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解離性障害かも?特徴・症状・原因から治療まで完全ガイド

解離性障害は、私たちの心や体の機能の一部(記憶、意識、自己の感覚、知覚、運動機能など)が一時的、あるいは慢性的に分断されてしまう精神疾患の総称です。これは、日常生活で誰でも経験する「解離」という現象が、極端に強く現れたり、頻繁に起こったりすることで生活に支障をきたす状態を指します。この記事では、解離性障害の主な種類、具体的な症状、その背景にある原因、そして診断や治療法について詳しく解説します。ご自身や大切な人が解離性障害かもしれないと感じている方、解離性障害について正しく理解したい方は、ぜひ最後までお読みください。

「解離(かいり)」とは、本来一つに統合されているはずの精神機能や身体機能が、一時的に切り離されてしまう現象です。例えば、運転中に考え事をしていて、気づいたら目的地に着いていた、という経験は多くの人がしたことがあるでしょう。これは、意識が運転という行為から一時的に「解離」した状態と言えます。

解離性障害は、この解離という現象が、個人のアイデンティティ、記憶、意識、知覚、感情、行動、身体感覚などを統合する能力が著しく損なわれることによって引き起こされる精神疾患です。特に、耐えがたい体験や心理的な苦痛から自分自身を守るための、無意識的な防衛反応として現れることが多いと考えられています。

解離性障害の診断は、国際的な診断基準であるDSM(精神疾患の診断・統計マニュアル)やICD(疾病及び関連保健問題の国際統計分類)に基づいて行われます。これらの基準では、特定の解離症状が見られること、その症状によって社会生活や職業生活に重大な支障が生じていることなどが診断の要件となります。

解離性障害は稀な疾患ではありませんが、その症状が多様であるため、他の精神疾患と誤診されたり、理解されにくかったりすることがあります。正確な診断と適切な治療を受けることが、症状の改善と回復のために非常に重要です。

目次

解離性障害の主な種類

解離性障害は、現れる解離症状の特徴によっていくつかの種類に分類されます。DSM-5では、主に以下の解離性障害が挙げられています。

解離性健忘

解離性健忘は、通常では思い出せる個人的な重要な情報(自分の名前、過去の出来事など)が、心理的な原因によって思い出せなくなる状態です。一般的な物忘れや、アルコール・薬物、頭部の外傷による記憶障害とは異なります。

この健忘は、特定の出来事(限局性健忘)、特定の期間(選択性健忘)、特定のカテゴリー(特定の時間内で特定の種類の情報だけが思い出せない)、あるいは自分自身に関するほぼすべての情報(全般性健忘)に及ぶことがあります。特に、トラウマ的な出来事や極度のストレス体験に関連した記憶が失われることが多いです。例えば、事故に遭った時の記憶が一切思い出せない、虐待を受けていた特定の期間の記憶が全くない、といったケースが見られます。

失われた記憶は、意識的に思い出そうとしても困難ですが、自然に回復したり、適切な治療(精神療法など)によって思い出されることもあります。

解離性漫遊症

解離性漫遊症は、自分のアイデンティティや過去に関する健忘を伴いながら、突然、見慣れない場所へ目的もなくさまよい出てしまう状態です。漫遊している間、本人は新しいアイデンティティを一時的に持ち、新しい生活を始めているように見えることもありますが、漫遊が終わると、その間の出来事や自分がどこにいたのかを全く覚えていないことがほとんどです。

これは解離性健忘の特殊な形態とも言え、極度のストレスやトラウマ体験の直後に起こることが多いとされています。例えば、大災害に巻き込まれた後に、自分が誰かも分からず、遠く離れた場所で見つかった、といったケースが考えられます。漫遊中は普通に行動しているように見えるため、周囲が解離状態にあることに気づかないこともあります。

漫遊から覚めると、自分がなぜその場所にいるのか混乱したり、不安になったりします。失われた期間の記憶は通常、自然には戻りにくいとされています。

離人症/現実感喪失症

離人症/現実感喪失症は、自分自身や周囲の世界が、現実ではない、あるいは疎遠に感じられる状態です。

  • 離人症は、自分自身の体や精神から切り離されている、あるいは傍観者のように感じられる感覚です。「自分が自分ではないような感じ」「自分の体がロボットのように動いている感じ」「感情が湧かない、生きている実感がない」といった訴えが見られます。これは、自己の感覚やアイデンティティからの解離です。
  • 現実感喪失症は、周囲の世界が現実ではない、遠い、夢の中のよう、人工的であると感じられる感覚です。「周囲の風景が絵のように平坦に見える」「他人がマネキンのように見える」「世界に色がなくなったようだ」といった訴えが見られます。これは、外部世界や現実からの解離です。

これらの症状は、同時に起こることも、どちらか一方のみが優勢なこともあります。自分が「おかしくなってしまったのではないか」「気が狂ってしまったのではないか」と強い不安を感じることが多いですが、現実検討能力(現実と非現実を区別する能力)は保たれている点が、精神病性障害(統合失調症など)との大きな違いです。症状は一時的なこともあれば、慢性的になることもあります。

解離性同一性障害

解離性同一性障害(DID:Dissociative Identity Disorder)は、かつて多重人格障害と呼ばれていたもので、複数の明確に異なる自己状態(交代人格、アルター)が存在し、これらの交代人格が、ある時点において本人の行動を支配する状態です。

交代人格は、それぞれ異なる名前、年齢、性別、性格、記憶、声、癖などを持っていることがあります。ある交代人格が表に出ている間、他の交代人格は「内側」にいて、表に出ている間の記憶がない(健忘がある)ことが一般的です。この健忘は、日常的な出来事、重要な個人的情報、トラウマ的な出来事など、あらゆる範囲に及ぶ可能性があります。

解離性同一性障害のほとんどは、幼少期の極度のトラウマや虐待(身体的虐待、性的虐待、ネグレクトなど)に対する自己防衛反応として形成されると考えられています。耐えがたい体験を「自分自身の身に起こったことではない」として切り離し、別の人格に引き受けてもらうことで、当時の幼い心が崩壊するのを防ごうとした結果です。

診断には時間を要することが多く、熟練した専門家による慎重な評価が必要です。また、他の精神疾患との鑑別も重要になります。

解離性障害で現れる症状

解離性障害の症状は多岐にわたり、精神的なものから身体的なものまで含まれます。症状の現れ方や程度は個人によって大きく異なり、同じ人でも状況によって症状が変化することがあります。

精神症状(記憶、意識、自己の変化)

解離性障害の中心となるのは、記憶、意識、自己の感覚の分断です。

  • 記憶の障害:
    • 健忘: 前述の解離性健忘のように、特定の出来事や期間、あるいは自分自身に関する重要な情報を思い出せない。特にトラウマ体験に関連する記憶が失われることが多い。
    • フラッシュバック: トラウマ的な出来事が、あたかも今そこで起こっているかのように鮮明に、感情や身体感覚を伴って繰り返し思い出される。これは記憶の解離とは逆のように見えますが、過去の体験が「現在の自分」から切り離されて断片的に侵入してくる現象として解離の一部と捉えられます。
    • 記憶の混乱: 過去の出来事の順序や内容が曖昧になったり、現実と非現実の区別がつかなくなったりする。
  • 意識の変化:
    • もうろう状態: 意識レベルが低下し、ぼうぜんとしたり、周囲への反応が鈍くなったりする。
    • トランス状態: 意識が特定の対象に集中しすぎたり、あるいはぼんやりしたりして、周囲への注意が著しく低下する。憑依されているように見えることもあります。
  • 自己の感覚の変化(離人感):
    • 自分が自分ではないような感覚。自分の体や感情が自分のものではないように感じる。
    • 自分の行動を外から見ているような感覚(体外離脱体験)。
    • 鏡を見たときに、見知らぬ人のように感じる。
  • 現実の感覚の変化(現実感喪失):
    • 周囲の世界が現実ではない、遠い、夢の中のよう、不鮮明であると感じる。
    • 他人や物事が人工的に見える、色や質感が失われたように見える。

これらの精神症状は、患者さんにとって非常に苦痛であり、「気が変になってしまった」「自分はもう元に戻れない」といった強い不安や絶望感を引き起こすことがあります。

身体症状(感覚や運動機能の変化)

解離は、精神だけでなく身体機能にも影響を及ぼすことがあります。これはかつて「転換性障害」と呼ばれていたものと重なる部分があり、心理的な原因によって身体症状が現れるものです。これらの症状は、神経学的な検査や医学的な疾患では説明できません。

  • 感覚の障害:
    • 解離性麻痺: 手足が動かせなくなる、体に力が入らない。
    • 解離性盲・難聴: 目が見えなくなる、耳が聞こえなくなる。
    • 解離性無痛症: 特定の体の部位や全身に痛みを感じなくなる。これは、怪我をしても痛みに気づかないなど、危険な状況につながることもあります。
    • 触覚・味覚・嗅覚の変化: 特定のものに触れても何も感じない、味が分からない、特定の匂いがしない、など。
  • 運動機能の障害:
    • 解離性失声症: 声が出なくなる、ささやき声しか出せなくなる。
    • 解離性歩行障害: バランスが取れずうまく歩けない、特定の歩き方になる。
    • 解離性振戦: 体が震える。
    • 解離性けいれん: てんかん発作のように見える発作(偽発作)。意識は完全に失われないことが多いが、周囲から見ると区別が難しい。

これらの身体症状は、本人の意思とは関係なく起こり、大きな苦痛や生活上の困難をもたらします。精神的な苦痛を身体症状として「転換」している状態と考えられます。

解離性昏迷

解離性昏迷は、意識レベルの低下、あるいは無反応状態を特徴とします。外部からの刺激(声かけ、揺り動かすなど)に対する反応が著しく乏しくなります。見た目には意識を失っているように見えたり、深く眠っているように見えたりしますが、脳波検査などでは意識障害を示すパターンは見られないことが特徴です。

これは、極度の心理的な衝撃やストレスによって引き起こされることがあります。例えば、予期せぬ悲報を聞いた後、強いショックを受けて反応がなくなる、といった状況です。数分で回復することもあれば、数時間、場合によってはそれ以上の期間続くこともあります。

解離性昏迷は、身体的な原因による昏睡状態や意識障害との鑑別が非常に重要であり、速やかに医療機関を受診して適切な診断を受ける必要があります。

解離症の三大症状とは?

解離性障害でよく言われる「三大症状」とは、一般的に以下の3つを指すことが多いです。

  1. 記憶の解離: 過去の出来事、特にトラウマ体験や特定の期間の記憶が失われること(解離性健忘など)。
  2. 自己の解離: 自分自身が現実ではない、あるいは自分から切り離されていると感じること(離人症)。
  3. 現実の解離: 周囲の世界が現実ではない、異質であると感じること(現実感喪失症)。

これらの症状は単独で現れることもありますが、複数組み合わさって現れることも多く、患者さんを混乱させ、日常生活に大きな支障をきたします。自分の経験していることが解離症状であると認識すること自体が難しいため、周囲の理解と専門家の支援が不可欠となります。

解離性障害の原因と背景

解離性障害は、単一の原因で起こるものではなく、複数の要因が複雑に絡み合って発症すると考えられています。中でも、心理的な要因、特にトラウマ体験が最も重要な原因とされています。

心理的な要因(トラウマ、ストレス)

解離性障害の発症に最も強く関連しているのが、幼少期における慢性的かつ重度のトラウマ体験です。これには以下のようなものが含まれます。

  • 身体的虐待: 殴る、蹴る、火傷を負わせるなど、体への直接的な暴力。
  • 性的虐待: 性的行為の強要や見せつけなど。
  • 精神的虐待: 屈辱的な言葉を浴びせる、無視する、脅すなど、心を傷つける行為。
  • ネグレクト: 食事や衣服、医療などの基本的な世話をしない、放置する。
  • 保護者からの予測不能な態度や拒絶: いつ愛情を示してくれるか分からず、突然突き放されるといった、不安定な関わり。
  • 早期の喪失体験: 親や保護者との死別、あるいは別離。

これらのトラウマ体験が、幼い子どもにとって耐えがたいものである場合、心は自分自身をその痛みや恐怖から守るために、「解離」という強力な防衛機制を使います。つまり、その場にいる「自分」と、その体験をしている「自分」を切り離すのです。「これは私に起こっていることではない」とすることで、心の崩壊や精神的な機能不全を防ごうとします。この解離という対処法が繰り返されることで、心の機能の統合がうまくいかなくなり、解離性障害として固定化されると考えられています。

成人期における重度のトラウマ(戦争、災害、事故、犯罪被害など)も解離性障害の原因となり得ますが、特に解離性同一性障害のような重い形態は、通常、発達早期の慢性的トラウマに起因するとされています。

また、トラウマとまでは言えなくても、極度のストレス(例えば、受験や就職活動での失敗、人間関係の破綻、過労など)が解離症状を引き起こしたり、既存の解離性障害を悪化させたりすることもあります。

生物学的な要因や脆弱性

心理的な要因が中心ですが、解離性障害には生物学的な要因や個人の脆弱性も関与していると考えられています。

  • 脳機能の変化: 解離性障害を持つ人では、扁桃体(情動や恐怖に関わる脳領域)や海馬(記憶に関わる脳領域)などの機能や構造に変化が見られるという研究報告があります。特に、トラウマ反応に関連する脳内の神経回路に何らかの偏りが生じている可能性が指摘されています。
  • 神経伝達物質: ストレス反応に関わる神経伝達物質(例えば、コルチゾールなど)の分泌異常や、鎮痛作用に関わる内因性オピオイドの関与などが研究されていますが、まだ十分には解明されていません。
  • 遺伝的要因: 特定の遺伝子が、解離しやすい気質や、トラウマに対する脆弱性に関与している可能性も示唆されています。ただし、特定の遺伝子だけで解離性障害になるわけではなく、環境要因との相互作用が重要です。
  • 気質: 生まれつきの気質として、高い感受性や想像力、あるいは環境の変化に対する適応の困難さなどが、解離という対処法を取りやすい脆弱性となり得ると考えられています。

これらの生物学的な要因や脆弱性は、トラウマ体験という引き金があったときに、解離という反応が起こりやすくなる素因として作用すると考えられます。心理的な要因と生物学的な要因が複合的に影響し合うことで、解離性障害が発症・維持されるのです。

解離性障害の診断

解離性障害の診断は、その症状の多様さと、他の精神疾患や身体疾患との鑑別が必要であることから、専門家による慎重な評価が求められます。

診断基準

解離性障害の診断は、主に世界的に広く用いられている診断基準に基づいています。

  • DSM(精神疾患の診断・統計マニュアル): アメリカ精神医学会が発行しており、現在、DSM-5が最新版です。症状の特徴や持続期間、それによる機能障害の程度など、具体的な診断基準が示されています。
  • ICD(疾病及び関連保健問題の国際統計分類): 世界保健機関(WHO)が発行しており、現在、ICD-11が最新版です。こちらもDSMと同様に、診断のための基準が示されています。

これらの診断基準を満たす症状が存在すること、そしてその症状が薬物や身体疾患など他の原因で説明できないことを確認した上で診断が確定されます。

診断プロセスと検査

解離性障害の診断は、通常、以下のプロセスを経て行われます。

ステップ 内容 補足
ステップ1:詳細な問診 患者さんの現在の症状、過去の病歴(特にトラウマ体験の有無)、家族歴、生育歴、社会生活、職業生活、現在のストレス状況などについて、時間をかけて詳しく聞き取ります。症状の具体的な内容や、いつ、どのような状況で現れるかなどを丁寧に確認します。 患者さんが症状をうまく説明できなかったり、記憶が曖昧だったりすることもあります。信頼関係を築きながら、根気強く聞き取ることが重要です。
ステップ2:精神医学的評価 患者さんの精神状態(思考、感情、行動、知覚、意識、記憶など)を専門的な視点から評価します。解離症状の有無や程度、現実検討能力、気分変動、幻覚・妄想の有無などを確認します。 解離性同一性障害の場合、複数の自己状態の存在を確認するための面接技法が用いられることもあります。
ステップ3:心理検査 解離症状のスクリーニングや重症度を評価するための質問紙(例:解離体験尺度[DES])や、人格構造、精神病理を評価するための他の心理検査(例:ロールシャッハテスト、MMPIなど)が用いられることがあります。 患者さんの認知機能や、トラウマ体験の影響を評価するための検査が行われることもあります。
ステップ4:身体疾患の除外 解離症状と似た症状(意識障害、記憶障害、感覚・運動障害など)を引き起こす可能性のある身体疾患(てんかん、脳腫瘍、脳血管障害、内分泌疾患など)や、薬物中毒、アルコール中毒などを除外するための医学的な検査(血液検査、脳波検査、画像検査など)を行います。 これらの検査は、症状の原因が身体的なものではないことを確認するために非常に重要です。
ステップ5:鑑別診断 症状が解離性障害によるものか、あるいは他の精神疾患(統合失調症、双極性障害、境界性パーソナリティ障害、PTSD、うつ病、不安障害など)によるものかを慎重に判断します。これらの疾患と解離性障害が併存している場合もあります。 症状が似ていても、原因や治療法が異なることがあるため、正確な鑑別診断は適切な治療につながります。
ステップ6:診断の確定 上記のプロセスを経て、診断基準を満たし、他の原因が除外された場合に、解離性障害あるいはその下位分類(解離性健忘、解離性同一性障害など)として診断が確定されます。 診断名は患者さん本人に丁寧に説明され、今後の治療方針について話し合われます。

診断プロセスは、患者さんの状況や症状の複雑さによって数週間から数ヶ月、あるいはそれ以上の時間を要することもあります。焦らず、専門家との信頼関係を築きながら進めることが大切です。

解離性障害の治療法

解離性障害の治療は、症状の種類や重症度、併存する他の精神疾患の有無などによって異なりますが、精神療法が治療の中心となります。薬物療法は、主に併存する症状(うつ、不安、不眠など)に対して用いられます。

精神療法

解離性障害に対する精神療法は、安全で信頼できる治療関係の中で行われることが基本です。トラウマが原因となっていることが多いことから、トラウマに焦点を当てた治療が重要になりますが、患者さんの安全と安定を最優先に進められます。

  • 解離に特化した精神療法:
    • 安全の確立と安定化: まず最も重要なのは、患者さんが安心できる環境を作り、症状に圧倒されず、感情をコントロールするためのスキルを身につけることです。症状が出たときの対処法、安定した生活リズムの確立、自傷行為や危険な行動の管理などを行います。
    • トラウマの処理: 安全性が確保された段階で、トラウマ体験をセラピストと共に安全な形で「語り」「処理」していきます。EMDR(眼球運動による脱感作と再処理法)や、修正された認知処理療法などが用いられることがあります。これは、トラウマ記憶を適切に整理し、その感情的な影響を軽減することを目的とします。解離性同一性障害の場合、複数の自己状態を統合したり、協力関係を築いたりするための専門的なアプローチが行われます。
    • 人格の統合(解離性同一性障害の場合): 複数の自己状態が、最終的に統合された一つの「自分」として機能できるように目指します。これは長期的なプロセスであり、非常に専門的な技術を要します。統合が難しい場合でも、各自己状態が協力し合い、より円滑に日常生活を送れるように調整することを目指すこともあります。
  • その他の精神療法:
    • 認知行動療法(CBT): 解離症状によって生じる非現実的な思考パターンや否定的な信念に焦点を当て、それらをより現実的で建設的なものに変えていくことを目指します。うつ病や不安障害が併存している場合に有効です。
    • 弁証法的行動療法(DBT): 特に感情の不安定さや衝動的な行動が見られる場合に有効とされます。感情調節スキル、苦痛耐性スキル、対人関係スキルなどを身につけることを目的とします。
    • 力動的精神療法: 解離の根底にある無意識的な葛藤や、過去の人間関係パターンを探求することで、自己理解を深め、症状の改善を目指します。

精神療法は、患者さんのペースに合わせて慎重に進められます。トラウマに触れる過程で症状が悪化することもあり得るため、経験豊富で信頼できるセラピストを見つけることが非常に重要です。

薬物療法

解離症状そのものに直接的に効く特効薬は、現在のところありません。しかし、解離性障害には、うつ病、不安障害、PTSD、パニック障害、パーソナリティ障害などが高頻度で併存します。薬物療法は、これらの併存症の症状(例えば、抑うつ気分、過剰な不安、不眠、フラッシュバック、パニック発作など)を緩和するために用いられます。

  • 抗うつ薬: うつ症状や不安症状、PTSDの症状(フラッシュバック、回避、過覚醒)などに有効な場合があります。選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)などがよく用いられます。
  • 抗不安薬: 不安やパニック発作に対して一時的に使用されることがありますが、依存性のリスクがあるため、慎重な使用が必要です。
  • 気分安定薬: 気分の変動が激しい場合や、衝動性が高い場合などに考慮されることがあります。
  • 非定型抗精神病薬: 重度の解離症状や、幻覚・妄想のような症状が見られる場合、あるいは衝動性や感情不安定に対して少量使用されることがあります。
  • 睡眠導入薬: 不眠がひどい場合に使用されますが、依存性や解離症状を悪化させる可能性に注意が必要です。

薬物療法はあくまで対症療法であり、解離の根本原因であるトラウマの処理や人格の統合には精神療法が必要です。薬物療法を行う際は、必ず医師と相談し、適切な処方を受けることが重要です。自己判断で服用したり、中止したりすることは危険です。

環境調整と支持療法

解離性障害の治療において、患者さんが安心して過ごせる環境を整えることや、周囲からの支持も非常に重要です。

  • 安全な環境の確保: 患者さんが物理的、精神的に安全だと感じられる場所で生活できることが基本です。必要であれば、家族や周囲のサポートを得ながら、不安定な状況から離れることも検討されます。
  • 安定した人間関係: 信頼できる家族、友人、パートナー、そして治療者との安定した関係性は、患者さんの安心感につながり、症状の安定に寄与します。
  • 生活リズムの調整: 規則正しい生活、十分な睡眠、バランスの取れた食事、適度な運動は、心身の健康を保ち、解離症状の安定に役立ちます。
  • ストレス管理: 解離症状はストレスによって悪化することが多いため、ストレスの原因を特定し、対処法を学ぶことも重要です。リラクセーション法やマインドフルネスなどが有効な場合があります。
  • 支持療法: 患者さんの話を傾聴し、共感し、困難な状況を乗り越えるための支えとなるような関わりです。精神療法と並行して行われることもあります。

これらの環境調整や支持療法は、精神療法の効果を高め、患者さんが回復に向かうための土台となります。

解離性障害の方への適切な接し方

解離性障害を持つ方への接し方は、その症状を理解し、寄り添う姿勢が非常に大切です。症状が分かりにくかったり、突然変化したりするため、周囲は戸惑うこともあるかもしれませんが、適切な対応を知ることで、患者さんの安心につながり、治療をサポートすることができます。

理解を示すことの重要性

解離性障害は、本人の「気のせい」や「怠け」で起こっているものではありません。**多くの場合、耐えがたい体験から自分自身を守るために、無意識的に生じた心の働き**です。この点を理解することが、適切な接し方の第一歩です。

  • 症状を否定しない: 記憶が飛んだり、自分が自分でないように感じたりする症状は、本人にとっては現実であり、大きな苦痛を伴います。「そんなはずはない」「考えすぎだ」と否定されると、本人は孤立感を深め、症状が悪化する可能性があります。まずは「辛いね」「大変だね」と、本人の苦しみに寄り添う姿勢を示しましょう。
  • 病気であると認識する: 解離性障害は、脳の機能や心の働きが変化した状態であり、適切な治療が必要な病気です。病気として理解することで、感情的にではなく、冷静に、かつ共感的に対応できるようになります。
  • 本人のせいではないと考える: 解離症状やそれによる行動(例えば、連絡が取れなくなる、約束を忘れるなど)は、本人の意思や努力不足で起こっているわけではありません。症状による困難であることを理解し、責めたり批判したりしないことが重要です。

周囲ができるサポートと注意点

解離性障害の方をサポートするために、周囲の人ができること、そして注意すべき点があります。

サポートするためにできること 注意すべき点
安全を確保する: 症状が出たときに、本人が危険な行動を取らないように見守り、安全な場所に誘導するなど、物理的な安全を確保します。 無理に刺激しない: 解離状態にあるときに、大声で呼びかけたり、強く揺り動かしたりすると、本人がさらに混乱したり、パニックになったりする可能性があります。
落ち着いて見守る: 症状が一時的なものであることも多いです。慌てずに、本人が落ち着くのを待つ姿勢でいることが大切です。 症状を「操作」しようとしない: 解離症状を自分の都合の良いように利用したり、症状を出すように仕向けたりすることは絶対にやめましょう。本人の苦しみを深刻に受け止めることが重要です。
安心できる声かけをする: 静かで落ち着いた声で、「大丈夫だよ」「ここにいるよ」など、本人が安心できる言葉をかけます。簡単な現実検討(「ここは〇〇だよ」「今日は〇日だよ」など)も有効な場合があります。 過去のトラウマを詮索しない: 本人が話したがらない過去のトラウマ体験について、無理に聞き出そうとすることは、再トラウマ化のリスクがあり危険です。治療者の専門的な関わりが必要です。
一貫性のある態度: 感情的に波があるかもしれませんが、可能な範囲で一貫性のある、穏やかな態度で接します。 期待しすぎない/諦めない: 治療や回復には時間がかかります。すぐに良くならないからと過度に落胆したり、見放したりせず、長期的な視点でサポートを続けます。ただし、サポートする側も無理をしすぎないように、自分自身の休息も大切です。
専門家への受診を勧める/サポートする: 解離性障害の治療には専門家の支援が不可欠です。本人が医療機関を受診するのをためらっている場合は、優しく勧める、受診に付き添うなどのサポートが有効です。 自己判断で対応しない: 症状への対応や治療方針については、必ず専門家(医師やセラピスト)のアドバイスに従いましょう。インターネット上の情報や個人的な経験だけで判断しないことが重要です。
本人と話し合い、症状への対処法を共有する: 症状が出たときに、本人にどうしてほしいか(例:静かに見守ってほしい、特定の言葉をかけてほしいなど)を、落ち着いている時に話し合い、共有しておくと、いざというときに役立ちます。 他の人に病状を無断で話さない: 本人のプライバシーを尊重し、病状や症状について、本人の許可なく他の人(特に本人が知られたくないと思っている人)に話すことは避けましょう。
サポートする側も相談先を持つ: 患者さんをサポートすることは、精神的に負担がかかる場合があります。家族会や相談窓口などを利用して、自分自身も孤立しないようにサポートを受けることが大切です。 特定の自己状態(解離性同一性障害の場合)だけを「本当の本人」と見なさない: どの自己状態も本人の一部であり、尊重されるべき存在です。特定の自己状態を「嫌い」「偽物」などと差別することは、本人の苦しみを深めます。

解離性障害を持つ方へのサポートは、忍耐力と理解が必要です。完璧を目指す必要はありませんが、本人の苦しみを軽減し、回復への道を支えるために、温かく見守り、必要なときに手を差し伸べることが求められます。

解離性障害に関するQ&A

解離性障害について、よく寄せられる疑問にお答えします。

解離性障害と他の精神疾患との違いは?

解離性障害の症状は、他の精神疾患の症状と似ていることがあり、鑑別診断が非常に重要です。特に以下のような疾患との区別が必要です。

疾患名 解離性障害との主な違い
統合失調症 幻覚、妄想、支離滅裂な思考などが中心的な症状です。解離性障害でも知覚の異常(幻覚など)が見られることがありますが、通常は一過的であったり、トラウマ体験に関連していたりします。統合失調症では現実検討能力の障害があるのに対し、解離性障害では通常現実検討能力は保たれているという大きな違いがあります(自分が現実ではない、おかしくなったと感じるが、それが現実ではないと分かっている)。
境界性パーソナリティ障害 感情や対人関係の不安定さ、衝動性などが中心的な症状です。解離症状(離人感、現実感喪失、健忘など)を伴うことも多いですが、解離性障害ほど重度で慢性的でないことが多いです。また、境界性パーソナリティ障害では見捨てられ不安が強く、対人関係におけるドラマチックな行動が目立つ点が異なります。
心的外傷後ストレス障害(PTSD) 重度のトラウマ体験後に発症し、フラッシュバック、回避、過覚醒などが主な症状です。PTSDも解離症状(解離性健忘、離人感、現実感喪失など)を伴うことが非常に多く、「解離性症状を伴うPTSD」として診断されることもあります。しかし、解離性障害では解離症状自体がより顕著で中心的であり、特に複数の自己状態の存在や広範囲な健忘が見られる場合に解離性障害(特に解離性同一性障害)と診断されます。
うつ病・双極性障害 抑うつ気分や意欲低下(うつ病)、気分の高揚と低下の波(双極性障害)が中心的な症状です。重度のうつ病では、現実感が失われたように感じたり、思考力が低下したりすることがありますが、解離性障害で見られるような自己や記憶の明確な分断とは異なります。
てんかん 一部のてんかん(側頭葉てんかんなど)では、意識の変容や自動症(無意識的な行動)、記憶の欠落などの症状が見られることがあり、解離症状と似ている場合があります。脳波検査などの医学的検査で鑑別が必要です。
脳血管障害・頭部外傷 記憶障害や意識障害を引き起こすことがありますが、身体的な原因によるものであり、解離性障害のような心理的な原因による解離とは異なります。画像検査などで鑑別します。

正確な診断のためには、精神科医や専門家による詳細な問診、精神医学的評価、必要に応じた心理検査や身体検査が必要です。自己判断せず、専門機関を受診することが重要です。

どこに相談すれば良いか?

解離性障害かもしれないと感じたり、診断を受けたいと思ったりした場合、あるいは周囲に該当する人がいる場合は、以下の相談先に連絡してみましょう。

相談先 特徴
精神科、心療内科 精神疾患の専門家(精神科医)がいます。診断、薬物療法、精神療法(実施している場合)を受けることができます。まずは精神科や心療内科を受診するのが一般的です。
大学病院精神科 より複雑なケースや、診断が難しい場合などに対応できる専門家や設備が整っていることが多いです。解離性障害を専門とする医師がいる場合もあります。
精神保健福祉センター 都道府県や政令指定都市に設置されており、精神的な問題に関する相談を無料で受け付けています。医師や精神保健福祉士などが在籍しており、適切な医療機関や支援サービスを紹介してくれます。
カウンセリング機関 臨床心理士や公認心理師などがカウンセリングを行います。解離性障害の精神療法(トラウマ治療など)を行っている機関もありますが、医療機関と連携しているかなどを確認すると良いでしょう。
地域の保健所 健康に関する相談を受け付けており、精神的な問題についても相談できます。必要に応じて専門機関を紹介してくれます。
NPO/自助グループ 同じような経験を持つ人たちが集まり、経験や情報を共有することで支え合う場です。ピアサポートは孤立感の軽減に役立ちます。

最初の一歩として、まずは精神科や心療内科を受診するか、精神保健福祉センターに相談してみるのが良いでしょう。受診する際は、解離性障害の診療経験があるか、特にトラウマ治療に詳しい医師やセラピストがいるかなどを事前に確認すると、より適切な支援につながりやすくなります。

まとめ

解離性障害は、トラウマや極度のストレスに対する自己防衛反応として、心や体の機能の一部が分断されてしまう精神疾患です。解離性健忘、解離性漫遊症、離人症/現実感喪失症、解離性同一性障害など、様々な種類があり、記憶障害、意識の変化、自己や現実の感覚の変容、身体症状など、多様な症状が現れます。

特に幼少期の虐待やネグレクトといった慢性的トラウマが大きな原因となりますが、個人の脆弱性なども関連しています。診断は、専門家による詳細な問診や評価、他の疾患との鑑別を経て行われます。

治療の中心は精神療法であり、安全な環境の中でトラウマを処理したり、解離した自己状態を統合したりすることを目指します。併存症状に対しては薬物療法が用いられることもあります。また、安心して過ごせる環境調整や周囲からの支持も回復のために非常に重要です。

解離性障害は、患者さん自身も症状に苦しみ、周囲から理解されにくい側面がありますが、適切な診断と専門家による根気強い治療によって、症状の改善や回復は見込めます。もしご自身や大切な人が解離性障害かもしれないと思ったら、一人で抱え込まず、まずは精神科や心療内科などの専門機関に相談してみましょう。理解とサポートがあれば、希望を持って回復への道を歩むことができます。

免責事項: 本記事は解離性障害に関する一般的な情報提供を目的としており、医学的な診断や治療を推奨するものではありません。個々の症状や状況については、必ず医療機関を受診し、専門家の判断を仰いでください。

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