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自閉症とは?特徴・症状・原因・診断・接し方をわかりやすく解説

自閉症(じへいしょう)という言葉は、多くの方が耳にしたことがあるかもしれません。
しかし、その意味や特徴については、様々な情報があり、正確な理解が難しいと感じる方もいらっしゃるのではないでしょうか。
現在、自閉症は「自閉症スペクトラム症(ASD)」と呼ばれる発達障害の一つとして位置づけられています。
この記事では、自閉症スペクトラム症(ASD)とは何か、その主な特徴、原因、診断や支援について、専門家監修のもと、分かりやすく解説します。
まずは「自閉症 とは」を知ることから始めましょう。

自閉症スペクトラム症(ASD)は、生まれつき脳の機能の発達に偏りがあることによって生じる発達障害の一つです。以前は「自閉症」「アスペルガー症候群」「広汎性発達障害」など、いくつかの診断名に分かれていましたが、現在はこれらの特性が連続的であると考えられ、DSM-5(Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders, Fifth Edition:アメリカ精神医学会による精神疾患の診断・統計マニュアル第5版)以降、「自閉症スペクトラム症(ASD)」という一つの診断名に統合されています。

「スペクトラム(Spectrum)」とは「連続体」や「虹のように幅広い範囲」という意味です。これは、ASDの特性の現れ方が人によって非常に多様であり、全く同じ特性を持つ人がいないことを示します。特性の程度も、日常生活にほとんど支障がない方から、手厚い支援が必要な方まで幅広く、「定型発達」と呼ばれる大多数の人々との間に明確な境界線があるわけではなく、連続的に分布していると考えられています。

ASDの主な特性は、「対人関係や社会性の困難さ」「コミュニケーションの困難さ」「興味や活動の偏り、こだわり」の3つの柱に分けられますが、これらの特性がどの程度現れるか、知的発達に遅れがあるかないか、言語の発達があるかないかなどによって、その人のASDの特性は大きく異なります。

ASDは病気ではなく、脳機能の特性によるものであり、本人の努力不足や親の育て方が原因でなるものではありません。この特性は生涯にわたって続きますが、適切な理解と支援によって、本人らしく社会生活を送ることが可能になります。

目次

自閉症(ASD)の主な特徴

自閉症スペクトラム症(ASD)の診断基準は、主に以下の3つの領域における特性に基づいています。これらの特性は、子どもの頃から見られますが、成長とともに現れ方や困りごとが変わってくることがあります。また、知的障害の有無や言語能力によっても、特性の現れ方は異なります。

対人関係や社会性の困難さ

ASDのある方は、非言語的な合図や暗黙の了解を読み取ることが難しかったり、他者の気持ちや意図を理解することが苦手だったりすることがあります。これにより、対人関係において以下のような困難が生じやすいことがあります。

  • 視線が合いにくい、または不自然な視線: 目を見て話すことが苦手だったり、逆にじっと見つめすぎたりすることがあります。
  • 表情や声のトーンから感情を読み取るのが難しい: 相手が怒っているのか、悲しんでいるのか、楽しいのかなどが分かりにくいことがあります。
  • 場の空気を読むことが苦手: その場の雰囲気や状況に合わせた言動をとることが難しく、不用意な発言をしてしまうことがあります。
  • 他者との関わり方に関する興味の低さ: 他者と積極的に関わろうとしない、一人遊びを好む、集団行動が苦手といった側面が見られることがあります。ただし、これは「人に関心がない」ということではなく、「どう関わったらよいか分からない」という場合も多くあります。
  • 感情の共有が難しい: 自分の感情を適切に表現したり、他者の喜びや悲しみに共感したりすることが難しい場合があります。
  • 暗黙のルールや習慣の理解が難しい: その集団や社会特有のルールや習慣(例: 並んで待つ、挨拶をする、順番を守るなど)を理解し、それに従って行動することが難しいことがあります。

言葉やコミュニケーションの困難さ

言葉によるコミュニケーションだけでなく、非言語的なコミュニケーションも含め、相互的なやり取りに困難が見られることがあります。

  • 言葉の発達の遅れ: 特に幼少期に言葉が出始めるのが遅い場合があります。
  • 一方的な話し方: 自分の好きなことについて一方的に話し続けたり、相手の興味に関係なく話し続けたりすることがあります。
  • 会話のキャッチボールが難しい: 相手の話を聞かずに自分の話をしてしまったり、会話の途中で話題を変えたりすることがあります。
  • 言葉の文字通りの理解: 比喩、皮肉、冗談などを額面通りに受け取ってしまい、言葉の裏にある意味を理解することが難しいことがあります。「猫の手も借りたい」と言われて、本当に猫を探してしまうようなイメージです。
  • 声のトーン、大きさ、リズムの不自然さ: 話し方が単調だったり、声が大きすぎたり小さすぎたり、抑揚が乏しかったりすることがあります。
  • オウム返し: 相手が言った言葉やフレーズをそのまま繰り返すことがあります。
  • 非言語コミュニケーションの困難: ジェスチャー、表情、声のトーン、姿勢などを使って自分の意図を伝えたり、他者の非言語的な合図を読み取ったりすることが苦手な場合があります。

興味や活動の偏り、こだわり

特定の事柄への強い興味や、同じ行動を繰り返すことへのこだわりが見られることがあります。

  • 限定された特定の興味: 特定の分野(電車、恐竜、アニメのキャラクター、特定の数字など)に強い関心を持ち、それ以外のことにほとんど興味を示さないことがあります。その興味の対象について非常に詳しくなることがあります。
  • 反復的で常同的な行動: 身体を揺らす、手をひらひらさせる、特定の音を出すなど、同じ行動を繰り返すことがあります。これは感情を調整したり、感覚的な刺激を求めたり、避けたりするための手段であることがあります。
  • 変化への強い抵抗: 普段の手順や習慣、環境の変化に対して強い不安や抵抗を感じることがあります。予定が変わることにパニックになったり、新しい場所に行くことを極端に嫌がったりすることがあります。
  • 特定の物事への強いこだわり: 物の配置や順番に強くこだわる、同じ服しか着たがらない、食事のメニューや食器にこだわりがあるなど、特定のやり方や状態にこだわる傾向があります。
  • 感覚への過敏さまたは鈍感さ: 特定の音、光、匂い、味、触感に対して過敏すぎたり、逆に鈍感すぎたりすることがあります。例えば、特定の音を聞くと苦痛を感じる、特定の触感を嫌がる、特定の食べ物の匂いが受け付けられない、痛みを感じにくい、熱さや冷たさに気づきにくいなど、日常生活に影響を及ぼすことがあります。

自閉症の子に見られる特徴

幼児期や学齢期の子どもにおいて、ASDの特性は以下のような形で現れることがあります。早期に気づき、適切な支援に繋げることが重要です。

  • 生後数ヶ月〜1歳頃:抱っこを嫌がる、視線が合いにくい、あやしてもあまり笑わない、親の呼びかけに反応が薄い。
  • 1歳〜2歳頃:指差しをしない、言葉が出始めるのが遅い、簡単な指示が理解しにくい、他の子どもに関心を示さない、一人遊びが多い、特定の遊び方(おもちゃを並べる、車輪を回し続けるなど)にこだわる。
  • 3歳頃〜:言葉でのやり取りが一方的、「ごっこ遊び」のような見立て遊びをしない、集団行動が苦手、ルールが理解しにくい、初めての場所や状況に強い不安を示す、特定の物事への強いこだわりや反復行動が目立つ。

これらの特徴は、定型発達の子どもにも一時的に見られることがあるため、複数の特徴が継続的に見られ、発達に偏りがある場合にASDが疑われます。

自閉症の方の具体的な行動例

ASDの特性は多様ですが、日常生活の中で以下のような行動が見られることがあります。

  • 朝の支度に時間がかかるAさん(成人): 毎日の身支度の手順が決まっており、その手順を少しでも変えられると混乱してしまい、朝の準備に時間がかかってしまう。
  • 言葉の裏が読めないBさん(子ども): 友達が冗談で「今日から話さないからね!」と言ったのを真に受けてしまい、深く傷ついてしまう。
  • 特定の電車に強い興味を持つCさん(子ども): 電車の時刻表や車両の型番をすべて覚えており、それについて延々と話すことができるが、他の話題には興味を示さない。
  • 感覚過敏のあるDさん(成人): 特定の衣服のタグが肌に触れると強い不快感を感じ、全ての服のタグを切り取らないと着られない。
  • 予定変更が苦手なEさん(子ども): 急に学校行事の予定が変更になったことでパニックになり、教室に入ることができなくなる。
  • 一方的な会話をするFさん(成人): 飲み会で自分の好きな趣味の話ばかりをしてしまい、他の参加者が話に入ることができず、浮いてしまう。

これらの行動はASDの特性に起因するものであり、悪気があってしているわけではありません。特性を理解し、本人に合った対応や環境調整を行うことが重要です。

自閉症(ASD)の原因

自閉症スペクトラム症(ASD)の原因は、現在の研究では一つに特定されていません。複数の要因が複雑に絡み合って発症すると考えられており、主に「遺伝的要因」と「環境要因」が挙げられます。

  • 遺伝的要因: ASDのある方やその家族を対象にした研究から、ASDの発症には遺伝的な要因が大きく関わっていることが示唆されています。特定の遺伝子の変異や組み合わせが、脳の発達に影響を及ぼし、ASDの特性が現れると考えられています。ただし、単一の遺伝子ではなく、多くの遺伝子がわずかずつ影響し合っている「多遺伝子性」であると考えられています。また、双生児研究などから、遺伝の影響が大きいことが分かっていますが、特定の遺伝子変異が見つかるケースは一部であり、まだ多くの部分は解明されていません。
  • 環境要因: 妊娠中や周産期(出産前後)の様々な要因が、ASDの発症リスクを高める可能性が研究されています。例えば、妊娠中の感染症(風疹など)、特定の薬剤の使用、早産や低出生体重などが関連している可能性が指摘されています。しかし、これらの要因が直接の原因となるわけではなく、遺伝的要因と組み合わさることで影響を及ぼすと考えられています。

重要な点として、親の育て方や愛情不足が自閉症の原因となるという考え方は、現在の科学的根拠に基づくと完全に否定されています。 自閉症は、生まれつきの脳機能の特性によるものであり、保護者の方の責任ではありません。

ワクチン接種が自閉症の原因であるという説もかつて提唱されましたが、その後の多くの大規模な研究により、この説は科学的に否定されています。

ASDの原因研究は現在も世界中で進められており、将来的にはより詳しいメカニズムが解明され、早期発見や個別の特性に合わせた支援法の開発に繋がることが期待されています。

自閉症と発達障害の違い・関係性

「自閉症」「発達障害」という言葉は混同されがちですが、これらは異なる概念です。自閉症スペクトラム症(ASD)は、発達障害という大きな枠組みの中の一つのタイプです。

発達障害とは

発達障害は、生まれつき脳機能の発達に偏りや違いがあることによって、日常生活や社会生活に困難が生じる様々な障害の総称です。発達障害は一つではなく、いくつかのタイプに分類されます。主なものとしては、以下のようなものがあります。

  • 自閉症スペクトラム症(ASD): 対人関係やコミュニケーションの困難さ、限定された興味や反復行動が特徴。
  • 注意欠如・多動症(ADHD): 不注意、多動性、衝動性が特徴。
  • 限局性学習症(LD): 読み書き、計算などの特定の学習能力に著しい困難があることが特徴。
  • 協調運動症: 身体の協調運動(運動のぎこちなさ)に著しい困難があることが特徴。
  • 発達性言語症: 言語の理解や表出に著しい困難があることが特徴。

これらの発達障害は、単独で診断されることもありますが、重複して特性が見られることも少なくありません。例えば、ASDとADHDの特性を併せ持つ方もいます。

自閉症スペクトラムと自閉症の違い

歴史的な背景から、以前は「自閉症」という診断名が使われていました。この「自閉症」は、知的障害を伴う、より重度の特性を持つケースに主に用いられていました。一方、知的障害を伴わないか、ごく軽度で、言葉の遅れが目立たないケースは「アスペルガー症候群」などと呼ばれていました。

しかし、これらの特性は明確に区別できるものではなく、連続的であるという理解が進み、DSM-5(2013年改訂)では、これらをまとめて「自閉症スペクトラム症(ASD)」という一つの診断名に統合しました。

診断名(旧分類) 特徴
自閉症 対人関係・コミュニケーションの困難、限定された興味・こだわり。多くの場合、知的障害や言葉の遅れを伴う。
アスペルガー症候群 自閉症と同様の特性を持つが、知的障害や言葉の遅れが目立たない。
広汎性発達障害 自閉症やアスペンガー症候群を含み、より広い概念。
診断名(新分類) 特徴
自閉症スペクトラム症(ASD) 対人関係・コミュニケーションの困難、限定された興味・こだわり。特性の現れ方や程度は連続的で幅広い。知的障害の有無や言語能力のレベルは問わない。

したがって、現在の診断名である「自閉症スペクトラム症(ASD)」は、以前の「自閉症」や「アスペルガー症候群」を含んだ、より幅広い概念と言えます。診断書などでは「自閉症スペクトラム症」または「ASD」と記載されることが一般的です。一般的に「自閉症」という言葉を使う場合でも、現在は「自閉症スペクトラム症」を指していることが多いと考えられます。

自閉症(ASD)の診断と治療・支援

自閉症スペクトラム症(ASD)は、特定の検査によって診断できるものではなく、専門医による総合的な診察によって診断されます。診断は治療のためというよりは、本人の特性を理解し、適切な支援につなげるためのものです。

診断基準について

ASDの診断は、国際的な診断基準であるDSM-5(アメリカ精神医学会)やICD-11(世界保健機関)に基づいて行われます。医師は、本人の発達歴や生育歴、現在の状況、保護者や学校からの情報などを詳細に聞き取り、行動観察、必要に応じて心理検査や発達検査(知能検査、社会性に関する検査など)を行い、総合的に判断します。

DSM-5の主な診断基準は、以下の2つの領域における持続的な困難があることです。

  • 複数の状況における対人的コミュニケーションおよび対相互作用における持続的な欠陥。
  • 限定された、反復的な様式の行動、興味、活動。

これらの特性が、発達早期から見られ、臨床的に意味のある社会、学業、その他の重要な機能の障害を引き起こしている場合に診断されます。また、これらの症状が、知的障害や全般的発達遅延など、他の精神疾患ではうまく説明できないことも診断の条件となります。

診断は、特に成人の場合、ASDの特性が他の精神疾患(不安障害、うつ病、社交不安障害など)の症状と似ていることもあるため、専門的な知識と経験を持つ医師が行う必要があります。

治療・支援方法

ASDは特性であり、完治する病気ではありません。そのため、「治療」というよりは、本人の特性を理解し、社会生活上の困難を軽減するための「支援」が中心となります。支援の目標は、本人が持っている力を最大限に引き出し、より豊かな生活を送れるようにすることです。

主な支援方法には、以下のようなものがあります。

  • 応用行動分析(ABA)などの行動療法: 特定の行動を増やしたり減らしたりするための structured(構造化された)なアプローチ。望ましい行動を促し、不適応行動を軽減することを目指します。
  • ソーシャルスキルトレーニング(SST): 対人関係やコミュニケーションに必要なスキル(表情の読み取り、会話の始め方・続け方、誘い方・断り方など)を練習するプログラム。ロールプレイングなどを通じて実践的に学びます。
  • ペアレントトレーニング: 保護者が子どもの特性を理解し、肯定的な関わり方を学ぶプログラム。家庭での適切な対応方法を身につけることを目指します。
  • 構造化された支援(TEACCHプログラムなど): 視覚的な情報を多く取り入れ、活動内容や場所、時間の流れを分かりやすく示すことで、本人の混乱や不安を軽減し、自分で見通しを持って行動できるように支援します。時間割、ToDoリスト、活動エリアの区切りなどを用います。
  • 感覚統合療法: 感覚過敏や感覚鈍麻といった感覚の偏りに対して、遊びや運動を通して適切な感覚刺激を取り入れることで、脳の情報処理能力を高め、感覚の偏りに伴う困難を軽減することを目指します。
  • 環境調整: 本人の特性に合わせて、物理的な環境や対人関係の環境を調整します。例えば、騒がしい場所を避ける、休憩できる場所を設ける、指示を出す際は簡潔に具体的に伝える、視覚的な情報を増やすなどが挙げられます。
  • 薬物療法: ASDの根本的な特性を改善する薬はありませんが、ASDに合併しやすい二次的な症状(例: 不安、不眠、注意力の問題、衝動性、てんかんなど)に対して、医師の判断で薬物療法が行われることがあります。

これらの支援は、本人の年齢、特性の程度、困りごとの内容、知的レベルなどによって tailor-made(個別に調整)されます。専門機関(児童発達支援センター、発達障害者支援センター、精神科・児童精神科、相談支援事業所など)や専門職(医師、臨床心理士、言語聴覚士、作業療法士、公認心理師、精神保健福祉士など)と連携しながら、本人や家族に合った支援計画を立て、進めていくことが重要です。

大人の自閉症スペクトラム

ASDは幼少期から見られる特性ですが、診断がつくのは大人になってからというケースも少なくありません。子どもの頃は周囲のサポートや環境調整で乗り越えられていた困難が、社会に出て人間関係が複雑になったり、仕事で求められる能力が高くなったりすることで顕在化し、初めてASDの特性に気づくことがあります。

大人のASDの特性は、子どもの頃と比べて現れ方が変わることもあります。例えば、コミュニケーションの困難さが、会話のぎこちなさや空気が読めないといった形で見られたり、強いこだわりが特定の趣味や仕事への没頭という形でプラスに働くこともあれば、融通がきかない、臨機応変な対応が難しいといった形で困難につながることもあります。

大人のASDの方が抱えやすい困難としては、以下のようなものが挙げられます。

  • 職場での人間関係: 同僚や上司とのコミュニケーションがうまくいかない、非言語的な指示や暗黙のルールが理解できない、雑談が苦手。
  • 仕事の遂行: 優先順位付けやマルチタスクが苦手、計画通りに進められない、集中しすぎて周りが見えなくなる、変化に対応できない。
  • 日常生活: 家事や金銭管理が苦手、部屋が片付けられない、感覚過敏で特定の場所に行けない、新しい環境に馴染めない。
  • 精神的な不調: 対人関係のストレスから、うつ病や不安障害、適応障害などを併発しやすい。

大人のASDの診断を受けるメリットとしては、自身の特性を客観的に理解できること、困りごとの原因が明確になり対策を立てやすくなること、障害者手帳の取得や各種支援制度(障害者雇用、就労移行支援事業所、相談支援事業所など)の利用に繋がる可能性があることが挙げられます。一方、デメリットとしては、診断名を受け入れることへの心理的な負担、周囲からの誤解や偏見などが考えられます。

診断を受けるかどうかは、本人の意向や困りごとの程度によって異なります。まずは専門機関に相談し、自身の状況や利用できる支援について情報収集することから始めてみるのが良いでしょう。

自閉症のレベルについて

以前の診断分類では、「自閉症」という言葉自体が知的障害を伴うケースを指すことが多かったため、「レベル」という言葉が使われることがありました。しかし、現在はASDとして連続的に捉えるため、厳密な意味での「レベル分け」は行いません。

DSM-5では、自閉症スペクトラム症の診断において、社会コミュニケーションおよび対相互作用の困難さ、並びに限定された、反復的な行動様式における支援の必要度に応じて、以下の3段階で重症度を評価します。これは「レベル」というよりは「必要な支援の程度」を示していると理解できます。

  • レベル1:支援が必要
    • 社会的な交流において、支援なしでは困難が見られる。
    • 限定された興味や反復行動による日常生活への支障があるが、比較的軽度。
  • レベル2:相当な支援が必要
    • 社会的な交流において、顕著な非言語的・言語的なコミュニケーションの困難が見られる。
    • 限定された興味や反復行動による日常生活への支障が相当程度ある。
  • レベル3:非常に相当な支援が必要
    • 社会的な交流において、非常に重度なコミュニケーションの困難が見られる。
    • 限定された興味や反復行動による日常生活への支障が非常に大きい。

この重症度の評価は、あくまで診断時の一つの指標であり、個々の困りごとや必要な支援の内容は人によって異なります。また、成長や環境、支援によって必要な支援の程度は変化する可能性もあります。

知的障害の有無も、ASDの特性の現れ方や必要な支援に大きく影響します。ASDと診断された方のうち、約半数程度が知的障害を併存していると言われています。知的障害がある場合は、言葉の理解や抽象的な思考が難しいため、より視覚的で具体的な支援が必要となることが多いです。

重要なのは、診断名やレベルに囚われすぎず、一人ひとりの特性を理解し、その人にとってどのような支援が必要かを考えることです。

まとめ

自閉症スペクトラム症(ASD)は、対人関係やコミュニケーションの困難さ、限定された興味や反復行動などを主な特徴とする発達障害の一つです。これらの特性は生まれつきの脳機能の偏りによるものであり、病気ではなく、親の育て方が原因でなるものではありません。

ASDの特性の現れ方は人によって非常に多様で、「スペクトラム」という言葉が示すように連続的です。知的障害の有無や言語能力によってもその様相は大きく異なります。診断は専門医による総合的な判断によって行われ、本人や家族が特性を理解し、適切な支援につなげるための重要なステップとなります。

ASD自体を完治させる治療法はありませんが、行動療法、ソーシャルスキルトレーニング、構造化された支援、環境調整など、様々な支援方法があります。これらの支援を通じて、社会生活上の困難を軽減し、本人が持っている強みや能力を活かして、より自分らしい生活を送ることが可能になります。

子どものASDだけでなく、大人のASDも近年注目されており、職場や日常生活での困難に直面し、初めて診断を受ける方も増えています。大人のASDの方も、自身の特性を理解し、利用できる支援を活用することで、より生きやすくなることが期待できます。

もし、ご自身やご家族、身近な方のコミュニケーションや対人関係、特定のこだわりなどに気づき、発達の偏りがあるかもしれないと感じたり、生活の中で困難を感じていたりする場合は、一人で抱え込まずに専門機関に相談してみることをお勧めします。

専門機関としては、地域の保健センター、子育て支援センター、発達障害者支援センター、精神科・児童精神科、かかりつけ医などが挙げられます。これらの機関では、相談に応じてくれたり、適切な医療機関や支援サービスを紹介してくれたりします。

自閉症スペクトラム症への正しい理解を深め、本人にとって必要なサポートを提供することが、全ての人にとって暮らしやすい社会の実現につながります。

免責事項: この記事は一般的な情報提供を目的としており、医学的アドバイスを構成するものではありません。個別の状況については、必ず医師や専門家にご相談ください。この記事の情報に基づくいかなる行動についても、責任を負いかねます。

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