ADHDの特性を持つ方の中には、仕事において様々な困難に直面し、悩みを抱えている方が少なくありません。集中力の維持が難しい、ケアレスミスが多い、時間管理が苦手、マルチタスクが苦手、対人関係でつまずきやすいなど、その悩みは多岐にわたります。しかし、ADHDの特性は、仕事内容や環境によっては大きな強みとなり、活躍の可能性を広げることも事実です。この記事では、ADHDの方が仕事で抱えがちな悩みの原因を掘り下げるとともに、特性を活かせる強み、具体的な対策や工夫、向いている仕事や働き方、そして利用できる相談先や支援制度について詳しく解説します。自分に合った働き方を見つけ、仕事での困難を乗り越えるためのヒントを見つける一助となれば幸いです。
ADHDの仕事に関する悩みと原因
ADHD(注意欠如・多動症)は、発達障害の一つであり、「不注意」「多動性」「衝動性」といった特性が見られます。これらの特性は、生まれつきの脳機能の偏りによるものであり、本人の努力や怠慢によって引き起こされるものではありません。仕事においてこれらの特性が顕著に現れると、様々な困難に直面しやすくなります。
ADHDの主な特性と仕事での困りごと:
- 不注意:
- 集中力の維持困難: 一つの作業に長く集中するのが難しい。外部の刺激(音、視覚情報など)に気が散りやすい。会議中に上の空になったり、話を聞き漏らしたりすることがある。
- ケアレスミスが多い: 細かい確認を怠り、誤字脱字や計算ミス、指示の聞き間違いなどが頻繁に起こる。書類の不備や提出忘れも発生しやすい。
- 忘れ物・紛失が多い: 必要な書類や持ち物を忘れたり、どこに置いたか分からなくなったりする。タスクや約束を忘れることもある。
- 整理整頓が苦手: デスク周りや引き出しの中が乱雑になりやすく、必要なものをすぐに見つけられない。情報の整理も苦手で、書類やメールが溜まりがちになる。
- 指示を理解するのが難しい: 長い指示や複雑な指示を一度に把握するのが苦手。曖昧な指示ではどうしていいか分からなくなる。
- 多動性:
- じっとしているのが苦手: 長時間の会議や座り仕事で落ち着いていられない。貧乏ゆすりをしたり、席を離れたりすることがある。
- 落ち着きがない: 体が常にソワソワしている感じがあり、集中を妨げることがある。
- 衝動性:
- 考えずに行動する: 計画を立てずに見切り発車で作業に取り掛かり、途中で行き詰まる。
- 衝動的な発言: 会議中や会話中に思いついたことをすぐに口にしてしまい、場にそぐわない発言をしたり、相手を傷つけたりすることがある。
- 順番を待てない: 話の途中で相手の話を遮ったり、割り込んだりする。
- 衝動買いや衝動的な決断: 計画性のない買い物や、その場の思いつきで重要な決断をしてしまい後悔することがある(仕事に関係する場合)。
これらの特性によって、業務の遂行に時間がかかったり、品質に問題が生じたり、納期遅延が発生したりと、様々な問題が起こり得ます。これが自信喪失に繋がったり、職場での評価に悩んだりする原因となります。また、特性に対する周囲の理解が得られにくい場合、人間関係のストレスを抱えることも少なくありません。
ADHDの特性を仕事で活かす強み
ADHDの特性は、仕事で困難を引き起こす一方で、見方を変えたり、適切な環境に身を置いたりすることで、大きな強みとなることがあります。ネガティブな側面ばかりに目を向けるのではなく、自身の持つポジティブな側面にも焦点を当てることが重要です。
ADHD特性が仕事で活かせる強み:
- 「過集中」による驚異的な集中力: 興味のあることや好きなこと、納期が迫っていることなど、特定の条件下では驚くほどの集中力を発揮することがあります。この「過集中」の状態に入ると、長時間、驚異的な速さで作業を進めることが可能です。
- 高い行動力と瞬発力: 思いついたらすぐに行動に移せるフットワークの軽さがあります。新しいアイデアをすぐに試したり、緊急性の高いタスクに素早く対応したりすることが得意な場合があります。
- 豊かな発想力と創造性: 多くのことに注意が向きやすい特性は、一見無関係な情報同士を結びつけ、独創的なアイデアを生み出す源泉となることがあります。型にはまらない自由な発想で、新しい企画や解決策を提案できる可能性があります。
- 危機対応能力: 予測不能な事態や緊急性の高い状況で、パニックにならず冷静かつ迅速に対応できることがあります。変化への適応力が高く、突発的なトラブルにも動じにくい傾向が見られます。
- 高いエネルギーと熱意: 興味のある分野や目標に対して、非常に高いエネルギーと情熱を注ぎ込むことができます。困難に立ち向かう粘り強さや、周囲を巻き込む熱意を持って仕事に取り組める可能性があります。
- 正義感や率直さ: 不公平なことや間違っていることに対して、黙っていられない強い正義感を持つことがあります。裏表がなく率直なコミュニケーションは、信頼関係を築く上でプラスに働く場面もあります。
これらの強みは、ルーチンワークや細かい確認作業が中心の仕事よりも、変化が多く、創造性や迅速な対応が求められる仕事、あるいは自身の興味関心と強く結びついた仕事で特に発揮されやすいと言えます。自身の強みを理解し、それを活かせる環境や役割を見つけることが、仕事での成功に繋がります。
ADHDの方に向いている仕事・適職一覧
ADHDの特性は多様であり、個人によって得意なこと、苦手なことは異なります。そのため、「ADHDだからこの仕事しかない」というように画一的に判断することはできません。しかし、ADHDの特性(特に強みとなる側面)を活かしやすいと考えられる仕事や働き方は存在します。ここでは、いくつかの例を挙げ、なぜそれらが向いている可能性があるのかを解説します。
特性を活かせる仕事例
前述のADHDの強みを活かせる職種は多岐にわたります。以下に代表的な例を挙げます。
- 変化が多く、常に新しい課題に取り組む仕事:
- 企画・マーケティング: 独創的なアイデアや新しい視点が求められるため、豊かな発想力が活かせます。複数のプロジェクトを同時並行で進める場合もあり、飽きにくい環境です。
- コンサルタント: クライアントの様々な課題に対して、分析力や問題解決能力、迅速な対応が求められます。常に新しい情報を取り入れ、変化に対応していく必要があります。
- 記者・編集者: 多方面にアンテナを張り、新しい情報を追い求める姿勢が活かせます。取材や締め切りといった短期的な集中力も求められます。
- イベント企画・運営: 計画通りにいかないことも多く、突発的なトラブルへの迅速な対応力や高いエネルギーが活かせます。
- 創造性や発想力が求められる仕事:
- デザイナー(Web、グラフィック、ファッションなど): 既存の枠にとらわれない自由な発想や、感性が重視される分野で強みを発揮しやすいです。過集中を利用して、没頭して作品を作り上げることができます。
- プログラマー・エンジニア: 新しい技術を学ぶことや、複雑な問題を解決することに興味を持つ場合、過集中を活かして集中的に取り組めます。常に新しい知識が求められる変化の多い分野です。
- 作家・コピーライター: 独自の視点や発想力が重要視されます。興味のあるテーマには、深い洞察力と集中的な執筆能力を発揮できます。
- 短期集中型または体を動かす仕事:
- 営業職: 様々な顧客と関わり、新しい提案をしたり、突発的なニーズに対応したりと、変化が多く飽きにくい仕事です。フットワークの軽さや対人スキルが活かせます。
- 緊急対応が必要な仕事(消防士、救急隊員など): 予期せぬ事態に迅速かつ冷静に対応する能力が求められます。強い責任感や正義感も活かせます。
- インストラクター・トレーナー: 動きがあり、受講者の反応を見ながら臨機応変に対応する必要があります。自身の情熱を伝え、モチベーションを高めることが得意な場合があります。
- 職人・技術職: 手先を使う作業や、一つの技術を深く追求することに没頭できる場合があります。完成形を目指して集中的に取り組めます。
- 対人援助の仕事:
- カウンセラー・セラピスト: 相手の話を集中して聞き、共感する力や、多様な視点から問題を見る力が活かせます。強い正義感や困っている人を助けたいという気持ちが原動力になります。
もちろん、これらの仕事に就けば必ず成功するというわけではありません。重要なのは、自身の特性と仕事内容の相性を理解し、苦手な部分を補うための工夫や周囲のサポートを得ながら働くことです。自身の興味や価値観に合致しているかどうかも、仕事選びにおいて非常に大切な要素となります。
在宅ワーク・フリーランスなど多様な働き方
従来のオフィスでの働き方だけでなく、近年普及が進んでいる在宅ワークや、雇用契約によらないフリーランスといった働き方も、ADHD特性を持つ方にとって適している場合があります。
在宅ワーク・リモートワーク:
- メリット:
- 物理的な刺激の軽減: オフィス特有の騒音や人の動きといった物理的な刺激が少なく、集中しやすい環境を自分で作りやすいです。
- 休憩や離席の自由度: 集中が途切れた際に、周囲を気にせず休憩を取ったり、体を動かしたりしやすいです。
- 通勤の負担軽減: 通勤ラッシュによるストレスや時間の無駄を省けます。
- 服装や身だしなみの自由度: 過敏さがある場合、服装や身だしなみの制約が少ないことは負担軽減になります。
- デメリット:
- 自己管理能力が求められる: 業務時間とプライベートの区別をつける、自分でタスク管理や進捗管理を行うといった高い自己管理能力が必要です。
- コミュニケーション不足: 対面での偶発的な情報交換が減り、必要な情報が得られにくくなったり、孤立感を感じたりすることがあります。意図的にコミュニケーションを取る努力が必要です。
- オンオフの切り替え困難: 仕事とプライベートの場が同じになるため、仕事モードへの切り替えや、終業後のリラックスが難しくなることがあります。
フリーランス:
- メリット:
- 仕事内容や働き方の自由度: 自分の興味や得意な分野の仕事を選べます。働く時間や場所も自分で決められるため、自分のペースで仕事を進めやすいです。
- 「過集中」を活かしやすい: 興味のあるプロジェクトには時間を忘れて没頭し、短期間で大きな成果を出すといった働き方が可能です。
- 人間関係を選べる: 合わない人との関わりを最小限に抑えられます。
- デメリット:
- 収入の不安定さ: 仕事の受注状況によって収入が変動するため、経済的な不安が伴います。
- 高い自己管理能力と営業力: 自分で仕事を見つけ、契約を結び、納期管理、請求業務、確定申告など、全てを一人で行う必要があります。
- 社会的信用の問題: 住宅ローンやクレジットカードの審査などで不利になる場合があります。
- 孤立感: 組織に所属しないため、相談相手がいないなど孤立感を感じやすいです。
在宅ワークやフリーランスといった働き方は、ADHD特性を持つ人にとって魅力的な選択肢となり得ますが、同時に高い自己管理能力が求められます。自身の特性と向き合い、必要なスキルやサポート体制を整えることが成功の鍵となります。
働き方 | 特徴 | メリット(ADHD特性との関連) | デメリット(ADHD特性との関連) |
---|---|---|---|
一般雇用 | 企業等と雇用契約を結び、定まった時間・場所で働く | 安定した収入、福利厚生、組織内のサポート、役割分担が明確 | ルーチンワークが多い、刺激が多い環境、時間管理や報連相のルール順守が必要 |
障害者雇用 | 障害者手帳を保持している人が、企業等と雇用契約を結び働く | 特性への配慮が得やすい、安定した働き方、相談しやすい環境 | 求人数が限られる、業務内容に制限がある場合、給与水準が低い可能性 |
在宅ワーク | 働く場所を問わず、自宅等でPCやネット環境を利用して働く | 集中しやすい環境、休憩の自由度、通勤負担なし、自己管理能力でカバーしやすい | 自己管理が必要、コミュニケーション不足、オンオフの切り替え困難 |
フリーランス | 企業等と雇用契約を結ばず、個人で仕事を請け負う | 好きな仕事を選べる、時間・場所の自由度、過集中を活かせる、人間関係を選べる | 収入不安定、高い自己管理・営業力、孤立感、事務作業が必要 |
ご自身の特性や希望するライフスタイルに合わせて、最適な働き方を検討することが重要です。
ADHDの仕事の悩みを解決するための具体的な対策・工夫
ADHDの特性による仕事の悩みは、自分自身の工夫や、周囲の理解・サポートを得ることで軽減し、対処することが可能です。ここでは、具体的な対策や工夫について解説します。
特性別の対策
ADHDの主な特性である不注意、多動性、衝動性それぞれに対して、具体的な対策を講じることができます。
【不注意への対策】
- タスクを細分化する: 大きなタスクを小さなステップに分解し、一つずつ終わらせることで、集中力を維持しやすくなります。「○○の資料作成」ではなく、「○○資料の構成案作成」「データ収集(A社分)」「データ収集(B社分)」「グラフ作成」のように具体的に分解します。
- ToDoリストやチェックリストを活用する: やるべきこと、確認すべきことを書き出し、「見える化」します。終わったらチェックを入れることで達成感も得られ、抜け漏れを防ぎます。
- リマインダーやアラートを活用する: スマートフォンやPCのタイマー機能、カレンダーアプリ、タスク管理ツールなどを活用して、締め切りや次の行動を知らせてもらうように設定します。
- 環境を整える: デスク周りを整理整頓し、視覚的な刺激を減らします。必要なものだけを置き、使わないものは片付ける場所を決めます。集中したい時はイヤホンを使って周囲の音を遮断するなども有効です。
- シングルタスクを意識する: 複数のことを同時並行で行うのではなく、一つのタスクに集中する時間を設けます。マルチタスクが苦手な場合は特に意識しましょう。
- 重要な情報は復唱やメモで確認する: 口頭での指示は、聞き間違いを防ぐために復唱したり、必ずメモを取ったりして後で確認できるようにします。
【多動性への対策】
- 短い休憩を頻繁にとる: 長時間同じ姿勢でいるのが難しい場合は、タイマーを使って定期的に短い休憩(5分程度)を取り、軽いストレッチや移動をすることでリフレッシュします。
- スタンディングデスクやバランスボールを活用する: 可能であれば、立ちながら作業できるデスクを使ったり、椅子をバランスボールに変えたりすることで、体の動きを許容しつつ作業に集中できる場合があります。
- 体を動かす機会を設ける: 通勤時間を利用してウォーキングをしたり、昼休みや業務の合間に軽い運動を取り入れたりすることで、余分なエネルギーを発散させます。
【衝動性への対策】
- 発言する前に一拍置く: 会議中などに意見を言いたくなっても、すぐに発言せず、一度頭の中で整理したり、メモに書き出したりしてから話すように意識します。「ワンクッション置く」習慣をつけましょう。
- 感情的になりそうな時はその場を離れる: 強い感情に駆られそうになったら、一度席を離れてクールダウンする時間を持ちます。
- 計画を立ててから行動に移す: 衝動的に作業に取り掛かるのではなく、まずは全体の流れや必要な手順を考える時間を設けます。
これらの対策は、すべての人に効果があるわけではありません。ご自身の特性や職場の環境に合わせて、様々な方法を試しながら、自分に合った対策を見つけていくことが大切です。
周囲とのコミュニケーションの工夫
ADHDの特性は、時に周囲とのコミュニケーションに摩擦を生じさせることがあります。円滑な人間関係を築き、仕事を進めるためには、いくつかの工夫が考えられます。
- 報連相(報告・連絡・相談)を意識する: 特に進捗状況や困っていることについて、こまめに報告・連絡・相談を行うように心がけます。自分から積極的に情報共有することで、誤解やすれ違いを防ぎ、周囲のサポートを得やすくなります。
- 特性について伝えるかどうか検討する: 信頼できる上司や同僚に対して、自身のADHD特性についてオープンに伝えるかどうかを検討します。伝えることで、必要な配慮やサポートを得やすくなるメリットがある一方、偏見を持たれるリスクもゼロではありません。伝える場合は、具体的な困りごとや、どのような配慮があれば助かるかを明確に伝えることが重要です。伝え方や伝える相手については慎重に判断しましょう。
- アサーションスキルを学ぶ: 相手を尊重しつつ、自分の気持ちや意見を適切に伝えるアサーションスキルを身につけることも有効です。言いたいことを衝動的にぶつけたり、逆に何も言えずに抱え込んだりするのではなく、建設的なコミュニケーションを目指します。
- ヘルプを求めることを恐れない: 自分で抱え込まず、困ったときは上司や同僚に素直に助けを求めることが大切です。具体的な状況と、どのような支援が必要かを伝えると、周囲も協力しやすくなります。
相談・支援制度の活用
一人で悩みを抱え込まず、専門機関や支援制度を活用することは、仕事の悩みを解決し、安定して働く上で非常に重要です。
- 医療機関: ADHDの診断を受けている場合、主治医に仕事に関する悩みを相談できます。特性への対処法に関するアドバイスや、必要に応じて服薬による症状の緩和といった治療を受けることができます。
- 地域障害者職業センター: 障害のある方(ADHDも含まれます)に対して、職業相談、職業能力の評価、就職準備支援、職場適応援助(ジョブコーチ支援)など、専門的な支援を提供する機関です。ADHDの特性を踏まえた上で、どのような仕事が向いているか、どのような工夫が必要かといった相談ができます。
- ハローワーク(専門窓口): 障害のある方向けの専門窓口があり、障害者雇用枠の求人紹介や、就職に関する相談、面接対策などの支援を受けることができます。
- 就労移行支援事業所: 障害のある方が一般企業への就職を目指すためのトレーニングや、就職活動のサポートを提供する事業所です。ADHD特性を持つ方向けのプログラムを提供している事業所もあります。職業スキルの習得、ビジネスマナー、自己理解を深めるワークなど、様々な支援が受けられます。
- 障害者手帳: 精神障害者保健福祉手帳を取得することで、障害者雇用枠での就職の可能性が広がったり、様々な福祉サービスを利用できたりする場合があります。診断名や症状の程度によって取得できるかどうかが異なります。
- 合理的配慮: 障害者差別解消法に基づき、事業主は障害のある従業員に対して、仕事をする上で必要な配慮を行う義務があります(過重な負担にならない範囲で)。ADHD特性を持つ場合、具体的な困りごとを会社に伝え、環境調整や業務内容の変更など、必要な合理的配慮について話し合うことができます。
これらの相談先や支援制度を積極的に活用することで、一人で解決できない問題に対処し、より働きやすい環境を整えることが可能になります。
ADHDの方の転職・働き方に関する情報
現在の職場で働き続けることが難しいと感じたり、自身の特性をより活かせる仕事や働き方を求めたりする場合、転職も一つの選択肢となります。ADHD特性を持つ方の転職においては、いくつかの重要な検討事項があります。
診断・障害者手帳について
ADHDの診断を受けているか、そして精神障害者保健福祉手帳を取得しているかどうかが、転職活動において障害者雇用枠を検討できるかどうかに影響します。
診断:
- ADHDの診断を受けていることは、自身の特性を理解し、適切な対策や配慮を求める上で非常に重要です。診断を受けていなくても自身の特性に悩んでいる場合は、専門医に相談し、診断を受けることを検討してみましょう。
障害者手帳:
- 精神障害者保健福祉手帳は、ADHDの診断を受けた上で、一定の基準を満たす場合に取得できます。手帳を取得することで、障害者雇用枠に応募できるだけでなく、就労移行支援事業所などの福祉サービスを利用しやすくなる、税金の控除を受けられる可能性があるといったメリットがあります。一方、手帳の取得に抵抗を感じる方もいるかもしれません。ご自身の状況や今後のキャリアプランを考慮して検討することが大切です。
障害者雇用枠での転職
障害者雇用促進法に基づき、一定規模以上の企業には障害者を雇用する義務があります。この障害者雇用枠での転職は、ADHD特性を持つ方にとって選択肢の一つとなります。
障害者雇用枠のメリット:
- 特性への理解と配慮が得やすい: 企業側が障害特性について理解しているため、業務内容の調整、勤務時間の配慮、指示方法の工夫、休憩時間の確保など、個々の特性に応じた合理的配慮が得られやすいです。
- 安定して働きやすい環境: 特性に関する悩みをオープンに話しやすく、困ったときに相談できる環境が整っていることが多いです。
- 長期的なキャリア形成: 企業によっては、障害者向けのキャリアパスを用意している場合もあります。
障害者雇用枠のデメリット:
- 求人数が限られる: 一般雇用に比べて求人の数が少ない傾向があります。
- 業務内容に制限がある場合がある: 企業によっては、任される業務の範囲が限定的であったり、定型的な業務が中心であったりする場合があります。
- 給与水準が低い可能性がある: 一般雇用に比べて給与水準が低いケースが見られます。
- 採用基準: 手帳の有無や、自身の障害について正確に説明できる能力が求められます。
障害者雇用枠で転職活動を行う場合は、ハローワークの専門窓口や、障害者の就職支援に特化した転職エージェントを利用するのが一般的です。自身の特性や希望する働き方を丁寧に伝え、企業との間で必要な配慮についてしっかりと話し合うことが成功の鍵となります。
一般雇用での転職
障害者手帳を取得していない場合や、自身の特性をオープンにせずに働きたい場合は、一般雇用枠での転職を目指すことになります。
一般雇用での転職のポイント:
- 特性を伝えるか伝えないか(オープンかクローズか):
- オープンにする場合: 面接時や入社後に自身のADHD特性について伝え、必要な配慮を求める方法です。企業側の理解があれば、働きやすい環境を整えることができます。ただし、伝えることで不採用になったり、偏見を持たれたりするリスクも伴います。
- クローズにする場合: 特性について伝えず、自身の工夫や努力で困難に対処しながら働く方法です。特性について知られることによるリスクを避けられますが、必要な配慮が得られず、再び仕事でつまずく可能性もあります。
- 企業選び: 自身の特性と相性の良い企業文化や職務内容を見極めることが重要です。例えば、ルーチンワークが多い仕事が苦手なら、変化の多い仕事を選ぶ、細かい確認作業が苦手なら、チームでダブルチェック体制が取られているか確認するなどです。求人情報だけでなく、企業の評判や社員の働きがいに関する情報も参考にしましょう。
- 自己PR・面接対策: 自身の強み(ADHDのポジティブな側面)を明確に伝え、仕事への意欲や貢献できることをアピールします。苦手なことについては、それを補うためにどのような工夫をしているか、具体的な対策とともに説明できると良い印象を与えられます。
- 自身の対策を徹底する: クローズで働く場合は特に、自己管理能力を高めたり、タスク管理ツールを導入したり、環境を整えたりと、自身の工夫で仕事の困難に対処していく必要があります。
一般雇用での転職は、求人の選択肢が多いというメリットがある一方で、特性への配慮が得られにくい可能性があるというデメリットもあります。ご自身の特性の程度や、どの程度まで自分で対策できるかを踏まえて、慎重に検討する必要があります。
利用できる支援機関
転職活動や、転職後の職場での定着を支援してくれる機関はいくつかあります。
- ハローワーク(専門窓口): 障害のある方専門の窓口があり、求人紹介や就職相談、職業訓練の案内などを行っています。障害者雇用枠、一般雇用枠どちらについても相談可能です。
- 地域障害者職業センター: 障害者の職業リハビリテーションに関する専門的な支援を提供します。職業能力の評価、就職支援、ジョブコーチ支援(就職後、職場への定着をサポートする)などを受けることができます。
- 就労移行支援事業所: 障害のある方が一般就労を目指すための様々なプログラムを提供しています。ビジネスマナー、PCスキル、コミュニケーションスキルなどの訓練、自己理解を深めるワーク、求人探しや面接対策などの就職活動サポート、そして就職後の定着支援も行います。
- 障害者就業・生活支援センター: 障害のある方の身近な地域において、就業面と生活面の一体的な相談・支援を行う機関です。仕事に関する相談だけでなく、生活全般に関する困りごとについても相談できます。
- 民間の転職エージェント(障害者専門または一般): 障害者雇用に特化したエージェントや、一般のエージェントでも障害者採用に詳しい担当者がいる場合があります。求人紹介から応募書類の添削、面接対策まで、きめ細やかなサポートが受けられます。
これらの支援機関を上手に活用することで、一人で抱え込まず、よりスムーズに自分に合った仕事を見つけ、安定して働き続けることが可能になります。
まとめ|ADHDと向き合い、自分に合った仕事を見つけるために
ADHDの特性は、仕事において様々な困難をもたらす可能性がありますが、同時にユニークな強みとなる側面も持っています。集中力の維持やケアレスミス、時間管理に悩む一方で、過集中による驚異的な集中力、高い行動力、豊かな発想力、危機対応能力といった強みを活かせる仕事や働き方は数多く存在します。
仕事の悩みを解決し、自分らしく働くためには、まず自身のADHD特性を深く理解することが第一歩です。どのような状況で困りやすいのか、どのような時に強みを発揮できるのかを自己分析し、具体的な対策や工夫を講じてみましょう。タスクの細分化、ツールの活用、環境整備、休憩の取り方など、小さなことから試していくことが大切です。
また、一人で抱え込まず、周囲とのコミュニケーションを工夫したり、必要に応じて自身の特性について伝えたりすることも有効です。そして何より、医療機関や地域障害者職業センター、ハローワーク、就労移行支援事業所といった専門機関や支援制度を積極的に活用することをお勧めします。診断や障害者手帳の取得、障害者雇用枠での転職、就労支援プログラムの利用など、様々な選択肢があります。
ADHD特性を持つ方が、自身の持つ可能性を最大限に活かし、充実した職業生活を送ることは十分に可能です。自身の特性と上手に付き合い、必要なサポートを得ながら、自分に合った仕事や働き方を見つけていきましょう。この記事が、そのための具体的なヒントや一歩踏み出す勇気を与えることができれば幸いです。
【免責事項】
この記事は、ADHDの仕事に関する一般的な情報提供を目的としています。個々の症状や状況は異なりますので、具体的な診断、治療、支援については、必ず専門の医療機関や支援機関にご相談ください。記事の内容は、医療行為や診断に代わるものではありません。