いびきは、眠っている間に空気の通り道である「気道」が狭くなることで起こる、あの不快な音です。多くの人が経験したり、身近な人のいびきに悩まされたりしているのではないでしょうか。単にうるさいだけでなく、もしかすると体に隠れた危険なサインかもしれません。この記事では、いびきがなぜ起こるのかという原因から、ご自宅で今すぐできる簡単な対策、市販のグッズ、そして専門的な医療機関での治療法まで、いびきに関するあらゆる情報を網羅的に解説します。長年いびきに悩んでいる方や、ご家族のいびきが気になる方は、ぜひ最後までお読みください。この記事を読むことで、あなたのいびきを改善し、より質の高い睡眠と健康な生活を取り戻すための第一歩が見つかるはずです。
なぜいびきは起こる?気道の狭窄が原因
いびきは、眠っている間に上気道(鼻から喉頭までの空気の通り道)が狭くなり、そこを通る空気が粘膜などを振動させることで発生する音です。起きている間は、喉や舌の筋肉が気道を広く保っていますが、眠りにつくと筋肉が弛緩し、気道が狭まりやすくなります。
特に、喉の奥にある軟口蓋(口の奥の柔らかい部分)や口蓋垂(のどちんこ)、舌の根元(舌根)などが、緩んで気道を圧迫することが多い原因です。狭くなった気道を空気が無理に通ろうとする際に、周囲の粘膜がバタバタと振動し、いびき音が生じます。例えるなら、風船の口を狭めて空気を出すと「ブー」という音が出るのと同じ原理です。気道の狭窄がひどくなるほど、いびきの音は大きくなり、場合によっては呼吸が止まってしまうこともあります。
いびきの主な原因一覧|肥満、寝姿勢、口呼吸など
いびきを引き起こす気道の狭窄には、様々な要因が関係しています。代表的な原因としては、
以下のものが挙げられます。
- 肥満: 首周りや喉の奥に脂肪がつくと、気道が物理的に狭まります。また、舌にも脂肪がつき、寝ている間に舌根が喉の奥に沈下しやすくなります。適正体重から大きく離れている方は、いびきをかきやすい傾向にあります。
- 寝姿勢: 仰向けで寝ると、重力によって舌根や軟口蓋が喉の奥に沈下し、気道を塞ぎやすくなります。特に、顎が上がり気味の姿勢は気道を狭めやすいです。横向き寝は比較的気道を確保しやすい姿勢とされています。
- 口呼吸: 普段から口で呼吸していると、舌の位置が後方に下がりやすくなります。また、口が開いていることで舌根がさらに沈下し、気道が狭まりやすくなります。さらに、口呼吸は喉や気道の粘膜を乾燥させ、炎症を起こしやすくするため、粘膜が腫れて気道が狭まる原因にもなります。鼻炎や副鼻腔炎などで鼻の通りが悪い方も、無意識に口呼吸になりがちです。
- アルコール摂取: 寝る前のお酒は、喉や舌の筋肉を弛緩させ、気道を狭まりやすくします。普段はいびきをかかない人でも、お酒を飲むといびきをかくようになるのはこのためです。また、アルコールは鼻や喉の粘膜を充血・腫脹させる作用もあり、これも気道狭窄につながります。
- 喫煙: タバコの煙は喉や気道の粘膜に炎症を引き起こし、腫れやむくみを招きます。これにより気道が狭まり、いびきをかきやすくなります。喫煙者は非喫煙者に比べていびきをかくリスクが高いことが知られています。
- 加齢: 年齢を重ねると、喉や舌の筋肉が衰え、気道を支える力が弱くなります。これにより、寝ている間に気道が狭まりやすくなり、いびきをかきやすくなります。
- アデノイド・扁桃の肥大: 特に小児に見られますが、アデノイド(鼻の奥にあるリンパ組織)や口蓋扁桃(いわゆる扁桃腺)が大きいと、気道を物理的に圧迫していびきの原因となります。
- 鼻疾患: アレルギー性鼻炎や副鼻腔炎、鼻中隔湾曲症などで鼻が詰まっていると、鼻呼吸が困難になり口呼吸になります。前述の通り、口呼吸はいびきの大きな原因の一つです。
- 顎の骨格: 顎が小さい、または後退しているなど、生まれつきの骨格によって気道が狭い方もいびきをかきやすいことがあります。
これらの原因が単独ではなく、
複数組み合わさっている場合も多いです。自分のいびきがどのような原因で起こっているのかを知ることが、適切な対策を講じるための第一歩となります。
もしかして危険ないびき?睡眠時無呼吸症候群との関連
いびきの中には、単なる音の問題ではなく、健康に重大な影響を及ぼす「危険ないびき」があります。それは、睡眠時無呼吸症候群(SAS:Sleep Apnea Syndrome)と呼ばれる病気と関連しているいびきです。
SASは、眠っている間に呼吸が何度も止まったり(無呼吸)、浅くなったり(低呼吸)することを繰り返す病気です。多くのSAS患者さんは大きないびきをかいており、特に「ガーッ」という大きないびきの後に数秒から数十秒間呼吸が止まり、その後「フガッ」「ガッ」といった大きな音とともに再び呼吸が始まる、というパターンが特徴的です。
SASによって睡眠中に繰り返し呼吸が止まると、体内の酸素濃度が低下し、脳が覚醒して呼吸を再開させようとします。この覚醒は非常に短いため、眠っている本人は気づかないことが多いですが、睡眠の質は著しく低下します。その結果、日中に強い眠気を感じたり、集中力が低下したり、起床時に頭痛を感じたりすることがあります。
さらに、SASは高血圧、心筋梗塞、脳卒中、糖尿病などの生活習慣病と密接に関連しており、
これらの病気のリスクを高めることが明らかになっています。また、日中の強い眠気は、交通事故や労働災害の原因となる可能性もあります。
「うるさいいびき」だと思っていたものが、実は体に大きな負担をかけているサインかもしれません。以下のような症状がある場合は、SASの可能性を疑い、専門医に相談することを強くお勧めします。
- 大きないびきをかく(特に、いびきが途中で止まり、大きな呼吸音や喘ぎ声で再開する)
- 家族やパートナーから呼吸が止まっていると指摘される
- 夜中に何度も目が覚める、トイレに立つ回数が多い
- 朝起きたときに頭痛がする
- 日中に我慢できないほどの強い眠気を感じる(会議中、運転中、休憩中など)
- 集中力が続かない、根気がなくなった
- 倦怠感がある
- インポテンツ(勃起不全)がある(男性の場合)
単なるいびきと危険ないびきを見分けることは重要です。ご自身のいびきに不安がある場合は、自己判断せず、
一度専門の医療機関で検査を受けることを検討しましょう。
いびきをかかなくする方法|自宅で今すぐできる対策
いびきの原因が深刻な病気と関連していない「単純いびき」の場合や、病院での治療と並行して行う場合など、ご自宅で実践できるいびき対策はたくさんあります。ここでは、比較的簡単で今すぐ始められる対策から、少し継続的な努力が必要な対策までご紹介します。
自力でできるいびき改善方法
特別な道具を使わずに、意識や習慣を変えることでいびきを改善する方法です。
横向き寝で気道を確保する
仰向けで寝ると舌根が沈下して気道を狭めやすくなるのに対し、横向きで寝ることで舌根の沈下を防ぎ、気道を確保しやすくなります。
- 実践方法:
- 抱き枕やクッションを使って体を支え、自然に横向きを保てるように工夫しましょう。
- 背中に小さめのクッションや丸めたタオルなどを挟むと、寝返りを打って仰向けになるのを防ぐのに役立ちます。
- いびき防止用のリュックやベストなど、寝ている間に仰向けにならないようにするための専用グッズもあります。
- 効果: 重力による舌根沈下を防ぎ、気道が広がりやすくなります。特に、仰向け寝でいびきが悪化する方に効果的です。
正しい姿勢になる枕を選ぶ
枕の高さや形状は、寝ている間の頭や首の角度に大きく影響し、気道の確保に関わります。
自分に合った枕を選ぶことで、自然と気道が確保されやすい寝姿勢を保つことができます。
- 実践方法:
- 仰向け寝の場合: 頭が上がりすぎず、
顎が引きすぎない、首の自然なカーブを保てる高さの枕を選びましょう。額より顎がやや下がるくらいの角度が理想的です。 - 横向き寝の場合: 肩の高さでできた隙間を埋め、頭から首、背中にかけてがまっすぐになるような高さの枕を選びましょう。横向き寝で肩が圧迫されないような工夫がされた枕も有効です。
- 枕の素材(そば殻、羽毛、低反発ウレタン、高反発ウレタンなど)によってフィット感や通気性が異なります。自分にとって快適で、寝返りが打ちやすいものを選びましょう。
- いびき対策専用枕: 横向き寝を促す形状のものや、頭の角度を調整しやすい構造になっているものなど、いびき対策を目的とした枕も市販されています。
- 仰向け寝の場合: 頭が上がりすぎず、
- 効果: 寝ている間に気道が狭まりにくい理想的な頭と首の角度を保つことで、いびきを軽減します。
口呼吸から鼻呼吸へ改善する
日常的に口呼吸をしている方は、鼻呼吸を意識することでいびき改善につながります。鼻呼吸は、吸い込んだ空気を加湿・加温し、異物を除去するフィルター機能があるため、体にとっても本来自然な呼吸法です。
- 実践方法:
- 起きている間も、意識して口を閉じ、鼻で呼吸するように心がけましょう。
- 鼻炎などで鼻の通りが悪い場合は、まず耳鼻咽喉科を受診して鼻の治療を行うことが重要です。
- 口呼吸防止用のマウステープ(口閉じテープ)を寝る前に貼るのも有効です。ただし、鼻が完全に詰まっている場合は使用しないでください。
- 「あいうべ体操」などの舌や口周りのトレーニングで、口を閉じやすくする筋肉を鍛えることも助けになります(後述)。
- 効果: 舌根の沈下を防ぎ、気道を広げます。また、喉の乾燥を防ぎ、粘膜の腫れを軽減する効果も期待できます。
寝る前の飲酒・喫煙を控える
アルコールやタバコはいびきを悪化させる大きな要因です。可能であれば、寝る数時間前からは控えるようにしましょう。
- 実践方法:
- 夕食時の飲酒量を減らす、または寝る直前の飲酒は避ける。
- 就寝時間の少なくとも2~3時間前からは禁煙する。理想は禁煙することです。
- 効果: 喉や舌の筋肉の過度な弛緩を防ぎ、気道の確保を助けます。また、粘膜の腫れを軽減します。
適正体重を目指す(肥満解消)
肥満は首周りや喉の脂肪によって気道を狭めるため、体重をコントロールすることは根本的ないびき対策になります。
- 実践方法:
- バランスの取れた食事を心がけ、食べ過ぎに注意しましょう。特に、寝る直前の食事は控えめに。
- ウォーキングやジョギングなどの有酸素運動を継続的に行いましょう。
- 急激な減量ではなく、無理のないペースで、継続可能な目標を設定することが大切です。BMI(体格指数)を計算して、自分の適正体重を知ることから始めましょう。(BMI = 体重(kg) ÷ (身長(m) × 身長(m))。標準は18.5~24.9です)
- 効果: 首周りや舌の脂肪が減少し、気道が広がりやすくなります。長期的な健康改善にもつながります。
舌や口周りの筋肉を鍛えるトレーニング
加齢や普段の習慣で衰えがちな舌や口周りの筋肉を鍛えることで、寝ている間の舌根沈下を防ぎ、気道を広く保つ効果が期待できます。
- 実践方法:
- あいうべ体操: 「あー」と口を大きく開ける、「いー」と口を横に大きく広げる、「うー」と口をすぼめる、「べー」と舌を突き出して下に伸ばす、をそれぞれ大げさに繰り返し行います。1セット10回程度とし、1日に30セットを目安に継続すると効果的です。
- 舌回し: 口を閉じて、舌で歯茎の外側をなぞるようにゆっくりと大きく回します。右回し、左回しをそれぞれ20回ずつ行います。
- これらのトレーニングは、電車の中や家事をしながらなど、隙間時間に行えます。継続することが重要です。
- 効果: 舌や軟口蓋、口周りの筋肉が強化され、寝ている間の弛緩や沈下を防ぎやすくなります。
寝室環境を整えることも重要
いびきは、寝室の環境にも影響を受けることがあります。特に乾燥は、鼻や喉の粘膜に影響を与え、いびきを悪化させる原因となります。
乾燥対策で鼻や喉の通りを良くする
空気が乾燥していると、鼻や喉の粘膜も乾燥しやすくなり、炎症を起こしたり、防御機能が低下したりします。これにより粘膜が腫れて気道が狭まり、いびきをかきやすくなります。
- 実践方法:
- 加湿器を使用する: 寝室に加湿器を置き、適切な湿度(一般的に50~60%が快適とされています)を保ちましょう。特に冬場やエアコンを使用する際は乾燥しやすいため注意が必要です。
- 濡れタオルを干す: 加湿器がない場合でも、濡らしたタオルを部屋に干しておくだけで多少の加湿効果があります。
- マスクをして寝る: 鼻や口を覆うマスクをして寝ることで、吐く息によって湿度を保ち、粘膜の乾燥を防ぐことができます。
- 水分補給: 寝る前にコップ一杯の水を飲むなど、日頃からこまめに水分補給を行い、体の内側からも乾燥を防ぎましょう。
- 効果: 鼻や喉の粘膜の乾燥を防ぎ、粘膜の腫れや炎症を軽減します。これにより気道が通りやすくなり、いびきを軽減する効果が期待できます。また、風邪やインフルエンザの予防にもつながります。
これらの自力でできる対策は、すぐに始められるものが多く、いびき改善の第一歩として非常に有効です。ただし、これらの対策で効果が見られない場合や、いびきに加えて日中の眠気など気になる症状がある場合は、次に説明するいびき対策グッズの活用や、専門医への相談を検討しましょう。
効果的な「いびき対策グッズ」の種類と選び方
様々なタイプがあるいびき対策グッズは、ご自身のいびきの原因や症状に合わせて選ぶことで、いびきの軽減に役立ちます。ここでは、代表的なグッズとその効果、そして選び方のポイントをご紹介します。
主な対策グッズとその効果
マウスピース
下顎を前方に少し突き出すように固定することで、舌根が喉の奥に沈下するのを防ぎ、気道を広げる装置です。歯科医院で作成する「口腔内装置(OA)」が一般的です。
- 効果: 舌根沈下による気道狭窄に効果的です。単純いびきや軽~中等度の睡眠時無呼吸症候群の治療にも用いられます。
- メリット: 比較的効果が高く、持ち運びも容易です。
- デメリット: 装着に慣れが必要な場合があります。市販品もありますが、噛み合わせに影響を与える可能性があるため、歯科医師に自身の顎の構造や噛み合わせに合ったものを作成してもらうのが最も効果的かつ安全です。
鼻腔拡張テープ・スプレー
鼻の穴を広げて空気の通りを良くするグッズです。鼻づまりによって鼻呼吸が困難になっている場合や、鼻腔が狭い方などに有効です。
- 鼻腔拡張テープ: 鼻の表面に貼り、バネの力で鼻腔を物理的に広げます。
- 効果: 鼻からの空気の流れを改善し、鼻呼吸を促します。鼻炎などで鼻が詰まっている場合に有効です。
- メリット: 手軽に試せる、貼るだけ。
- デメリット: 鼻の皮膚が弱いと荒れることがあります。鼻の構造そのものに問題がある場合や、喉の気道狭窄には効果が薄いです。
- 鼻腔拡張スプレー: 鼻の粘膜の腫れを抑えたり、鼻水を抑えたりして鼻の通りを良くする点鼻薬です。医療用と市販薬があります。
- 効果: 鼻づまりを一時的に解消し、鼻呼吸を楽にします。
- メリット: 即効性があるものが多いです。
- デメリット: 血管収縮剤を含む点鼻薬を長期連用すると、かえって慢性的な鼻づまり(薬剤性鼻炎)を引き起こすことがあるため注意が必要です。
いびき対策枕
横向き寝をサポートする形状や、頭の角度を調整して気道が確保されやすい寝姿勢を保つように設計された枕です。
- 効果: 主に寝姿勢によるいびき(仰向け寝で悪化する場合)に有効です。横向き寝を促したり、首の角度を適切に保ったりします。
- メリット: 寝具を変えるだけで手軽に試せます。特定の寝姿勢をサポートする機能があります。
- デメリット: 全てのいびきに効果があるわけではありません。体の相性があるため、実際に試してみないと効果が分からない場合があります。
その他(口閉じテープ、ウェアラブルデバイスなど)
- 口閉じテープ(マウステープ): 寝ている間に口が開いてしまうのを防ぎ、鼻呼吸を促すテープです。医療用テープなど、肌に優しい素材を選びましょう。
- 効果: 口呼吸による舌根沈下や喉の乾燥を防ぎ、鼻呼吸を習慣づけるのに役立ちます。
- メリット: 安価で手軽に試せます。
- デメリット: 鼻が完全に詰まっている場合は窒息の危険があるため使用できません。テープの刺激で肌がかぶれることがあります。
- ウェアラブルデバイス: 腕時計型やリング型など、体につけて睡眠中のいびきや呼吸状態をモニタリングするデバイスです。バイブレーションで寝姿勢を変えるように促す機能を持つものもあります。
- 効果: 自分のいびきの状況(音量、頻度、寝姿勢との関係など)を客観的に把握するのに役立ちます。バイブレーション機能付きは、仰向け寝から横向き寝への体位変換を促し、いびきを軽減する効果が期待できます。
- メリット: 睡眠データを記録・分析できます。バイブレーションによる体位変換は比較的自然な方法です。
- デメリット: 機器の購入費用がかかります。バイブレーションで目が覚めてしまう人もいます。病気の診断や治療を行うものではありません。
効果あるグッズの選び方
数あるいびき対策グッズの中から、自分に合ったものを選ぶためには、まず自分のいびきの原因をある程度把握することが重要です。
グッズの種類 | 主な対象となるいびきの原因 | こんな人におすすめ | 選び方のポイント |
---|---|---|---|
マウスピース(OA) | 舌根沈下(仰向け寝、肥満、口呼吸) | 仰向け寝でいびきがひどい、他のグッズで効果がない | 必ず歯科医院で自身の顎に合ったものを作成してもらうこと。市販品は安易に使わない |
鼻腔拡張テープ・スプレー | 鼻づまり、狭い鼻腔 | 普段から鼻が詰まりやすい、鼻の通りが悪いと感じる | テープは肌に優しいものを選ぶ。スプレーは薬剤の種類と連用注意(薬剤師に相談) |
いびき対策枕 | 寝姿勢(仰向け寝) | 仰向け寝でいびきをかく、横向き寝を習慣づけたい | 実際に試して、自分に合う高さや硬さ、形状のものを選ぶ。寝返りが打ちやすいか確認 |
口閉じテープ | 口呼吸 | 寝ている間に口が開く癖がある、鼻呼吸を習慣づけたい | 鼻が完全に詰まっていないか確認。肌に優しい素材を選ぶ。 |
ウェアラブルデバイス | 原因特定、寝姿勢(仰向け寝)、いびき音 | 自分のいびきの状況を知りたい、データで確認したい | 測定できる項目、アプリ連携の有無、バイブレーション機能の有無などを確認 |
選び方のポイントまとめ:
- いびきの原因を考える: 自分のいびきは仰向けでひどくなるか?鼻は詰まっているか?口呼吸か?などを振り返り、可能性の高い原因に対応したグッズを選びましょう。可能であれば、ご家族に寝ている様子を見てもらうと参考になります。
- 手軽に試せるものから: まずは鼻腔拡張テープや口閉じテープ、市販のいびき対策枕など、比較的安価で手軽に試せるものから始めてみるのも良いでしょう。
- 専門家への相談も視野に: マウスピース(OA)は、必ず歯科医師に相談して作成してもらいましょう。鼻づまりがひどい場合は、耳鼻咽喉科で治療を受けてから鼻腔拡張グッズを試す方が効果的な場合もあります。
- 効果がない場合は原因が別か、SASの可能性: いくつかのグッズを試しても効果がない場合や、いびき以外の気になる症状がある場合は、単純いびきではない可能性も考えられます。その際は、次に説明する専門医療機関への相談を強くお勧めします。
グッズはあくまでいびきを軽減するための補助的なものです。根本的な原因(肥満、生活習慣など)がある場合は、それらを改善する努力と並行して使用することで、より効果が期待できます。
自力での対策が難しい場合|専門医療機関への相談
自宅でできる対策や市販のグッズを試してもいびきが改善しない場合や、いびきに加えて日中の眠気や起床時の頭痛などの症状がある場合は、医療機関を受診することを強くお勧めします。特に、睡眠時無呼吸症候群(SAS)の可能性がある場合は、放置せずに専門医の診断を受けることが重要です。
受診を検討すべきいびきのサイン
前述の「もしかして危険ないびき?」のセクションでも触れましたが、以下のようなサインがある場合は、速やかに医療機関を受診し、専門医に相談しましょう。
- 大きないびき: 連続的でうるさいいびきを毎晩かく。
- いびきの中断と再開: いびきの最中に呼吸が止まり、その後大きな呼吸音や喘ぎ声とともに再び呼吸が始まる様子をご家族から指摘される。
- 日中の強い眠気: 会議中や運転中、静かな場所で短時間で眠り込んでしまうなど、生活に支障が出るほどの眠気を感じる。
- 起床時の頭痛: 特に朝起きたときに頭が重い、痛いと感じる。
- 夜間の頻尿: 睡眠中に何度もトイレに起きる。
- 集中力や記憶力の低下: 仕事や学業でのパフォーマンスが落ちた。
- 倦怠感、疲労感: 十分寝たはずなのに体がだるい。
- 高血圧、糖尿病、不整脈など基礎疾患がある: SASはこれらの病気を悪化させる可能性があります。
- ご家族がいびきや呼吸停止を心配している: 周囲からの指摘は重要なサインです。
これらの症状は、睡眠中に体が酸素不足に陥り、脳が十分に休息できていないサインである可能性があります。SASは適切な治療を行わないと、心血管系の疾患リスクを高めるため、早期発見と治療が重要です。
病院でのいびき検査・治療法
いびきやSASの診断・治療は、耳鼻咽喉科、呼吸器内科、睡眠外来などで行われます。問診でいびきの状況や日中の症状などを詳しく聞き取った後、必要に応じて検査を行います。
簡易検査・ポリソムノグラフィー(PSG)検査
いびきやSASの診断を確定するために行われる検査です。
- 簡易検査: 自宅でできる検査です。指先にパルスオキシメーターを装着して血中の酸素濃度を測ったり、鼻の下にセンサーをつけて呼吸の状態を記録したりします。比較的簡便で、SASの可能性が高いかどうかをスクリーニングするのに用いられます。
- ポリソムノグラフィー(PSG)検査: 睡眠の状態を詳細に調べる精密検査です。入院して行われるのが一般的ですが、最近では自宅でできる機器もあります。脳波、眼球運動、筋電図、心電図、呼吸、血中の酸素濃度、いびき音、寝姿勢などを同時に記録します。この検査によって、睡眠の深さや質、無呼吸や低呼吸の回数、いびきの状況などが正確に把握でき、SASの有無や重症度を診断できます。
PSG検査の結果、無呼吸・低呼吸の頻度(AHI:Apnea Hypopnea Index)などに基づいてSASの重症度が判定され、その後の治療法が検討されます。
検査の種類 | 特徴 | わかること | 場所 |
---|---|---|---|
簡易検査 | 自宅で簡便に行える。SASのスクリーニングに用いられる。 | 無呼吸・低呼吸の頻度、血中酸素濃度の低下の程度。 | 自宅 |
ポリソムノグラフィー(PSG)検査 | 脳波など様々な生体情報を同時に記録する精密検査。SASの確定診断と重症度判定に必須。 | 睡眠段階、無呼吸・低呼吸の回数、血中酸素濃度の低下、いびき音、脚の動きなど睡眠全般 | 病院(入院) または自宅 |
主な治療法(CPAP療法、手術など)
SASと診断された場合の主な治療法には、以下のようなものがあります。
- CPAP(シーパップ)療法: Continuous Positive Airway Pressureの略で、持続陽圧呼吸療法と呼ばれます。鼻に装着したマスクから空気を送り込み、寝ている間に気道に一定の圧力をかけ続けることで、気道が塞がるのを防ぎます。中等症から重症のSASに対して最も広く行われている治療法です。
- 効果: 睡眠中の無呼吸やいびきを劇的に改善し、血中酸素濃度を正常に保ちます。日中の眠気や疲労感も解消され、SASに関連する生活習慣病のリスク低減にもつながります。
- 適用: AHIが20以上の場合など、保険適用で受けられます。
- 使用方法: 毎晩就寝中に使用します。機器はレンタルとなり、月に一度程度の通院で効果や使用状況を確認します。
- 口腔内装置(OA): 歯科医院で作成するマウスピース型の装置です。下顎を前方に突き出すように固定し、舌根沈下を防ぎます。軽症から中等症のSASや、CPAP療法が合わない場合などに用いられます。保険適用で作成可能です。
- 外科手術: 扁桃肥大やアデノイド肥大が原因の場合、これらの組織を切除する手術が行われることがあります。また、鼻中隔湾曲症や慢性鼻炎で鼻づまりがひどい場合は、鼻の手術で鼻の通りを改善するだけでもいびきやSASが改善されることがあります。手術は原因や症状、患者さんの状態によって適応が検討されます。
- 生活習慣の改善指導: 肥満の解消、禁煙、節酒、規則正しい生活、適切な寝姿勢など、いびきの原因となる生活習慣の改善に関する指導が行われます。これらは、どのような治療法を選択する場合でも非常に重要です。
どの治療法を選択するかは、いびきの原因やSASの重症度、患者さんの全身状態、ライフスタイルなどを考慮して、医師とよく相談して決定します。早期に適切な診断と治療を受けることで、いびきを改善し、健康寿命を延ばすことにつながります。
まとめ|いびき対策の第一歩を踏み出そう
いびきは、単に「うるさい」だけでなく、睡眠時無呼吸症候群のような健康上のリスクを伴う場合があることがお分かりいただけたかと思います。いびきの主な原因は、寝ている間に空気の通り道である気道が狭くなることですが、その原因は肥満、寝姿勢、口呼吸、飲酒、喫煙、鼻疾患など多岐にわたります。
いびきを改善するための第一歩として、まずはご自宅でできる対策から始めてみましょう。横向き寝を試す、自分に合った枕を選ぶ、意識して鼻呼吸をする、寝る前の飲酒・喫煙を控える、体重を管理する、舌や口周りのトレーニングを行う、寝室の乾燥対策をする、といった方法は、今日からでも取り組めるものです。これらの対策は、たとえ病気が原因の場合でも症状の緩和に役立つ可能性があります。
また、いびき対策グッズも様々な種類が市販されています。マウスピース、鼻腔拡張テープ・スプレー、いびき対策枕、口閉じテープ、ウェアラブルデバイスなどがあり、それぞれ効果が期待できるいびきの原因が異なります。ご自身のいびきのタイプに合わせて、適切なグッズを選んでみるのも良いでしょう。ただし、マウスピース(口腔内装置)の作成は、必ず歯科医院で相談することをお勧めします。
もし、ご自宅での対策やグッズを試してもいびきが改善しない場合や、いびきに加えて日中の強い眠気、起床時の頭痛、集中力低下などの症状がある場合は、睡眠時無呼吸症候群(SAS)の可能性も考えられます。その際は、迷わず耳鼻咽喉科、呼吸器内科、睡眠外来などの専門医療機関を受診してください。病院では、いびきや呼吸の状態を詳しく調べる検査(簡易検査やPSG検査)を行い、診断に基づいてCPAP療法、口腔内装置、手術などの適切な治療法が提案されます。SASは放置すると様々な病気のリスクを高めるため、早期の診断と治療が非常に重要です。
いびき対策は、自分自身だけでなく、ご家族の安眠を守るためにも大切です。また、健康的な睡眠は、日中の活動の質を高め、心身の健康維持にも欠かせません。この記事を参考に、ご自身のいびきと向き合い、できることからいびき対策の第一歩を踏み出していただければ幸いです。必要であれば専門家を頼り、健康的で快適な睡眠を取り戻しましょう。
免責事項: 本記事は一般的な情報提供を目的としており、医学的なアドバイスではありません。個々の症状や状況については、必ず医師や専門家の診断を受けてください。記事内で紹介しているグッズや方法は、効果に個人差があります。