度が高まると、生命に関わる危険な症状が現れます。
これらの症状が見られた場合は、単なる泥酔とは違い、医療的な介入が必要となる可能性が非常に高いです。
- 意識障害: 呼びかけや肩を叩いても反応がない、またはほとんど反応しない。刺激を与えても目を覚まさない。
- 呼吸抑制: 呼吸が浅く、遅くなる(1分間に10回以下など)。不規則な呼吸になる。呼吸が一時的に止まることがある(無呼吸)。
- 血圧低下: 顔色が青白くなる、冷や汗をかく。
- 体温低下: 体が冷たくなる。寒くない場所でも震えが見られない。
- 嘔吐: 意識がはっきりしない状態で嘔吐すると、吐物が気道に入り、窒息や誤嚥性肺炎を引き起こす危険がある。
- 痙攣: 全身または体の一部がピクつく、ひきつけを起こす。
- 瞳孔異常: 瞳孔が開いている、または左右の大きさが違う。光への反応が鈍い。
特に、意識障害と呼吸抑制は最も危険な兆候です。
これらの症状は、脳の生命維持中枢が麻痺し始めているサインであり、放置すると心停止や呼吸停止に至る可能性があります。
急性アルコール中毒の重症度と段階
急性アルコール中毒は、症状の程度によってさらに重症度で分類されることがあります。
これは主に医療現場で患者さんの状態を評価するために用いられますが、一般の人でも危険度を把握する上で参考になります。
軽度・中等度の段階
- 軽度(爽快期~ほろ酔い期): 血中アルコール濃度が0.05%~0.15%程度。陽気さ、多弁、判断力の低下、運動協調性の低下などがみられます。通常、数時間で回復します。この段階でも転倒や事故のリスクはあります。
- 中等度(酩酊期~泥酔期前半): 血中アルコール濃度が0.15%~0.25%程度。平衡感覚の障害(ふらつき、歩けない)、呂律困難、吐き気、嘔吐などがみられます。意識はありますが、呼びかけに対する反応が鈍くなることもあります。この段階から、放置すると危険な状態に進行する可能性があります。
重度の段階(昏睡など)
- 重度(泥酔期後半~昏睡期): 血中アルコール濃度が0.25%以上。特に0.30%を超えると昏睡状態に陥る危険が高まります。
- 昏睡状態: 外部からの強い刺激(痛みなど)に対しても全く反応しない、またはほとんど反応しない状態です。脳の機能が著しく低下しており、生命維持機能(呼吸、循環)が危険なレベルで抑制されます。
- 危険性: 呼吸が停止する、心臓の働きが弱まる、体温が著しく低下する(低体温症)、血圧が危険なほど下がるなどの状態に陥り、適切な医療処置が行われないと命に関わります。また、意識がないため、嘔吐した場合に吐物を肺に吸い込んでしまい、窒息や重篤な肺炎を引き起こすリスクも極めて高いです。
急性アルコール中毒による死亡原因の多くは、この重度の段階で起こる呼吸停止、誤嚥による窒息、そして低体温症です。
単純な寝過ごしと勘違いせず、重度の症状が見られた場合は速やかに対応する必要があります。
急性アルコール中毒になった場合の対処法
もし自分や周囲の人が急性アルコール中毒になった疑いがある場合、迅速かつ適切な対処が非常に重要です。
命を守るための行動をとりましょう。
周囲の人が行うべきこと
急性アルコール中毒の人を発見した場合、以下の点に注意して対応してください。
- 安全な場所へ移動させる: 騒がしい場所や人通りの多い場所から、静かで安全な場所に移動させます。
階段の近くや水辺など、転落・溺水の危険がある場所は絶対に避けましょう。 - 楽な姿勢にする: 衣服を緩め、体を締め付けているもの(ベルト、ネクタイ、ボタンの多い服など)を外して呼吸を楽にします。
- 絶対に一人にしない: 意識レベルが変動したり、急変したりする可能性があるため、回復するまで決して一人にしないでください。
常に様子を見守り、必要に応じて話しかけたり肩を叩いたりして反応を確認します。 - 体温の維持: 体温が低下しやすいので、毛布や上着などをかけて体を温めます。
ただし、厚着させすぎたり、熱すぎるお湯をかけるなどの急激な加温は避けてください。 - 意識がある場合の水分補給: 意識がはっきりしていて、自分の力で飲めるようなら、スポーツドリンクや水などを少量ずつ飲ませます。
ただし、無理に飲ませると誤嚥する危険があるので注意が必要です。 - 吐かせないのが基本: 意識がはっきりしない人に無理に吐かせようとすると、吐物が気道に詰まる危険が高まります。
基本的には吐かせないようにしてください。
もし本人が吐きそうになっている場合は、顔を横に向けて、吐物が気道に入らないように注意します。
寝ている人への対応
泥酔して寝ているように見える人こそ、注意が必要です。
単に眠っているのか、意識障害があるのかを判断し、安全を確保するための対応を行います。
- 呼びかけと刺激: まず、名前を呼んだり肩を優しく叩いたりして、反応があるか確認します。「〇〇さん!」と声をかけ、反応がなければ少し強めに肩を揺すってみましょう。
それでも全く反応がない場合は、意識障害の可能性が高いです。 - 呼吸の確認: 胸やお腹の動きを見て、呼吸をしているか確認します。
顔色や唇の色も確認し、青ざめていないか、紫色になっていないかを見ます。
異常があれば、救急車を呼ぶ必要があります。 - 回復体位(側臥位)にする: 意識がはっきりしない状態で寝かせる場合は、回復体位にすることが最も重要です。
これは、吐物が気道に流れ込むのを防ぎ、窒息や誤嚥を防ぐための体位です。- 回復体位のやり方: 体を横向きにし、下側になる腕を頭の上または背中の後ろに回します。
上側になる腕は、顔の前に置いて支えにします。
上側になる足は、膝を曲げて体の前につき、体が前に倒れないように安定させます。
顔は少し下向きにし、口から吐物が出やすいようにします。 - 重要性: この体位にすることで、舌が喉に落ち込むのを防ぎ、吐物も重力で口から外へ流れやすくなります。
- 回復体位のやり方: 体を横向きにし、下側になる腕を頭の上または背中の後ろに回します。
- 定期的な確認: 回復体位にした後も、呼吸、顔色、体温、意識レベル(呼びかけへの反応など)を定期的に確認し、状態の変化に注意してください。
救急車を呼ぶ判断基準
以下のいずれかの症状が見られる場合は、迷わず救急車(119番)を呼んでください。
これらの症状は、生命に危険が及んでいるサインです。
- 呼びかけや刺激に全く反応しない、またはほとんど反応しない(意識がない、昏睡状態)
- 呼吸が異常(浅い、遅い、不規則、呼吸が止まることがある)
- 顔色が青白い、唇が紫色になっている
- 体が冷たい、体温が著しく低い(低体温症の兆候)
- 揺り動かしても起きない深い眠り
- 吐き続けている、または意識がないのに吐いている
- いびきが大きい、またはゴロゴロというような異常な呼吸音がする(気道が狭まっている可能性)
- 痙攣を起こしている
これらの症状が現れている場合、数分~数十分で状態が急変する可能性があります。
自分で病院に連れて行こうとせず、専門的な処置ができる救急隊を呼ぶことが最善の選択です。
救急隊には、飲んだアルコールの種類、量、いつ頃から様子がおかしくなったか、どのような症状があるかなどを正確に伝えましょう。
急性アルコール中毒からの回復時間
急性アルコール中毒からの回復にかかる時間は、摂取したアルコールの量、体質、体調、アルコールの分解速度などによって大きく異なります。
一般的には、アルコールは1時間あたり体重1kgあたり約0.1gの純アルコールを分解すると言われています(例:体重60kgの人なら1時間あたり6g)。
しかし、これはあくまで平均値であり、個人差が非常に大きいです。
例えば、血中アルコール濃度が0.3%(昏睡の危険があるレベル)に達した場合、アルコールを完全に分解して血中からなくすには、数時間から半日以上かかることもあります。
泥酔状態から意識が回復し、ある程度動けるようになるまでにも、数時間から10時間以上かかるのが一般的です。
重要なのは、意識が回復しても、判断力や運動能力、注意力などは完全に回復していないことが多いという点です。
飲酒後しばらくは車の運転や危険な作業は絶対に避ける必要があります。
また、回復後も脱水症状や低血糖を起こしやすい場合があるため、安静にして水分や糖分を補給することが推奨されます。
回復時間は予測が難しく、特に重症の場合は医療機関での管理が必要となります。
自己判断で大丈夫だろうと放置せず、危険な兆候が見られた場合は必ず救急車を呼んでください。
急性アルコール中毒の後遺症
急性アルコール中毒は、命が助かったとしても、特に重症であった場合には後遺症が残る可能性があります。
アルコールは脳を含む全身の神経に影響を与えるため、重度の急性アルコール中毒によって脳細胞にダメージが生じることがあります。
可能性のある後遺症としては、以下のようなものが挙げられます。
- 脳機能障害: 記憶障害(新しいことを覚えられない)、学習能力の低下、集中力の低下、認知機能の低下などが起こることがあります。
特に、短期間に繰り返される重度の急性アルコール中毒は、脳に累積的なダメージを与えるリスクを高めます。 - 末梢神経障害: 手足のしびれや感覚異常、筋力低下などが起こることがあります。
- その他: 肝臓や膵臓など、他の臓器にもダメージが及んでいた場合は、その機能障害が残る可能性もあります。
また、誤嚥性肺炎を起こしていた場合は、呼吸機能に影響が残ることもあります。
これらの後遺症は、必ずしも全ての急性アルコール中毒患者さんに起こるわけではありませんが、特に意識不明になるほどの重症例や、低体温、低血圧などの状態が長く続いた場合にリスクが高まります。
急性アルコール中毒は、一度の経験でも体と脳に大きな負担をかける可能性があることを理解しておく必要があります。
急性アルコール中毒の予防
急性アルコール中毒は、飲酒行動に注意することで予防が可能です。「自分は大丈夫」「周りも飲んでいるから」といった油断は禁物です。
どのくらい飲んだら危険?
アルコールの危険な量は、個人の体質(特にALDH2の活性)、性別、体重、体調、空腹具合などによって大きく異なります。
一般的に、純アルコール量で計算されることが多いです。
- 純アルコール量の計算方法: 飲んだお酒の量(ml)× アルコール度数(%)÷ 100 × 0.8(アルコールの比重)
- お酒の種類と純アルコール量の目安(例):
- ビール(5%):500mlで約20g
- 日本酒(15%):1合(180ml)で約22g
- 焼酎(25%):1合(180ml)で約36g
- ワイン(12%):1杯(120ml)で約12g
- ウイスキー/ブランデー(40%):シングル(30ml)で約9.6g
- 適量(生活習慣病のリスクを高める量): 厚生労働省は、1日の純アルコール摂取量を男性20g、女性10g程度としています。
これを超えると生活習慣病のリスクが高まるとされています。 - 急性アルコール中毒のリスクが高まる量: 一般的に、短時間のうちに純アルコール量を体重1kgあたり1g以上摂取すると、酩酊期や泥酔期に至りやすいと言われています。
例えば、体重60kgの人なら60g(ビール3リットル、日本酒約3合、焼酎約5合に相当)を短時間で飲むと非常に危険です。
ただし、ALDH2の活性が低い人(お酒に弱い人)は、これよりはるかに少ない量で危険な状態になります。
少しでも「酔いが速い」「いつもより気分が悪い」と感じたら、それ以上飲まないことが重要です。
特に、普段あまり飲まない人や、体調が悪い時、疲れている時は、少量のアルコールでも影響を受けやすいため注意が必要です。
一気飲み防止など対策
急性アルコール中毒を予防するための具体的な対策は以下の通りです。
- 一気飲みをしない・させない: 短時間で大量のアルコールを摂取する一気飲みは、血中アルコール濃度が急激に上昇するため、最も危険な行為です。
絶対にやめましょう。
周囲の人にも強要したり、煽ったりしてはいけません。 - 空腹で飲まない: 空腹時に飲むとアルコールの吸収が早まります。
何か胃に入れてから飲むようにしましょう。
特に脂肪分を含む食べ物はアルコールの吸収を穏やかにする効果があります。 - 「ちゃんぽん」に注意: 種類が違うお酒を混ぜて飲むこと自体が直接的な原因ではありませんが、アルコール度数や量が把握しにくくなり、結果的に短時間で多量のアルコールを摂取してしまうリスクが高まります。
- 自分のペースで飲む: 周囲に流されず、自分の体質やペースに合わせてゆっくり飲みましょう。
無理に勧められても断る勇気を持ちましょう。 - 水を飲む: アルコールには利尿作用があり、脱水を招きます。
飲酒中や飲酒後は、アルコールと同量かそれ以上の水を飲むように心がけましょう。
水はアルコールの分解を助け、血中アルコール濃度の上昇を緩やかにする効果も期待できます。 - 体調が悪い時は飲まない: 風邪気味、寝不足、疲労など、体調が悪い時はアルコールの分解能力が低下しやすいため、飲酒は避けましょう。
- 無理強いしない・させない雰囲気を作る: 飲酒の場全体で、無理な飲酒を強要しない雰囲気を作ることが重要です。
お酒が飲めない人や弱い人も楽しめるように配慮しましょう。
これらの予防策を実践することで、急性アルコール中毒のリスクを大幅に減らすことができます。
まとめ:急性アルコール中毒は命に関わる危険な状態です
急性アルコール中毒は、単なる酔っ払いとは違い、意識障害、呼吸抑制、低体温など、命に関わる重篤な症状を引き起こす危険な状態です。
初期の症状から危険な兆候を見分け、適切な対処を速やかに行うことが、命を守る上で極めて重要です。
もし周囲に急性アルコール中毒が疑われる人がいたら、絶対に一人にせず、呼びかけや呼吸の確認を行い、回復体位にするなど、安全を確保してください。
特に、呼びかけに反応しない、呼吸がおかしい、体が冷たいといった危険な症状が見られた場合は、迷わず救急車を呼びましょう。
救急車を呼ぶことに躊躇は不要です。
急性アルコール中毒は、適切な知識と予防策があれば防ぐことができる事故でもあります。
一気飲みをしない、空腹で飲まない、自分のペースで飲む、体調が悪い時は飲まないなど、基本的な飲酒ルールを守り、自分自身と周囲の人の安全に配慮することが大切です。
楽しいお酒の席が、悲惨な事故にならないよう、一人ひとりが急性アルコール中毒の危険性を正しく理解し、責任ある飲酒を心がけましょう。
免責事項: 本記事は一般的な情報提供を目的としており、医学的な診断や助言を意図したものではありません。個別の症状や状況については、必ず医療機関に相談してください。