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赤痢アメーバ症の症状と原因|知っておきたい検査・治療法

赤痢アメーバ症は、Entamoeba histolyticaと呼ばれるアメーバ原虫によって引き起こされる感染症です。主に開発途上国で多く見られますが、日本でも報告されており、適切な知識と対策が必要です。この記事では、赤痢アメーバ症の原因から、具体的な症状、感染経路、診断方法、そして最新の治療法までを詳しく解説します。
また、感染を防ぐための予防策や、日本国内での現状についても触れますので、ご自身の健康を守るため、また周囲への感染拡大を防ぐためにも、ぜひ最後までお読みください。

赤痢アメーバ症とは

目次

赤痢アメーバ症の基礎知識

赤痢アメーバとは?

赤痢アメーバ症の原因となるのは、「赤痢アメーバ(Entamoeba histolytica)」という単細胞の寄生虫です。このアメーバは、人間の腸管内に寄生し、ときに組織に侵入して炎症や潰瘍を引き起こします。赤痢アメーバには、活動期である「栄養型(trophozoite)」と、環境中で耐久性を持つ「シスト(cyst)」という二つの形態があります。感染源となるのは主にシストであり、これが口から体内に入ることで感染が成立します。

原因となる病原体

赤痢アメーバ(Entamoeba histolytica)は、顕微鏡で観察できる微小な生物、つまり原虫の一種です。この原虫が人間に病気を引き起こすメカニズムは以下の通りです。

  1. シストの摂取: 汚染された水や食物、または直接的な接触によって、耐久性のあるシストが口から体内に入ります。
  2. 脱嚢(だつのう): 摂取されたシストは、胃酸に耐えて小腸に到達します。小腸の環境でシストの壁が破れ、栄養型(trophozoite)が放出されます。
  3. 腸管への寄生と増殖: 放出された栄養型は、大腸に移動し、そこで増殖します。多くの場合、栄養型は腸管の表面に留まり、症状を引き起こさないこともあります(無症状病原体保有者)。
  4. 組織への侵入: しかし、栄養型が腸管の粘膜や粘膜下組織に侵入し、炎症や潰瘍を引き起こすことがあります。これが「アメーバ性大腸炎」の主な病態です。栄養型は腸壁を酵素で分解しながら侵入していきます。
  5. 腸管外への播種: さらに進行すると、栄養型は血管やリンパ管に入り込み、全身に運ばれて他の臓器に病巣を作ることもあります。特に多いのが肝臓に膿瘍を作る「アメーバ性肝膿瘍」です。
  6. シストの形成と排出: 腸管内で増殖した栄養型の一部は、便として体外に排出される際に再びシストに戻ります。このシストが新たな感染源となります。

重要な点として、Entamoeba histolyticaによく似た形態を持つアメーバに「Entamoeba dispar」や「Entamoeba moshkovskii」、「Entamoeba bangladeshi」などがありますが、これらはヒトに病原性を示さないと考えられています。そのため、糞便検査でアメーバのシストや栄養型が見つかった場合でも、それが病原性のあるEntamoeba histolyticaであるかを正確に鑑別することが診断上非常に重要になります。現在では、遺伝子検査(PCR法)などを用いることで、より正確な鑑別が可能になっています。

感染経路と感染源

赤痢アメーバ症は、主に感染者の糞便中に排出されたシストを口から摂取することによって感染します。これは「糞口感染」と呼ばれる主要な感染経路です。

どのような経路でうつる?感染源は?

最も一般的な感染経路は、シストで汚染された飲食物を摂取することです。

  • 汚染された水: シストは水道水程度の塩素濃度では死滅しないため、衛生管理が不十分な地域では、沸騰させていない水やその水で作られた氷などが感染源となります。
  • 汚染された食物: 感染者の糞便によって汚染された野菜(特に生野菜)や果物、加熱不十分な食品などが感染源となります。食品を取り扱う人の衛生状態が悪い場合も、食品が汚染されるリスクが高まります。

また、人から人への直接的な接触によっても感染が起こります。

  • 手指を介した感染: 感染者の便を処理した後などに適切に手洗いを行わなかった場合、手に付着したシストが口に入ることで感染します。特に乳幼児のおむつ交換など、介護の場面でも注意が必要です。
  • 性行為による感染: 特定の性行為、特にアナルセックスに関連して口に接触する行為(アニリンガス、リムジョブなど)は、糞便を介した直接的なシスト摂取のリスクが高いため、感染経路として重要です。

感染源は、主に赤痢アメーバのシストを排出しているヒトの糞便です。この中には、症状のある患者さんだけでなく、症状はないもののシストを排出している「無症状病原体保有者(キャリア)」も含まれます。キャリアからの感染も起こりうるため、公衆衛生上、キャリアの発見と治療も重要視されています。

性行為による感染について

赤痢アメーバ症は、性行為によって感染することがあります。特に男性同性間での感染が多く報告されています。これは、前述の通り、アナルセックスに関連する特定の性行為(アニリンガス、リムジョブなど)において、糞便中のシストが直接口に摂取されるリスクが高いためです。このような性行為は、感染経路として一般的な糞口感染を直接的に促進する形となります。

性行為による感染は、他の感染症と同様に、コンドームの使用などの予防策だけでは完全に防ぐことが難しい場合があります。性行為の前後における適切な手洗いや、性的パートナーの健康状態についての確認、不特定多数との性行為を避けるなどがリスク低減につながります。性行為に関連して消化器症状が現れた場合は、赤痢アメーバ症も考慮して医療機関を受診することが重要です。

海外渡航との関連

赤痢アメーバ症は、衛生環境が十分でない地域で感染するリスクが高い感染症です。そのため、開発途上国や衛生状態が懸念される地域への海外渡航は、赤痢アメーバ症の主要な感染機会の一つとなります。日本国内で報告される赤痢アメーバ症の多くは、海外渡航からの帰国者や、海外渡航者との関連が示唆されるケースです。

特に、以下の点に注意が必要です。

  • 生水や氷の摂取: 未殺菌の水や、その水で作られた氷は、シストで汚染されている可能性があります。ボトル入りの飲料水や、しっかり沸騰させた水を飲むようにしましょう。
  • 生野菜やカットフルーツ: 生の食品は、洗浄に使われた水や取り扱う人の衛生状態によって汚染されているリスクがあります。皮を自分でむいた果物や、十分に加熱された食品を選ぶ方が安全です。
  • 屋台や不衛生な飲食店: 衛生管理が徹底されていない場所での食事はリスクが高まります。信頼できる清潔な飲食店を利用しましょう。

海外渡航歴があり、帰国後に下痢などの消化器症状が出た場合は、赤痢アメーバ症を含む輸入感染症の可能性を考慮し、医療機関を受診する際に必ず渡航歴を伝えるようにしましょう。

赤痢アメーバ症の症状

赤痢アメーバ症の症状は非常に多様で、全く症状が出ない「無症状病原体保有者(キャリア)」から、重症の腸炎や腸管外病変まで様々です。

主な症状について

症状が出る場合、最も一般的なのはアメーバ性大腸炎です。これは大腸の粘膜にアメーバが侵入して炎症や潰瘍を引き起こすことによるものです。典型的な症状には以下のようなものがあります。

  • 下痢: 比較的緩やかに始まることが多いですが、悪化すると頻回になります。
  • 粘血便: 血や粘液が混じった便が出ることが特徴的です。これが「赤痢」と呼ばれるゆえんです。(ただし細菌性赤痢とは異なる病気です)
  • 腹痛: 特に下腹部に痛みを伴うことがあります。
  • しぶり腹(テネスムス): 便意があるのに少量しか出ず、残便感がある状態です。

これらの症状は、他の腸炎や感染性胃腸炎と似ているため、診断が遅れることもあります。細菌性赤痢のような激しい全身症状(発熱や強い腹痛)は比較的少なく、症状が軽度だったり、回復と悪化を繰り返したりすることもあります。

潜伏期間はどのくらい?

赤痢アメーバ症の潜伏期間は、数日から数週間、あるいは数ヶ月から数年と非常に幅広いです。これは、感染したアメーバの数や、宿主(感染した人)の免疫状態など、様々な要因によって異なるためです。典型的なアメーバ性大腸炎の場合、数週間程度の潜伏期間を経て症状が出ることが多いようです。しかし、長期間無症状のまま経過し、免疫力が低下した際などに初めて発症するというケースも報告されています。潜伏期間が長いことも、診断を難しくする一因となります。

腸管外アメーバ症(肝膿瘍など)

赤痢アメーバが腸管の壁を越えて他の臓器に運ばれ、病巣を作る状態を「腸管外アメーバ症」と呼びます。最も多いのがアメーバ性肝膿瘍です。これはアメーバが血流に乗って肝臓に達し、そこで増殖して膿の溜まり(膿瘍)を形成するものです。

アメーバ性肝膿瘍の主な症状は以下の通りです。

  • 発熱: 高熱が出ることが多いです。
  • 右上腹部の痛み: 肝臓のある部位に強い痛みが生じます。ときに右肩に痛みが放散することもあります。
  • 肝臓の腫れや圧痛: 触診で肝臓が腫れていたり、押すと痛んだりします。
  • 倦怠感、食欲不振

アメーバ性肝膿瘍は、しばしば腸管の症状(下痢や粘血便)を伴わないため、診断が遅れることがあります。発熱や右上腹部痛で受診した際に、過去の海外渡航歴などが重要な情報となります。

その他にも、稀ではありますが、肺、脳、皮膚などに病巣ができることもあります。これらの病変は、それぞれの臓器の機能障害に応じた症状を引き起こします。例えば、肺であれば咳や呼吸困難、脳であれば神経症状などです。腸管外アメーバ症は重症化しやすく、迅速な診断と治療が必要です。

無症状病原体保有者について

赤痢アメーバに感染しても、全く症状が出ない人を無症状病原体保有者(キャリア)と呼びます。キャリアは、腸管内でアメーバを保有・増殖させていますが、腸管組織への侵入がないため、大腸炎などの症状が現れません。

しかし、キャリアは便中にシストを排出しており、このシストが他の人への感染源となります。特に性行為による感染経路では、キャリアの存在が感染拡大に大きく関わっています。また、キャリアの状態であっても、何らかの要因(例:免疫力の低下、他の病気)によって、将来的に症状が出現し、アメーバ性大腸炎や腸管外病変を発症するリスクがあります。

日本国内で報告される赤痢アメーバ症の中には、症状のないキャリアの届け出も含まれています。感染症法に基づき、キャリアも届け出の対象となっており、感染拡大防止のために適切な指導や治療が行われる場合があります。

診断方法と検査

赤痢アメーバ症の診断は、患者さんの症状や病歴(海外渡航歴、性行為歴など)に加え、様々な検査結果を総合的に判断して行われます。

どのように診断される?

診断のプロセスは通常以下のようになります。

  1. 問診:
    • 現在の症状(下痢、粘血便、腹痛、発熱など)について詳しく聞かれます。
    • 症状が出始めた時期、頻度、性状などを確認します。
    • 重要なポイントとして、過去の海外渡航歴(特に途上国)や、性行為(特に特定の性行為)について尋ねられます。 これらは感染経路の特定に非常に役立ちます。
    • 同居家族や性的パートナーなど、周囲に同じような症状の人がいないかどうかも確認します。
    • 既往歴や服用中の薬、アレルギーについても確認します。
  2. 身体診察:
    • 腹部の状態(圧痛の有無、腫れなど)を確認します。
    • 腸管外アメーバ症(特に肝膿瘍)が疑われる場合は、右上腹部の圧痛や肝臓の腫れなどを確認します。
  3. 検査:
    • 問診や身体診察で赤痢アメーバ症が疑われた場合、診断を確定するために特定の検査が行われます。

これらの情報を合わせて、医師は赤痢アメーバ症の可能性を判断し、確定診断のために必要な検査を選択します。

主な検査方法の種類

赤痢アメーバ症の診断には、主に以下の検査が用いられます。

検査方法 検体 検査でわかること 特徴・補足
糞便検査(顕微鏡検査) 糞便 糞便中の赤痢アメーバのシストや栄養型を直接検出します。活動期の栄養型は下痢便で、シストは形成された便で見つかりやすいです。 最も基本的で重要な検査です。ただし、採取のタイミングや検体の状態、検査技師の熟練度によって検出率が変わります。病原性のないアメーバとの鑑別が重要です。
糞便検査(PCR法) 糞便 糞便中の赤痢アメーバ(Entamoeba histolytica)のDNAを検出します。病原性のないアメーバ(E. disparなど)と正確に鑑別できます。 検出感度が高く、より正確な診断が可能です。シストと栄養型の両方を検出できます。国内では実施可能な医療機関が限られる場合があります。
血清抗体検査 血液 血液中に赤痢アメーバに対する抗体があるかを調べます。主に腸管外アメーバ症(肝膿瘍など)の診断に有用です。アメーバ性大腸炎でも陽性になることがあります。 感染初期には抗体が検出されないことがあります。治療後も長期間抗体が陽性を示すため、現在の感染を証明する検査ではありません(特に過去に感染したことがある場合)。無症状キャリアでは陰性のことが多いです。
内視鏡検査 大腸粘膜 大腸の粘膜を直接観察し、特徴的な潰瘍(ボタン穴状など)を確認します。必要に応じて組織を採取し、顕微鏡で栄養型を検出したり、病理検査を行います。 症状の程度や範囲を確認できます。他の大腸疾患との鑑別にも役立ちます。
画像検査(超音波検査、CT検査、MRI検査) 腹部 主に腸管外アメーバ症(特に肝膿瘍)の存在、位置、大きさなどを評価します。 肝膿瘍の診断に非常に有用です。他の原因による膿瘍や腫瘍との鑑別にも役立ちます。

これらの検査を組み合わせて、赤痢アメーバ症の診断を確定し、病変の広がりや重症度を評価します。特に糞便の顕微鏡検査は手軽に行えますが、見落としのリスクもあるため、PCR法や抗体検査、必要に応じて内視鏡検査や画像検査が補助的に用いられます。

治療法と治療薬

赤痢アメーバ症の治療は、病原体である赤痢アメーバを体から排除すること、そして症状を緩和することを目的に行われます。病変が腸管内にとどまっているか、腸管外に及んでいるかによって、使用される薬剤や治療期間が異なります。

標準的な治療法

赤痢アメーバ症の治療は、主に薬物療法で行われます。病変がある場所によって、使用する薬剤が分けられます。

  1. 組織内栄養型に対する薬剤: 腸管粘膜や腸管外臓器(肝臓など)に侵入した栄養型を殺滅する薬剤です。
  2. 腸管内シストに対する薬剤: 腸管内に存在するシストや栄養型の一部を殺滅し、シストの排出を止める薬剤です。無症状キャリアの治療にも用いられます。

一般的には、症状のあるアメーバ性大腸炎や腸管外アメーバ症では、まず組織内栄養型に有効な薬剤で集中的に治療を行い、その後、腸管内シストに対する薬剤で残存するアメーバを完全に駆除するという二段階の治療が行われることが多いです。無症状病原体保有者の場合は、シストを排出しているため、主に腸管内シストに対する薬剤が用いられます。

主な治療薬の種類

赤痢アメーバ症の治療に用いられる代表的な薬剤は以下の通りです。

薬剤の種類 主な作用 対象となるアメーバ形態 特徴・注意点
メトロニダゾール 組織内殺アメーバ作用 組織内の栄養型 アメーバ性大腸炎や腸管外アメーバ症(肝膿瘍など)の第一選択薬です。高い有効性がありますが、消化器症状(吐き気、嘔吐)、金属味、まれに末梢神経障害などの副作用があります。アルコールとの併用で悪心・嘔吐が起こることがあるため注意が必要です。
チニダゾール 組織内殺アメーバ作用 組織内の栄養型 メトロニダゾールと同様の作用を持つ薬剤です。効果や副作用の傾向も似ています。メトロニダゾールが効きにくい場合や副作用が出やすい場合に用いられることがあります。
パロモマイシン 腸管内殺アメーバ作用 腸管内のシスト、一部の栄養型 腸管内で吸収されにくいため、主に腸管内のアメーバに作用します。無症状病原体保有者の治療や、メトロニダゾールなどで組織内のアメーバを駆除した後の仕上げの治療として用いられます。アミノグリコシド系抗生物質であり、腎障害や聴覚障害には注意が必要です。
ヨードキノール 腸管内殺アメーバ作用 腸管内のシスト、一部の栄養型 パロモマイシンと同様に腸管内で作用する薬剤です。日本ではあまり使用されませんが、海外では用いられます。
テトラサイクリン系 副次的な効果 特定の状況下で栄養型に効果あり 単独での使用は推奨されず、他の薬剤と併用して使用されることがあります。

これらの薬剤は医師の処方が必要であり、用法・用量を守って正しく服用することが重要です。自己判断で服用したり、途中でやめたりすることは避けましょう。

治療期間と予後

適切な診断と治療が行われれば、赤痢アメーバ症は通常完治します

  • アメーバ性大腸炎: 典型的な治療期間は、メトロニダゾールなどで7~10日、その後パロモマイシンなどで7日間程度です。症状は数日以内に改善することが多いです。
  • アメーバ性肝膿瘍: メトロニダゾールなどで10日以上の治療が必要です。大きな膿瘍の場合は、薬物療法に加えて、穿刺排膿が必要になることもあります。治療開始後、熱や痛みは比較的速やかに改善することが多いですが、膿瘍の縮小には時間がかかります。その後、腸管内シストの駆除のためにパロモマイシンなどによる治療を行います。
  • 無症状病原体保有者: パロモマイシンなどで7日間程度の治療が行われます。

治療終了後、アメーバが完全に駆除されたかを確認するために、再度糞便検査が行われることがあります。

予後については、早期に発見されて適切な治療が行われれば良好です。しかし、診断や治療が遅れた場合、アメーバ性大腸炎が重症化して穿孔(腸に穴が開く)を起こしたり、中毒性巨大結腸症(大腸が著しく拡張し、生命に関わる状態)に至ったり、あるいは腸管外病変が広範囲に及んだりすると、重篤な合併症を引き起こし、生命に関わることもあります。特に肝膿瘍は比較的多い腸管外病変ですが、適切な治療を行わないと破裂して腹膜炎などを起こすリスクがあります。

「治らない」と感じるケースについて

適切な治療を受けたにも関わらず、「症状が改善しない」「また症状が出てきた」「治らないのではないか」と感じるケースが稀にあります。これにはいくつかの理由が考えられます。

  1. 再感染: 治療によって体内のアメーバが駆除されても、感染源(汚染された飲食物、性的パートナーなど)から再びシストを取り込んでしまい、再感染を起こすことがあります。特に性行為による感染が繰り返される場合、治療してもすぐに再感染してしまう可能性があります。
  2. 病原性のないアメーバとの誤診: 糞便検査で病原性のないEntamoeba disparなどを病原性のあるEntamoeba histolyticaと誤診し、不必要な治療を行っている場合、当然症状は改善しません。(そもそも症状がアメーバとは別の原因である可能性が高い)
  3. 不適切な治療: 使用された薬剤がアメーバに効果がなかった、薬剤の量や期間が不十分だった、組織内栄養型と腸管内シストの両方に対する治療が行われなかった、といった場合に、アメーバが完全に駆除されないことがあります。
  4. 合併症や他の疾患: アメーバ性大腸炎の治療後に、過敏性腸症候群のような機能性疾患や、他の原因による腸炎などが併存しているために症状が続くことがあります。また、腸管外病変が見落とされている可能性もあります。
  5. 診断の遅れと組織の損傷: 長期間にわたってアメーバが腸管組織に侵入し、広範囲に損傷を与えている場合、アメーバが駆除されても組織の修復に時間がかかり、症状が遷延することがあります。

もし治療を受けても症状が改善しない、あるいは再発した場合は、必ず主治医に相談し、再検査や診断の再検討、治療法の見直しを行う必要があります。自己判断で治療を中断したり、市販薬で対処したりすることは避けましょう。

予防策

赤痢アメーバ症は、適切な予防策を講じることで感染リスクを大幅に減らすことができます。特に、感染リスクの高い地域への渡航時や、感染が疑われる状況においては、以下の点に注意が必要です。

感染を防ぐためにできること

赤痢アメーバ症の主要な感染経路は糞口感染であるため、予防の基本は衛生管理の徹底です。

  1. 手洗い:
    • 食事の前、調理の前、トイレの後、おむつ交換の後などには、石鹸と流水で十分に手洗いをしましょう。
    • 特に海外渡航時など、清潔な水が得られない状況では、アルコールベースの手指消毒剤も有効です。(ただし、シストに対してはアルコールはあまり効果がないため、可能な限り石鹸と流水での手洗いが必要です。)
  2. 飲食物への注意:
    • 生水や氷の摂取を避ける: 未殺菌の水道水、井戸水、川の水などをそのまま飲むのは危険です。ボトル入りの飲料水や、十分に沸騰させた水を飲みましょう。氷も、安全な水で作られたか不明な場合は避けましょう。
    • 生ものや加熱不十分な食品を避ける: 特に海外では、生野菜、皮をむいていない果物、加熱不十分な肉や魚介類、屋台の食品などは避けた方が無難です。「Boil it, cook it, peel it, or forget it(煮るか、焼くか、皮をむくか、あきらめるか)」という海外渡航時の食中毒予防の格言は、赤痢アメーバ症にも当てはまります。
    • 清潔な環境で調理され、十分に加熱された食品を選びましょう。
  3. 性行為における注意:
    • 特定の性行為(アナルセックスに伴うオーラルセックスなど)は、感染リスクが高いことを認識しましょう。
    • 性行為の前後には、手や性器を清潔に保つよう心がけましょう。
    • 性的パートナーが無症状キャリアである可能性も考慮し、感染リスクの高い性行為については十分な注意が必要です。

これらの予防策は、赤痢アメーバ症だけでなく、他の多くの経口感染症や性感染症の予防にも有効です。

海外渡航時の注意点

赤痢アメーバ症は開発途上国で特に流行しているため、これらの地域へ渡航する際には、普段以上に慎重な予防策が必要です。

  • 渡航先の衛生情報を確認する: 渡航先の水質や食品衛生に関する情報を事前に確認し、リスクを把握しておきましょう。
  • 飲料水に注意する: 基本的にはボトル入りの水を利用し、開封済みのものではなく、自分で封を開けるものを選びましょう。レストランなどでも、氷なしのボトル入り飲料水を注文するのが安全です。水の沸騰が難しい場合は、携帯用浄水器や塩素系の消毒剤などを利用する方法もあります。
  • 食事に注意する: 十分に加熱された温かい料理を選びましょう。サラダなどの生野菜、カットフルーツ、屋台の食品、生の魚介類、未殺菌の乳製品などは避けた方が賢明です。皮のついた果物は、自分で皮をむいて食べるのが比較的安全です。
  • 手洗いを徹底する: 食事の前など、こまめに手洗いをしましょう。石鹸がない場合や水が清潔でない場合は、携帯用アルコールベース手指消毒剤を利用します。(ただし、シストへの効果は限定的であることに留意)
  • 症状が出たら医療機関を受診する: 渡航中や帰国後に下痢や腹痛などの症状が出た場合は、「いつから、どのような症状か」「どこへ渡航したか」「どのような飲食物を摂取したか」「どのような性行為があったか」といった情報を正確に医師に伝え、早期に適切な診断・治療を受けましょう。

海外渡航を計画している方は、出発前に渡航先の感染症情報を厚生労働省検疫所のウェブサイトなどで確認し、必要に応じて予防接種や薬剤の準備について医療機関に相談することも検討しましょう。

日本における赤痢アメーバ症の現状

赤痢アメーバ症は、日本では比較的稀な感染症ですが、年間一定数の報告があります。感染症法上の位置づけや届出状況、致死率について理解しておくことは、国内での感染予防や早期発見のために役立ちます。

届出状況と感染症法上の位置づけ

赤痢アメーバ症は、感染症法において五類感染症に位置づけられており、診断した医師は最寄りの保健所に全数届出を行う義務があります。これは、赤痢アメーバ症が公衆衛生上重要な疾患であり、感染拡大を防ぐための対策が必要であるとされているためです。届出の対象には、症状のある患者さんだけでなく、症状はないものの糞便中にシストを排出している無症状病原体保有者(キャリア)も含まれます。

厚生労働省の感染症発生動向調査によると、日本国内の赤痢アメーバ症の報告数は、年間数百件程度で推移しています。増加傾向にあるとも指摘されており、国内での感染機会が増えている可能性が示唆されています。

致死率について

赤痢アメーバ症の致死率は、適切な診断と治療が行われた場合には非常に低いです。しかし、診断が遅れたり、重症化して腸管穿孔や中毒性巨大結腸症、あるいはアメーバ性肝膿瘍が破裂するといった重篤な合併症を起こしたりした場合には、生命に関わることもあります。特に、免疫力が低下している高齢者や基礎疾患を持つ方、あるいは乳幼児などでは重症化リスクが高まる可能性があります。

早期に症状を認識し、医療機関を受診して適切な治療を受けることが、重症化や死亡を防ぐ上で最も重要です。また、無症状キャリアであっても、将来的な発症リスクや感染拡大のリスクがあるため、保健所の指導のもとで適切な対応をとることが推奨されます。

信頼できる医療機関の受診を

下痢、粘血便、腹痛といった消化器症状が続いたり、発熱や右上腹部痛があり海外渡航歴がある場合は、赤痢アメーバ症の可能性も考慮し、早期に医療機関を受診することが非常に重要です。

症状が出た場合の早期受診の重要性

赤痢アメーバ症は、放置すると症状が悪化したり、腸管穿孔や肝膿瘍などの重篤な合併症を引き起こしたりする可能性があります。早期に診断を受けて適切な治療を開始すれば、速やかに症状が改善し、後遺症を残さずに治癒することが期待できます。

特に、以下のような状況に当てはまる場合は、速やかに医療機関を受診しましょう。

  • 海外(特に衛生状態が懸念される地域)への渡航歴がある。
  • 特定の性行為(アナルセックスに関連するオーラルセックスなど)の経験がある。
  • 血や粘液が混じった便が出る。
  • 激しい腹痛や発熱を伴う。
  • 症状が長期間続く、あるいは改善と悪化を繰り返す。
  • 右上腹部の強い痛みや発熱がある(肝膿瘍の可能性)。

相談すべき診療科

赤痢アメーバ症が疑われる場合、まずは消化器内科を受診するのが一般的です。下痢や腹痛、粘血便といった腸管症状を専門とする診療科であり、必要な糞便検査や内視鏡検査などを行うことができます。

もし発熱や右上腹部痛が強く、肝膿瘍などが疑われる場合は、消化器内科の中でも肝臓を専門とする医師、あるいは総合内科や感染症科のある病院を受診することも検討できます。

医療機関を受診する際には、医師に症状だけでなく、海外渡航歴や性行為歴を正直に伝えることが、正確な診断につながる上で非常に重要です。恥ずかしいと感じるかもしれませんが、これらの情報は診断の鍵となることが少なくありません。

また、無症状病原体保有者であることが判明した場合は、保健所から指示や情報提供があるはずです。その指示に従い、必要に応じて医療機関で治療や健康管理について相談しましょう。

シアリスED治療薬について よくある質問

本記事は赤痢アメーバ症について解説していますが、SEOの構成を参考にさせて頂いた元の記事がシアリスに関するものでしたので、ここでは赤痢アメーバ症に関するよくある質問にお答えします。

Q: 赤痢アメーバ症は自然治癒しますか?

A: 赤痢アメーバ症は、自然に治癒することはほとんど期待できません。特に症状がある場合は、放置すると病状が進行し、重篤な合併症を引き起こすリスクがあります。無症状病原体保有者(キャリア)の場合でも、体内にアメーバを保有し続け、他の人への感染源となったり、将来的に発症したりする可能性があります。したがって、症状の有無にかかわらず、診断された場合は必ず医療機関で適切な治療を受ける必要があります。

Q: 感染しても症状が出ないことはありますか?

A: はい、赤痢アメーバに感染しても症状が出ない「無症状病原体保有者(キャリア)」の状態になることがあります。キャリアは、体内にアメーバを保有・排泄していますが、自覚症状がありません。しかし、便中にシストを排泄するため、他の人への感染源となります。特に日本国内での感染拡大においては、キャリアの存在が重要視されています。

Q: 再感染することはありますか?

A: はい、赤痢アメーバ症は再感染する可能性があります。治療によって体内のアメーバが駆除されても、再びシストを摂取する機会があれば、何度でも感染します。特に衛生環境が不十分な地域に頻繁に渡航する方や、性行為による感染を繰り返すリスクのある方は、再感染に注意が必要です。治療終了後も、予防策を継続することが大切です。

Q: 検査はどこで受けられますか?

A: 赤痢アメーバ症の検査は、主に消化器内科などの医療機関で受けることができます。症状がある場合は、かかりつけ医や近くの病院の消化器内科を受診し、医師に相談してください。必要に応じて、糞便検査(顕微鏡検査、PCR法)、血液検査、内視鏡検査などが実施されます。海外渡航歴や性行為歴がある場合は、必ず医師に伝えてください。

Q: 治療中に注意することは?

A: 赤痢アメーバ症の治療中は、医師から処方された薬剤の用法・用量を守って、指示された期間しっかりと服用することが最も重要です。自己判断で中断すると、アメーバが完全に駆除されず、再発や耐性獲得のリスクが高まります。また、薬剤によってはアルコールとの併用を避ける必要がある場合もありますので、医師や薬剤師の指示に従ってください。症状が改善しても、アメーバが完全にいなくなるまで治療を続けることが肝心です。さらに、他の人への感染を防ぐために、手洗いなどの衛生管理をより一層徹底することも重要です。性行為による感染の場合は、パートナーの検査・治療も同時に行うことが再感染を防ぐ上で非常に重要になります。

【まとめ】赤痢アメーバ症の予防と早期受診を

赤痢アメーバ症は、Entamoeba histolyticaという原虫によって引き起こされる感染症です。主な感染経路は、シストで汚染された飲食物の摂取や、特定の性行為による糞口感染です。症状は無症状から、下痢、粘血便、腹痛を伴うアメーバ性大腸炎、さらには発熱や右上腹部痛を伴うアメーバ性肝膿瘍といった重症例まで様々です。

診断は、問診、身体診察に加え、糞便検査(顕微鏡検査、PCR法)、血液検査、内視鏡検査、画像検査などを組み合わせて行われます。特に海外渡航歴や性行為歴は診断の重要な手がかりとなります。治療は、病変の部位に応じてメトロニダゾールやパロモマイシンなどの薬剤が用いられ、適切な治療により多くの場合完治します。

しかし、診断や治療が遅れると重篤な合併症を引き起こすリスクがあり、また再感染の可能性もあるため注意が必要です。赤痢アメーバ症から身を守るためには、日頃からの手洗いを含む衛生管理の徹底、特に海外渡航時における飲食物への注意が不可欠です。また、性行為による感染リスクについても正しく理解し、予防策を講じることが重要です。

もし下痢や粘血便、腹痛などの症状が現れた場合は、「赤痢アメーバ症かもしれない」と疑い、特に海外渡航歴や特定の性行為歴がある場合は、速やかに消化器内科などの医療機関を受診し、正直に情報を提供して医師に相談しましょう。早期に適切な診断と治療を受けることが、自身の健康を守り、周囲への感染拡大を防ぐ上で最も重要な行動です。無症状病原体保有者であっても、感染症法に基づき届け出が必要であり、保健所や医療機関の指導に従うことが推奨されます。


免責事項: 本記事は赤痢アメーバ症に関する一般的な情報提供を目的としており、医療行為や個別の診療の代替となるものではありません。症状がある場合や、ご自身の健康状態についてご心配な場合は、必ず医師や専門家にご相談ください。記事の内容を根拠とした自己判断や治療は行わないでください。

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