膣欠損は、女性の生殖器である膣の一部または全部が、生まれつき、あるいは病気や怪我などが原因で存在しない状態を指します。
思春期になっても月経が始まらないことや、性交が困難であるといった症状で初めて気づかれることが多く、ご本人やご家族にとって大きな悩みの原因となります。
この記事では、膣欠損の定義から原因、症状、診断、そして現在行われている治療法まで、専門的な知見に基づいて詳しく解説します。
この情報が、膣欠損でお悩みの方、あるいはその可能性に不安を感じている方々の一助となれば幸いです。
膣欠損とは?定義と発生頻度
膣欠損(Vaginal Agenesis or Hypoplasia)とは、文字通り膣が完全に、あるいは部分的に欠けている、または正常な形・大きさに発育していない状態を指します。
これは女性性器の形成異常の一種であり、大きく分けて「先天性」と「後天性」の2つのタイプがあります。
先天性膣欠損は、生まれつき膣が十分に形成されていない状態です。
最も代表的なものに「ミュラー管無発生または低形成」があり、これはロキタンスキー症候群(Mayer-Rokitansky-Küster-Hauser syndrome: MRKH症候群)として知られています。
ロキタンスキー症候群では、膣の上部や全体が欠損していることが多く、子宮も欠損しているか、あっても非常に小さい痕跡的な状態であることが一般的です。
卵巣は通常正常なため、二次性徴(乳房の発育など)は現れます。
ロキタンスキー症候群の発生頻度は、女性の出生1,000人から5,000人に1人程度とされており、先天性膣欠損の大部分を占めます。
後天性膣欠損は、出生時には正常な膣が存在していたにもかかわらず、その後の要因によって膣の一部または全部が失われた状態です。
これには、婦人科がんなどで膣を切除する手術を受けた場合、外傷(例えば重度の出産時の裂傷)、骨盤への放射線療法、重度の感染症や炎症などが含まれます。
後天性の場合、原因や欠損の程度は多様です。
膣欠損は、外見からは分かりにくく、思春期になり月経が始まらない(原発性無月経)ことや、性交渉を持とうとした際に初めて発見されることが多いです。
そのため、診断されるまでご本人やご家族が不安を抱え続けることも少なくありません。
膣欠損の主な原因
膣欠損の原因は、それが先天性か後天性かによって大きく異なります。
それぞれの原因について詳しく見ていきましょう。
先天性膣欠損(ロキタンスキー症候群など)
先天性膣欠損の主な原因は、胎児期における生殖器の発生過程での異常です。
女性の内性器である子宮、卵管、膣の上部は、ミュラー管と呼ばれる一対の管から形成されます。
このミュラー管の形成や癒合、退縮の過程で異常が生じると、様々な先天性生殖器異常が起こります。
最も多い先天性膣欠損の形態は、ミュラー管無発生または低形成であり、これがロキタンスキー症候群(MRKH症候群)として知られています。
MRKH症候群では、ミュラー管の発生や発育が不十分なために、膣の上部や全体が欠損し、子宮も痕跡的であったり欠損していたりします。
一方で、卵巣はミュラー管由来ではないため、多くの場合正常に機能しており、女性ホルモンも正常に分泌されます。
このため、思春期になると乳房の発育や陰毛・腋毛の発生といった第二次性徴は現れますが、子宮がないか痕跡的なため月経は起こりません(原発性無月経)。
MRKH症候群の原因はまだ完全には解明されていませんが、複数の遺伝的要因と環境要因が複雑に関与していると考えられています。
特定の遺伝子異常が関与している可能性が研究されていますが、単一の遺伝子異常で説明できるものではなく、多くの場合は家族歴がない孤発例として発生します。
MRKH症候群の患者さんでは、生殖器以外の臓器にも合併症が見られることがあります。
特に多いのが泌尿器系の異常(約30-40%)で、片側の腎臓が欠損していたり、腎臓の位置や形に異常があったりします。
また、骨格系の異常(約20-25%)も比較的多く、脊椎の異常(側弯症など)や肋骨、四肢の異常などが見られます。
これらの合併症の有無も、診断時に確認される重要な点です。
その他の先天性膣欠損の原因としては、非常に稀ですが、アンドロゲン不応症(Androgen Insensitivity Syndrome: AIS)などが挙げられます。
AISは、遺伝学的にはXY染色体を持つ男性であるにもかかわらず、体細胞が男性ホルモン(アンドロゲン)に反応できないために、外見的には女性の形をとる状態です。
この場合、子宮や卵巣は存在せず、膣も盲端(行き止まり)で短いことが一般的です。
この疾患は、性分化疾患としてMRKH症候群とは区別されます。
後天性膣欠損
後天性膣欠損は、病気や治療、外傷など、生後の要因によって膣の構造が変化したり失われたりする状態です。
主な原因としては以下のものが挙げられます。
- 悪性腫瘍(がん)に対する手術: 子宮頸がん、子宮体がん、膣がんなどの手術で、病巣の広がりによっては膣の一部または全部を切除せざるを得ない場合があります。
特に進行がんに対する手術では、膣の大部分が切除されることがあります。 - 外傷: 重度の出産時の裂傷や、骨盤部の大きな外傷(交通事故など)によって、膣の組織が損傷・破壊されることがあります。
- 放射線療法: 骨盤内の悪性腫瘍に対する放射線療法は、周囲の正常組織にも影響を与えます。
膣の組織が放射線によって線維化し、硬く、狭くなり、短縮することがあります。
重度の場合、膣が閉鎖してしまうこともあります。 - 炎症や感染症: 非常に重度で慢性的な膣や骨盤内の炎症、感染症が原因で組織が破壊されたり癒着したりすることで、膣の構造が変化したり狭窄・閉鎖したりすることが稀にあります。
- 過去の手術による合併症: 他の骨盤臓器(膀胱、直腸など)に対する手術の合併症として、膣に損傷が生じたり、癒着によって膣が変形したりする可能性もゼロではありません。
後天性膣欠損の場合、原因となった病気や治療によって、膣の欠損の程度や、膀胱や直腸など周囲の臓器への影響が異なります。
治療法も、原因や欠損の範囲、患者さんの全身状態などを考慮して決定されます。
膣欠損の症状
膣欠損の主な症状は、それが先天性か後天性か、また欠損の程度によって異なります。
しかし、多くの患者さんが経験する共通の症状はいくつかあります。
無月経
先天性膣欠損、特にロキタンスキー症候群の患者さんにおいて、最も早く気づかれることが多い症状が原発性無月経です。
原発性無月経とは、15歳になっても一度も月経が始まらない状態を指します。
ロキタンスキー症候群の場合、卵巣機能は正常であるため、思春期になると女性ホルモンが分泌され、乳房の発育や陰毛・腋毛の発生といった第二次性徴は現れます。
しかし、子宮が欠損しているか痕跡的なために、月経が起こるための子宮内膜が存在せず、月経血の排出経路も存在しません。
したがって、生理痛のような症状も通常はありません。
思春期のお子さんの月経が遅れている場合、様々な原因が考えられますが、第二次性徴が見られるにもかかわらず月経がない場合には、ロキタンスキー症候群のような生殖器系の先天性異常も鑑別診断の一つとして考慮されます。
後天性膣欠損の場合は、既に月経が始まっていた方が、手術や放射線療法などの原因によって膣が欠損した状態であるため、直接的に無月経を引き起こす症状とはなりません。
ただし、原因となった病気(例:子宮摘出術)によって月経が停止することはあります。
性交時痛や性交障害
膣欠損のもう一つの主要な症状は、性交時痛や性交の困難です。
先天性膣欠損の場合、膣が短い、あるいは完全に欠損しているために、性器の挿入が物理的に不可能であったり、痛みを感じたりすることがあります。
パートナーとの性的な関係を持とうとした際に、初めてご自身の体の構造に気づき、大きな精神的なショックを受ける方も少なくありません。
後天性膣欠損の場合も同様で、手術や放射線療法によって膣が狭窄したり短くなったりすると、性交時に痛みを感じたり、性交自体が難しくなったりします。
放射線療法後の膣は硬く弾力がないことが多く、特に性交時痛の原因となります。
これらの性交に関連する問題は、患者さんのQOL(生活の質)に大きく影響します。
パートナーとの関係性に影響を与えるだけでなく、ご自身の女性性や自己肯定感にも関わるため、心理的なケアも非常に重要になります。
その他の症状
膣欠損の症状は、原因疾患や合併症によってさらに多様になります。
- ロキタンスキー症候群の場合: 前述のように、泌尿器系の異常(腎臓の欠損や形態異常)や骨格系の異常(脊椎側弯症など)を合併することがあります。
これらの合併症による症状(例:腎機能障害、背中の痛みなど)が現れることもあります。
卵巣機能は正常であるため、性ホルモンの欠乏症状(更年期様症状など)は通常ありません。 - 後天性膣欠損の場合: 原因となった病気(例:がん)や治療の合併症(例:リンパ浮腫、神経障害など)による症状が現れることがあります。
また、膣の欠損や狭窄による局所的な症状として、分泌物の貯留や感染、不快感などが生じる可能性もあります。
性交困難に伴う精神的なストレスや不安、抑うつなども重要な症状の一つです。
これらの症状は、膣欠損そのものに直接起因するものだけでなく、その原因や合併症に関連して生じるものであることを理解することが重要です。
膣欠損の診断方法
膣欠損は、多くの場合、思春期の原発性無月経や性交困難をきっかけに婦人科を受診し、診断に至ります。
診断は、問診、身体診察、そして各種画像検査や遺伝子検査などを組み合わせて行われます。
診断のタイミングとプロセス
先天性膣欠損は、思春期に月経が始まらない(原発性無月経)ことで気づかれることが最も多いです。
15歳になっても初経がない場合に医療機関を受診し、原因を調べる中で膣や子宮の欠損が判明します。
後天性膣欠損は、原因となる病気の診断や治療の過程で明らかになります。
例えば、子宮頸がんの手術前に病巣の広がりを確認するための検査で膣への浸潤が判明し、術式を決定する際に膣切除の必要性が説明されるといったケースです。
また、手術後や放射線療法後に性交困難などの症状が現れて受診し、診断される場合もあります。
診断のプロセスとしては、まず詳細な問診が行われます。
これまでの月経の有無、第二次性徴の発現状況、性交渉の経験、家族歴、既往歴(特に骨盤部の病気や手術、放射線療法など)などが詳しく聞かれます。
次に、身体診察として、外性器の視診・触診が行われます。
小陰唇、大陰唇、陰核などの発育を確認し、膣の開口部の有無や、膣の深さ・幅などを調べます。
先天性膣欠損の場合、外性器は正常に発達していることが多いですが、膣の開口部が確認できなかったり、膣が非常に短い盲端であったりすることがあります。
後天性の場合、原因によっては外性器にも変化が見られることがあります。
身体診察だけでは内部の詳しい状態は分からないため、診断を確定するためにはさらに詳しい検査が必要となります。
必要な検査について
膣欠損の診断を確定し、原因を特定し、合併症の有無を確認するために、以下の検査が一般的に行われます。
- 超音波検査(エコー): 経腹または経直腸的に超音波を当てることで、骨盤内の子宮、卵巣、膣の状態を調べます。
子宮の大きさや形、有無、卵巣の有無や機能などを確認するのに有用です。
同時に腎臓の形態異常なども確認できることがあります。 - MRI検査: MRIは、骨盤内の詳細な構造をより鮮明に描出することができます。
子宮や膣の欠損の程度、形態、周囲の臓器(膀胱、直腸など)との位置関係や癒着の有無を評価するのに最も有用な検査の一つです。
ロキタンスキー症候群の診断においては、子宮や膣の欠損状態を正確に把握し、手術計画を立てる上でも非常に重要です。
また、腎臓や骨盤内の他の異常の有無も同時に確認できます。 - 染色体検査: 特に先天性膣欠損が疑われる場合、原因疾患を特定するために染色体検査が行われます。
ロキタンスキー症候群の多くは46,XX(女性型)ですが、アンドロゲン不応症など他の性分化疾患との鑑別のために必要となることがあります。 - ホルモン検査: 血液検査で卵巣から分泌される女性ホルモン(エストロゲン、プロゲステロンなど)や脳から分泌されるゴナドトロピン(LH, FSH)の値を測定します。
ロキタンスキー症候群では卵巣機能は正常なため、ホルモン値も思春期以降であれば通常は正常範囲内ですが、他の内分泌疾患との鑑別に役立ちます。 - 泌尿器科的な検査: ロキタンスキー症候群では泌尿器系の合併症が多いことから、腎臓の欠損や形態異常の有無を確認するために、腹部超音波検査や腎盂造影などの検査が行われることがあります。
- 骨格系の検査: ロキタンスキー症候群では脊椎の異常なども見られることがあるため、必要に応じてレントゲン検査などが行われることがあります。
これらの検査結果を総合的に判断し、膣欠損の診断を確定し、そのタイプ(先天性/後天性、原因疾患)や重症度、合併症の有無を評価します。
正確な診断に基づいて、最適な治療方針が検討されます。
膣欠損の治療法
膣欠損の治療の主な目的は、性交渉を可能にするための膣の形成と、それに伴う心理的なケアです。
治療法には手術を行わない方法と手術を行う方法があり、患者さんの年齢、膣欠損の程度、原因、全身状態、そして患者さんの希望や性生活に関する意向などを考慮して選択されます。
非手術療法(膣拡張法)
非手術療法として広く行われているのが膣拡張法(Vaginal Dilatation)です。
これは、専用の膣拡張器(ダイレーター)を用いて、既存の膣のくぼみや盲端を徐々に圧迫・伸展させることで、膣様の空間を形成する方法です。
この方法は、特に先天性膣欠損(ロキタンスキー症候群など)で、膣のくぼみが少しでも存在する場合に有効な第一選択肢となることが多いです。
患者さんご自身、あるいはパートナーの協力を得て、毎日一定時間、様々な大きさのダイレーターを挿入し、圧力をかけていきます。
時間をかけてゆっくりと行うことで、組織が伸び、膣様の通路が形成されていきます。
膣拡張法のメリットは、手術に比べて体の負担が少なく、合併症のリスクも低いことです。
また、自己管理で行えるため、自身の体に対する主体的な感覚を取り戻す助けにもなり得ます。
成功率は約70-90%と報告されており、多くの患者さんで性交可能な膣を形成できる可能性があります。
ただし、根気強く継続する必要があり、患者さんのモチベーションが重要です。
また、拡張を中断すると元の状態に戻ってしまうことがあるため、性交を継続するなどして形成した膣を維持する必要があります。
思春期以降、性活動を始める時期に推奨されることが多いですが、患者さんの準備ができた時に開始することが大切です。
手術療法(人工膣造設術)
膣拡張法が成功しなかった場合、あるいは膣の欠損が重度で拡張法が困難な場合、または後天性で広範囲の膣が失われた場合には、手術によって人工的に膣を造設することが検討されます。
これを人工膣造設術と呼びます。
人工膣造設術には様々な術式があり、どの方法を選択するかは、欠損の範囲、原因、患者さんの体の状態、医師の経験などによって決定されます。
手術の目的は、性交可能な深さ、広さ、弾力性を持った膣様の通路を作成することです。
人工膣造設術の種類(ワトキンス法、デベリー法など)
人工膣造設術には古くから様々な方法が考案されており、現在も改良が加えられています。
代表的な術式には以下のようなものがあります。
- ワトキンス法(Watkins method): この方法は主に腹膜を利用します。
膀胱と直腸の間の腹膜を剥離してスペースを作り、そこに膣様の通路を形成します。
比較的低侵襲な方法ですが、形成される膣の深さや質に限界がある場合や、狭窄しやすいという欠点も指摘されています。 - デベリー法(Davydov method): この方法は、腹腔鏡または開腹手術で、子宮があった位置の腹膜を利用して膣を造設します。
腹膜を筒状に縫い合わせ、形成された空間を膣とします。
比較的自然に近い湿潤性のある膣が形成される可能性があります。 - 皮膚移植法(Split-thickness skin graft vaginoplasty): 太ももやお尻などから皮膚を薄く採取し、それを型に巻き付けて、手術で作成した膣の空間に移植する方法です。
手術手技が確立されており比較的広く行われていますが、移植した皮膚の収縮により術後に狭窄しやすい傾向があるため、術後の膣拡張が必須となります。
採取部の瘢痕も課題となります。 - 腸管利用法(Bowel vaginoplasty): 消化管(通常はS状結腸や回腸の一部)を切り取り、それを膣の代わりとして用いる方法です。
形成される膣は十分に長く、腸管の粘膜から分泌物があるため潤滑性もあります。
重度の欠損や、過去の手術・放射線療法で骨盤内が線維化している場合などに選択されることがあります。
しかし、腸管の一部を切除するため、消化器系の合併症のリスクがあり、また腸管由来の分泌物の匂いが気になる場合があるといったデメリットもあります。 - バルーン拡張法(Balloon dilatation method): 手術的に膀胱と直腸の間にスペースを作成し、そこに特殊なバルーンを留置して徐々に拡張していくことで膣を形成する方法です。
比較的新しい方法で、低侵襲性が期待されています。
どの術式を選択するにしても、手術単独で完了するわけではなく、術後の管理が非常に重要になります。
治療後の経過と注意点
人工膣造設術や膣拡張法で膣が形成された後も、その状態を維持するための継続的なケアが必要です。
特に手術で人工膣を造設した場合は、術後に新しい膣が狭窄しないように、一定期間、毎日あるいは定期的にダイレーターを挿入して拡張を続けることが必須となります。
膣拡張法で膣を形成した場合も同様に、性交を継続するか、それが難しい場合はダイレーターの使用を続ける必要があります。
治療後の経過観察も重要です。
形成された膣の状態(深さ、幅、弾力性など)を定期的にチェックし、感染や合併症がないかを確認するために、医師による診察を受ける必要があります。
また、膣欠損は体の構造に関わる問題だけでなく、患者さんの心理にも大きな影響を与えます。
特に思春期に診断された場合、ご自身の体に対する戸惑いや、将来の妊娠・出産に関する不安など、様々な感情を抱えることがあります。
治療の過程や治療後においても、患者さんの心のケアは非常に重要です。
必要に応じて、臨床心理士や精神科医など、専門家のサポートを受けることも検討すべきです。
治療によって性交可能な膣が形成されたとしても、ロキタンスキー症候群などで子宮が欠損している場合は、ご自身で妊娠・出産することはできません。
しかし、卵巣機能が正常な場合は、卵子を採取して体外受精を行い、代理母による出産(日本では認められていない)や養子縁組といった選択肢を検討することが可能です。
後天性膣欠損の場合も、原因によっては子宮が温存されていることもありますが、その場合でも妊娠・出産が可能かどうかは個別の状況によります。
治療の目標は、単に体の構造を修復することだけでなく、患者さんが身体的、精神的に健康で、豊かな人生を送れるようにサポートすることです。
そのためには、医療スタッフだけでなく、ご家族やパートナーの理解と協力も不可欠です。
治療法 | 概要 | メリット | デメリット | 適応 |
---|---|---|---|---|
膣拡張法 | ダイレーターで膣のくぼみを徐々に拡張し、膣様空間を形成 | 体への負担が少ない、手術より低リスク、自己管理可能 | 根気が必要、中断すると戻る可能性、重度欠損には不向き | 膣のくぼみが存在する先天性膣欠損、患者さんの強い意欲 |
手術療法 (人工膣造設術) |
様々な組織(皮膚、腸管、腹膜など)を用いて外科的に膣を造設する | 性交可能な膣形成が可能、重度欠損にも対応 | 手術のリスク・合併症、術後の拡張維持が必須 | 膣拡張法不成功例、重度欠損、広範囲な後天性欠損 |
– 皮膚移植法 | 皮膚を移植して膣を形成 | 手術手技が確立、比較的広く行われる | 術後狭窄しやすい、採取部瘢痕 | 先天性・後天性 |
– 腸管利用法 | 腸管の一部を用いて膣を形成 | 長さ、潤滑性、重度・線維化例に有効 | 消化器合併症リスク、分泌物の匂い | 重度欠損、放射線療法後など |
– デベリー法 | 腹膜を用いて膣を形成 | 自然に近い湿潤性 | 腹腔鏡または開腹手術が必要 | 先天性欠損(ロキタンスキー症候群など) |
– ワトキンス法 | 腹膜を用いて膣を形成 | 低侵襲 | 深さ・質に限界、狭窄の可能性 | 先天性欠損、限られた症例 |
※表は一般的な特徴を示すものであり、個々の患者さんの状況や手術方法の選択、結果は異なります。
膣欠損に関するよくある質問(FAQ)
膣欠損について、患者さんやご家族が抱きやすい疑問点について、いくつか回答します。
子宮欠損の人はどれくらい?
先天性膣欠損の最も一般的な原因であるロキタンスキー症候群(MRKH症候群)では、多くの場合、膣の上部だけでなく子宮も欠損しているか、非常に小さい痕跡的な状態です。
ロキタンスキー症候群は女性の出生1,000人から5,000人に1人程度と報告されており、これが子宮欠損の主な原因となります。
正確な統計は難しいですが、概算で女性の約2,000~4,000人に1人程度が、ロキタンスキー症候群による子宮欠損または痕跡子宮の状態であると考えられます。
これに後天的な原因(例:子宮摘出術)による子宮欠損を加えると、さらに数は増えます。
ロキタンスキー症候群の他の特徴は?
ロキタンスキー症候群は、膣や子宮の欠損(ミュラー管由来の臓器の異常)を主な特徴としますが、それ以外の身体的な特徴を伴うことがあります。
最も多いのが泌尿器系の合併症で、片側の腎臓が生まれつきない(腎無形成)、腎臓の位置が通常と異なる(異所性腎)、腎臓の形が異常(馬蹄腎など)といった異常が約30-40%に見られます。
これらの異常は、通常腎機能に大きな影響を与えないこともありますが、注意が必要です。
また、骨格系の合併症も約20-25%に見られ、特に脊椎の異常(側弯症や融合椎など)が比較的多く報告されています。
これらの合併症の有無は、診断時の検査で確認されます。
外見上は正常な女性であり、卵巣機能は正常なため、乳房の発育など第二次性徴は正常に現れます。
知能や精神的な発達に異常はありません。
医療における欠損とは?
医療における「欠損(agenesisまたはaplasia)」とは、本来存在するべき臓器や組織が、生まれつき(先天的に)全く形成されていない状態を指します。
これに対して「低形成(hypoplasia)」は、臓器や組織が形成はされているものの、正常よりも小さかったり、発育が不十分な状態を意味します。
膣欠損の場合、「Vaginal Agenesis or Hypoplasia」と表現されるように、全くない状態(無発生)と、ごく一部だけ存在したり非常に小さかったりする状態(低形成)が含まれます。
後天的な要因で臓器や組織の一部が失われた場合は「切除」「欠損」といった言葉が使われますが、先天的な形成不全を示す「agenesis/aplasia」とは区別されることが多いです。
【まとめ】膣欠損について
膣欠損は、先天性または後天性の原因により、膣の一部または全部が欠損している状態です。
思春期の原発性無月経や性交困難などで初めて診断されることが多く、ご本人にとっては大きな心理的負担となることがあります。
先天性の最も一般的な原因はロキタンスキー症候群であり、多くの場合、子宮も欠損しています。
後天性の原因としては、がんに対する手術や放射線療法、重度の外傷などがあります。
診断は、詳細な問診、身体診察に加え、超音波検査やMRI検査といった画像診断が重要です。
先天性の場合は、原因特定のために染色体検査やホルモン検査、泌尿器・骨格系の検査も行われます。
治療の主な目的は性交可能な膣の形成であり、非手術療法である膣拡張法か、手術による人工膣造設術が選択されます。
多くの患者さんで性交可能な膣を形成することが可能です。
治療後も膣の状態を維持するための継続的なケアが重要となります。
膣欠損は稀な疾患であり、診断や治療には専門的な知識と経験が必要です。
もしご自身や身近な方が膣欠損の可能性について不安を感じている、あるいは診断を受けた場合は、一人で悩まず、婦人科の中でも特に生殖医療や形成外科の専門医に相談されることを強くお勧めします。
適切な診断と治療、そして心理的なサポートを受けることで、身体的な問題を克服し、自分らしい人生を送ることが可能になります。
免責事項: 本記事は、膣欠損に関する一般的な情報提供を目的としています。
個々の症状や治療法については、必ず医療機関で医師の診察を受け、専門的なアドバイスに従ってください。
本記事の情報のみに基づいて自己判断で行動することは避けてください。