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不眠症は何科?内科・心療内科など原因別の病院選び

不眠症は、多くの人が経験するつらい症状です。「夜なかなか眠れない」「眠ってもすぐに目が覚めてしまう」「朝早く起きてしまう」といった状態が続き、日中の眠気やだるさ、集中力の低下などを引き起こします。
不眠が続くと、心身の健康に様々な悪影響を及ぼす可能性があります。
しかし、「不眠症で病院に行きたいけれど、何科を受診すれば良いのだろう?」と迷ってしまう方も少なくありません。
不眠の原因は多岐にわたるため、適切な診療科を選ぶことが、早期回復への第一歩となります。
この記事では、不眠症の症状や原因に応じた最適な診療科の選び方、病院を受診する目安、診断や治療法について詳しく解説します。
不眠に悩むあなたが、ご自身の状況に合った医療機関を見つけ、質の高い睡眠を取り戻すための助けになれば幸いです。

不眠症は何科に行けばいい?適切な病院・診療科の選び方

不眠症は、単なる睡眠不足とは異なり、睡眠に関する様々な問題が慢性的に続く状態を指します。
原因は一つではなく、身体の病気、精神的な問題、服用している薬、生活習慣、睡眠環境など、多岐にわたります。
そのため、どこに相談すれば良いか迷ってしまうのは当然のことです。

適切な診療科を選ぶことは、不眠の原因を正確に特定し、効果的な治療を受けるために非常に重要です。
例えば、身体の病気が原因であるにも関わらず精神的な問題としてアプローチしたり、専門的な検査が必要な重度の睡眠障害であるにも関わらず一般的な治療で済ませてしまったりすると、改善に時間がかかったり、症状が悪化したりする可能性もあります。

不眠症を診てもらえる診療科としては、主に「内科」「心療内科・精神科」「睡眠外来」などが挙げられます。
それぞれの診療科には得意分野があり、どのような症状や状況でどの科を選ぶべきかを知っておくと、スムーズに受診を進めることができるでしょう。

目次

不眠症で病院に行くべきか迷ったら、まずはここを検討

不眠が続くと、「すぐにでも専門の大きな病院に行った方が良いのか」「まずは近所のクリニックで良いのか」など、受診の最初のステップで悩む方が多いです。
まずは、どのような選択肢があり、それぞれの特徴はどうなっているのかを理解しましょう。

かかりつけの内科に相談するメリット

不眠症で最初に「どこに相談しよう?」と思ったとき、まず候補に挙がるのが、普段から利用しているかかりつけの内科クリニックです。

かかりつけ医に相談する最大のメリットは、自身の全体的な健康状態や既往歴、服用中の薬などを医師が把握している点です。
不眠は、風邪やアレルギー症状、消化器系の不調、心臓病、呼吸器疾患(睡眠時無呼吸症候群など)といった身体的な病気のサインとして現れることもあります。
また、現在服用している薬の副作用が原因で不眠になっている可能性も考えられます。

かかりつけの内科医であれば、これらの全身状態や薬の情報を踏まえて不眠の原因を探ってくれます。
問診を通じて、不眠のパターンや他の症状の有無を確認し、必要であれば血液検査やその他の検査を行って、不眠の背後にある身体的な病気を見つけ出そうとしてくれるでしょう。

また、精神的なストレスが不眠の原因として疑われる場合でも、まずはかかりつけ医に相談することで、適切な専門医(心療内科や精神科)への紹介状を書いてもらうことができます。

さらに、日頃から信頼関係のある医師に相談できる安心感も大きなメリットです。
不眠の悩みを気軽に打ち明けやすく、精神的な負担も少ないかもしれません。

ただし、かかりつけの内科医がすべての不眠症に精通しているわけではありません。
特に、睡眠障害全般に関する専門的な知識や検査設備が限られている場合もあります。
もし、問診や一般的な検査でも原因が特定できない場合や、より専門的な治療が必要と判断された場合は、睡眠外来などへの紹介を検討してくれるでしょう。

ストレスや心の不調が原因なら心療内科・精神科

不眠の原因が、仕事や人間関係などのストレス、不安、抑うつといった精神的な問題であると自覚している場合や、その他の精神症状(気分の落ち込み、意欲の低下、不安感の増強など)を伴っている場合は、心療内科や精神科が適しています。

心療内科は、心身症、つまり精神的な要因が身体の症状として現れる病気を主に扱います。
不眠症は、ストレスや心理的な葛藤が自律神経のバランスを乱し、睡眠に影響を与える代表的な心身症の一つと考えられます。
心療内科では、不眠という症状だけでなく、その背後にある心理的な問題やストレスの原因を探り、心理療法(カウンセリングなど)や必要に応じて抗不安薬や抗うつ薬などの薬物療法を組み合わせて治療を行います。

一方、精神科は、うつ病、統合失調症、パニック障害などの精神疾患全般を扱います。
重度のうつ病や不安障害では、不眠が主要な症状として現れることが非常に多いです。
精神科では、不眠を精神疾患の一症状として捉え、疾患全体の治療を通じて不眠の改善を目指します。
精神療法や、疾患に応じた適切な薬物療法(抗うつ薬、抗精神病薬など)が中心となります。

不眠の悩みに加え、気分の落ち込みが激しい、不安が強い、以前は楽しめていたことが楽しめないなど、精神的な症状を強く感じている場合は、心療内科や精神科への受診を検討しましょう。

心療内科と精神科、どちらを選ぶ?

心療内科と精神科のどちらを選ぶか迷う場合もあるかもしれません。
大まかに言えば、以下のような基準で考えると良いでしょう。

  • 心療内科: ストレスが原因で身体の症状(不眠、胃痛、動悸など)が現れていると感じる場合や、比較的軽度の精神症状(軽い不安、イライラなど)を伴う不眠。
  • 精神科: 気分の落ち込みが強く、何もする気が起きない、幻覚や妄想があるなど、精神症状がより顕著で、精神疾患の可能性が高い場合。

しかし、明確に区別できないケースも多いため、まずはどちらかの医療機関を受診し、医師に相談するのが最も確実です。
多くの心療内科では精神科的な疾患も扱いますし、精神科でも心身症に対応している場合があります。
初診時に症状を詳しく伝えれば、医師が適切な診断と治療方針を示してくれるでしょう。
どちらの科を受診しても、不眠の悩みについて専門的な視点から向き合ってもらえます。

専門的な診断・治療が必要なら睡眠外来

不眠症の原因が特定しにくい場合や、一般的な治療では改善が見られない場合、あるいは睡眠時無呼吸症候群やむずむず脚症候群といった、不眠症以外の専門的な睡眠障害が疑われる場合は、「睡眠外来」や「睡眠センター」の受診が最適です。

睡眠外来は、不眠症だけでなく、過眠症(日中の強い眠気)、睡眠時無呼吸症候群(寝ている間に呼吸が止まる)、むずむず脚症候群(寝る前に足に不快な感覚があり眠れない)、レム睡眠行動障害(夢の内容に合わせて体が動いてしまう)など、様々な睡眠障害を専門的に診断・治療する医療機関です。

睡眠外来の医師は、睡眠医学に関する深い知識を持っています。
また、多くの睡眠外来には、専門的な検査を行うための設備が整っています。
代表的な検査としては、睡眠ポリグラフ検査(PSG)があります。
これは、脳波、眼球運動、筋電図、心電図、呼吸、血液中の酸素濃度などを一晩かけて記録し、睡眠の質や異常を詳細に解析する検査です。
この検査によって、不眠の原因が睡眠時無呼吸症候群などの身体的な睡眠障害によるものなのか、それとも別の原因なのかを客観的に判断することができます。

睡眠外来のメリットは、専門家による正確な診断と、最新の知見に基づいた多様な治療法が受けられることです。
薬物療法だけでなく、CPAP療法(睡眠時無呼吸症候群に対する治療)、光療法、認知行動療法(CBT-I)など、症状や原因に応じた最適な治療法を提案してくれます。

ただし、睡眠外来は比較的大きな病院に設置されていることが多く、予約が取りにくかったり、遠方まで通院する必要があったりする場合があります。
また、専門的な検査は時間と費用がかかる場合もあります。

【診療科ごとの特徴比較】

診療科 主な対象者・得意分野 不眠との関連 メリット デメリット
内科 内科疾患全般、日常的な体調不良、かかりつけ医 身体疾患(風邪、喘息、心疾患など)や服用中の薬の副作用による不眠 既存の病歴や服薬状況を踏まえた診断・治療が可能、相談しやすい 専門的な睡眠障害の診断・治療には限界がある場合がある
心療内科 ストレスや心理的な要因が身体症状として現れる心身症(過敏性腸症候群、緊張性頭痛など) ストレス、不安、軽度の抑うつなど心理的な要因による不眠 心身両面からのアプローチ、心理療法と薬物療法を組み合わせた治療 精神科的な疾患の診断・治療には専門性が必要な場合がある
精神科 うつ病、統合失調症、不安障害などの精神疾患全般 精神疾患(うつ病、不安障害など)に伴う不眠 精神疾患の専門的な診断・治療が可能、疾患全体の治療を通じて不眠改善を目指す 精神的な問題に特化しているため、身体的な原因を見落とす可能性もゼロではない
睡眠外来 不眠症を含むあらゆる睡眠障害(過眠症、睡眠時無呼吸症候群、むずむず脚症候群など) 不眠症全般、特に原因特定が難しいケースや、専門的な検査・治療が必要な睡眠障害 睡眠医学の専門家による正確な診断、PSGなどの専門検査が可能、多様な治療法(薬物療法、CPAP、CBT-Iなど) 数が少ない、予約が取りにくい、検査に時間と費用がかかる場合がある、通院が必要な場合がある

ご自身の不眠の症状や、他の症状(体の痛み、気分の落ち込みなど)の有無、ストレスの状況などを考慮して、適切な診療科を選ぶ参考にしてください。
迷う場合は、まずはかかりつけの内科医に相談し、必要に応じて専門医を紹介してもらうのも良い方法です。

不眠症の原因別|あなたに最適な診療科の選び方

不眠症の原因は非常に多様であり、その原因によって最適な受診先が異なります。
ここでは、不眠を引き起こす主な原因を分類し、それぞれの原因が疑われる場合にどの診療科を受診すべきかを判断するためのフローを示します。

不眠を引き起こす様々な原因

不眠の原因は、大きく分けて以下の5つに分類されます。

  1. 精神生理性不眠:
    不眠に対する過度の不安や恐怖、眠ろうとすることへのこだわりが強くなり、かえって目が覚めてしまうタイプの不眠。
    ベッドに入ると緊張してしまい、眠れなくなる。
    心理的な要因が強く影響しています。
  2. 精神疾患による不眠:
    うつ病、不安障害、パニック障害、適応障害などの精神疾患に伴う不眠。
    精神疾患の治療が不眠の改善に不可欠です。
  3. 身体疾患による不眠:
    痛みやかゆみを伴う疾患(関節炎、皮膚疾患など)、呼吸器疾患(喘息、慢性閉塞性肺疾患など)、心臓病、腎臓病、神経疾患(パーキンソン病など)、内分泌疾患(甲状腺機能亢進症など)、前立腺肥大による頻尿など、様々な身体の病気が原因で不眠が引き起こされることがあります。
    原疾患の治療が重要です。
  4. 薬剤や物質による不眠:
    特定の薬(ステロイド、気管支拡張薬、降圧剤の一部、抗がん剤など)の副作用。
    アルコール、カフェイン、ニコチンの摂取。
    覚せい剤などの違法薬物。
    これらの摂取や使用が原因で不眠が生じます。
  5. 睡眠習慣や環境による不眠:
    交代勤務や夜勤による体内時計の乱れ。
    寝る直前のカフェインやアルコール摂取、喫煙。
    寝る直前のスマホやPCの使用(ブルーライトの影響)。
    寝室の騒音、明るさ、温度、湿度。
    昼寝のしすぎ。
    運動不足や運動のタイミングの不適切さ。
    生活習慣や睡眠環境に問題がある場合に生じます。
  6. 他の睡眠障害による不眠:
    睡眠時無呼吸症候群: 寝ている間に繰り返し呼吸が止まり、体が酸素不足になるのを回避するために覚醒を繰り返すため、熟眠感が得られず、不眠として自覚されることがあります。
    むずむず脚症候群・周期性四肢運動障害: 寝ようとすると脚などに不快な感覚が生じたり、寝ている間に無意識に手足が動いたりすることで、入眠困難や中途覚醒を引き起こします。
    概日リズム睡眠障害: 体内時計が乱れ、寝たい時間に眠れず、起きたい時間に起きられない状態(例:睡眠相後退症候群 – 夜型になる)。
    これらの専門的な睡眠障害が不眠の原因となっている場合があります。

不眠の原因に応じた診療科の選び方判断フロー

ご自身の不眠の原因がどこにあるかによって、最適な受診先が異なります。
以下のフローは、どの診療科を受診すべきかを判断するのに役立ちます(あくまで一般的な目安であり、最終的な判断は医師にご相談ください)。

  1. まず、不眠以外の身体症状はありますか?(痛み、かゆみ、息苦しさ、動悸、頻尿など)
    はい: これらの身体症状の原因となっている病気が不眠を引き起こしている可能性があります。
    まずはかかりつけの内科を受診しましょう。
    いいえ: 次に進んでください。
  2. 不眠に加えて、気分の落ち込み、強い不安、イライラ、何もやる気が起きないなどの精神的な症状はありますか?または強いストレスを感じていますか?
    はい: ストレスや精神的な問題が不眠の原因となっている可能性が高いです。
    心療内科または精神科を受診しましょう。
    いいえ: 次に進んでください。
  3. 現在、何か特定の薬を服用していますか?またはカフェイン、アルコール、タバコなどの摂取が多いですか?
    はい: 服用中の薬の副作用や、嗜好品の摂取が不眠の原因となっている可能性があります。
    まずはかかりつけの内科医や処方医に相談しましょう。
    薬が原因である場合は、薬の調整や変更で改善する可能性があります。
    いいえ: 次に進んでください。
  4. 不規則な生活リズム(夜勤など)、寝室環境の問題(騒音、明るさ)、寝る前の習慣(スマホ、カフェインなど)に思い当たる節はありますか?
    はい: 生活習慣や睡眠環境が不眠の原因となっている可能性が高いです。
    まずは、ご自身で生活習慣の改善(睡眠衛生)を試みることも有効ですが、改善が見られない場合や、より専門的なアドバイスが欲しい場合は、かかりつけの内科睡眠外来に相談して、睡眠衛生指導を受けるのも良いでしょう。
    いいえ: 次に進んでください。
  5. いびきがひどい、寝ている間に呼吸が止まっていると家族に言われたことがある、寝る前に足がむずむずする、寝言や寝ぼけが激しいなど、不眠以外の異常な睡眠行動がありますか?
    はい: 睡眠時無呼吸症候群やむずむず脚症候群など、専門的な睡眠障害が疑われます。
    睡眠外来を強くおすすめします。
    いいえ: 上記のいずれにも当てはまらない場合や、原因がよく分からない場合でも、不眠が続いているのであれば専門家に相談することが重要です。
    まずはかかりつけの内科に相談するか、あるいは初めから睡眠外来を受診することも検討しましょう。
    心理的な要因も否定できない場合は、心療内科や精神科も選択肢に入ります。

【不眠の原因別 受診先の目安】

原因カテゴリ 主な原因例 優先的に検討したい診療科
精神生理性不眠 不眠への不安、眠りへのこだわり 心療内科、精神科、睡眠外来
精神疾患による不眠 うつ病、不安障害、パニック障害 精神科、心療内科
身体疾患による不眠 痛み、かゆみ、呼吸器疾患、心臓病、頻尿、神経疾患、内分泌疾患など かかりつけの内科、原因疾患の専門医
薬剤や物質による不眠 薬の副作用、カフェイン、アルコール、ニコチン かかりつけの内科、処方医、睡眠外来
睡眠習慣や環境による不眠 不規則な生活、寝室環境、寝る前の習慣 かかりつけの内科、睡眠外来(睡眠衛生指導)
他の睡眠障害による不眠 睡眠時無呼吸症候群、むずむず脚症候群、周期性四肢運動障害、概日リズム睡眠障害 睡眠外来
原因不明または複合的な原因 上記に当てはまらない、複数の原因が考えられる かかりつけの内科、心療内科、精神科、睡眠外来(特に睡眠外来)

このフローや表は、あくまで一般的な目安です。
最も重要なのは、一人で悩まずに専門家に相談することです。
症状や状況を詳しく医師に伝えれば、適切な診断と治療への道が開けるでしょう。

病院を受診する目安は?不眠がどのくらい続いたら行くべき?

「ちょっと寝つきが悪いだけ」「たまに夜中に目が覚めるだけ」というレベルであれば、一時的な不眠かもしれません。
しかし、不眠がある程度続いたり、日常生活に影響が出始めたりした場合は、専門家への相談を検討すべきタイミングです。
具体的にどのくらい不眠が続いたら病院に行くべきなのでしょうか?

どのくらいの期間不眠が続いているか

一般的に、不眠症は、「週に3日以上」不眠の症状があり、それが「1ヶ月以上」続いている場合に診断されることが多いです。
この目安は、あくまで診断上の基準であり、この期間が経過しなければ受診してはいけないという意味ではありません。

たとえ1ヶ月経っていなくても、不眠によって日中の活動に支障が出ているのであれば、早めに相談することをおすすめします。
例えば、不眠が始まって2週間でも、仕事中に強い眠気に襲われたり、集中力が著しく低下したりしている場合は、すでに生活の質が損なわれている状態です。

【受診を検討する期間の目安】

  • 1~2週間の一時的な不眠: 原因が明確(例:旅行、大きなイベントの前など)で、かつ日中の活動に大きな支障がない場合は、様子を見ても良い場合があります。
    しかし、不安が強い場合は相談しても構いません。
  • 数週間~1ヶ月の不眠: 原因がはっきりしない、または対処しても改善しない場合。
    日中の眠気や倦怠感を感じ始めた場合。
    このあたりから受診を検討する人が増えてきます。
  • 1ヶ月以上続く慢性的な不眠: 不眠症と診断される可能性が高まります。
    この状態が続くと、心身の健康への影響が大きくなるため、必ず専門家(内科、心療内科、精神科、睡眠外来など)に相談しましょう。

期間だけでなく、不眠によって日常生活にどの程度支障が出ているかも、受診を判断する上で非常に重要な要素となります。

不眠によって日常生活にどの程度支障が出ているか

不眠の定義には、「眠れないこと」自体に加えて、「不眠によって日中の機能に障害が生じていること」が含まれます。
たとえ夜眠れなくても、日中元気に活動できているのであれば、それは必ずしも治療が必要な「不眠症」ではないかもしれません。
逆に、夜眠れているつもりでも、日中の強い眠気や倦怠感、集中力の低下がある場合は、睡眠の質が低下している不眠症や、別の睡眠障害の可能性があります。

【日常生活への支障の例】

  • 日中の眠気: 会議中、授業中、運転中などに強い眠気を感じる。
  • 集中力・注意力の低下: 仕事や勉強に集中できない、ミスが増える。
  • 判断力・記憶力の低下: 物事を決められない、忘れっぽくなる。
  • 倦怠感・疲労感: 朝起きたときから疲れている、一日中だるい。
  • イライラ・気分の落ち込み: 不眠によるストレスで感情的になりやすい、憂鬱な気分が続く。
  • 身体症状: 頭痛、めまい、消化不良などを伴うことがある。
  • 人間関係への影響: イライラから周囲の人とぶつかることが増える。
  • 事故のリスク増加: 居眠り運転など、思わぬ事故につながる可能性がある。

これらのように、不眠によって日中のパフォーマンスが低下したり、心身の健康に悪影響が出たりしている場合は、不眠の期間に関わらず、できるだけ早く専門家に相談することをおすすめします。
不眠は放置すると悪循環に陥りやすく、治療が長引く可能性もあります。
早期に適切な診断と治療を受けることが、症状を改善し、生活の質を取り戻すための鍵となります。

「これくらいで病院に行くのは大げさかな?」とためらわず、まずは気軽に相談してみましょう。
不眠の悩みを専門家に話すだけでも、気持ちが楽になることがあります。

病院で行われる不眠症の診断と検査

不眠症で医療機関を受診すると、医師はまずあなたの睡眠に関する状況や全体的な健康状態を詳しく把握することから始めます。
診断は、主に問診と、必要に応じて睡眠日誌や専門的な検査を組み合わせて行われます。

医師による詳細な問診

不眠症の診断において、最も重要で基本的なステップが問診です。
医師は、あなたの不眠のパターン、症状の程度、期間、そして日常生活への影響について詳しく尋ねます。
具体的には、以下のような内容を質問されることが多いでしょう。

  • 不眠のタイプ: 寝つきが悪い(入眠困難)、夜中に何度も目が覚める(中途覚醒)、朝早く目が覚めてしまう(早朝覚醒)、眠った気がしない(熟眠障害)のうち、どのタイプに当てはまるか。
  • 不眠が始まった時期ときっかけ: いつ頃から不眠が始まったか。
    何か思い当たる原因(ストレス、生活の変化、病気など)はあったか。
  • 不眠の頻度と程度: 週に何日くらい眠れないか。
    どのくらい眠れないか。
  • 日中の症状: 不眠によって日中、どのような影響(眠気、だるさ、集中力低下、イライラなど)が出ているか。
  • 睡眠に関する習慣: 毎日寝る時間と起きる時間(平日・休日)、寝る前の過ごし方、昼寝の有無と時間、寝室環境(明るさ、音、温度)など。
  • 生活習慣: 食事、運動、喫煙、飲酒、カフェイン摂取の習慣と量。
  • 既往歴: これまでに罹った病気や手術、現在治療中の病気。
  • 服用中の薬: 処方薬、市販薬、サプリメントなど、現在飲んでいるすべての薬の名前と量。
  • 精神的な状況: ストレス、不安、気分の落ち込みなどの有無。
  • 家族の睡眠に関する問題: 家族に不眠症や睡眠時無呼吸症候群などの睡眠障害の人がいるか。

これらの質問を通じて、医師はあなたの不眠がどのようなタイプで、何が原因となっている可能性が高いのかを推測します。
正直に詳しく話すことが、正確な診断につながります。

睡眠状態を記録する睡眠日誌

問診に加えて、医師から「睡眠日誌」をつけるように指示されることがあります。
睡眠日誌は、自身の睡眠パターンを客観的に把握し、不眠の原因や改善点を見つけるのに非常に役立ちます。
通常、1~2週間程度、毎日記録します。

睡眠日誌には、以下のような項目を記録します。

  • ベッドに入った時間
  • 寝ようとした時間
  • 実際に眠りについたと感じる時間(入眠時間)
  • 夜中に目が覚めた回数とそれぞれの時間
  • 朝目が覚めた時間(最終覚醒時間)
  • ベッドから出た時間
  • 睡眠時間(推測で良い)
  • 昼寝をした時間と長さ
  • 寝る前に飲食したもの(特にカフェイン、アルコール)、喫煙の有無
  • 寝る前に服用した薬やサプリメント
  • その日の主な出来事やストレス
  • 日中の眠気の程度(段階評価など)
  • その日の体調や気分

睡眠日誌を医師と一緒に振り返ることで、自分では気づかなかった不眠のパターン(例:週末だけ夜更かしして朝寝坊する、特定の日に不眠が悪化するなど)や、生活習慣との関連性(例:コーヒーを飲んだ日は寝つきが悪いなど)が明らかになることがあります。
これは、原因の特定や、非薬物療法の一つである睡眠衛生指導を行う上で非常に重要な情報となります。

必要に応じて行われる専門的な検査(PSGなど)

問診や睡眠日誌だけでは原因が特定できない場合や、睡眠時無呼吸症候群などの特定の睡眠障害が強く疑われる場合は、より専門的な検査が行われます。
これらの検査は主に睡眠外来や大学病院の睡眠センターなど、専門の医療機関で行われます。

代表的な専門検査には以下のものがあります。

  • 睡眠ポリグラフ検査(PSG: Polysomnography):
    最も標準的な睡眠検査で、病院に一泊入院して行われます。
    脳波、眼球運動、筋電図、心電図、呼吸(鼻や口の気流、胸やお腹の動き)、血液中の酸素飽和度、体位、いびき音などを同時に記録します。
    これにより、睡眠の深さや構造(レム睡眠とノンレム睡眠)、睡眠中の覚醒、呼吸の異常(無呼吸や低呼吸)、周期性四肢運動、不整脈などを詳細に解析できます。
    不眠の原因が、睡眠時無呼吸症候群やむずむず脚症候群、レム睡眠行動障害といった身体的な睡眠障害によるものなのかを診断する上で非常に重要です。
  • 終夜睡眠ポリグラフ検査(簡易PSG):
    PSGよりも簡略化された検査で、自宅で装置をつけて行う場合が多いです。
    PSGほど多くの項目は記録できませんが、睡眠時無呼吸症候群のスクリーニングなどに用いられます。
  • 反復睡眠潜時検査(MSLT: Multiple Sleep Latency Test):
    日中の眠気の程度を客観的に評価する検査です。
    PSG検査の翌日に行われることが多く、日中に決められた時間に何度か横になってもらい、眠りにつくまでの時間(睡眠潜時)を測定します。
    入眠までの時間が短いほど、日中の眠気が強いと判断されます。
    ナルコレプシーなどの過眠症の診断に用いられます。
  • 覚醒維持検査(MWT: Maintenance of Wakefulness Test):
    日中、眠気を我慢して起きていられる能力を客観的に評価する検査です。
    MSLTと同様に日中に行われ、決められた時間に座った状態で、眠らないようにどれだけ長く起きていられるかを測定します。
    ナルコレプシーや特発性過眠症の治療効果判定などに用いられることがあります。
  • アクチグラフィ:
    腕時計型の装置を装着し、腕の動きから睡眠・覚醒のリズムを数日~数週間にわたって記録する検査です。
    睡眠時間や活動量、体内時計のリズムなどを簡易的に把握できます。
    睡眠日誌と組み合わせて用いられることが多いです。
    概日リズム睡眠障害の診断や、睡眠パターンの長期的な評価に有用です。

これらの専門的な検査は、すべての不眠症患者に行われるわけではありません。
問診や睡眠日誌の結果、医師の判断によって必要性が検討されます。
検査を受けることで、自身の睡眠状態を客観的に知り、より正確な診断と適切な治療法の選択につながります。

不眠症の主な治療方法

不眠症の治療は、その原因や重症度、患者さんの状況に合わせて tailor-made(個別化)して行われます。
主な治療法としては、薬物療法と非薬物療法があり、これらを単独で行ったり、組み合わせて行ったりします。

薬物療法による治療

薬物療法では、主に睡眠薬が用いられます。
睡眠薬と聞くと「癖になる」「やめられなくなる」といった不安を感じる方もいるかもしれませんが、最近では様々な種類の睡眠薬があり、医師の指示に従って適切に使用すれば、依存のリスクを抑えながら不眠症状を効果的に改善することが可能です。

睡眠薬は、その作用機序によっていくつかの種類に分けられます。

  • ベンゾジアゼピン系睡眠薬:
    脳のGABA受容体に作用し、神経活動を抑制することで鎮静・催眠作用をもたらします。
    比較的古くから使用されており、効果が高いものが多いですが、筋弛緩作用によるふらつきや転倒のリスク、翌日への持ち越し効果(眠気やだるさ)、依存性や離脱症状のリスクといった注意点があります。
    作用時間によって超短時間型、短時間型、中間型、長時間型があり、不眠のタイプ(入眠困難、中途覚醒など)によって使い分けられます。
  • 非ベンゾジアゼピン系睡眠薬:
    ベンゾジアゼピン系と同様にGABA受容体に作用しますが、より催眠作用に特化しており、筋弛緩作用などの副作用や依存性が比較的少ないとされています。
    「ゾルピデム」「エスゾピクロン」「ゾピクロン」などがあり、こちらも作用時間によって使い分けられます。
    不眠症治療において、第一選択薬とされることが多いです。
  • オレキシン受容体拮抗薬:
    脳内で覚醒を維持する神経伝達物質であるオレキシンという物質の働きをブロックすることで、自然な眠気を誘います。
    従来の睡眠薬とは異なる新しいタイプの薬で、依存性や翌日への持ち越し効果が少ないと期待されています。
    「スボレキサント」「レンボレキサント」などがあります。
  • メラトニン受容体作動薬:
    脳内で体内時計を調節するホルモンであるメラトニンの働きを補うことで、自然な眠りを促します。
    「ラメルテオン」などがあり、特に体内時計のリズムが乱れている場合(例:入眠困難)に効果が期待されます。
    依存性はほとんどないとされています。
  • 抗うつ薬(鎮静系抗うつ薬):
    抗うつ作用だけでなく、鎮静作用を持つタイプの抗うつ薬が、うつ病や不安障害に伴う不眠に対して使用されることがあります。
    精神疾患の治療と同時に不眠の改善も期待できます。
  • 抗ヒスタミン薬:
    アレルギー薬などに含まれる抗ヒスタミン成分の中には、眠気を引き起こす作用を持つものがあります。
    市販の睡眠改善薬に配合されていることが多いです。
    ただし、医療用睡眠薬とは異なり、あくまで一時的な使用を目的としており、効果が弱い場合や、口の渇き、ふらつきなどの副作用が出やすい場合があります。
    長期的な不眠症の治療には通常使用されません。

睡眠薬を使用する際は、必ず医師の処方に基づき、指示された量とタイミングを守って服用することが非常に重要です。
自己判断で量を増やしたり、中止したりすることは危険です。
医師は、患者さんの症状や状況を carefully に判断し、最適な種類の薬を最小限の量で処方し、漫然と継続せず、症状の改善に合わせて減量や中止を検討します。
不眠の原因となっている他の疾患がある場合は、そちらの治療を優先したり、並行して行ったりします。

薬を使わない非薬物療法(認知行動療法など)

不眠症の治療において、薬物療法と同じくらい、あるいはそれ以上に重要視されているのが非薬物療法です。
特に、慢性的な不眠症に対しては、薬物療法よりも先に非薬物療法を試みるべき、あるいは薬物療法と並行して行うべきという考え方が主流になってきています。

非薬物療法の目的は、睡眠を妨げるような考え方や行動パターンを修正し、自然な睡眠能力を取り戻すことです。
代表的な非薬物療法には以下のものがあります。

  • 認知行動療法 for Insomnia (CBT-I):
    慢性不眠症に対して、最も有効性が確立されている非薬物療法です。
    不眠に関する誤った考え方(例:「一晩全く眠れないと健康にひどく悪い」「眠れないのは自分のせいだ」といった不安やこだわり)や、不眠を助長する行動(例:ベッドの中で長時間過ごす、日中に過度に昼寝をする、寝る前に考え事をする)を修正することを目的とします。
    具体的には、睡眠衛生指導、刺激制御法(眠れないときはベッドから出る)、睡眠制限法(意図的に睡眠時間を制限し、眠る力を高める)、認知再構成法(不眠に関する否定的な考え方を修正する)、リラクゼーション法などを組み合わせて行われます。
    通常、専門の医療機関で trained されたカウンセラーや医師によって、数回~十数回のセッション形式で行われます。
    オンラインでのCBT-Iプログラムもあります。
    薬物療法と比較して、治療効果が持続しやすいというメリットがあります。
  • 睡眠衛生指導:
    睡眠に良い生活習慣や睡眠環境についてのアドバイスです。
    薬物療法や他の非薬物療法と組み合わせて、ほとんどの不眠症患者さんに対して行われます。
    具体的な内容については、後述の「不眠症の改善のために日常生活でできること」で詳しく解説します。
  • 刺激制御法:
    ベッドや寝室を「眠る場所」として脳に再学習させるための方法です。
    具体的には、「眠くなってからベッドに入る」「ベッドは眠るためだけに使用する(食事、読書、スマホ、テレビなどはベッドで行わない)」「眠れないときはベッドから出て、眠気を感じるまでリラックスして過ごし、眠気を感じたら再びベッドに戻る」「朝、決まった時間にベッドから出る」といったルールを実践します。
  • 睡眠制限法:
    不眠症患者さんは、実際には眠れていない時間も含めてベッドで過ごす時間が長くなりがちです。
    睡眠制限法では、睡眠日誌をもとに実際の睡眠時間を確認し、一時的にベッドで過ごす時間を意図的に制限します。
    これにより、睡眠欲求が高まり、睡眠効率(ベッドにいた時間のうち眠っていた時間の割合)を改善することを目指します。
    睡眠効率が改善したら、少しずつベッドで過ごす時間を延ばしていきます。
    医師の指導のもとで安全に行う必要があります。
  • リラクゼーション法:
    寝る前の心身の緊張を和らげ、リラックスして眠りに入りやすくするための方法です。
    筋弛緩法、腹式呼吸、瞑想、イメージ法などがあります。
  • 光療法:
    特定の時間帯に強い光を浴びることで、体内時計のリズムを調整する方法です。
    特に、概日リズム睡眠障害(例:夜型になってしまう睡眠相後退症候群)による不眠に有効な場合があります。

非薬物療法は、薬物療法のように即効性はありませんが、不眠の根本的な原因にアプローチし、自身の力で睡眠をコントロールできるようになることを目指す治療法です。
薬に頼りたくない、薬を減らしたいと考えている方にも適しています。
多くの専門家は、慢性不眠症に対してはCBT-Iを第一選択肢として推奨しています。

不眠症の治療では、薬物療法と非薬物療法を患者さんの状態に合わせて適切に組み合わせることが、最良の結果につながります。
例えば、一時的に睡眠薬で症状を和らげながら、並行してCBT-Iを行い、睡眠薬を gradually に減らしていくといった方法が取られます。
重要なのは、医師とよく相談し、ご自身の不眠の原因と治療方針について理解を深めることです。

不眠症の改善のために日常生活でできること

医療機関での治療と並行して、あるいは軽度の不眠の場合は、日常生活で睡眠衛生を意識することが不眠の改善に大きく役立ちます。
睡眠衛生とは、快適な睡眠を得るための健康的な習慣や環境のことです。

ここでは、不眠症の改善のために日常生活で実践できる具体的なポイントをいくつかご紹介します。

  • 規則正しい生活を心がける:
    毎日ほぼ同じ時間に寝て、同じ時間に起きる(平日・休日を問わず)。
    これは体内時計を整えるために最も重要です。
    特に、休日の朝寝坊は体内時計を遅らせてしまい、月曜日の朝起きるのがつらくなる「社会的ジェットラグ」を引き起こし、不眠を悪化させることがあります。
    三食を決まった時間に摂ることも、体内時計を整えるのに役立ちます。
    特に朝食は重要です。
  • 寝室環境を整える:
    寝室を暗くする: 遮光カーテンを使用したり、常夜灯も消したりして、光が入らないようにしましょう。
    光は脳を覚醒させてしまいます。
    寝室を静かにする: 騒音が気になる場合は、耳栓を使用したり、ホワイトノイズマシンを利用したりするのも有効です。
    寝室の温度・湿度を快適にする: 一般的に、温度は18~22℃、湿度は50~60%程度が快適な睡眠に適しているとされています。
    季節に応じてエアコンや加湿器・除湿器を適切に使用しましょう。
    寝具を快適にする: 自分に合った硬さのマットレス、枕、肌触りの良い寝具を選びましょう。
  • 寝る前に刺激物を避ける:
    カフェイン: コーヒー、紅茶、緑茶、エナジードリンク、チョコレートなどに含まれています。
    覚醒作用があるため、夕食後や就寝数時間前からは摂取を避けましょう。
    アルコール: 寝つきは良くなるように感じますが、眠りが浅くなり、夜中に目が覚めやすくなります。
    就寝前のアルコール摂取は控えましょう。
    ニコチン: タバコに含まれるニコチンにも覚醒作用があります。
    寝る前の喫煙は避けましょう。
  • 寝る前の過ごし方を工夫する:
    寝る前にリラックスできる習慣を作る: ぬるめの湯船にゆっくり浸かる(寝る1~2時間前が効果的)、軽い読書、静かな音楽を聴く、ストレッチ、瞑想など、自分に合ったリラックス法を見つけましょう。
    寝る直前の激しい運動や熱いシャワーを避ける: 体温が上がりすぎてしまい、眠りに入りにくくなることがあります。
    運動は寝る3時間前まで、入浴は寝る1~2時間前に済ませるのが良いでしょう。
    寝る直前のスマホやPCの使用を控える: 画面から発せられるブルーライトは脳を覚醒させてしまいます。
    寝る1時間前からは使用を避けましょう。
    寝床で考え事をしない: 心配事や考え事は眠りを妨げます。
    考え事をする時間や場所を寝室以外に設けましょう。
  • 日中の活動を意識する:
    適度な運動: 定期的な運動は睡眠の質を改善しますが、就寝直前の激しい運動は避けましょう。
    夕方から夜早い時間帯がおすすめです。
    太陽の光を浴びる: 朝起きたらカーテンを開けて太陽の光を浴びることで、体内時計がリセットされ、覚醒が高まります。
    昼寝を控えるか短時間にする: 日中の長い昼寝は、夜の睡眠を妨げることがあります。
    昼寝をする場合は、午後の早い時間に20~30分程度に留めましょう。
  • ベッドは眠るためだけに使う:
    ベッドの上でテレビを見たり、スマホをいじったり、食事をしたりする習慣をやめましょう。
    ベッドは「眠る場所」という関連付けを強くすることで、スムーズな入眠につながります。
    眠れない場合は、無理にベッドの中にいようとせず、一度ベッドから出て、リラックスできることをして眠気を感じてから再びベッドに戻りましょう(刺激制御法)。

これらの睡眠衛生のポイントをすべて完璧に実践することは難しいかもしれませんが、できることから少しずつ取り入れていくことが大切です。
これらの習慣を身につけることは、薬物療法に頼らない不眠の改善や、治療効果の維持に繋がります。
ただし、これらのセルフケアを続けても改善が見られない場合は、やはり専門家に相談することが必要です。

不眠症以外の睡眠障害について(過眠症など)

睡眠障害は、不眠症だけではありません。
眠りに関する問題は多岐にわたり、それぞれに専門的な診断と治療が必要です。
不眠症で受診した際に、実は他の睡眠障害が見つかるというケースもあります。
ここでは、不眠症以外の代表的な睡眠障害について簡単に紹介します。

  • 過眠症:
    夜十分に眠っているにも関わらず、日中に耐えがたいほどの強い眠気に襲われる状態です。
    代表的なものにナルコレプシー特発性過眠症があります。
    ナルコレプシーは、情動脱力発作(笑ったり興奮したりしたときに体の力が抜ける)、入眠時幻覚(寝入りばなに vivid な夢を見る)、睡眠麻痺(金縛り)などを伴うことがあります。
    これらの診断には、問診に加え、PSGやMSLTといった専門的な検査が必要です。
    治療には、覚醒を維持するための薬などが用いられます。
  • 睡眠関連呼吸障害群:
    睡眠中に呼吸に異常が生じる病気です。
    代表的なものに睡眠時無呼吸症候群(SAS)があります。
    寝ている間に繰り返し呼吸が止まったり弱くなったりすることで、体内の酸素濃度が低下し、脳が覚醒を繰り返すため、睡眠が分断され、熟眠感が得られません。
    これが不眠として自覚されたり、日中の強い眠気として現れたりします。
    大きないびき(特に途中で呼吸が止まる)、日中の強い眠気、起床時の頭痛などが特徴的な症状です。
    診断にはPSG検査が必須です。
    治療には、CPAP療法(睡眠中に空気を送る装置を装着する)やマウスピース、手術などがあります。
  • 睡眠関連運動障害群:
    睡眠中や寝入りばなに、体に異常な動きが生じる病気です。
    代表的なものにむずむず脚症候群周期性四肢運動障害があります。
    むずむず脚症候群: 夕方から夜間にかけて、特に安静時に脚(まれに腕や他の部位)に「むずむず」「かゆい」「痛い」「虫がはうような」といった不快な感覚が生じ、体を動かしたくなる衝動に駆られます。
    この不快感や衝動のために寝つきが悪くなったり、夜中に目が覚めたりして不眠の原因となります。
    周期性四肢運動障害: 寝ている間に、無意識のうちに足首などが周期的にピクッと動く症状です。
    本人は気づいていないことが多いですが、一緒に寝ている家族が気づいたり、この動きによって眠りが妨げられ、睡眠が分断されたりして不眠や日中の眠気の原因となります。
    これらの診断には、問診に加え、PSG検査が有用です。
    治療には、ドーパミン関連薬などが用いられることがあります。
  • 概日リズム睡眠障害:
    体内時計のリズムが乱れ、眠りたい時間と体のリズムがずれてしまう病気です。
    例:睡眠相後退症候群(体内時計が遅れてしまい、夜遅くにしか眠れず、朝も起きられない夜型になる)、睡眠相前進症候群(体内時計が早まってしまい、夕方に眠くなり、夜中に目が覚めてしまう朝型になる)、非24時間睡眠覚醒症候群(体内時計の周期が24時間からずれてしまい、毎日寝る時間と起きる時間が後ろにずれていく)など。
    規則正しい生活が送れず、社会生活に支障をきたします。
    診断には、睡眠日誌やアクチグラフィ、MSLTなどが用いられます。
    治療には、規則正しい生活指導、光療法、メラトニン受容体作動薬などが用いられます。
  • 睡眠時随伴症:
    睡眠中や寝覚めに起こる望ましくない行動や体験の総称です。
    例:ノンレム睡眠からの覚醒障害(錯乱性覚醒、睡眠時遊行症(夢遊病)、夜驚症)、レム睡眠関連睡眠時随伴症(レム睡眠行動障害、反復睡眠麻痺(金縛り))、悪夢障害など。
    これらの症状が本人の安全を脅かしたり、周囲の人に影響を与えたり、睡眠を妨げたりする場合に治療が必要となります。
    診断には、問診に加え、必要に応じてPSG検査(特にレム睡眠行動障害の診断に重要)などが行われます。
    治療は症状や種類によって異なります。

このように、睡眠に関する問題は不眠症以外にも様々な種類があります。
ご自身の症状が不眠だけなのか、それとも他の睡眠障害の可能性もあるのかを自己判断するのは難しいため、気になる症状がある場合は、睡眠医学に詳しい専門家(睡眠外来など)に相談することが、正確な診断と適切な治療を受ける上で非常に重要です。

まとめ:不眠症で悩んだらまずは専門家へ相談を

不眠症は、単なる寝不足ではなく、放置すると心身の健康や日常生活に深刻な影響を及ぼす可能性のある病気です。
しかし、適切な診断と治療によって改善が期待できます。

不眠症で悩んでいる方が「何科に行けばいいの?」と迷うのは当然のことです。
不眠の原因は身体的な病気、精神的な問題、生活習慣、他の睡眠障害など多岐にわたるため、ご自身の状況に合わせて最適な診療科を選ぶことが大切です。

  • まずは、かかりつけの内科に相談するのも良い方法です。
    全身の状態を把握している医師が、不眠の背後にある身体的な原因や薬の影響などをチェックしてくれます。
  • ストレスや不安、気分の落ち込みなど、心の不調が不眠の原因と感じられる場合は、心療内科や精神科が適しています。
  • 不眠の原因が特定しにくい場合や、いびき、日中の強い眠気など、不眠以外の睡眠に関する症状がある場合は、睡眠外来で専門的な検査や診断を受けることを強くお勧めします。

不眠が「週に3日以上」「1ヶ月以上」続いている場合は、不眠症の可能性があります。
しかし、期間に関わらず、不眠によって日中の活動(仕事、勉強、人間関係など)に支障が出ている場合は、できるだけ早く専門家に相談しましょう。

病院では、医師による詳細な問診に加え、睡眠日誌の記録や、必要に応じて睡眠ポリグラフ検査などの専門的な検査が行われ、不眠の原因を特定します。

治療法としては、睡眠薬による薬物療法と、認知行動療法(CBT-I)や睡眠衛生指導などの非薬物療法があり、これらを組み合わせて行われることが多いです。
特に慢性不眠症には、CBT-Iが有効とされています。

不眠症の改善のためには、医療機関での治療に加え、規則正しい生活、寝室環境の整備、寝る前のカフェイン・アルコール摂取を控えるといった睡眠衛生の実践も非常に重要です。

不眠症は、決して一人で抱え込む必要はありません。
不眠は治療可能な病気であり、専門家(医師)に相談することで、適切なアドバイスや治療を受け、質の高い睡眠を取り戻すことができます。
「こんなことで受診しても良いのかな?」とためらわず、まずは勇気を出して一歩踏み出してみましょう。
あなたの不眠の悩みが解消され、健やかな毎日を取り戻せるよう願っています。

免責事項: 本記事は、不眠症に関する一般的な情報を提供するものであり、特定の診断や治療法を推奨するものではありません。
不眠の症状がある場合は、必ず医療機関を受診し、医師の診断と指導を受けてください。
記事中の情報は、執筆時点での一般的な医学的知見に基づくものであり、個々の状況によって最適な対応は異なります。

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