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細菌性膣症の感染率|どれくらい身近?無症状でも注意が必要な理由

細菌性膣症の感染率は、多くの女性にとって気になる情報です。これは膣内の細菌バランスが崩れることで起こる一般的な疾患ですが、「どのくらいの確率でかかるの?」「どんな原因で発症するの?」「治し方は?」といった疑問を持つ方も少なくありません。この記事では、細菌性膣症の感染率をはじめ、その原因、主な症状、診断方法、最新の治療法、そして予防策まで、知っておきたい情報を網羅的に解説します。ご自身の健康管理に役立てるために、ぜひ最後までお読みください。

目次

細菌性膣症とは

細菌性膣症(さいきんせいちつしょう、Bacterial Vaginosis: BV)は、女性の膣内に存在する細菌のバランスが崩れることで発症する状態を指します。健康な女性の膣内には、乳酸菌(ラクトバチルス)が優勢に存在し、酸性の環境を保つことで病原菌の増殖を抑えています。しかし、何らかの原因でこの乳酸菌が減少し、ガードネレラ菌などの嫌気性菌が増殖すると、膣内の環境がアルカリ性に傾き、細菌性膣症が引き起こされます。

これは炎症(膣炎)を伴わないことも多いため、「細菌性膣炎」ではなく「細菌性膣症」という名称が用いられるのが一般的です。性感染症(STI)とは厳密には異なりますが、性行為がリスク因子の一つとなり得ることから、混同されることもあります。しかし、性経験のない女性や、性的パートナーがいない女性にも起こりうる疾患です。

細菌性膣症は、不快な症状を引き起こすだけでなく、放置すると様々な合併症のリスクを高める可能性も指摘されています。そのため、適切な知識を持ち、早期に医療機関を受診することが大切です。

細菌性膣症の感染率

細菌性膣症は非常に一般的な疾患であり、多くの女性が生涯に一度は経験すると言われています。その「感染率」という言葉はやや不適切かもしれませんが、ここでは「罹患率(発症する確率)」や「有病率(ある時点で病気にかかっている人の割合)」として解説します。

細菌性膣症の具体的な感染率

細菌性膣症の罹患率は、調査対象となる集団や地域によって大きく異なります。一般的な生殖年齢にある女性における有病率は、およそ5%から30%の範囲と報告されており、人種や社会経済的な要因によっても差があることが知られています。

特に、性的に活発な女性や、特定の避妊法を使用している女性、過去に細菌性膣症にかかったことがある女性では、罹患率が高くなる傾向があります。また、医療機関を受診した女性や、特定の疾患(例:HIV感染者)を対象とした調査では、より高い有病率が報告されることもあります。

例えば、性感染症クリニックを受診した女性では有病率が20%を超えることもあり、妊娠中の女性では報告によってばらつきがあるものの、全妊娠期間を通じて10%から30%程度の有病率が示されることもあります。

このように、一口に「感染率」と言っても、対象となる集団によって数値は大きく変動します。しかし、総じて言えるのは、細菌性膣症は女性にとって非常に身近な健康問題の一つであるということです。

細菌性膣症にかかりやすい人の特徴(リスク因子)

細菌性膣症の発症リスクを高める要因がいくつか知られています。これらの特徴に当てはまる女性は、より細菌性膣症になりやすい可能性があります。主なリスク因子は以下の通りです。

  • 複数の性的パートナーがいる、または新しいパートナーとの性行為: 性行為そのものが膣内環境に影響を与え、細菌バランスを崩すきっかけとなることがあります。特にパートナーが多い場合や、新しいパートナーの場合にリスクが高まる傾向があります。
  • 喫煙: 喫煙は全身の血行を悪化させるなど、様々な健康リスクを高めますが、膣内の環境にも悪影響を及ぼす可能性が指摘されています。
  • 頻繁な膣洗浄(ビデの使用など): 膣の内部を頻繁に洗浄すると、健康な膣環境を保つために必要な乳酸菌まで洗い流してしまい、細菌バランスを崩す原因となります。膣は本来、自浄作用があるため、過度な洗浄は避けるべきです。
  • 子宮内避妊器具(IUD)の使用: 特定の種類のIUDを使用している女性は、細菌性膣症のリスクが若干高まる可能性があるという報告があります。
  • 過去に細菌性膣症にかかったことがある: 一度細菌性膣症になったことのある女性は、再発しやすい傾向があります。
  • 生理: 生理中は膣内のpHが変化しやすく、細菌バランスが崩れやすくなることがあります。
  • 特定の体質や遺伝的要因: 個人の体質や遺伝的な要因も、細菌性膣症への感受性に関与している可能性が研究されています。

これらのリスク因子は、細菌性膣症の発症を絶対的に決定するものではありませんが、ご自身の生活習慣や状況を振り返り、該当するものがある場合は注意が必要です。

細菌性膣症の原因

細菌性膣症は、病原体となる特定の細菌が外部から侵入してくることによって起こる、いわゆる「感染症」とは少し異なります。最も主要な原因は、元々膣内に存在する細菌たちのバランスが崩れることにあります。

腟内細菌叢のバランスの乱れ

健康な女性の膣内には、様々な種類の細菌が共存しており、これらをまとめて「膣内細菌叢(ちつないさいきんそう)」と呼びます。この細菌叢の主役は、前述の乳酸菌(ラクトバチルス属の細菌)です。乳酸菌はグリコーゲン(ブドウ糖の貯蔵形態)を分解して乳酸を作り出し、膣内をpH3.8~4.5程度の酸性に保ちます。この酸性環境が、大腸菌や連鎖球菌、ガードネレラ菌などの病原性を持つ可能性のある細菌の増殖を抑制しているのです。

細菌性膣症では、この乳酸菌が減少し、代わりにガードネレラ菌(Gardnerella vaginalis)やマイコプラズマ、モビルンカスなどの嫌気性菌(酸素が少ない環境を好む細菌)が異常に増殖します。これらの嫌気性菌は、膣内のpHをアルカリ性に傾け、さらに他の様々な種類の細菌が増殖しやすい環境を作り出してしまいます。

なぜ乳酸菌が減少し、嫌気性菌が増殖するのか、その詳細なメカニズムはまだ完全には解明されていません。しかし、次に挙げるような要因が、この繊細な膣内細菌叢のバランスを崩す引き金となると考えられています。

細菌性膣症のリスクを高める要因

前述の「かかりやすい人の特徴(リスク因子)」は、まさにこの膣内細菌叢のバランスを乱す要因と重なります。具体的なメカニズムとしては、以下のようなものが考えられます。

  • 性行為: 性行為によって、精液や外部からの細菌が膣内に持ち込まれる可能性があります。精液はアルカリ性であるため、一時的に膣内のpHを上昇させ、嫌気性菌が増殖しやすい環境を作り出すことがあります。
  • 過度な膣洗浄: 石鹸や洗浄剤を使用した膣内洗浄は、乳酸菌を含む善玉菌を洗い流してしまい、細菌バランスを崩す最も一般的な原因の一つです。
  • 生理: 生理血はアルカリ性であり、また生理期間中は膣内の環境が変化しやすいため、細菌バランスが乱れることがあります。
  • 喫煙: 喫煙が膣内環境に直接どのように影響するかは不明確ですが、全身の免疫機能低下や血行不良などが関連している可能性が考えられます。
  • ホルモンバランスの変化: 妊娠、出産、閉経、経口避妊薬の使用など、ホルモンバランスの変化も膣内環境に影響を与えることがあります。
  • ストレスや体調不良: 全身の免疫力が低下すると、膣内の細菌バランスを保つ機能も弱まる可能性があります。
  • 抗菌薬の使用: 他の感染症の治療のために服用した抗菌薬が、膣内の乳酸菌まで死滅させてしまい、結果として細菌性膣症を引き起こすことがあります。

これらの要因が複合的に作用し、乳酸菌が優勢な状態から嫌気性菌が優勢な状態へと、膣内細菌叢の組成が変化することで細菌性膣症が発症します。

細菌性膣症の主な症状

細菌性膣症の最も特徴的な症状は、おりものの変化特有のにおいです。ただし、約半数の女性は無症状であるとも言われています。

具体的な症状は以下の通りです。

  • おりものの量の増加: 通常よりもおりものの量が増えることがあります。
  • おりものの性状の変化: サラサラとした、水っぽいまたはクリーム状のおりものになることが多いです。色は、白色、灰色、またはやや黄色っぽいことがあります。ヨーグルト状やカッテージチーズ状のおりもの(カンジダ性膣炎に多い)とは異なります。
  • 特有のにおい: 生臭い、魚のようなにおいが特徴的です。特に、性行為の後や生理中ににおいが強くなる傾向があります。これは、嫌気性菌が産生する特定の物質が原因です。
  • かゆみや刺激感: カンジダ性膣炎と比較すると頻度は少ないですが、軽度のかゆみや性交時の不快感を伴うこともあります。ただし、強いかゆみや灼熱感は細菌性膣症の典型的な症状ではありません。
  • 排尿時の不快感: まれに、排尿時に軽い不快感や痛みを伴うことがあります。

これらの症状は、他の膣の疾患と似ている場合もあります。特に、においは細菌性膣症に特徴的ですが、ご自身で判断するのは難しい場合もあります。症状がある場合は、自己判断せずに医療機関を受診することが重要です。

細菌性膣症と他の疾患との違い

細菌性膣症と症状が似ている、あるいは混同されやすい膣の疾患はいくつかあります。特に、カンジダ性膣炎トリコモナス膣炎は、おりものの変化やかゆみを伴う点で似ているため、正確な診断が不可欠です。

ここでは、細菌性膣症と、よく比較される「細菌性腟炎」および「カンジダ性腟炎」との違いについて解説します。

細菌性腟炎と細菌性腟症の違い

この二つの用語はしばしば混同されますが、意味合いが少し異なります。

  • 細菌性腟炎: 細菌によって引き起こされる膣の「炎症」全般を指す広義の言葉です。病原性の細菌が増殖し、膣粘膜に炎症を起こしている状態です。
  • 細菌性腟症: 細菌によって引き起こされる膣の状態のうち、特定の細菌(主に嫌気性菌)の異常増殖によって膣内細菌叢のバランスが崩れた状態を指します。細菌性膣症は、名前の「症」が示す通り、必ずしも強い炎症を伴わないこともあります。しかし、細菌性膣症も細菌によって引き起こされる状態であるため、広義では「細菌性腟炎」に含まれると考えることもできます。

一般的に医療の現場で「細菌性膣症(BV)」と言う場合、それは前述したような、乳酸菌が減少し嫌気性菌が増殖した、特有のおりものやにおいを伴う(あるいは無症状の)状態を指します。

細菌性膣症とカンジダ性腟炎の違い

細菌性膣症と同様に非常に一般的な膣の疾患に、カンジダ性膣炎があります。これらは原因も症状も異なります。

項目 細菌性膣症(Bacterial Vaginosis: BV) カンジダ性腟炎(Candidiasis)
原因 膣内細菌叢のバランスの崩れ(乳酸菌減少し嫌気性菌が増殖) カンジダという真菌(カビ)の異常増殖
主な病原体 ガードネレラ菌などの嫌気性菌 カンジダ・アルビカンスなどのカンジダ属の真菌
主な症状 – おりものの量増加
– 水っぽい、クリーム状のおりもの
生臭い、魚のようなにおい
– おりものの量増加
カッテージチーズ状、ヨーグルト状のおりもの
強いかゆみ、灼熱感
におい 強い(特に性交後、生理中) 通常ほとんどないか、弱い
かゆみ 軽度の場合もあるが、通常強くない 強いかゆみが特徴的
性感染症 厳密には異なるが、性行為がリスク因子 性感染症ではない(常在菌が原因)
膣内のpH アルカリ性に傾く(pH 4.5以上) 酸性またはほぼ正常(pH 4.0-4.5程度)

このように、おりものの性状、におい、そしてかゆみの有無・程度が、細菌性膣症とカンジダ性膣炎を区別する上で重要なポイントとなります。しかし、これらの症状は個人差が大きく、両方の疾患が同時に起こることもあります。そのため、自己判断は難しく、正確な診断のためには医療機関での検査が必要です。

細菌性膣症の検査と診断

細菌性膣症の診断は、主に症状の問診、内診、そして膣分泌物の検査によって行われます。

  1. 問診: 医師はまず、患者さんの症状(おりものの量・性状・におい、かゆみの有無、生理周期、性行為の状況など)について詳しく尋ねます。過去の膣の感染症の既往歴や、使用している避妊法、全身の健康状態なども確認されます。
  2. 内診: 内診台で、外陰部の状態や膣・子宮頸部を視診します。この際、おりものの状態(量、色、性状)が観察されます。
  3. 膣分泌物検査: 診断を確定するために最も重要な検査です。内診時に、綿棒を使って膣壁からおりものを採取します。採取したおりものについて、以下の検査が行われます。
    • 鏡検(顕微鏡検査): おりものをスライドガラスに載せ、顕微鏡で観察します。細菌の量や種類、特にクエールセル(Clue cell)と呼ばれる、膣上皮細胞に多数の細菌が付着した特徴的な細胞の有無を確認します。また、白血球(炎症の指標)の量や、カンジダの菌糸なども同時に確認できます。
    • アミンテスト(Whiff test): おりものに特定の液体(水酸化カリウム溶液)を数滴垂らします。細菌性膣症の場合、特有の生臭い、魚のようなにおい(アミン臭)が強くなることがあります。これは、嫌気性菌が産生するアミン類がアルカリによって遊離するためです。
    • 膣分泌物のpH測定: 膣分泌物のpHを測定します。細菌性膣症の場合、膣内がアルカリ性に傾いているため、pHが4.5以上を示すことが多くなります。

これらの検査結果を総合的に判断して、細菌性膣症の診断が下されます。一般的に、以下の4つの基準のうち3つ以上を満たす場合に細菌性膣症と診断されることが多いです(アムセル基準と呼ばれる診断基準)。

  • 特徴的な(生臭い、魚のような)おりもののにおい
  • 膣分泌物のpHが4.5以上
  • 鏡検でクエールセルが認められる
  • アミンテスト陽性

また、より専門的な施設では、膣分泌物中の特定の細菌の割合を遺伝子検査などで詳細に調べることもあります。

自己診断は症状が他の疾患と似ているため困難であり、また適切な治療を行わないと繰り返したり、合併症のリスクを高めたりするため、必ず医療機関を受診し、正確な診断を受けることが重要です。

細菌性膣症の治療法

細菌性膣症の治療は、主に抗生物質(抗菌薬)を用いて、異常増殖した嫌気性菌を抑えることを目的とします。

細菌性膣症の基本的な治療(抗生物質)

細菌性膣症の治療に用いられる主な抗生物質は以下の通りです。

  • メトロニダゾール: 最も一般的に使用される薬剤の一つです。内服薬(錠剤)または膣錠(膣内に入れる薬)があります。
    • 内服薬: 一定期間(例: 7日間など)服用します。全身に作用するため、効果が高いですが、吐き気、腹痛、金属のような味などの副作用が出ることがあります。アルコールとの併用で強い吐き気や嘔吐(ジスルフィラム様反応)を引き起こすことがあるため、治療期間中および治療後数日間は飲酒を避ける必要があります。
    • 膣錠・膣用ゲル: 膣内に直接挿入または塗布します。副作用は比較的少ないですが、治療期間は内服薬と同様に数日間続けます。
  • クリンダマイシン: メトロニダールが使用できない場合や、治療効果が不十分な場合に用いられることがあります。内服薬、膣クリーム、膣座薬などの形態があります。クリンダマイシンも下痢などの消化器系の副作用を起こすことがあります。
  • チニダゾール: メトロニダゾールと同様の効果を持つ内服薬です。メトロニダゾールよりも半減期が長く、短い期間(例: 2日間)の服用で済む場合もありますが、費用が高くなることがあります。
  • セクニダゾール: 近年、単回投与(1回の服用)で治療が完了する製剤も登場しています。忙しい方など、継続的な服用が難しい場合に選択肢となることがあります。

どの薬剤を選択するかは、医師が患者さんの症状、過去の治療歴、アレルギーの有無などを考慮して決定します。治療によって膣内の嫌気性菌が減少し、乳酸菌が再び増殖しやすい環境を整えることを目指します。

細菌性膣症の治療期間はどのくらい?

細菌性膣症の治療期間は、使用する薬剤の種類によって異なります。

  • 一般的な内服薬(メトロニダゾールなど): 通常5日から7日間服用します。
  • 膣錠・膣用ゲル: 内服薬と同様に通常5日から7日間使用します。
  • 短期間治療(チニダゾール、セクニダゾールなど): 薬剤によっては1回または2日間の服用で治療が完了するものもあります。

医師の指示された期間、必ず薬剤を最後まで使用することが重要です。症状が改善したからといって途中で中断すると、原因菌が完全に排除されずに再発したり、抗生物質に耐性を持つ菌が出現したりするリスクが高まります。

細菌性膣症は市販薬で治る?自分で治せる?

細菌性膣症を市販薬や自己判断で完全に治すことは、非常に難しい上に推奨されません。 その理由は以下の通りです。

  1. 診断の難しさ: 細菌性膣症の症状は、カンジダ性膣炎や他の膣の疾患と似ています。市販薬の中にはカンジダ性膣炎用のものがありますが、細菌性膣症には効果がありません。誤った診断で市販薬を使用すると、症状が改善しないだけでなく、かえって悪化させたり、適切な治療開始が遅れたりする可能性があります。
  2. 原因菌への効果: 細菌性膣症の原因となる嫌気性菌には、医師が処方する特定の抗生物質が必要です。市販されている膣洗浄剤やデリケートゾーン用のクリームなどは、細菌性膣症の根本的な原因である細菌の異常増殖を抑える効果はありません。
  3. 耐性菌のリスク: 自己判断で不適切な薬剤を使用したり、治療を途中でやめたりすると、原因菌が薬剤に対して耐性を持つようになるリスクがあります。耐性菌が増えると、その後の治療が難しくなる可能性があります。

したがって、細菌性膣症が疑われる症状がある場合は、必ず医療機関(婦人科など)を受診し、正確な診断に基づいた適切な処方薬で治療を行うことが最も安全で効果的な方法です。

細菌性膣症が治らない場合の考慮事項

指示された通りに治療薬を使用しても症状が改善しない、または一度改善したのにすぐに再発してしまうというケースもあります。細菌性膣症が治りにくい場合、いくつかの理由が考えられます。

  • 診断が間違っている: 実際には細菌性膣症ではなく、他の原因(例: カンジダ、トリコモナス、アレルギー、萎縮性膣炎など)による症状である可能性があります。再度医師に相談し、診断の見直しが必要か検討してもらいましょう。
  • 治療薬が効いていない: 使用した抗生物質が、患者さんの膣内で増殖している細菌に対して効果が低い、あるいはその細菌が既にその抗生物質に耐性を持っている可能性があります。他の種類の抗生物質への変更が検討されます。
  • 治療期間が不十分: 症状が改善したからといって途中で治療を中断した場合、原因菌が完全に排除されず、すぐに再発します。
  • リスク因子の継続: 治療中にリスク因子(過度な膣洗浄、喫煙、頻繁な性行為など)を解消しないままでいると、治癒を妨げたり、すぐに再発したりする原因となります。
  • パートナーの問題: 性行為がリスク因子となる場合、パートナーが細菌性膣症の原因菌を保有している可能性もゼロではありません(ただし、男性に症状が出ることは稀です)。パートナーも同時に治療が必要かどうかについては議論がありますが、繰り返す場合はパートナーの検査や治療が考慮されることもあります。
  • 再感染: 治療で一度改善しても、再度リスク因子にさらされることで感染(再発)することがあります。

治癒が難しい場合は、医師とよく相談し、原因を特定するための追加の検査や、治療法の変更などを検討することが重要です。

細菌性膣症の再発について

細菌性膣症は、治療によって一時的に症状が改善しても、再発しやすい疾患として知られています。治療後数ヶ月以内に約半数の女性が再発するという報告もあるほどです。

再発の原因は、治療によって一時的に嫌気性菌が減少しても、膣内の乳酸菌が十分に回復しなかったり、前述のリスク因子が解消されずに再び細菌バランスが崩れたりすることなどが考えられています。

再発を繰り返す場合は、以下のような対策が検討されることがあります。

  • 長期的な維持療法: 定期的に(例えば週に1回など)膣用のメトロニダゾールやクリンダマイシンを使用する。
  • 乳酸菌製剤(プロバイオティクス)の併用: 膣内に乳酸菌を補充することで、膣内細菌叢の回復を助ける。ただし、効果についてはまだ研究段階であり、種類によって効果が異なります。医師と相談して使用を検討します。
  • リスク因子の見直しと改善: 喫煙を控える、過度な膣洗浄をやめる、パートナーとの性行為の状況を見直すなど、可能な範囲でリスク因子を減らす努力をします。

再発を繰り返す場合も、自己判断せず、必ず医療機関で相談し、適切なアドバイスや治療を受けるようにしましょう。

細菌性膣症の予防と注意点

細菌性膣症を完全に予防する方法はありませんが、リスク因子を減らし、膣内環境を健康に保つためのいくつかの注意点があります。

  • 過度な膣洗浄を避ける: 膣は本来、自浄作用を備えています。石鹸や洗浄剤を使った膣内の洗いすぎは、必要な乳酸菌まで洗い流してしまい、細菌バランスを崩す原因となります。デリケートゾーンの洗浄は、外陰部をやさしく洗うだけで十分です。
  • 刺激の強いソープや製品の使用を控える: 香料や化学物質が多く含まれるソープ、バスボム、タンポン、ナプキンなどは、膣や外陰部に刺激を与え、環境を乱す可能性があります。できるだけ刺激の少ない製品を選びましょう。
  • 通気性の良い下着を選ぶ: コットンなどの天然素材で、締め付けの少ない下着を選ぶと、蒸れを防ぎ、細菌の異常増殖を抑えるのに役立ちます。
  • 生理用品をこまめに交換する: 生理中は膣内のpHが変化しやすく、細菌が増殖しやすい環境になります。ナプキンやタンポンは頻繁に交換し、清潔を保ちましょう。
  • 喫煙を控える: 喫煙は細菌性膣症のリスクを高めることが知られています。禁煙は全身の健康だけでなく、膣の健康のためにも推奨されます。
  • 安全な性行為を心がける: 複数のパートナーとの性行為や、新しいパートナーとの性行為はリスクを高める可能性があります。コンドームの使用は、一部のリスク(精液の影響など)を減らす可能性が指摘されていますが、完全に予防できるわけではありません。性行為後に排尿することや、体質に合った避妊法を選択することも重要です。
  • 体調管理: ストレスや寝不足などにより免疫力が低下すると、膣内環境も影響を受けることがあります。規則正しい生活を送り、体調を整えることも予防につながります。
  • 乳酸菌を意識した食事やサプリメント: 乳酸菌を含むヨーグルトなどの食品や、女性の膣内健康に特化したプロバイオティクスサプリメントの摂取が、膣内環境を整えるのに役立つという考え方もあります。ただし、医学的な効果についてはまだ研究段階であり、個人の体質や製品の種類によって効果は異なります。

これらの予防策は、細菌性膣症だけでなく、カンジダ性膣炎など他の膣のトラブルを防ぐためにも有効です。日頃からご自身の体のサインに注意し、清潔を保ちつつ、過度なケアは避けるように心がけましょう。

細菌性膣症に関するよくある質問

ここでは、細菌性膣症に関して多くの方が疑問に思われる点についてお答えします。

細菌性膣症は性感染症ですか?

細菌性膣症は、厳密には性感染症(STI)とは分類されません。なぜなら、細菌性膣症の原因となる細菌(主にガードネレラ菌など)は、性経験のない女性の膣内にも存在している常在菌であり、外部から「感染」してくる病原体とは少し性質が異なるためです。また、主に男性から女性へ、あるいはその逆といった一方的な経路で感染するわけでもありません。

しかし、性行為が細菌性膣症の発症や再発のリスクを高める重要な要因であることは事実です。特に新しいパートナーとの性行為や、複数のパートナーがいる場合はリスクが高まる傾向があります。これは、性行為によって膣内の環境(pHや細菌の種類)が変化することが原因と考えられています。

したがって、「性行為によって広がる可能性のある疾患」ではありますが、淋病やクラミジアのような古典的な性感染症とは区別されるのが一般的です。パートナーに症状が出ることは稀ですが、再発を繰り返す場合にパートナーの検査や治療が考慮されることもあります。

細菌性膣症を放置するとどうなりますか?

細菌性膣症は、無症状の場合や症状が軽度な場合もあり、「そのうち治るだろう」と放置してしまう方も少なくありません。しかし、細菌性膣症を放置すると、以下のような様々なリスクが高まる可能性があります。

  • 骨盤内炎症性疾患(PID)のリスク増加: 細菌性膣症の原因菌が子宮、卵管、卵巣へと上行し、これらの臓器に炎症を引き起こす可能性があります。PIDは、慢性的な骨盤痛、不妊症、子宮外妊娠などの重篤な合併症を引き起こすことがあります。
  • 妊娠に関する合併症のリスク増加: 妊娠中の女性が細菌性膣症にかかると、早産、前期破水(陣痛が始まる前に破水すること)、低出生体重児、絨毛膜羊膜炎(胎盤や羊膜の炎症)などのリスクが高まることが指摘されています。
  • 性感染症(STI)への罹患リスク増加: 細菌性膣症によって膣内の環境が悪化していると、HIV、淋病、クラミジアなどの他の性感染症にかかりやすくなるという報告があります。
  • 婦人科手術後の合併症リスク増加: 子宮摘出術や人工妊娠中絶などの婦人科手術を受ける際に細菌性膣症があると、術後に感染性合併症を起こすリスクが高まる可能性があります。

これらのリスクは、必ずしも細菌性膣症のすべてのケースで起こるわけではありませんが、可能性として存在する重大な問題です。特に妊娠を希望する方や妊娠中の方、婦人科手術を受ける予定のある方は、症状がなくても細菌性膣症の検査と治療を検討することが重要です。

細菌性膣症の治療費用は?

細菌性膣症の治療は、基本的に保険適用となります。そのため、医療費は日本の公的医療保険制度に基づき、自己負担割合(通常3割)が適用されます。

費用の内訳としては、以下のものが含まれます。

  • 診察料: 初診料または再診料
  • 検査料: 膣分泌物検査(鏡検、アミンテスト、pH測定など)
  • 薬剤費: 処方された抗生物質(内服薬または膣錠など)の費用

クリニックや病院の種類(診療所か大学病院かなど)や、行われる検査の内容、処方される薬剤の種類によって費用は多少異なりますが、一般的には、診察、検査、薬代を合わせて数千円程度となることが多いです。

例えば、初診で検査を行い、7日分の内服薬が処方された場合、自己負担3割で合計3,000円~5,000円程度が目安となることがあります。ただし、症状が複雑な場合や追加の検査が必要な場合、再診料がかかる場合などはこれより高くなることもあります。

正確な費用については、受診される医療機関に直接問い合わせるか、診察時に医師や受付で確認することをおすすめします。市販薬に比べて、保険適用される医療機関での治療の方が、結果的に安価で確実な場合がほとんどです。

細菌性膣症かもと思ったら医療機関へ

この記事では、細菌性膣症の感染率(罹患率・有病率)から、原因、症状、他の疾患との違い、診断、治療、予防、そしてよくある質問について解説しました。細菌性膣症は非常に一般的な疾患であり、多くの女性が経験する可能性があります。特定の性感染症とは異なりますが、性行為がリスクを高める要因となること、そして放置すると骨盤内炎症性疾患や妊娠合併症などのリスクを高める可能性があることをご理解いただけたかと思います。

おりものの量やにおいが気になる、いつもと違うと感じるなど、細菌性膣症かもしれないと思われる症状がある場合は、決して自己判断せず、早めに医療機関を受診することが最も重要です。 特に、婦人科または産婦人科のクリニックや病院にご相談ください。医師による正確な診断を受け、適切な抗生物質による治療をきちんと行うことで、ほとんどの場合、症状は速やかに改善します。

恥ずかしいと感じる必要はありません。これは女性にとって非常に身近な健康問題であり、医療機関は日々多くの女性の膣のトラブルに対応しています。早期に受診し、適切なケアを受けることで、不快な症状から解放され、潜在的な合併症のリスクを減らすことができます。ご自身の体のサインに耳を傾け、不安な時は専門家にご相談ください。

免責事項: 本記事の情報は一般的な知識を提供するものであり、個々の病状に関する診断や治療を目的としたものではありません。特定の症状や懸念がある場合は、必ず医療機関を受診し、専門家の診断とアドバイスを受けてください。本記事の情報に基づいて行われた行為によって生じたいかなる結果についても、当サイトは責任を負いかねます。

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