MENU

大人の自閉症かも?特徴と診断|生きづらさの原因と対処法

自閉症スペクトラム障害(ASD)は、生まれつきの特性であり、大人になってからその特性に気づき、診断を受ける方も少なくありません。
「自閉症 大人」というキーワードで情報をお探しの方は、ご自身の、あるいは身近な方の抱える生きづらさや特性について理解を深めたいと考えていることでしょう。
この記事では、大人の自閉症(ASD)の基本的な知識から、よく見られる特徴、診断プロセス、そしてより良い日常生活を送るための対応策や支援について、専門家の視点から詳しく解説します。
ご自身の特性を理解し、より自分らしい生き方を見つけるための一助となれば幸いです。

目次

大人の自閉症(ASD)とは?

自閉症スペクトラム障害(ASD)は、発達障害の一つであり、主に「対人関係やコミュニケーションの困難」「限定された興味やこだわり、反復的な行動」といった特性が見られます。かつては自閉症、アスペルガー症候群、広汎性発達障害などが別々の診断名として扱われていましたが、現在は特性の連続性を示すスペクトラムとして理解され、DSM-5(診断基準)では「自閉症スペクトラム障害」という一つの診断名に統合されています。

ASDの特性は、知的障害の有無や程度によって現れ方が大きく異なります。知的障害を伴わない場合を高機能自閉症やアスペルガー症候群と呼ぶこともありますが、現在はすべてASDに含まれます。これらの特性は幼少期から見られますが、大人になってから社会生活の中で困難を感じたり、人間関係のつまづきを経験したりすることで、初めてASDの診断に繋がるケースも少なくありません。

大人になってから自閉症と診断されるケース

ASDの特性は生まれつきのものですが、幼少期には目立たなかったり、周囲や本人が特性に気づきにくかったりすることがあります。特に知的障害を伴わない場合や、特性が比較的軽度である場合は、学生時代までは大きな問題なく過ごせることもあります。

しかし、社会人になり、より複雑で曖昧な人間関係や、暗黙のルールの多い職場環境に適応しようとする中で、コミュニケーションの難しさや、予想外の変化への対応の困難さなどから生きづらさを強く感じるようになることがあります。学生時代に比べて、人間関係の構築や維持にエネルギーが必要になったり、仕事の指示が理解しづらかったり、周囲とのペースが合わなかったりといった経験を通して、「自分は他の人と何か違うのではないか」と感じ、医療機関を受診した結果、ASDと診断されるというケースが増えています。

また、子育てをする中で、ご自身のお子さんが発達障害の診断を受けたことをきっかけに、自身も同じような特性を持っているのではないかと気づき、診断に至る方もいます。

自閉症(ASD)の原因と診断基準

ASDの原因は一つに特定されていませんが、遺伝的な要因と環境的な要因が複雑に関係して発症すると考えられています。特定の遺伝子の変異や、妊娠中・周産期における様々なリスク因子との関連が研究されていますが、特定の原因物質や行動があるわけではありません。親の育て方や愛情不足が原因ではないことが、科学的に明らかになっています。脳の機能や構造の一部に、定型発達とは異なる部分があると考えられていますが、その全容はまだ解明されていません。

ASDの診断は、医師が国際的な診断基準であるDSM-5やICD-10などに基づいて行います。診断基準では、以下の3つの項目における持続的な対人相互作用および社会的コミュニケーションの障害と、2つの項目における限定的、反復的様式の行動、興味、活動の存在が評価されます。

DSM-5によるASDの診断基準(概要)

項目 内容
A. 社会的コミュニケーションと相互作用の持続的な欠陥 以下のすべてにわたって見られるもの
1. 社会的情緒的な相互交渉の欠陥
2. 非言語的コミュニケーション行動の欠陥
3. 関係性の発展、維持、理解における欠陥
B. 限定的、反復的様式の行動、興味、活動 以下の少なくとも2つにおいて示されるもの
1. 常同的または反復的な運動動作、ものを使用すること、または会話
2. 同一性への固執、非機能的な日課への融通のきかない執着、または様式化した行動パターン
3. 強度または対象のいずれかにおいて異常な、きわめて限定され固執した興味
4. 感覚入力に対する、感覚過敏または感覚鈍麻、あるいは環境に対する並外れた興味
C. 症状は発達早期に存在する (ただし、社会的、言語的な要求が能力を上回るまで顕在化しないこともある)
D. 症状は社会的、職業的、または他の重要な機能領域における臨床的に意味のある障害を引き起こしている
E. これらの障害は知的発達症(知的障害)または全般性発達遅延によってよりよく説明されない (知的発達症とASDは併存しうる。併存診断する場合は、社会的コミュニケーションは一般的な発達水準より低いことが必要)

診断は、問診(本人や家族への聞き取り、生育歴の確認)、行動観察、必要に応じて心理検査(知能検査、自閉症関連の質問紙など)を組み合わせて総合的に行われます。自己申告やチェックリストだけで診断が確定するものではなく、専門家による慎重な判断が必要です。

自閉症(ASD)の大人によく見られる特徴

ASDの特性は非常に多様であり、一人ひとり異なります。また、同じ特性を持っていても、その現れ方や困りごとの内容は、環境や本人の工夫(カモフラージュ)によって大きく変わります。ここでは、大人のASDによく見られる一般的な特徴をいくつかご紹介します。

成人自閉症の主な症状・特性(三大特徴を含む)

ASDの主な特性は、前述の診断基準にも含まれる「対人関係やコミュニケーションの困難」「限定的な興味やこだわり、反復行動」に加え、「感覚特性(感覚過敏・感覚鈍麻)」が挙げられることが多く、これらを「三大特徴」と呼ぶこともあります。

対人関係やコミュニケーションの困難

対人関係やコミュニケーションに関する困難は、大人のASDの方が最も生きづらさを感じやすい特性の一つです。具体的には以下のような形で現れることがあります。

  • 非言語コミュニケーションの理解・使用の困難さ: 相手の表情、声のトーン、ジェスチャーから感情や意図を読み取ることが苦手な場合があります。また、自身の感情を表情や声のトーンで適切に表現することも苦手なことがあります。皮肉や冗談が通じにくかったり、場の空気を読むことが難しかったりします。
  • 会話のキャッチボールの難しさ: 自分の話したいことを一方的に話してしまったり、相手の話の意図を掴めずに頓珍漢な返答をしてしまったりすることがあります。世間話や社交辞令が苦手で、何を話せば良いか分からず沈黙してしまったり、逆に質問攻めにしてしまったりすることもあります。
  • 暗黙のルールの理解の難しさ: 社会や集団の中に存在する、明文化されていないルールやマナーを自然に学ぶことが苦手な場合があります。「報連相(報告・連絡・相談)」のタイミングが分からない、職場の飲み会での振る舞いが分からない、といった形で現れることがあります。
  • 関係性の構築・維持の難しさ: 友人を作る、親密な関係を維持するといったことが難しいと感じることがあります。興味や関心が合う人とは深く付き合える一方、それ以外の人とはどう関わっていいか分からず、孤立してしまうこともあります。

限定的な興味やこだわり、反復行動

特定の物事への強い興味や、特定のやり方へのこだわりもASDの大きな特徴です。

  • 強い興味・関心: 特定の分野やテーマに対して、非常に強い興味を持ち、人並み外れた知識や情報を収集することがあります。仕事や趣味でその興味を活かせる場合は大きな強みになりますが、それ以外の話題には全く興味を示さず、話についていけないこともあります。
  • 同一性への固執・変化への抵抗: 毎日同じルートで通勤する、食事のメニューが決まっている、特定の順番で物事を行うなど、決まった手順やルーチンに強くこだわる傾向があります。予定外の変更や急な状況の変化に弱く、混乱したり強い不安を感じたりすることがあります。
  • 反復行動・常同行動: 体を揺らす、手をひらひらさせる、特定の音を繰り返す、意味のない言葉を繰り返す(エコラリア)といった反復的な行動が見られることがあります。大人になると目立たなくなる方もいますが、ストレスや緊張を感じた際に現れることがあります。また、特定のフレーズや口癖を繰り返すこともあります。
  • コレクション癖: 特定の物を集めることに強い関心を示すことがあります。実用的なものではなく、特定のテーマに沿った物を集めることに強いこだわりを持つ場合があります。

感覚過敏・感覚鈍麻

ASDのある方の中には、特定の感覚刺激に対して過敏すぎたり、逆に鈍麻すぎたりする特性を持つ方が多くいます。これは診断基準の項目Bにも含まれる重要な特性です。

  • 感覚過敏: 特定の音(掃除機、赤ちゃんの泣き声、機械音など)や光(蛍光灯のちらつき)、匂い、肌触り(特定の衣類のタグ、締め付けなど)に対して非常に敏感で、強い不快感や苦痛を感じることがあります。些細な刺激が気になって集中できなかったり、人混みや特定の場所に行くことが難しくなったりします。
  • 感覚鈍麻: 痛みや温度に気づきにくい、空腹や満腹を感じにくい、自分の体の位置感覚が掴みにくいといったことがあります。怪我をしているのに気づかなかったり、寒暖差に対応できなかったりすることがあります。
  • 特定の感覚への強い興味: 特定の手触りや光の点滅、回転するものなどに強い興味を示し、じっと見続けたり触り続けたりすることがあります。

これらの感覚特性は、日常生活におけるストレスの大きな原因となることがあり、対応策を講じることが生きづらさの軽減に繋がります。

高機能自閉症の大人について(知的な遅れがない場合)

「高機能自閉症」は、かつて用いられていた診断名で、知的障害を伴わない自閉症スペクトラム障害を指します。知的な発達に遅れがないため、幼少期から言葉の遅れがない、むしろ言葉の発達が早いといったケースも見られます。

知的な能力が高い分、社会のルールや常識を知識として理解することはできますが、直感的に「空気を読む」ことや、人間関係の機微を理解することは苦手なままです。そのため、知識があっても実践に活かせず、社会生活や人間関係で困難を感じることが多いのが特徴です。

高機能自閉症の大人の中には、自身の特性を理解し、知識や論理でカバーしたり、独自の工夫を凝らしたりすることで、高い専門性を活かして社会的に成功している方もいます。しかし、その一方で、社会の複雑さや人間関係のストレスに適応できず、二次的な精神疾患(うつ病、不安障害など)を発症することもあります。

軽度の自閉症(ASD)の特性

ASDの特性はスペクトラムであり、その現れ方には大きな幅があります。「軽度」のASDという表現は診断名ではありませんが、特性が比較的穏やかで、日常生活や社会生活に大きな困難をきたしていないように見える場合を指すことがあります。

軽度に見える方でも、内面では強い生きづらさを感じていたり、特性を隠すために多大なエネルギーを使っていたりすることがあります(カモフラージュ、マスク)。例えば、会話のテンポが少しずれる、特定の話題に固執する、冗談が苦手といった形で特性が現れる程度で、周囲から「ちょっと変わった人」と思われることはあっても、障害として認識されない場合があります。

しかし、結婚や子育て、管理職への昇進など、人生のステージが進み、求められるコミュニケーション能力や柔軟性が高まるにつれて、特性による困難が顕在化し、生きづらさを感じ始めることがあります。「軽度」に見えても、適切な自己理解と対応策は、より快適な生活を送る上で非常に重要です。

自分が自閉症(ASD)かもしれないと感じたら

もし、これまでに述べた大人のASDの特性に心当たりがあり、「自分は自閉症(ASD)かもしれない」と感じているなら、まずは特性について正しく理解することが大切です。

成人自閉症の自己診断テストは参考になる?

インターネット上には、自閉症スペクトラム傾向を測るための様々な自己診断テスト(チェックリスト)が存在します。これらのテストは、自分がASDの特性を持っているかどうかを考えるきっかけになったり、自身の特性を客観的に見つめ直す材料になったりするため、参考にするのは良いでしょう。

代表的なものとしては、AQ(自閉症スペクトラム指数)やASRS(成人期ADHD/ASD質問票)などがあります。これらのテストは、ASDに特徴的な行動や考え方に関する質問に回答することで、ASD傾向の強さを数値化するものです。

ただし、重要な注意点があります。 これらの自己診断テストは、あくまで「ASD傾向があるかどうか」の可能性を示唆するものであり、医学的な診断を確定するものではありません。 テストの結果だけで「自分はASDだ」と断定したり、逆に「ASDではない」と決めつけたりすることは適切ではありません。自己診断テストで高い数値が出た場合でも、必ず専門家(医師)による正確な診断を受けることが重要です。

専門機関での正確な診断プロセス

ASDの正確な診断は、精神科医や心療内科医、または発達障害の専門医がいる医療機関で行われます。大人になってから診断を受ける場合、主に以下のようなプロセスを経て診断が行われることが一般的です。

  • 情報収集(問診、生育歴の確認):
    • 現在困っていること(仕事、人間関係、日常生活など)について詳しく聞き取りが行われます。
    • 幼少期からの生育歴が非常に重要視されます。親や学校の先生など、本人の幼い頃を知っている人からの情報(母子手帳、通知表、連絡帳など)があると、より正確な判断につながります。可能であれば、保護者や配偶者など、一緒に医療機関を訪れてくれる人がいると、より多角的な情報が得られます。
    • 過去の病歴や、現在服用している薬についても確認されます。
  • 行動観察:
    • 医師は、診察中の本人の様子(会話の仕方、視線、身振り手振りなど)を観察し、診断の参考にします。
  • 心理検査:
    • 知能検査(WAISなど)が行われることがあります。これは、本人の得意なことや苦手なこと(言語理解、知覚統合、ワーキングメモリ、処理速度など)を把握し、特性の偏りがないかを確認するためです。
    • ASDに関連する特性を評価するための質問紙(AQ、PARSなど)や、特定の課題を通してコミュニケーション能力や社会性を評価する検査(ADOSなど)が行われることもあります。
    • うつ病や不安障害など、二次的な精神疾患の可能性を探るための検査が行われることもあります。
  • 総合的な判断:
    • これらの情報(問診、生育歴、行動観察、検査結果)を総合的に評価し、診断基準に照らし合わせて、医師が最終的な診断を下します。一度の診察で診断が確定するとは限らず、数回にわたる診察や検査が必要な場合もあります。

診断を受けることは、ご自身の抱える困難が個人的な能力の問題ではなく、発達特性によるものであると理解し、適切な対応策や支援に繋げるための第一歩となります。診断を受けるかどうかは本人の意思によりますが、生きづらさを感じているのであれば、一度専門機関に相談してみることを検討しても良いでしょう。

自閉症(ASD)の大人とのより良い関わり方

周囲に自閉症(ASD)の特性を持つ方がいる場合、特性を理解し、コミュニケーションや接し方を工夫することで、より円滑な関係を築くことができます。

周囲の理解とコミュニケーションのポイント

ASDの特性を持つ方とのコミュニケーションでは、以下のような点を意識することが有効です。

  • 肯定的な理解を持つ: まず、ASDは病気ではなく、脳の特性による「違い」であることを理解することが重要です。「なぜこんなことも分からないんだろう」と責めるのではなく、「特性として、こういう表現や理解の仕方をすることがあるんだな」と受け止める姿勢が大切です。
  • 明確で具体的に伝える: 曖昧な指示や遠回しな表現は伝わりにくいことがあります。「いい感じにやっておいて」「適当に」「後で時間がある時に」といった言葉は避け、「〇月〇日△時までに、この書類を□□さんに渡してください」のように、いつ、何を、どのようにするのかを具体的に伝えましょう。
  • 言葉の裏や行間を読ませすぎない: 皮肉、冗談、比喩、建て前、社交辞令などが苦手な場合があります。文字通りの意味で受け取ることが多いので、言葉の真意をストレートに伝えるように心がけましょう。
  • 一度に多くの情報を与えすぎない: 同時に複数の指示を出されたり、多くの情報を提供されたりすると、混乱してしまうことがあります。一つずつ順番に伝えたり、重要な情報を整理して伝えたりすることが有効です。
  • 視覚的な情報を活用する: 口頭での指示だけでなく、メモ、メール、リスト、図、写真など、視覚的な情報と合わせて伝えることで、理解が深まることがあります。マニュアルやチェックリストがあると、安心して作業を進められることもあります。
  • 変化の予告をする: 予定の変更や急な変更が苦手なため、事前に変更があることを伝え、心づもりを促すことが有効です。なぜ変更が必要なのか理由を添えると、納得しやすくなる場合があります。
  • 興味やこだわりを否定しない: 特定の物事に対する強い興味やこだわりは、その方の大切な一部です。それを頭ごなしに否定するのではなく、理解しようとする姿勢を見せたり、肯定的に捉えたりすることで、信頼関係を築きやすくなります。ただし、周囲に迷惑をかけたり、本人にとって不利益になったりするこだわりについては、一緒に折り合いのつけ方を考えるサポートが必要な場合もあります。
  • 落ち着ける環境に配慮する: 感覚過敏がある場合、特定の音や光、匂いなどがストレスになることがあります。可能であれば、静かな場所や刺激の少ない環境を提供したり、休憩時間を設けたりといった配慮があると良いでしょう。

日常生活や仕事における具体的な対応・工夫

ASDの特性による生きづらさを軽減するためには、本人や周囲が具体的な対応や工夫を実践することが有効です。

日常生活での工夫

  • ルーチンを作る: 毎日の行動をルーチン化することで、見通しが立ちやすくなり、不安を軽減できます。
  • タスク管理ツールを使う: ToDoリスト、カレンダーアプリ、リマインダーなどを活用し、やるべきことや予定を視覚的に管理します。
  • 整理整頓のルールを決める: 物の置き場所を決めるなど、独自の整理整頓のルールを作ることで、探し物をするストレスを減らせます。
  • 感覚過敏対策: 耳栓やノイズキャンセリングイヤホンで騒音を軽減する、サングラスや帽子で光を和らげる、肌触りの良い服を選ぶ、香りの強いものを避けるなど、感覚刺激から身を守る工夫をします。
  • 休憩をしっかりとる: 一人になれる静かな場所で休憩をとるなど、感覚的な疲労や対人関係でのストレスを解消する時間を持つことが重要です。
  • 運動を取り入れる: 適度な運動は、感覚統合を促したり、ストレスを軽減したりする効果が期待できます。

仕事での工夫

  • 上司や同僚に特性を伝える(可能な範囲で): 信頼できる上司や同僚に、自身の特性(例:「耳からの情報より視覚情報の方が得意です」「急な変更が苦手です」など)を伝えておくことで、必要な配慮を得やすくなります。ただし、伝えるかどうかは本人の判断によります。
  • 指示を具体的に確認する: 曖昧な指示を受けた場合は、「これは〇〇ということで合っていますか?」「具体的にどのような状態になれば完了ですか?」など、積極的に質問して内容を明確にします。
  • タスクを細分化する: 大きな仕事は、小さなステップに分解し、一つずつクリアしていくようにします。
  • 報告・連絡・相談のタイミングや頻度を決める: 上司と相談し、報告・連絡・相談を行うタイミングや形式についてルールを決めておくことで、スムーズな情報共有が可能になります。
  • 周囲とのコミュニケーションのツールを工夫する: 口頭での会話が苦手な場合は、メールやチャットツールを積極的に活用するのも有効です。
  • 集中できる環境を作る: パーテーションで仕切る、イヤホンをするなど、外部の刺激を遮断できる環境を整えることで、集中力を維持しやすくなります。
  • 休憩時間の取り方を工夫する: 休憩時間中に一人になれる場所を探したり、特定の興味に没頭できる時間を作ったりします。

これらの工夫は、あくまで一般的な例であり、ご自身の特性に合わせてカスタマイズすることが重要です。

自閉症(ASD)の大人への治療と支援

自閉症スペクトラム障害は、生まれつきの脳の特性であり、病気のように「治る」ものではありません。しかし、適切な「治療」や「支援」を受けることで、特性による困難を軽減し、社会への適応力を高め、より豊かな人生を送ることが可能です。

自閉症は一生の特性?改善は可能か?

はい、自閉症スペクトラム障害は生涯にわたる特性です。しかし、これは悲観すべきことではありません。特性そのものが消えるわけではありませんが、年齢とともに状況理解が深まったり、経験を積んだり、適切な支援を受けたりすることで、特性との付き合い方を学び、社会生活での困難を軽減していくことは十分に可能です。

例えば、子どもの頃は人との関わりが難しかった方でも、大人になり、自身の特性を理解した上でコミュニケーションの方法を学習したり、共通の趣味を持つ仲間と出会ったりすることで、充実した人間関係を築けるようになることがあります。また、特定のこだわりを仕事や趣味として活かすことで、社会貢献に繋げたり、経済的な自立を果たしたりすることも可能です。

重要なのは、「治す」ことではなく、ご自身の特性を正しく理解し、特性を考慮した上で、どのように社会と折り合いをつけ、自分らしく生きていくかを見つけることです。これは、自分自身と向き合い、成長していくプロセスと言えます。

治療・支援のアプローチ(心理療法、SSTなど)

大人のASDに対する「治療」や「支援」には、薬物療法、心理療法、ソーシャルスキルトレーニング(SST)、ペアレントトレーニング(成人のパートナー向けなど)、環境調整、就労支援など、様々なアプローチがあります。

  • 薬物療法: ASDの核となる特性(対人関係の困難、こだわりなど)を直接的に改善する薬はありません。しかし、ASDに併存しやすい二次的な精神疾患(うつ病、不安障害、睡眠障害など)や、特性に伴う強いイライラや衝動性、不注意などに対して、症状を和らげるために薬が処方されることがあります。
  • 心理療法: 認知行動療法(CBT)などが有効な場合があります。自身の思考パターンや行動パターンを客観的に捉え、生きづらさにつながる考え方や行動を修正していくことを目指します。不安やストレスへの対処法を学ぶのにも役立ちます。
  • ソーシャルスキルトレーニング(SST): 対人関係や社会生活で必要なスキル(挨拶、会話の開始・終了、誘いの断り方、主張の仕方など)を、ロールプレイングなどを通して具体的に学ぶトレーニングです。集団で行われることもあり、他の参加者との交流を通じて学ぶことも多いです。
  • ペアレントトレーニング(パートナー・家族向け): 子育ての文脈で用いられることが多いですが、ASDを持つ大人のパートナーや家族が、ASDの特性を理解し、本人への適切な接し方やサポートの方法を学ぶためのプログラムです。本人も一緒に参加できる場合や、本人向けの同様のプログラム(例:成人向けSST)と並行して行われる場合もあります。
  • 環境調整: 自宅や職場などの物理的な環境を、本人の感覚特性や集中力の特性に合わせて調整する支援です(例:静かな作業スペースの確保、騒音対策、照明の調整など)。
  • 就労支援: ASDの特性を持つ方が、自身の特性や強みを活かせる仕事を見つけ、安定して働き続けるための支援です。就労移行支援事業所やハローワークの専門窓口などで、適性検査、職業訓練、求職活動のサポート、職場への定着支援などが行われます。
  • 生活スキル向上支援: 金銭管理、健康管理、家事など、日常生活を営む上で必要なスキルを身につけるための支援です。

これらの支援は、個々の特性や困りごと、ニーズに合わせて組み合わせて行われます。どんな支援が合うかは人それぞれですので、専門家と相談しながら、ご自身に合った方法を見つけていくことが大切です。

相談できる専門機関・門診について

自分が自閉症(ASD)かもしれない、あるいはASDと診断されたがどうすれば良いか分からない、と感じた際に相談できる専門機関や医療機関はいくつかあります。

医療機関

  • 精神科・心療内科: ASDの診断や、併存する二次的な精神疾患(うつ病、不安障害など)の治療を行います。発達障害を専門とする医師がいる医療機関を選ぶと良いでしょう。インターネットで「発達障害 外来」「大人の発達障害 診断」などと検索すると、専門機関が見つかることがあります。
  • 発達外来: 子どもの発達障害を中心に診ていますが、一部の医療機関では思春期以降や大人の発達障害の診断・相談も受け付けています。

福祉・支援機関

  • 発達障害者支援センター: 各都道府県・指定都市に設置されており、発達障害のある本人、家族、関係者からの相談に応じ、情報提供や専門機関への橋渡し、ピアサポート、啓発活動などを行っています。診断の有無に関わらず相談可能です。
  • 障害者就業・生活支援センター: 障害のある方の就業面と生活面の一体的な相談支援を行っています。
  • 就労移行支援事業所: 障害のある方が一般企業への就職を目指す際に、ビジネススキルやコミュニケーション能力の向上、職場実習などの訓練やサポートを提供する事業所です。
  • ハローワーク(専門援助部門): 障害のある方向けの職業相談や求職活動のサポートを行っています。
  • 地域包括支援センター(高齢者向け): 高齢期になってから特性による困難が顕在化した場合などに相談できる場合があります。
  • 相談支援事業所: 障害福祉サービスを利用するための計画作成などのサポートを行います。

まずは最寄りの発達障害者支援センターに相談してみるのが良いかもしれません。診断が必要であれば医療機関を紹介してもらえますし、診断がなくても利用できる支援について情報提供を受けられます。

相談する際は、事前にこれまでの生育歴や困っていることなどを整理しておくと、スムーズに相談が進むでしょう。

まとめ

自閉症スペクトラム障害(ASD)は、大人の社会生活においてコミュニケーションや対人関係、変化への対応、感覚特性といった面で困難さをもたらすことがあります。大人になってから診断を受ける方も少なくありませんが、それは決して遅いことではありません。ご自身の特性を正しく理解することは、生きづらさの根本原因を知り、適切な対応策や支援に繋げるための重要なステップです。

自己診断テストはあくまで参考とし、気になる場合は必ず精神科や心療内科など、発達障害の専門医がいる医療機関で正確な診断を受けてください。診断は、生育歴の確認や専門的な検査を総合して行われます。

ASDの特性は一生涯続きますが、適切な支援(心理療法、SST、環境調整、就労支援など)や、周囲の理解と協力によって、特性による困難を軽減し、社会生活への適応を高めることは十分に可能です。ご自身の特性を活かせる環境を見つけたり、自分に合ったコミュニケーションの方法やストレス対処法を身につけたりすることで、より快適で充実した人生を送ることができます。

もし今、生きづらさを感じているのであれば、一人で抱え込まず、発達障害者支援センターや医療機関などの専門機関に相談してみることを強くお勧めします。相談や支援を通して、ご自身の強みや弱みを理解し、特性と上手に付き合いながら、自分らしい生き方を見つけることができるはずです。


免責事項
この記事は一般的な情報提供を目的としており、医学的な診断や治療を推奨するものではありません。自閉症スペクトラム障害に関するご自身の状況については、必ず医療機関や専門家にご相談ください。記事の内容によって生じたいかなる損害についても、筆者および発行者は責任を負いかねます。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!
目次