不妊治療を検討し始めたとき、「何から始めればいいの?」「どんな治療があるの?」と疑問や不安を感じるのは自然なことです。不妊治療にはいくつかのステップがあり、一般的には段階的に進んでいきます。この記事では、不妊治療がどのように進んでいくのか、それぞれのステップでどのような治療を行うのか、費用やステップアップの目安について、分かりやすく解説します。ご自身の状況や希望に合った治療法を見つけるための一助となれば幸いです。
不妊治療は段階的に進むのが一般的
不妊治療は、まずは基本的な検査を行い、不妊の原因を探ることから始まります。その結果や、ご夫婦の年齢、希望などを考慮して、最も負担が少なく、効果が期待できる治療法から段階的に進めていくのが一般的です。必ずしもすべてのステップを経験するわけではなく、最初の検査結果によっては最初から高度な治療を検討する場合もあります。医師とよく相談し、納得した上で治療方針を決めることが大切です。
不妊治療の開始時期と最初の検査
日本産科婦人科学会では、「不妊」を「生殖年齢の男女が妊娠を希望し、ある一定期間、避妊することなく通常の性交を継続的に行っているにもかかわらず、妊娠の成立をみない場合」と定義しており、その一定期間を「1年間」としています。ただし、女性の年齢が35歳以上である場合や、過去に婦人科系の病気(子宮内膜症、卵巣嚢腫など)の治療歴がある場合、またはパートナーに不妊の原因となる可能性のある既往歴がある場合などは、1年を待たずに早めに受診を検討することが推奨されています。
不妊治療の初診では、まずはご夫婦のこれまでの状況(性交渉の頻度やタイミング、過去の病歴、妊娠・出産歴など)について詳しく問診が行われます。その後、不妊の原因を調べるための基本的な検査に進みます。主な検査には以下のようなものがあります。
- 女性の検査
- 基礎体温測定: 月経周期における体温の変化を記録し、排卵の有無や黄体期の状態などを把握します。
- ホルモン検査: 血液検査で、月経周期の特定の時期に女性ホルモン(卵胞刺激ホルモン、黄体形成ホルモン、エストロゲン、プロゲステロンなど)の値を測定し、排卵機能や卵巣予備能などを評価します。
- 経腟超音波検査: 子宮や卵巣の形態に異常がないか、卵胞の発育状況などを確認します。排卵日予測にも用いられます。
- 卵管造影検査: 子宮口から造影剤を注入し、X線で卵管の通り具合や子宮の形を調べます。卵管が詰まっていないか、癒着がないかなどを確認します。痛みを感じる場合もありますが、検査後に妊娠しやすくなる効果も期待できることがあります。
- 子宮頸管粘液検査: 排卵期の子宮頸管粘液の量や質を調べ、精子が子宮内に進入しやすい状態であるかを確認します。
- フーナーテスト(性交後検査): 性交後に子宮頸管粘液中の運動精子の状態を調べ、精子が子宮内に進入できるかを確認します。
- 男性の検査
- 精液検査: 精子の数、運動率、形態などを調べます。禁欲期間などを守って行うことが重要です。
- ホルモン検査: 必要に応じて、男性ホルモン(テストステロンなど)や脳下垂体ホルモンの値を調べることがあります。
これらの基本的な検査を通して、不妊の原因(排卵因子、卵管因子、子宮因子、男性因子、免疫因子、原因不明不妊など)を特定、または推測し、その結果に基づいて最適な治療ステップを検討していくことになります。
不妊治療の主なステップと治療法
不妊治療は、一般的に以下の3つのステップで進められます。どのステップから始めるかは、検査結果やご夫婦の状況によって異なります。
ステップ1:タイミング法
タイミング法は、最も自然妊娠に近い治療法であり、不妊治療の最初のステップとして行われることが多い方法です。
タイミング法の内容と流れ
タイミング法は、医師が超音波検査やホルモン検査などを用いて排卵日を正確に予測し、その排卵日に合わせてご夫婦に性交渉を持っていただく方法です。
具体的な流れは以下のようになります。
- 月経周期の開始: 月経が始まったら受診し、その周期の治療計画を立てます。
- 卵胞の発育観察: 周期の前半に数回、経腟超音波検査を行い、卵胞の大きさや子宮内膜の厚さを観察します。血液検査でホルモン値を測定することもあります。
- 排卵日の予測: 卵胞が十分に大きくなったら(約18〜20mm)、排卵が近いと判断し、排卵日を予測します。必要に応じて、排卵を促す注射(hCG注射など)を使用する場合もあります。
- 性交渉の実施: 予測された排卵日の前日または当日に性交渉を持つよう指導されます。自宅での排卵検査薬の結果を参考にすることもあります。
- 黄体期の管理: 排卵後、必要に応じて黄体ホルモンを補充する薬剤(内服薬、腟坐薬、注射など)が処方されることがあります。これは、受精卵が着床しやすいように子宮内膜の状態を整え、妊娠を維持しやすくするためです。
- 妊娠判定: 次の月経予定日を過ぎても月経がこなければ、妊娠検査を行います。通常は、排卵日から約2週間後に血液検査や尿検査で判定を行います。
タイミング法での妊娠率と目安回数
タイミング法は、1周期あたりの妊娠率は健康なご夫婦の自然妊娠率(約20〜25%)と同程度、あるいはそれよりやや高い程度とされています。ただし、これはあくまで平均値であり、ご夫婦それぞれの不妊原因や年齢によって大きく変動します。
一般的に、タイミング法は6周期から1年程度続けることが推奨されることが多いです。若いご夫婦で不妊期間が短い場合や、原因が特定できない「原因不明不妊」の場合は、もう少し長く続けることもあります。しかし、女性の年齢が高い場合や、明らかな原因(例えば精子の運動率が低いなど)がある場合は、早めに次のステップである人工授精や体外受精へのステップアップが検討されます。闇雲に長く続けるのではなく、一定期間で効果が見られない場合は、次の治療法に進むかを検討することが重要です。
ステップ2:人工授精(AIH)
人工授精(Artificial Insemination by Husband)は、タイミング法で妊娠に至らなかった場合や、男性不妊因子がある場合、また原因不明不妊の場合などに検討される次のステップの治療法です。
人工授精の内容と流れ
人工授精は、採取した精液の中から運動率の高い良好な精子を選別・濃縮し、排卵に合わせて子宮内に直接注入する方法です。自然妊娠では、精子が女性の生殖器内を自力で遡上して卵子のもとへたどり着く必要がありますが、人工授精ではそのプロセスの一部を医療的にサポートします。
具体的な流れは以下のようになります。
- 月経周期の開始: 月経が始まったら受診し、その周期の治療計画を立てます。
- 卵胞の発育観察: タイミング法と同様に、経腟超音波検査やホルモン検査で卵胞の発育を観察し、排卵日を予測します。必要に応じて、排卵誘発剤(内服薬や注射)を用いて複数の卵胞を育てることもあります。
- 排卵日の予測と準備: 卵胞が十分に大きくなり、排卵が近いと判断されたら、人工授精の日程を決定します。排卵を促す注射(hCG注射など)を使用することもあります。
- 精子の準備: 人工授精を行う当日に、パートナーに自宅やクリニックで採精してもらいます。採取された精液は、遠心分離などの方法を用いて、運動率の高い良好な精子とその他の成分(精漿など)に分離・濃縮する処理(精子調整)が行われます。この処理により、精子の受精能力が高まると考えられています。
- 人工授精の実施: 精子調整が終わったら、準備された精子を細いカテーテルを用いて子宮腔内に注入します。この処置は数分で終わり、通常は痛みはほとんどありませんが、個人差があります。
- 黄体期の管理と妊娠判定: タイミング法と同様に、排卵後、必要に応じて黄体ホルモンが補充されることがあります。人工授精から約2週間後に妊娠判定を行います。
人工授精での妊娠率と目安回数
人工授精の1周期あたりの妊娠率は、一般的に5%〜10%程度とされています。これは、体外受精に比べると低い数値ですが、タイミング法よりは妊娠率の上昇が期待できます。人工授精は、特に運動精子数が少ない軽度から中等度の男性不妊や、フーナーテストが不良の場合、また原因不明不妊の場合などに効果が期待されます。卵管が両側とも閉塞しているなど、精子と卵子が出会えない物理的な問題がある場合には人工授授精は適応されません。
人工授精は、一般的に5回から6回程度行うことが推奨されることが多いです。これは、人工授精による妊娠の約9割が6回以内の施行で成立するという報告があるためです。もちろん、年齢や不妊原因によって成功率は異なりますし、何回でステップアップするかはご夫婦と医師とでよく相談して決める必要があります。6回以上行っても妊娠しない場合や、女性の年齢が高い場合などは、次のステップである体外受精・顕微授精(生殖補助医療:ART)へのステップアップを検討する時期となります。
ステップ3:生殖補助医療(ART)
生殖補助医療(ART:Assisted Reproductive Technology)は、不妊治療の中でも最も高度な医療技術を用いた治療法であり、体外受精や顕微授精などがこれに含まれます。人工授精で妊娠に至らなかった場合や、卵管因子(卵管閉塞など)、重度の男性不妊、卵巣機能の低下など、より高度な治療が必要な場合に選択されます。
生殖補助医療の種類(体外受精、顕微授精など)
ARTの代表的なものに、体外受精(IVF: In Vitro Fertilization)と顕微授精(ICSI: Intracytoplasmic Sperm Injection)があります。
- 体外受精(IVF): 採取した卵子と精子を、体外(培養皿の中)で一緒にすることで受精を試みる方法です。精子がある程度の数と運動能力を持っていれば、自然に近い形で受精が起こることを期待します。
- 顕微授精(ICSI): 採取した卵子に、マイクロピペットを用いて1つの精子を直接注入して受精させる方法です。精子の数や運動能力が著しく低い場合や、過去の体外受精で受精がうまくいかなかった場合などに適応されます。
どちらの方法で受精を行うかは、主に精液検査の結果に基づいて医師が判断します。
この他に、ARTに含まれる技術として、胚盤胞培養(受精卵を初期段階の分割期胚からさらに進んだ胚盤胞まで培養する)、タイムラプス培養(培養中の受精卵を連続的に観察する)、SEET法/ERA検査(子宮内膜の状態を調べ、着床に最適な時期を判断する)、着床前診断(PGT-A/SR/M:胚移植前に受精卵の染色体や遺伝子を調べる)などがありますが、これらは必須のプロセスではなく、必要に応じて選択されるオプション的な技術です。
体外受精・顕微授精の流れ
体外受精・顕微授精の治療の流れは、使用する排卵誘発の方法によっていくつか種類(ロング法、ショート法、アンタゴニスト法、自然周期法など)がありますが、一般的な流れは以下のようになります。
- 排卵誘発: 月経周期の早い段階から、排卵誘発剤(注射剤が多い)を用いて複数の卵胞を育てます。注射の量や期間は、使用する排卵誘発方法や個人の反応によって異なります。自然周期法の場合は、排卵誘発剤をほとんど使用しないか、少量のみ使用します。
- 卵胞の発育観察: 定期的に超音波検査やホルモン検査を行い、卵胞の大きさや数を観察します。
- 採卵日決定: 複数の卵胞が十分に育ったら、採卵日を決定し、採卵の約34〜36時間前に卵子の最終成熟を促す注射(hCG注射やGnRHアゴニスト注射など)を打ちます。
- 採卵・採精: 決定した日時に採卵を行います。多くの場合、静脈麻酔を使用して、超音波ガイド下で腟から細い針を刺して卵巣の卵胞から卵子を吸引します。同時に、パートナーに採精してもらいます。
- 受精(IVFまたはICSI): 採取した卵子と精子を体外で受精させます。体外受精(IVF)の場合は、卵子と精子を同じ培養皿に入れて自然な受精を待ちます。顕微授精(ICSI)の場合は、1つの精子を卵子に直接注入します。
- 胚培養: 受精が確認された受精卵(胚)を、数日間(通常3〜6日間)培養器の中で育てます。分割期胚(2〜3日目)または胚盤胞(5〜6日目)まで育てます。胚の成長具合は、その後の妊娠率に影響すると考えられています。
- 胚移植: 培養された胚の中から、最も良好な胚を選び、細いカテーテルを用いて子宮腔内に戻します。移植する胚の数は、年齢や胚の質、多胎妊娠のリスクなどを考慮して決定されます(原則として単一胚移植)。すぐに移植せず、胚を凍結保存して別の周期に移植する「凍結胚移植」が一般的になりつつあります。
- 黄体期の管理: 胚移植後、着床を助け、妊娠を維持するために黄体ホルモンを補充します。
- 妊娠判定: 胚移植から約10日〜2週間後に血液検査や尿検査で妊娠判定を行います。
体外受精・顕微授精での妊娠率と目安
生殖補助医療(ART)による妊娠率は、不妊治療の中で最も高いですが、その成功率は女性の年齢に大きく影響されます。一般的に、30代前半までは妊娠率が高く、年齢が上がるにつれて低下する傾向があります。
例えば、日本産科婦人科学会のデータによると、胚移植1回あたりの妊娠率は、30歳で約40%、35歳で約35%、40歳で約25%、45歳で約10%程度と報告されています(これは新鮮胚移植と凍結胚移植を合わせた全体の傾向であり、個々の施設や胚の質、移植方法などによって異なります)。
ARTは何回まで行うか、明確な回数制限はありませんが、保険適用には年齢(女性43歳未満)や回数(40歳未満は6回まで、40歳以上43歳未満は3回まで)の制限があります。一般的には、複数回(数回〜10回程度)試す方が多いですが、体力的、精神的、経済的な負担も大きいため、事前に夫婦でよく話し合い、医師とも相談しながら、どこまで続けるか、いつ治療を終了するかを決めておくことが重要です。
ステップアップを検討するタイミング
不妊治療のステップアップは、漫然と治療を続けるのではなく、効果が見られない場合に次のより高度な治療へと進むことを意味します。適切なタイミングでステップアップすることは、妊娠への近道となる可能性があります。
各ステップからのステップアップ目安
一般的に、各ステップからのステップアップは以下のような目安で検討されることが多いです。
- タイミング法から人工授精へ:
- 目安回数:約6周期〜12周期(6ヶ月〜1年)
- タイミング法で1年程度妊娠しない場合や、排卵障害、軽度の男性不妊などがある場合に検討します。特に女性が35歳以上の場合は、もう少し早くステップアップを検討することもあります。
- 人工授精から生殖補助医療(ART)へ:
- 目安回数:約5〜6回
- 人工授精を5〜6回行っても妊娠しない場合や、卵管因子(卵管閉塞や通過障害)、中等度以上の男性不妊、卵巣機能の低下など、人工授精では妊娠が難しいと考えられる場合に検討します。原因不明不妊の場合も、人工授精の次の選択肢としてARTが推奨されることが多いです。
これらの回数や期間はあくまで一般的な目安であり、個々の不妊原因、年齢、治療への反応、そしてご夫婦の希望によって最適なタイミングは異なります。担当医と定期的に治療の進捗状況や今後の見通しについて話し合い、ステップアップの必要性やタイミングを一緒に検討することが重要です。
年齢がステップアップに影響する場合
女性の年齢、特に35歳を過ぎると卵子の質が低下し始め、40歳以降はより顕著になります。これに伴い、妊娠率が低下し、流産率や赤ちゃんの染色体異常のリスクが高まることが知られています。
そのため、年齢が高い場合は、妊娠率が比較的低いタイミング法や人工授精に時間をかけすぎず、比較的妊娠率が高いARTへ早めにステップアップすることが推奨されることがあります。例えば、40歳を過ぎて不妊治療を開始する場合、最初からARTを勧められるケースも少なくありません。
年齢は不妊治療において最も重要な予後因子の一つです。限られた時間の中で、最も効果的な治療を選択するために、年齢を考慮したステップアップの検討は非常に大切です。担当医は、年齢も踏まえた上で最適な治療計画を提案してくれるはずですので、積極的に相談しましょう。
不妊治療にかかる費用と保険適用
不妊治療は、保険適用外の治療も多く、費用が高額になるイメージがあるかもしれません。しかし、2022年4月からは、不妊治療の多くの項目が保険適用となり、経済的な負担が大きく軽減されました。
治療ステップごとの費用目安
不妊治療にかかる費用は、医療機関や治療内容、使用する薬剤、個人の反応などによって大きく異なります。ここでは、保険適用となった主な治療について、1周期または1回あたりの一般的な自己負担額(3割負担の場合)の目安を示します。
治療ステップ/項目 | 保険適用 | 自己負担額(目安・3割負担) | 備考 |
---|---|---|---|
初期検査 | 一部適用 | 数千円〜数万円 | ホルモン検査、超音波検査など |
卵管造影検査 | 適用 | 5,000円〜1万円 | |
精液検査 | 適用 | 1,000円〜2,000円 | |
タイミング法 | 適用(診察、検査、投薬) | 1周期あたり数千円 | 排卵日予測のための通院回数などで変動 |
人工授精(AIH) | 適用 | 1回あたり5,000円〜1万円 | 精子調整料、超音波検査、投薬などが含まれる |
生殖補助医療(ART) | 適用 | ||
採卵術 | 適用 | 1個あたり数千円〜数万円 | 採卵数で変動。麻酔費用は別途 |
受精操作(IVF/ICSI) | 適用 | 1回あたり数万円〜10万円 | IVFかICSIか、媒精方法などで変動 |
胚盤胞培養 | 適用 | 数万円 | 培養日数、個数で変動 |
胚移植術 | 適用 | 数万円 | 新鮮胚移植か凍結胚移植かで変動 |
胚凍結・保存料 | 凍結は適用、保存は自費 | 凍結料:数万円、保存料:年間数万円 | 個数で変動 |
薬剤費(排卵誘発剤、黄体補充) | 適用 | 数千円〜数万円/周期 | 種類、量、使用期間で大きく変動 |
その他(オプション技術) | 一部適用外あり | 数万円〜数十万円 | タイムラプス、ERA検査、PGT-Aなど(要確認) |
*上記の費用はあくまで一般的な目安です。医療機関や治療内容によって異なります。詳細は各医療機関にお問い合わせください。
不妊治療の保険適用について
2022年4月の保険適用拡大により、不妊治療の多くの項目が公的医療保険の対象となりました。これにより、経済的なハードルが下がり、治療を受けやすくなりました。
保険適用となる治療には、主に以下のものがあります。
- 一般不妊治療:タイミング法、人工授精
- 生殖補助医療(ART):体外受精、顕微授精、採卵、採精、受精、胚培養、胚移植、胚凍結保存(凍結まで)
ただし、保険適用を受けるためには、いくつかの条件があります。
- 対象者: 婚姻関係にある夫婦(または事実婚関係にあると認められた夫婦)
- 女性の年齢: ARTの治療開始日時点で43歳未満であること
- 治療回数:
- ARTを通算して、女性の年齢が40歳未満の場合は6回まで
- ARTを通算して、女性の年齢が40歳以上43歳未満の場合は3回まで
*(回数のカウント方法は、採卵から胚移植までの一連の治療を1回とみなすなど、細かく定められています)*
また、着床前診断(PGT-Aなど)や、未婚・非配偶者間での治療(卵子提供、精子提供など)は、原則として保険適用外となります。
保険適用により自己負担額は3割となりますが、高額療養費制度を利用することで、1ヶ月の医療費の自己負担額に上限が設けられます。所得によって上限額は異なりますが、これによりさらに経済的な負担を軽減できます。
保険適用の詳細や、ご自身の治療が保険の対象となるかについては、必ず医療機関にご確認ください。また、保険診療と自費診療を組み合わせる「混合診療」は原則認められていませんが、一定の条件下で認められる場合もあります。複雑な部分もあるため、治療を開始する前に費用について十分に確認し、納得しておくことが大切です。
不妊治療に関するよくある質問
不妊治療には、様々な疑問や不安がつきものです。ここでは、不妊治療に関してよく聞かれる質問とその回答をご紹介します。
不妊治療は痛いですか?
不妊治療の過程には、痛みを伴う可能性のある検査や処置がいくつかあります。しかし、すべての治療が痛いわけではなく、痛みの感じ方には個人差が非常に大きいです。
- 痛みを伴う可能性がある検査・処置の例:
- 卵管造影検査: 造影剤を注入する際に子宮や卵管の収縮によって痛みを感じることがあります。生理痛のような痛みや、人によっては強い痛みを感じることもあります。検査後も数時間痛みが続くこともあります。
- 採卵(体外受精・顕微授精): 卵巣に針を刺して卵子を採取する処置です。多くの場合、静脈麻酔や局所麻酔を使用して痛みを和らげますが、麻酔が効きにくい場合や、採卵数が多かったり、卵巣の位置によっては痛みを感じることもあります。処置後、数日間下腹部痛や出血が続くこともあります。
- 胚移植(体外受精・顕微授精): 培養した胚を子宮に戻す処置です。通常は痛みはほとんどありません。カテーテルを挿入する際に違和感がある程度です。
- 注射: 排卵誘発剤や黄体ホルモン剤など、自宅や通院で注射を行うことがあります。自己注射の場合は、慣れるまでは痛みや不安を感じるかもしれません。
検査や処置に伴う痛みについては、事前に医師や看護師に確認し、不安な場合は麻酔や鎮痛剤の使用について相談してみましょう。痛みを感じる可能性があることを知っておくことで、心構えができますし、痛みの緩和策があれば利用することで負担を減らすことができます。
不妊治療にゴールデンタイムはありますか?
「不妊治療にはゴールデンタイムがある」という言葉を耳にすることがあるかもしれません。これは、卵管造影検査後の数ヶ月間は妊娠しやすくなるという説や、特定の治療法を始めた直後が最も妊娠しやすい時期だという考え方に基づくことがあるようです。
確かに、卵管造影検査で卵管の通りが一時的に改善されることによって、検査後数ヶ月の妊娠率が少し上昇するという報告はあります。また、人工授精や体外受精なども、タイミング法や自然な周期での妊娠に比べると、その治療周期単独での妊娠率は高くなります。
しかし、これらの「妊娠しやすい時期」が誰にでも当てはまる絶対的な「ゴールデンタイム」と言えるほどの科学的根拠は十分ではありません。不妊治療における最も重要な要素の一つは「年齢」、特に女性の年齢です。年齢が若いほど妊娠率は高く、治療の成功率も高くなる傾向があります。
したがって、「ゴールデンタイム」を過度に意識するよりも、ご自身の年齢や不妊原因を踏まえ、適切な検査を早めに受け、医師と相談しながら、最も効果が期待できる治療法を適切なタイミングで開始し、継続していくことの方がはるかに重要です。
不妊治療において、最も大切な「タイムリミット」は、個々のご夫婦の年齢と卵巣機能の状態です。いたずらに時間をかけすぎず、必要に応じてステップアップを検討する勇気も必要になります。
ご自身に合った治療ステップを選ぶために
不妊治療の道のりは、時に長く、身体的にも精神的にも負担がかかることがあります。どの治療ステップに進むかを判断するためには、ご夫婦だけで悩まず、専門家である医師と密にコミュニケーションを取りながら進めることが非常に大切です。
検査結果を十分に理解し、それぞれの治療法(タイミング法、人工授精、体外受精・顕微授精)のメリット・デメリット、妊娠率、費用、期間、体への負担などを正確に把握しましょう。その上で、ご夫婦の年齢、不妊原因、経済的な状況、治療に対する考え方や希望などを総合的に考慮し、ご夫婦にとって最も納得のいく治療方針を選択してください。
また、不妊治療はご夫婦二人の問題です。パートナーと率直に気持ちを共有し、治療の選択やステップアップについて一緒に考え、支え合うことが、治療を乗り越える上で何よりも大切です。
もし、担当医とのコミュニケーションがうまくいかないと感じる場合や、他の選択肢についても聞いてみたい場合は、セカンドオピニオンを求めて他の医療機関を受診することも一つの方法です。
不妊治療のステップはあくまで一般的な流れであり、すべてのご夫婦が同じように進むわけではありません。ご自身の体の声や気持ちにも耳を傾けながら、焦らず、しかし必要に応じて適切なステップを踏んでいくことが、妊娠への希望をつなぐことにつながるでしょう。
この記事が、不妊治療のステップについて理解を深め、今後の治療方針を考える上で少しでもお役に立てれば幸いです。
免責事項:この記事は不妊治療の一般的なステップについて解説したものであり、特定の治療法を推奨したり、個別の治療方針を示すものではありません。ご自身の状況に合わせた最適な治療法については、必ず専門の医師とご相談の上、決定してください。医療情報は常に更新される可能性があります。最新の情報は、医療機関や専門の学会などにご確認ください。