乳がんは、女性にとって最も身近ながんの一つであり、多くの不安や疑問を抱える方がいらっしゃるかもしれません。
しかし、早期に発見し適切な治療を受けることで、治癒が期待できるがんでもあります。
このページでは、乳がんの症状、原因、診断、治療、そして予後について、専門的な情報を分かりやすく解説します。
ご自身の体に関心を持ち、正しい知識を得ることで、不安を軽減し、もしもの時に冷静な判断ができるよう、ぜひ最後までお読みください。
乳がんとは?
乳がんとは、乳房にある乳腺組織に発生する悪性の腫瘍です。
乳腺は、母乳を作る「小葉」と、作られた母乳を乳頭まで運ぶ「乳管」から構成されており、がんの多くはこの乳管に発生します。
一部は小葉や、乳腺を支える脂肪や結合組織から発生することもあります。
乳がんは、発生した場所や広がり方によっていくつかの種類に分けられます。
最も多いのは乳管から発生するがんで、「浸潤がん」と「非浸潤がん」に大別されます。
- 非浸潤がん: がん細胞が乳管や小葉の中にとどまっており、周囲の組織に浸潤したり、リンパ節や他の臓器に転移したりする可能性が非常に低い段階のがんです。
比較的早期に発見されることが多く、適切な治療によってほぼ治癒が期待できます。 - 浸潤がん: がん細胞が乳管や小葉の外に広がり、周囲の組織を破壊しながら増殖するタイプのがんです。
血管やリンパ管に入り込み、全身に転移する可能性があります。
乳がんの多くはこの浸潤がんです。
乳がんは、他のがんと同様に、細胞の遺伝子に傷がつき、正常な細胞増殖の制御が失われることで発生すると考えられています。
女性ホルモンの影響を強く受ける特徴があり、近年、日本を含む多くの国で罹患率が増加傾向にあります。
これは、食生活やライフスタイルの変化、高齢化などが影響していると考えられています。
乳がんの主な症状
乳がんは、早期の段階では自覚症状がほとんどないことが多いため、定期的な検診や自己検診が非常に重要です。
しかし、がんが進行すると様々な症状が現れることがあります。
以下に、乳がんの代表的な症状をご紹介します。
これらの症状に気づいた場合は、自己判断せず速やかに医療機関(乳腺外科など)を受診することが大切です。
乳房のしこり
乳がんで最もよく見られる症状は、乳房のしこりです。
良性のしこり(線維腺腫や嚢胞など)も多く存在するため、しこりがあることイコール乳がんというわけではありませんが、注意が必要です。
乳がんによるしこりの特徴としては、以下のようなものがあります。
- 硬い: ゴムのような弾力よりも、石のように硬いと感じることが多いです。
- 触っても痛くない: 痛みがないことが多いですが、一部に痛みを伴う場合もあります。
- 不規則な形: 輪郭がはっきりせず、いびつな形をしていることがあります。
- 動きにくい: 周囲の組織に固定されているため、指で押してもあまり動かないことがあります。
ただし、これらはあくまで一般的な特徴であり、全ての乳がんのしこりがこれらの特徴を持つわけではありません。
特に、乳腺組織が発達している若い方や、生理前に乳房が張る時期には、しこりのように感じられることもあります。
気になるしこりを見つけた場合は、必ず専門医の診察を受けましょう。
乳房や乳頭の見た目の変化
乳がんが進行すると、乳房全体の形や皮膚、乳頭に変化が現れることがあります。
- 皮膚のひきつれやくぼみ(えくぼ徴候): 乳がんが皮膚に近い部分にできると、がんが周囲の組織をひきつらせ、皮膚がへこんだり、えくぼのようにくぼんだりすることがあります。
腕を上げたり下げたりした時に、この変化がより顕著になることがあります。 - 皮膚の赤み、むくみ、ただれ: まれに、乳房全体が赤く腫れ上がったり、皮膚が厚くむくんだり、熱を帯びたりする「炎症性乳がん」というタイプがあります。
これは比較的進行が速いがんです。
また、乳頭やその周囲の皮膚が湿疹のようにただれたり、かさぶたになったりする「パジェット病」というタイプも乳がんの一種です。 - 乳頭の陥没: 元々は出ていた乳頭が、内側にひきつられて陥没することがあります。
- 乳房の形の変化: 左右の乳房の大きさや形に明らかな違いが生じたり、乳房の一部が硬く変形したりすることがあります。
これらの見た目の変化は、比較的がんが進行しているサインである可能性があります。
鏡で自分の乳房を定期的に観察する習慣をつけることが重要です。
乳頭からの分泌物
乳頭から分泌物が出ることも乳がんの症状の一つです。
ただし、分泌物の多くは良性の原因によるものです。
生理的なもの(妊娠・授乳期)や、ホルモンバランスの乱れ、薬剤の影響、良性の乳腺疾患によっても分泌物は生じます。
乳がんが疑われる分泌物の特徴としては、以下のようなものがあります。
- 血性の分泌物: 赤色や茶色の血液が混じった分泌物は、注意が必要です。
- 透明な分泌物: 透明でも、片側の乳頭から、しかも触らなくても自然に出てくるような場合は、がんの可能性も考えられます。
- 片側の乳頭からのみ出る: 両側から出るよりも、片側からのみ出る分泌物の方が注意が必要です。
- 自然に出てくる: 自分で絞り出さなくても、下着が汚れるなど、自然に分泌物が出てくる場合。
もちろん、これらの特徴全てが揃っていなくても、気になる分泌物があれば専門医に相談することが推奨されます。
乳房の痛み・違和感
乳房の痛みは、乳がんの症状としては比較的まれです。
多くの乳房痛は、女性ホルモンの影響によるもの(生理前に張って痛むなど)や、良性の乳腺疾患によるものです。
しかし、まれに乳がんによって痛みや違和感が生じることもあります。
特に、しこりを伴わない痛みや、痛みの部位が固定されている場合などは、注意が必要です。
また、炎症性乳がんのように、乳房全体が赤く腫れて痛みを伴うタイプもあります。
痛みが続く場合や、他の症状(しこり、見た目の変化など)を伴う場合は、医療機関を受診しましょう。
痛みがなくても、しこりなどの症状がある場合は、痛みの有無にかかわらず受診が必要です。
その他の症状・前兆
乳がんが進行し、リンパ節や他の臓器に転移した場合、乳房以外の場所に症状が現れることがあります。
- 脇の下のしこり: 乳がんが脇の下のリンパ節に転移すると、そこに硬いしこりを触れることがあります。
- 肩や腕のしびれ、むくみ: 脇の下のリンパ節転移が進むと、神経を圧迫したり、リンパ液の流れが悪くなったりして、肩や腕にしびれやむくみが生じることがあります。
- 骨の痛み: 骨に転移した場合、転移した部位に痛みが現れることがあります。
- 息切れ、咳: 肺に転移した場合、これらの症状が出ることがあります。
- 黄疸、腹部の張り: 肝臓に転移した場合、これらの症状が出ることがあります。
これらの症状は、乳がん以外の様々な原因でも起こり得ますが、乳がんの診断を受けている方や、乳がんの可能性を心配している方は、速やかに医師に相談することが重要です。
症状が出にくいケース(早期乳がんなど)
前述の通り、特に早期の乳がんでは、自覚症状がほとんどないことが一般的です。
非浸潤がんはもちろんのこと、比較的小さい浸潤がんや、乳房の奥深い場所にできたがんなどは、自分で触っても気づきにくいことがあります。
症状がないから大丈夫、と思ってしまうのは危険です。
症状が現れる前に、がんをより小さく、転移がない段階で見つけることが、治療の成功率を大きく左右します。
そのため、症状の有無にかかわらず、定期的な乳がん検診を受けることが非常に重要視されています。
検診で異常が見つかった場合でも、多くの場合は良性の変化ですが、精密検査を受けることで早期発見につながります。
乳がんの発生原因
乳がんの発生メカニズムは完全に解明されているわけではありませんが、様々な要因が複雑に関与していると考えられています。
遺伝的な要因と、生まれた後の環境要因(生活習慣など)の両方が影響すると考えられています。
リスク要因(年齢、遺伝、ホルモンなど)
乳がんになりやすいとされるリスク要因がいくつか特定されています。
これらのリスク要因を持っているからといって、必ず乳がんになるわけではありませんが、リスクが高い場合はより注意が必要です。
代表的なリスク要因は以下の通りです。
- 年齢: 乳がんの罹患率は、一般的に40代後半から60代にかけてピークを迎え、年齢とともに高くなります。
これは、女性ホルモンへの曝露期間が長くなることなどが関係していると考えられています。 - 遺伝(家族歴): 母親や姉妹など、血縁者に乳がんになった人がいる場合、そうでない人に比べて乳がんになるリスクが高くなります。
特に、若年で発症した人や、両側の乳房にがんができた人、卵巣がんなどを合併した人が家族にいる場合は、特定の遺伝子の変異(BRCA1/BRCA2など)が関係している可能性があります。
これらの遺伝子変異がある場合は、専門の遺伝カウンセリングを受けることも選択肢となります。 - 女性ホルモン(エストロゲン)への曝露期間: 女性ホルモンのエストロゲンは乳腺組織の増殖を促進するため、エストロゲンにさらされる期間が長いほどリスクが高まると考えられています。
- 初潮年齢が早い(11歳以下)
- 閉経年齢が遅い(55歳以上)
- 出産経験がない、または出産年齢が遅い(30歳以上での初産)
- 授乳歴がない
- 閉経後のホルモン補充療法(期間や種類による)
などがリスクを高める要因とされています。
一方で、出産回数が多いことや、長期間の授乳は乳がんのリスクを低下させると考えられています。 - 過去の乳腺疾患: 過去に非浸潤性乳管がんや、一部の良性の乳腺疾患(非定型過形成など)と診断されたことがある場合、その後の乳がんリスクがやや高くなることがあります。
- 生活習慣:
- 閉経後の肥満: 脂肪組織でエストロゲンが作られるため、閉経後に太りすぎるとリスクが高まります。
- 過度な飲酒: 習慣的に多量飲酒をする人はリスクが高まります。
- 喫煙: 喫煙も乳がんのリスクを高めることが報告されています。
- 運動不足: 適度な運動はリスクを低下させると考えられています。
- 放射線被曝: 若い頃に胸部に放射線治療を受けたことがある場合、将来の乳がんリスクが高まることがあります。
これらのリスク要因のうち、年齢や遺伝、ホルモンへの曝露期間などは自分でコントロールできないものもありますが、生活習慣に関わるものは改善の努力をすることでリスクを軽減できる可能性があります。
予防について
残念ながら、乳がんを100%予防できる方法は現在のところ確立されていません。
しかし、前述のリスク要因を踏まえ、リスクを減らすための取り組みは可能です。
- 健康的な生活習慣: 禁煙、飲酒は控えめにする、適度な運動を続ける、バランスの取れた食事を心がけ、適正体重を維持することなどが、乳がんだけでなく、他のがんや生活習慣病の予防にもつながります。
- リスクに応じた検診: リスク要因が多いと自覚している場合は、推奨される検診年齢や頻度だけでなく、医師と相談して個別の検診計画を立てることも検討できます。
遺伝子変異が判明している場合は、より早期からの厳重なサーベイランス(定期的な検査)が推奨されることもあります。 - 薬剤による予防: 一部の高リスクの女性に対して、ホルモン療法に使用される特定の薬剤(タモキシフェンなど)が乳がんの発症リスクを低下させることが分かっています。
しかし、これらの薬剤には副作用のリスクもあるため、適用となるのは非常に限られたケースであり、必ず専門医と慎重に相談して決定する必要があります。
最も重要なのは、「早期発見」です。
予防策を講じつつ、定期的な検診によって早期に見つけることが、治癒率向上につながる最も効果的な「対策」と言えます。
乳がんの診断と検査
乳がんが疑われた場合や、乳がん検診で異常が見つかった場合、確定診断のために様々な検査が行われます。
これらの検査は、がんが存在するかどうか、存在する場合はどのような性質を持つか、どの程度進行しているかなどを明らかにするために重要です。
視触診
医師による視診(目で見て確認)と触診(手で触って確認)は、乳がん診断の第一歩です。
乳房の形、皮膚の変化、乳頭の状態などを視診し、乳房全体や脇の下を触って、しこりの有無、硬さ、動きやすさ、リンパ節の腫れなどを確認します。
かつては乳がん検診の中心的な項目でしたが、しこりが小さい場合や深い場所にある場合などは触診では見つけにくいため、現在は単独で行われることは少なく、画像検査と組み合わせて診断が進められます。
自己検診と同様に、医師の触診でも触知できない乳がんがあることを理解しておく必要があります。
マンモグラフィ検査
マンモグラフィは、乳房専用のX線撮影装置を用いた画像検査です。
乳房を2枚の板で挟んで圧迫し、薄く広げて撮影します。
圧迫によって乳房内の組織が均等に広がり、がんなどの病変が見えやすくなるだけでなく、被ばく量も減らすことができます。
痛みを伴うことがありますが、短時間で終わります。
マンモグラフィは、特に微細な石灰化(カルシウムの沈着)の検出に優れています。
非浸潤がんの一部は、この微細な石灰化として発見されることがあります。
また、腫瘤(しこり)を検出することも可能です。
ただし、乳腺密度が高い「高濃度乳房(デンスブレスト)」の場合、乳腺が白く写るため、同じく白く写るがんが見えにくいという欠点があります。
若い女性は高濃度乳房である傾向が高いため、マンモグラフィだけではがんを見落とす可能性があります。
超音波検査
超音波検査(エコー)は、超音波を用いて乳房内部の様子を画像化する検査です。
体に害がなく、痛みもありません。
ジェルを塗ったプローブを乳房の表面に当てて滑らせることで検査します。
超音波検査は、しこりの性状(形、境界、内部の構造など)を詳しく評価するのに優れています。
しこりが液体が溜まった良性の「嚢胞」なのか、固形の「腫瘤」なのか、固形の場合は良性か悪性かの判断にある程度役立ちます。
マンモグラフィが苦手とする高濃度乳房でも、しこりを見つけやすいという利点があります。
そのため、特に若い女性の検診や、マンモグラフィと併用して行われることが多い検査です。
一方で、マンモグラフィが得意とする微細な石灰化の検出は苦手です。
乳がん診断に用いられる画像検査の比較
検査方法 | 特徴 | 得意なこと | 苦手なこと | 痛み | 被ばく |
---|---|---|---|---|---|
マンモグラフィ | 乳房を挟んでX線撮影 | 微細な石灰化の検出、腫瘤の検出 | 高濃度乳房での診断、石灰化を伴わない小さながん、嚢胞の診断 | △ | 〇 |
超音波検査 | 超音波を用いる、プローブを当てる | しこりの性状評価、高濃度乳房での診断 | 微細な石灰化の検出、広範囲に広がる病変、乳房全体の評価 | なし | なし |
視触診 | 医師による視覚・触覚での確認 | 比較的大きなしこりや皮膚の変化の発見 | 小さい・深いしこり、非触知性病変の見落とし | なし | なし |
(注:痛みの△は個人差があります。被ばくの〇はX線を使用するためあります。)
組織診・細胞診
画像検査で乳がんが疑われた場合、確定診断のためには、病変の一部を採取して顕微鏡で調べる組織診または細胞診が必須です。
- 細胞診: 細い針を病変に刺し、吸引器で細胞を採取して顕微鏡で調べます。
比較的簡単に行えますが、採取できる細胞の量が少ないため、診断が難しい場合や、良性か悪性かの断定ができない場合もあります。 - 組織診: 針生検(コアニードルバイオプシー)や吸引式乳腺組織生検(VAB)などの方法で、病変の一部を組織の塊として採取します。
細胞診よりも多くの情報が得られ、より正確な診断が可能です。
がん細胞の有無だけでなく、がんのタイプ(組織型)、悪性度(グレード)、そして後述するホルモン受容体やHER2などのタンパク質の発現状況(サブタイプ)なども調べることができ、治療方針の決定に非常に重要な情報となります。
通常、局所麻酔をして行われます。
これらの病理診断の結果、がん細胞が見つかれば乳がんと確定診断されます。
同時に、がんの性質(サブタイプなど)が明らかになり、最適な治療法を検討するための基礎情報となります。
その他の検査
乳がんと診断された場合、がんがどの程度進行しているか(病期・ステージ)を正確に判断し、最適な治療法を選択するために、さらに詳しい検査が行われることがあります。
- CT検査(コンピューター断層撮影): X線を用いて体の断面画像を撮影します。
肺や肝臓など、遠隔臓器への転移がないかを確認するためによく行われます。 - MRI検査(磁気共鳴画像): 強い磁力と電波を用いて体の内部を画像化します。
乳房内のがんの広がりや、多発病変の有無、対側の乳房の評価などに有用です。
また、手術方法の検討にも役立ちます。 - 骨シンチグラフィ: 微量の放射性医薬品を注射し、骨に集まる様子を画像化します。
骨転移の有無を調べるために行われます。 - PET検査(陽電子放出断層撮影): がん細胞がブドウ糖を多く取り込む性質を利用した検査です。
微量の放射性ブドウ糖を注射し、体内での分布を画像化することで、全身のがんの広がりや転移巣を一度に調べることができます。
比較的進行したがんの病期診断や、治療効果判定に用いられることがあります。
これらの検査は、全ての乳がん患者さんに行われるわけではなく、がんの進行度やタイプ、症状などに応じて必要性が判断されます。
乳がんの病期(ステージ)
乳がんの病期(ステージ)とは、がんの進行度を数値やアルファベットで示したものです。
病期は、治療法を選択する上で非常に重要な指標となります。
がんの大きさ、リンパ節への転移の有無、遠隔臓器への転移の有無などを総合的に評価して決定されます。
TNM分類とは?
乳がんの病期分類には、国際的に広く用いられているTNM分類が使われます。
これは、以下の3つの要素の頭文字をとったものです。
- T (Tumor: 腫瘍): 原発巣(最初にがんができた場所)の大きさや、周囲の組織への広がり具合を示します。
T0〜T4までの段階があります。 - N (Node: リンパ節): がんが近くのリンパ節(主に脇の下のリンパ節)に転移しているかどうか、転移がある場合はその数や大きさ、広がり具合を示します。
N0〜N3までの段階があります。 - M (Metastasis: 遠隔転移): がんが最初にできた乳房から離れた臓器(肺、肝臓、骨、脳など)に転移しているかどうかを示します。
M0(転移なし)とM1(転移あり)の2つの段階があります。
これらのTNM分類に加えて、がんの悪性度(グレード)や、後述するサブタイプ(ホルモン受容体やHER2の発現状況など)を考慮して、病期がステージ0からステージIVまでの5段階に分類されます。
ステージ別の特徴
ステージは、がんの進行度を示す指標であり、一般的に数字が大きいほど進行していることを意味します。
- ステージ0: がん細胞が乳管や小葉の中にとどまっている非浸潤がんです。
浸潤や転移の可能性が非常に低いため、最も早期の段階とされます。 - ステージI: 小さい浸潤がんで、リンパ節や遠隔臓器への転移がない段階です。
一般的に、腫瘍の大きさが2cm以下で、リンパ節転移がない場合に分類されます。
早期発見された乳がんの多くはこのステージです。 - ステージII: ステージIよりやや進行した段階です。
腫瘍の大きさが2cmを超えているか、または腫瘍が小さくても近くのリンパ節に転移が認められる場合に分類されます。
ただし、遠隔転移はありません。 - ステージIII: 比較的進行したがんです。
腫瘍が大きい(5cmを超える)、または脇の下のリンパ節への転移が複数個ある、またはリンパ節転移が広範囲に及んでいる、または胸壁や皮膚に浸潤しているが、遠隔転移はない場合に分類されます。 - ステージIV: 遠隔臓器(肺、肝臓、骨、脳など)に転移が認められる段階です。
がんが全身に広がっている状態であり、いわゆる「末期」や「進行がん」と呼ばれる状態に含まれます。
ステージ1の乳がん
ステージ1の乳がんは、がんが乳房内にとどまっており、小さく、リンパ節や他の臓器への転移がない状態です。
一般的には、腫瘍の大きさが2cm以下で、リンパ節転移が認められない場合にこのステージに分類されます。
早期発見された乳がんの多くがこのステージに該当します。
ステージ1の乳がんは、適切な治療を受けることで非常に高い確率で治癒が期待できます。
主な治療は手術ですが、がんの性質(サブタイプ)によっては再発予防のための薬物療法(ホルモン療法や抗HER2療法、まれに化学療法)が追加されることがあります。
ステージ2の乳がん
ステージ2の乳がんは、ステージ1よりもやや進行した段階です。
以下のいずれかの状態の場合に分類されます(遠隔転移がないことが前提)。
腫瘍の大きさが2cmを超えているが、リンパ節転移がない場合。
腫瘍の大きさは2cm以下だが、脇の下のリンパ節にごくわずかな転移がある場合(微小転移など)。
腫瘍の大きさが2cmを超え5cm以下で、リンパ節転移がない場合。
腫瘍の大きさが2cm以下または2cmを超え5cm以下で、脇の下のリンパ節に1〜3個の転移がある場合。
ステージ2の乳がんも、適切な治療によって治癒が十分に期待できる段階です。
治療は手術が中心となりますが、リンパ節転移の状況やがんのサブタイプに応じて、手術前または手術後に化学療法やホルモン療法、抗HER2療法などの薬物療法や、放射線療法が組み合わされることが一般的です。
集学的な治療計画が立てられます。
ステージ3の乳がん
ステージ3の乳がんは、比較的一部に進行が見られる段階です。
以下のいずれかの状態の場合に分類されます(遠隔転移がないことが前提)。
腫瘍が大きく(5cmを超える)、脇の下のリンパ節に転移がある場合。
腫瘍の大きさにかかわらず、脇の下のリンパ節に複数の転移(4個以上)がある場合。
リンパ節転移が広範囲に及んでいる場合(鎖骨の上下や内胸リンパ節など)。
腫瘍が胸壁や皮膚に広範囲に浸潤している場合。
炎症性乳がん。
ステージ3の乳がんは、局所的に進行していますが、まだ遠隔臓器への転移がない段階です。
治療は、手術に加えて、薬物療法(化学療法、ホルモン療法、抗HER2療法など)や放射線療法を組み合わせた集学的治療が必須となります。
多くの場合、手術の前に薬物療法を行い、がんを小さくしてから手術を行う「術前薬物療法」が選択されます。
治療は複雑になり、期間も長くなりますが、治癒を目指すことが可能です。
ステージ4の乳がん(末期・手遅れの症状)
ステージ4の乳がんは、がんが最初にできた乳房から離れた臓器(肺、肝臓、骨、脳など)に転移している状態です。
これは、がんが全身に広がっていることを意味します。
一般的に、この段階の乳がんを「転移性乳がん」と呼びます。
かつては「末期」や「手遅れ」と見なされることもありましたが、医学の進歩により、現在ではステージ4の乳がんに対しても様々な治療選択肢があり、治療によってがんの進行を抑え、症状を和らげ、QOL(生活の質)を維持しながら、長期間にわたる延命を目指すことが可能になっています。
治癒を目指すことは難しい状況が多いですが、決して「手遅れ」ではなく、病気と共に生きるための治療が行われます。
ステージ4の乳がんの治療は、がんのサブタイプ、転移している臓器、病状、患者さんの全身状態や希望などに応じて、薬物療法(ホルモン療法、抗HER2療法、化学療法、分子標的薬、免疫チェックポイント阻害薬など)が中心となります。
局所的な治療(手術や放射線療法)は、症状緩和のために行われることがあります。
治療は生涯にわたる場合が多く、患者さんの状態に合わせて柔軟に変更されます。
注意点: ステージ分類は、あくまで診断時の進行度を示すものであり、治療中に病状が変化することもあります。
また、同じステージでも、がんのサブタイプや患者さんの状態によって予後や選択される治療法は大きく異なります。
病期については、担当医から十分な説明を受けることが重要です。
乳がんの治療法
乳がんの治療は、がんの病期(ステージ)、がんのサブタイプ(性質)、患者さんの年齢や全身状態、そして患者さんの価値観や希望などを総合的に考慮して決定されます。
乳がんの治療は、単一の治療法だけでなく、複数の治療法を組み合わせて行う集学的治療が一般的です。
主要な治療法には、手術、放射線療法、薬物療法(化学療法、ホルモン療法、分子標的薬など)があります。
手術の種類(温存手術・全摘出術など)
手術は、乳房内のがんを取り除く局所治療の根幹です。
主に乳房手術とリンパ節手術があります。
乳房手術
乳房手術には、大きく分けて以下の2種類があります。
- 乳房温存手術: がんの部分とその周囲の正常な組織を一部切除し、乳房の大部分を残す手術です。
手術後に必ず放射線療法を行うことで、残った乳房での再発リスクを低減させます。
温存手術の適応となるのは、がんの大きさや位置、多発性かどうかなどの条件を満たす場合です。
整容性を保つことができるという利点があります。 - 乳房全摘出術(乳房切除術): 乳房全体を切除する手術です。
がんが広範囲に及んでいる場合や、多発している場合、温存手術後の放射線療法が難しい場合などに選択されます。
乳頭や乳輪を残す「乳頭乳輪温存乳房切除術」や、皮膚を残す「皮下乳腺全摘術」など、切除範囲を工夫することで、術後の乳房再建をしやすくする術式もあります。
どちらの手術を選択するかは、がんの進行度や性質、患者さんの希望などを踏まえて決定されます。
最近では、手術前に薬物療法を行ってがんを小さくすることで、全摘出術が必要だったケースが温存手術可能になることもあります。
リンパ節手術
乳がんが脇の下のリンパ節に転移しやすい性質を持つため、リンパ節の状態を調べるための手術や、転移があるリンパ節を切除する手術が行われることがあります。
- センチネルリンパ節生検: がん細胞が最初に到達すると考えられる、脇の下の「センチネルリンパ節」を数個だけ採取して調べる手術です。
センチネルリンパ節に転移がなければ、それより奥のリンパ節にも転移している可能性は低いと考えられ、リンパ節を広範囲に切除する「リンパ節郭清」を省略できます。
これにより、術後の腕のむくみ(リンパ浮腫)などの合併症リスクを低減できます。 - リンパ節郭清: センチネルリンパ節に転移が認められた場合や、術前の検査で明らかなリンパ節転移が確認されている場合に、脇の下のリンパ節を広範囲に切除する手術です。
再発予防のために行われますが、リンパ浮腫のリスクが高まるというデメリットがあります。
最近では、薬物療法の効果によってはリンパ節郭清を省略できるケースも増えてきています。
放射線療法
放射線療法は、高エネルギーの放射線をがんに照射し、がん細胞のDNAを傷つけて死滅させる治療法です。
主に局所的な治療法であり、以下のような目的で行われます。
- 乳房温存手術後の残存乳房への照射: 温存手術後の必須治療であり、乳房内での局所再発を防ぐ目的で行われます。
- 乳房全摘出術後の胸壁やリンパ節領域への照射: 進行したがんや、リンパ節転移が多い場合などに、再発リスクが高い領域へ照射することがあります。
- 転移巣(骨、脳など)への照射: 転移による痛みや神経症状などの症状緩和や、進行を遅らせる目的で行われます。
放射線療法は、通常、月曜日から金曜日まで週5回、数週間かけて行われます。
副作用としては、照射部位の皮膚炎(日焼けのような状態)やだるさなどがありますが、多くは一時的なものです。
薬物療法(化学療法、ホルモン療法、分子標的薬など)
薬物療法は、薬剤を内服または注射することで、血液の流れに乗って全身に行き渡らせ、がん細胞を攻撃する治療法です。
手術や放射線療法のような局所療法に対し、全身療法として行われます。
乳がんの薬物療法には、主に以下の種類があり、がんのサブタイプに応じて使い分けられます。
乳がんの主な薬物療法
治療の種類 | どのような薬か | 対象となる乳がんのタイプ(サブタイプ) | 主な目的 |
---|---|---|---|
化学療法(抗がん剤) | 細胞分裂の速いがん細胞を攻撃する薬剤 | トリプルネガティブ乳がん、HER2陽性乳がん、一部のホルモン受容体陽性乳がん | 手術前(がんを小さくする)、手術後(再発予防)、転移・再発がん(進行抑制、症状緩和) |
ホルモン療法 | 女性ホルモン(エストロゲン)の働きを抑える薬剤 | ホルモン受容体陽性乳がん(HR+) | 手術前(がんを小さくする)、手術後(再発予防)、転移・再発がん(進行抑制、症状緩和) |
分子標的薬 | がん細胞の増殖に関わる特定の分子を標的とする薬剤 | HER2陽性乳がん(抗HER2薬)、一部のホルモン受容体陽性乳がん(CDK4/6阻害薬など) | 手術前(がんを小さくする)、手術後(再発予防)、転移・再発がん(進行抑制、症状緩和) |
免疫チェックポイント阻害薬 | がん細胞が免疫細胞からの攻撃を逃れる仕組みをブロックし、免疫の力でがんを攻撃する薬剤 | 一部のトリプルネガティブ乳がん | 転移・再発がん(進行抑制) |
- 化学療法: がん細胞だけでなく正常な細胞にも影響を及ぼすため、脱毛、吐き気、倦怠感、白血球減少などの副作用が生じやすい治療法です。
多くの場合、数種類の抗がん剤を組み合わせて使用します。 - ホルモン療法: ホルモン受容体陽性の乳がんに対して行われます。
女性ホルモンのエストロゲンががん細胞の増殖を促進する働きをブロックすることで効果を発揮します。
閉経前と閉経後で用いられる薬剤の種類が異なります。
副作用としては、ほてり、発汗、関節痛、子宮内膜増殖症などがありますが、化学療法に比べると比較的穏やかな場合が多いです。
長期間(5年〜10年)にわたって継続することが一般的です。 - 分子標的薬: がん細胞に特異的な分子を狙い撃ちするため、比較的正常細胞への影響が少なく、従来の化学療法とは異なる副作用が出ることがあります。
代表的なものに、HER2陽性乳がんに対する抗HER2薬(トラスツズマブなど)や、ホルモン受容体陽性乳がんに対するCDK4/6阻害薬などがあります。 - 免疫チェックポイント阻害薬: 比較的新しいタイプの薬剤で、特定のタイプの進行・再発乳がんに対して有効性が示されています。
これらの薬物療法は、手術で取り切れなかったがん細胞や、将来転移する可能性のある微細ながん細胞を排除する(再発予防のための術後補助療法)、あるいは手術が難しい進行がんや転移・再発したがんの進行を抑え、症状を和らげる(全身療法)目的で行われます。
手術前に行う術前薬物療法は、がんを小さくして手術を可能にしたり、温存手術を選べるようにしたり、薬の効果を判定する目的で行われます。
治療法の選択について
乳がんの治療法は、画一的なものではなく、患者さん一人ひとりの状況に合わせてオーダーメイドで計画されます。
治療計画を立てる際には、以下の要素が考慮されます。
- 病期(ステージ): がんの進行度に応じて、手術の範囲や、薬物療法・放射線療法の必要性が変わります。
- がんのサブタイプ: ホルモン受容体(ER, PgR)やHER2タンパク質の発現状況、がん細胞の増殖能力を示すKi-67などの情報に基づいて、以下の主要なサブタイプに分類されます。
- ルミナルA型(HR+/HER2-、Ki-67低値)
- ルミナルB型(HR+/HER2-、Ki-67高値)
- HER2陽性型(HER2+)
- トリプルネガティブ型(HR-/HER2-)
それぞれのサブタイプによって、最も効果が期待できる薬物療法(ホルモン療法、抗HER2療法、化学療法など)が異なります。
- 悪性度(グレード): がん細胞の顕微鏡的な特徴に基づいて分類され、増殖の速さの目安となります。
- リンパ節転移の有無と数: リンパ節転移がある場合、転移がない場合に比べて全身への転移リスクが高く、予後がやや悪い傾向があります。
転移しているリンパ節の数が多いほどリスクが高まります。 - がんの大きさ: がんが大きいほど、リンパ節や全身への転移リスクが高まり、予後が悪い傾向があります。
- 脈管侵襲の有無: がん細胞が血管やリンパ管に入り込んでいる(脈管侵襲がある)場合、全身への転移リスクが高くなります。
- 患者さんの年齢や全身状態: 高齢であることや、重い合併症がある場合は、治療の選択肢が限られたり、副作用のリスクが高まったりして、予後に影響することがあります。
- 患者さんの希望: 治療の目的(治癒、延命、症状緩和など)、副作用への許容度、治療期間、生活への影響などを十分に話し合い、患者さん自身が納得した上で治療法を選択することが重要です。
複数の医師の意見を聞くセカンドオピニオンを利用することも推奨されます。
担当医から提示された治療計画について、他の専門医の意見を聞くことで、より理解を深め、納得して治療に臨むことができます。
乳がんの予後と生存率
乳がんの予後(治療後の経過や見通し)は、様々な要因によって左右されます。
最も重要なのは、がんを発見した時の進行度(病期・ステージ)です。
一般的に、ステージが低いほど予後が良く、生存率も高くなります。
ステージ別の生存率
がんの予後を示す指標の一つに生存率があります。
これは、がんと診断された人が、診断から特定の期間(例えば5年や10年)後に生存している割合を示したものです。
一般的には「5年生存率」がよく用いられます。
国立がん研究センターがん情報サービスなどの統計データによると、乳がん全体の5年生存率は比較的高い傾向にあります。
そして、ステージ別の5年生存率は以下の表のような目安となります。
乳がんのステージ別5年生存率の目安
病期(ステージ) | 5年生存率(目安) | 特徴 |
---|---|---|
ステージ0 | ほぼ100% | 非浸潤がん、転移なし |
ステージI | 95%以上 | 小さい浸潤がん、リンパ節・遠隔転移なし |
ステージII | 90%前後 | 腫瘍がやや大きいか、リンパ節転移が一部あるが、遠隔転移なし |
ステージIII | 70%前後 | 腫瘍が大きいか、リンパ節転移が広範囲だが、遠隔転移なし |
ステージIV | 40%前後 | 遠隔臓器に転移がある |
(注:これらの数値はあくまで目安であり、個々の患者さんの状況によって大きく異なります。
また、統計データは過去の治療法に基づいているため、最新の治療法ではさらに改善されている可能性もあります。)
この表からわかるように、ステージ0やステージIといった早期で発見された乳がんは、非常に高い確率で治癒が期待できます。
ステージが進むにつれて生存率は低下しますが、ステージIVでも近年は様々な治療法が登場し、予後が改善傾向にあります。
予後に影響する要因
生存率以外にも、乳がんの予後には以下のような様々な要因が影響します。
- がんのサブタイプ: ホルモン療法が有効なルミナルA型や、抗HER2療法が有効なHER2陽性型は、適切な治療によって予後が比較的良い傾向があります。
一方、トリプルネガティブ型は、現時点では有効な分子標的薬やホルモン療法がなく、化学療法が治療の中心となるため、再発リスクがやや高い傾向がありますが、免疫チェックポイント阻害薬など新しい治療法の登場で予後が改善しつつあります。 - 悪性度(グレード): グレードが高い(悪性度が高い)がんは、増殖が速く再発しやすい傾向があります。
- リンパ節転移の有無と数: リンパ節転移がある場合、転移がない場合に比べて全身への転移リスクが高く、予後がやや悪い傾向があります。
転移しているリンパ節の数が多いほどリスクが高まります。 - がんの大きさ: がんが大きいほど、リンパ節や全身への転移リスクが高まり、予後が悪い傾向があります。
- 脈管侵襲の有無: がん細胞が血管やリンパ管に入り込んでいる(脈管侵襲がある)場合、全身への転移リスクが高くなります。
- 患者さんの年齢や全身状態: 高齢であることや、重い合併症がある場合は、治療の選択肢が限られたり、副作用のリスクが高まったりして、予後に影響することがあります。
これらの要因は複雑に絡み合っており、担当医はこれらの情報を総合的に評価して、予後を予測し、最適な治療計画を立てます。
予後について不安な場合は、担当医に詳しく説明を求めることが大切です。
乳がんの早期発見と検診
乳がんによる死亡率を減らし、治療後のQOL(生活の質)を高く保つためには、早期発見が最も重要です。
早期に発見し、小さいうちに治療を開始すれば、治癒率が高く、乳房を温存できる可能性も高まります。
早期発見のためには、定期的な乳がん検診を受けることが非常に重要です。
乳がん検診の種類と推奨年齢
日本で行われている乳がん検診には、主に以下の2種類があります。
- 対策型検診: 自治体が主体となって実施する住民検診です。
厚生労働省が推奨する対象者、検査方法、受診間隔などが定められています。
日本のガイドラインでは、40歳以上の女性を対象に、2年に1回のマンモグラフィ検査が推奨されています。
自己負担額は自治体によって異なりますが、比較的安価に受けられるのが特徴です。 - 任意型検診: 人間ドックや個人で医療機関を選んで受ける検診です。
企業の健康診断に含まれている場合もあります。
対象者、検査項目、受診間隔などは、実施する医療機関や施設によって様々です。
マンモグラフィに加えて、超音波検査や視触診などを組み合わせて行う施設が多いです。
費用は全額自己負担となり、対策型検診よりも高額になる傾向があります。
推奨される検診:
日本の乳がん検診ガイドラインでは、40歳以上の女性は、2年に1回の対策型検診(マンモグラフィ検査)を受けることが推奨されています。
ただし、40歳未満の女性や、マンモグラフィではがんが見えにくい高濃度乳房の女性、遺伝的にリスクが高い女性など、個々の状況によっては、超音波検査の併用や、より厳重な定期検査が推奨される場合もあります。
ご自身の状況に適した検診方法については、医師に相談してみることをお勧めします。
自己検診の方法
自己検診は、日頃からご自身の乳房の状態に関心を持ち、変化に気づくための有効な方法です。
月に一度、定期的に行うことで、正常な状態を知り、異常があった場合に早期に気づくことができます。
自己検診でしこりなどの異常に気づくことも少なくありません。
ただし、自己検診はあくまで「気づき」のきっかけであり、検診の代わりにはならないことを理解しておく必要があります。
自己検診で見つけられるしこりは、ある程度の大きさになっていることが多く、画像検査でしか分からない小さながんや石灰化を見つけることはできません。
自己検診の適切なタイミングは、生理が終わってから1週間くらいまでの、乳房の張りが少ない時期です。
閉経後の方は、毎月決まった日に行うと良いでしょう。
自己検診のステップ
- 見てチェック:
- 鏡の前に立ち、腕をだらんと下ろした状態、両腕を真上に上げた状態、両手を腰に当てて胸を張った状態の3つの姿勢で、左右の乳房の形、大きさ、皮膚の色やひきつれ、くぼみ、乳頭の陥没やただれなどがないか観察します。
- 触ってチェック(仰向け):
- 仰向けに寝て、片側の腕を頭の上に置きます。
反対側の手の指の腹を使って、乳房全体をくまなく触ります。
乳房をいくつかの区画に分け、外側から内側へ、または円を描くように、軽く押したり、少し強めに押したりしながら、しこりや硬い部分がないか確認します。
脇の下も忘れずに触りましょう。
- 仰向けに寝て、片側の腕を頭の上に置きます。
- 触ってチェック(立位または座位):
- 立った状態や座った状態で、石鹸をつけて入浴中などに行うのも良いでしょう。
石鹸の泡で滑りが良くなり、触りやすくなります。
仰向けと同様に、乳房全体と脇の下を丁寧に触って確認します。
乳頭を軽くつまんでみて、異常な分泌物がないかも確認します。
- 立った状態や座った状態で、石鹸をつけて入浴中などに行うのも良いでしょう。
もし自己検診で、新しいしこりを見つけた、しこりが大きくなった、乳房や乳頭の見た目に変化がある、異常な分泌物があるといった変化に気づいた場合は、時期を待たずに速やかに医療機関(乳腺外科など)を受診しましょう。
男性乳がんについて
「乳がん」と聞くと女性の病気と思われがちですが、男性も乳がんになることがあります。
ただし、女性に比べて非常にまれで、乳がん全体の1%未満と言われています。
男性の乳房にも、女性と同様に乳管や小葉といった乳腺組織が存在するため、そこにがんが発生する可能性があります。
男性乳がんの多くは乳管から発生します。
男性乳がんのリスク要因としては、高齢であること、家族に乳がんになった人がいる(特にBRCA2遺伝子変異)、過去に胸部に放射線治療を受けたことがある、肝硬変などにより女性ホルモンのバランスが崩れている、クラインフェルター症候群(染色体異常)などが挙げられます。
男性乳がんの主な症状は、乳頭やその周囲のしこりです。
女性に比べて乳腺組織が少ないため、比較的小さな段階でもしこりに気づきやすい傾向があります。
その他の症状として、乳頭からの分泌物(特に血性)、乳頭や皮膚のただれ、皮膚のひきつれ、脇の下のしこり(リンパ節転移)なども起こり得ます。
診断や検査方法(視触診、マンモグラフィ、超音波検査、組織診など)、病期分類、治療法(手術、放射線療法、薬物療法など)は、基本的に女性の乳がんの場合と同様に進められます。
男性乳がんも早期に発見し適切な治療を行えば、治癒が期待できます。
男性でも、乳頭周囲にしこりを見つけたり、気になる症状がある場合は、放置せず医療機関(乳腺外科など)を受診することが重要です。
まとめと専門医への相談
乳がんは、女性にとって最も身近ながんの一つですが、早期に発見し適切な治療を受けることで、治癒率が高いがんです。
乳がんについて知っておくべき重要なポイントを改めてまとめます。
- 乳がんの多くは乳管に発生する悪性の腫瘍です。
- 最も多い自覚症状は乳房のしこりですが、痛みがないことも多いです。
- 乳房や乳頭の見た目の変化(ひきつれ、くぼみ、赤み、ただれなど)や、乳頭からの分泌物(特に血性)も重要なサインです。
- 早期の乳がんには自覚症状がないことが多いため、症状の有無にかかわらず定期的な検診が非常に重要です。
- 乳がんの発生には、年齢、遺伝、女性ホルモン、生活習慣など様々なリスク要因が関与しています。
- 診断には、視触診、マンモグラフィ、超音波検査といった画像検査に加え、組織診・細胞診による病理診断が不可欠です。
- がんの進行度を示す病期(ステージ)や、がんの性質を示すサブタイプによって、最適な治療法が選択されます。
- 治療法には、手術(温存術、全摘術)、放射線療法、薬物療法(化学療法、ホルモン療法、分子標的薬など)があり、これらを組み合わせて行う集学的治療が一般的です。
- 乳がんの予後や生存率は、発見時のステージに大きく影響され、ステージが低いほど予後が良好です。
サブタイプなども予後に関わる重要な要因です。 - 40歳以上の女性は、2年に1回のマンモグラフィ検診が推奨されています。
自己検診も日頃の気づきのために有効ですが、検診の代わりにはなりません。 - 女性だけでなく、男性も乳がんになる可能性があります。
もし、この記事を読んで、ご自身の乳房に何か気になる症状(しこり、見た目の変化、分泌物など)がある場合や、リスク要因に心当たりがある場合、あるいは単に乳がん検診について詳しく知りたいと思った場合は、自己判断せずに、速やかに専門医に相談することを強くお勧めします。
乳腺に関する悩みや不安がある場合は、乳腺外科や、女性専門のクリニック、人間ドック施設などに相談してみましょう。
専門医は、正確な診断を下し、それぞれの患者さんに合った最適な治療法や、今後のフォローアップについて、丁寧な説明をしてくれます。
このページの情報は、一般的な知識を提供することを目的としており、個々の患者さんの病状に対する診断や治療方針を示すものではありません。
実際の診断や治療については、必ず医療機関を受診し、担当医とよく相談の上、決定してください。