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「頭でわかっていても言葉が出ない」…もしかして病気?原因と受診の目安

頭でわかっているのに、なぜか言葉がすっと出てこない――。話そうとすると適切な単語が思い浮かばなかったり、言いたいことがまとまらずにまどろっこしくなったり。このような経験は、多くの人が一度は感じたことがあるかもしれません。単なる一時的な疲れや気のせいだと済ませてしまいがちですが、頻繁に起こる場合は日常生活や仕事にも影響が出ることがあります。この記事では、「頭でわかっていても言葉が出てこない」と感じる様々な原因から、年代別の傾向、ご自身でできる対策、そして専門家への相談を検討すべきケースまで、詳しく解説していきます。ご自身の状態を理解し、適切な対応をとるためのヒントとしてお役立てください。

目次

頭でわかっていても言葉が出ない原因

「頭でわかっていても言葉が出てこない」という現象は、医学的には「喚語困難(かんごこんなん)」と呼ばれる症状の一部であったり、あるいは病気ではない一時的な脳機能の低下によって引き起こされたり、非常に多様な原因が考えられます。ここでは、言葉が出てこない主な原因について、病気によるものと病気以外によるものに分けて詳しく見ていきましょう。

言葉が出てこない原因が病気の可能性

言葉を理解し、それを適切な言葉として発するというプロセスは、脳の様々な領域が連携して行われています。そのため、脳に何らかの障害が発生すると、言葉に関する機能に影響が出ることがあります。頻繁に言葉が出てこない、以前はなかった症状が現れた、他の症状(体の麻痺、視野の異常、認知機能の低下など)も伴う場合は、病気の可能性を考慮し、医療機関を受診することが重要です。

脳卒中や脳腫瘍

脳卒中(脳梗塞、脳出血など)や脳腫瘍は、脳の特定の部分にダメージを与えるため、言語機能に大きな影響を及ぼす可能性があります。特に、言語をつかさどる大脳皮質の特定の領域(ウェルニッケ野やブローカ野など)や、それらを連絡する神経線維が障害されると、言葉の理解や表出に問題が生じることがあります。

  • 脳卒中: 脳の血管が詰まったり破れたりすることで、その先の脳細胞に酸素や栄養が届かなくなり、機能が失われます。突然発症することが多く、言葉が出てこない、ろれつが回らない、人の言うことが理解できないといった症状が、体の片側の麻痺やしびれ、顔の歪み、視野の障害などとともに現れることがあります。時間とともに症状が進行する場合や、改善する場合など経過は様々です。

  • 脳腫瘍: 脳の中に異常な細胞の塊(腫瘍)ができることで、周囲の脳組織を圧迫したり破壊したりします。腫瘍ができた場所によって症状は異なりますが、言語領域の近くにできると、徐々に言葉が出にくくなる、適切な言葉が選べなくなる、発音が不明瞭になるなどの症状が現れることがあります。頭痛や吐き気、手足の麻痺、けいれんなどを伴うこともあります。

これらの病気は、早期発見と早期治療が非常に重要です。突然言葉が出なくなった、手足に力が入らなくなったなどの症状が現れた場合は、迷わず救急車を呼ぶか、速やかに医療機関を受診してください。

失語症(喚語困難)

失語症は、脳の病気(特に脳卒中が多いですが、脳腫瘍や頭部外傷、神経変性疾患なども原因となります)によって、一度獲得した言語能力が障害された状態を指します。聴く、話す、読む、書くといった言語のすべての側面に影響が出る可能性があります。「頭でわかっていても言葉が出てこない」という症状は、失語症の中でも特に「喚語困難」と呼ばれる中核的な症状の一つです。

喚語困難とは、対象となる言葉や概念を理解しているのに、その名前(単語)が思い出せない、適切な単語を選び出して発することが難しい状態です。「あれ」「それ」「あの場所」といった指示代名詞が多くなったり、言いたい単語とは全く違う言葉を言ってしまったり(錯誤)、単語の途中で詰まってしまったり(音韻性錯誤)など、様々な形で現れます。

失語症にはいくつかのタイプがあり、障害された脳の部位によって現れる症状が異なります。例えば、ブローカ失語では言葉を流暢に話すことが難しくなり、ウェルニッケ失語では言葉を理解することが難しくなります。喚語困難は、どのタイプの失語症でも見られる可能性のある症状です。失語症は、リハビリテーションによって改善を目指すことができます。

認知症

認知症は、様々な原因によって脳の細胞が障害され、記憶、思考、判断などの認知機能が低下し、日常生活に支障をきたす病気です。認知症の症状は多岐にわたりますが、言語機能の障害もよく見られます。

初期の認知症では、言葉が出てこない(喚語困難)、簡単な単語が思い出せない、同じことを何度も繰り返す、会話のつじつまが合わないといった形で現れることがあります。病気が進行すると、言葉の意味が理解できなくなったり、会話を続けることが難しくなったりすることもあります。

認知症の原因となる病気には、アルツハイマー型認知症、血管性認知症、レビー小体型認知症、前頭側頭型認知症などがあります。アルツハイマー型認知症では、特に初期に喚語困難が目立つことがあります。血管性認知症は、脳梗塞や脳出血によって引き起こされ、障害された部位によって症状が異なりますが、言語障害が見られることもあります。前頭側頭型認知症の一種である「進行性非流暢性失語」では、発話の流暢さが徐々に失われ、言葉が出にくくなる、文法的な間違いが増えるといった症状が進行性に現れます。

認知症による言語障害は、病気の進行とともに悪化する傾向があります。しかし、早期に発見し適切な治療やケアを行うことで、進行を遅らせたり、症状を緩和したりすることが可能です。

その他神経系の病気

上記以外にも、言葉が出にくくなる症状を引き起こす可能性のある神経系の病気はいくつか存在します。

  • パーキンソン病: 運動機能の障害が主症状ですが、進行すると認知機能や言語機能にも影響が出ることがあります。話し方が単調になったり、声が小さくなったりすることに加え、言葉の選択や構成に時間がかかるようになるなど、喚語困難に似た症状が見られることもあります。

  • 筋萎縮性側索硬化症(ALS): 運動神経が徐々に障害される進行性の病気ですが、一部のタイプでは言語機能や認知機能にも影響が出ることがあります。構音障害(発音が不明瞭になること)が主ですが、言葉を選択したり、文を組み立てたりする能力にも影響が出ることがあります。

  • てんかん: 脳の電気信号が一時的に異常をきたす病気ですが、てんかん発作の種類によっては、発作中に言葉が出なくなる、言葉を理解できなくなる、呂律が回らなくなるといった症状が現れることがあります。発作が治まれば症状も消失するのが一般的です。

  • 多発性硬化症: 脳や脊髄の神経が障害される自己免疫疾患ですが、病巣の場所によっては言語機能に影響が出ることがあります。

これらの病気による言葉の障害は、それぞれの病気の特性や進行度によって症状の現れ方が異なります。原因不明の言葉の障害が続く場合は、神経内科などの専門医に相談することが重要です。

言葉が出てこない原因が病気以外の場合

「頭でわかっていても言葉が出てこない」という症状は、必ずしも病気が原因であるとは限りません。日常生活における様々な要因が脳の機能に一時的な影響を与え、言葉をスムーズに引き出せなくなることがあります。これらの要因は、多くの人が経験しうるものであり、病気のように特定の脳領域の損傷によるものではありません。

脳疲労と言葉の遅れ

現代社会は情報過多であり、仕事や学業、人間関係などで脳は常に多くの情報を処理し続けています。このような状態が続くと、脳が疲労し、「脳疲労」と呼ばれる状態に陥ることがあります。脳疲労は、脳の処理能力や集中力を低下させ、思考がまとまらない、物忘れが増えるといった症状を引き起こします。

脳疲労が蓄積すると、言葉を司る領域を含め、脳全体の機能が低下します。特に、記憶から適切な言葉を引き出す、思考を言葉として組み立てるといった高度な認知プロセスに影響が出やすくなります。その結果、「頭ではわかっているのに、言葉が出てこない」という状態が起こりやすくなります。

脳疲労による言葉の遅れは、一時的なものであり、休息やリフレッシュによって改善することがほとんどです。しかし、慢性的な脳疲労は、より深刻な心身の不調につながる可能性もあるため注意が必要です。

ストレス、睡眠不足、疲労

心身の健康状態は、脳の機能に大きく影響します。特に、ストレス、睡眠不足、肉体的な疲労は、言葉が出てこない状態の一般的な原因として知られています。

  • ストレス: 強いストレスを感じると、脳はコルチゾールなどのストレスホルモンを分泌します。これらのホルモンは、脳の特定の領域(特に記憶や学習に関わる海馬など)の働きに影響を与え、記憶力や集中力を低下させることがあります。言葉を記憶から引き出すプロセスも影響を受けやすく、言葉が出にくくなることにつながります。また、ストレスによって不安や緊張が高まると、話すこと自体にプレッシャーを感じ、余計に言葉が出にくくなるという悪循環に陥ることもあります。

  • 睡眠不足: 睡眠は、脳が日中に得た情報を整理し、記憶を定着させるために非常に重要です。睡眠不足が続くと、脳の機能が十分に回復せず、集中力や思考力が低下します。言葉を思い出す作業も鈍くなり、スムーズな会話ができなくなることがあります。

  • 疲労: 肉体的な疲労も脳の働きを低下させます。体が疲れていると、脳も休息を求め、情報処理能力が落ちます。会話中に適切な言葉が出てこない、会話の内容についていくのが難しくなる、といった形で現れることがあります。

これらの要因による言葉の出にくさは、原因を取り除くことで改善することがほとんどです。十分な休息、睡眠の確保、ストレスマネジメントなどが有効な対策となります。

情報過多やマルチタスク

現代社会は、インターネットやスマートフォンなどを通じて、常に大量の情報が流れ込んできます。仕事でも複数のタスクを同時にこなすマルチタスクが求められる場面が増えています。このような情報過多やマルチタスクの環境も、脳の処理能力に過負荷をかけ、言葉が出てこない原因となることがあります。

脳が一度に処理できる情報量には限界があります。大量の情報に触れたり、複数のタスクを並行して行ったりすると、脳は効率的に情報を整理し、必要なものを取り出すのが難しくなります。結果として、思考が散漫になったり、必要な言葉を素早く引き出せなくなったりします。

また、情報過多な環境では、一つのことに集中する時間が減り、脳の「ディープワーク」(深い集中を必要とする作業)の能力が低下する可能性も指摘されています。これは、複雑な思考や言葉の組み立てに影響を与える可能性があります。

意識的にデジタルデトックスを行ったり、一つのタスクに集中する時間を作ったりすることで、脳への過負荷を減らし、言葉の出やすさを改善できることがあります。

加齢による影響

加齢に伴い、体の機能だけでなく脳の機能にも自然な変化が生じます。脳の容積はわずかに減少し、神経細胞間の情報伝達速度もわずかに遅くなる傾向があります。このような変化は、記憶力や処理速度といった認知機能に影響を与えることがあります。

「頭でわかっていても言葉が出てこない」という症状は、特に加齢によって起こりやすい変化の一つです。これを「加齢性喚語困難」と呼ぶこともあります。若い頃に比べて、人の名前が思い出せない、適切な単語が咄嗟に出てこないといった経験が増えるのは、多くの場合、このような自然な加齢によるものです。

加齢による言葉の出にくさは、多くの場合、病的なものではなく、経験や知識は保たれているのが特徴です。少し時間をかければ思い出せたり、ヒントがあれば思い出せたりすることが多いです。しかし、あまりにも頻繁に起こったり、日常生活に支障が出るほど顕著になったりする場合は、認知症などの病気の可能性も考慮し、専門医に相談することが推奨されます。

加齢による脳機能の変化は避けられませんが、適度な運動、バランスの取れた食事、脳を使う活動(読書、新しい学習、趣味など)を続けることで、脳の健康を維持し、言語機能の低下を緩やかにすることができると言われています。

年代別の「言葉が出てこない」傾向

「頭でわかっていても言葉が出てこない」という症状は、年齢によってその原因や現れ方が異なることがあります。ここでは、特に働き盛りの年代に焦点を当て、それぞれの年代で見られる傾向と対処法について見ていきましょう。

20代に見られる原因と対処

20代は、社会人として新しい環境に飛び込んだり、キャリアをスタートさせたりと、変化の多い時期です。学業を終えたばかりであったり、新しいスキルを習得する必要があったりと、脳も活発に活動しています。しかし、その一方で、ストレスや無理な生活習慣が言葉の出にくさを引き起こすことがあります。

  • 原因の傾向:

    • 新しい環境や人間関係によるストレス: 仕事や人間関係で緊張やストレスを感じやすく、これが脳機能に影響を与えることがあります。

    • 睡眠不足や不規則な生活: 仕事やプライベートの忙しさから、睡眠時間が不足したり、食事の時間が不規則になったりしがちです。これが脳疲労や集中力の低下を招きます。

    • 情報過多やマルチタスク: デジタルデバイスに触れる時間が長く、常に多くの情報に晒されています。SNSや複数アプリの利用などでマルチタスクの状態になりやすく、脳が疲弊します。

    • 経験不足: まだ経験が浅いため、状況を判断し、適切な言葉を選び出すのに時間がかかる場合があります。これは病的なものではなく、経験を積むことで改善されます。

  • 対処法:

    • ストレスマネジメント: 休息時間を確保する、趣味や運動で気分転換を図る、信頼できる人に相談するなど、自分に合ったストレス解消法を見つけることが大切です。

    • 規則正しい生活: 可能な限り、毎日同じ時間に寝起きし、十分な睡眠時間を確保するよう努めましょう。バランスの取れた食事も脳の健康に不可欠です。

    • デジタルデトックス: スマートフォンやパソコンから離れる時間を作り、脳を休ませましょう。通知をオフにする、使用時間を制限するといった工夫も有効です。

    • インプットとアウトプットのバランス: 情報を得るだけでなく、自分の言葉で考えをまとめ、誰かに話したり文章にしたりする機会を増やすことが、言葉をスムーズに使う練習になります。

20代で頻繁に言葉が出ない場合、多くは一時的な心身の不調や生活習慣の乱れが原因と考えられます。まずは生活を見直し、休息をしっかりとることが重要です。ただし、突然言葉が出なくなった、他の神経症状(手足の麻痺など)を伴う場合は、速やかに医療機関を受診してください。

40代に見られる原因と対処

40代は、仕事や家庭で責任が増し、多忙を極める方が多い年代です。キャリアのピークを迎えたり、子育てや親の介護が始まったりと、肉体的・精神的な負担が増加しやすい時期でもあります。加齢による身体の変化も始まり、それが脳機能に影響を与えることもあります。

  • 原因の傾向:

    • 加齢による脳機能の自然な変化: 記憶力や処理速度がわずかに低下し始め、言葉の引き出しに時間がかかるようになることがあります。

    • 慢性的な疲労やストレス: 長年の仕事の蓄積による疲労や、人間関係、経済的な問題など、複雑なストレスを抱えやすくなります。

    • ホルモンバランスの変化: 特に女性は更年期に入り、ホルモンバランスの変化が集中力や記憶力に影響を与えることがあります。

    • 生活習慣病の兆候: 高血圧、高血糖、脂質異常症といった生活習慣病が、脳血管の健康に影響を与え、認知機能低下のリスクを高める可能性があります。

    • 脳血管疾患のリスク上昇: 加齢とともに脳梗塞や脳出血のリスクが高まります。

  • 対処法:

    • 健康診断の受診: 定期的に健康診断を受け、生活習慣病の早期発見・治療に努めましょう。脳ドックなども検討する価値があります。

    • バランスの取れた生活: 質の良い睡眠を確保し、栄養バランスの取れた食事を心がけ、適度な運動を習慣にすることで、脳と体の健康を維持しましょう。

    • ストレスマネジメント: 責任世代ゆえにストレスは避けられませんが、自分なりのリラックス方法を見つけ、意識的に休息を取ることが重要です。

    • 脳の活性化: 新しい趣味を始めたり、資格取得を目指したり、読書やパズルなど、脳を使う活動を積極的に行いましょう。

    • 社会的な交流: 人との会話は脳を活性化させます。積極的に外出したり、友人や家族との交流を楽しんだりすることも有効です。

40代で言葉が出てこない症状が気になり始めた場合、多くは加齢や慢性的な疲労・ストレスが複合的に関わっていると考えられます。しかし、他の神経症状を伴う場合や、症状が急速に進行する場合は、脳血管疾患や認知症などの可能性も考慮し、早めに専門医に相談することが勧められます。

言葉が出てこない状態を改善するための対策

「頭でわかっていても言葉が出てこない」という状態は、一時的なものであれ、加齢によるものであれ、できれば改善したいと思うものです。幸い、日々の生活の中で取り入れられる対策はいくつかあります。ここでは、脳の機能を活性化させ、言葉をスムーズに使うための具体的な方法を紹介します。

日常でできる脳の活性化トレーニング

脳は、使えば使うほど活性化すると言われています。特に言語に関わる脳の領域を意識的に使うことで、言葉の引き出しや組み立ての能力を向上させることが期待できます。

  • 音読: 新聞記事、小説、教科書など、なんでも構いませんので声に出して読んでみましょう。声に出すことで、視覚情報(文字を読む)、聴覚情報(自分の声を聞く)、運動情報(口や舌を動かす)など、脳の様々な領域が同時に活性化されます。意味を理解しながら読むことを意識すると、さらに効果的です。

  • 書き写し(書写): 文章をノートに書き写すことも、脳の活性化に役立ちます。目で文字を追い、それを認識し、手を動かして書き出すという一連のプロセスは、集中力と言語処理能力を養います。デジタル入力に慣れている現代において、手書きは脳に良い刺激を与えます。

  • 日記やブログを書く: 自分の考えや出来事を文章にまとめる作業は、思考を整理し、適切な言葉を選び出す練習になります。毎日続けることで、語彙力や表現力も自然と向上します。誰かに見せる必要はありませんので、気軽に始めてみましょう。

  • 新しい単語や知識を学ぶ: 語彙力を増やすことは、言葉が出てこない症状の直接的な対策になります。新聞や読書で知らない単語が出てきたら調べる習慣をつけましょう。また、新しい分野の知識を学ぶことは、脳全体を活性化させ、記憶力や思考力を鍛えることにつながります。

  • パズルや脳トレアプリ: クロスワードパズルや数独などのパズルゲーム、または脳トレを目的としたスマートフォンアプリなども、楽しみながら脳を活性化させるのに役立ちます。語彙力、記憶力、注意力、処理速度などを鍛える効果が期待できます。

会話や文章作成の習慣化

積極的に言葉を使う習慣をつけることは、言葉をスムーズに引き出す能力を維持・向上させるために非常に重要です。

  • 積極的に会話に参加する: 家族や友人との何気ない会話、職場の同僚との議論など、積極的に会話に参加する機会を増やしましょう。相手の話を聞き、自分の考えを言葉にして伝えるというプロセスは、脳の言語野を活発に働かせます。

  • 議論やプレゼンテーションの練習: 自分の意見を論理的に組み立てて伝える練習をすることで、思考力と言語構成能力が鍛えられます。仕事でプレゼンや会議がある場合は、事前に内容を整理し、言葉に出して練習するだけでも効果があります。

  • 読書: 読書は、様々な言葉や表現に触れることができるだけでなく、物語を追ったり、筆者の主張を理解したりすることで、思考力や読解力も鍛えられます。小説、ノンフィクション、エッセイなど、興味のあるジャンルから読んでみましょう。

  • 文章の要約や感想文を書く: 読んだ本や記事の内容を要約したり、自分の感想を文章にまとめたりすることは、内容を理解し、それを自分の言葉で表現する練習になります。

ストレスケアと十分な休息

脳の機能は、心身の状態に大きく左右されます。ストレスを適切に管理し、十分な休息をとることは、言葉の出やすさを改善する上で非常に基本的ながら重要な対策です。

  • ストレスの原因を特定し、対処する: 何がストレスになっているのかを把握し、可能な範囲でその原因を取り除くか、対処法を考えましょう。一人で抱え込まず、信頼できる人に相談することも有効です。

  • リラクゼーションを取り入れる: 深呼吸、瞑想、ヨガ、ストレッチなど、心身をリラックスさせる方法を日常に取り入れましょう。リラックスすることで、脳の緊張が和らぎ、思考や言語のプロセスがスムーズになります。

  • 趣味や楽しみの時間を持つ: 仕事や家事から離れて、自分の好きなことに没頭する時間を持つことは、ストレス解消に繋がり、気分転換になります。

  • 十分な睡眠時間を確保する: 毎日同じ時間に寝起きし、7〜8時間程度の睡眠を確保することを目標にしましょう。寝る前にカフェインやアルコールを控えたり、寝室の環境を整えたりすることも、睡眠の質を高めるのに役立ちます。

  • バランスの取れた食事: 脳の健康には、ビタミン、ミネラル、オメガ-3脂肪酸などを含むバランスの取れた食事が不可欠です。特に、脳機能に関わるビタミンB群や、抗酸化作用のあるビタミンC、Eなどを積極的に摂取しましょう。

これらの対策は、どれか一つだけを行うのではなく、組み合わせて継続することが効果的です。すぐに劇的な変化が現れるわけではありませんが、毎日の習慣として取り入れることで、脳の健康を維持し、言葉をスムーズに使う能力を養っていくことができます。

上手く話せない、言葉が詰まる症状について

「頭でわかっていても言葉が出ない」という症状と似て非なるものに、「上手く話せない」「言葉が詰まる」といった症状があります。これらの症状は、言葉そのものを引き出すことよりも、発音や発話のリズムに関わる問題であることが多いです。ここでは、構語障害・構音障害と吃音について説明し、喚語困難との違いを明確にします。

構語障害・構音障害とは

構語障害や構音障害は、言葉を構成する音(音声)を正しく発することが難しい状態を指します。これは、言葉の内容を理解し、適切な単語を選択することはできるものの、発音に必要な口、舌、唇、声帯などの器官の動きに問題があるために起こります。原因としては、脳卒中や頭部外傷による神経の損傷、神経変性疾患(パーキンソン病など)、筋力低下を引き起こす病気、または生まれつきの発音器官の構造的な問題などが考えられます。

具体的な症状としては、

  • ろれつが回らない
  • 言葉が不明瞭になる
  • 発音に力が入る、または力が入らない
  • 特定の音(サ行、ラ行など)がうまく言えない
  • 声がかすれる、震える、小さくなる

などがあります。頭の中では言いたいことが明確にわかっているのに、それを声に出す段階で問題が生じる点が特徴です。失語症や喚語困難が「何を言うか」の問題であるのに対し、構語障害・構音障害は「どう言うか(どう発音するか)」の問題と言えます。

吃音との違い

吃音(どもり)は、話す際に言葉が円滑に出てこない、つまり発話のリズムが乱れる症状を指します。子供の頃に始まることが多く、成長とともに改善する場合もあれば、大人になっても続く場合もあります。原因は完全に解明されていませんが、体質的な要因(脳機能の特性など)や環境要因などが複雑に関わっていると考えられています。

吃音の主な症状は以下の通りです。

  • 繰り返し: 音や単語を繰り返す(例:「た、た、た、楽しい」「あの、あの、あのね」)

  • 引き伸ばし: 音や単語を引き伸ばす(例:「たーーのしい」「あーーのね」)

  • ブロック: 言葉を出そうとするが、声が出ずに詰まってしまう(音が詰まる、無音になる)

吃音は、言いたい言葉は頭の中に明確にあるのに、それをスムーズに話し始めたり続けたりすることが難しいという点で、「頭でわかっていても言葉が出てこない(喚語困難)」や「構語障害・構音障害」とは異なります。吃音は発話の流暢性の問題であり、言葉そのものの選択や発音の正確さの問題ではありません。

症状 頭でわかっていても言葉が出ない(喚語困難) 構語障害・構音障害 吃音(どもり)
主な問題 適切な単語を思い出す、選び出すのが難しい 言葉を構成する音を正しく発音するのが難しい 発話のリズムが乱れる、言葉が詰まる、繰り返される
「何を言うか」 問題がある(単語が出てこない、間違った単語を言う) 問題ない(言いたい単語はわかっている) 問題ない(言いたい単語はわかっている)
「どう言うか」 発音自体は可能な場合が多い(単語が出てくれば) 問題がある(発音が不明瞭、ろれつが回らないなど) 発音自体は可能だが、流暢さがない
原因例 脳卒中、認知症、失語症、脳疲労、ストレス、加齢 脳卒中、神経疾患、発音器官の問題 体質的要因、環境要因(完全には解明されていない)

このように、言葉に関する問題には様々な種類があります。ご自身の症状がどれに当てはまるかを理解することは、適切な対策や専門家への相談を考える上で重要です。

こんな症状は要注意!専門家へ相談すべきケース

「頭でわかっていても言葉が出てこない」という経験は、多くの人にとって一時的なものかもしれません。しかし、特定の状況下で言葉の障害が現れたり、症状が進行したりする場合は、医療機関を受診して専門家の診断を受けることが強く推奨されます。早期発見が重要な病気が原因である可能性も否定できないためです。

どのような時に受診を検討すべきか

以下のような症状が見られる場合は、「単なる疲れかな」「歳だから仕方ない」と自己判断せず、速やかに医療機関を受診することを検討してください。

  • 突然、言葉が出てこなくなった、または呂律が回らなくなった: これは脳卒中(脳梗塞や脳出血など)の可能性があり、緊急性が非常に高いです。時間との勝負になるため、すぐに救急車を呼ぶか、救急対応している病院へ向かってください。

  • 言葉が出にくい症状が、以前にはなかった、あるいは数週間~数ヶ月のうちに徐々に悪化している: 進行性の病気(認知症、脳腫瘍、神経変性疾患など)の可能性が考えられます。

  • 言葉が出てこない症状に加え、他の神経症状を伴う:

    • 体の片側の手足や顔の麻痺、しびれ

    • 物が二重に見える、視野が欠けるといった目の症状

    • めまい、ふらつき、歩行の不安定さ

    • 頭痛、吐き気

    • けいれん

    • 意識が朦朧とする、反応が鈍くなる

    • 記憶力の顕著な低下や、見当識障害(日時や場所がわからなくなる)

    これらの症状が同時に現れている場合は、脳や神経系の病気を強く疑う必要があります。

  • ストレスや疲労などの明らかな原因がないのに、言葉の出にくさが続く: 生活習慣を改善したり、休息を十分にとったりしても症状が改善しない場合は、別の原因を考える必要があります。

  • 日常生活や仕事に支障が出始めている: 会話が成り立たなくなったり、仕事で言葉を使う際に困難を感じるようになったりしている場合は、放置せずに専門家の助けを求めるべきサインです。

  • 自分の言葉の障害について、家族や周囲の人から指摘された: 自分では気づきにくい変化を周囲が感じ取っている場合、客観的な症状が現れている可能性があります。

特に、突然発症した場合は救急対応、徐々に進行している場合は一度専門医に相談することが大切です。

受診するなら何科?

「頭でわかっていても言葉が出てこない」という症状で医療機関を受診する場合、その原因によって最適な診療科が異なります。自己判断が難しい場合は、まずはかかりつけ医に相談するか、総合病院の神経内科や脳神経外科を受診するのが一般的です。

  • 神経内科: 脳、脊髄、末梢神経、筋肉の病気を専門とする診療科です。脳卒中後の失語症、認知症、パーキンソン病、ALSなどの神経系の病気による言語障害の診断と治療を行います。原因が神経系の病気である可能性が高い場合に適しています。

  • 脳神経外科: 脳や脊髄の外科的治療が必要な病気(脳腫瘍、脳出血、脳梗塞の一部など)を専門とする診療科です。突然発症した脳卒中や、脳腫瘍が原因で言葉が出にくくなっている可能性がある場合に受診します。緊急性が高い場合もこちらを受診することが多いです。

  • 精神科・心療内科: ストレスや精神的な要因(うつ病、不安障害など)が言葉の出にくさに関与している可能性がある場合に相談します。精神的な問題が背景にある場合、これらの科での治療が有効なことがあります。

  • 耳鼻咽喉科: 発音器官そのものに問題がある構音障害(声帯や口腔内の構造的な問題など)が疑われる場合に相談します。ただし、神経系の原因による構音障害の場合は神経内科が専門となります。

  • リハビリテーション科・言語聴覚士(ST): 脳卒中などで失語症や構音障害になった場合、言語機能の回復を目指すリハビリテーションを行います。診断確定後にリハビリテーション科を紹介されることが多いです。言語聴覚士は、言葉やコミュニケーション、摂食嚥下(飲み込み)の専門家であり、リハビリテーションの中心的な役割を担います。

症状の現れ方、他の症状の有無、発症からの経過などを医師に詳しく伝えることが、適切な診断と治療につながります。問診票には、言葉が出にくい症状がいつから始まったか、どのような時に起こりやすいか、他に気になる症状はないかなどを具体的に記入しましょう。

まとめ

「頭でわかっていても言葉が出ない」という症状は、多くの人が経験する一時的な脳疲労や加齢による自然な変化から、脳卒中、失語症、認知症といった重要な病気のサインまで、様々な原因が考えられます。

一時的なものであれば、十分な休息、ストレスケア、バランスの取れた生活、そして脳を活性化させるための日常的なトレーニング(音読、文章作成、新しい学習など)によって改善が期待できます。年代によって言葉が出にくい原因や傾向が異なることも理解し、ご自身の状況に合わせた対策を講じることが大切です。

一方で、突然の言葉の障害、症状の進行、他の神経症状の合併が見られる場合は、病気の可能性を考慮し、速やかに医療機関を受診する必要があります。特に脳卒中など緊急性の高い病気の場合は、一刻も早い対応がその後の回復に大きく影響します。

ご自身の症状について不安を感じる場合や、改善が見られない場合は、「歳のせい」「気のせい」と自己判断せずに、神経内科などの専門医に相談しましょう。適切な診断を受けることで、症状の原因が明らかになり、必要な治療やリハビリテーション、生活上のアドバイスを受けることができます。

言葉は私たちの思考や感情を表現し、他者とコミュニケーションをとるための大切なツールです。言葉に関する悩みを抱えている方は、この記事を参考に、ご自身の心身の状態に目を向け、必要に応じて専門家のサポートを得ながら、より快適なコミュニケーションを目指してください。

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