診断書が必要になったのに、医師から「発行できません」と言われたり、発行を断られる可能性があると知って不安を感じている方もいらっしゃるのではないでしょうか。「診断書は医師に言えば必ずもらえるもの」と思っている方も少なくありません。しかし、実は診断書の発行には医師法上のルールや医学的な判断が伴い、正当な理由がある場合には発行が難しいケースも存在します。この記事では、診断書がもらえないのはなぜなのか、医師法における診断書作成義務の原則と「正当な理由」にあたる場合、そして実際に診断書の発行を断られる可能性のある具体的なケースとその理由を詳しく解説します。さらに、診断書がもらえなかった場合にどうすれば良いか、具体的な対処法や代替となる証明書についてもご紹介します。この記事を読めば、診断書発行に関する疑問が解消され、必要な手続きをスムーズに進めるためのヒントが見つかるでしょう。
医師は診断書作成義務がある
まずは、医師が診断書を発行することに関する法律上の義務について理解しておきましょう。これは、診断書が必要な場合に原則として医師に発行を依頼できる根拠となるものです。
医師法第20条が定める診断書交付義務
日本の医師法では、医師が患者さんから診断書の発行を求められた場合、原則としてそれに応じなければならないと定められています。具体的には、医師法第20条において、「医師は、診察をしたときは、診断書若しくは検案書又は死体検案書を交付しなければならない。ただし、診断書を交付するについて正当な理由がある場合は、この限りでない。」と規定されています。
この条文から分かるように、医師には診察した患者さんに対して診断書を交付する義務があります。これは、患者さんが自身の健康状態や傷病について公的な証明を必要とする場合に、医師がその専門的な知識と診察に基づいて正確な情報を提供することを保証するための重要な規定です。会社や学校への提出、各種公的な手続き、保険金の請求など、社会生活の様々な場面で診断書は必要とされます。そのため、医師が恣意的に診断書の発行を拒否することは許されていません。
しかし、条文の後半にあるように、「正当な理由がある場合」はこの義務が免除されます。つまり、医師が診断書の発行を断ることができるケースが存在するということです。次に、この「正当な理由」とは具体的にどのような場合を指すのかを見ていきましょう。
「正当な理由」にあたるケース、あたらないケース
医師法第20条に規定される「正当な理由」の解釈は、個別の状況によって判断が分かれる場合がありますが、一般的に以下のようなケースが「正当な理由」にあたると考えられています。
- 「正当な理由」にあたる可能性が高いケース(診断書発行義務が免除される可能性):
- 診察を行っていない場合: 診断書は医師が患者さんを診察した上で作成されるものです。電話やメールでの相談のみで、直接診察を行っていない場合は、医師は診断書作成の根拠となる医学的な情報を持たないため、発行義務は生じません。
- 診断書に記載すべき事実を医学的に証明できない場合: 患者さんの主張する症状や傷病について、医師の診察や検査結果、これまでの治療経過などから医学的に裏付けが取れない場合です。例えば、患者さん自身が訴えるだけの抽象的な症状や、医師が確認できない過去の出来事に関する証明などを求められた場合などがこれにあたります。
- 診断書の発行目的が不適切である場合: 診断書の本来の目的(病状の証明、就労の可否判断など)から逸脱した目的で発行を求められた場合です。例えば、不正に公的な給付を受けようとする場合や、他者を陥れる目的、事実無根の訴訟を起こすためなどがこれにあたります。
- 虚偽の内容の記載を求められた場合: 患者さんやその関係者から、事実とは異なる内容(例えば、実際より重い病状や長い療養期間など)を診断書に記載するよう求められた場合、医師はそれを拒否できます。虚偽の診断書を作成することは、医師の倫理に反するだけでなく、法的な問題も生じます。
- 要求された診断書の書式が特殊であり、医師の通常の業務範囲を超える場合: 極めて特殊な書式や、高度な専門知識・検査が必要で、かつその医療機関では対応できない内容の診断書を求められた場合などがこれにあたります。(ただし、一般的な診断書や定められた様式であれば通常は該当しません。)
- 「正当な理由」にあたらないと考えられるケース(原則として診断書発行義務がある):
- 単に発行手続きが面倒であるという理由: 医師や医療機関側の都合(忙しい、手続きが煩雑など)は、診断書発行を拒否する正当な理由にはなりません。
- 患者さんが過去にトラブルを起こしたことがあるという理由: 患者さんとの過去の人間関係やトラブルの有無は、診断書発行義務とは原則として関係ありません。
- 治療費の未払いがあるという理由: 治療費の支払いと診断書の発行は別の問題であり、治療費の未払いをもって診断書発行を拒否することは原則としてできません。
このように、「正当な理由」とは、医師が医学的な根拠に基づき、誠実に診断書を作成することが困難または不適切であると判断される場合に限定されると考えられます。単なる医師側の都合で発行を拒否することは、医師法に反する行為となる可能性があります。
診断書がもらえない主なケースと理由
医師法において診断書交付義務が定められているにも関わらず、実際に診断書の発行を断られるケースはいくつか存在します。これらのケースは、前述の「正当な理由」に該当することが多いため、医師はその根拠に基づいて発行を拒否することになります。ここでは、診断書がもらえない主なケースとその具体的な理由を掘り下げて解説します。
医師が診察していない場合
診断書は、医師が患者さんを直接診察し、その時点または経過における医学的な所見や判断に基づいて作成される公的な書類です。したがって、診断書の交付を求める傷病や状態について、医師がまだ一度も診察を行っていない場合は、診断書を発行することはできません。
例えば、
- 「以前から〇〇という症状があり、会社を休んでいます。まだ診察は受けていませんが、診断書を書いてほしい」
- 「家族が体調不良で入院しているのですが、私が代わりに診断書をもらえますか?」
- 「友人から聞いた話なのですが、△△という病気だと診断書に書いてもらえませんか?」
といった依頼は、医師が直接患者さんを診察し、病状を確認していないため、診断書の作成根拠がありません。医師は自身の目で見て、話を聞き、触診や検査を行い、初めて医学的な診断を下したり、病状を判断することができます。そのプロセスを経ていないにも関わらず診断書を発行することは、医学的な根拠に基づかない不正確な、あるいは虚偽の診断書を発行することになりかねません。これは医師の倫理に反するだけでなく、医師法にも抵触する可能性があるため、医師は必ず診察を行った上でなければ診断書を発行しません。
「診察」とは、医師が患者さんの身体的・精神的な状態を、問診、視診、聴診、触診、検査などの方法を用いて、医学的に評価する行為を指します。単に顔を見た、少し話しただけでは「診察」とは認められない場合もあります。診断書が必要な場合は、まずその傷病について医師に診察を受けることが大前提となります。
傷病の事実や治療経過を医師が確認できない場合
診断書には、患者さんの氏名、生年月日、傷病名、発症または診断日、現在の病状、今後の見込み、療養期間などが記載されます。これらの内容は、医師が患者さんのカルテや検査記録、これまでの治療経過などを確認し、医学的な根拠に基づいて記載する必要があります。
もし、患者さんが主張する傷病の事実や、診断書に記載してほしい特定の治療経過について、医師がカルテなどで確認できる客観的な記録がない場合、医師はその内容を診断書に記載することができません。
例えば、
- 「〇ヶ月前の□□という症状で会社を休みました。その時の診断書を書いてください」と依頼したが、その期間にその医療機関を受診した記録がない。
- 「△△という病気で手術を受けたはずなのですが、いつ頃だったか覚えていません。診断書に手術日を入れてもらえませんか?」と依頼したが、カルテに手術に関する記録がない(他の医療機関で受けた手術の場合など)。
- 「××の症状がひどくて、〇日間は自宅で療養していました」と自己申告しても、その期間に受診の記録がなく、医師がその症状の程度や療養が必要な状態であったことを医学的に確認できない。
といったケースがこれにあたります。医師は、あくまで自身の診察に基づいた事実、または医療機関の記録として残っている事実のみを診断書に記載できます。過去の出来事や他の医療機関での治療について、患者さんの記憶や自己申告だけを根拠に診断書を作成することはできません。特に、数ヶ月、数年といった長期にわたる過去の傷病や療養期間について、当時のカルテや記録が残っていない、あるいは医師が当時の患者さんの状態を医学的に証明できない場合は、診断書の発行は困難となります。
診断書が必要な場合は、医師が事実を確認できるよう、受診した時期や傷病について正確に伝え、必要に応じて関係する医療機関の情報を共有することが求められます。
診断書発行の目的が傷病と直接関係しない場合
診断書は、患者さんの傷病の事実や状態を医学的に証明するための書類です。しかし、診断書の発行を求められる目的が、その傷病や治療とは直接的な関連性がなく、不適切であると医師が判断する場合も、発行を断る正当な理由となります。
例えば、
- 単に学校や会社を休む口実として、実際には軽症であるにも関わらず、重い病状であるかのように記載を求める場合。
- 特定の公的給付や保険金の不正請求のために、病状や経過を偽って記載するよう求める場合。
- 他者とのトラブルや訴訟において、自身の立場を有利にするために、医学的に裏付けのない内容を診断書に記載するよう求める場合。
- 精神的な問題や人間関係のトラブルが主な原因であるにも関わらず、特定の身体的な傷病名を付けて診断書を作成するよう求める場合(精神科医の診断が必要なケースなど)。
これらのケースでは、診断書の発行目的が医学的な証明という本来の目的から逸脱しており、社会的、倫理的に問題があると医師が判断します。医師は、診断書が社会的にどのような影響を与えるかを認識しており、その悪用につながる可能性のある診断書の発行には応じられません。虚偽や不適切な内容の診断書を発行することは、医師自身の信頼性を失墜させるだけでなく、法的な責任を問われる可能性もあります。
診断書が必要な場合は、その診断書が何のために必要なのか、具体的な提出先や目的を正直に医師に伝えることが重要です。医師は、その目的が医学的な証明として適切かどうかを判断し、診断書の記載内容を決定します。
虚偽の内容での診断書作成を求められた場合
前項とも関連しますが、患者さんやその関係者から事実とは異なる内容や、医学的な根拠のない内容を診断書に記載するよう明確に求められた場合は、医師は診断書の発行を断る最も典型的な「正当な理由」となります。
例えば、
- 「実際には〇〇という病気で軽症ですが、会社に長期の休みを認めさせるために、△△というより重い病気だと書いてください。」
- 「熱は下がりましたが、まだ咳が出ます。病状は回復傾向にありますが、診断書にはまだ働くのは難しいと書いてください。」
- 「本当はどこも悪くないのですが、どうしても旅行に行きたいので、仮病の診断書を書いてもらえませんか?」
- 「過去の怪我について、実際よりも後遺症が重いと書いてほしい。」
といった依頼は、すべて虚偽の内容の診断書作成を強要する行為にあたります。医師は、診察結果や客観的な検査データ、医療記録に基づいて、医学的な真実を診断書に記載する義務があります。虚偽の診断書を作成することは、医師の専門家としての誠実さを著しく損なう行為であり、刑法上の公正証書原本不実記載等罪に問われる可能性すらあります。
医師は、患者さんからの信頼を得るために誠実な医療を提供しますが、それはあくまで医学的な真実に基づいたものです。患者さんの個人的な都合や不正な目的のために、事実を曲げて診断書を作成することは絶対にできません。
診断書は、個人の病状を証明するだけでなく、社会的な信用にも関わる重要な書類です。虚偽の記載を求めることは、医師だけでなく、患者さん自身も法的な問題に巻き込まれるリスクがあるため、決して行わないでください。
過去に遡って診断書を求める場合
特定の期間について診断書が必要になることはよくあります。しかし、その期間が大幅に過去に遡る場合は、診断書の発行が難しくなることがあります。その理由は、医師が当時の患者さんの状態を医学的に正確に証明することが困難になるためです。
例えば、
- 「半年前から体調が悪く、その間ずっと自宅療養していました。今から半年前の診断書を書いてもらえませんか?」
- 「去年の春に怪我をして、数週間会社を休みました。当時の診断書が必要です。」
といった依頼がこれにあたります。医師は、診断書を作成する時点で、患者さんの現在の病状を確認するとともに、過去の病状や経過についてはカルテなどの医療記録に基づいて判断します。しかし、長期間が経過している場合、当時の診察記録が残っていない、あるいは記録があっても当時の症状の程度や状態を現在の診断書として適切に表現することが難しい場合があります。
特に、その期間にその医療機関を受診した記録が全くない場合は、医師はその期間の患者さんの状態を医学的に確認する術がないため、診断書を作成することは不可能です。たとえ患者さんが「確かにその時期に体調が悪かった」と主張しても、医師の診察や記録による裏付けがなければ、医学的な証明にはなりません。
また、医師法第20条は「診察をしたときは、診断書若しくは検案書…を交付しなければならない」と規定しており、原則として診察に基づいた診断書を想定しています。過去の出来事であっても、その時点での診察に基づいた診断書であれば発行は可能ですが、多くの場合は過去に遡って「〇年〇月〇日から△年△月△日まで自宅療養が必要であった」といった形式の診断書を新たに作成するには、当時の医学的な根拠が必要になります。
過去の期間に関する診断書が必要な場合は、まずその期間に受診した医療機関に相談するのが最善です。当時のカルテが残っていれば、それに基づいて診断書を作成してもらえる可能性があります。もし、受診記録がない場合は、その期間の診断書の発行は極めて困難になることを理解しておく必要があります。
診断書がもらえない場合の対処法
診断書の発行を医師に断られてしまった場合、あるいは上記のケースに該当しそうで診断書がもらえない可能性があると感じた場合、どうすれば良いのでしょうか。諦めるしかない、ということはありません。状況に応じていくつかの対処法を検討することができます。
医師に必要な理由や背景を正確に伝える
診断書の発行を依頼する際に、医師に「何のために診断書が必要なのか」「提出先はどこか」「診断書に記載してほしい期間や内容の背景」などを正確かつ具体的に伝えることは非常に重要です。医師は、その診断書がどのような目的で使用されるかを理解することで、適切な内容の診断書を作成するための判断材料を得ることができます。
例えば、「会社に病気で休んだことを証明するため」だけでなく、「〇月〇日から△月△日まで体調不良で休職しており、復職にあたって会社から病状と療養期間の証明書の提出を求められている」「休職期間中の給与や福利厚生に関わる手続きで必要」といった具体的な状況を説明することで、医師は診断書の重要性や、記載すべき事項の要点を把握しやすくなります。
また、もし過去の期間について診断書が必要な場合は、いつ頃、どのような症状で困っていたのか、その期間に他の医療機関を受診したか(していればその医療機関名など)、市販薬で対応したのか、自宅でどのように過ごしていたのかなど、覚えている範囲で当時の状況を具体的に説明してみましょう。これにより、医師がカルテを遡って確認する手がかりになったり、診断書ではなくても、当時の受診記録に基づいた「受診証明書」など、代替となる書類の発行が可能かどうかを検討してもらえる可能性があります。
コミュニケーション不足が原因で、医師が診断書発行の適切な判断ができない場合もあります。まずは落ち着いて、診断書が必要な背景や理由を丁寧に説明してみましょう。
他の医療機関でセカンドオピニオンを受ける
現在の主治医から診断書の発行を断られた場合でも、それが医学的な判断に関わる理由であるならば、他の医療機関でセカンドオピニオンを受けるという選択肢があります。
セカンドオピニオンとは、現在の主治医以外の医師に、現在の診断や治療方針について意見を求めることです。診断書の発行に関しても、現在の主治医の判断に納得がいかない場合や、他の医師の視点からの診断や病状の評価を求める場合に有効な手段となり得ます。
例えば、
- 現在の主治医が、患者さんの訴える症状について「医学的に診断が難しい」「診断書を作成できるほどの病状ではない」と判断した場合。
- 過去の傷病や療養期間について、現在の主治医が「当時の状態を証明できない」と判断した場合。
このような場合に、別の専門医や他の医療機関を受診し、現在の病状を改めて診察してもらう、あるいは過去の症状について相談することで、別の医師が診断や病状の評価を行い、診断書の発行が可能と判断する可能性があります。ただし、セカンドオピニオンを受けた医師も、初診で過去に遡った診断書を発行することは難しいことがほとんどです。あくまで「現在の病状」について診断書を発行してもらう、あるいは、過去の症状について相談し、当時の状況を把握してもらった上で、発行の可能性を探るということになります。
セカンドオピニオンを受ける際は、現在の医療機関からの紹介状や検査データなどを持参すると、スムーズに診療が進みます。ただし、セカンドオピニオンは自由診療となる場合が多く、費用がかかることに注意が必要です。
会社や関係機関に相談する
診断書の提出を求められているのが、会社、学校、保険会社、あるいはその他の公的機関などである場合、診断書がもらえない旨とその理由を正直に伝え、代替となる書類で対応可能か相談することも重要な対処法です。
診断書は、提出先が患者さんの病状や療養の必要性を確認するための手段です。診断書の発行が難しい「正当な理由」があることを説明し、医師からは診断書が発行できない旨を伝えられたことを説明しましょう。その上で、
- 「診断書の発行は難しいと言われたのですが、他に提出できる書類はありますか?」
- 「医師からは受診証明書なら発行可能と言われましたが、それでも対応できますか?」
- 「病気で休んだ期間について、医師の証明が得られない場合、他にどのような書類で証明できますか?」
といった形で相談を持ちかけます。提出先によっては、診断書以外にも、受診証明書、診療明細書、薬剤情報提供書など、他の書類で病気や怪我で医療機関を受診した事実や、受けた医療の内容を証明することで、目的を達成できる場合があります。
特に、過去の休職や欠勤について診断書が必要な場合で、当時の医療記録がないため診断書の発行が難しいケースでは、提出先に正直に事情を説明し、代替手段について相談することが不可欠です。提出先の担当部署(人事部、総務部、学校の事務室など)の指示を仰ぎましょう。
診断書の代替となる書類を確認する
前項とも関連しますが、診断書がもらえない場合に代替となりうる書類を具体的に知っておくことは有効です。提出先によっては、診断書と同等の証明力はないとしても、状況を説明するための資料として認めてもらえることがあります。
診断書の代替となりうる主な書類には、以下のようなものがあります。
書類の種類 | 内容 | 証明できること | 診断書との違い |
---|---|---|---|
受診証明書 | 特定の日に、特定の医療機関を受診したこと、および診療科を証明する書類。 | いつ、どこの医療機関で、何科を受診したかという事実。 | 病名や病状、今後の見込み、療養期間といった医学的な詳細や医師の判断は記載されない。 受診したことのみの証明。 |
診療明細書 | 医療機関で受けた診療内容(検査、投薬、処置など)や、かかった医療費が記載された書類。 | 受けた医療行為の内容、傷病名(レセプト上の略称の場合あり)、医療費の金額。 | 病状の詳細は不明。あくまで診療内容と費用、レセプト上の傷病名を示すもので、医師の包括的な診断や判断は含まれない。 |
領収書 | 医療費を支払ったことを証明する書類。 | いつ、どこの医療機関で、いくら支払ったかという事実。 | 診療内容や病名、病状に関する情報は記載されていない。 |
薬剤情報提供書 | 処方された薬の名前、量、用法、効能、副作用などが記載された書類。 | どのような薬が、いつ処方されたか。傷病名が記載されることもある。 | 処方された薬に関する情報が中心。病状や療養期間といった医学的な詳細や医師の判断は含まれない。 |
紹介状(診療情報提供書) | 他の医療機関への受診時に、現在の医療機関から発行される、これまでの経過などが記載された書類。 | 現在の病状、これまでの検査結果、治療経過、医師の所見などが詳細に記載されている。 | 特定の目的(休職証明など)のために記載される診断書とは異なり、あくまで紹介目的の書類。病状の詳細はわかるが、形式は異なる。 |
傷病手当金申請書(医師記入欄) | 健康保険組合等に提出する申請書の医師が記入する部分。 | 傷病名、発症日、労務不能期間、療養内容など、診断書に近い内容が記載される。 | 診断書そのものではなく、特定の申請書類の一部。提出先が限られる。 |
これらの書類が診断書の代わりになるかどうかは、提出先の判断によります。まずは提出先に相談し、どのような書類であれば受け付けてもらえるかを確認することが先決です。医師には、これらの代替書類の発行が可能かどうかを相談してみましょう。多くの場合、受診証明書や診療明細書であれば、診断書よりも容易に発行してもらえる可能性があります。
オンライン診療を検討する
特定の状況下では、オンライン診療を利用して診断書の発行を依頼できる可能性もあります。ただし、これはオンライン診療で対応可能な傷病や症状に限られ、全ての診断書に対応できるわけではありません。
オンライン診療は、スマートフォンやパソコンを通じて医師の診察を受ける方法です。直接医療機関に出向く必要がないため、忙しい方や自宅から医療機関が遠い方、あるいは体調が優れず外出が難しい方にとって便利な選択肢となり得ます。
オンライン診療で診断書の発行が可能となるのは、主に以下のようなケースです。
- オンライン診療で診断・治療が可能な傷病について、医師がオンラインでの診察を通じて医学的に診断書作成の根拠を得られる場合。例えば、風邪やインフルエンザ、一部の皮膚疾患など、問診や視診(映像を通じて)で診断が可能と医師が判断した場合。
- 特定の目的(例えば、簡単な病状証明、就労可否の判断など)のために、オンライン診療で得られた情報のみで診断書作成が可能と医師が判断した場合。
一方で、以下のようなケースでは、オンライン診療では診断書の発行は難しいと考えられます。
- 詳細な身体診察や検査(採血、レントゲン、MRIなど)が必要な傷病の場合。
- 過去に遡った期間の診断書が必要な場合。
- 病状が重篤で、対面での診察や入院が必要な可能性がある場合。
- 精神疾患など、専門医による対面での詳細な評価が必須となる場合。
オンライン診療で診断書の発行を希望する場合は、事前にそのオンライン診療サービスや医療機関が、希望する診断書の目的や内容に対応しているかを必ず確認してください。多くのオンライン診療サービスでは、対応可能な診断書の種類や発行条件を明記しています。また、医師の判断によっては、オンライン診療では診断書を発行できず、対面診療を勧められる場合もあります。
オンライン診療はあくまで一つの選択肢であり、診断書の目的や傷病の種類によっては利用できない場合があることを理解しておきましょう。
診断書発行にかかる料金と日数
診断書の発行にかかる料金と日数は、医療機関によって大きく異なります。診断書は原則として健康保険が適用されない自由診療となるため、料金設定は各医療機関が独自に行っています。
料金:
- 一般的な診断書: 2,000円~10,000円程度が相場とされています。簡単な就労証明書や療養期間の証明書であれば比較的安価な傾向がありますが、傷病の状態や経過を詳しく記載する必要がある診断書や、特定の書式(生命保険会社指定など)の場合は高額になることもあります。
- 特定の目的の診断書: 障害年金や労災保険、学校指定の書式など、特定の目的のために詳細な記載が必要な診断書は、一般的な診断書よりも料金が高くなる傾向があります。5,000円~1万円を超える場合もあります。
- 受診証明書や領収書: これらは診断書よりも安価な場合が多く、数百円程度で発行してもらえることがあります。
料金については、依頼する際に医療機関の受付や医師に必ず確認しましょう。
日数:
- 即日発行: 簡単な診断書や、医師の判断がすぐに可能な場合は、診察当日に発行してもらえることもあります。
- 数日程度: 一般的には、依頼してから発行までに数日かかることが多いです。医師がカルテを確認したり、内容を検討する時間が必要なためです。
- 1週間~数週間: 複雑な内容の診断書、過去に遡った期間に関する診断書、あるいは特定の様式に合わせて作成する必要がある診断書の場合は、作成に時間がかかり、1週間~数週間程度かかることもあります。また、医師の外来日や専門性によっては、さらに時間がかかる場合もあります。
必要な診断書の種類や記載内容によって日数は大きく変わります。提出期限がある場合は、余裕を持って早めに医師に依頼し、発行にかかる日数の目安を確認しておくことが重要です。「急ぎで必要」と伝えても、医師の業務状況や診断書の性質によっては対応できない場合があることを理解しておきましょう。
料金と日数は、診断書の発行を依頼する前に確認しておくことで、スムーズな手続きにつながります。
まとめ:診断書がもらえない場合は状況に応じた対応を
診断書が必要なのに「もらえない」という状況は、多くの方にとって不安を感じるものです。しかし、医師が診断書の発行を断る場合には、医師法上の「正当な理由」や医学的な根拠が存在します。診断書は医師が診察に基づき、医学的な事実を証明する重要な書類であり、医師はその信頼性を保つ義務があります。
診断書がもらえない主なケースとしては、医師が診察していない場合、傷病の事実や治療経過を医師が確認できない場合、診断書発行の目的が不適切な場合、虚偽の内容での作成を求められた場合、そして過去に大幅に遡った期間の診断書を求める場合などがあります。これらのケースでは、医師は医学的・倫理的・法的な観点から診断書の発行が困難であると判断します。
もし診断書がもらえなかった場合は、諦めずに状況に応じた対応を検討することが大切です。
- 医師に必要な理由や背景を正確に伝える: 診断書が必要な目的や状況を具体的に説明することで、医師が発行の可否や代替書類の可能性を検討しやすくなります。
- 他の医療機関でセカンドオピニオンを受ける: 現在の医師の判断に納得がいかない場合や、別の視点からの評価が必要な場合に有効です。ただし、過去の診断書の発行は難しいことが多いです。
- 会社や関係機関に相談する: 診断書の提出先(会社、学校など)に、診断書がもらえない旨とその理由を説明し、代替となる書類で対応可能か相談しましょう。
- 診断書の代替となる書類を確認する: 受診証明書や診療明細書など、診断書以外で病気や受診の事実を証明できる書類がないか確認し、提出先と相談の上、医師に発行を依頼できるか確認してみましょう。
- オンライン診療を検討する: 一部の軽微な傷病であれば、オンライン診療で診断書の発行が可能な場合もありますが、全てのケースに対応できるわけではありません。
診断書の発行には、医療機関ごとに定められた料金と日数がかかります。これらは自由診療であり、医療機関によって異なりますので、依頼する際に必ず確認してください。
診断書の発行に関する疑問や困難に直面した際は、まずは率直に医師に相談し、診断書の必要性や状況を正確に伝えることから始めましょう。そして、診断書の代替となりうる書類や、提出先との連携も視野に入れ、適切な対応を取ることが、問題を解決するための鍵となります。
免責事項: 本記事の情報は一般的な知識として提供するものであり、個別の状況に対する医学的診断や法的な助言を行うものではありません。診断書の発行可否や内容については、必ず医療機関の医師にご相談ください。