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B型肝炎の治療薬|どんな種類がある?効果・副作用は?

B型肝炎は、B型肝炎ウイルス(HBV)の感染によって引き起こされる肝臓の病気です。
感染が長く続くと、慢性肝炎から肝硬変、さらには肝がんに進行するリスクがあり、適切な治療が非常に重要となります。B型肝炎の治療では、ウイルスの増殖を抑え、肝臓の炎症を鎮めるための「治療薬」が中心となります。これらの薬は近年大きく進歩しており、多くの患者さんの予後を改善させています。
しかし、「どのような種類があるのか」「どんな効果があるのか」「副作用は?」といった疑問を持つ方も多いでしょう。本記事では、B型肝炎治療薬の種類や効果、治療期間、副作用、さらには最新の情報を分かりやすく解説します。ご自身の治療やご家族のサポートの参考にしてください。

目次

B型肝炎治療薬の基本的な考え方と治療の目標

B型肝炎の治療薬は、体内のB型肝炎ウイルスの増殖を強力に抑えること、そして免疫の働きを調整することを目指します。治療の最大の目標は、慢性肝炎の活動性を抑え、肝臓の線維化(硬くなること)の進行を防ぎ、将来的な肝硬変や肝がんの発症リスクを最小限にすることです。

完全に体からウイルスを排除する「ウイルス学的治癒」は現在の治療薬では非常に難しいとされていますが、臨床的な状態を良好に保ち、肝臓の機能を維持する「機能的治癒」を目指すことが現実的な目標となります。具体的には、血液中のHBV-DNA量(ウイルスの量)を検出限界以下にすること、肝臓の炎症を示すALT値(GPT)を正常化すること、そして可能であればHBe抗原を陰性化させ、HBe抗体が出現する「セロコンバージョン」を達成することなどが治療目標として掲げられます。

治療を開始するかどうかは、患者さんの年齢、肝臓の状態(炎症や線維化の程度)、HBV-DNA量、ALT値などを総合的に判断して決定されます。

B型肝炎治療薬の種類

現在、B型肝炎の治療に主に使われている薬剤は、大きく分けて「核酸アナログ製剤」と「インターフェロン製剤」の2種類があります。それぞれ作用の仕組みや特徴が異なり、患者さんの病状やライフスタイルに合わせて選択されます。

核酸アナログ製剤

核酸アナログ製剤は、B型肝炎ウイルスの遺伝子(DNA)が複製される過程を邪魔することで、ウイルスの増殖を強力に抑える飲み薬です。ウイルスの増殖を抑制する効果が非常に高く、長期間服用することで肝臓の炎症を鎮め、肝硬変や肝がんへの進行を抑えることが期待できます。

核酸アナログ製剤の特徴

  • 高い抗ウイルス効果: HBV-DNA量を迅速かつ強力に低下させます。
  • 経口服用: 1日1回、飲み薬として服用できます。
  • 比較的副作用が少ない: インターフェロンに比べると、全身性の副作用は少ない傾向があります。
  • 長期服用が原則: 多くの場合、効果を維持するために長期間(多くは生涯)の服用が必要です。自己判断での中止は、肝炎の急激な悪化(リバウンド)を引き起こすリスクがあるため厳禁です。

主要な核酸アナログ製剤一覧

現在、日本国内でB型肝炎の治療に使用されている主な核酸アナログ製剤には以下のものがあります。

薬剤名 一般名(成分名) 特徴
バラクルード® エンテカビル 最も多く使用される薬剤の一つ。強力な抗ウイルス作用。腎機能障害への注意が必要。
ベムリディ® テノホビル アラフェナミド テノゼットの後継薬。腎機能や骨への影響が比較的少ないとされる。
テノゼット® テノホビル ジソプロキシル 強力な抗ウイルス作用。腎機能障害や骨密度低下に注意が必要。
ゼフィックス® ラミブジン 初期に使用された薬剤。耐性が出現しやすいため、現在はあまり使用されない。
ヘプセラ® アデホビル ピボキシル 耐性が出現しやすいため、現在はあまり使用されない。腎機能障害に注意が必要。

エンテカビル(バラクルード®)

エンテカビルは、日本で最も広く使用されているB型肝炎治療薬の一つです。強力な抗ウイルス作用を持ち、多くの患者さんでHBV-DNA量を速やかに低下させます。ウイルスの耐性が出現しにくいとされていましたが、長期服用や他の核酸アナログ製剤での治療歴がある場合など、特定の条件下では耐性ウイルスが現れる可能性もゼロではありません。主に腎臓から排泄されるため、腎機能が低下している患者さんでは投与量の調整が必要となる場合があります。

テノホビル アラフェナミド(ベムリディ®)

テノホビル アラフェナミド(TAF)は、テノホビル ジソプロキシル フマル酸塩(TDF)を改良した新しいタイプのテノホビル製剤です。TDFよりも少ない量で同等の抗ウイルス効果が得られるため、腎臓への負担や骨密度の低下といった副作用のリスクが低いとされています。特に腎機能が低下している患者さんや、高齢者、骨粗しょう症のリスクがある患者さんにおいて選択されることが増えています。

テノホビル ジソプロキシル フマル酸塩(テノゼット®)

テノホビル ジソプロキシル フマル酸塩(TDF)も強力な抗ウイルス作用を持つ核酸アナログ製剤です。エンテカビルと同等かそれ以上の抗ウイルス効果を持つとされています。ただし、長期服用により腎機能障害や骨密度の低下が起こる可能性があるため、定期的な検査が必要です。ベムリディ®の登場により、新規でTDFが第一選択薬として処方されるケースは減少傾向にありますが、特定の状況や患者さんの状態によっては引き続き使用されます。

ラミブジン(ゼフィックス®)

ラミブジンは、日本で最初に承認された核酸アナログ製剤です。抗ウイルス作用はありますが、長期服用によりウイルスが耐性を持つ変異を起こしやすいという問題があります。そのため、現在は耐性ウイルスの出現を避ける目的で、他の強力な薬剤が使用できない場合に限定されたり、他の薬剤と併用されたりすることがありますが、第一選択薬として用いられることはほとんどありません。

アデホビル ピボキシル(ヘプセラ®)

アデホビル ピボキシルも、ラミブジンの次に登場した核酸アナログ製剤です。ラミブジン耐性ウイルスに対しても効果がありますが、こちらも長期服用により耐性ウイルスが出現しやすいという特徴があります。また、腎機能障害のリスクもラミブジンより高いとされています。そのため、現在は特殊なケースを除き、第一選択薬として使用されることは稀です。

インターフェロン製剤

インターフェロンは、人間の体内でウイルス感染時に作られるタンパク質で、ウイルスの増殖を抑えたり、免疫細胞の働きを活性化させたりする作用があります。B型肝炎の治療では、このインターフェロン製剤を注射することで、ウイルス排除に向けた免疫応答を促します。

インターフェロン製剤の特徴

  • ウイルス排除を促す: 免疫系を介してウイルスの排除を目指します。
  • 投与期間が限定的: 核酸アナログ製剤のように生涯服用するのではなく、通常48週間など、治療期間があらかじめ定められています。
  • 注射薬: 自身または医療従事者による注射が必要です。
  • 副作用が全身に出やすい: 発熱や倦怠感など、インフルエンザのような症状が出やすい傾向があります。
  • 適用対象が限られる: 若年者で肝臓の機能が比較的保たれている活動性の高い慢性肝炎の患者さんなどが主な対象となります。

ペグインターフェロン

ペグインターフェロンは、標準インターフェロンにポリエチレングリコール(PEG)という物質を結合させた製剤です。体内でゆっくりと分解されるため、週1回の注射で効果が持続するという特徴があります。標準インターフェロンよりも利便性が高く、B型肝炎治療では現在はこちらが主流となっています。特にHBe抗原陽性の慢性肝炎で、肝機能が比較的保たれている若い患者さんなどで、一定期間の治療でHBe抗原のセロコンバージョンを目指す場合などに選択肢となります。

標準インターフェロン

標準インターフェロンは、ペグ化されていないインターフェロン製剤です。週に3回の注射が必要であり、ペグインターフェロンに比べて投与回数が多くなります。現在ではペグインターフェロンが主流となったため、標準インターフェロンがB型肝炎の治療に用いられることは少なくなっています。

B型肝炎治療薬の効果

B型肝炎治療薬の主な効果は、体内のB型肝炎ウイルスの活動を抑え、それによって引き起こされる肝臓の炎症を鎮めることです。

ウイルス増殖の抑制

核酸アナログ製剤の最も直接的な効果は、B型肝炎ウイルスのDNAが増殖するサイクルを阻害することです。これにより、血液中のHBV-DNA量(ウイルスの量)を劇的に減らすことができます。ウイルスの量が少なくなると、肝臓へのダメージも減少します。エンテカビルやテノホビル製剤は非常に強力な抗ウイルス作用を持ち、多くの患者さんで治療開始後早期にHBV-DNA量が検出限界以下となります。

インターフェロン製剤もウイルスの増殖を抑える効果がありますが、核酸アナログ製剤のように直接的にDNA合成を阻害するのではなく、細胞内の抗ウイルス応答を誘導したり、免疫細胞を活性化させたりすることでウイルスの排除を促します。

肝炎進行の抑制

ウイルスの増殖が抑制されることで、肝臓の細胞がウイルスによって攻撃される機会が減り、肝臓の炎症(肝炎)が治まります。これにより、血液検査でのALT値(肝機能の指標の一つ)が正常化します。肝炎が長期間続くと、肝臓は線維化を起こして硬くなり、肝硬変へと進行してしまいます。治療薬によって肝炎が鎮静化することで、肝臓の線維化の進行を遅らせたり、場合によっては改善させたりすることが可能です。

肝炎の進行を抑制することは、将来的な肝硬変や肝がんといった重篤な病態への移行を防ぐ上で極めて重要です。核酸アナログ製剤の長期服用は、肝硬変への進行抑制効果、さらには肝がんの発症リスクを低下させる効果も確認されています。

B型肝炎は治療薬で完治する?現状について

B型肝炎における「完治」の定義はいくつかありますが、最も理想的なのは体内のB型肝炎ウイルスを完全に排除し、HBs抗原(ウイルス表面のタンパク質)も陰性化することです。しかし、B型肝炎ウイルスは肝臓の細胞核の中にcovalently closed circular DNA(cccDNA)という形で潜伏しており、現在の治療薬ではこのcccDNAを完全に除去することが極めて難しいのが現状です。

そのため、現在の治療薬による「完治」は、必ずしもウイルスを体から完全に排除することではなく、「機能的治癒」と呼ばれる状態を目指すことが一般的です。機能的治癒とは、HBs抗原が陰性化し、HBV-DNAも検出されなくなる状態を指します。この状態になれば、肝炎の活動性はほとんどなくなり、肝硬変や肝がんのリスクは大幅に低下します。

核酸アナログ製剤はHBV-DNAを強力に抑制しますが、HBs抗原を陰性化させる効果は限定的であり、機能的治癒に至る確率は年間1-2%程度とされています。インターフェロン製剤は、核酸アナログ製剤に比べると機能的治癒に至る確率がやや高いとされていますが、それでも全ての患者さんで達成できるわけではありません。

したがって、現在のB型肝炎治療薬は、「ウイルスを完全に排除する」というよりは、「ウイルスの活動を抑え込み、肝臓の健康を維持する」ことに主眼が置かれています。真の意味でのウイルス学的治癒を目指す新しい治療薬の開発が世界中で進められています。

B型肝炎治療薬は一生飲み続ける必要がある?治療期間について

B型肝炎治療薬の服用期間は、使用する薬剤の種類や患者さんの病状、治療目標によって異なります。

核酸アナログ製剤の場合:

核酸アナログ製剤は、原則として長期にわたる服用が必要です。多くの場合、肝炎の活動性を抑え、ウイルス量を低く維持するために、生涯にわたって服用を続ける必要があります。これは、核酸アナログ製剤がウイルスの増殖を抑えるものの、肝細胞の核内に存在するcccDNAを完全に除去できないため、服用を中止するとウイルスが増殖を再開し、肝炎が急激に悪化する(リバウンド)リスクがあるからです。

ただし、一部の患者さんでは、HBe抗原が陰性化してHBe抗体が出現するセロコンバージョンを達成し、かつHBV-DNAが長期間検出されない状態が維持された場合など、特定の条件を満たせば医師の慎重な判断のもと、核酸アナログ製剤の服用を中止できるケースも存在します。しかし、中止後もウイルスの再活性化リスクはゼロではないため、定期的な経過観察は必須です。

インターフェロン製剤の場合:

インターフェロン製剤による治療は、核酸アナログ製剤とは異なり、あらかじめ治療期間が定められています。一般的な治療期間は48週間(約1年間)です。インターフェロン治療は、一定期間の治療でウイルス排除に向けた免疫応答を誘導し、治療終了後もウイルスの増殖が低い状態を維持することを目指します。治療期間中に効果が確認されれば、治療を終了します。しかし、治療終了後にウイルスが再び活性化することもあり、その場合は核酸アナログ製剤による治療への切り替えが検討されます。

どちらの治療法を選択し、どのくらいの期間治療を続けるかは、患者さん一人ひとりの病状、年齢、将来の妊娠希望、経済状況、副作用のリスクなどを考慮して、専門医が総合的に判断します。自己判断で治療を中断することは非常に危険ですので、必ず医師の指示に従うようにしてください。

第一選択薬とは?B型肝炎治療薬の選択基準

「第一選択薬」とは、ある病気に対して、治療ガイドラインなどにおいて最初に推奨される薬剤のことを指します。現在の日本のB型肝炎治療ガイドラインにおいて、慢性B型肝炎やB型肝炎ウイルスによる肝硬変に対する第一選択薬として推奨されているのは、以下の核酸アナログ製剤です。

  • エンテカビル(バラクルード®)
  • テノホビル アラフェナミド(ベムリディ®)
  • テノホビル ジソプロキシル フマル酸塩(テノゼット®)

これらの薬剤は、強力な抗ウイルス作用、耐性ウイルスの出現しにくさ、そして肝硬変や肝がんの発症を抑制する効果が多くの臨床試験で確認されていることから、優先的に使用されます。

B型肝炎治療薬の選択基準

どの薬剤を使用するかは、患者さんの状態によって以下の要素を考慮して慎重に決定されます。

  • 年齢: 若年者で肝機能が保たれている場合はインターフェロン治療も選択肢となり得ます。
  • 肝臓の状態: 肝炎の活動性(ALT値など)、肝臓の線維化や肝硬変の有無、肝機能の程度が重要です。
  • HBV-DNA量: ウイルスの量が多いほど治療の必要性が高まります。
  • HBe抗原/抗体の状態: HBe抗原陽性か陰性かによって、治療薬の選択や治療目標が異なる場合があります。
  • 既往歴や合併症: 腎臓病、骨粗しょう症、精神疾患などの合併症がある場合は、特定の薬剤が適さないことがあります。
  • 薬剤耐性の有無: 過去に核酸アナログ製剤による治療歴がある場合、その薬剤に対する耐性ウイルスの有無を確認し、それに有効な薬剤を選択します。
  • 妊娠希望: 将来妊娠を希望する女性の場合、妊娠中に安全に使用できる薬剤を選択したり、治療計画を立てたりする必要があります。
  • 患者さんの意向: 飲み薬が良いか、注射でも良いか、治療期間が限定されている方が良いかなど、患者さんの希望も考慮されます。

これらの情報を総合的に判断し、患者さんにとって最も効果が高く、かつ安全に治療を継続できる薬剤が選択されます。治療開始後も効果や副作用を定期的に評価し、必要に応じて薬剤の変更や追加が行われます。

B型肝炎治療薬の副作用

B型肝炎治療薬には、残念ながらいくつかの副作用が存在します。副作用の種類や程度は薬剤の種類によって大きく異なり、また個人差もあります。

核酸アナログ製剤の副作用:

核酸アナログ製剤は、インターフェロン製剤に比べると副作用が少ない傾向があります。しかし、全くないわけではありません。

  • テノホビル ジソプロキシル フマル酸塩(TDF)関連: 長期服用により、腎機能障害やファンコニー症候群(腎臓の尿細管障害)、骨密度の低下などが起こる可能性があります。特に腎臓に持病がある方や高齢者では注意が必要です。定期的な腎機能検査や骨密度検査が行われます。
  • エンテカビル(ETV)関連: 一般的に副作用は少ないとされていますが、頭痛、倦怠感、吐き気などが報告されることがあります。腎機能が低下している場合は投与量の調整が必要です。
  • テノホビル アラフェナミド(TAF)関連: TDFに比べて腎機能や骨への影響は少ないとされていますが、頭痛や吐き気、腹痛などが報告されることがあります。
  • ラミブジン、アデホビル ピボキシル関連: かつて使用されていましたが、耐性が出やすいこと以外に、アデホビル ピボキシルでは腎機能障害のリスクがありました。

核酸アナログ製剤による重篤な副作用は稀ですが、筋肉痛や脱力感、吐き気、腹痛などの症状が出た場合は、乳酸アシドーシス(体内に乳酸が溜まる病態)の可能性もゼロではないため、速やかに医師に相談する必要があります。

インターフェロン製剤の副作用:

インターフェロン製剤は、核酸アナログ製剤に比べて副作用が全身に現れやすいという特徴があります。

  • インフルエンザ様症状: 投与開始後、発熱、頭痛、関節痛、筋肉痛、倦怠感といったインフルエンザのような症状が出現することが多く、多くの患者さんが経験します。これらの症状は通常、投与を続けるうちに軽減します。
  • 精神神経症状: うつ病、不眠、イライラ感、集中力の低下などが起こることがあります。治療中に精神的な不調を感じた場合は、すぐに医師に伝えることが重要です。
  • 血液検査値異常: 白血球減少、血小板減少、貧血などが起こることがあります。これらの異常が強い場合は、感染しやすくなったり出血しやすくなったりするため、投与量の減量や中止が必要になる場合があります。
  • 甲状腺機能異常: 甲状腺機能亢進症や低下症を来すことがあります。定期的な甲状腺機能検査が必要です。
  • 自己免疫疾患の悪化または発症: 関節リウマチや乾癬などの自己免疫疾患が悪化したり、新たに発症したりすることがあります。
  • その他: 食欲不振、吐き気、脱毛、皮膚の乾燥やかゆみ、網膜症(目の病気)などが起こることもあります。

インターフェロン治療中は、これらの副作用に注意しながら、定期的に血液検査などで全身の状態をチェックする必要があります。副作用がつらい場合は我慢せずに医師に相談し、症状を和らげる薬を使ったり、インターフェロンの量を調整したりすることが可能です。

副作用については、治療開始前に医師から十分に説明を受け、気になる症状が現れた場合は速やかに相談することが何よりも大切です。

B型肝炎治療における公費助成制度

B型肝炎の治療は、多くの場合長期にわたるため、医療費の負担が大きくなることがあります。しかし、日本ではB型肝炎の患者さんに対し、医療費の公費助成制度が設けられています。この制度を利用することで、医療費の自己負担額を軽減することができます。

公費助成制度の概要:

  • 対象: 一定の条件を満たすB型肝炎の患者さんが対象となります。具体的には、ウイルスを排除することを目的としたインターフェロン治療や、ウイルスの増殖を抑制することを目的とした核酸アナログ製剤治療を受ける方が対象です。病状や年齢などの要件があります。
  • 助成内容: 対象となるB型肝炎に関する医療費(診察、検査、薬剤費など)について、自己負担額の上限が定められます。これにより、窓口での支払いが一定額を超える分は公費で賄われます。自己負担上限額は、患者さんの世帯の所得状況などによって異なります。
  • 手続き: 公費助成を受けるためには、お住まいの都道府県や市区町村に申請手続きを行う必要があります。医師の診断書や住民票、所得証明書などの書類が必要になります。申請が認められれば、受給者証が交付され、医療機関の窓口で提示することで助成を受けることができます。

この制度は、B型肝炎患者さんが経済的な負担を心配することなく、必要な治療を継続できるようにすることを目的としています。制度の詳細や申請方法については、お住まいの自治体の担当窓口や、かかりつけの医療機関、地域の肝疾患診療連携拠点病院などに相談することをおすすめします。制度の内容は変更されることもありますので、最新の情報を確認することが重要です。

B型肝炎治療薬の今後の展望:特効薬は開発されるか?

現在のB型肝炎治療薬、特に核酸アナログ製剤は、ウイルスの増殖を強力に抑え、肝炎の進行や肝硬変・肝がんの発症リスクを低下させる点で大きな成果を上げています。しかし、これらの薬剤でウイルスを体から完全に排除し、「真の完治」(HBs抗原の消失)を達成することは多くの患者さんにとって困難です。これは、肝細胞の核内に潜むcovalently closed circular DNA(cccDNA)が治療抵抗性の原因となっているためです。

このcccDNAを除去したり、ウイルスの生活環の別の段階を標的としたりする、新しい作用機序を持つ薬剤の開発が世界中で活発に進められています。これらの新しい薬剤候補は、以下のような様々なアプローチでB型肝炎の克服を目指しています。

  • cccDNAの分解・不活性化を標的とする薬: ウイルスの根源であるcccDNAを直接ターゲットにする研究。
  • ウイルス粒子(HBV)の産生・放出を阻害する薬: ウイルスが細胞から出ていくのを妨げる研究。
  • ウイルス遺伝子の転写・翻訳を阻害する薬(siRNAなど): ウイルスが自身のタンパク質を作るのを妨げる研究。
  • ウイルスの細胞への侵入を阻害する薬: ウイルスが肝細胞に入り込むのを防ぐ研究。
  • 宿主の免疫応答を増強する薬: 体自身の力でウイルスを排除できるように免疫システムを活性化させる研究。

これらの新しい薬剤は、単独で、あるいは現在の核酸アナログ製剤やインターフェロン製剤と組み合わせて使用することで、より高い確率でHBs抗原の消失、すなわち機能的治癒、さらにはウイルス学的治癒を目指せる可能性があります。

現時点では、これらの薬剤候補の多くはまだ開発の初期段階や臨床試験の途上であり、一般診療で利用できるようになるまでにはまだ時間がかかります。しかし、研究開発は着実に進んでおり、近い将来、B型肝炎に対するより効果的な「特効薬」が登場することが期待されています。B型肝炎治療の未来は明るく、患者さんにとって希望となる新しい治療法が開発される可能性は十分にあります。

まとめ:B型肝炎治療薬について

B型肝炎の治療は、核酸アナログ製剤とインターフェロン製剤を適切に使用することで、ウイルスの活動を抑え、肝炎の進行を抑制し、肝硬変や肝がんへの移行リスクを大幅に減らすことが可能になりました。

  • 核酸アナログ製剤(エンテカビル、テノホビル製剤など)は、ウイルスの増殖を強力に抑える飲み薬で、原則として長期(生涯)の服用が必要です。比較的副作用は少ないですが、薬剤ごとに注意すべき副作用があります。
  • インターフェロン製剤(ペグインターフェロンなど)は、免疫の力でウイルスを排除することを目指す注射薬で、治療期間は限定されています。インフルエンザ様症状などの全身性の副作用が出やすい特徴があります。

現在の治療薬では、ウイルスを完全に体から排除する「真の完治」は難しいですが、肝臓の健康を維持する「機能的治癒」を目指すことが現実的な目標です。どの薬剤を使用するか、治療をいつ開始するか、どのくらいの期間続けるかなどは、患者さんの病状や状態を総合的に判断し、専門医によって決定されます。

B型肝炎の治療は長期にわたることが多く、医療費の負担が心配される方もいらっしゃるかもしれませんが、国による公費助成制度を利用することができます。

また、B型肝炎に対するより効果的な新しい治療薬の開発も進められており、将来的に「真の完治」を目指せる薬剤が登場する可能性もあります。

B型肝炎の治療は、患者さん一人ひとりの状態に合わせて最適化される必要があります。治療薬に関する疑問や不安、副作用と思われる症状などがあれば、自己判断せずに必ず医師や薬剤師に相談してください。定期的な通院と検査を続け、専門医の指示に従うことが、B型肝炎と向き合い、健康を維持していく上で最も重要です。

免責事項: 本記事の情報は、一般的な知識を提供するものであり、個々の患者さんの病状診断や治療法を示すものではありません。実際の治療にあたっては、必ず医師の診断と指導を受けてください。記事の内容によって生じたいかなる損害についても、一切の責任を負いかねます。

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