おりものが増えたり、デリケートゾーンにかゆみを感じたりすると、「何か病気かもしれない」と不安になりますよね。その症状、もしかしたらトリコモナス腟炎かもしれません。
トリコモナス腟炎は、性行為感染症(性病)の一つですが、性行為以外の経路で感染することもあります。この記事では、トリコモナス腟炎の具体的な症状や原因、検査、そして正しい治療法について詳しく解説します。症状に心当たりがある方や、パートナーが診断された方は、ぜひ参考にしてください。
トリコモナス腟炎の症状とは?
トリコモナス腟炎に感染すると、おりものやデリケートゾーンに特徴的な症状が現れることがあります。しかし、感染しても症状が出ない場合も多く、注意が必要です。
特徴的なおりもの(色、泡状、匂い)
トリコモナス腟炎の最も典型的な症状は、おりものの変化です。
- 色: 黄色〜薄緑色がかった色になることがあります。
- 状態: 細かい泡が混じった、いわゆる「泡状」のおりものが出ることが特徴的です。
- 匂い: 生臭いような、強い悪臭を放つことがあります。
- 量: おりものの量が普段より明らかに増えます。
外陰部のかゆみや痛み
おりものの変化に加えて、外陰部に強いかゆみや、ヒリヒリとした痛み(灼熱感)を感じることがあります。腟内やその周辺が炎症を起こすためです。
その他の症状
他にも、以下のような症状が現れることがあります。
- 性交時痛
- 排尿時の痛み
- 下腹部痛
- 頻尿
これらの症状は、膀胱炎や他の病気と間違われることもあります。
無症状の場合もある?
トリコモナス腟炎は、感染しても症状が全く出ない「無症候性キャリア」が20%〜50%もいると言われています。特に男性はほとんどが無症状です。
症状がないからといって安心はできません。無症状でも他の人に感染させてしまう可能性があるため、パートナーが感染した場合は、自分に症状がなくても必ず検査・治療を受ける必要があります。
カンジダとの違い
デリケートゾーンのかゆみやおりものの異常でよく知られている病気に「腟カンジダ症」があります。トリコモナス腟炎と症状が似ている点もありますが、下記のような違いがあります。
項目 | トリコモナス腟炎 | 腟カンジダ症 |
---|---|---|
原因 | トリコモナス原虫(寄生虫) | カンジダ菌(真菌・カビの一種) |
おりもの | ・黄色〜薄緑色 ・泡立っている ・強い悪臭 |
・白く、カッテージチーズ状、酒粕状 ・ヨーグルトのような甘酸っぱい匂い(無臭も) |
かゆみ | 強いかゆみ | 非常に強いかゆみ |
感染経路 | 主に性行為 | 常在菌の異常増殖 |
治療薬 | 抗トリコモナス薬(処方薬のみ) | 抗真菌薬(市販薬あり) |
自己判断は難しく、誤ったケアは症状を悪化させる可能性もあるため、必ず婦人科を受診して正しい診断を受けましょう。
トリコモナス腟炎の原因と感染経路
なぜトリコモナス腟炎になってしまうのでしょうか。その原因となる病原体と、主な感染ルートについて解説します。
トリコモナス原虫について
トリコモナス腟炎の原因は、「トリコモナス原虫」という、非常に小さな寄生虫です。この原虫が腟内や尿道、膀胱などに寄生することで炎症を引き起こします。
主な感染経路(性行為感染症)
最も多い感染経路は、トリコモナス原虫を持つ人との性行為(オーラルセックスやアナルセックスを含む)です。コンドームを使用しない性行為は感染リスクが非常に高くなります。症状がないパートナーから感染することも多いため、注意が必要です。
性行為以外の感染リスク
トリコモナス原虫は、湿った環境であれば数時間生存できることがあります。そのため、確率は低いものの、性行為以外で感染する可能性もゼロではありません。
- 感染者が使用したタオルや下着の共有
- 公衆浴場や温泉、プールの椅子や床
- 衛生状態が良くないトイレの便座
ただし、これらはあくまで可能性であり、主な感染原因は性行為です。過度に心配する必要はありませんが、基本的な衛生管理は大切です。
心当たりがない場合の可能性
「性行為の経験がないのに症状がある」「長い間パートナーは一人だけなのに」と不思議に思う方もいるかもしれません。
その場合、以下のような可能性が考えられます。
- 過去の感染が潜伏していた: 過去に感染し、無症状のまま何年も経過した後に、体の抵抗力が落ちたタイミングなどで発症することがあります。
- パートナーが気づかないうちに感染していた: パートナー自身も無症状のため、感染に気づかずにうつしてしまった可能性があります。
- 性行為以外の経路で感染した: 上記で述べたような、稀なケースで感染した可能性も考えられます。
心当たりがない場合でも、症状があればまずは検査を受けることが重要です。
トリコモナス腟炎の検査と診断
トリコモナス腟炎が疑われる場合、産婦人科や婦人科、性感染症内科などで検査を受けます。
診断方法
一般的には、腟内のおりものを綿棒で採取し、それを顕微鏡で観察して動いているトリコモナス原虫を確認する「鏡検法」が行われます。その場ですぐに結果がわかることが多い、 간단な検査です。
原虫が見つからない場合でも、症状などから感染が強く疑われる場合は、おりものを培養して調べる「培養法」や、遺伝子を検出する「核酸増幅法(PCR法)」といった、より精度の高い検査を追加で行うこともあります。
検査の流れ
- 問診: どのような症状があるか、いつから始まったかなどを医師に伝えます。
- 内診: 診察台に上がり、医師が腟内の状態を観察します。
- おりものの採取: 細い綿棒などで、腟内のおりものを少量採取します。痛みはほとんどありません。
- 診断: 採取したおりものを顕微鏡で調べ、原虫の有無を確認します。
検査は数分で終わります。不安や緊張があると思いますが、リラックスして受診しましょう。
トリコモナス腟炎の治療法
トリコモナス腟炎は、適切な薬を使用すれば完治できる病気です。
基本的な治療薬(内服薬・膣錠)
治療には、トリコモナス原虫に効果のある抗トリコモナス薬(メトロニダゾールやチニダゾールなど)が使われます。
基本的には、経口薬(飲み薬)を7〜10日間服用します。症状が強い場合は、飲み薬とあわせて腟内に直接挿入する腟錠が処方されることもあります。
医師の指示通りに、必ず最後まで薬を飲み切ることが大切です。症状が途中で軽快しても、自己判断で服用を中止すると再発の原因になります。
パートナーの治療について
トリコモナス腟炎の治療で最も重要なのは、パートナーも同時に治療することです。
自分が治療して治っても、パートナーが感染したままだと、性行為によって再び感染してしまいます。これを「ピンポン感染」と呼びます。
男性は無症状のことが多いため、感染に気づいていないケースがほとんどです。あなたがトリコモナス腟炎と診断されたら、必ずパートナーにも伝えて、症状がなくても一緒に検査・治療を受けてもらうようにしましょう。
トリコモナス腟炎に市販薬は使える?
トリコモナス腟炎に効く市販薬はありません。
ドラッグストアで販売されている腟カンジダの薬などを自己判断で使用しても、トリコモナス腟炎は治りません。それどころか、症状を悪化させたり、正しい診断を遅らせたりする原因になります。必ず医療機関を受診し、処方された薬で治療してください。
自然治癒は期待できる?
トリコモナス腟炎が自然に治ることはありません。
放置しても治ることはなく、症状が悪化したり、他の合併症を引き起こしたりするリスクがあります。必ず治療が必要です。
トリコモナス腟炎を放置するリスク
「症状が軽いから」「恥ずかしいから」といった理由で受診をためらい、トリコモナス腟炎を放置すると、様々なリスクがあります。
症状の悪化
かゆみや痛み、悪臭などの不快な症状が慢性化し、日常生活に支障をきたすことがあります。
不妊や流産への影響
炎症が腟から子宮、卵管へと広がる「上行性感染」を起こす可能性があります。これにより、子宮内膜炎や卵管炎を引き起こし、不妊症や子宮外妊娠の原因になることがあります。
また、妊娠中に感染すると、絨毛膜羊膜炎などを引き起こし、早産や流産のリスクを高めることが指摘されています。
他の性感染症との関連
トリコモナス腟炎によって腟内の粘膜が傷つくと、防御機能が低下し、HIV(エイズ)やクラミジア、淋菌といった他の性感染症にもかかりやすくなります。
トリコモナス腟炎の予防と注意点
トリコモナス腟炎は予防が可能であり、治療後の再感染にも注意が必要です。
予防策
最も確実な予防法は、性行為の際に最初から最後まで正しくコンドームを使用することです。
また、不特定多数との性交渉を避けることも重要な予防策となります。タオルや下着の共有を避けるなど、基本的な衛生管理も心がけましょう。
治療後の再感染
治療が終わった後も、パートナーが未治療であればピンポン感染によって再発します。必ずパートナーと同時に治療を完了させることが大切です。
また、治療が完了したことを確認するために、医師の指示に従って再検査を受けるようにしましょう。治療期間中は、感染を広げないためにも性行為は控えてください。
まとめ
トリコモナス腟炎は、特有のおりものの変化やかゆみを引き起こす性感染症ですが、無症状の場合も多くあります。自然に治ることはなく、放置すると不妊などの深刻なリスクにつながる可能性があるため、早期発見・早期治療が非常に重要です。特に、パートナーと同時に治療を行うことが完治の鍵となります。
デリケートゾーンの異常を感じたら、ためらわずに婦人科を受診してください。免責事項
本記事は情報提供を目的としており、医学的な診断や治療に代わるものではありません。症状がある場合は、必ず専門の医療機関にご相談ください。