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認知症高齢者の日常生活自立度とは?|判定基準とレベルを解説

「認知症高齢者の日常生活自立度」という言葉をご存じでしょうか。これは、認知症の高齢者が、どの程度ご自身の力で日常生活を送ることができるかを示す公的な指標です。

この自立度判定は、介護保険制度において、適切なサービスを受けるために非常に重要な役割を果たします。ご家族に認知症の方がいらっしゃる方や、将来の介護について考えている方にとって、この自立度について正しく理解しておくことは、安心して介護を進めるための第一歩となるでしょう。

この記事では、厚生労働省が定めている認知症高齢者の日常生活自立度の基準や、各ランクがどのような状態を示すのかを詳しく解説します。また、この自立度がどのように判定され、どのように活用されるのかについても分かりやすくお伝えします。

目次

認知症高齢者の日常生活自立度とは?

「認知症高齢者の日常生活自立度」とは、厚生労働省が定めている、認知症の進行に伴って日常生活に生じる支障の度合いを示す指標です。これは、認知症による症状や行動・心理症状(BPSD:Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia)によって、ご本人がどの程度自立した生活を送れているかを客観的に評価するために用いられます。

この指標が導入された主な目的は、以下の通りです。

  • 適切な介護サービスの提供: 自立度を判定することで、その方に必要な介護や支援の内容を具体的に把握し、適切な介護保険サービスに繋げることができます。
  • 介護保険制度の運用: 介護保険における要介護認定のプロセスにおいて、心身の状態を示す重要な情報の一つとして活用されます。
  • 医療・介護現場での情報共有: 医療従事者や介護従事者が、ご本人の状態を共通認識として把握するためのツールとなります。
  • 統計的な把握: 全国的な認知症高齢者の実態を把握し、今後の医療・介護施策を検討するための基礎資料となります。

単に認知症の診断がついているだけでなく、「その方の生活にどのような影響が出ているか」という点に着目するため、実際の介護の現場で非常に役立つ指標と言えます。

厚生労働省が定める判定基準・ランク一覧

認知症高齢者の日常生活自立度は、症状の程度に応じてMからVまでの6つのランクに分類されています。ランクが上がるにつれて、日常生活における支障の度合いが大きくなり、より多くの介護や見守りが必要な状態を示します。

ここでは、厚生労働省が示す判定基準に基づき、各ランクの状態像と、具体的な行動や必要な支援について解説します。

ランク 状態像 日常生活の状況(例) 必要な支援(例)
M 何らかの認知症の症状・行動・心理症状(BPSD)があるが、日常生活は自立している 知的な活動(例えば、簡単な計算や読み書き)や社会的な活動(例えば、近所への買い物、友人との会話)は問題なくできる。新しい環境や複雑な状況への適応力はやや低下している可能性があるが、普段の生活は問題なく送れる。 家族や周囲が病識を持ち、ご本人の変化を理解することが重要。将来に向けた情報提供や、認知症の進行を遅らせるための取り組み(生活習慣改善、脳トレなど)の検討。定期的な医師の診察による状態把握。
I 家庭外では、日常生活に支障がある 一人での外出で道に迷うことがある。新しい場所に行くと混乱しやすい。買い物でお金の間違いをすることがある。乗り物の利用に不安を感じることがある。家の中や慣れた場所では、ほぼ自立している。 一人での外出時の見守りや同行。公共交通機関の利用サポート。金銭管理への助言やサポート。新しい環境への適応サポート。家庭内では自立しているため、ご本人の能力を活かせるような役割を持つことの支援。
II 日常生活に支障があり、見守り等が必要 家の中や慣れた場所でも、時々失敗したり、手順を間違えたりすることが増える。服薬管理が難しくなる。時間や場所の見当識障害が現れることがある。一人でいると不安を感じやすい。 日中の声かけや見守り。服薬管理のサポート。食事や着替えなど、日常生活動作の一部で声かけや手助けが必要になることがある。安全確保のための環境調整。ご本人が混乱しないよう、分かりやすい指示やルーティンの確立。
IIa 日中のみ見守り等が必要 日中は比較的落ち着いているが、活動する時間帯に手順間違いや失敗が多くなる。日中に一人で留守番させると、火の不始末や徘徊などの危険がある。夜間は比較的穏やかで、見守りの必要性は低い。 日中の活動時間帯における集中的な見守りや声かけ。デイサービスなど日中の居場所や活動の場の確保。ご本人が日中に安心して過ごせる環境整備。家族が日中不在の場合の安否確認や緊急時対応策の検討。
IIb 夜間も見守り等が必要 日中は比較的安定しているが、夕方から夜間にかけて不穏になったり、幻覚・妄想が出現したりすることがある(せん妄や夜間徘徊)。睡眠障害が現れやすい。夜間も安全確保や声かけが必要になる。 夜間における定期的な見守り。夜間徘徊防止のための対策(センサー設置など)。睡眠環境の調整や、必要に応じた服薬調整。ご本人が夜間も安心して過ごせるような環境整備。夜間対応可能な介護サービスの検討(夜間訪問介護など)。
III 日常生活に支障があり、介護が必要 食事、着替え、排泄などの基本的な日常生活動作(ADL)の一部または全体に介助が必要になる。指示を理解したり、自分の意思を伝えたりすることが難しくなる。行動・心理症状(BPSD)が現れやすく、介護者の負担が大きい。 ADL全般にわたる具体的な介助が必要。意思疎通が難しくなるため、非言語的なコミュニケーションや、ご本人の反応を注意深く観察する。BPSDへの対応策を専門家と共に検討・実施。介護者の休息や支援(ショートステイ、施設利用など)の検討。
IIIa 日中を中心に介護が必要 日中は排泄や入浴、着替えなどで介助が必要となることが多い。食事も声かけや一部介助が必要な場合がある。夜間は比較的落ち着いて眠れることが多いが、介助が必要な場合もある。日中の活動時間帯に手厚い介護が必要。 日中の訪問介護やデイサービスなどを組み合わせ、必要な介助を確保。日中の居場所や活動を確保し、心身機能の維持に努める。ご本人が日中に活動できるよう、生活リズムを整える支援。家族が日中に介護から離れる時間を作るためのサポート。
IIIb 夜間も介護が必要 日中だけでなく、夜間も排泄介助や体位変換、水分補給などで介助が必要となる。夜間に起き出して不穏になったり、徘徊したりすることもある。昼夜逆転が見られる場合もある。夜間も継続的な介護や見守りが必要。 夜間も対応可能な訪問介護や、夜間も職員が常駐する施設サービス(グループホーム、有料老人ホームなど)の検討。昼夜のリズムを整えるための専門的なアプローチ。介護者の夜間の負担を軽減するための支援(ショートステイ、夜間対応型訪問介護など)。
IV 重度の認知症で、常に介護が必要 意思疎通が極めて困難になり、自分から何かを訴えることがほとんどなくなる。食事、排泄、着替え、入浴など、ADL全般にわたって全面的に介助が必要となる。寝たきりに近い状態になることもある。BPSDが頻繁に出現し、対応が難しい場合が多い。 生活全般にわたる包括的な介護が必要。誤嚥性肺炎や褥瘡などの合併症予防のための専門的なケア。疼痛や不快感など、言葉で伝えられないサインに気づくための観察力。介護者の精神的・肉体的負担が非常に大きいため、専門施設での介護(特別養護老人ホーム、医療機関など)が中心となる。
V 末期認知症で、終日寝たきりなど 認知症が進行し、寝たきりの状態となり、意思疎通はほぼ不可能。経管栄養や点滴が必要な場合がある。呼吸や循環機能の低下など、生命維持に必要な機能も障害される。終末期ケアの段階。 終末期ケア、緩和ケアが中心となる。ご本人の安楽を最優先にした医療・介護の提供。家族の精神的なサポート。医療機関や看取り可能な施設でのケアが中心となる。

このランクは、あくまで厚生労働省が示す基準であり、個々人の症状の現れ方や必要な介護は異なります。この基準を参考にしながら、ご本人の状態を総合的に判断し、柔軟に対応していくことが重要です。

ランクM:何らかの症状・行動異常はあるが日常生活は自立

ランクMは、認知症の初期段階に見られることが多い状態です。物忘れなどの症状はあるものの、日常生活を送る上で大きな支障はありません。

例えば、以前に比べて新しいことを覚えにくくなったり、少し前の出来事を思い出せなかったりすることがあります。また、いつもと違う場所に行くと戸惑う、複数の指示を同時に理解するのが難しい、といった変化が見られることもあります。しかし、毎日のルーティンや慣れた環境の中では、食事、着替え、入浴といった基本的な生活動作はご自身の力で行うことができます。金銭管理や服薬管理も、簡単なものであれば問題なくこなせる場合が多いです。

この段階では、ご本人よりもむしろ家族や周囲の人が「あれ?」と変化に気づくことが多いでしょう。この時期に適切な診断を受け、ご本人と家族が病気について理解を深めることが、今後の生活を考える上で非常に大切になります。

ランクI:家庭外では日常生活に支障がある

ランクIに進むと、家庭の中や慣れた環境では自立した生活を送れていても、一歩外に出ると支障が生じることがあります。

例えば、一人で近所に買い物に行ったものの、帰り道が分からなくなってしまった、バスや電車に乗るのが難しくなった、といった状況です。銀行でお金を下ろす際に手続きを間違えたり、買い物の支払いでお金の計算ができなくなったりすることもあります。新しい場所や予定外の出来事に対して、混乱したり不安を感じたりしやすくなります。

このランクでは、家庭内ではほぼ自立しているため、ご本人の自信を損なわないよう、できることはご自身で行っていただくことが大切です。しかし、外出時や複雑な状況では見守りやサポートが必要になります。家族が同行したり、地域包括支援センターなどに相談して、地域の見守りサービスなどを利用することも有効です。

ランクII:日常生活に支障があり、見守り等が必要

ランクIIになると、家庭の中や慣れた場所でも、日常生活に支障が現れるようになります。ご自身の安全や健康を維持するために、ある程度の見守りや声かけが必要になります。

例えば、食事の準備で手順を間違えてしまったり、薬を飲み忘れたり、二重に飲んでしまったりすることがあります。服の前後ろを間違えて着たり、季節に合わない服を選んだりすることもあります。時間や場所の感覚が曖昧になり、約束を忘れたり、今いる場所が分からなくなったりすることもあります。一人で過ごすことに強い不安を感じ、常に誰かがそばにいないと落ち着かない、といった状態になることもあります。

このランクでは、ご本人の状態に合わせて、必要な場面で適切なサポートを提供することが重要です。ご本人の能力を最大限に活かしつつ、できない部分を補うバランスが求められます。

ランクIIa:日中のみ見守り等が必要

ランクIIaは、主に日中の活動時間帯に集中的な見守りやサポートが必要な状態です。

例えば、日中に活動している時間帯に、勝手に外出してしまったり(徘徊)、火の不始末など危険な行為をしてしまったりする可能性があります。食事の準備や掃除などの家事で、手順を間違えたり、途中でやめてしまったりすることがあります。しかし、夜間は比較的落ち着いて眠ることができ、夜間の徘徊や不穏は見られないことが多いです。

この状態の方には、日中にデイサービスを利用したり、訪問介護サービスで定期的に見守りや声かけをしてもらうことが有効です。家族が日中留守にする場合でも、ご本人が安全に過ごせる環境を整えることが大切になります。

ランクIIb:夜間も見守り等が必要

ランクIIbは、日中だけでなく、夜間にも見守りやサポートが必要な状態です。

例えば、夕方から夜間にかけて落ち着きがなくなり(夕暮れ症候群)、家の中をうろうろしたり、外に出たがったりすることがあります。夜中に突然起きてきて、家族を起こしたり、意味不明な言動をしたりすることもあります(夜間せん妄)。昼夜逆転が見られる場合もあります。夜間も安全確保や、排泄のための声かけ・介助が必要になることがあります。

この状態の方は、夜間の介護負担が大きくなるため、家族だけでの対応が難しくなることがあります。夜間対応型の訪問介護サービスや、夜間も職員が常駐しているグループホームや有料老人ホームなどの施設サービスを検討することが必要になるかもしれません。

ランクIII:日常生活に支障があり、介護が必要

ランクIIIになると、食事、着替え、排泄、入浴といった、日常生活を送る上で最も基本的な動作(ADL)にも支障が現れ、部分的にまたは全体的に介護者の手助け(介助)が必要な状態です。

ご自身で服を選ぶことや着替えることが難しくなり、着替えの手順を全て介助する必要が出てきます。トイレの場所が分からなくなったり、失敗が増えたりし、排泄の介助が必要になります。食事も、声かけや見守りだけでは難しくなり、食べ物を用意したり、口に運んだりする手助けが必要になることがあります。また、意思疎通がさらに困難になり、ご本人のニーズを把握したり、何かを伝えたりすることが難しくなります。介護拒否や妄想、幻覚などのBPSDも頻繁に出現しやすく、介護者の精神的・肉体的負担が非常に大きくなる段階です。

このランクでは、ご本人に必要な介助を安全かつ適切に行うために、専門的な介護サービスが不可欠になります。

ランクIIIa:日中を中心に介護が必要

ランクIIIaは、日中の活動時間帯に集中的な介護が必要な状態です。

例えば、日中の着替えや排泄、入浴などで、かなりの介助が必要になります。食事も、日中は見守りや声かけに加えて、一部介助が必要になることが多いです。日中の活動時間帯にBPSDが出現しやすく、その対応にも人手が必要になります。夜間は比較的落ち着いて眠れることが多いですが、夜間の排泄などで介助が必要になる場合もあります。

日中に手厚い介護が必要なため、デイサービスや訪問介護サービスを組み合わせて利用したり、日中のみ利用できるショートステイなどを活用することで、ご本人に必要なケアを提供しつつ、家族の負担を軽減することが検討されます。

ランクIIIb:夜間も介護が必要

ランクIIIbは、日中だけでなく、夜間にも介護が必要な状態です。

例えば、夜間も頻繁に排泄介助が必要だったり、体位変換が必要だったりします。夜中に目が覚めてしまい、不穏になったり、徘徊したりすることもあり、その都度対応が必要になります。昼夜のリズムが崩れて、夜間に覚醒している時間が長くなることもあります。夜間も継続的な見守りや介護が必要となるため、家族だけでの対応は非常に困難になります。

この状態の方は、夜間も介護職員が常駐している介護施設(グループホーム、有料老人ホームなど)や、医療機関でのケアが中心となることが多いです。夜間対応型の訪問介護や、頻繁なショートステイなども活用し、家族の介護負担を軽減するための支援が強く求められます。

ランクIV:重度の認知症で、常に介護が必要

ランクIVは、認知症がかなり進行し、日常生活のほぼ全ての場面で常時介護が必要な重度の状態です。

ご自身で立つことや歩くことが難しくなり、寝たきりに近い状態になることもあります。食事、着替え、排泄、入浴といったADL全般にわたって、全面的に介助が必要です。意思疎通は極めて困難になり、言葉で自分の状態やニーズを伝えることはほとんどありません。表情やわずかな体の動きなどから、ご本人の状態を読み取る必要があります。BPSDも頻繁に出現し、その対応には専門的な知識や技術が必要となる場合が多いです。誤嚥性肺炎や褥瘡(床ずれ)などの合併症のリスクも高まります。

このランクでは、ご本人の安全と健康を維持するために、常時、専門的な知識を持った介護者によるケアが不可欠となります。自宅での介護は非常に困難になるため、特別養護老人ホームや介護老人保健施設、医療機関など、専門施設での介護が中心となります。

ランクV:末期認知症で、終日寝たきりなど

ランクVは、認知症の最終段階であり、重度の身体的な衰弱も伴い、終日寝たきりの状態となるなど、生命維持にも支障が生じる段階です。

ご自身で体を動かすことはほとんどできず、食事も経管栄養や点滴が必要になることがあります。意識レベルが低下し、外部からの刺激への反応も乏しくなります。呼吸や循環機能の低下など、身体的な機能も著しく衰弱します。この段階は、終末期ケアの対象となることが多く、ご本人の安楽を最優先にしたケアが提供されます。

このランクの方には、医療機関や看取り体制のある介護施設などで、多職種連携による専門的で包括的なケアが提供されます。ご本人だけでなく、ご家族への精神的なサポートも非常に重要になります。

これらのランクは、認知症の進行度合いを示す一つの目安ですが、症状の現れ方や進行のスピードは個人によって大きく異なります。大切なのは、それぞれの段階でご本人とご家族が必要とする支援を理解し、適切なサービスに繋げることです。

認知症高齢者の日常生活自立度は誰が決める?判定方法・流れ

認知症高齢者の日常生活自立度は、自己申告や家族の判断だけで決まるものではありません。公的な手続きを経て、専門家によって判定されます。主に介護保険サービスの利用申請を行った際に、要介護認定のプロセスの中で判定が行われます。

判定はどのように行われる?

自立度の判定は、主に以下の2つの情報に基づいて行われます。

  • 主治医意見書: 申請者の心身の状態について、主治医が医学的な見地から作成する書類です。診断名、症状、既往歴、日常生活における注意点などが記載されます。
  • 認定調査: 市町村の認定調査員(または委託を受けた事業者の調査員)が申請者のご自宅などを訪問し、ご本人やご家族から聞き取りを行い、心身の状態や日常生活の状況を把握します。全国共通の調査項目があり、認知症の症状や行動に関する項目も含まれます。

これらの情報が集約され、介護認定審査会で審査が行われます。介護認定審査会は、保健・医療・福祉に関する専門家(医師、歯科医師、薬剤師、保健師、看護師、准看護師、理学療法士、作業療法士、社会福祉士、介護福祉士、精神保健福祉士、ケアマネージャーなど)で構成され、主治医意見書と認定調査の結果に基づき、総合的に審査判定を行います。この審査判定の中で、「認知症高齢者の日常生活自立度」と「障害高齢者の日常生活自立度(寝たきり度)」、そして「要介護度」が判定されます。

判定の流れとしては、以下のようになります。

  • 申請: 市町村の窓口で介護保険サービスの利用を申請します。
  • 認定調査: 市町村の担当者から連絡があり、認定調査員が訪問する日時を調整します。認定調査員がご自宅などを訪問し、ご本人やご家族に聞き取りを行います。
  • 主治医意見書作成: 市町村から主治医に意見書の作成が依頼されます。
  • 一次判定: 認定調査のデータと主治医意見書の一部をコンピューターに入力し、一次判定が行われます。
  • 二次判定(介護認定審査会): 認定調査の特記事項、主治医意見書全体、一次判定の結果などを基に、介護認定審査会で専門家が審査し、最終的な要介護度や自立度などが判定されます。
  • 結果通知: 判定結果が市町村から申請者へ通知されます。

このように、認知症高齢者の日常生活自立度は、医師の専門的な見地と、日常生活の具体的な状況を捉えた認定調査の結果に基づき、複数の専門家による審査を経て判定される、信頼性の高い指標と言えます。

主治医意見書と認定調査

自立度判定において、主治医意見書と認定調査はそれぞれ異なる重要な役割を果たします。

主治医意見書は、医師が医学的な視点からご本人の状態を詳細に記述するものです。
– 診断名(認知症の種類など)や病歴、合併症について記載されます。
– 認知症の症状(記憶障害、見当識障害、理解力・判断力の低下など)の程度や、行動・心理症状(BPSD:妄想、幻覚、徘徊、不穏など)の具体的な様子について、医学的な知見に基づいて記述されます。
– 日常生活における医学的な管理上の注意点(例:服薬管理、食事の制限、体位変換の必要性など)も記載されます。
– この意見書は、病気の進行度や医学的なリスクを評価する上で不可欠な情報源となります。

認定調査は、認定調査員が生活の場を訪問し、ご本人の実際の生活状況や心身の状態を客観的に把握するためのものです。
– 身体機能(起き上がり、歩行など)、生活機能(食事、排泄、入浴、着替えなど)、認知機能(場所・時間の理解、意思疎通など)、精神・行動障害(徘徊、落ち着きのなさ、妄想など)、社会生活への適応(金銭管理、買い物、集団への参加など)など、多岐にわたる項目について聞き取りや観察を行います。
– 特に、認知症の症状が実際の日常生活でどのように現れているか、どのような困りごとがあるかに重点が置かれます。例えば、「一人で外に出ると帰り道が分からなくなるか」「夜間に落ち着きがなくなることがあるか」「薬の管理ができているか」など、具体的な行動について確認されます。
– 認定調査員の視点から見たご本人の全体像や、家族からの聞き取り内容なども特記事項として記載されます。

主治医意見書が医学的な「診断」や「状態」を主に示すのに対し、認定調査は「実際の生活での影響」や「必要な支援」を具体的に把握する役割を担います。この二つが組み合わされることで、ご本人の状態が多角的に評価され、適切な自立度判定に繋がるのです。

日常生活自立度はどのように活用される?

認知症高齢者の日常生活自立度判定は、単にランク分けされるだけでなく、その後のご本人やご家族の生活、特に介護保険サービスを利用する上で非常に重要な意味を持ちます。

介護保険サービスの利用

最も直接的な活用方法は、介護保険サービスの利用です。

要介護認定を受けると、ご本人の状態に応じた「要介護度」(要支援1・2、要介護1~5)が判定されます。この要介護度によって、利用できる介護サービスの量や種類、支給される介護保険の上限額(区分支給限度額)が決まります。

そして、この要介護度を判定する際に、「認知症高齢者の日常生活自立度」と「障害高齢者の日常生活自立度」が、コンピューターによる一次判定や、介護認定審査会での二次判定において、重要な判断材料の一つとして用いられます。

例えば、認知症高齢者の日常生活自立度が高いランク(III, IV, V)である場合、認知症による影響が大きく、より多くの介護が必要であると判断され、要介護度も重くなる傾向があります。要介護度が重くなれば、訪問介護、通所介護(デイサービス)、短期入所生活介護(ショートステイ)、特別養護老人ホームへの入所など、様々なサービスをより多く利用できるようになります。

逆に、自立度が低いランク(M, I, II)である場合は、比較的自立した生活を送れていると判断され、要介護度は軽くなるか、あるいは要支援となる可能性があります。その場合、利用できるサービスの量や種類に制限が出てくることもあります。

このように、自立度判定は、ご本人がどのような状態にあり、どの程度の介護が必要なのかを客観的に示し、それを基に必要な介護サービスへ円滑に繋げるための入り口となるのです。

ケアプラン作成

自立度判定は、介護保険サービスを利用するために必須となるケアプラン作成においても重要な役割を果たします。

ケアプランとは、ご本人がどのような生活を送りたいか、どのような目標を達成したいかを踏まえ、それに向けてどのような介護サービスを、いつ、どの事業所から利用するかを具体的に計画したものです。これは、ケアマネージャーがご本人やご家族と相談しながら作成します。

ケアマネージャーは、ケアプランを作成する際に、ご本人の要介護度、そしてこの認知症高齢者の日常生活自立度や障害高齢者の日常生活自立度といった、認定調査や主治医意見書から得られる様々な情報を参照します。

  • 自立度が高い場合(M, I, II): まだご自身でできることが多いため、残存能力を維持・向上させるためのサービス(リハビリテーション、趣味活動への参加など)や、見守り、声かけを中心とした支援がケアプランに盛り込まれることが多いでしょう。例えば、ランクIで家庭外でのみ支障がある方なら、一人での外出を減らし、買い物を家族と一緒に行く、デイサービスで他者と交流する、といった計画になります。ランクIIaで日中見守りが必要な方なら、日中のデイサービス利用や訪問介護での安否確認などが検討されます。
  • 自立度が低い場合(III, IV, V): 日常生活動作(ADL)の介助が中心となるため、訪問介護での身体介護(食事介助、排泄介助、入浴介助など)が重点的に計画されます。また、行動・心理症状(BPSD)への対応や、合併症予防のための医療連携などもケアプランの重要な要素となります。例えば、ランクIIIbで夜間も介護が必要な方なら、夜間対応型訪問介護やショートステイの頻回利用、あるいは施設入所などがケアプランの選択肢となります。

このように、自立度判定は、ご本人の現在の状態を理解し、それに基づいて最も適切で効果的な介護サービスを組み合わせてケアプランを作成するための基礎情報となります。ご本人に必要な支援を漏れなく計画し、QOL(生活の質)を維持・向上させるために欠かせない情報と言えるでしょう。

障害高齢者の日常生活自立度との違い

高齢者の自立度を示す公的な指標には、「認知症高齢者の日常生活自立度」と「障害高齢者の日常生活自立度」の二つがあります。名前が似ているため混同されやすいですが、評価の視点や対象とする能力が異なります。

それぞれの違いを比較して理解しましょう。

比較項目 認知症高齢者の日常生活自立度 障害高齢者の日常生活自立度(寝たきり度)
主な評価対象 認知症による症状や行動・心理症状(BPSD)が、日常生活に与える影響 身体的な機能障害(麻痺、関節拘縮など)や衰弱が、日常生活に与える影響
評価の視点 認知機能、精神・行動障害の程度、それらに伴う生活上の支障 寝たきりの程度、起居動作、移動能力、排泄などの身体機能の自立度
着目する行動 徘徊、不潔行為、異食、収集癖、破壊行為、不穏、幻覚、妄想、昼夜逆転など、認知症に特徴的な行動や心理状態 寝返り、起き上がり、座位保持、立ち上がり、歩行、車椅子操作、トイレ動作など、身体機能に関わる動作
ランク分類 ランクM、I、II(a/b)、III(a/b)、IV、V ランクJ(自立)、A(準寝たきり)、B(寝たきり)
ランクの内訳例 ランクI: 家庭外では支障あり
ランクIII: 日常生活に介護が必要
ランクJ: 自分で起き上がり、歩ける
ランクB: 一日中ベッド上で過ごす

端的に言うと、「認知症高齢者の日常生活自立度」は「認知症の症状によって、生活がどのくらい難しくなっているか」を評価する指標であり、「障害高齢者の日常生活自立度」は「体の動きが悪くなったことで、生活がどのくらい難しくなっているか」を評価する指標です。

例えば、身体的には杖を使って一人で歩けるけれど、認知症が進んで時間や場所が分からなくなり、一人で外出すると道に迷ってしまう方の場合、「障害高齢者の日常生活自立度」は低ランク(Jなど)でも、「認知症高齢者の日常生活自立度」は高ランク(IやIIなど)になる可能性があります。

逆に、認知症の症状は軽度で、見当識もしっかりしているけれど、脳卒中の後遺症で体の麻痺があり、自分で立つことや歩くことが難しい方の場合、「認知症高齢者の日常生活自立度」は低ランク(MやIなど)でも、「障害高齢者の日常生活自立度」は高ランク(AやBなど)になる可能性があります。

介護保険における要介護認定では、この二つの自立度を両方とも評価し、その他の項目(例えば、介護の手間、医療的なケアの必要性など)と合わせて、総合的に判断して要介護度を判定します。これにより、認知症だけでなく、身体的な状態も含めたその方の全体像を把握し、より的確な介護サービスを提供できるようにしているのです。

したがって、認知症のある高齢者の状態を理解する際には、認知症による影響(認知症高齢者の日常生活自立度)と、身体的な状態による影響(障害高齢者の日常生活自立度)の両方の視点から捉えることが大切です。

まとめ

「認知症高齢者の日常生活自立度」は、認知症の進行に伴う生活上の支障の度合いを客観的に示す、厚生労働省が定めた重要な指標です。ランクMからVまでの段階があり、ランクが上がるほど認知症による影響が大きく、必要な介護や見守りの度合いが増すことを示しています。

この自立度は、主に介護保険サービスを申請した際に、主治医意見書と認定調査の結果に基づき、介護認定審査会によって判定されます。判定された自立度は、介護保険における「要介護度」を決定する際の重要な判断材料の一つとなり、要介護度に基づいて利用できる介護サービスの量や種類が決まります。さらに、ケアマネージャーが個別のニーズに合わせた「ケアプラン」を作成する上でも、ご本人の状態を理解するための基礎情報として活用されます。

身体的な状態を示す「障害高齢者の日常生活自立度(寝たきり度)」とは評価の視点が異なり、認知症による認知機能の低下や行動・心理症状(BPSD)が日常生活に与える影響に着目しています。

認知症高齢者の日常生活自立度を理解することは、ご家族がどのような状態にあるのかを把握し、必要な介護や支援について具体的に考えるための第一歩となります。適切な介護サービスを利用することで、ご本人の安全・安心な生活を確保し、介護者の負担を軽減することにもつながります。

もし、ご家族の認知症についてご心配な点がある場合や、介護保険サービスの利用を検討されている場合は、お住まいの市町村の介護保険窓口や地域包括支援センターに相談してみましょう。専門家が、ご本人の状態に合わせた適切な支援についてアドバイスしてくれます。

免責事項: 本記事は、認知症高齢者の日常生活自立度について一般的な情報を提供することを目的としています。個々の状況や症状は異なります。具体的な診断、治療、介護については、必ず医療機関や介護の専門家にご相談ください。記事の内容は、必ずしも最新の情報を網羅しているものではありません。制度や基準は変更される可能性がありますので、最新の情報は厚生労働省やお住まいの自治体などの公的機関をご確認ください。

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