周期性四肢運動障害は、睡眠中に周期的な不随意運動が繰り返し起こる睡眠関連運動障害の一つです。
主に足の関節(足首、膝、股関節)に、短い時間(0.5~10秒程度)の伸展(伸びる)や屈曲(曲がる)の動きが、20~90秒間隔で繰り返される特徴があります。
この動き自体に自覚がないことが多く、一緒に寝ている家族に指摘されたり、睡眠の質が低下している原因を調べた際に発見されたりすることがあります。
この障害によって睡眠が妨げられると、日中の眠気や集中力の低下、疲労感などを引き起こし、日常生活に支障をきたすことがあります。
一般的には中高年で多く見られますが、子供にも見られることがあります。
正確な診断には、睡眠中の脳波や体の動きを記録する睡眠ポリグラフ検査(PSG)が不可欠です。
周期性四肢運動障害とは?PLMDの基礎知識
周期性四肢運動障害(Periodic Limb Movement Disorder:PLMD)は、睡眠中に手足、特に下肢の関節に、短い時間で繰り返される不随意な運動を特徴とする病気です。
この「周期性」という言葉が示す通り、これらの運動がある一定の間隔で規則的に出現するのが最も重要な特徴です。
多くの場合、本人はこの運動に気づいていません。
どのような運動が起こる?特徴的な症状
周期性四肢運動障害で起こる運動は、主に足首の背屈(足の甲側に曲げる動き)や、つま先の伸展(伸ばす動き)といった下肢の動きが典型的です。
膝や股関節が同時に曲がる動きも見られることがあります。
これらの動きは通常、片側の足に起こりますが、両側の足に同時に、あるいは交互に起こることもあります。
一回の運動は0.5秒から10秒程度と短く、これが20秒から90秒程度の規則的な間隔で繰り返されます。
この繰り返しのパターンが「周期性」と呼ばれる所以です。
運動が連続して4回以上出現し、かつその間隔がこの範囲内であることが診断の一つの基準となります。
この運動は、睡眠の浅いノンレム睡眠のステージ1やステージ2で最も頻繁に起こりやすい傾向がありますが、レム睡眠中にも見られることがあります。
レストレスレッグス症候群(RLS)との違いと関連性
周期性四肢運動障害(PLMD)とよく混同されたり、関連性が指摘されたりするのが、レストレスレッグス症候群(Restless Legs Syndrome:RLS)、日本語で「むずむず脚症候群」です。
これらはどちらも下肢の不快な感覚や運動に関連する病気ですが、いくつかの重要な違いがあります。
最も大きな違いは、自覚症状の有無と運動の性質です。
RLSは、主に夕方から夜間にかけて安静にしている時に、下肢に「虫がはうような」「むずむずする」「かゆい」「痛い」といった耐え難い不快な感覚が現れるのが特徴です。
この不快な感覚を和らげるために、意図的に足を動かしたいという強い衝動が生じ、実際に足を動かすことで一時的に症状が軽減します。
つまり、RLSは不快な感覚とその感覚を解消するための意図的な運動が主体です。
一方、PLMDは、睡眠中に、本人の意思とは無関係に起こる周期的な不随意運動が特徴です。
PLMDの患者さんの多くは、この運動自体に気づいていません。
家族に「寝ている時に足がピクピク動いている」と指摘されて初めて気づいたり、日中の強い眠気の原因を調べる中で診断されたりします。
ただし、PLMDとRLSには関連性があります。
RLSの患者さんの約80%が、睡眠中にPLMDを合併していると言われています。
しかし、PLMDがあるからといって必ずしもRLSがあるわけではありません。
PLMDはあっても、RLSの特徴的な不快な感覚や強い運動衝動を伴わない人も多くいます。
両者は併存することの多い、しかし別の診断名を持つ疾患として区別されています。
両者の違いをまとめると以下のようになります。
特徴 | 周期性四肢運動障害 (PLMD) | レストレスレッグス症候群 (RLS) |
---|---|---|
運動のタイミング | 主に睡眠中 | 主に安静時(特に夕方から夜間)、睡眠中も起こりうる |
運動の性質 | 周期的な足(主に下肢)の伸展・屈曲運動 | 虫がはうような不快な感覚に伴う、意図的な足を動かしたい衝動 |
自覚症状 | ほとんどなく、パートナーの訴えやPSG検査で気づくことが多い | 不快な感覚と運動したい衝動が主な症状 |
診断の主体 | 睡眠ポリグラフ検査 (PSG) による客観的な運動評価 | 特徴的な自覚症状に基づく問診 |
睡眠への影響 | 周期的な覚醒や睡眠の質の低下 | 入眠困難、中途覚醒 |
周期性四肢運動障害の主な原因
周期性四肢運動障害(PLMD)の原因は、残念ながらまだ完全に解明されているわけではありません。
原因が特定できない「特発性」の場合と、他の病気や薬剤に関連して起こる「続発性」の場合に大きく分けられます。
特発性(原因不明)の場合
特発性のPLMDの場合、特定の明らかな基礎疾患や薬剤が原因として見当たらないものを指します。
この場合、脳内の神経伝達物質、特にドパミン系の機能異常や、鉄代謝の異常などが関連している可能性が研究されています。
ドパミンは運動調節に関わる重要な神経伝達物質であり、このシステムの働きが悪くなると、不随意運動が起こりやすくなると考えられます。
また、脳内の鉄分はドパミンの合成に必要な酵素の働きを助ける役割を担っているため、鉄分が不足するとドパミンの働きが低下し、PLMDやRLSの発症に関与する可能性が指摘されています。
しかし、これらのメカニズムはまだ仮説の段階であり、特発性のPLMDの正確な原因や発症メカニズムについては、さらなる研究が必要です。
遺伝的な要因も関連している可能性があり、家族内でPLMDやRLSが見られることもあります。
続発性(合併症や薬剤)の場合
続発性のPLMDは、特定の病気や体の状態、あるいは服用している薬剤が原因となって引き起こされるものです。
様々な病態がPLMDの発症リスクを高めることが知られています。
- 神経疾患:
- 末梢神経障害: 糖尿病性神経障害や尿毒症性神経障害など、手足の神経に障害が起こるとPLMDのリスクが高まります。神経の信号伝達に異常が生じることが原因と考えられます。
- 脊髄疾患: 脊髄の損傷や病気も、下肢の神経系の機能に影響を与え、周期的な不随意運動を引き起こすことがあります。
- パーキンソン病などの運動障害疾患: これらの疾患ではドパミン系の異常がみられるため、PLMDやRLSを合併することがしばしばあります。
- 全身性疾患:
- 腎不全: 慢性腎不全、特に透析を受けている患者さんでは、体内の老廃物の蓄積や電解質バランスの異常などが原因となり、PLMDが高頻度に見られます。
- 鉄欠乏性貧血: 体内の鉄分が不足すると、脳内の鉄分も減少し、ドパミン系の機能に影響を与える可能性が指摘されています。これは特発性のメカニズムとも関連しますが、鉄欠乏が明らかな場合は続発性として扱われることもあります。
- 妊娠: 特に妊娠後期にPLMDやRLSの症状が出現または悪化することがあります。ホルモンバランスの変化や鉄欠乏などが関与すると考えられています。
- 睡眠障害:
- 睡眠時無呼吸症候群 (SAS): 睡眠中の呼吸停止や低呼吸を繰り返す病気ですが、SASの患者さんでもPLMDの合併が多いことが知られています。正確なメカニズムは不明ですが、睡眠の質の低下や低酸素状態などが関与する可能性があります。
- ナルコレプシー: 強い日中の眠気を特徴とする病気ですが、ナルコレプシーの患者さんでもPLMDが合併することがあります。
- 薬剤:
- 特定の薬剤がPLMDを引き起こしたり、悪化させたりすることがあります。特に、うつ病治療薬の一部(三環系抗うつ薬やSSRIなど)、抗ヒスタミン薬の一部、吐き気止めの一部、ドパミン受容体遮断薬などが関連する可能性が報告されています。これらの薬剤は、脳内の神経伝達物質のバランスに影響を与えることで、不随意運動を誘発すると考えられています。
続発性のPLMDの場合、原因となっている基礎疾患の治療や、可能であれば薬剤の変更・中止を行うことで、PLMDの症状が改善することが期待できます。
鉄欠乏との関連性
先述の通り、鉄欠乏は特発性・続発性の両方の観点からPLMDやRLSとの関連が強く指摘されています。
体内の鉄分は、血液中のヘモグロビンの合成だけでなく、脳内のドパミン代謝においても重要な役割を果たしています。
ドパミンの合成には、鉄を補因子とするチロシン水酸化酵素という酵素が必要です。
鉄分が不足すると、この酵素の働きが低下し、脳内のドパミン合成が減少する可能性があります。
このドパミン系の機能低下が、PLMDやRLSでみられる不随意運動や不快な感覚に関与していると考えられています。
鉄欠乏は、必ずしも貧血を伴うとは限りません。
貯蔵鉄を示すフェリチン値が低いだけでも、PLMDやRLSの症状が現れることがあります。
そのため、PLMDが疑われる場合には、血液検査で血清フェリチン値を測定し、鉄の状態を確認することが重要です。
鉄欠乏が確認された場合は、鉄剤の補充療法がPLMDの症状改善に有効な場合があります。
周期性四肢運動障害の代表的な症状
周期性四肢運動障害(PLMD)の症状は、主に睡眠中に現れる不随意運動と、それに伴う睡眠の質の低下や日中の様々な問題として現れます。
夜間の不随意運動(ピクピク、バタバタ)
PLMDの最も特徴的な症状は、睡眠中に規則的な間隔で繰り返される手足の不随意運動です。
多くの場合、この運動は本人の意思とは無関係に起こり、本人には自覚がありません。
一緒に寝ている家族やパートナーが「寝ている時に足がピクピクしている」「足をバタバタさせている」といった形で気づくことが一般的です。
この運動は、通常、足首が上向きにピクッと動く(背屈)、またはつま先が伸びる(伸展)動きが主体です。
膝や股関節が同時に曲がる動きを伴うこともあります。
運動の強さは軽いピクつきから、布団を蹴り飛ばすような強い動きまで様々です。
これらの運動は、0.5秒から10秒程度の短い持続時間で、20秒から90秒程度の規則的な間隔で繰り返されます。
一晩に数百回、あるいは千回以上もの運動が記録されることもあります。
この周期的な運動は、特にノンレム睡眠の浅い段階(ステージ1、ステージ2)で頻繁に起こりますが、深い睡眠(ステージ3)やレム睡眠中にも見られることがあります。
レム睡眠中は筋弛緩が起こるため、大きな運動は起こりにくいとされていますが、顔の表情筋などに小さな動きが見られることもあります。
睡眠への影響と日中の症状
周期性四肢運動障害による夜間の不随意運動は、たとえ本人が気づいていなくても、脳波上の一時的な覚醒反応(アロウザル)を引き起こすことがあります。
この覚醒反応が繰り返されると、睡眠が分断され、睡眠の質が著しく低下します。
たとえ十分な時間寝ていても、深い睡眠や連続した睡眠が妨げられるため、「寝た気がしない」「朝起きてもスッキリしない」といった感覚になります。
慢性的な睡眠不足や睡眠の質の低下は、日中に様々な症状を引き起こします。
- 日中の過度の眠気: 十分な睡眠時間が確保できていても、睡眠の質が悪いために日中に強い眠気を感じます。仕事中や運転中に眠気に襲われることもあり、事故のリスクを高めます。
- 疲労感: 常に体がだるく、疲れがとれないと感じます。
- 集中力・注意力の低下: 睡眠不足は脳の機能を低下させ、物事に集中できなかったり、ミスが増えたりします。
- 記憶力・判断力の低下: 思考力が鈍り、物事を覚えたり、適切な判断を下したりすることが難しくなることがあります。
- イライラ、気分の落ち込み: 慢性的な睡眠不足は精神的な不安定さを招き、易怒性(怒りっぽくなる)や抑うつ気分を引き起こすことがあります。
これらの日中の症状は、患者さんのQOL(生活の質)を著しく低下させます。
また、日中の眠気や集中力の低下は、仕事のパフォーマンス低下や学業不振にもつながる可能性があります。
子供に見られる周期性四肢運動障害の症状
周期性四肢運動障害は大人だけでなく、子供にも見られます。
子供の場合、大人と同様に夜間の不随意運動が起こりますが、本人がその運動に気づくことはほとんどありません。
親が寝ている子供の足がピクピクしているのを見て気づくことが多いです。
子供のPLMDの症状は、日中の活動に影響を与える形で現れることが特徴的です。
大人のような強い眠気として現れることもありますが、それよりも集中力の欠如、多動性、衝動性といった症状が目立つことがあります。
これらの症状は、注意欠陥・多動性障害(ADHD)の症状と似ているため、PLMDが見過ごされてADHDと診断されているケースも少なくありません。
子供のPLMDが疑われる場合には、睡眠中の様子を観察するだけでなく、専門医による診察や睡眠ポリグラフ検査を行い、ADHDや他の睡眠障害との鑑別を慎重に行うことが重要です。
子供のPLMDによる睡眠障害を適切に診断・治療することで、日中の症状が改善し、学業や日常生活の質が向上することが期待できます。
周期性四肢運動障害の診断方法
周期性四肢運動障害(PLMD)は、主に睡眠中に起こる不随意運動であり、本人が自覚していないことが多いため、診断には客観的な評価が不可欠です。
診断の中心となるのは、睡眠ポリグラフ検査(PSG)です。
睡眠ポリグラフ検査(PSG)による評価
睡眠ポリグラフ検査(PSG)は、睡眠専門の医療機関などで一晩入院して行われる検査です。
睡眠中の脳波、眼球運動、筋電図(特に下肢)、呼吸、心電図、血中酸素飽和度など、様々な生理学的信号を同時に記録します。
PLMDの診断において最も重要なのは、下肢の筋電図と脳波の記録です。
下肢(主に足首の前面にある前脛骨筋)にセンサーを取り付け、睡眠中に筋肉が活動したパターンを記録します。
PSGの記録を解析することで、以下のような周期性四肢運動障害の特徴的なパターンを確認します。
- 周期性四肢運動 (PLM) の検出: 睡眠中に短い時間(0.5~10秒)の下肢の筋活動が記録されているかを確認します。この筋活動は通常、足首の背屈や膝の屈曲といった運動に対応しています。
- 周期性の評価: 検出されたPLMが、20秒から90秒の間隔で規則的に繰り返されているかを確認します。
- 周期性四肢運動指数 (PLMI) の算出: 1時間あたりのPLMの出現回数であるPLMIを算出します。一般的に、成人の場合、PLMIが15回/時以上であれば周期性四肢運動が存在すると考えられます。ただし、この数値だけでPLMDと診断されるわけではなく、後述する睡眠への影響や日中の症状の有無が重要です。
- アロウザル(覚醒反応)の評価: PLMの出現に伴って、脳波上に一時的な覚醒反応(アロウザル)が生じているかを確認します。このアロウザルが、PLMDによる睡眠障害の主要な原因と考えられています。PLMに伴うアロウザルが多いほど、睡眠の質が低下している可能性が高まります。
PSG検査は、PLMDの有無だけでなく、睡眠時無呼吸症候群やナルコレプシー、他の睡眠関連運動障害など、睡眠に影響を与える他の様々な病気を同時に評価できるため、睡眠障害の原因を総合的に判断するために非常に有用です。
医師による診断基準と問診
睡眠ポリグラフ検査の結果に加え、医師による詳細な問診も診断には不可欠です。
国際睡眠障害分類(ICSD)などの診断基準に基づいて診断が行われます。
診断基準では、以下の要素が考慮されます。
- 特徴的な周期性四肢運動の存在: PSG検査で、睡眠中に特徴的な周期性四肢運動が確認され、PLMIが一定基準(例:成人で15回/時以上、子供で5回/時以上)を満たすこと。
- 睡眠障害または日中の症状の存在: 周期性四肢運動が原因となって、不眠(入眠困難、中途覚醒、早朝覚醒など)や、日中の過度の眠気、疲労感、集中力低下などの症状が現れていること。PLMはPSGで検出されても、睡眠や日中の症状に影響を与えていない場合は、「周期性四肢運動」として診断されますが、「周期性四肢運動障害」とは区別されます。
- 他の睡眠障害や医学的・精神医学的状態、薬剤による影響を除外: 上記の症状が、他の睡眠障害(レストレスレッグス症候群、睡眠時無呼吸症候群など)や、神経疾患、全身性疾患、精神疾患、あるいは現在服用している薬剤によって引き起こされている可能性を除外します。特にRLSの症状を伴わないことを確認します。
問診では、患者さんの睡眠に関する悩み(寝つき、途中で目が覚める、朝早く目が覚める、寝た気がしないなど)や、日中の症状(眠気、だるさ、集中力)、既往歴、現在罹患している病気、服用中の薬(市販薬やサプリメントを含む)、飲酒・喫煙の習慣、家族歴などを詳細に聞き取ります。
また、一緒に寝ている家族がいる場合は、その方からの情報(寝ている時の体の動き、いびきの有無など)も診断の重要な手がかりとなります。
周期性四肢運動障害の効果的な治療法
周期性四肢運動障害(PLMD)の治療は、夜間の周期性四肢運動を抑制し、それに伴う睡眠の質の低下や日中の症状を改善することを目的とします。
治療法には薬物療法が中心となりますが、薬を使わない非薬物療法や生活習慣の改善も重要です。
薬物療法によるアプローチ
PLMDの症状が強く、睡眠障害や日中の症状によって日常生活に大きな支障が出ている場合には、薬物療法が考慮されます。
主に以下のような薬剤が用いられます。
- ドパミン作動薬:
- RLSの治療にも用いられる薬剤で、脳内のドパミン系の働きを補うことで、周期性四肢運動を抑制する効果が期待できます。ロピニロール、プラミペキソール、ローティゴチン(貼り薬)などがあります。
- 一般的に少量から開始し、効果を見ながら増量されます。効果が高いことが多いですが、副作用として吐き気、めまい、眠気などが見られることがあります。
- 注意点として、長期連用によりアグメンテーション(症状が悪化したり、日中に現れるようになったりする現象)や衝動制御障害(病的賭博、買いあさり、性行動異常など)のリスクが指摘されており、慎重な使用が必要です。レボドパも使用されることがありますが、アグメンテーションのリスクが高いため、頓服や間欠的な使用に限られることが多いです。
- 非ベンゾジアゼピン系 GABA受容体作動薬:
- 睡眠薬として用いられることが多い薬剤ですが、周期性四肢運動に伴う覚醒反応を抑え、睡眠を安定させる効果が期待できます。ゾルピデムやエスゾピクロンなどがあります。
- 直接的に運動を抑制する効果は低いとされていますが、睡眠の質を改善することで日中の症状の軽減につながります。
- 副作用として、日中の眠気、ふらつき、健忘などが見られることがあります。依存性のリスクもゼロではないため、必要最低限の使用が推奨されます。
- 抗てんかん薬:
- 神経の過剰な興奮を抑える作用を持つ一部の抗てんかん薬(ガバペンチン、プレガバリンなど)が、PLMDの治療に有効な場合があります。
- 特にドパミン作動薬が効きにくい場合や副作用で使用できない場合などに選択肢となります。
- 副作用として、眠気、めまい、ふらつきなどが見られることがあります。
- 鉄剤:
- 血液検査で血清フェリチン値が低い(一般的に75 μg/L未満が目安とされますが、施設によって基準は異なります)など、鉄欠乏が確認された場合には、鉄剤による補充療法が有効です。
- 鉄剤は脳内の鉄分を補い、ドパミン系の機能改善を目指します。経口鉄剤が一般的ですが、吸収が悪い場合や副作用が強い場合には注射剤が用いられることもあります。
- 鉄剤の服用により、数週間から数ヶ月かけてゆっくりと症状が改善することが期待できます。副作用として吐き気や便秘などの消化器症状が見られることがあります。
どの薬剤を選択するか、またその用量は、患者さんの年齢、症状の重症度、全身状態、合併症、他の服用薬などを考慮して、医師が慎重に判断します。
自己判断で市販薬やサプリメントを使用したり、処方された薬の量を変更したりすることは危険ですので、必ず医師の指示に従ってください。
薬を使わない非薬物療法と生活習慣の改善
薬物療法だけでなく、あるいは症状が軽度で薬が必要ない場合でも、非薬物療法や生活習慣の改善はPLMDの症状軽減に役立ちます。
- 睡眠衛生の確立:
- 規則正しい時間に寝て起きるように心がけ、体内時計を整えます。週末の寝だめは最小限にするのが望ましいです。
- 寝室を快適な環境(暗く、静かで、適切な温度・湿度)に保ちます。
- 寝る前のカフェイン(コーヒー、紅茶、エナジードリンクなど)やアルコールの摂取を控えます。カフェインは覚醒作用があり、アルコールは一時的に眠気を誘いますが、睡眠の質を低下させ、PLMDの症状を悪化させる可能性があります。
- 寝る前の喫煙も避けます。ニコチンには覚醒作用があります。
- 寝る前にスマートフォンやパソコンなどのブルーライトを浴びるのを避けます。
- 適度な運動:
- 定期的な適度な運動は、睡眠の質を改善する効果が期待できます。ただし、就寝直前の激しい運動は避けた方が良いでしょう。
- ストレス管理:
- ストレスはPLMDの症状を悪化させる可能性があります。リラクゼーション法(深呼吸、瞑想、ヨガなど)を取り入れるなど、ストレスを上手に管理することが大切です。
- 原因薬剤の見直し:
- もし服用中の薬剤がPLMDの原因となっている可能性がある場合は、医師と相談し、可能であれば別の薬剤に変更したり、中止したりすることを検討します。自己判断での変更・中止は危険です。
マッサージなどの代替療法について
マッサージや温熱療法、ツボ押し、アロマテラピーといった代替療法が、PLMDやRLSの症状に対して試みられることがあります。
例えば、寝る前に下肢を優しくマッサージしたり、温かいお風呂に浸かったり、ホットパックで温めたりすることで、一時的に不快な感覚が和らぐと感じる人もいるかもしれません。
また、特定のツボを刺激したり、リラックス効果のあるアロマ(ラベンダーなど)を使用したりすることも、リラクゼーション効果を通じて睡眠の質を間接的に改善する可能性はあります。
しかし、これらの代替療法について、周期性四肢運動障害そのものを根本的に治療したり、科学的に証明された効果があるという明確なエビデンスは現時点では不十分です。
あくまで補助的な手段として考えられ、効果には個人差が大きいと言えます。
もし代替療法を試してみたい場合は、それが既存の治療法と干渉しないか、症状を悪化させる可能性はないかなど、事前に必ず医師に相談することが重要です。
特に、民間療法の中には効果が証明されていないだけでなく、健康を害する危険性があるものも存在するため、注意が必要です。
周期性四肢運動障害を放置するリスク
周期性四肢運動障害(PLMD)自体が、生命に関わるような重篤な病気に直結することは稀です。
しかし、PLMDによる周期的な不随意運動が睡眠を妨げ、慢性的な睡眠不足や睡眠の質の低下を引き起こすことで、様々な身体的、精神的な問題や、日常生活における支障が生じる可能性があります。
PLMDを放置することは、これらのリスクを高めることにつながります。
睡眠不足がもたらす身体的・精神的な影響
PLMDによって睡眠が分断され、十分に質の高い睡眠がとれない状態が続くと、身体的および精神的な健康に悪影響を及ぼします。
- 身体的な影響:
- 日中の過度の眠気と疲労感: これが最も一般的な症状であり、仕事や家事、学業のパフォーマンス低下を招きます。
- 生活習慣病のリスク上昇: 慢性的な睡眠不足は、高血圧、糖尿病、脂質異常症、肥満といった生活習慣病のリスクを高めることが多くの研究で示されています。睡眠の質の低下は、血糖値や血圧のコントロールを難しくする可能性があります。
- 免疫機能の低下: 睡眠不足は免疫システムを弱体化させ、感染症にかかりやすくなる可能性があります。
- 心血管疾患のリスク上昇: 慢性的な睡眠不足は、心筋梗塞や脳卒中などの心血管疾患のリスクを高めるという報告があります。PLMに伴う周期的な覚醒が、心拍数や血圧の変動を引き起こすことも影響している可能性があります。
- 精神的な影響:
- 気分の落ち込みやイライラ: 睡眠不足は精神的な安定を損ない、抑うつ気分、不安、イライラ感、集中力の低下などを引き起こします。
- ストレスへの脆弱性: 十分な睡眠がとれていないと、ストレスに対する耐性が低下し、些細なことでも強く反応してしまうことがあります。
日常生活やQOLへの支障
PLMDによる睡眠障害や日中の症状は、個人の日常生活やQOL(生活の質)に深刻な影響を及ぼします。
- 仕事や学業のパフォーマンス低下: 日中の眠気や集中力低下により、仕事や学業の効率が落ちたり、ミスが増えたりします。重要な会議中に眠ってしまう、テスト中に集中できない、といった状況に陥ることもあります。
- 人間関係への影響: 寝ている時の周期的な運動は、一緒に寝ているパートナーの睡眠も妨げることがあります。これにより、お互いの睡眠不足やストレスが増加し、関係性に軋轢が生じることがあります。また、日中のイライラや気分の落ち込みも、家族や友人との関係に悪影響を与える可能性があります。
- 運転や危険作業中の事故リスク: 強い日中の眠気は、自動車の運転中や機械を操作する作業中に居眠りを引き起こし、重大な事故につながる危険性があります。
- 趣味や活動への意欲低下: 常に疲労感や眠気があるため、趣味やレジャー活動、社会的な交流に参加する意欲が失われ、生活全般が不活発になることがあります。
このように、周期性四肢運動障害を放置し、適切な診断や治療を受けずにいると、単なる「寝ている時の足の動き」に留まらず、身体的・精神的な健康を損ない、日常生活や人間関係、社会生活全般に広範な悪影響を及ぼす可能性があります。
夜間の睡眠に問題を感じたり、日中の眠気や疲労感が続いたりする場合は、「歳のせいかな」「体質だから」と自己判断せずに、専門医に相談することが重要です。
周期性四肢運動障害に関するよくある質問
RLS(むずむず脚症候群)の主な原因は何ですか?
レストレスレッグス症候群(RLS)、またはむずむず脚症候群の正確な原因は、周期性四肢運動障害(PLMD)と同様に完全には解明されていません。
しかし、いくつかの要因が関連していると考えられています。
- 鉄欠乏: 最も関連が強い要因の一つです。体内の鉄分が不足すると、脳内のドパミン代謝に影響を与え、RLSの特徴的な不快な感覚や運動衝動を引き起こすと考えられています。貧血がない場合でも、貯蔵鉄(フェリチン値)が低いだけで症状が現れることがあります。
- ドパミン系の機能異常: 脳内の神経伝達物質であるドパミンの働きが悪くなることが関与していると考えられています。RLSの症状が安静時に現れやすく、運動で改善するのは、ドパミン系の機能が休息時に低下し、運動によって一時的に改善するためではないかという仮説があります。
- 遺伝的要因: 家族内でRLSが見られることがあり、遺伝的な要因が関与していると考えられています。特定の遺伝子変異との関連も研究されています。
- 続発性RLS: PLMDと同様に、他の病気や薬剤によってRLSが引き起こされることがあります。腎不全(尿毒症)、糖尿病性神経障害、脊髄疾患、妊娠、鉄欠乏性貧血、パーキンソン病などがRLSの原因となる可能性があります。また、特定の抗うつ薬、抗ヒスタミン薬、吐き気止めなどがRLSを誘発または悪化させることがあります。
これらの要因が単独または組み合わさることで、RLSが発症すると考えられています。
RLSが疑われる場合は、これらの原因を特定するために医師による診察や検査が行われます。
なぜ寝ている時に足が勝手に動く(ピクピクする)のですか?
寝ている時に足が勝手に動く(ピクピクする、バタバタする)現象は、主に周期性四肢運動障害(PLMD)によるものです。
そのメカニズムはまだ完全に解明されていませんが、脳や脊髄といった中枢神経系の機能異常が関与していると考えられています。
- ドパミン系の関与: 脳内のドパミンという神経伝達物質は、体の運動調節に重要な役割を果たしています。PLMDでは、このドパミン系の機能が睡眠中に一時的に低下したり、調節がうまくいかなくなったりすることで、不随意な運動が引き起こされる可能性が指摘されています。
- 脊髄レベルでの反射亢進: 脊髄には、簡単な運動を制御する神経回路があります。PLMDでは、睡眠中に脊髄の反射機能が過剰になり、外部からの刺激(あるいは内部からの微弱な信号)に対して、足の筋肉が過剰に反応してピクつきが生じるという説もあります。
- 鉄分や他の栄養素の不足: 脳内の鉄分が不足すると、ドパミンの合成や代謝に関わる酵素の働きが悪くなり、ドパミン系の機能低下を招く可能性があります。マグネシウムや葉酸、ビタミンB12などの不足も関連が指摘されることがあります。
- 神経疾患や全身性疾患の影響: 末梢神経障害、腎不全、脊髄疾患など、神経系や全身の機能に影響を与える病気がある場合、これらの病気によって神経の信号伝達に異常が生じ、周期的な不随意運動が誘発されることがあります。
- 薬剤の影響: 特定の薬剤が、脳内の神経伝達物質のバランスを崩したり、神経の興奮性を高めたりすることで、PLMD様の運動を引き起こすことがあります。
これらの要因が複雑に絡み合って、睡眠中に足が周期的に動くという現象が発生すると考えられています。
多くの場合、この運動は本人の意思とは無関係に起こり、本人は気づいていませんが、睡眠を分断し、日中の様々な症状の原因となります。
周期性四肢運動障害の相談先・医療機関
周期性四肢運動障害(PLMD)が疑われる場合や、夜間の睡眠に問題を感じている、日中の強い眠気や疲労感が続いているといった症状がある場合は、専門的な診断と治療を受けることが重要です。
「寝ている時のことだから」「大したことないだろう」と放置せず、早めに医療機関に相談しましょう。
PLMDを含む睡眠障害の診断と治療は、主に以下の専門医や医療機関で行われます。
- 睡眠専門医: 睡眠障害全般を専門とする医師です。日本睡眠学会の専門医など、専門の資格を持つ医師がいる医療機関であれば、睡眠ポリグラフ検査を含む詳細な検査や、様々な睡眠障害に対する専門的な知識に基づいた診断・治療を受けることができます。睡眠専門クリニックや、大学病院や総合病院の睡眠センター、睡眠外来などで診療を行っています。
- 神経内科: 脳や脊髄、末梢神経、筋肉の病気を専門とする科です。PLMDは神経系の機能異常が関わるため、神経内科医が診療を行うこともあります。特に、末梢神経障害や脊髄疾患、パーキンソン病といった神経系の基礎疾患がPLMDの原因となっている場合には、神経内科での専門的な評価が重要です。
- 精神科: 精神疾患だけでなく、睡眠障害を専門とする医師がいる場合もあります。特に、PLMDに伴う日中の眠気や疲労感が抑うつや不安などの精神症状と関連している場合や、睡眠薬の使用について相談したい場合に選択肢となります。
- 耳鼻咽喉科: 睡眠時無呼吸症候群(SAS)を専門とする医師がいる場合があります。PLMDとSASは合併することが多く、SASがPLMDの原因となっている可能性もあるため、SASの検査・治療も同時に行える耳鼻咽喉科の睡眠外来も相談先の一つとなり得ます。
医療機関を探すには:
- かかりつけ医に相談し、専門の医療機関を紹介してもらうのが最もスムーズな方法です。
- 日本睡眠学会のウェブサイトなどで、睡眠専門医や認定施設を検索できる場合があります。
- 地域の医療情報サイトや病院のウェブサイトで、睡眠外来や神経内科、精神科などの診療科目を調べ、睡眠障害の診療を行っているか確認します。
受診する際は、現在の症状(いつから、どのような動きか、頻度、強さ)、睡眠の状況(寝る時間、起きる時間、寝つき、夜中に目が覚める回数、睡眠時間、寝た感じ)、日中の症状(眠気、だるさ、集中力)、既往歴、現在服用している薬(市販薬、サプリメント含む)、飲酒・喫煙の習慣、家族歴などを医師に正確に伝えることが重要です。
可能であれば、一緒に寝ている家族に夜間の様子を記録してもらったり、受診に同伴してもらったりするのも良いでしょう。
適切な診断と治療を受けることで、周期性四肢運動障害による睡眠の質の低下が改善し、日中のつらい症状が軽減されて、QOLの向上が期待できます。