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場面緘黙症とは?子供・大人の症状、原因、周囲の接し方を徹底解説

場面緘黙症は、家庭では普通に話せるのに、学校など特定の社会的な状況では話せなくなってしまう不安障害の一種です。決して「話したくない」のではなく、「話そうとしても声が出せない」「話そうとすると強い不安や緊張を感じてしまう」という、本人の意思ではコントロールしにくい状態です。この記事では、場面緘黙症の症状、原因、子どもと大人のケース、そして家庭や学校での適切な対応や治療法について、専門的な知見に基づきながら分かりやすく解説します。
場面緘黙症への理解を深め、本人や周囲がより良い関係を築くための一助となれば幸いです。

目次

場面緘黙症とは?定義と特徴

場面緘黙症(ばめんかんもくしょう:Selective Mutism)は、DSM-5(精神疾患の診断・統計マニュアル第5版)において「不安症群」の一つとして分類されている精神疾患です。診断基準にはいくつか要件がありますが、最も特徴的なのは、家庭などでは問題なく話せるにもかかわらず、学校や幼稚園、特定の人物の前といった限られた状況で、一貫して話すことができなくなる状態が1ヶ月以上続くことです。この状態が、学業や社会生活に支障をきたしている場合に診断が検討されます。単なる一時的な緊張や人見知りとは異なり、強い不安や恐怖が根底にあると考えられています。

「話さない」のではなく「話せない」状態

場面緘黙症の最も重要な理解ポイントは、「話さない(意図的に沈黙を選ぶ)」のではなく、「話せない(強い不安や緊張のために声が出せない)」という点です。周囲からは「恥ずかしがり屋」「引っ込み思案」「頑固」「反抗的」などと誤解されがちですが、本人は話したいと思っていても、体がこわばり、声が出なくなってしまうのです。これは、特定の状況下で不安や恐怖を感じた際に起こる、凍りつき反応(フリーズ)に似た状態と考えられます。

家庭などのリラックスできる環境では自由に話せるため、この「話せない」状態が周囲に理解されにくいことも、本人が苦しむ要因となります。家庭での様子を知っている保護者や、家庭外での様子しか知らない友人や教師など、状況によって本人の印象が大きく異なって見えることも少なくありません。このギャップが、本人だけでなく家族にとっても大きな負担となることがあります。

主な発症時期・年齢

場面緘黙症は、主に幼児期から児童期にかけて発症することが多いとされています。特に、集団生活が始まる幼稚園や保育園への入園時、小学校への入学時など、新しい環境に適応する必要が生じたタイミングで症状が現れることが一般的です。これは、新しい人間関係や、家庭とは異なる社会的なルールの中で話すことへの不安が高まるためと考えられます。

発症年齢としては、3歳から5歳頃が多いという報告がありますが、個人差があります。小学校入学後に症状がはっきりする場合や、さらに年齢が上がってから気づかれる場合もあります。早期に発見し、適切な対応や支援を行うことで、症状の改善や軽減が期待できます。しかし、思春期以降まで症状が続く場合や、大人になってからも場面緘黙症に悩む方もいらっしゃいます。

場面緘黙症の具体的な症状

場面緘黙症の中心的な症状は、特定の場面での発語困難ですが、それに付随して様々な行動や内面的な特徴が見られます。

特定の場面での発語困難

場面緘黙症の人が話せなくなる状況は、個人によって異なりますが、学校や幼稚園、習い事などの集団生活の場、親戚や近所の人など、家庭外の特定の人物の前で起こることが典型です。

  • 学校での例:
    • 授業中に先生から指されても声が出せない
    • 友達に話しかけられても返事ができない
    • 発表や音読ができない
    • 休み時間に友達と遊んでいても、声を出して笑ったり話したりできない
    • トイレに行きたいなどの用件を先生に伝えられない
  • 家庭外での例:
    • お店で店員さんと話せない
    • 公共交通機関で質問ができない
    • 祖父母や親戚の前で話せない
    • 電話に出られない、電話で話せない

話せない状況でも、ジェスチャーや頷き、首振り、表情などでコミュニケーションを試みる人もいれば、全く反応を示せない人もいます。また、特定の場所全体で話せなくなるのではなく、場所の中でも特定の人物(例:担任の先生、特定のお友達など)の前だけで話せなくなるという場合もあります。

子どもの場面緘黙症の特徴(どんな子?)

子どもの場面緘黙症は、単に話せないだけでなく、以下のような様々な特徴を伴うことがあります。

  • 強い不安や緊張: 特定の場面に行くと体がこわばる、お腹が痛くなる、吐き気がするなど、身体的な症状を伴うほどの強い不安を感じる。
  • 無表情・硬い表情: 話せない状況では、表情が乏しくなったり、強張ったりすることがある。
  • 視線を合わせられない: 人と目を合わせることを避ける傾向がある。
  • 動きが少なくなる: 特定の場面では、体の動きが制限されたり、固まったりしたようになることがある。
  • ジェスチャーや頷き: 声は出せなくても、ジェスチャーや頷き、筆談などでコミュニケーションを図ろうとする場合がある。
  • 排泄に関する困難: 学校などでトイレに行きたいと伝えられず、我慢してしまうことがある。
  • 感覚過敏: 大きな音や強い光、特定の肌触りなどを非常に苦手とする感覚過敏を伴うことがある。
  • 他の不安障害の併存: 分離不安、社交不安障害、パニック障害などの他の不安障害を併発しやすい。
  • 選択性の強さ: 話せる相手や場所が非常に限定的で、その境界がはっきりしている。

家庭など安心できる場では、おしゃべりで活発、冗談を言ったり歌ったりすることもできるなど、まるで別人のように振る舞うことも少なくありません。この二面性が、周囲の誤解を生みやすくします。

大人の場面緘黙症

場面緘黙症は子どもの問題と思われがちですが、大人になっても症状が続く方や、大人になってから症状が現れる方もいます。大人の場合、就職活動、職場での人間関係、会議での発言、電話応対、恋愛、結婚生活など、社会生活の様々な場面で困難を感じることが多くなります。

大人の場面緘黙症の症状としては、子どもの場合と同様に特定の場面で話せなくなることに加え、以下のような特徴が見られることがあります。

  • 社会的な孤立感: コミュニケーションの困難さから、友人関係や職場での人間関係を築くことに苦労し、孤立を感じやすい。
  • キャリアへの影響: 仕事で発言が必要な場面を避ける、電話応対ができないなどの理由で、キャリアアップが難しくなったり、転職を繰り返したりすることがある。
  • 日常生活の困難: 美容院や病院の予約ができない、公共サービスの手続きができないなど、日常生活に支障をきたす場合がある。
  • うつ病や他の不安障害の併発: 長期にわたるコミュニケーションの困難や孤立から、うつ病や他の不安障害を併発するリスクが高い。

子どもの頃から症状が続いている場合もあれば、環境の変化(進学、就職、引っ越しなど)をきっかけに症状が悪化したり、顕在化したりすることもあります。大人になってから初めて自身の状態を「場面緘黙症かもしれない」と認識する方もいます。

性格や知能との関連(頭がいい/天才)

場面緘黙症は、特定の状況で話せないことと、本人の性格や知能とは直接的な関連はありません。むしろ、場面緘黙症の人は、観察力が高く、物事を深く考える傾向があるなど、知的な能力が高い人も少なくありません。「頭がいい」「天才」といった表現で特徴を捉えようとする声もありますが、これは単に話さないことで周囲が知的な内面を測りかねている、あるいは、話さない時間を思考に費やしているように見えるためかもしれません。

場面緘黙症は、内気や恥ずかしがり屋といった性格特性と関連が深い場合もありますが、それ自体が原因ではありません。また、知能遅滞や発達障害(自閉スペクトラム症やADHDなど)を併存しているケースもありますが、場面緘黙症が直接これらの障害によって引き起こされるわけではありません。場面緘黙症の本質は、特定の場面における「話すことへの強い不安」であると理解することが重要です。知的な能力は十分にあるにも関わらず、不安のためにその能力を発揮しにくい状況にある、と捉えることができます。

場面緘黙症の原因

場面緘黙症は、単一の原因で引き起こされるものではなく、様々な要因が複雑に絡み合って発症すると考えられています。主に、本人の生まれ持った気質や特性、そして環境要因が相互に影響し合っているとされています。

不安障害としての側面

場面緘黙症は、前述の通り不安障害の一つとして分類されています。これは、特定の状況で話せなくなることが、話すことへの強い不安や恐怖心によって引き起こされていることを示唆しています。不安を感じやすい、感受性が高いといった不安になりやすい気質が背景にあると考えられます。

社交不安障害と共通する部分が多く、人前で話すことや注目されることへの強い恐怖が、場面緘黙症の発症に関わっていると指摘されています。しかし、社交不安障害の場合は広範な社会状況で不安を感じやすいのに対し、場面緘黙症は特定の場面に限定される点が異なります。とはいえ、両方の診断がつく場合も少なくありません。不安を感じやすい脳の特性や、神経系の機能が関与している可能性も研究されています。

生まれ持った気質・特性

場面緘黙症になりやすい人には、以下のような生まれ持った気質や特性が見られることがあります。

  • 抑制的な気質: 新しい状況や人に対して警戒心が強く、ためらいがちな傾向。
  • 感受性が高い: 周囲の雰囲気や他者の感情に敏感で、深く感じ取る。
  • 完璧主義・失敗への恐れ: 間違えることや、うまく話せないことを過度に恐れる。
  • 感覚過敏: 特定の感覚刺激(音、光、匂いなど)に過敏で、それが不安や緊張を高めることがある。
  • 言語発達の遅れ: 幼少期に一時的な言語発達の遅れがあった場合、話すことへの自信のなさにつながることがある。

これらの気質や特性があるからといって必ず場面緘黙症になるわけではありませんが、特定の環境要因と組み合わさることで、症状が現れやすくなると考えられています。

その他の要因

個人の気質に加えて、以下のような環境要因や経験も場面緘黙症の発症や維持に関わっている可能性があります。

  • 環境の変化: 入園、入学、転校、引っ越しなど、新しい環境への不適応や不安。
  • 家庭環境: 過干渉や過保護、あるいは不適切な養育環境が不安を高める可能性。ただし、特定の家庭環境が直接の原因となるわけではなく、家庭内でのリラックスできる雰囲気の有無が重要です。
  • トラウマ体験: いじめ、虐待、災害など、話すことや特定の場所に関連するトラウマ体験が引き金となる可能性。
  • 二言語環境: 家庭と社会(学校など)で異なる言語を使用している場合、言語的な不安が発語困難につながることがある。ただし、二言語環境自体が原因ではなく、言語習得の困難さやコミュニケーションへの不安が背景にあると考えられます。

これらの要因が単独で作用するというよりは、生まれ持った不安になりやすい気質を持つ人が、特定の環境要因や経験に触れることで、話すことへの強い不安が高まり、場面緘黙症として症状が現れる、という多因子的なモデルが一般的です。

場面緘黙症の診断と見分け方

場面緘黙症の診断は、専門家(医師、臨床心理士、公認心理師など)によって行われます。診断基準に基づいて、本人の様子や、保護者、学校関係者からの情報などを総合的に判断します。早期に正確な診断を受けることは、適切な支援や治療へ繋がる第一歩となります。

診断基準(DSM-5など)

国際的に広く用いられている精神疾患の診断基準であるDSM-5では、場面緘黙症の診断には以下の主要な項目が考慮されます。

項目 内容
基準A 他の状況では話すことができるにもかかわらず、話すことが期待されている特定の社会状況(例:学校)において、一貫して話すことができない。
基準B この障害が学業や職業上の成果、あるいは社会的コミュニケーションを妨げている。
基準C この障害の持続期間が1ヶ月以上である(最初の1ヶ月間は除く)。
基準D 話すことができないことが、その社会状況で話される言語に対する知識の欠如や不慣れさによるものではない。
基準E この障害が、コミュニケーション障害(例:吃音症)ではうまく説明されず、自閉スペクトラム症、統合失調症、または他の精神病性障害の経過中のみに起こるものではない。

※上記の表はDSM-5の診断基準の主要な要点を分かりやすくまとめたものであり、診断は専門家が総合的に行う必要があります。

診断にあたっては、様々な状況での本人の行動観察、保護者や学校関係者からの詳しい情報収集(いつから話せなくなったか、どんな状況で話せるか/話せないか、家庭での様子など)、本人への面談(可能な場合)、他の可能性のある障害との鑑別なども行われます。

診断テスト・チェックリストの活用

場面緘黙症に特化した診断テストやチェックリストも存在しますが、これらはあくまで診断の補助として使用されるものであり、これだけで診断が確定するわけではありません。例えば、保護者や教師向けの観察チェックリストを用いて、特定の状況での発話状況や付随する行動(表情、ジェスチャーなど)を記録し、専門家が診断材料として活用することがあります。

また、不安の程度を測る心理検査や、子どもの場合は発達検査などが行われることもあります。重要なのは、専門家が複数の情報源と専門的な知識に基づいて総合的に判断することです。自己判断やチェックリストの結果だけで決めつけず、必ず専門機関を受診するようにしましょう。

場面緘黙症への適切な対応方法

場面緘黙症の本人にとって、周囲の理解と適切なサポートは何よりも重要です。「話せない」状態を無理強いしたり、責めたりすることは逆効果です。焦らず、本人のペースに合わせて、安心できる環境を整えることが回復への鍵となります。

周囲の理解と接し方

場面緘黙症の人と接する際に、周囲(家族、友人、教師、職場の同僚など)が心がけるべき最も基本的なことは、「話せないのは本人のせいではない」と理解することです。

  • 無理に話させようとしない: 「話してごらん」「どうして話さないの?」といった声かけは、本人にプレッシャーを与え、不安を増大させてしまいます。
  • 「話さない」こと自体を問題視しない: 話せないことよりも、本人がその場にいること、他の方法でコミュニケーションを取ろうとしていることを肯定的に受け止めましょう。
  • 「話せた」時に過剰に反応しない: たとえ小さな声でも話せた時は、さりげなく肯定的なフィードバックを与えるのが望ましいです。「〇〇って言えたね、すごいね!」といった大げさな褒め方は、次回話すことへのプレッシャーになることがあります。「うん、分かったよ」「ありがとう」など、自然な応答を心がけましょう。
  • 安心して過ごせる場を作る: 常に監視されているような状況や、失敗を恐れるような雰囲気ではなく、リラックスして過ごせるような配慮が重要です。
  • 非言語コミュニケーションを活用する: 言葉でのやり取りが難しくても、ジェスチャー、頷き、表情、筆談、カード、絵など、様々な方法でコミュニケーションを図る工夫をしましょう。
  • 一対一で関わる時間を設ける: 大勢の前では話せなくても、信頼できる特定の人と一対一であれば話せる場合があります。短時間でも良いので、安心できる人との関わる時間を持つ機会を設けてみましょう。
  • 話せる相手と話せない相手がいることを理解する: 特定の人には話せるのに、別の人には話せないという選択性があることを受け止めましょう。これは相手によって対応を変えているのではなく、不安のレベルが異なるためです。

家庭でのサポート

家庭は、場面緘黙症の本人にとって最も安心できる場所であるべきです。家庭でのリラックスした雰囲気が、他の場所での不安を軽減する助けになります。

  • 安心できる環境の提供: 家では自由に話せる、安心して感情を出せるという環境を維持することが重要です。話せない状況について、家庭内で責めたり、過度に心配したりしないようにしましょう。
  • 共感と受容: 本人が話せない状況で感じている不安や困難に共感し、「話せないのは辛いね」「大丈夫だよ」といったメッセージを伝えましょう。
  • 小さな成功体験を積ませる: 家庭内や、本人が安心できる環境で、話すこと以外の方法でコミュニケーションを取る、役割を果たすなど、小さな成功体験を積ませることが自信につながります。
  • スモールステップでの目標設定: 家庭外でのコミュニケーション練習は、無理のないスモールステップで行います。例えば、「お店でジェスチャーでお願いしてみよう」「親しい親戚に短い手紙を書いてみよう」など、本人が挑戦しやすい小さな目標を設定し、達成できたら褒める(ただし過剰にならないように)。
  • 家族以外で話せる人を作る: 家庭以外の安心できる場所(祖父母の家など)や、家庭以外で話せる人(仲の良い親戚など)を増やす練習も有効な場合があります。
  • 専門家との連携: 診断を受けた専門家から、家庭での具体的なサポート方法についてアドバイスを受けることが大切です。

学校でのサポート

学校は、子どもが場面緘黙症の症状を示す最も典型的な場所であり、適切なサポートが不可欠です。学校と家庭、専門家が連携して対応することが非常に重要になります。

  • 担任教師の理解: 担任教師が場面緘黙症について正しく理解し、「話せないのは問題行動ではない」という認識を持つことが、本人への適切な接し方の出発点です。
  • 学校全体での情報共有: 担任だけでなく、他の先生方、スクールカウンセラー、養護教諭など、本人に関わる可能性のある学校職員全体で情報と対応方法を共有することが望ましいです。
  • 安心できる関係づくり: 先生やクラスメイトとの間に、本人が安心できる関係を築けるような働きかけが重要です。無理強いしない声かけ、非言語コミュニケーションの活用などを心がけます。
  • スモールステップでのコミュニケーション練習: クラスでの発言を求める前に、先生と一対一で筆談をする、短いメモを渡す、チャットツールを使うなど、本人が試しやすい方法から段階的に慣らしていく支援が有効です。
  • 合理的配慮: 授業中の発表を免除する、筆談や他の方法での代替を認める、テストを別室で行うなど、本人の状況に応じた合理的配慮が検討されます。
  • ピアサポート: クラスメイトに場面緘黙症について少しだけ説明し、理解と協力をお願いすることも有効な場合があります(ただし、本人の了解を得て、プライバシーに最大限配慮して行います)。
  • 学校心理士・スクールカウンセラーとの連携: 学校に配置されている専門家と連携し、本人へのカウンセリングや、教師・保護者へのコンサルテーションを行うことも有効です。

学校での対応における注意点

適切な対応 避けるべき対応
話せない状況を受け入れ、無理強いしない 「話してごらん」「どうして話さないの?」と繰り返し言う
非言語コミュニケーション(ジェスチャー、筆談など)を積極的に活用する 話せないことを無視したり、諦めたりする
小さな変化や努力をさりげなく認める 話せた時に大げさに騒いだり、他の子と比較したりする
安心できる関係づくりや環境整備に時間をかける 罰を与えたり、できないことをからかったりする
スモールステップでコミュニケーションの機会を設ける(例:先生と二人きりの時に筆談) いきなり大勢の前で発表を求める
家庭や専門機関(医療機関など)と緊密に連携する 勝手な判断や、根拠のない方法で対応する
合理的配慮について本人や保護者と話し合う 本人の状況を個人的な問題として片付け、必要な配慮を行わない

場面緘黙症の治療

場面緘黙症は、適切な治療や支援によって改善が期待できる不安障害です。治療の中心となるのは心理療法ですが、場合によっては薬物療法が併用されることもあります。重要なのは、早期に専門機関に相談し、本人に合った治療計画を立てることです。

心理行動療法

場面緘黙症の治療において、最も有効性が高いとされているのが心理行動療法(CBT)です。特に、不安を感じる状況に段階的に慣れていく曝露療法が中心となります。

  • 段階的曝露法(Gradual Exposure): 本人が不安を感じる「話す」ことに関連する状況を、不安のレベルが低いものから高いものへとリストアップし、低いレベルのものから順番に挑戦していきます。例えば、「先生と一対一で筆談する」→「先生に短いメモを渡す」→「先生にジェスチャーで返事をする」→「先生に頷いて返事をする」→「先生に小さな声で一言話す」→「先生に普通の声で話す」→「友達と二人きりで話す」→「グループで話す」→「クラス全体で話す」のように、細かくステップ分けをして取り組みます。各ステップは、本人が「少し頑張ればできそう」と思えるレベルに設定し、成功体験を積み重ねながら次のステップに進みます。
  • 刺激フェーディング(Stimulus Fading): 話せる相手(例:母親)がいる安心できる状況からスタートし、徐々に話せない相手(例:担任教師)をその場に加えていく方法です。最初は母親とだけ話し、担任教師はただ同席しているだけ。慣れてきたら、母親と担任教師が少し会話を交わし、最終的には担任教師と本人が直接会話できるようになることを目指します。
  • シェイピング(Shaping): 最終的な目標(例:先生と話す)に向けて、目標に近い行動を段階的に強化していく方法です。例えば、声は出なくても口を動かす、囁く、といった、発話に近い行動ができたら褒める、というように、少しずつ目標行動に近づけていきます。

これらの心理行動療法は、専門家(臨床心理士など)の指導のもと、家庭や学校と連携して行われます。治療には時間がかかることもありますが、根気強く取り組むことで、話せる場面が少しずつ増えていくことが期待できます。

薬物療法

心理療法がうまくいかない場合や、不安症状が非常に強い場合、うつ病などの他の精神疾患を併発している場合などには、薬物療法が検討されることがあります。主に抗不安薬や選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)といった抗うつ薬が用いられます。

薬物療法は、それだけで場面緘黙症を治すものではなく、心理療法や環境調整の効果を高めるための補助的な役割として使用されます。不安を軽減することで、心理療法に取り組むハードルを下げたり、話す練習をしやすくなったりする効果が期待できます。薬の種類や用量は、専門医が本人の年齢、症状、体質などを考慮して慎重に決定します。子どもの場合は、より慎重な検討が必要です。薬物療法を開始した後も、定期的に効果や副作用について医師と相談することが重要です。

治療のステップ・治癒のきっかけ(直し方)

場面緘黙症の「直し方」というよりは、「改善」「回復」を目指すという視点が適切です。治療の一般的なステップは以下のようになります。

  1. 診断と情報収集: 専門家による正確な診断を受け、本人、保護者、学校関係者などから詳しい情報を収集します。
  2. 治療目標の設定: 本人の状況や希望、家庭や学校の状況などを踏まえ、現実的で具体的な治療目標(例:特定の先生に挨拶ができるようになる、特定の友達と短い会話ができるようになる)を設定します。
  3. 治療法の選択と実施: 主に心理行動療法を中心に、必要に応じて薬物療法を併用しながら治療を開始します。
  4. 家庭・学校との連携: 治療を進める上で、家庭や学校での協力は不可欠です。専門家からのアドバイスを参考に、日常生活でのサポートやコミュニケーション練習を行います。
  5. 評価と調整: 定期的に治療の進捗を評価し、目標達成度や本人の状態に合わせて治療計画を調整します。

治癒(全ての場面で完全に話せるようになること)に至るケースもあれば、特定の場面や相手とは話せるようになるなど、部分的な改善にとどまるケースもあります。回復のきっかけは様々ですが、以下のような点が挙げられます。

  • 安心できる人間関係の構築: 信頼できる友人や教師との関係が深まること。
  • 成功体験の積み重ね: スモールステップでの挑戦が成功し、自信がつくこと。
  • 環境の変化: 本人に合った学校やクラス、職場環境に移ること。
  • 本人の成長と自己理解: 思春期以降に、自身の状態を理解し、克服したいという気持ちが芽生えること。
  • 適切な治療とサポートの継続: 専門家、家族、学校など、周囲の継続的なサポートが得られること。

治療は長期にわたることも多いですが、根気強く、本人を励ましながら取り組むことが重要です。

場面緘黙症についてさらに知る

場面緘黙症についてさらに深く理解するためには、専門家が書いた書籍や、当事者や家族の体験談を知ることが役立ちます。

おすすめ関連書籍(本)

場面緘黙症に関する書籍は、専門家向けのものから、保護者や教師向けの分かりやすい解説書、当事者の手記まで多岐にわたります。

  • 専門家による解説書: 場面緘黙症の定義、原因、診断、治療法について、最新の知見に基づいて体系的に解説された書籍は、正確な知識を得る上で役立ちます。不安障害としての理解や、具体的な心理療法の技法などが詳しく紹介されています。
  • 保護者・教師向けの入門書: 子どもの場面緘黙症に焦点を当て、家庭や学校での具体的な対応方法、子どもへの声かけの仕方、学校との連携方法などが分かりやすく解説された書籍は、日々の関わり方のヒントになります。豊富な事例が掲載されていることも多いです。
  • 当事者・家族の手記: 場面緘黙症を持つ本人やその家族が、自身の経験、苦悩、克服への道のりなどを綴った手記は、当事者の内面を理解する上で非常に貴重です。共感を得たり、希望を見出したりするきっかけになることがあります。

これらの書籍を読むことで、場面緘黙症への理解を深め、本人への適切なサポート方法を学ぶことができます。書店や図書館で探したり、インターネットで検索したりしてみてください。

まとめ:専門機関への相談を検討しましょう

場面緘黙症は、「話さない」のではなく「話せない」不安障害です。特定の場面で話せないことで、学業や社会生活に大きな困難を抱えることがあります。しかし、適切な理解と支援、そして専門家による治療によって、改善が期待できます。

もし、お子さんや身近な人が特定の場面で話せなくなるといった様子が見られる場合、あるいはご自身が場面緘黙症かもしれないと感じている場合は、一人で悩まず、まずは専門機関に相談することを強くおすすめします。

  • 医療機関: 児童精神科、精神科、心療内科などで、医師による診断や薬物療法の相談が可能です。
  • 心理相談機関: 心理クリニックやカウンセリングルームなどで、臨床心理士や公認心理師による心理療法(心理行動療法など)を受けることができます。
  • 教育相談機関: 教育センターや学校の相談室などで、学校生活での対応や連携について相談できます(子どもの場合)。

専門家は、本人の状態を正しく評価し、最も適した支援や治療法を提案してくれます。また、家庭や学校での具体的な対応方法についても、専門的なアドバイスを受けることができます。早期に相談することで、本人や家族の負担を軽減し、より良い方向へ進むための道を切り開くことができます。場面緘黙症は理解されにくい面もありますが、適切なサポートがあれば必ず光が見えてきます。

免責事項: 本記事は、場面緘黙症に関する一般的な情報を提供するものであり、医学的な診断や治療を推奨するものではありません。個々の症状や状況については、必ず専門の医療機関にご相談ください。本記事の情報に基づいて行われた行動によって生じたいかなる損害についても、当方は一切の責任を負いかねます。

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