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「焦るとパニックになる」は病気のサイン?考えられる原因と対処法

特定の状況やプレッシャーの中で、動悸がしたり、息苦しさを感じたり、頭が真っ白になって何も考えられなくなったり。「焦るとパニックになる」という経験は、多くの人が一度は体験したことがあるかもしれません。
しかし、その頻度があまりにも高かったり、症状が強かったり、日常生活に大きな支障が出ている場合は、単なる性格や一時的なストレス反応ではなく、何らかの病気が背景にある可能性も考えられます。
この記事では、「焦るとパニックになる」という状態の裏に潜む可能性のある病気、その原因、具体的な症状、そしてどのように対処し、いつ医療機関を受診すべきかについて、詳しく解説します。
ご自身の状態を理解し、適切な一歩を踏み出すための一助となれば幸いです。

「焦燥感」とは、心が落ち着かず、何かをしていないとソワソワしたり、イライラしたりする精神状態を指します。一方、「パニック発作」は、突然、激しい不安や恐怖とともに、動悸、息切れ、めまい、吐き気などの身体症状がピークに達する発作的な状態です。

日常的な「焦り」や「不安」は誰にでも起こりうる感情であり、ある程度の焦燥感は目標達成のためのモチベーションになることもあります。また、強いストレス状況下で一時的にパニックのような状態になることもあります。しかし、これらの状態が頻繁に起こったり、特定の状況と関連なく突然発生したり、その程度が非常に強く本人を苦しめたり、学校や仕事、人間関係といった日常生活に大きな影響を与えている場合は、単なる感情的な反応ではなく、背景に何らかの病気が隠れているサインである可能性が高まります。

特に、パニック発作は、死んでしまうのではないか、気が狂ってしまうのではないかというほどの強い恐怖感を伴い、その予期不安(また発作が起こるのではないかという不安)から特定の場所や状況を避けるようになる(広場恐怖)こともあります。こうした状態が続くと、うつ病を併発したり、社会生活が困難になったりするため、注意が必要です。

目次

焦るとパニックになる主な原因

焦りやパニックは、単一の原因で引き起こされるわけではありません。様々な要因が複雑に絡み合って生じることが多いです。主な原因としては、以下の3つが考えられます。

心理的な原因

心理的な原因は、個人の内面的な特性や、過去および現在のストレス体験に関連しています。

  • ストレス: 仕事、学業、人間関係、家庭問題など、様々なストレスは心身に負担をかけ、焦りや不安、パニックを引き起こす最も一般的な原因の一つです。特に、慢性的なストレスや突発的な強いストレスは、心理的なバランスを崩しやすい要因となります。
  • トラウマ体験: 過去に経験した事故、災害、暴力、虐待などのトラウマは、フラッシュバックや強い不安、過覚醒(常に警戒している状態)を引き起こし、特定の状況や刺激に対して過剰な焦りやパニック反応を示しやすくなることがあります。
  • 性格特性: 完璧主義、心配性、神経質、自己肯定感の低さといった性格特性を持つ人は、小さな失敗を過度に恐れたり、他人の評価を気にしすぎたりすることで、常に焦りや不安を感じやすく、パニックに繋がりやすい傾向があります。
  • 認知の歪み: 物事をネガティブに捉えすぎる、破局的な思考パターン(最悪の事態ばかりを想定する)、白黒思考(完璧か全てダメか)といった認知の歪みがあると、現実以上に脅威を感じてしまい、焦りやパニックを引き起こしやすくなります。

身体的な原因

身体的な状態や習慣も、焦りやパニックの発症に影響を与えることがあります。

  • 睡眠不足・疲労: 十分な休息が取れていないと、自律神経のバランスが乱れ、心拍数の増加や発汗など、身体的な不調が現れやすくなります。これが精神的な不安定さや焦り、パニックに繋がることがあります。
  • カフェイン・アルコールの過剰摂取: カフェインは中枢神経を興奮させ、心拍数を増加させるため、過剰に摂取すると不安や焦燥感を高める可能性があります。アルコールも一時的に不安を和らげるように感じても、実際には睡眠の質を低下させたり、離脱症状として不安や焦りが出現したりすることがあります。
  • 薬物の影響: 特定の薬物(例: 甲状腺ホルモン薬、ステロイド、一部の風邪薬など)や違法薬物は、精神的な興奮や不安、パニック様症状を引き起こす副作用を持つことがあります。
  • 身体の不調: 風邪、発熱、痛みなど、身体的な不調そのものがストレスとなり、精神的な不安定さを増幅させ、焦りやパニックに繋がりやすくなることがあります。

病気(疾患)による原因

焦りやパニックが特定の病気の症状として現れている場合もあります。これには精神疾患と身体疾患の両方が含まれます。これらの病気が原因である場合、適切な診断と治療を受けることが症状改善のために非常に重要となります。具体的な病気については、次のセクションで詳しく解説します。

焦りやパニックに関連する主な病気

焦りやパニックの症状は、様々な病気で観察されます。特に精神疾患では、不安や気分の変動に伴う症状として頻繁に見られます。また、身体の病気が原因で、あたかも精神的な症状のように見えることもあります。

精神疾患

焦りやパニックが主要な症状として現れる精神疾患はいくつかあります。

パニック障害

パニック障害は、予期しないパニック発作を繰り返し経験し、「また発作が起こるのではないか」という強い予期不安や、発作に関連する場所や状況を避けるようになる広場恐怖を伴う精神疾患です。

パニック発作の主な症状(典型例):

  • 動悸や心拍数の増加
  • 発汗
  • 体の震えまたは揺れ
  • 息切れまたは窒息感
  • 胸部の痛みまたは不快感
  • 吐き気または腹部の不快感
  • めまい、ふらつき、頭が軽くなる感じ、または失神しそうな感じ
  • 現実感の喪失(離人感または現実からの遊離)
  • 気が狂うのではないかという恐れ
  • 死ぬのではないかという恐れ
  • しびれまたはチクチクする感覚
  • 悪寒または熱感

これらの症状のうち、4つ以上が突然出現し、10分以内にピークに達するのが典型的です。発作は通常数分から長くても30分程度で収まります。パニック障害の患者さんは、発作そのものへの恐怖心が非常に強く、「いつどこで発作が起きるかわからない」という不安から、外出を控えたり、電車やバスなどの公共交通機関を避けるようになったりすることがあります。これが広場恐怖であり、日常生活に大きな支障をもたらします。

不安障害(全般性不安障害、社交不安障害など)

不安障害は、特定の状況や対象に対して、あるいは漠然とした形で、過剰な不安や心配を抱き、それが持続したり、日常生活に支障をきたしたりする精神疾患の総称です。焦りやパニック様症状は、不安障害の様々なタイプで見られます。

  • 全般性不安障害 (GAD): 仕事、学業、家族の健康、金銭問題など、様々なことに対して過度な心配を抱き、その心配をコントロールすることが難しい状態が長期間続きます。常に「何か悪いことが起きるのではないか」と漠然とした不安を感じており、これに伴い、焦燥感、易疲労性、集中困難、イライラ、筋緊張、睡眠障害といった症状が現れます。絶えず心が落ち着かず、ソワソワしているような焦燥感が特徴的です。
  • 社交不安障害 (SAD): 人前で話す、初対面の人と会う、大勢の前で何かをする、といった特定の社会的な状況や行為に対して、強い不安や恐怖を感じ、その状況を避けようとします。「恥ずかしい思いをするのではないか」「変に思われるのではないか」といった恐れが強く、人前で発表する前などに強い焦りやパニック様症状(動悸、発汗、赤面、手の震えなど)が出現することがあります。
  • 特定の恐怖症: 高所、閉所、特定の動物、注射など、特定の対象や状況に対して強い恐怖を感じ、それに直面すると強い不安やパニック発作を起こします。

適応障害

適応障害は、明確なストレス要因(例えば、職場の異動、人間関係の変化、病気、離婚など)に反応して、ストレスにうまく対処できず、精神的な症状(抑うつ気分、不安、焦燥感、イライラなど)や行動上の問題(無断欠勤、攻撃的な言動など)が生じる状態です。ストレス要因が発生してから3ヶ月以内に症状が出現し、ストレス要因がなくなると通常6ヶ月以内に症状が軽快するという特徴があります。ストレスを感じる状況下で、強い焦りやパニック様症状が現れることがあります。

うつ病

うつ病は、気分の落ち込み、興味や喜びの喪失を主要な症状とする精神疾患ですが、患者さんによっては、強い焦燥感やイライラが前面に出ることがあります。特に、不安の強いタイプのうつ病や、精神運動性の焦燥(ソワソワして落ち着きがなく、座っていることができないなど)を伴うタイプのうつ病では、単なる気分の落ち込みだけでなく、常に焦っているような感覚や、些細なことにもイライラしてパニックになりそうな衝動に駆られることがあります。朝方に症状が強く出る「日内変動」が見られることもあります。

躁病

双極性障害(躁うつ病)の一部である躁状態では、気分が異常に高揚し、活動性が亢進しますが、同時に易刺激性(些細なことで怒りっぽくなる)、観念奔逸(次々と新しい考えが浮かび、思考がまとまらない)、注意散漫、衝動性といった症状が現れます。思考が高速で回転しているため、周囲のペースが遅く感じられ、強い焦燥感やイライラを伴うことがあります。高揚した気分の中に、突然の怒りやパニック様反応が混じることもあります。

強迫症(強迫性障害)

強迫症は、自分では不合理だと分かっているのに頭から離れない思考(強迫観念)と、その不安を打ち消すために特定の行為を繰り返してしまうこと(強迫行為)を特徴とする精神疾患です。「鍵をかけ忘れたのではないか」「手に雑菌がついたのではないか」といった強迫観念が生じると強い不安や焦りが生じ、それを軽減するために何度も鍵を確認したり、手を洗い続けたりといった強迫行為を繰り返します。特定の状況(例えば、家の鍵を閉めたかどうかが不確実な状況)で、強い不安や焦り、場合によってはパニック様症状が現れます。

注意欠如・多動症(ADHD)

ADHDは、不注意、多動性、衝動性を特徴とする発達障害です。これらの特性は、直接的にパニック発作を引き起こすわけではありませんが、時間管理や計画立てが苦手なため、締め切りが迫ると強い焦りを感じたり、衝動性から思わず余計なことをしてしまい、その結果として混乱してパニックになりそうになったりすることがあります。また、不注意によるミスや、衝動的な言動が周囲とのトラブルを招き、それに伴うストレスや不安から、焦燥感や二次的なパニック様症状が生じることもあります。特に成人ADHDでは、これらの症状が社会生活における困難を引き起こしやすいため、適切な理解と対処が必要です。

身体の病気

精神的な症状だと思われがちな焦りやパニックが、実は身体の病気が原因で引き起こされていることもあります。そのため、焦りやパニックの症状がある場合は、身体的な原因の可能性も考慮して検査を行うことが重要です。

甲状腺機能亢進症(バセドウ病など)

甲状腺は代謝を調節するホルモンを分泌していますが、甲状腺機能亢進症(代表的なものにバセドウ病)になると、甲状腺ホルモンが過剰に分泌されます。これにより、全身の代謝が異常に高まり、以下のような症状が現れます。

  • 動悸や頻脈
  • 発汗量の増加
  • 手の震え
  • 体重減少(食欲が増しても)
  • 疲れやすさ
  • 精神的な焦燥感やイライラ、落ち着きのなさ

これらの症状は、不安やパニック発作と似ているため、精神的な問題と間違われやすいですが、根底には甲状腺ホルモンの異常があります。血液検査で甲状腺ホルモンの値を調べることで診断されます。

低血糖症

低血糖症は、血液中のブドウ糖濃度が異常に低下した状態です。特に糖尿病患者さんがインスリン注射や飲み薬を使用している場合に起こりやすいですが、糖尿病でない方でも、食事のタイミングの乱れや特定の疾患が原因で起こることがあります。脳はブドウ糖を主なエネルギー源としているため、低血糖になると様々な症状が現れます。

  • 手の震え
  • 冷や汗
  • 強い空腹感
  • 動悸
  • めまい
  • 脱力感
  • 精神的な不安や焦燥感、混乱

重度の場合は意識障害を引き起こすこともあります。これらの症状は突然現れることが多く、特に不安や焦燥感、動悸といった症状はパニック発作と非常に似ています。血糖値を測定することで診断できます。

不整脈

不整脈は、心臓の拍動のリズムや速さが乱れる状態です。心臓が速く打ちすぎる頻脈性不整脈や、心臓の拍動が飛ぶ期外収縮など、様々なタイプがあります。不整脈が起こると、以下のような症状が現れることがあります。

  • 動悸(心臓がドキドキする、バクバクする)
  • 息切れ
  • 胸部不快感または痛み
  • めまい、ふらつき
  • 失神

これらの身体症状に伴って、「心臓がどうにかなってしまうのではないか」という強い不安や恐怖が生じ、パニック発作のように感じられることがあります。特に発作性の不整脈では、突然の動悸や息切れが強い不安を引き起こしやすいです。心電図検査(通常心電図、ホルター心電図など)によって診断されます。

病気の種類 特徴的な症状(焦り・パニック関連) その他主な症状(参考) 受診すべき診療科
パニック障害 予期しないパニック発作(動悸、息切れ、めまいなど)、「また起きる」不安 広場恐怖(特定の場所・状況を避ける) 精神科、心療内科
全般性不安障害 持続的な過度な心配、焦燥感、落ち着きのなさ 易疲労性、集中困難、イライラ、筋緊張、睡眠障害 精神科、心療内科
社交不安障害 人前での強い不安、焦り、パニック様症状 赤面、発汗、手の震え、人前を避ける 精神科、心療内科
適応障害 ストレス要因に反応した不安、焦燥感、イライラ 抑うつ気分、無断欠勤、問題行動 精神科、心療内科
うつ病 気分の落ち込みに加え、強い焦燥感、イライラ 興味・喜びの喪失、食欲・睡眠の変化、倦怠感、集中困難 精神科、心療内科
躁病(双極性障害) 気分の高揚に伴う強い焦燥感、易刺激性 活動亢進、観念奔逸、衝動性、睡眠時間の減少 精神科
強迫症 強迫観念に伴う不安、焦り、強迫行為をしないとパニック 確認行為、洗浄行為など強迫行為の繰り返し 精神科、心療内科
ADHD 不注意・衝動性によるミスや混乱に伴う焦り 不注意、多動性、衝動性、時間管理の困難、整理整頓が苦手 精神科、心療内科(発達障害専門)
甲状腺機能亢進症 代謝亢進に伴う精神的な焦燥感、イライラ 動悸、発汗、手の震え、体重減少、眼球突出(バセドウ病) 内科、内分泌内科
低血糖症 血糖低下に伴う不安、焦燥感、混乱 手の震え、冷や汗、動悸、強い空腹感、めまい 内科、糖尿病内科
不整脈 不整脈に伴う動悸、息切れ、それに伴う不安、パニック様症状 胸部不快感、めまい、失神 循環器内科

(注:上記の症状はあくまで一般的なものであり、個人差があります。また、この表は診断を目的としたものではありません。正確な診断は医療機関で受けてください。)

焦りやパニックの症状

焦りやパニックの症状は、精神的な側面と身体的な側面の両方に現れます。これらの症状は互いに影響し合い、悪循環を生み出すことがあります。

精神的な症状

  • 強い不安感・恐怖感: 何か悪いことが起こるのではないかという漠然とした不安や、具体的な対象(特定の場所、状況、人など)に対する強い恐怖。
  • 焦燥感・イライラ: 心が落ち着かず、ソワソワしたり、じっとしていられなかったりする感覚。些細なことにもすぐにイライラしてしまう。
  • 破滅感・コントロール喪失感: 自分が壊れてしまうのではないか、状況をコントロールできなくなるのではないかという恐れ。
  • 非現実感: 周囲の景色や自分が現実ではないように感じる感覚(離人感、現実からの遊離)。
  • 集中困難: 不安や焦りで頭がいっぱいになり、目の前のことに集中できない。
  • 思考の停止: 強いパニック状態になると、頭が真っ白になり何も考えられなくなる。
  • 心配の過剰化: 一度心配し始めると、次々と関連するネガティブな考えが浮かび、止められなくなる。

身体的な症状

身体症状は、自律神経系の過活動によって引き起こされることが多く、パニック発作で特に顕著に現れます。

  • 動悸・頻脈: 心臓が速く打つ、ドキドキする、バクバクするといった感覚。
  • 息切れ・呼吸困難: 十分に息が吸えない、窒息しそうな感覚。過呼吸になることも。
  • 胸痛・胸部不快感: 胸が締め付けられるような痛みや圧迫感。
  • めまい・ふらつき: 立っていられなくなるようなめまいや、今にも倒れそうな感覚。
  • 吐き気・腹部の不快感: 胃がムカムカする、下痢、便秘など。
  • 体の震え: 手足や体全体が震える。
  • 発汗: 突然、大量の汗をかく。
  • 手足のしびれ・ピリピリ感: 末端部を中心に、感覚が鈍くなったり、チクチクしたりする。
  • 悪寒・熱感: 急に寒く感じたり、体が熱くなったりする。
  • のどのつかえ: 何かが詰まっているような感覚。
  • 筋肉の緊張: 肩や首などが凝り固まる。

これらの精神的・身体的な症状は、互いに影響し合います。「動悸がする」という身体症状が「心臓病ではないか」という不安(精神症状)を引き起こし、その不安がさらに動悸を悪化させる、といった悪循環です。

焦りやパニックを感じやすい人の特徴

焦りやパニックは誰にでも起こりうるものですが、特定の性格傾向や背景を持つ人は、より感じやすい傾向があります。

  • 心配性・神経質な性格: 小さなことでも深く考え込み、将来起こりうるネガティブな事態を過度に心配してしまう人は、常に心のどこかで不安を感じており、焦りやパニックに繋がりやすいです。
  • 完璧主義・真面目すぎる性格: 自分にも他人にも厳しい基準を設けてしまい、少しのミスも許せないため、常にプレッシャーを感じ、焦りを抱えやすくなります。「こうでなければならない」という考えが強いと、うまくいかなかった時に強い不安やパニックが生じやすいです。
  • 自己肯定感が低い: 自分自身の価値や能力を低く評価しているため、他人の評価を過度に気にしたり、失敗を恐れたりします。これにより、新しい挑戦や人前に出る状況で強い不安や焦りを感じやすくなります。
  • コントロール欲求が強い: 物事が自分の思い通りにならないと、強いストレスや不安を感じます。不確実な状況や予測不能な出来事に対して、焦りやパニックが生じやすいです。
  • 感情表現が苦手: 自分の感情を内に溜め込みやすく、うまく発散できない人は、ストレスや不安が蓄積し、身体症状やパニックとして表れやすくなることがあります。
  • ストレスを抱え込みやすい環境: 職場や家庭で慢性的なストレスにさらされていたり、サポートしてくれる人が少なかったりする環境にいる人は、心理的な余裕がなくなり、焦りやパニックが生じやすくなります。
  • 過去のトラウマ体験: 過去に強い恐怖や無力感を伴う出来事を経験していると、似たような状況に遭遇した際に、身体が当時の反応を覚えており、自動的に強い焦りやパニック反応を引き起こすことがあります。
  • 生活習慣の乱れ: 睡眠不足、不規則な食事、運動不足、カフェインやアルコールの過剰摂取なども、自律神経のバランスを崩し、精神的な不安定さを増幅させる要因となります。

これらの特徴は、必ずしも病気であるわけではありませんが、焦りやパニックを感じやすい傾向として理解しておくことは、セルフケアや周囲の理解のためにも役立ちます。

焦りやパニックへのセルフ対処法

焦りやパニックを感じたときに、自分自身で症状を和らげたり、悪化を防いだりするための対処法があります。ただし、これらの方法は、症状が軽度である場合や、医療機関での治療と並行して行う場合におすすめします。症状が重い場合や、日常生活に大きな支障が出ている場合は、まず専門家へ相談することが重要です。

リラクゼーション法

心身の緊張を和らげ、リラックスを促すことで、焦りやパニックの症状を軽減できます。

  • 腹式呼吸: ゆっくりと鼻から息を吸い込み、お腹を膨らませます。次に、口からゆっくりと、吸うときの倍くらいの時間をかけて息を吐き出します。これを数回繰り返します。焦りを感じたときにすぐに行える簡単な方法です。
  • 筋弛緩法: 体の各部分(手、腕、肩、首、顔、背中、お腹、足など)に意識的に力を入れ、数秒間キープしてから一気に力を抜きます。これを体の色々な部分で行うことで、筋肉の緊張がほぐれ、リラックス効果が得られます。
  • 瞑想・マインドフルネス: 静かな場所で座り、呼吸や体の感覚に意識を集中します。雑念が浮かんできても、それを否定せずに受け流し、再び呼吸に意識を戻します。今この瞬間に意識を向ける練習をすることで、将来への不安や過去への後悔といった思考から離れ、心を落ち着かせることができます。短い時間から始めて、慣れていくと良いでしょう。
  • アロマセラピー: ラベンダーやカモミールなど、リラックス効果があると言われるアロマオイルを焚いたり、アロマバスを楽しんだりすることも、気分転換やリラックスに役立ちます。
  • 軽い運動: ウォーキングやストレッチなど、軽い運動はストレスホルモンを減らし、気分をリフレッシュさせる効果があります。無理のない範囲で、継続的に行うことが大切です。

思考パターンの見直し

不安や焦りを強めるような考え方の癖(認知の歪み)に気づき、より現実的でバランスの取れた考え方に修正していくことも有効です。

  • 自動思考の特定と記録: 焦りやパニックを感じたときに、頭の中でどのような考えが浮かんでいたかを書き出してみます(自動思考)。例えば、「失敗したらどうしよう」「きっと笑われる」「もうダメだ」といった考えです。
  • 認知の歪みの特定: 書き出した自動思考に、破局的な思考、白黒思考、一般化のしすぎ、心のフィルター(ネガティブなことばかりに注目する)などの認知の歪みがないかを確認します。
  • 代替思考の検討: その自動思考は本当に現実的か、他の可能性はないか、証拠はあるかなどを検討し、より現実的でバランスの取れた考え方(代替思考)を考えます。例えば、「失敗するかもしれないけど、成功する可能性もある」「もし失敗しても、そこから学べることがある」といった考え方です。
  • 不安階層表の作成と段階的暴露: 自分が焦りや不安を感じる状況を、不安のレベルが低いものから高いものまでリストアップします(不安階層表)。そして、レベルの低い状況から段階的に直面していく練習をします。最初は想像するだけでも良いですし、実際に行動に移す場合は、不安がmanageできる範囲から始めます。

生活習慣の改善

健康的な生活習慣は、心身の安定に繋がり、焦りやパニックの症状を和らげる基盤となります。

改善ポイント 具体的な取り組み
睡眠 十分な睡眠時間を確保する(目安は7~8時間)。毎日同じ時間に寝起きするように心がける。寝る前にカフェインやアルコールを避け、リラックスできる習慣を取り入れる。
食事 バランスの取れた食事を心がける。特に血糖値の急激な変動を避けるため、炭水化物ばかりの食事や欠食を避け、タンパク質や野菜もバランス良く摂取する。カフェインや刺激物の摂取を控える。
運動 ウォーキング、ジョギング、ヨガ、ストレッチなど、適度な有酸素運動を週に数回行う。運動はストレス軽減や気分転換に効果的。
嗜好品 カフェイン(コーヒー、紅茶、エナジードリンクなど)やアルコール、ニコチン(タバコ)は不安や焦りを増悪させる可能性があるため、摂取量を控えるか避ける。
休息 頑張りすぎず、意識的に休息やリフレッシュの時間を設ける。趣味や好きなことに時間を使う、友人や家族と過ごすなど。
環境調整 ストレスの原因となっている環境(職場や人間関係など)に対して、可能な範囲で対策を講じる。必要であれば、専門家や相談機関に相談することも検討する。

これらのセルフケアは、継続することが大切です。すぐに効果が出なくても諦めず、自分に合った方法を見つけて取り組んでみましょう。

焦りやパニックで病院に行く目安

焦りやパニックを感じることは誰にでもありますが、以下のようなサインが見られる場合は、一人で抱え込まずに専門家(医師)に相談することを強く推奨します。

  • 症状の頻度や強さが増している: 以前よりも頻繁に、あるいは強く焦りやパニックを感じるようになった。
  • 日常生活に支障が出ている: 仕事や学業に集中できない、人間関係がうまくいかない、外出が困難になる、特定の場所や状況を避けるようになった(広場恐怖など)。
  • 身体的な症状が強い・続く: 動悸、息切れ、めまい、胸痛などの身体症状が強く、他の身体の病気ではないかと心配になる。
  • セルフケアでは改善しない: 上記で挙げたようなセルフ対処法を試しても、症状が改善しない、あるいは悪化する。
  • 他の精神的な不調を伴う: 気分の落ち込み、不眠、食欲不振、強い疲労感など、うつ病や他の精神疾患を疑わせる症状も同時に現れている。
  • 将来への不安が強い: このままの状態が続くとどうなってしまうのだろう、という強い不安や絶望感を感じる。
  • 死にたいという気持ちが浮かぶ: 症状が辛すぎて、生きているのが嫌になる、死にたいという考えが頭をよぎるようになった。

特に、突然起こる強い身体症状(動悸、息切れ、胸痛など)は、心臓病などの身体的な病気である可能性も否定できません。まずは内科などで身体的な検査を受け、異常がないことを確認してから精神科や心療内科を受診するという流れも考えられます。しかし、精神的な原因が強く疑われる場合は、最初から精神科や心療内科を受診しても問題ありません。

受診すべき診療科

焦りやパニックの症状で医療機関を受診する場合、主に以下の診療科が考えられます。

精神科・心療内科

精神科や心療内科は、焦りやパニックの原因が精神的な問題にある場合に最も適した診療科です。

  • 精神科: 不安障害、パニック障害、うつ病、双極性障害、ADHD、強迫症など、様々な精神疾患の診断と治療を専門に行います。薬物療法や精神療法などを通じて、症状の改善を目指します。
  • 心療内科: 精神的なストレスが原因となって、身体的な症状(動悸、息切れ、胃痛、頭痛など)が現れている「心身症」を専門に扱います。精神的な問題と身体的な症状の両面からアプローチを行います。焦りやパニックに伴う身体症状が強い場合や、「体の不調があるけれど、検査では異常がない」というような場合に適しています。

どちらを受診するか迷う場合は、症状の主なものが「気分や考え方の不調」「行動の変化」であるなら精神科、「身体の不調」が前面に出ているなら心療内科、というように目安にしても良いでしょう。ただし、両方の診療科を掲げているクリニックも多く、どちらでも対応可能な場合が多いです。

その他の関連診療科

焦りやパニックの原因として身体の病気が疑われる場合は、以下の診療科を受診することも検討が必要です。

  • 内科: 全身的な健康状態をチェックし、甲状腺機能亢進症や低血糖症などの身体疾患の可能性をスクリーニングします。必要に応じて専門の診療科へ紹介してくれます。
  • 循環器内科: 動悸や胸痛など、心臓に関連する症状が強い場合に、不整脈や心臓病の有無を調べます。
  • 内分泌内科: 甲状腺機能亢進症など、ホルモン異常が原因である場合に専門的な診断と治療を行います。

かかりつけ医がいる場合は、まずはかかりつけ医に相談し、適切な診療科を紹介してもらうのも良い方法です。

診断と治療の流れ

医療機関を受診した場合、焦りやパニックの症状に対しては、一般的に以下のような流れで診断と治療が進められます。

問診と検査

まず、医師による丁寧な問診が行われます。いつから、どのような状況で焦りやパニックを感じるか、具体的な症状の内容(精神的・身体的)、頻度、持続時間、症状が現れるきっかけや悪化・軽減する要因、日常生活への影響など、詳しく聞き取られます。また、既往歴(過去にかかった病気)、服用中の薬、アレルギーの有無、家族歴(家族に似たような症状や病気の人がいるか)、生活習慣(睡眠、食事、飲酒、喫煙など)、ストレス状況なども確認されます。

身体的な病気が疑われる場合は、必要に応じて血液検査(甲状腺ホルモン、血糖値など)、心電図、その他の画像検査などが行われ、身体的な原因を除外したり特定したりします。精神疾患の診断は、国際的な診断基準(DSM-5やICD-11など)に基づいて、問診によって行われることが多いです。症状のパターンや経過を総合的に評価し、診断を確定します。心理検査(質問紙法など)が補助的に用いられることもあります。

薬物療法

診断に基づき、必要に応じて薬物療法が選択されます。焦りやパニックに関連する症状に使用される主な薬剤には以下のようなものがあります。

  • 抗不安薬: 不安や焦燥感、身体的な緊張を比較的速やかに和らげる効果があります。頓服として症状が強い時に使用したり、一定期間継続して服用したりします。ベンゾジアゼピン系抗不安薬は即効性がありますが、依存性のリスクもあるため、漫然とした長期使用は避けるようにします。
  • 抗うつ薬: パニック障害、全般性不安障害、社交不安障害、うつ病、強迫症など、多くの精神疾患の基本的な治療薬となります。特にSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)などがよく用いられます。効果が現れるまでに数週間かかることが多いですが、不安や気分の波を安定させ、パニック発作の回数を減らす効果が期待できます。依存性はほとんどありません。
  • 気分安定薬: 双極性障害(躁うつ病)の躁状態やうつ状態の治療・再発予防に用いられます。躁状態に伴う焦燥感やイライラを抑制する効果があります。
  • β遮断薬: 動悸や手の震えといった身体症状を和らげる目的で使用されることがあります。特に社交不安障害のパフォーマンス不安(発表や試験前の不安)などに頓服として用いられることがあります。

薬の種類、量、服用期間は、病気の種類、症状の程度、患者さんの状態によって医師が適切に判断します。自己判断での増減や中止はせず、必ず医師の指示に従うことが重要です。

精神療法(認知行動療法など)

薬物療法と並行して、あるいは薬物療法に加えて、精神療法が行われることもあります。

  • 認知行動療法 (CBT): 不安や焦りを強めるような考え方(認知)や行動パターンに焦点を当て、それらをより現実的で適応的なものに変えていくことを目指す精神療法です。焦りやパニックのメカニズムを理解し、不安な状況に段階的に慣れていく練習(暴露療法)や、ネガティブな思考パターンを修正する練習などを行います。パニック障害や不安障害に特に有効性が確立されています。
  • その他の精神療法: 森田療法(不安をあるがままに受け入れることを目指す)、対人関係療法(対人関係の問題に焦点を当てる)、支持的精神療法(共感的理解と支持を通じて安心感を提供する)など、患者さんの状態やニーズに合わせて様々な精神療法が用いられます。

精神療法は、医師や専門の心理士(公認心理師、臨床心理士など)によって行われます。症状の根本的な改善や再発予防に繋がるため、積極的に検討する価値があります。

治療は通常、薬物療法と精神療法を組み合わせた包括的なアプローチで行われます。症状が改善した後も、再発予防のために一定期間治療を継続することが推奨される場合が多いです。治療期間は病気の種類や症状の程度によって異なりますが、数ヶ月から数年かかることもあります。根気強く治療に取り組むことが大切です。

まとめ:焦りやパニックは放置せず専門家へ相談を

「焦るとパニックになる」という状態は、単なる気の持ちようや性格の問題だと片付けられがちですが、その背景には、パニック障害、不安障害、適応障害、うつ病などの精神疾患や、甲状腺機能亢進症、低血糖症、不整脈といった身体の病気が隠れている可能性があります。

症状が頻繁に起こる、強い苦痛を伴う、日常生活に支障が出ている、身体的な症状が強い、セルフケアでは改善しないといった場合は、躊躇せずに専門家(医師)に相談することが重要です。精神科や心療内科、あるいは身体的な原因が疑われる場合は内科や循環器内科などが適切な受診先となります。

医療機関では、問診や必要な検査によって正確な診断が行われ、病状に応じた適切な治療(薬物療法、精神療法など)を受けることができます。焦りやパニックを引き起こす病気の多くは、適切な治療によって症状の改善が期待できます。一人で悩みを抱え込まず、専門家のサポートを得ることで、より安定した生活を取り戻すことが可能です。

焦りやパニックは、あなたが弱いから起こるわけではありません。体が発している大切なサインとして捉え、勇気を出して一歩踏み出しましょう。

免責事項: この記事は一般的な情報提供を目的としており、医療行為に代わるものではありません。個々の症状に関する診断や治療については、必ず医療機関を受診し、医師の指示に従ってください。この記事の情報に基づいたご自身の判断による行動に関しては、一切の責任を負いかねます。

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