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【完全ガイド】卵子凍結のやり方|流れ・費用・リスク・妊娠率

「卵子凍結を考えているけれど、実際どうやるの?」「費用はどのくらいかかるの?」「痛みはどれくらい?」など、卵子凍結の具体的なやり方について疑問や不安をお持ちの方も多いのではないでしょうか。将来、自分らしいライフプランを実現するための選択肢として注目されている卵子凍結ですが、そのプロセスは複雑に感じられるかもしれません。この記事では、卵子凍結の基本的な知識から、実際のやり方、かかる費用、痛み、成功率、そして知っておくべきリスクやデメリットまで、あなたが知りたい情報を網羅的に、ステップごとにわかりやすく解説します。卵子凍結を検討している方はもちろん、情報収集を始めたばかりの方も、ぜひ最後までお読みください。

目次

卵子凍結とは?基本的な情報とメリット

卵子凍結とは、女性が若く質の良い状態にある卵子を採取し、将来の妊娠・出産のために凍結保存しておく技術です。大きく分けて、「医学的適応による卵子凍結」と「社会的適応による卵子凍結」の二種類があります。

医学的適応による卵子凍結は、がん治療などで卵巣機能が低下する可能性のある女性や、早期閉経が見込まれる女性が、治療前に卵子を採取・凍結しておくケースです。治療後も妊娠の可能性を残すための重要な選択肢となります。

一方、近年注目されているのが社会的適応による卵子凍結です。これは、現時点では妊娠・出産を希望しないものの、将来的に子どもを持ちたいと考えている女性が、妊娠適齢期にある卵子をあらかじめ保存しておくものです。キャリア形成、パートナーとのタイミング、経済的な安定など、様々な理由からすぐに妊娠を希望しない女性にとって、将来の選択肢を広げる手段となります。

卵子凍結の最大のメリットは、妊娠・出産に対する将来の可能性を温存できることです。女性の卵子の質や数は年齢とともに減少していきますが、若いうちに凍結した卵子は、凍結時の状態が維持されます。これにより、将来的に体外受精を行う際に、凍結時の年齢に近い妊娠率が期待できるようになります。これは、年齢が上がってから妊活を始めるよりも有利な点です。

また、卵子凍結は、将来のライフプランの選択肢を増やすことにも繋がります。すぐに妊娠を考えられない状況でも、「いつか子どもを持ちたい」という希望を現実的にするための「時間的な猶予」を得ることができます。心理的な安心感を得られることも、大きなメリットと言えるでしょう。

ただし、卵子凍結はあくまで「可能性を温存する技術」であり、将来の妊娠・出産を保証するものではありません。凍結した卵子を使っても妊娠に至らない可能性や、卵子の解凍・受精・培養・移植の過程で胚(受精卵)に至らない可能性もあります。これらの限界も理解した上で検討することが重要です。

卵子凍結の具体的なやり方・全体像

卵子凍結のプロセスは、いくつかのステップを経て行われます。全体の流れを把握することで、具体的なイメージが掴みやすくなります。

まず、卵子凍結を専門に行っている、または生殖医療を扱っているクリニックを選定し、カウンセリングを受けます。ここでは、卵子凍結の目的やメリット・デメリット、リスク、費用などについて詳しく説明を受け、疑問点を解消します。

次に、自身の現在の体の状態や卵巣機能を確認するための各種検査を行います。この検査結果に基づいて、医師が適切な卵巣刺激の方法を判断します。

そして、採卵のために複数の卵子を育てるための卵巣刺激を行います。これは、通常1回の生理周期で1つしか成熟しない卵子を、複数個採取できるように促すためのものです。ホルモン剤の自己注射や通院での注射を数日から2週間程度行います。

卵胞が十分に育ったことが確認できたら、採卵手術の日程を決定します。採卵は、経腟的に行われる小さな手術です。麻酔下で行われることが一般的で、所要時間は比較的短時間です。

採取された卵子は、その日のうちに凍結されます。現在の主流は、超急速ガラス化法という方法で、細胞へのダメージを最小限に抑えることができます。凍結された卵子は、専門の施設で適切な温度管理のもと、長期にわたって保存されます。

この一連の流れは、通常1回の生理周期の中で行われます。卵巣刺激の開始から採卵までは約10日から2週間程度です。採卵後は数日で日常生活に戻れることがほとんどですが、個人差や体の反応によっては、回復に時間がかかる場合もあります。

卵子凍結の詳しいステップ・流れ

ここからは、卵子凍結の具体的なステップをさらに詳しく解説します。

1. クリニックの選定と初診・相談

卵子凍結を検討するにあたり、まず最初に行うのがクリニック選びです。生殖医療専門施設や不妊治療クリニックで卵子凍結を行っています。クリニックを選ぶ際は、以下の点を考慮すると良いでしょう。

  • 実績: 卵子凍結の実績、特に凍結・融解後の生存率や妊娠率に関する情報があるか。
  • 費用: 各クリニックによって費用体系が異なります。総額でどれくらいかかるのか、内訳が明確かを確認しましょう。
  • 立地と通いやすさ: 卵巣刺激中は何度か通院が必要になるため、自宅や職場からのアクセスが良いかどうかも重要です。
  • 医師やスタッフの対応: 安心して相談できる雰囲気か、疑問に丁寧に答えてくれるかなども大切な要素です。
  • 説明の丁寧さ: 卵子凍結に関するリスクやメリット、具体的な手順について、十分に時間をかけて分かりやすく説明してくれるか確認しましょう。

複数のクリニックでカウンセリングを受けて比較検討するのも良い方法です。初診では、なぜ卵子凍結をしたいのか、現在の健康状態や月経周期、既往歴などを伝えます。医師から卵子凍結の概要について説明を受け、費用や今後のスケジュールについて相談します。この段階で、不安なことや疑問点は全て質問しておきましょう。

2. 採卵前の検査と卵巣刺激(ホルモン剤投与)

クリニックを決定し、卵子凍結を行う意思を固めたら、採卵に向けた準備が始まります。まず、採卵が可能かどうか、また安全に卵巣刺激を行えるかを確認するための各種検査が行われます。主な検査項目は以下の通りです。

  • 血液検査: ホルモン値(FSH, LH, エストラジオールなど)を測定し、卵巣の予備能力(AMHなど)を評価します。また、感染症(B型肝炎、C型肝炎、HIV、梅毒など)の有無も確認します。
  • 超音波検査: 卵巣の大きさや卵胞の数(胞状卵胞数)、子宮の状態などを確認します。

これらの検査結果に基づいて、医師が卵巣刺激の方法や使用する薬剤の種類、量を決定します。卵巣刺激の目的は、通常1個しか成熟しない卵子を、1回の採卵で複数個採取できるように卵胞を成長させることです。

卵巣刺激の方法にはいくつか種類がありますが、一般的には注射薬によるホルモン剤投与が行われます。

  • 注射薬: 卵胞を育てるためのFSH製剤やhMG製剤などが用いられます。自己注射が可能な場合も多く、その場合は自宅で毎日同じ時間に注射を行います。自己注射の方法については、看護師から丁寧に指導を受けることができます。注射期間は通常10日~14日程度です。
  • 点鼻薬や内服薬: 注射薬と併用して、排卵を抑えたり、卵子の成熟を促したりするために使用されることもあります。

卵巣刺激期間中は、卵胞の育ち具合を確認するために、数日おきに超音波検査血液検査のためにクリニックに通院します。卵胞のサイズやホルモン値の変化を見ながら、医師が薬剤の量や投与スケジュールを調整します。この期間は、体の変化を感じやすくなることがあります。お腹の張りや軽い痛み、むくみなどの症状が出ることがありますが、これは卵巣が刺激によって大きくなっているためです。

3. 採卵日の決定と準備

卵巣刺激によって複数の卵胞が十分に育ったことを確認したら、いよいよ採卵日の決定です。医師は、超音波検査で卵胞の大きさを見ながら、最も適切なタイミングを判断します。通常、複数の卵胞が18mm~20mm程度に成長した頃に採卵日が決定されます。

採卵日の約34〜36時間前に、卵子を最終的に成熟させるためのHCG製剤やGnRHアゴニスト製剤の注射または点鼻薬を使用します。これは「トリガー」と呼ばれ、この注射から正確な時間経過後に採卵を行うことで、最も良い状態で卵子を採取することができます。このトリガー注射のタイミングを逃さないことが、採卵を成功させる上で非常に重要です。

採卵日が決まったら、手術に向けて準備を進めます。

  • 食事・飲水の制限: 採卵は麻酔下で行われることが多いため、手術前は絶食・絶水が必要になります。通常、前日の夜〇時以降は食事禁止、当日の朝〇時以降は飲水禁止となります。具体的な時間については、クリニックから指示がありますので、必ず守りましょう。
  • 服装: 手術しやすい服装で来院します。アクセサリーやネイルなどは外すよう指示される場合もあります。
  • 持ち物: 指定された同意書や健康保険証(社会的適応の場合は使用しないことが多い)、生理用ナプキンなどを持参します。
  • 体調管理: 手術前は十分な睡眠をとり、体調を整えることが大切です。風邪をひいたり、体調を崩したりしないように注意しましょう。

また、採卵周期中の性交渉については、クリニックから指示がある場合があります。特にトリガー注射後は、自然排卵の可能性があるため、避けるように指導されることが一般的です。

4. 採卵手術の実施

採卵手術は、クリニックや病院のオペ室で行われます。所要時間は、採取する卵子の数にもよりますが、通常15分~30分程度です。

手術は、まず麻酔から始まります。麻酔の方法については、次の「採卵の痛みは?麻酔について」で詳しく説明します。麻酔が効いているのを確認した後、医師は超音波ガイドを見ながら、腟壁を通して卵巣の卵胞に細い針を刺し、卵胞液を吸引します。卵胞液の中に卵子が含まれています。この操作を、成熟した卵胞全てに対して行います。

採取された卵胞液は、すぐに培養室に運ばれ、胚培養士が顕微鏡下で卵子を探し出します。見つかった卵子は、凍結に適した状態か確認され、その日のうちに凍結処理が行われます。

手術中は麻酔が効いているため、ほとんど痛みを感じることはありません。手術後は、麻酔の影響が残っている場合があるため、リカバリー室でしばらく安静にする必要があります。軽い腹痛や出血が見られることがありますが、ほとんどの場合、数時間から数日で治まります。クリニックによっては、採卵後の体の状態を確認するために、当日の診察や、数日後の再診を設けている場合もあります。

採卵の痛みは?麻酔について

「採卵は痛い?」という疑問は、卵子凍結を検討している方が最も不安に感じる点の一つでしょう。採卵は卵巣に針を刺す手術のため、全く痛みが無いわけではありません。しかし、痛みを和らげるために様々な麻酔が用いられます。

一般的に行われる麻酔は以下の通りです。

  • 局所麻酔: 採卵針を腟壁に刺す部分などに麻酔薬を注射する方法です。意識はありますが、痛覚を鈍らせます。
  • 静脈麻酔: 点滴から麻酔薬を投与し、眠ったような状態で行う方法です。手術中の痛みや不安を感じることがほとんどありません。多くのクリニックで採用されています。
  • 笑気ガス: 吸入式の麻酔で、リラックス効果や鎮痛効果があります。単独で使用されることは少ないですが、他の麻酔と併用されることもあります。

どの麻酔を用いるかは、クリニックの方針や、採卵予定の卵子数、患者さんの希望などによって異なります。静脈麻酔の場合は、手術中の痛みはほとんど感じませんが、麻酔が覚めた後に軽い腹痛や生理痛のような痛みを感じることがあります。局所麻酔の場合は、針を刺す瞬間にチクッとした痛みや、卵巣を操作されるような違和感を感じることがあります。

痛み止めは処方されることがほとんどですので、痛みが強い場合は我慢せずに服用しましょう。また、採卵後の腹部の張りや痛みは、卵巣過剰刺激症候群(OHSS)の初期症状である可能性もあります。痛みがひどい場合や、息苦しさ、吐き気などの症状が現れた場合は、すぐにクリニックに連絡してください。

一般的には、採卵手術そのものよりも、卵巣刺激中の注射や、採卵後の腹痛の方が辛かった、と感じる方もいらっしゃるようです。痛みの感じ方には個人差がありますが、多くの場合は麻酔によって痛みがコントロールされます。事前にクリニックに痛みの不安があることを伝えておくと、麻酔について詳しく説明してもらえたり、適切な対応をしてもらえたりするので安心です。

5. 卵子の凍結と保存

採卵によって採取された卵子は、培養室で卵子だけを選び出し、その日のうちに凍結されます。現在の卵子凍結の主流は、「ガラス化法(Vitrification法)」と呼ばれる超急速凍結法です。

ガラス化法は、卵子に高濃度の凍結保護剤を浸透させた後、液体窒素(-196℃)で瞬時に凍結する方法です。従来の緩慢凍結法と比べて、卵子の内部で氷晶が形成されるのを防ぐことができるため、細胞へのダメージが少なく、解凍後の生存率が非常に高いのが特徴です。この技術の進歩により、卵子凍結の信頼性が大きく向上しました。

凍結された卵子は、ストローと呼ばれる細いチューブや、専用の凍結用デバイスに入れられ、識別情報(名前やIDなど)が付けられた上で、液体窒素タンク内で保存されます。液体窒素タンク内は極低温に保たれており、長期にわたって卵子の状態を安定して維持することができます。

卵子の保存期間については、クリニックによって契約内容が異なりますが、一般的には1年単位で契約し、毎年更新手続きを行います。更新を希望しない場合は、契約期間満了をもって凍結卵子は破棄されることになります。保存期間の上限については、法的な定めはありませんが、多くのクリニックでは倫理的な観点から、一定期間(例えば閉経年齢までなど)を推奨している場合があります。しかし、将来的に卵子を使用したい場合は、計画的に保存期間を更新していく必要があります。

卵子の凍結・保存は、将来の体外受精に備えるための重要なプロセスです。適切な管理が行われているクリニックを選ぶことが、安心して卵子を預ける上で大切になります。

卵子凍結にかかる費用とその内訳

卵子凍結にかかる費用は、クリニックによって差がありますが、決して安価ではありません。費用の主な内訳を知ることで、どのくらいかかるのか、また何に費用がかかるのかを理解することができます。

卵子凍結にかかる総額は、一般的に50万円~100万円程度が目安とされています。ただし、これは1回の採卵で十分な数の卵子が採取できた場合の目安であり、複数回採卵が必要な場合は、さらに費用がかさみます。

費用の内訳は以下の通りです。

検査費用について

卵子凍結を行う前に、体の状態や卵巣機能を確認するための各種検査を行います。これにかかる費用です。
血液検査(ホルモン値、AMH、感染症など)や超音波検査が含まれます。費用の目安は、数千円~2万円程度です。初診料や再診料が別途かかる場合もあります。

採卵費用について

卵子を採取するための手術にかかる費用です。これには、以下の項目が含まれます。

  • 薬剤費: 卵巣刺激に使用するホルモン剤(注射、内服、点鼻薬など)の費用。薬剤の種類や使用量によって大きく変動します。数万円~数十万円かかる場合があります。
  • 採卵手術費: 手術そのものにかかる費用。麻酔代(静脈麻酔の方が高価な傾向があります)も含まれます。費用の目安は、20万円~50万円程度です。
  • 培養費: 採取した卵胞液から卵子を探し出し、一時的に培養する費用。

採卵費用は、特に使用する薬剤や採卵によって採取できた卵子の数、手術時間によって変動することがあります。

凍結費用と保管費用について

採取した卵子を凍結処理し、保存するための費用です。

  • 凍結費用: 採取した卵子をガラス化法で凍結処理する費用です。卵子1個あたり、または一回の採卵で採取された卵子全てに対して費用が設定されている場合があります。費用の目安は、数万円~20万円程度です。
  • 保管費用: 凍結した卵子を液体窒素タンク内で保管しておくための費用です。これは通常、年間契約となり、毎年費用が発生します。費用の目安は、年間3万円~5万円程度です。

保管費用は、卵子を使用するまで、または破棄するまで継続的にかかります。将来的にいつ卵子を使用するかわからない場合、長期的な保管費用も考慮しておく必要があります。

具体的な費用はクリニックによって大きく異なるため、事前に料金体系を確認し、見積もりを取ることが非常に重要です。また、追加で検査や処置が必要になった場合の費用についても確認しておきましょう。

卵子凍結の補助金制度

卵子凍結は高額になるため、費用負担を軽減するための補助金制度を設けている自治体や企業があります。

  • 自治体の補助金: 一部の地方自治体では、特定の条件(年齢制限、居住期間など)を満たす住民に対して、卵子凍結にかかる費用の一部を助成する制度を実施しています。対象となる費用や助成金額、申請方法などは自治体によって異なります。お住まいの自治体のホームページなどで確認してみる価値があります。
  • 企業の福利厚生: 大手企業を中心に、従業員向けの福利厚生として卵子凍結費用の一部を補助する制度を導入しているケースも見られます。ご自身の勤務先にこのような制度があるか確認してみましょう。

これらの補助金制度を利用することで、費用負担を軽減できる可能性があります。ただし、全ての自治体や企業が実施しているわけではないため、ご自身で積極的に情報収集を行う必要があります。また、補助金は申請期間が決まっていたり、予算に上限があったりする場合もありますので、早めに情報を確認し、手続きを進めることが推奨されます。

卵子凍結に適した年齢と妊娠率

卵子凍結を検討する上で、年齢は非常に重要な要素となります。なぜなら、女性の卵子の質や数は年齢とともに確実に減少していくからです。

何歳までが推奨される?年齢による卵子の質の変化

女性が一生涯に持つ卵子の数は生まれた時から決まっており、歳を重ねるにつれてその数は減少し続けます。さらに重要なのが、卵子の質の低下です。年齢が上がるにつれて、卵子の染色体異常のリスクが高まります。染色体異常のある卵子は、受精・着床しにくかったり、妊娠しても流産に至りやすかったり、赤ちゃんに先天的な異常(ダウン症候群など)が生じるリスクが高まったりします。

そのため、卵子凍結はできるだけ若いうちに行うことが推奨されています。一般的に、35歳くらいまでに凍結した卵子を用いるのが、将来の妊娠率の観点から最も効果が高いとされています。これは、35歳を過ぎると卵子の質の低下のスピードが加速すると言われているためです。

もちろん、35歳を過ぎてからでも卵子凍結は可能ですが、採取できる卵子の数や質が低下している可能性が高く、将来妊娠に至る確率も低くなる傾向があります。例えば、同じ数の卵子を採取できたとしても、20代後半~30代前半で凍結した卵子の方が、40歳で凍結した卵子よりも質の良い卵子が含まれている可能性が高いと考えられます。

したがって、将来の妊娠のために卵子凍結を検討しているのであれば、早めに情報収集を開始し、自身の年齢と卵巣機能の状態を把握することが大切です。迷っている間に年齢が上がってしまうと、卵子凍結の効果が相対的に低くなってしまう可能性があります。

凍結卵子を用いた場合の妊娠率について

凍結した卵子を将来使用する場合、体外受精を行います。具体的な流れは、凍結卵子を融解し、精子と受精させ(顕微授精が一般的です)、できた胚(受精卵)を子宮に戻す(胚移植)という流れになります。

凍結卵子を用いた場合の妊娠率は、主に卵子を凍結した時の女性の年齢に大きく依存します。これは、前述の通り、卵子の質が凍結時の年齢に影響されるからです。

例えば、30歳で凍結した卵子を使用した場合の妊娠率は、40歳で凍結した卵子を使用した場合よりも高いことが様々な研究で示されています。具体的な妊娠率は、使用する卵子の数、クリニックの技術、個人の体の状態など、様々な要因によって変動するため、一概に言えませんが、一般的には以下の傾向があります。

  • 30歳前後で凍結した卵子: 凍結卵子1個あたりの妊娠率や、胚移植あたりの妊娠率が高い傾向にあります。比較的少ない数の卵子で妊娠に至る可能性も期待できます。
  • 30代後半で凍結した卵子: 妊娠率は徐々に低下し始めます。将来的に妊娠を希望する場合、より多くの卵子を凍結しておくことが推奨される場合があります。
  • 40歳以降で凍結した卵子: 妊娠率はさらに低下し、妊娠に至るためには相当数の卵子が必要になる可能性が高まります。

クリニックによっては、年齢別の凍結卵子を用いた場合の妊娠率の目安や、妊娠に至るために必要な卵子の数の目安などをデータとして提示している場合があります。ただし、これらのデータはあくまで平均値であり、個人の妊娠率は大きく異なります。

重要なのは、卵子凍結は「魔法」ではなく、あくまで「年齢による卵子の質の低下というハンディを、凍結時の若さで補う」技術であるということです。将来的に凍結卵子を使用する際に、凍結時の年齢が若いほど有利である、ということを理解しておくことが重要です。

卵子凍結のデメリット・リスク

卵子凍結は将来の選択肢を広げる有効な手段となり得ますが、メリットだけではなく、デメリットやリスクも存在します。これらを十分に理解した上で、検討を進めることが大切です。

卵子凍結に「意味ない」「後悔」はある?

卵子凍結は、必ずしも将来の妊娠・出産を保証するものではありません。これが、「意味ない」「後悔する」と感じる可能性のある最大の要因です。

「意味ない」と感じる可能性:

  • 凍結卵子を使わなかった場合: 凍結したものの、自然妊娠したり、妊娠を希望するタイミングが来なかったり、健康状態の変化などによって結果的に凍結卵子を使用しなかった場合、高額な費用と身体的な負担をかけた意味は何だったのだろう、と感じてしまうかもしれません。
  • 凍結卵子を使用しても妊娠に至らなかった場合: 凍結卵子を融解し、体外受精を行っても、受精しない、胚にならない、着床しないなど、妊娠に至らない可能性もあります。特に凍結時の年齢が高い場合や、凍結数が少ない場合は、その可能性が高まります。

「後悔」につながる可能性:

  • もっと早く凍結すればよかった: 卵子の質は年齢とともに低下します。「もっと若いうちに凍結しておけば、より良い卵子を多く残せたかもしれない」と後悔するケースです。
  • 費用負担: 採卵や保管にかかる費用は高額です。凍結卵子を使わなかった場合や、使っても結果に繋がらなかった場合に、経済的な負担が大きいと感じ、後悔する可能性があります。
  • 身体的な負担: 採卵のためのホルモン剤投与や手術は、身体的な負担を伴います。その負担に見合う結果が得られなかったと感じた場合に、後悔につながる可能性があります。

これらの可能性を完全にゼロにすることはできません。しかし、事前にデメリットやリスクについて十分な説明を受け、理解した上で、ご自身の状況や価値観と照らし合わせて慎重に判断することが、後悔を減らすために重要です。卵子凍結は「将来の妊娠の可能性への投資」と捉え、その投資に見合う価値があるかどうかをご自身で判断する必要があります。

卵子凍結による身体への負担

卵子凍結のプロセスには、身体への負担が伴います。主な負担は以下の通りです。

  • 卵巣刺激による負担: 複数の卵子を育てるためにホルモン剤を投与します。注射(自己注射を含む)を毎日行ったり、数日おきに通院したりする必要があります。ホルモン剤の影響で、お腹の張り、軽い吐き気、むくみ、倦怠感、頭痛、気分の変動などの症状が現れることがあります。多くの場合、これらの症状は軽度で、卵巣刺激が終了すれば治まります。
  • 卵巣過剰刺激症候群(OHSS): 卵巣刺激によって卵巣が過剰に反応し、腫れたり、お腹や胸に水が溜まったりする状態です。軽症の場合は経過観察で自然に改善しますが、重症化すると入院が必要になる場合や、血栓症などの合併症を引き起こすリスクもあります。OHSSのリスクが高い方(特に若い方や多嚢胞性卵巣症候群の方など)に対しては、卵巣刺激の方法を工夫したり、リスクを軽減する薬剤を使用したりすることで、OHSSの発症を予防・軽減することができます。しかし、完全にゼロにすることはできません。
  • 採卵手術のリスク: 採卵は小さな手術ですが、手術に伴うリスクがゼロではありません。出血、感染、隣接臓器(膀胱や腸など)の損傷などのリスクが稀にあります。また、麻酔によるリスクもゼロではありません。

これらの身体的な負担やリスクについて、事前にクリニックでしっかりと説明を受け、納得した上で手続きを進めることが大切です。特にOHSSについては、症状や対処法について理解しておくことが重要です。

卵子凍結と将来の子供(ダウン症などのリスク)

「卵子凍結で生まれた赤ちゃんは、ダウン症などの先天異常のリスクが高いのではないか?」と心配される方もいらっしゃるかもしれません。

現在の医学的な見解では、卵子凍結・融解のプロセスそのものが、将来生まれてくる子供に染色体異常(ダウン症など)のリスクを高めるという科学的な根拠はありません。ダウン症などの染色体異常は、主に卵子の老化によって起こると考えられています。したがって、染色体異常のリスクは、卵子を凍結した時の女性の年齢に依存します。

例えば、40歳で卵子を凍結し、5年後にその卵子を使って妊娠した場合、生まれてくる赤ちゃんがダウン症になるリスクは、卵子を凍結した時の年齢である40歳の女性が出産した場合のリスクと同程度と考えられます。これは、卵子を凍結時の年齢でストップしているためです。

したがって、卵子凍結は、将来の出産時の年齢が高くなったとしても、凍結時の年齢における染色体異常のリスクで妊娠に臨める、というメリットがあるとも言えます。

ただし、体外受精で妊娠した場合に、自然妊娠と比較して特定の合併症のリスクが若干高まる可能性を示唆する研究もあります。しかし、これらは卵子凍結による影響なのか、体外受精というプロセス全体による影響なのか、または体外受精が必要な原因疾患による影響なのかなど、様々な要因が複雑に絡み合っており、現時点では明確な結論は出ていません。

最も重要なのは、将来の子供の健康に関するリスクは、主に卵子を凍結した時のあなたの年齢に関わるということです。若いうちに凍結することで、年齢による染色体異常のリスクを抑えた状態で将来妊娠に臨める、という利点を理解しておくことが重要です。

卵子凍結に関するよくある質問

ここでは、卵子凍結に関するよくある質問にお答えします。

採卵周期中の過ごし方

採卵のための卵巣刺激を行っている期間(通常10日~14日程度)は、日常生活を送ることができますが、いくつか注意点があります。

  • 運動: 激しい運動は避けるように指導されることが多いです。卵巣が腫れているため、激しい動きによって卵巣がねじれる「卵巣茎捻転」という重篤な状態を引き起こすリスクがあるためです。軽いウォーキングやストレッチ程度であれば問題ないことが多いですが、具体的な運動の可否については、必ずクリニックに確認してください。
  • 食事: 特別の制限はありませんが、バランスの取れた食事を心がけ、体調を整えることが大切です。
  • 飲酒・喫煙: 飲酒は控えめにするか避けることが推奨されます。喫煙は卵子の質に悪影響を与える可能性があるため、この期間だけでなく、将来妊娠を望むのであれば禁煙することが強く推奨されます。
  • 性交渉: 卵巣刺激によって複数の卵胞が育っている状態での性交渉は、排卵してしまうリスクや、OHSSのリスクを高める可能性があるため、避けるように指導されることが一般的です。特にトリガー注射後は、自然排卵を避けるために絶対に性交渉は避けてください。
  • 入浴: シャワーは問題ありませんが、採卵日が近づいて卵巣が大きくなっている時期は、熱いお湯に長時間浸かるなど、血行を促進しすぎる行為は避けた方が良い場合があります。クリニックの指示に従ってください。

卵巣刺激期間中は、体調の変化に注意し、何か不安なことや気になる症状があれば、すぐにクリニックに連絡することが大切です。

複数回採卵するケースについて

1回の採卵で目標とする数の卵子が得られなかった場合や、より多くの卵子を凍結しておきたいという希望がある場合、複数回採卵を行うことがあります。

複数回採卵を行う主な理由は以下の通りです。

  • 1回の採卵で採取できた卵子の数が少なかった: 卵巣の反応や年齢によっては、1回の採卵で多数の卵子が得られないことがあります。将来の妊娠率を高めるためには、ある程度の数の卵子を凍結しておくことが望ましいため、追加で採卵を検討します。
  • 目標とする凍結数に達しなかった: 将来複数回の妊娠を希望する場合や、年齢が高い場合など、より多くの卵子を確保しておきたいと考える場合があります。
  • 採卵時の体調によって十分な卵子が得られなかった: 体調が優れなかったり、卵巣刺激の反応が悪かったりしたために、期待通りの結果が得られなかった場合、期間を置いて再度採卵に臨むことがあります。

複数回採卵を行う場合、通常は前回の採卵周期の次の生理が来てから、再び卵巣刺激を開始します。体への負担や費用もその都度かかるため、何回採卵を行うかについては、医師とよく相談し、ご自身の体の状態や経済状況、将来のライフプランと照らし合わせて慎重に判断する必要があります。クリニックによっては、複数回採卵を考慮した費用プランを用意している場合もあります。

凍結した卵子を使用しない場合は?

凍結した卵子を将来的に使用しなかった場合、いくつかの選択肢があります。

  • 破棄: 契約期間満了後も更新手続きを行わない場合や、ご自身の意思で凍結卵子の破棄を希望する場合、卵子は専門の方法で処分されます。破棄には費用がかかる場合が多いです。
  • 医学研究への提供: ご自身の同意のもと、医学研究や教育のために匿名で提供するという選択肢が可能なクリニックもあります。
  • 第三者への提供(ドナー卵子): 不妊治療を受けている他の夫婦に卵子を提供するという選択肢も倫理的な議論が必要な部分であり、現状では日本では非常に限定的です。多くのクリニックでは、第三者への提供を扱っていません。

どの選択肢が可能か、またそれぞれにかかる費用や手続きについては、クリニックによって異なります。卵子凍結契約を結ぶ際に、使用しなかった場合の取り扱いについても説明をしっかり受け、理解しておくことが重要です。将来、凍結卵子を使用しないという判断をした場合でも、高額な費用をかけた「意味」をご自身の中でどう捉えるか、という点が大切になります。これは、将来の安心を買うための投資だった、という風に捉え直すこともできるかもしれません。

卵子凍結を検討している方へ:第一歩を踏み出すために

卵子凍結について様々な情報に触れ、そのやり方、費用、リスクなどが少しずつ見えてきたのではないでしょうか。将来の選択肢を広げるための有効な手段である一方で、高額な費用や身体への負担、そして不確実性も伴うため、慎重な検討が必要です。

もしあなたが卵子凍結を少しでも検討しているのであれば、まずは専門のクリニックに相談に行くことが第一歩となります。インターネットの情報だけでは得られない、あなたの体の状態に合わせた具体的な情報や、最新の医療技術に基づいた説明を受けることができます。

初診の予約はハードルが高いと感じるかもしれませんが、まずは相談だけ、という形で受け付けているクリニックも多くあります。いくつかのクリニックのウェブサイトを見て、雰囲気や情報提供の姿勢、費用目安などを比較し、相談しやすいと感じるクリニックを選んでみましょう。

相談に行く際は、以下の点を準備しておくと、より有意義な時間になるはずです。

  • 卵子凍結を考え始めた理由: なぜ今、卵子凍結を検討しているのか、具体的な状況や将来の希望を整理しておきましょう。
  • 現在の健康状態や月経周期: 生理周期が安定しているか、既往歴、服用中の薬など、医師に伝えるべき情報をまとめておきましょう。
  • 聞きたいこと、不安なこと: 費用、痛み、成功率、リスク、採卵周期中の過ごし方など、事前に疑問点をリストアップしておきましょう。

クリニックの医師やカウンセラーは、あなたの疑問や不安に丁寧に答えてくれるはずです。専門家と対話することで、卵子凍結が今のあなたにとって本当に必要な選択肢なのか、具体的なステップや費用はどのくらいかなど、より現実的なイメージを掴むことができるでしょう。

また、パートナーや家族に相談することも大切です。卵子凍結はご自身の体に関わることですが、将来の家族計画にも影響を与える可能性があるため、身近な人と話し合うことで、より多角的な視点から検討することができます。

卵子の質や数は年齢とともに低下していくという事実は避けられません。だからこそ、もし「いつか子供が欲しい」という気持ちが少しでもあるのであれば、時間をかけずに情報収集を開始し、早めに専門家へ相談に行くことが、後悔しないための最も重要なステップとなります。あなたの未来の選択肢を、今、広げるための一歩を踏み出しましょう。

まとめ:卵子凍結のやり方を理解し、将来の選択肢を広げよう

卵子凍結は、若く質の良い状態にある卵子を採取・凍結保存することで、将来の妊娠・出産に備えるための医療技術です。社会的適応としての卵子凍結は、多様なライフプランを選択したい現代女性にとって、有効な手段となり得ます。

卵子凍結の具体的なやり方は、以下のステップで進められます。

  1. クリニックの選定と初診・相談: 信頼できるクリニックを選び、説明を受ける。
  2. 採卵前の検査と卵巣刺激: 体の状態を調べ、ホルモン剤で複数の卵子を育てる。
  3. 採卵日の決定と準備: 卵胞の育ちを確認し、手術の準備をする。
  4. 採卵手術の実施: 麻酔下で経腟的に卵子を採取する。痛みは麻酔でコントロールされることが多い。
  5. 卵子の凍結と保存: 採取した卵子をガラス化法で凍結し、専門施設で保管する。

費用は、検査、薬剤、採卵、凍結、保管(年間費用)の合計で、1回の採卵あたり総額50万円~100万円程度が目安となります。自治体や企業の補助金制度を利用できる場合もあります。

卵子凍結の効果は、卵子を凍結した時の年齢に大きく左右されます。一般的に35歳くらいまでの凍結が推奨されており、若いうちに凍結するほど将来の妊娠率も高まる傾向にあります。

一方で、卵子凍結には、高額な費用、卵巣刺激や採卵手術に伴う身体的な負担やリスク(OHSSなど)、そして「使わなかった」「使っても妊娠しなかった」といった不確実性による後悔の可能性も存在します。卵子凍結自体が将来の子供の染色体異常リスクを高めるわけではありませんが、リスクは凍結時の母体の年齢に依存します。

これらのメリット・デメリット、リスクを十分に理解した上で、ご自身の体の状態、将来の希望、経済状況などを総合的に考慮し、慎重に判断することが重要です。

もし卵子凍結を検討しているのであれば、まずは専門のクリニックに相談に行くことを強くお勧めします。専門家から直接説明を受けることで、インターネットの情報だけでは得られない、あなたにとって最適な情報や選択肢が見えてくるはずです。

卵子凍結は、あくまで将来の可能性を温存するための技術であり、全ての人の悩みを解決するものではありません。しかし、そのやり方や全体像を正しく理解し、自身のライフプランを考える上で一つの選択肢として検討することは、きっとあなたの未来をより豊かに、そして希望に満ちたものにする手助けとなるでしょう。

※本記事は一般的な情報提供を目的としており、特定のクリニックや治療法を推奨するものではありません。個人の状況に応じた適切な診断や治療方針については、必ず医療機関を受診し、専門の医師にご相談ください。治療の結果には個人差があります。

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