学習障害(LD)は、全体的な知的発達に遅れがないにもかかわらず、「読む」「書く」「計算する」といった特定の領域の学習が著しく困難な発達障害の一つです。文部科学省の定義では、「学習障害とは、基本的に中枢神経系に何らかの機能障害があると推定されるものの、視覚・聴覚・知的発達の遅れ・情緒障害などの障害や、環境的な要因が直接的な原因となるものではない」とされています。これは、努力不足や怠けているのではなく、脳機能の特性による困難であることを示しています。
学習障害のある子どもたちは、小学校に入学し、本格的な学習が始まって初めて困難に気づかれることが多い傾向にあります。特定の学習領域での困難は、学校での成績不振だけでなく、自己肯定感の低下や不登校につながる可能性もあるため、早期の発見と適切な支援が非常に重要です。
学習障害(LD:Learning Disabilities)とは、聞く、話す、読む、書く、計算する、推論するといった学習に必要な特定の能力の習得と使用に著しい困難を示す状態を指します。これは、知的な遅れや視聴覚機能の障害、情緒的な問題、あるいは教育環境などが直接的な原因ではないとされています。つまり、全体的な理解力に問題がなくても、特定の分野だけが非常に苦手であるという特性を持ちます。
学習障害は一人ひとり現れ方が異なり、「文字は読めるが文章を書くのが苦手」「計算はできるが文章問題が理解できない」など、困難を示す領域や程度はさまざまです。これらの困難は、学齢期以降に学習が進むにつれて顕著になることが多いため、学校生活において気づかれるケースが多く見られます。
学習障害(LD)ってどんな症状?基礎知識
学習障害の主な症状は、特定の学習領域における困難です。具体的には、以下のいずれか、あるいは複数の困難が見られます。
- 読むことの困難(読字障害・ディスレクシア): 文字と音を結びつけるのが難しい、音読がたどたどしい、文の意味を理解するのが遅いなど。
- 書くことの困難(書字障害・ディスグラフィア): 文字の形を覚えられない、鏡文字になる、マスの中に文字を収められない、漢字を間違える、文章を構成するのが難しいなど。
- 計算することの困難(算数障害・ディスカリキュア): 数の概念を理解できない、繰り上がり・繰り下がりの計算が難しい、図形の問題が理解できない、文章問題の式を立てられないなど。
これらの困難は、適切な指導を受けても改善が見られにくい点が特徴です。しかし、これは決して努力不足や怠慢からくるものではなく、脳機能の特性によるものであるという理解が不可欠です。早期に特性に気づき、本人に合った学び方や支援方法を見つけることが、学習のつまづきを減らし、自信を持って取り組めるようにするために重要となります。
学習障害は発達障害に含まれる?広義・狭義の理解
学習障害(LD)は、一般的に「発達障害」という大きな枠組みに含まれる障害の一つとされています。
- 広義の発達障害: 生まれつきの脳機能の特性によって、幼児期以降に現れる行動や情緒、学習、コミュニケーションなどの面での特性の偏りの総称です。学習障害(LD)の他に、自閉スペクトラム症(ASD)、注意欠陥・多動性障害(ADHD)などが含まれます。
- 狭義の発達障害: 精神医学や教育の分野によっては、自閉スペクトラム症やADHDなどと区別して、学習障害を別途捉える場合もあります。しかし、日本の「発達障害者支援法」においては、自閉症、アスペルガー症候群その他の広汎性発達障害、学習障害(LD)、注意欠陥多動性障害(ADHD)その他これに類する脳機能の障害であって、その症状が通常低年齢において発現するもの、と定義されており、学習障害は明確に発達障害に含まれています。
学習障害のある子どもたちは、LD単独の場合もあれば、ADHDやASDといった他の発達障害の特性を併せ持っている重複している場合もあります。例えば、ADHDの不注意の特性から課題に集中できないことが学習の困難につながったり、ASDの特性から文章の行間を読むことが難しかったり、といった形で影響し合うことがあります。そのため、学習の困難の背景にある要因を多角的に評価し、一人ひとりの特性に応じた支援を行うことが大切です。
学習障害の主な種類とそれぞれの特徴
学習障害(LD)は、困難を示す特定の学習領域によって主に3つのタイプに分類されます。ただし、これらの困難が複合的に現れることも少なくありません。
読むことが困難な読字障害(ディスレクシア)
読字障害(ディスレクシア)は、文字を読んだり、言葉を理解したりすることに困難を抱える学習障害の一種です。知的な遅れがないにも関わらず、文字と音が結びつかない、単語や文章として認識しにくい、読み飛ばしや勝手な読み間違えが多い、音読が極端に遅い、といった特徴が見られます。
具体的な困難としては、以下のような例が挙げられます。
- ひらがなやカタカナ、漢字などの文字の形を覚えるのが難しい。
- 文字を見ても、それがどの音を表すのかすぐに結びつかない。
- 音読する際に、文字を一つずつ拾っていくため非常に時間がかかる、またはスムーズに読めない。
- 文章を読んでも、その内容を理解するのに時間がかかる、または理解できない。
- 似たような形の文字(「ぬ」と「め」、「わ」と「れ」など)を区別するのが苦手。
- 行を飛ばしたり、同じ行を二度読んだりすることが多い。
ディスレクシアのある人は、視覚的に文字を処理することに困難を抱えている場合もあれば、音韻処理(言葉の音を認識・操作する能力)に課題がある場合もあります。読みの困難は、国語の授業だけでなく、算数の文章問題や理科・社会の教科書を読む際にも影響するため、学習全般にわたる大きな障壁となる可能性があります。しかし、音声読み上げソフトや文字の拡大、分かち書きされた教材など、本人の特性に合わせた工夫をすることで、読みの負担を減らすことができます。
書くことが困難な書字障害(ディスグラフィア)
書字障害(ディスグラフィア)は、文字を書くことに著しい困難を抱える学習障害の一種です。文字の形を正しく覚えられない、マスの中にバランス良く書けない、鏡文字になる、漢字の止め・はね・はらいなどが不正確、ひらがなで書くべきところがカタカナになったり、その逆になったりする、といった特徴が見られます。また、単に文字を「書く」という運動面だけでなく、文章を「構成する」ことにも困難を伴う場合があります。
具体的な困難としては、以下のような例が挙げられます。
- ひらがなやカタカナ、漢字の形を覚えたり、正しく書いたりするのが難しい。
- 文字のサイズが不揃いになったり、行が曲がったりする。
- 筆圧が極端に強すぎる、または弱すぎる。
- 書くのに非常に時間がかかり、すぐに疲れてしまう。
- マス目の大きさを調整したり、文字をマスの中に収めたりするのが難しい。
- 単語と単語の間隔を適切に空けられず、詰まって見えたり、離れすぎたりする。
- 文章を構成する際に、てにをはが不正確だったり、文脈がおかしかったりする。
- 漢字の書き順が覚えられない、部品を正確に配置できない。
書字障害のある人は、手先の不器用さや視空間認知の課題、あるいは文字の音と形を結びつけることの困難など、様々な要因が関係していることがあります。ノートを取るのが苦手、漢字テストで点が取れない、作文を書くのが苦痛、といった形で学習や日常生活に影響が出やすい困難です。タブレットやPCの活用、音声入力、文字練習のドリル、書きやすい筆記具の選択など、本人の特性に応じたツールや方法を取り入れることが有効な支援となります。
数の理解や計算が困難な算数障害(ディスカリキュア)
算数障害(ディスカリキュア)は、数の概念の理解や計算、推論といった算数・数学に関連する学習に著しい困難を抱える学習障害の一種です。単に計算が苦手というだけでなく、数の大小や順序が理解しにくい、位取りの概念が分かりにくい、繰り上がり・繰り下がりの計算ができない、図形やグラフの読み取りが難しい、文章問題で何が問われているのか、どのように式を立てれば良いのかが理解できない、といった特徴が見られます。
具体的な困難としては、以下のような例が挙げられます。
- 数えることが苦手(指差しをしながらでも間違えやすい)。
- 「5より大きい数」「3つ増える」といった数の概念や数量関係が理解しにくい。
- 100の位、10の位、1の位といった位取りの概念が分かりにくい。
- 足し算や引き算、掛け算、割り算といった計算の手順やルールが覚えられない、間違えやすい。
- 繰り上がりや繰り下がりの計算ができない、または時間がかかる。
- 文章問題を読んで、必要な情報を取り出し、適切な計算式を立てるのが難しい。
- 時計を読むのが苦手(時間や分を理解しにくい)。
- お金の計算が難しい(金額を認識しにくい、おつりの計算ができない)。
- 図形やグラフの意味が理解しにくい、空間的な認識が苦手。
算数障害のある人は、数概念そのものの理解に課題がある場合や、視空間認知の課題、あるいは記憶力の課題などが複合的に関係していることがあります。算数の困難は、将来的に金銭管理や時間管理といった日常生活にも影響を及ぼす可能性があります。具体物を使った指導、視覚的に分かりやすい教材、電卓や計算ツールの活用、手順を分解して一つずつ習得する、といった支援方法が効果的です。
種類 | 困難を示す主な領域 | 具体的な困りごとの例 | 支援の工夫例 |
---|---|---|---|
読字障害 | 読むこと | 文字と音が結びつかない、音読がたどたどしい、読み飛ばしが多い、文章の内容理解に時間がかかる。 | 音声読み上げソフト、拡大文字、分かち書き教材、ルビ振り、読むことに負担の少ない情報提供方法(絵や図など)。 |
書字障害 | 書くこと | 文字の形を覚えられない、鏡文字になる、マス目に収まらない、漢字を間違える、書くのに時間がかかる、文章構成が苦手。 | パソコンやタブレットの活用、音声入力、文字練習ドリル、書きやすい筆記具、視覚的なガイド付きのノート、文章構成のテンプレート。 |
算数障害 | 数の理解、計算、推論 | 数の概念が分からない、位取りが理解できない、計算の手順が覚えられない、文章問題が解けない、時計やお釣りの計算が苦手。 | 具体物(おはじき、ブロックなど)を使った指導、視覚的に分かりやすい教材(数直線、図)、電卓の活用、計算手順の段階的な指導、お金や時間のシミュレーション。 |
学習障害で最も多いのは?
学習障害のタイプの中で、最も多く見られるのは読字障害(ディスレクシア)であるとされています。読みの困難は、文字と音を結びつける基本的な学習スキルに関わるため、小学校での学習のつまずきとして早期に現れやすく、他の学習領域にも影響を及ぼしやすいことから、気づかれる機会が多いと考えられます。
ただし、書字障害や算数障害も決して少なくなく、複数のタイプの困難が併存するケースも多く見られます。例えば、ディスレクシアのある子が書字にも困難を抱えていたり、算数障害のある子が文章問題を理解するのに読みの困難も関係していたり、といった具合です。そのため、「どのタイプか」という分類だけでなく、一人ひとりが具体的にどのような点で困っているのかを詳細に把握することが、適切な支援につながります。
学習障害の子どもの特徴と年齢別の現れ方
学習障害の特性は、子どもの成長や学習段階によって現れ方が変化します。特定の学習分野での困難が、年齢が進むにつれてより複雑な学習内容に対応できなくなるという形で顕著になることがあります。
学習障害の子どもの特徴リスト・チェックリスト
学習障害のある子どもに見られる可能性のある特徴は多岐にわたります。これはあくまで目安であり、これらの特徴が全て見られるわけではありません。また、いくつかの項目に当てはまるからといって必ずしも学習障害であるとは限りません。気になる点があれば、専門機関に相談することをおすすめします。
【読むこと(読字障害)に関する特徴】
- 文字の形を覚えるのが難しい(特にひらがな、カタカナ)。
- 文字と音が結びつかない、または時間がかかる。
- 音読がたどたどしい、非常に時間がかかる、間違えが多い。
- 読み飛ばしや、勝手に文字や音を付け加えて読んでしまう。
- 文章を読んでも意味が理解しにくい。
- 似た形の文字(「さ」と「ち」、「ぬ」と「め」など)を区別するのが苦手。
- 行を飛ばしたり、同じ行を繰り返して読んだりする。
- 漢字の読みを覚えるのが難しい。
【書くこと(書字障害)に関する特徴】
- 文字の形を覚えられない、正しく書けない。
- 鏡文字になることがある。
- マスの中に文字を収められない、バランスが悪い。
- 文字のサイズが不揃いになる、行が曲がる。
- 筆圧が強すぎる、または弱すぎる。
- 書くのに非常に時間がかかる、すぐに疲れてしまう。
- 漢字の書き順が覚えられない、部品の配置が不正確。
- ひらがなとカタカナを間違えることがある。
- 文章構成が苦手、てにをはがおかしい、誤字脱字が多い。
【計算すること(算数障害)に関する特徴】
- 数を数えるのが苦手、間違えやすい。
- 数の大小や順序の概念が理解しにくい。
- 位取り(10の位、100の位など)が分からない。
- 繰り上がり、繰り下がりの計算ができない。
- 基本的な計算(足し算、引き算、掛け算、割り算)が覚えられない、間違えやすい。
- 文章問題を読んで、式を立てるのが難しい。
- 時計の読み方や、時間・期間の計算が苦手。
- お金の計算(おつりなど)が難しい。
- 図形やグラフの意味が理解しにくい、空間認知が苦手。
【その他の関連する特徴】
- 指示を聞き取るのは理解できるが、視覚的な情報処理が苦手。
- 簡単な暗算や暗記が苦手。
- 板書をノートに書き写すのが難しい(読み取りと書き取りの両方が関わる)。
- 順序立てて物事を進めるのが苦手。
- 忘れ物が多い、整理整頓が苦手(ADHDの特性が併存している場合)。
- 集団行動や読み書きが必要な活動で困難を感じ、消極的になることがある。
これらの特徴は、あくまで学習面における困難を示すものであり、子どもたちの個性や得意なこと、良い点はたくさんあります。困難な部分に焦点を当てるだけでなく、本人の強みや興味関心を活かす視点も大切です。
小学生に見られる学習障害の特徴
小学校に入学し、読み書き計算といった基礎的な学習が始まると、学習障害の特性が顕著に現れることがあります。
- 就学前: ひらがなやカタカナに興味を示さない、形を覚えるのが難しい、数字の大小や順序が分からない、といった兆候が見られることもありますが、個人差が大きいため気づかれにくい場合が多いです。
- 小学校低学年(1~2年生):
- ひらがなやカタカナの読み書きでつまずく。文字の形を覚えられない、鏡文字になる、音読が遅い、誤りが非常に多い。
- 簡単な足し算、引き算で繰り上がり・繰り下がりの計算ができない。指を使っても難しい。
- 数字の位取り(13は10が1つと3が1つ)の概念が理解しにくい。
- 簡単な文章問題を読んでも、何が問われているのか理解できない。
- 黒板の字をノートに写すのが非常に遅い、またはできない。
- 小学校中学年(3~4年生):
- 漢字を覚えるのが難しい、書き順が覚えられない。
- 文章を正確に読み取るのが難しい、教科書の音読が苦手。
- 掛け算、割り算の計算がなかなか定着しない。
- 分数や少数の概念が理解しにくい。
- 時計の読み方、時間の計算が苦手。
- 書くことに時間がかかり、宿題が終わらない。
- 小学校高学年(5~6年生):
- 文章構成が苦手で、作文や記述問題が書けない。
- 高学年で習う複雑な漢字や熟語の読み書きが難しい。
- 単位(長さ、重さ、体積など)の概念や換算が理解しにくい。
- 図形問題やグラフの読み取りが難しい。
- 情報の整理や要約が苦手。
この時期に学習のつまずきが続くと、自信を失い、学習そのものへの意欲が低下してしまうことがあります。早期に専門家へ相談し、適切なサポートを受けることが非常に重要です。
中学生に見られる学習障害の特徴
中学校に進むと、学習内容がより抽象的・専門的になり、情報量も増えるため、小学校で目立たなかった学習障害の特性が顕著になることがあります。また、小学校からのつまずきが積み重なり、困難が大きくなるケースも見られます。
- 読むこと: 英語の長文読解が苦手、国語の現代文や古文の読解に時間がかかる、教科書や参考書を読み進めるのが苦痛。
- 書くこと: ノートを取るのが追いつかない、レポートや宿題の作文を書くのに非常に時間がかかる、漢字の書き間違いが多い、記述式の問題が解けない、数学の証明問題など手順を記述するのが苦手。
- 計算すること: 複雑な方程式や関数、図形問題が理解できない、公式を覚えるのが難しい、計算ミスが多い、文章問題が解けない(特に文章が長い場合)。
- その他:
- 計画を立てて学習を進めるのが難しい。
- 情報を整理して覚えるのが苦手。
- 複数の指示を同時に処理するのが難しい。
- 学習の困難から、テストで点が取れず自信を失い、不登校につながるケースもある。
- 思春期のため、自分の困難を隠そうとしたり、反抗的な態度を取ったりすることもある。
中学校では、学習スピードが速くなり、一人で学習を進める割合も増えます。そのため、個別のサポートや本人に合った学習方法の工夫がより一層必要になります。学校の先生やスクールカウンセラー、地域の専門機関との連携が重要です。
高校生・大人の学習障害の特徴
高校や大学、社会人になっても、学習障害の特性による困難は続きます。求められる学習内容やスキルが高度になるため、日常生活や社会生活において、特定の場面で困難を感じることがあります。
- 学習面:
- 専門書や論文を読むのに時間がかかる、内容が頭に入りにくい。
- レポートや論文の作成が苦手、構成を考えるのが難しい。
- 新しい知識や複雑な情報を理解・整理するのが難しい。
- 講義を聞きながらノートを取るのが追いつかない。
- 社会生活面:
- 書類の読み書きに時間がかかる、誤字脱字が多い。
- 複雑な指示を理解したり、相手に分かりやすく説明したりするのが難しい(特に口頭だけでなく文書で伝えられる場合)。
- 金銭管理やスケジュール管理が苦手(算数障害やADHDの特性が関係する場合)。
- 契約書や規約を読むのが苦痛、理解しにくい。
- 方向音痴であったり、地図を読むのが苦手だったりする(視空間認知の課題が関係する場合)。
- メールやチャットでのやり取りで誤解が生じやすい(文章表現の課題)。
大人の学習障害は、子どもの頃に診断されていなかった場合、自身の困難を「努力不足」「能力が低いから」と考えてしまい、自己肯定感が低くなっていることがあります。しかし、大人になってからでも適切な診断を受け、自身の特性を理解し、工夫や周囲のサポートを得ることで、困難を軽減し、持っている能力を活かすことが可能です。職場で必要な配慮を伝えたり、タスク管理の方法を工夫したりすることで、働きやすさを改善することもできます。
学習障害の原因は何?親に関係がある?
学習障害の原因は一つに特定されているわけではありませんが、現在の研究では、主に脳機能の特性に関連があると考えられています。遺伝的な要因と環境的な要因が複雑に関わり合って生じると推測されています。
- 遺伝的要因: 家族の中に学習や発達に困難を持つ人がいる場合、学習障害を持つ可能性がやや高まることが知られています。これは、特定の遺伝子が脳の発達や機能に関与している可能性を示唆していますが、必ず遺伝するわけではありませんし、特定の遺伝子だけが原因となるわけでもありません。複数の遺伝子が少しずつ影響し合っていると考えられています。
- 脳機能の特性: 学習障害のある人の脳の構造や機能には、定型発達の人とは異なるパターンが見られることが研究で示されています。例えば、読み書きに関わる脳の特定の領域の活動性が異なっていたり、情報の伝達経路に違いが見られたりするといった報告があります。これは、学習に必要な情報を処理する際の脳の働き方に違いがあることを示しています。
- 環境要因: 出産前後の問題(早産、低出生体重、周産期の酸素不足など)が脳の発達に影響を及ぼし、学習障害のリスクを高める可能性が指摘されています。ただし、これはあくまでリスク要因であり、これらの経験をした全ての子どもが学習障害になるわけではありません。また、家庭環境や教育環境が学習障害の「原因」となるわけではありません。不適切な環境は学習の困難を悪化させる要因にはなり得ますが、学習障害そのものを引き起こすものではないと考えられています。
重要な点として、学習障害は親の育て方や愛情不足が原因で起こるものではありません。 子どもが学習に困難を抱えているのを見て、「自分の育て方が悪かったのだろうか」「もっと厳しく教えればよかったのだろうか」と自分を責めてしまう親御さんも少なくありません。しかし、学習障害は脳機能の特性によるものであり、保護者の責任ではありません。むしろ、保護者が子どもの困難を理解し、適切なサポートを提供することが、子どもの成長にとって最も重要です。原因を探し自分を責めるのではなく、どのように支援すれば子どもが学びやすくなるか、どうすれば本人の良い点を伸ばせるか、という前向きな視点を持つことが大切です。
学習障害の診断と検査方法
学習障害(LD)は、専門家による評価に基づいて診断されます。診断は、単に学習の成績が悪いというだけでなく、知的な発達レベルに対して、特定の学習領域での習得状況が著しく低いかどうかを判断するために行われます。
学習障害はどうやってわかる?診断の流れ
学習障害の診断は、主に医療機関(児童精神科、精神科、小児神経科など)や教育センター、児童相談所などで行われます。診断プロセスは一般的に以下の流れで進みます。
- 相談・予備面談: まず、保護者や学校の先生が子どもの学習の困難に気づき、専門機関に相談します。専門家が、具体的な困りごとや生育歴、家族歴などについて話を聞きます。
- 情報収集: 学校での様子(通知表、テスト結果、担任の先生からの聞き取りなど)、家庭での様子、幼児期の様子など、様々な角度から情報を集めます。
- 知能検査: 全体的な知的な発達レベルを評価するために、知能検査(WISCなど)を実施します。これにより、知的な遅れがないか、あるいは知的な凸凹(得意なことと苦手なことの差)がないかを確認します。
- 学習能力検査: 読む、書く、計算するといった特定の学習スキルを評価するための検査を行います。例えば、文字や単語の読み書きの能力、計算問題や文章問題の解く能力などを詳細に調べます。
- 発達検査・行動観察: 必要に応じて、視覚認知、聴覚認知、記憶力、運動能力などの発達検査を行ったり、検査中の子どもの様子や行動を観察したりします。ADHDやASDなど、他の発達障害の特性の有無についても評価します。
- 総合的な評価と診断: 知能検査、学習能力検査の結果、各種発達検査の結果、保護者や学校からの情報、行動観察などを総合的に判断し、診断が下されます。この際、視力や聴力に問題がないか、情緒的な問題が学習困難の原因ではないかなども除外して考えられます。
- 結果の説明と今後の支援方針の相談: 診断結果について専門家から説明を受けます。どのような特性があるのか、学習の困難はどのような背景からきているのかなどを分かりやすく説明してもらえます。そして、今後の支援について、家庭や学校でできること、利用できるサービスなどについての相談が行われます。
診断は専門家(医師、公認心理師、臨床心理士、言語聴覚士など)のチームで行われることが一般的です。正確な診断のためには、複数の検査結果と詳細な情報収集が不可欠となります。
具体的な診断テスト・検査(WISCなど)
学習障害の診断に用いられる代表的な検査には、以下のようなものがあります。
- ウェクスラー式児童用知能検査(WISC-IV, WISC-V): 6歳0ヶ月から16歳11ヶ月の子どもを対象とした知能検査です。全検査IQ(FSIQ)だけでなく、「言語理解」「視空間」「流動性推理」「ワーキングメモリ」「処理速度」といった下位検査の指標得点が出ます。学習障害の場合、FSIQは平均的な範囲内でも、特定の指標(例えば処理速度やワーキングメモリ)が低かったり、下位検査間で大きな差(凸凹)が見られたりすることがあります。この知的なプロフィールから、学習困難の背景にある認知特性を推測する手がかりが得られます。
- ウェクスラー式成人用知能検査(WAIS-IV): 16歳0ヶ月から90歳11ヶ月の成人を対象とした知能検査です。WISCと同様に、全検査IQと複数の指標得点から知的な特性を評価します。大人の学習障害の診断や、職場での支援を検討する際などに用いられます。
- KABC-II(カウフマン児童用評価バッテリー 第2版): 3歳0ヶ月から18歳11ヶ月の子どもを対象とした認知能力検査です。ウィスクとは異なる理論に基づき、「認知処理過程」と「獲得知識」を評価します。特に非言語性の認知能力を評価するのに適している場合があります。
- 標準学力検査: 学校の成績とは別に、標準化されたテストを用いて国語、算数などの学力を客観的に評価します。
- 個別式学力検査: 読む、書く、計算するといった特定のスキルを詳細に評価するための検査です。例えば、文字の認識、単語の読み、文章の理解、数概念、計算能力などを細かく調べます。具体的な検査名としては、「KRT(京都読み書き能力検査)」、「URAWSS(読み書きスクリーニング検査)」などがあります。
- 視知覚発達検査、聴覚処理能力検査: 必要に応じて、視覚や聴覚による情報処理能力に課題がないかを確認するための検査が行われることもあります。
これらの検査は、単に点数を見るだけでなく、検査中の子どもの様子や、どのような間違い方をするかといったプロセスを観察することも重要です。専門家がこれらの結果を総合的に分析し、学習障害の診断や、その後の具体的な支援方法を検討する際の重要な情報となります。
学習障害 診断テスト 50問とは?
インターネットなどで「学習障害 診断テスト 50問」といった形式のチェックリストや質問項目を見かけることがあります。これらは、専門家による正式な診断テストではありません。
こうした簡易的なチェックリストは、自身の学習の困難や子どもの様子について、「もしかして学習障害に関係があるのかもしれない」と気づくための手がかりとして利用することができます。いくつかの項目に当てはまる場合に、専門機関に相談するきっかけとするのは良いでしょう。
しかし、チェックリストの結果だけで自己診断したり、学習障害だと決めつけたりすることは避けるべきです。なぜなら、学習の困難は学習障害以外にも、知的な遅れ、視聴覚の問題、情緒的な問題、あるいは適切な指導が受けられていないなど、様々な要因によって引き起こされる可能性があるからです。
正確な診断は、知能検査や学習能力検査、詳細な問診、行動観察などを通して、専門家(医師、心理士など)が総合的に行う必要があります。もし、簡易チェックリストで気になる点があった場合は、まずは学校の先生やスクールカウンセラー、あるいは地域の教育相談窓口や専門医療機関に相談することをおすすめします。専門家による適切な評価を受けることが、適切な理解と支援への第一歩となります。
学習障害のある方への適切な支援・サポート
学習障害のある方が学習の困難を克服し、持っている能力を発揮するためには、その特性を理解し、本人に合った方法で学ぶための適切な支援が不可欠です。支援は、家庭、学校、専門機関など、様々な場所で行われます。
家庭でできる学習障害のサポート・接し方
家庭は子どもが最も安心できる場所であり、学習障害の子どもにとって重要な支援の場です。保護者の理解と適切な接し方が、子どもの自己肯定感を育み、学びへの意欲を高めることにつながります。
- 特性の理解: まず、学習障害は努力不足や怠慢ではなく、脳機能の特性による困難であることを保護者自身が理解することが大切です。その上で、子どもが具体的にどのような点で困っているのかを観察し、把握するように努めましょう。
- 得意なことを伸ばす: 苦手な学習に焦点を当てすぎず、子どもが得意なことや興味のあることを見つけ、そこを伸ばす機会をたくさん作りましょう。成功体験を積むことで、自信につながります。
- 「頑張っているね」と具体的に褒める: 結果だけでなく、努力の過程や工夫を認め、具体的に褒めましょう。「今日はこの漢字を3つ覚えられたね!」「文章問題を最後まで読めたね、すごいね!」など、具体的な行動を褒めることで、子どもは自分の努力が認められていると感じられます。
- 学び方の工夫: 子どもの困っている点に合わせて、学び方を工夫します。
- 読むのが苦手な場合: 音声教材や読み上げソフトの活用、保護者や兄弟が読み聞かせをする、短い文章から始める、絵や図が多い教材を選ぶ。
- 書くのが苦手な場合: パソコンやタブレット、音声入力の活用、文字練習ドリル、大きなマス目のノート、書く量を減らす、下書きをサポートする。
- 計算が苦手な場合: 具体物(おはじき、ブロック)を使って数を視覚的に捉える、図や絵で考える、計算ツール(電卓、そろばんアプリ)の活用、計算手順を細かく分けて練習する。
- 成功体験を積ませる: 簡単な課題から始め、達成感を味わえるようにします。少しずつ難易度を上げていくことで、自信を持って難しい課題にも取り組めるようになります。
- 休息とリラックス: 学習の困難は、子どもにとって大きなエネルギーを消耗します。無理強いせず、十分な休息とリラックスできる時間を与えましょう。好きな遊びや活動の時間も大切です。
- 肯定的な声かけ: 「どうしてできないの!」と叱るのではなく、「ここが難しかったかな?一緒にやってみよう」「次はこうしてみたらどうかな?」といった、解決に向けて寄り添う声かけを心がけましょう。
- 学校との連携: 学校の先生と日頃からコミュニケーションを取り、家庭での様子や困りごと、学校での様子や取り組みについて情報交換を行いましょう。学校と家庭が連携して一貫した支援を行うことが効果的です。
- 保護者自身の情報収集とサポート: 学習障害に関する正しい情報を収集し、理解を深めることも重要です。地域の支援団体や保護者会に参加したり、専門家からアドバイスを受けたりすることで、保護者自身の不安も軽減されます。
家庭での温かい理解と工夫は、子どもが安心して学び、成長していくための大切な土台となります。
学校での支援・特別支援教育
学校は、学習障害のある子どもたちが多くの時間を過ごす場所であり、体系的な支援が行われる重要な場です。日本の学校教育では、「特別支援教育」の中で、学習障害のある子どもたちへの支援が行われています。
- 通級による指導: 通常学級に在籍しながら、週に数時間、特別な指導教室に通って、読み書き計算などの特定の学習スキルの困難に対する指導を受けることができます。専門の教員が子どもの特性や課題に合わせて、個別指導や少人数指導を行います。
- 特別支援学級: 子どもの障害の程度や特性に応じて、特別支援学級に在籍するという選択肢もあります。より少人数の環境で、一人ひとりのニーズに合わせたきめ細やかな指導を受けることができます。
- 通常学級での合理的配慮: 通常学級に在籍する子どもに対して、学習上の困難を軽減するための様々な配慮が行われます。「合理的配慮」とは、障害のある子どもが他の子どもと同等に教育を受けられるように、学校ができる範囲で環境や方法を調整することです。
- 教材の工夫: 教科書やプリントの文字を拡大する、ルビ(ふりがな)を振る、行間を広げる、図や絵を多く使う、音声教材を活用する。
- 指導方法の工夫: 具体物を使って説明する、指示を短く分かりやすく伝える、視覚的な情報と聴覚的な情報を組み合わせて伝える、繰り返し練習する、成功体験を積めるようにスモールステップで指導する。
- 評価方法の工夫: 書き取りが苦手な場合は口頭で回答を許可する、計算が苦手な場合は計算機や補助ツール(九九表など)の使用を認める、テスト時間を延長する、記述式の問題ではなく選択式にする。
- 学習環境の調整: 板書を見やすい席にする、集中できるような席配置にする、書くのが難しい場合はタブレットやPCの使用を許可する。
- 個別教育支援計画・個別指導計画: 学習障害のある子ども一人ひとりに対して、どのような教育目標を設定し、どのような支援を行うかなどを具体的に記した計画が作成されます。保護者や関係者が連携して作成し、定期的に見直されます。
- 専門家の配置: 学校には、特別支援コーディネーター(特別支援教育に関する調整や保護者との連絡を行う担当)、スクールカウンセラー(心理的な側面からのサポート)、スクールソーシャルワーカー(福祉的な側面からのサポート)といった専門家が配置されている場合があり、連携して子どもへの支援を行います。
学校での支援を効果的に行うためには、保護者と学校が密に連携し、子どもの正確な情報や困りごとを共有することが非常に重要です。診断を受けている場合は、その情報も学校に伝え、支援計画に活かしてもらいましょう。
専門機関での療育・学習支援
医療機関や民間の事業所など、学校外の専門機関でも学習障害のある方への様々な療育や学習支援が行われています。
- 医療機関: 児童精神科、精神科、小児神経科などでは、診断だけでなく、特性理解のためのペアレントトレーニングや、学習に影響する併存症(ADHDなど)への対応なども行われることがあります。
- 児童発達支援センター・放課後等デイサービス: 障害のある未就学児や学齢期の子どもを対象に、日常生活能力や集団適応能力を高めるための療育、学習支援、ソーシャルスキルトレーニングなどが行われます。専門の指導員が、個々の特性やニーズに合わせたプログラムを提供します。読み書き計算の困難に特化したプログラムを提供している事業所もあります。
- 大学や研究機関附属の相談室: 発達障害や学習障害に関する専門的な相談や検査、支援プログラムを提供している場合があります。最新の研究に基づいた支援を受けられる可能性があります。
- 民間の学習塾・フリースクール: 学習障害の子どもを受け入れ、個別のカリキュラムや指導方法で学習をサポートする塾やフリースクールもあります。少人数制やマンツーマン指導、本人のペースに合わせた学習などが可能な場合があります。
- NPOや支援団体: 学習障害に関する情報提供、相談支援、保護者向け講座、当事者向けの交流会などを開催しているNPOや市民団体もあります。同じ悩みを持つ人たちと情報交換をしたり、共感を得たりすることで、孤立を防ぐことができます。
これらの専門機関を利用する際には、自治体の障害福祉サービスや教育委員会が提供する情報、あるいは医療機関や学校からの紹介などを参考に、信頼できる機関を選ぶことが大切です。利用できるサービスや費用は、機関の種類や地域によって異なります。
学習障害がある場合の家庭教師の活用
学習障害のある子どもにとって、家庭教師は個別のニーズに応じた学習サポートを受けられる有効な選択肢の一つです。
家庭教師のメリット
- 完全個別指導: 一人ひとりの学習ペースや理解度に合わせ、苦手な部分に集中的に取り組めます。
- 特性に合わせた指導: 子どもがどのような方法で学びやすいか(視覚優位か聴覚優位か、具体物を使うのが得意かなど)を見極め、それに合わせた指導法で教えてもらえます。
- 自宅での学習: 慣れた環境でリラックスして学習に取り組めます。移動の負担もありません。
- 柔軟な対応: 学校の宿題のサポートや、特定の科目の補強など、ニーズに応じて柔軟に指導内容を調整できます。
- 成功体験の積み重ね: つまずいている箇所を丁寧に指導してもらうことで、理解が進み、成功体験を積みやすくなります。
- 保護者との連携: 保護者と密にコミュニケーションを取り、家庭でのサポートについても相談しやすい場合があります。
家庭教師を選ぶ際の注意点
- 学習障害への理解: 学習障害に関する知識や指導経験がある家庭教師を選ぶことが非常に重要です。単に成績を上げることを目的とするのではなく、子どもの特性を理解し、どのようにすれば学びやすくなるかを一緒に考えてくれる人を選びましょう。
- 子どもとの相性: 子どもが安心して学べるよう、相性の良い家庭教師を選ぶことが大切です。体験授業などを利用して、子どもとの関わり方を確認しましょう。
- 費用: 個別指導となるため、費用は集団塾などに比べて高くなる傾向があります。
- 目標設定: 何のために家庭教師を利用するのか、具体的な目標(例:特定の漢字が書けるようになる、九九をマスターする、文章問題を読めるようになるなど)を明確にしておくことが大切です。
家庭教師は、学校や他の支援と組み合わせることで、より効果的な学習サポートとなる可能性があります。学習障害に関する専門的な知識を持つ家庭教師派遣サービスを利用することも一つの方法です。
学習障害に関するよくある質問
学習障害に関して、よくある疑問に答えます。
学習障害は「治る」ものですか?
学習障害は、脳機能の特性によるものであり、完全に「治る」という性質のものではありません。しかし、これは悲観的な意味ではありません。学習障害は病気ではなく、脳の機能の「偏り」や「特性」と捉えるべきです。
適切な支援や工夫によって、困難を大きく軽減させたり、苦手な部分を補うスキルを身につけたりすることは十分に可能です。例えば、読み書きに困難があっても、音声読み上げソフトやパソコン、タブレットなどのITツールを効果的に使うことで、学習や仕事における困難をカバーできます。計算が苦手でも、電卓を使ったり、視覚的に情報を整理したりする方法を学ぶことで、日常生活の金銭管理などを適切に行えるようになります。
また、子どもたちの脳は発達の途上にあるため、適切な訓練や指導を継続することで、特定のスキルが伸びることもあります。何よりも重要なのは、本人の特性を理解し、苦手な部分を克服するための直接的な指導(例:文字と音を結びつける練習、計算手順の反復練習)に加え、苦手な部分を補うための代替手段や工夫を身につけることです。
「治る」という考え方よりも、「困難を軽減し、得意なことを伸ばし、社会生活を送りやすくするための工夫やスキルを身につける」という視点を持つことが、学習障害のある本人にとっても、周囲の支援者にとっても前向きな取り組みにつながります。
ADHDやASDとの違いは?重複することはある?
学習障害(LD)、注意欠陥・多動性障害(ADHD)、自閉スペクトラム症(ASD)は、いずれも発達障害に含まれるものですが、それぞれ特性が異なります。
特性 | 学習障害(LD) | 注意欠陥・多動性障害(ADHD) | 自閉スペクトラム症(ASD) |
---|---|---|---|
主な困難 | 特定の学習領域(読む、書く、計算)に著しい困難 | 不注意、多動性、衝動性 | コミュニケーション、対人関係の困難、限定された興味・関心、感覚の過敏さ・鈍感さ |
学習への影響 | 特定の学習スキルそのものの習得が難しい | 集中力が続かない、課題を忘れる、衝動的に行動する、落ち着いて座っていられない | 言葉の裏を読み取れない、抽象的な表現の理解が難しい、臨機応変な対応が苦手、興味のあることには集中できる |
知的な発達 | 全体的な知的な発達に遅れはないことが多い | 知的な発達に遅れがないことが多い | 知的な発達は様々(遅れがない場合から知的障害を伴う場合まで) |
他者との関わり | 学習の困難から二次的に自己肯定感が下がり、引っ込み思案になることがある | 衝動的な言動からトラブルになることがある | 非言語コミュニケーションの理解や使用が苦手、冗談が通じにくい、場の空気を読むのが難しい |
興味・関心の対象 | 特定の学習以外に幅広い興味を持つことが多い | 興味の対象が移りやすい場合がある | 特定の物事やルーティンに強いこだわりを持つ場合がある |
これらの発達障害は、それぞれ異なる診断基準に基づいて診断されます。しかし、一人の中にこれらの特性が重複して現れること(併存、合併)は非常に多いです。例えば、学習障害とADHDを併せ持っている子どもは少なくありません。ADHDの不注意の特性によって学習課題に集中できないことが、学習障害による困難をさらに大きく見せることもあります。また、ASDの特性によるコミュニケーションの困難や特定のこだわりが、集団での学習や新しい学習方法への適応を難しくすることもあります。
複数の特性を併せ持っている場合、それぞれの特性がどのように影響し合っているかを理解し、それぞれの特性に応じたきめ細やかな支援を組み合わせることが重要です。そのため、診断の際には、単一の診断名にこだわるのではなく、どのような認知特性や行動特性があるのかを総合的に評価し、一人ひとりの「困りごと」を具体的に把握することが、適切なサポートにつなげる上で最も重要となります。
まとめ:学習障害への理解を深め、適切な支援へ
学習障害(LD)は、知的発達に遅れがないにも関わらず、「読む」「書く」「計算する」といった特定の学習分野に著しい困難を抱える発達障害の一つです。これは努力不足や怠慢ではなく、脳機能の特性によるものであり、本人の責任ではありません。
学習障害には、読字障害(ディスレクシア)、書字障害(ディスグラフィア)、算数障害(ディスカリキュア)といった主な種類があり、困難の現れ方や程度は一人ひとり異なります。特性は年齢とともに変化し、特に学習内容が複雑になる小学生高学年以降に顕著になることがあります。高校生や大人になっても、学習や社会生活において特定の場面で困難を感じることがあります。
学習障害の原因は脳機能の特性と考えられており、遺伝や周産期の要因が影響する可能性が示唆されていますが、親の育て方が原因ではありません。正確な診断は、知能検査や学習能力検査などを用いた専門家による総合的な評価によって行われます。インターネット上の簡易テストは診断ではありませんが、相談のきっかけとして利用できます。
学習障害のある方への適切な支援は、困難を軽減し、持っている能力を最大限に発揮するために不可欠です。家庭での特性理解、褒めること、学び方の工夫、学校での通級指導や合理的配慮、専門機関での療育や学習支援、そして家庭教師の活用など、様々な方法があります。重要なのは、本人の具体的な困りごとを把握し、得意なことを活かしながら、本人に合った学び方や補う手段を見つけていくことです。
学習障害は完全に「治る」ものではありませんが、適切な理解とサポートによって、困難を乗り越え、自分らしく生きていくことが可能です。ADHDやASDといった他の発達障害の特性が併存することも多く、その場合はそれぞれの特性に応じた複合的な支援が必要となります。
もし、お子さまやご自身に学習の困難があり、「もしかして学習障害かも?」と感じたら、一人で悩まず、まずは学校の先生、スクールカウンセラー、教育センター、児童相談所、または専門の医療機関に相談してみましょう。早期の発見と適切な支援が、本人にとってより良い未来を切り開く鍵となります。学習障害への理解を深め、温かい目で見守り、適切なサポートを提供していくことが、全ての子どもたちが自信を持って学ぶための社会を作る上で重要です。
免責事項: 本記事は学習障害に関する一般的な情報提供を目的としており、医学的な診断や治療を代替するものではありません。個別の状況については、必ず専門の医療機関や専門家にご相談ください。