自分がADHDかもしれないと感じて、このページにたどり着いた方は多いのではないでしょうか。
物忘れが多い、仕事や家事が片付かない、衝動的に行動してしまう、人とのコミュニケーションがうまくいかないなど、日常生活や仕事で困難を感じていませんか?これらの困りごとの背景に、発達障害の一つであるADHD(注意欠陥・多動性障害)があるのではないかと考える方も増えています。
この記事では、「大人のADHD診断」に関心を持つ方に向けて、ADHDの基本的な知識から、診断を受けるためのセルフチェック、そして医療機関での診断プロセス、さらに診断後の向き合い方までを詳しく解説します。あなたが抱える疑問や不安の解消に役立てば幸いです。
大人のADHDとは?理解を深める
ADHD(Attention-Deficit/Hyperactivity Disorder)は、神経発達症の一つであり、主に「不注意」、「多動性」、「衝動性」といった特性が見られます。これらの特性は脳機能の一時的な偏りによって生じると考えられており、本人の努力不足や性格の問題ではありません。
子供の頃に診断されることが多いADHDですが、診断されないまま大人になり、日常生活や仕事で大きな困難に直面して初めてADHDの可能性に気づくケースも少なくありません。大人のADHDは、子供の頃とは異なる形で特性が現れることがあるため、自分自身や周囲がADHDであると認識しにくい場合もあります。
子供の頃のADHDとの違い
ADHDの特性は成長に伴って変化することがあります。子供の頃に顕著だった「多動性」は、大人になるにつれて落ち着き、体を常に動かすといった行動は減り、代わりに心の中で落ち着かない感覚や、貧乏ゆすり、そわそわするといった形で現れることがあります。
一方、「不注意」や「衝動性」の特性は、大人になっても持続しやすい傾向があります。不注意は、仕事でのミス、期日管理ができない、整理整頓が苦手といった形で現れ、日常生活や職業生活に大きな影響を与えることがあります。衝動性は、衝動買い、不用意な発言、順番を待てないといった形で現れ、人間関係や経済的な問題を引き起こすことがあります。
また、子供の頃は親や教師のサポートがありましたが、大人になると自分で責任を持ち、自律的に行動することが求められます。このため、ADHDの特性による困難がより表面化しやすくなります。学業から職業生活へ、保護された環境から自立した環境へと移行する中で、ADHDの特性による生きづらさを強く感じるようになる人もいます。
大人のADHDの主なタイプ(不注意優勢型・多動衝動性優勢型・混合型)
ADHDは、現れる特性の優位性によって主に以下の3つのタイプに分類されます。診断を受ける際にも、どのタイプに当てはまるかという観点が含まれることがあります。
- 不注意優勢型(ADHD-PI: Predominantly Inattentive Presentation)
多動性や衝動性の特性は目立たず、主に不注意の特性が強く見られるタイプです。「ADD(注意欠陥障害)」と呼ばれることもありましたが、現在はADHDのサブタイプとして扱われています。
具体的な困りごととしては、集中力が続かない、忘れ物が多い、約束を忘れる、整理整頓が苦手、細かい作業でのミスが多い、指示を聞き漏らす、計画的に物事を進めるのが難しいなどが挙げられます。
おとなしい印象を持たれることもあり、子供の頃は見過ごされやすい傾向があります。 - 多動衝動性優勢型(ADHD-PH: Predominantly Hyperactive-Impulsive Presentation)
不注意の特性よりも、多動性や衝動性の特性が強く見られるタイプです。
子供の頃は落ち着きがない、じっとしていられないといった行動が目立ちますが、大人になると体の多動性は減り、内的な落ち着かなさやそわそわ感として感じられることが多いです。衝動性は、考えずに行動する、会話に割り込む、感情のコントロールが難しい、イライラしやすいといった形で現れることがあります。
周囲からは「落ち着きがない」「せっかち」「短気」といった印象を持たれることがあります。 - 混合型(ADHD-C: Combined Presentation)
不注意、多動性、衝動性のすべての特性が同程度に強く見られるタイプです。
最も一般的なタイプとされており、両方の特性による困りごとが日常生活や社会生活に影響を与えます。
集中力の持続困難と衝動的な行動の両方に悩まされるなど、様々な困難を抱えることが多いです。
どのタイプに当てはまるかは、専門医による診断で判断されます。自分がどのタイプに当てはまるかを知ることは、自身の特性を理解し、適切な対処法を見つける上で役立ちます。
大人のADHD診断基準を理解する
大人のADHDの診断は、国際的に広く用いられている診断基準に基づいて専門医が行います。セルフチェックはあくまで目安であり、正式な診断は必ず医療機関で行う必要があります。
DSM-5による大人のADHD診断基準詳細
現在、大人のADHDを含む精神疾患の診断で世界的に用いられているのは、アメリカ精神医学会が発行する「精神疾患の診断・統計マニュアル 第5版(DSM-5)」です。DSM-5におけるADHDの診断基準は、以下の2つのカテゴリー(不注意、多動性/衝動性)における特定の症状が一定数以上当てはまり、それらが生活に支障をきたしているかどうかなどを総合的に判断します。
A. 不注意(以下のうち5つ以上が6ヶ月以上持続し、発達レベルに見合わないほど不適切で、学業や職業など社会生活に直接的に悪影響を与えていること)
- 学業や仕事、またはその他の活動において、しばしば注意して細部を見なかったり、うっかりミスをしたりする。
- 課題や遊びの活動で、しばしば注意を持続することが難しい。
- しばしば直接話しかけられても、聞いていないように見える。
- しばしば指示に従えず、学業や雑用、職場での義務をやり遂げることができない(反抗的な行動や指示を理解できないためではない)。
- しばしば課題や活動を整理することが難しい。
- しばしば精神的な努力の持続を要する課題(学業や宿題など)を避ける、嫌がる、または従事しぶる。
- しばしば課題や活動に必要なもの(例:おもちゃ、学業の課題、鉛筆、本、道具)をなくす。
- しばしば外からの刺激によって注意をそらされやすい。
- しばしば日々の活動を忘れてしまう。
B. 多動性および衝動性(以下のうち5つ以上が6ヶ月以上持続し、発達レベルに見合わないほど不適切で、学業や職業など社会生活に直接的に悪影響を与えていること)
- しばしば手足をもじもじさせたり、いすに座っているときそわそわしたりする。
- しばしば座っているべき状況で席を離れる。
- しばしば不適切な状況で走り回ったり、よじ登ったりする(青年または成人では、落ち着きのない自覚があるだけかもしれない)。
- しばしば静かに遊んだり、レクリエーション活動に参加したりすることが難しい。
- しばしば「エンジンで動かされている」かのように行動する、または落ち着きなく動く。
- しばしば過度にしゃべる。
- しばしば質問が終わる前に答えを出し始めてしまう。
- しばしば順番を待つことが難しい。
- しばしば他人を妨害したり、邪魔したりする(例:会話やゲームに割り込む)。
C. いくつかの不注意または多動性-衝動性の症状が12歳になる前に存在していたこと。
D. いくつかの症状が2つ以上の状況(例:家庭、学校/職場、友人との交流、その他の活動中)で存在していること。
E. 症状が、社会的、学業的、または職業的な機能に臨床的に著しい障害を引き起こしている明確なエビデンスがあること。
F. その症状が、統合失調症、またはその他の精神病性障害の経過中にのみ起こるものではなく、また他の精神疾患(例:気分障害、不安障害、解離性障害、パーソナリティ障害、薬物中毒または離脱)ではよりうまく説明されないこと。
上記の基準のうち、特に大人のADHDにおいては、子供の頃からの特性の持続(C)、複数の状況での困難(D)、生活への影響(E)が重要な判断要素となります。
大人のADHDにおける診断基準の具体的な症状例
DSM-5の診断基準は専門的な表現が含まれるため、具体的な日常の困りごとに置き換えて考えてみましょう。
不注意の症状例:
- 仕事でメールの返信を忘れる、締め切りを過ぎてしまう。
- 会議中に集中力が途切れ、話の内容が頭に入ってこない。
- 車の運転中に標識を見落としそうになる、うっかり事故を起こしそうになる。
- 買い物のリストを持っていったのに、買い忘れるものがたくさんある。
- 書類や貴重品を頻繁になくす。
- 部屋やデスクが常に散らかっていて、必要なものが見つからない。
- 説明書を読むのが苦手で、組み立てや操作に苦労する。
多動性・衝動性の症状例:
- 長時間座っているのが苦痛で、会議中や作業中にそわそわする。
- 貧乏ゆすりや爪噛みなどが癖になっている。
- 会話中につい相手の話を遮ってしまう、言いたいことが我慢できない。
- 衝動的に高額な買い物をしたり、転職を決めたりする。
- 感情の起伏が激しく、カッとなりやすい。
- リスクを考えずに行動してしまうことがある(例:無謀な運転、ギャンブル)。
- 順番待ちが苦手でイライラする。
これらの例はあくまで一部です。重要なのは、これらの困りごとが子供の頃から継続しており、複数の状況で見られ、日常生活や仕事に支障をきたしているかどうかです。
大人の発達障害で最も多いADHDについて
発達障害は、生まれつきの脳機能の発達の偏りによって生じる様々な特性の総称です。ADHDの他に、ASD(自閉スペクトラム症)やLD(限局性学習症)などがあります。
大人の発達障害の中で、ADHDは比較的多くの人が診断を受ける特性と言われています。これは、ADHDの不注意や衝動性といった特性が、社会生活を送る上で目に見える形で困りごとにつながりやすいためと考えられます。ASDの場合は、対人関係の困難や特定の興味・こだわりといった特性が中心となり、LDは読み書き計算など特定の学習能力に困難が見られます。
複数の発達障害の特性を併せ持つ人もいます(併存)。例えば、ADHDとASDの両方の特性を持つ方もいます。診断では、ADHDの特性が優位であるか、他の発達障害の特性が強いかなども判断されます。
大人のADHDセルフチェック:目的と活用法
自分がADHDかもしれないと感じたとき、まず手軽に試せるのがセルフチェックです。しかし、セルフチェックには目的と限界があることを理解しておくことが重要です。
セルフチェックでわかること、わからないこと(限界)
セルフチェックでわかること:
- ADHDの特性傾向があるかどうか: DSM-5の診断基準などを基にした質問に答えることで、自分に不注意や多動性・衝動性といったADHDの特性傾向があるかどうかを概ね把握できます。
- 専門機関への相談を検討する目安: セルフチェックで高い傾向が示された場合、専門機関を受診して詳しく相談・検査してみるべきかどうかの判断材料になります。
- 自己理解のきっかけ: 自身の困りごととADHDの特性を結びつけて考えることで、自己理解を深めるきっかけになります。
セルフチェックでわからないこと(限界):
- ADHDの正式な診断: セルフチェックは診断ではありません。医師による詳細な問診や検査などを経なければ、ADHDと確定診断することはできません。
- 特性の程度や具体的な影響: セルフチェックでは、「ADHD傾向があるか否か」のスクリーニングはできても、特性の具体的な程度や、それが日常生活や仕事にどの程度影響しているか、他の要因は関係ないか、といった詳細はわかりません。
- 併存する他の疾患の可能性: ADHDと似た症状を示す他の精神疾患(うつ病、不安障害、双極性障害など)や身体疾患との区別はセルフチェックではできません。
- 適切な対処法: セルフチェックの結果だけでは、一人ひとりに合った具体的な対処法や治療法を見つけることは困難です。
したがって、セルフチェックは「診断の入り口」として活用し、そこで特性傾向が示された場合は、必ず専門医に相談することが大切です。
信頼できる大人のADHDセルフチェックツール(例:ASRS)
インターネット上には様々なセルフチェックツールが存在しますが、信頼性の高いツールを選ぶことが重要です。医療機関でも使用されることのある、信頼できる代表的なセルフチェックツールとして「ASRS(成人期ADHDセルフレポート尺度)」があります。
ASRS(成人期ADHDセルフレポート尺度)
- 世界保健機関(WHO)とハーバード大学が開発した、成人のADHDスクリーニングを目的とした質問票です。
- DSM-5の診断基準に基づいて作成されており、不注意と多動性・衝動性に関する18の質問で構成されています。
- 質問の回答によって、ADHDの特性傾向のレベルを判定します。
- 医療機関のウェブサイトや関連団体のウェブサイトなどで公開されていることがあります。
ASRSのような信頼できるツールを用いることで、より正確に自身の特性傾向を把握することができます。ただし、繰り返しになりますが、これはあくまでスクリーニングツールであり、診断ではありません。
大人のADHDセルフチェックの具体的なやり方
信頼できるセルフチェックツールを見つけたら、以下の手順で試してみましょう。
- ツールを入手・アクセスする: 信頼できる医療機関や研究機関、関連団体のウェブサイトなどでASRSなどの質問票を探します。
- 質問に正直に回答する: 質問項目をよく読み、過去6ヶ月間の自身の状態に最も近い選択肢を選びます。正直に回答することが、より正確な結果を得るために重要です。
- 結果を確認する: 回答に基づいて、ADHDの特性傾向のレベルや可能性が示されます。
- 結果を冷静に受け止める: 高い傾向が示されても、落ち込みすぎたり不安になりすぎたりせず、あくまで目安として捉えましょう。
- 専門機関への相談を検討する: セルフチェックの結果、ADHDの特性傾向が強く示された場合や、日頃から困りごとが続いている場合は、医療機関を受診して専門医に相談することを強くお勧めします。
セルフチェックは、自分自身の特性を知り、生きづらさの原因を探るための一歩として有効です。結果に囚われすぎず、次のステップ(専門機関への相談)への橋渡しとして活用しましょう。
大人のADHDの医療機関での診断プロセス
セルフチェックで特性傾向が示されたり、日常生活や仕事で強い困りごとを感じていたりする場合、医療機関で専門医による診断を受けることを検討しましょう。ここでは、診断を受けるまでの一般的なプロセスを解説します。
診断を受けるまでのステップ(予約、初診、検査)
医療機関での診断は、通常いくつかのステップを経て行われます。
- 医療機関を探す: ADHDの診断が可能な精神科、心療内科、または発達障害専門の医療機関を探します。後述する「大人のADHD診断が可能な専門医・病院の選び方」を参考にしてください。
- 予約を取る: 医療機関に電話またはインターネットで予約を取ります。初診の予約は取りにくい場合があるため、早めに連絡することをおすすめします。初診時に問診票の記入やこれまでの経緯をまとめる必要があるかなどを確認しておくとスムーズです。
- 初診を受ける: 予約した日時に医療機関を受診します。現在の困りごと、子供の頃の様子、生育歴、家族歴、学歴、職歴、これまでの治療歴などを詳しく聞かれます。正直に、具体的に伝えることが重要です。可能であれば、子供の頃の通知表や母子手帳など、過去の様子がわかる資料があると診断の助けになることがあります。
- 必要な検査を受ける: 初診での問診の内容に応じて、医師が必要と判断した検査が行われます。これには心理検査や、必要に応じて他の検査が含まれます(詳細は次項で解説)。
- 診断と説明を受ける: 検査結果やこれまでの情報に基づき、医師が総合的に判断し、診断名や特性、今後のことについて説明してくれます。診断に至らない場合でも、困りごとに対するアドバイスや他の可能性について説明があるはずです。
- 治療・サポートについて相談する: 診断がついた場合、医師と相談しながら、薬物療法や心理療法、環境調整などの治療・サポート方針を検討します。
診断プロセスは医療機関や個人の状況によって異なりますが、一般的には数回の受診が必要となることが多いです。
大人のADHD診断で行われる主な検査内容(問診、心理検査など)
ADHDの診断は、特定の検査だけで決まるものではなく、様々な情報を総合して行われます。主な検査内容は以下の通りです。
- 詳細な問診:
現在の困りごと(仕事、学業、日常生活、人間関係など)
子供の頃の様子(学校での成績、行動、友人関係など)
生育歴(幼少期の出来事、発達の状況など)
家族歴(家族に発達障害や精神疾患の人がいるか)
学歴、職歴(どのような環境で difficulties があったか)
既往歴、服用中の薬、アレルギー
飲酒、喫煙、睡眠状況など
問診は診断の最も重要な要素の一つであり、時間をかけて丁寧に行われます。 - 心理検査:
知能検査(例:WAIS-IV): 全体的な知的な能力のほか、言語理解、知覚推理、ワーキングメモリ、処理速度といった側面の得意不得意を把握します。ADHDのある人の中には、特定の項目でばらつきが見られることがあります。
ADHD特性に関する質問紙(例:CAARS、ASRS-V1.1): 本人や必要に応じて家族が回答し、不注意や多動性・衝動性の特性の程度を客観的に評価します。
その他の質問紙: うつ病や不安障害などの併存する精神疾患の可能性を評価するための質問紙が用いられることもあります。 - 必要に応じて行われるその他の検査:
脳波検査やMRIなど: これらの検査はADHDそのものを診断するものではありませんが、てんかんなど他の脳の疾患を除外するために行われることがあります。
これらの検査は、医師がADHDの診断基準に照らし合わせて判断するための重要な情報源となります。
大人のADHD診断にかかる期間と費用
大人のADHDの診断にかかる期間と費用は、医療機関の種類(大学病院、総合病院、クリニックなど)、行われる検査内容、予約状況などによって大きく異なります。
期間の目安:
- 初診の予約が取りにくい場合があり、数週間から数ヶ月待ちとなることもあります。
- 診断に必要な問診や検査は、通常1回の受診で完了するものではなく、複数回の受診が必要となることが多いです。
- 知能検査などの心理検査は、予約制で別日に行われることもあり、結果が出るまでに時間がかかる場合があります。
- 診断確定までには、初診から数週間から数ヶ月かかるのが一般的です。
費用の目安:
項目 | 費用目安(3割負担の場合) | 備考 |
---|---|---|
初診料 | 数千円~1万円程度 | 医療機関や問診内容によって変動します。 |
心理検査料 | 数千円~2万円程度 | 検査の種類や数によって大きく変動します。知能検査は比較的高額になる傾向があります。 |
再診料 | 千円~数千円程度 | 診断確定のための再診や、結果説明の際に必要になります。 |
その他検査料 | 検査内容による | 脳波検査などが行われた場合に発生します。 |
合計(診断まで) | 1万円~5万円程度以上 | 複数の検査や受診が必要なため、幅があります。 |
- 上記の費用はあくまで目安であり、医療機関や個人の状況によって大きく変動します。
- 保険診療が適用されますが、検査内容によっては自費診療となる場合があります。事前に医療機関に確認することをおすすめします。
- 診断書の発行には別途費用がかかります。
経済的な負担が気になる場合は、医療機関のウェブサイトで費用について確認したり、予約時に問い合わせたりすると良いでしょう。
大人のADHD診断が可能な専門医・病院の選び方
大人のADHDの診断は専門的な知識と経験が必要です。適切な医療機関を選ぶことが、正確な診断とその後の適切なサポートに繋がります。
医療機関の選び方のポイント:
- 精神科または心療内科: 大人のADHD診断は主に精神科や心療内科で行われます。
- 発達障害専門医の有無: 発達障害に詳しい医師がいる医療機関を選ぶと、より専門的な視点からの診断やアドバイスが期待できます。医療機関のウェブサイトなどで医師の経歴や専門分野を確認してみましょう。
- 大人の発達障害の診療実績: 大人の発達障害の診療に力を入れている、または実績がある医療機関を選ぶと安心です。
- 診断プロセスや検査体制: どのような問診や検査を行うのか、診断までの期間や費用について、事前に情報が得られる医療機関を選びましょう。ウェブサイトで詳しく説明されているか、問い合わせてみるのも良いでしょう。
- アクセスや通いやすさ: 診断後も継続的なサポートが必要になる可能性があるため、通いやすい場所にあるかどうかも考慮しましょう。
- 口コミや評判: 実際に受診した人の口コミや評判も参考になりますが、あくまで個人の感想であり、すべてを鵜呑みにしないように注意が必要です。
- 公的な相談窓口の活用: お住まいの地域の精神保健福祉センターや発達障害者支援センターなどで、地域の医療機関に関する情報を提供している場合があります。
注意点:
- すべての精神科や心療内科で大人のADHD診断に対応しているわけではありません。事前に電話やウェブサイトで確認が必要です。
- 予約が取りにくい医療機関も多いです。根気強く探すか、複数の医療機関にあたってみることも検討しましょう。
信頼できる医療機関を見つけることが、診断プロセスをスムーズに進めるための第一歩です。
大人のADHDの診断後の選択肢と付き合い方
診断がついた場合、それがゴールではなく、そこからが自分自身と向き合い、より生きやすい方法を見つけていくためのスタートです。診断後の選択肢や、診断結果との付き合い方について解説します。
大人のADHDと診断された場合の治療・サポート
大人のADHDの治療やサポートは、一人ひとりの特性や困りごとの内容に合わせて tailor-made されます。主な選択肢は以下の通りです。
- 薬物療法:
ADHDの特性(不注意、多動性、衝動性)を緩和するために薬が処方されることがあります。主に脳内の神経伝達物質(ドパミンやノルアドレナリン)の働きを調整する薬が用いられます。
薬の効果には個人差があり、副作用が出る可能性もあるため、医師と相談しながら種類や量を調整していきます。
薬物療法はADHDを完治させるものではなく、特性による困難を軽減し、他の対処法(環境調整や心理療法)の効果を高めることを目的とします。 - 心理社会的療法(カウンセリングや認知行動療法など):
ADHDの特性による二次的な問題(自己肯定感の低下、対人関係の困難、仕事での失敗経験など)に対するサポートを行います。
認知行動療法では、自身の思考パターンや行動パターンを理解し、より適応的なものに変えていくことを目指します。
アンガーマネジメントやアサーショントレーニングなど、特定のスキルを習得するためのプログラムもあります。 - 環境調整:
自身の特性に合わせて、生活環境や職場環境を整える工夫をします。
例:忘れ物防止のために物を置く場所を決める、集中できる静かな環境を作る、タスク管理ツールやスケジュール帳を活用する、重要な情報はメモを取る習慣をつけるなど。
職場では、上司や同僚に特性を理解してもらい、業務内容や進め方について配慮やサポートを求めることも有効です。 - ペアレントトレーニングやカップルトレーニング:
ADHDの特性を持つ人の家族(パートナーや親)が、ADHDについての理解を深め、本人への適切な接し方やサポート方法を学ぶプログラムです。家族関係をより良くするために役立ちます。 - 公的な支援制度:
ADHDは精神障害の一つとされており、症状の程度によっては精神障害者保健福祉手帳の取得や、障害年金の申請が可能な場合があります。これらの制度は、経済的な支援や公共サービスの利用などで、生活を安定させる助けになります。
就労支援サービス(ハローワークの専門援助部門、地域障害者職業センターなど)を利用して、自分に合った働き方を見つけたり、職場での困りごとを相談したりすることもできます。
これらの治療やサポートを組み合わせることで、ADHDの特性と上手に付き合い、日常生活や社会生活での困難を軽減していくことが目指されます。
診断結果を受け止め、困りごとに対処する方法
ADHDと診断されたことは、ショックを受ける方もいれば、長年の生きづらさの原因が分かり安心する方、様々な感情を抱くことがあります。診断結果をどのように受け止め、今後の困りごとに対処していくかが重要です。
- 診断名を「ラベリング」として捉えすぎない: ADHDという診断名は、あくまで自身の特性を理解し、適切なサポートを受けるための手がかりです。「自分はダメな人間だ」と自己否定に繋げるのではなく、「自分はこういう特性があるから、こうすれば対処できる」と前向きに捉えることが大切です。
- 自身の特性を深く理解する: 診断を通じて、自分がどのような場面で、どのような特性によって困難を感じやすいのかを具体的に理解しましょう。自己理解を深めることは、適切な対処法を見つける上で不可欠です。
- 具体的な対処法を試す: 医師やカウンセラーから提案された対処法や、書籍やインターネットなどで得られるADHDの方向けの工夫などを、実際に試してみましょう。全てが自分に合うわけではないので、色々な方法を試しながら、効果的なものを見つけていく作業が必要です。
- できないことよりもできることに目を向ける: ADHDの特性によって苦手なことがある一方で、集中力が必要な特定の分野で高い能力を発揮したり、発想力が豊かだったりといった強みがあることも少なくありません。自身の強みや得意なことにも目を向け、それを活かせる方法を考えましょう。
- 完璧を目指さない: ADHDの特性がある場合、一般的なやり方ではうまくいかないことがあります。完璧主義を手放し、「まあこれで大丈夫か」と思えるラインを見つけることも、心の負担を減らす上で重要です。
- 休息をしっかり取る: ADHDの特性を持つ人は、集中力が続かないことや衝動性のコントロールにエネルギーを使うため、疲れやすいことがあります。十分な休息を取り、心身をリフレッシュさせることも大切です。
- 困ったときは一人で抱え込まない: 困りごとが生じたら、信頼できる家族や友人、同僚、または専門家(医師、カウンセラー、支援機関の担当者など)に相談しましょう。人に話を聞いてもらうだけでも、気持ちが楽になることがあります。
診断結果は、自身の「取扱説明書」を手に入れたようなものと捉え、特性と上手に付き合っていくためのスタートラインに立ちましょう。
家族やパートナーへの理解を求めるには
ADHDの診断を家族やパートナーに伝えるかどうか、伝えるとしたらどのように伝えるかは、多くの人が悩む点です。理解を得ることで、お互いの関係性が良好になり、より円滑なサポートを得られる可能性があります。
- ADHDについて正しく理解してもらう: 家族やパートナーにADHDについて説明する際は、それが「性格の問題」や「努力不足」ではないこと、脳機能の偏りによって生じる神経発達症であることを、分かりやすく伝えましょう。専門機関で得た情報や、信頼できる書籍、ウェブサイトなどの情報を共有することも有効です。
- 自身の困りごとや特性を具体的に話す: 診断名だけでなく、「具体的にどのような場面で、どのようなことに困っているのか」を具体例を交えながら話しましょう。「いつも約束を忘れてしまうのは、やる気がないからではなく、記憶を整理するのが苦手な特性があるからかもしれない」「話の途中で割り込んでしまうのは、衝動性を抑えるのが難しいからで、悪気があるわけではない」といったように、特性と行動を結びつけて説明することで、理解が得られやすくなります。
- 診断を受けた目的を伝える: なぜ診断を受けたのか、診断を受けてどうしたいのか(例:自分の特性を理解して対処法を見つけたい、困りごとを減らして関係性を改善したいなど)を伝えましょう。
- 求めるサポートを具体的に伝える: 家族やパートナーに具体的にどのようなサポートをしてほしいのかを伝えましょう。「忘れ物がないか出かける前に一緒に確認してほしい」「話に割り込んでしまったら指摘してほしい」「家事の分担を明確に決めたい」など、具体的なお願いをすることで、相手もどのように協力すれば良いか分かりやすくなります。
- 感情的にならず、冷静に話す: 重要な話をする際は、感情的にならず、落ち着いて話せるタイミングを選びましょう。
- 専門家を交えて話すことも検討する: 必要であれば、医師やカウンセラー、家族療法士などを交えて、ADHDについて話し合い、理解を深める機会を持つことも有効です。
家族やパートナーからの理解とサポートは、ADHDの特性と付き合っていく上で大きな助けとなります。根気強く、お互いを尊重しながら話し合いを重ねることが大切です。
大人のADHD診断を受けるメリットとデメリット
大人のADHD診断を受けることには、メリットとデメリットの両方があります。診断を受けるかどうかを検討する際に、これらの点を考慮することが重要です。
メリット:
- 困りごとの原因の明確化: 長年抱えていた生きづらさや困りごとが、ADHDという特性によるものであると分かり、納得できる場合があります。「なぜ自分だけうまくいかないんだろう」という自己否定感から解放されることがあります。
- 適切な治療やサポートへのアクセス: 診断によって、薬物療法、心理療法、環境調整など、ADHDに特化した適切な治療やサポートを受けることができるようになります。
- 自己理解の深化: 自身の特性を客観的に理解し、得意なことや苦手なことを把握することで、自分自身との付き合い方が分かります。
- 周囲への説明のしやすさ: 診断名があることで、家族、パートナー、職場の人などに自身の特性や困りごとについて説明しやすくなる場合があります。必要な配慮やサポートを依頼する際の根拠にもなります。
- 公的な支援制度の利用: 診断によって、精神障害者保健福祉手帳や障害年金といった公的な支援制度を利用できる可能性があります。
- 同じ特性を持つ人との繋がり: 診断を通じて、ADHDの当事者会や自助グループなどと繋がり、経験や情報を共有し、孤立感を軽減することができます。
デメリット:
- 精神的な負担: 診断結果を受け止めることに、ショックや不安を感じる場合があります。
- 経済的な負担: 診断を受けるための医療費や、その後の治療費がかかります。
- 診断による偏見や誤解: ADHDに対する社会的な偏見や誤解により、不当な扱いを受けたり、人間関係に影響が出たりする可能性がゼロではありません。
- 自己肯定感の低下: 診断名によって、自分自身を否定的に捉えすぎたり、諦めてしまったりする場合があります。
- 保険加入への影響: 生命保険や医療保険などの加入において、告知義務違反にならないよう注意が必要になります。加入が難しくなったり、条件がついたりする可能性があります。
- 診断が難しい場合もある: 症状が軽度であったり、他の精神疾患と併存していたりする場合など、診断が難しいケースもあります。
診断を受けるかどうかは、メリット・デメリットをよく理解した上で、自身の現在の困りごとの程度や今後の希望などを考慮して慎重に判断することが大切です。一人で悩まず、まずは精神科や心療内科の医師に相談してみるのも良いでしょう。
大人のADHDと診断されない選択肢もある?
セルフチェックでADHD傾向が示されたり、困りごとを感じていたりしても、医療機関での診断でADHDと確定診断されないケースもあります。しかし、診断されないからといって、困りごとがないわけではありません。
- 診断基準を満たさない: 診断基準の項目数が足りない、子供の頃からの特性が明確でない、生活への支障が限定的であるなど、DSM-5の診断基準を完全に満たさない場合があります。
- 他の精神疾患の可能性: 困りごとの原因が、うつ病、不安障害、適応障害、パーソナリティ障害など、他の精神疾患によるものであると診断されることもあります。これらの疾患の症状がADHDと似ていることもあります。
- ADHDグレーゾーン: 診断基準は満たさないものの、ADHDの特性を少なからず持っており、それによって困りごとを抱えている状態を「ADHDグレーゾーン」と呼ぶことがあります(後述)。
このような場合、医療機関ではADHDと診断されないことがあります。しかし、診断名がつかなくても、特性による困難は存在し、本人にとっては生きづらさを感じていることに変わりはありません。
ADHDと診断されなかった場合でも、抱えている困りごとに対して適切な対処法やサポートを見つけることは可能です。
- 困りごとへの具体的な対処: 診断名に囚われず、自身の具体的な困りごと(例:物忘れが多い、時間管理が苦手など)に対して、一つずつ対処法を試していくことが有効です。ADHD向けの工夫の中には、診断の有無に関わらず役立つものがたくさんあります。
- 他の精神疾患の治療: うつ病や不安障害など、他の精神疾患が診断された場合は、その疾患に対する適切な治療(薬物療法や心理療法)を受けることで、困りごとが軽減されることがあります。
- カウンセリングや相談支援: 発達障害者支援センターや精神保健福祉センター、民間のカウンセリングサービスなどで、困りごとに対する相談や、特性理解、対処法に関するアドバイスを受けることができます。診断がなくても利用できるサービスもあります。
診断名は、あくまで適切なサポートに繋がるための一つの手がかりです。診断がつかなかった場合でも、困りごとを放置せず、自分に合った形で対処法や相談先を見つけることが大切です。
大人のADHDの女性特有の特徴
大人のADHDは男性に多いと思われがちですが、女性にも同じように見られます。ただし、女性の場合、その特性が現れ方が異なったり、周囲から気づかれにくかったりすることがあります。
女性がADHDと気づきにくい理由
女性のADHDが気づかれにくい理由には、いくつかの要因が考えられます。
- 不注意優勢型が多い傾向: 女性の場合、多動性や衝動性よりも不注意の特性が優位なタイプが多いと言われています。不注意の特性は、外からは目立ちにくいため、子供の頃から見過ごされやすい傾向があります。
- 「良い子」でいようとする適応: 女性は、幼少期から社会的な規範や期待に合わせて「良い子」でいようと努める傾向があります。これにより、本来の多動性や衝動性を抑え込んだり、不注意によるミスを隠したりするなどの適応戦略を無意識的に身につけていることがあります。結果として、周囲からはADHDの特性が見えにくくなります。
- 困りごとが内面化されやすい: 不注意によるミスや人間関係の困難などを、自分の性格や努力不足のせいだと考え、一人で抱え込んでしまいやすい傾向があります。
- 診断基準が男性の特性をベースにしている可能性: 従来のADHDの診断基準が、多動性や衝動性といった男性に目立ちやすい特性をベースに作られているため、不注意が中心の女性の特性が見落とされやすいという指摘もあります。
- 月経周期やホルモンバランスの影響: 月経周期に伴うホルモンバランスの変化が、ADHDの特性の現れ方に影響を与える可能性も指摘されており、診断を難しくする要因の一つとなり得ます。
これらの理由から、女性は子供の頃に診断されないまま大人になり、様々な困難に直面して初めて自身のADHDの可能性に気づくケースが多いのです。
女性の大人のADHDに多い困りごと
女性のADHDは、ライフステージや性別役割の影響を受けて、男性とは異なる、あるいはより顕著な困りごととして現れることがあります。
- 家事や育児の困難: 料理の段取りが苦手、片付けができない、期限のある手続きを忘れる、子供の持ち物の準備ができないなど、計画性や遂行能力が必要な家事や育児に困難を感じることが多いです。これが自己肯定感の低下や家族との摩擦に繋がることがあります。
- 人間関係の困難: 衝動的な発言で相手を傷つけてしまう、相手の話を最後まで聞けない、感情のコントロールが難しいそのため人間関係でトラブルを起こしやすいといった困りごとが見られます。また、不注意から約束を忘れたり、連絡を怠ったりすることが、友人やパートナーとの関係に影響を与えることもあります。
- 仕事でのミスや遅刻: 不注意によるケアレスミスが多い、締め切り管理ができない、時間管理が苦手で遅刻しがちなど、仕事で困難を抱えることがあります。特に、マルチタスクをこなす必要のある仕事や、細かい作業が求められる仕事では、苦労することが増えます。
- 気分の波や精神的な不調: ADHDの特性による生きづらさが、うつ病、不安障害、摂食障害などの精神的な不調を引き起こすことがあります。特に、月経前症候群(PMS)や更年期障害と症状が重なることもあり、診断や対処を難しくする場合があります。
- 経済的な問題: 衝動買いを繰り返してしまう、お金の管理が苦手、滞納してしまうなど、経済的な問題を抱えることがあります。
- 自己肯定感の低下: 長年、自分の特性による困難を「怠け」「だらしなさ」などと考え、自分を責め続けてきた結果、自己肯定感が低くなっている方が多いです。
女性の場合、これらの困りごとが複雑に絡み合い、より深い苦悩に繋がることがあります。女性のADHDの特性や困りごとについて理解を深めることは、適切な診断とサポートを受ける上で非常に重要です。
ADHDグレーゾーンの大人の特徴と対応
「ADHDかもしれないけれど、診断を受けるほどではないかもしれない」「セルフチェックで傾向はあったけれど、診断基準は満たさないと言われた」という人もいます。このような状態を「ADHDグレーゾーン」と呼ぶことがあります。医学的な正式名称ではありませんが、ADHDの特性は持っているものの、診断基準を完全に満たすほどではない、あるいは満たすか満たさないか微妙なラインにいる状態を指すことが多いです。
ADHDグレーゾーンとは?定義と状態
ADHDグレーゾーンは、ADHDの診断基準を満たすほどではないものの、不注意、多動性、衝動性といったADHD様の特性を持ち、日常生活や社会生活で一定の困難を抱えている状態を指す、非公式な用語です。
- 診断基準の項目数がわずかに足りない。
- 子供の頃からの特性が明確ではなかったり、親や保護者の証言が得られなかったりする。
- 困りごとが特定の状況に限られていたり、比較的軽度であったりする。
- 他の精神疾患の症状が主であり、ADHDの特性は二次的に見られる。
このような場合、医療機関ではADHDと診断されないことがあります。しかし、診断名がつかなくても、特性による困難は存在し、本人にとっては生きづらさを感じていることに変わりはありません。
ADHDグレーゾーンの大人が抱える悩み
ADHDグレーゾーンの人は、診断名がないことによる特有の悩みを抱えることがあります。
- 困りごとへの理解が得られにくい: 「ADHDではない」と言われることで、「ただのわがまま」「努力が足りない」などと周囲から誤解されたり、自分自身でもそう思い込んだりしてしまい、困りごとを深刻に受け止めてもらえないことがあります。
- 自己肯定感の揺らぎ: 診断がつかないことで、「自分の困りごとは気のせいなのか」「自分はただの怠け者なのか」と悩み、自己肯定感が揺らぐことがあります。
- 適切なサポートが見つけにくい: 診断名がないため、ADHDの診断を前提とした公的な支援制度やサービスを利用することが難しい場合があります。
- 二次的な精神的な不調: 困りごとが解消されず、周囲からの理解も得られない状況が続くと、うつ病や不安障害などの二次的な精神的な不調を発症するリスクが高まります。
診断がつかないからといって、困りごとがないわけではありません。グレーゾーンの人も、自身の特性による生きづらさに対して適切な対処が必要です。
グレーゾーンの場合の対処法と相談先
ADHDグレーゾーンである場合でも、困りごとに対処し、より生きやすくなるための方法はたくさんあります。診断名に囚われすぎず、自身の特性と向き合い、自分に合った方法を見つけることが大切です。
- 特性を理解する: ADHDに関する情報(書籍、ウェブサイト、講演会など)に触れ、自身の特性がどのようなものであるかを理解しましょう。診断はつかなくても、ADHDの特性についての知識は、自己理解や対処法を考える上で役立ちます。
- 具体的な困りごとへの対処法を試す: ADHDの方向けに効果的とされている様々な工夫(時間管理ツール、タスクの細分化、集中できる環境作り、忘れ物対策など)を試してみましょう。自分に合う方法を根気強く探すことが重要です。
- 環境調整: 自身の特性に合わせて、生活や仕事の環境を調整する工夫をしましょう。職場で困りごとがある場合は、上司や人事に相談し、業務内容や進め方について相談できるか検討することも有効です。ただし、診断名がない場合、必ずしも配慮が得られるとは限りません。
- カウンセリング: 診断の有無に関わらず、困りごとや悩みについてカウンセリングを受けることは有効です。自身の思考パターンや行動パターンを理解し、対処スキルを身につけるサポートが得られます。
- 公的な相談窓口: 発達障害者支援センターや精神保健福祉センターでは、発達障害に関する相談を受け付けています。診断がなくても相談できる場合が多いので、まずは問い合わせてみましょう。自身の困りごとを整理し、適切な支援機関に繋がるための情報提供を受けられます。
- 自助グループや当事者会: ADHDの当事者会や自助グループには、診断の有無に関わらず参加できる場合があります。同じような特性を持つ人たちと交流することで、共感を得られ、一人ではないと感じられるでしょう。
グレーゾーンであるからこそ、自身の困りごとを具体的に言語化し、それに合ったピンポイントな対処法を見つけることが重要です。診断の有無に関わらず、困りごとを抱えたままにせず、様々なリソースを活用して自分自身をサポートしていきましょう。
大人のADHD診断についてよくある質問
Q1. 大人のADHDは保険適用で診断できますか?
A1. はい、大人のADHDの診断や治療は、医師が必要と判断した場合、医療保険が適用されます。ただし、一部の検査やカウンセリングなどが保険適用外となる場合もあります。正確な費用については、受診を希望する医療機関に事前に確認することをおすすめします。
Q2. 大人のADHDは完治しますか?
A2. ADHDは生まれつきの脳機能の偏りによるものであり、「完治する」という表現は適切ではありません。しかし、適切な治療やサポート、環境調整によって、特性による困りごとを軽減し、日常生活や社会生活をよりスムーズに送ることは十分に可能です。特性と上手に付き合いながら、自身の能力を発揮できるようになることを目指します。
Q3. 診断には家族の同伴が必要ですか?
A3. 必須ではありませんが、可能であれば家族(特に子供の頃の様子を知っている親など)に同伴してもらうか、過去の様子について情報提供をしてもらうことが、より正確な診断に繋がる場合があります。子供の頃からの特性の持続は診断基準において重要な要素だからです。ただし、家族関係の問題やプライバシーの懸念がある場合は、無理に同伴を求める必要はありません。
Q4. 大人のADHDは遺伝しますか?
A4. ADHDは遺伝的な要因が関係していると考えられています。ADHDのある人の家族にも、ADHDや他の発達障害の特性が見られる傾向があります。しかし、遺伝だけで決まるわけではなく、環境要因なども複雑に関係していると考えられています。必ずしも親から子へ遺伝するわけではありません。
Q5. 診断を受けたことを職場に伝えるべきですか?
A5. 診断結果を職場に伝えるかどうかは、個人の判断によります。伝えることで、業務内容や進め方について必要な配慮やサポートを得やすくなる場合があります。しかし、伝え方によっては誤解や偏見を招く可能性もゼロではありません。伝える場合は、信頼できる上司や人事に相談し、自身の困りごとや必要な配慮を具体的に伝えることが重要です。伝えるメリットとデメリットを慎重に検討し、自身の状況に合わせて判断しましょう。就労移行支援事業所など、専門の機関に相談することも有効です。
まとめ
この記事では、大人のADHD診断について、その特徴、診断基準、セルフチェックの活用法、医療機関での診断プロセス、診断後の向き合い方、女性特有の特徴、そしてグレーゾーンについて詳しく解説しました。
大人のADHDの特性による困りごとは、長年の生きづらさや自己肯定感の低下に繋がることがあります。しかし、それはあなたの性格や努力不足によるものではなく、脳機能の特性によるものである可能性を理解することが、自分自身を受け入れ、前向きな一歩を踏み出すためのスタートラインとなります。
もし、あなたが日常生活や仕事で困難を感じており、それがADHDの特性によるものかもしれないと感じているなら、まずはセルフチェックで自身の傾向を把握してみることから始めても良いでしょう。そして、セルフチェックの結果や日頃の困りごとを踏まえ、専門機関である精神科や心療内科、または発達障害専門の医療機関に相談することを強くお勧めします。
専門医による診断は、あなたの抱える困りごとの原因を明確にし、あなたに合った適切な治療やサポート、環境調整を見つけるための重要なステップです。診断がついたとしても、それはあなたの全てを決定づけるものではありません。自身の特性を理解し、それと上手に付き合っていくための「取扱説明書」を手に入れたと捉え、より自分らしく、生きやすい方法を見つけていく旅が始まります。
一人で悩まず、この記事があなたの次のステップへの橋渡しとなり、適切なサポートに繋がることを願っています。
免責事項:
本記事は、大人のADHD診断に関する一般的な情報提供を目的としており、医学的な診断や助言を行うものではありません。自身の状態について不安がある場合は、必ず医療機関を受診し、専門医の診断や指導を受けてください。本記事の情報に基づいて行った行為によって生じた、いかなる損害についても、当方は一切の責任を負いかねます。