デリケートな部分に、しこりのようなものができて「これって何だろう?」と不安に思っていませんか。それは「バルトリン腺嚢胞」かもしれません。痛みがないと、つい様子を見てしまいがちですが、バルトリン腺嚢胞をほっとくとどうなるのでしょうか。
放置することで症状が悪化したり、再発を繰り返したりする可能性もあります。この記事では、バルトリン腺嚢胞の基本から、放置した場合のリスク、病院に行くべき目安、治療法までを詳しく解説します。一人で悩まず、正しい知識を得て適切な対処をしましょう。
バルトリン腺嚢胞とは?まずは基本を知ろう
バルトリン腺嚢胞(のうほう)とは、膣の入り口付近にある「バルトリン腺」という器官の出口が何らかの原因で詰まり、分泌液が排出されずに溜まって袋状に腫れてしまう状態を指します。
バルトリン腺は、性交時などに潤滑液を分泌する役割を持っています。この出口が詰まることで、分泌液が内部に溜まり、米粒大から鶏卵大、時にはそれ以上に腫れることがあります。通常、嚢胞の段階では痛みはほとんどありませんが、違和感や異物感を覚えることが多いです。
バルトリン腺嚢胞をほっとくとどうなる?考えられるリスク
痛みがないからといってバルトリン腺嚢胞を放置すると、様々なリスクが考えられます。
膿瘍(のうよう)への進行と激しい痛み
バルトリン腺嚢胞を放置する最大のリスクは、細菌感染を起こしてバルトリン腺膿瘍(のうよう)に進行することです。嚢胞の中に膿が溜まると、以下のような激しい症状が現れます。
- 強い痛み: 腫れている部分が赤く熱を持ち、ズキズキと脈打つように痛む。
- 歩行困難: 歩いたり、座ったりするのもつらくなるほどの痛み。
- 発熱: 38度以上の高熱が出ることがある。
こうなると、日常生活に大きな支障をきたし、早急な医療処置が必要になります。
腫れが大きくなり日常生活に支障をきたす
感染を起こさなくても、嚢胞が徐々に大きくなることがあります。腫れが大きくなると、下着との摩擦で違和感が生じたり、性交時に痛みを感じたり、椅子に座る際に圧迫感を覚えたりするなど、生活の質(QOL)が低下する可能性があります。
自然に破裂した場合の注意点
嚢胞が大きくなり、皮膚が薄くなると、何かの拍子に自然に破裂(自壊)することがあります。破裂して内容物が出てしまえば、一時的に腫れは引いて楽になります。
しかし、これは根本的な解決ではありません。嚢胞の袋自体は残っているため、出口が再び塞がればまた液体が溜まり、再発する可能性が高いです。また、破裂した部分から細菌が侵入し、感染を起こすリスクもあります。
完治しない可能性と再発のリスク
放置したり、自然破裂に任せたりすると、バルトリン腺嚢胞は再発を繰り返しやすい状態になります。何度も再発を繰り返すと、治療が複雑になったり、より大掛かりな手術が必要になったりすることもあります。
バルトリン腺嚢胞は勝手に治る?自然治癒について
「病院に行くのは恥ずかしいし、できれば自然に治ってほしい」と思いますよね。バルトリン腺嚢胞が自然に治癒する可能性はあるのでしょうか。
軽度の場合と経過観察
嚢胞が小さく、痛みや違和感などの症状が全くない軽度の場合は、自然に小さくなったり、吸収されてなくなったりすることもあります。そのため、医師の判断で経過観察となることもあります。
自己判断の危険性:安易な放置は禁物
ただし、「症状がないから大丈夫」と自己判断で放置するのは非常に危険です。自分では軽度だと思っていても、いつ感染を起こして膿瘍化するかわかりません。また、非常に稀ですが、他の病気(悪性腫瘍など)の可能性もゼロではありません。まずは一度、産婦人科を受診して、医師の診断を仰ぐことが重要です。
自分で針などで膿を出しても良い?危険な自己処置について
「自分で針を刺して内容物を出せば治るのでは?」と考える方がいるかもしれませんが、絶対にやめてください。
自分で処置することの感染リスク
家庭にある針などは清潔ではなく、自分で穿刺することで皮膚のバリアを破壊し、そこから細菌が侵入するリスクが非常に高まります。安全に排膿できるどころか、かえって感染を誘発し、症状を悪化させる原因になります。
症状悪化や合併症の可能性
不適切な自己処置は、バルトリン腺膿瘍を引き起こすだけでなく、周りの組織にまで炎症を広げてしまう可能性があります。また、傷跡が残ってしまったり、治療がより困難になったりすることもあります。自分で処置することは百害あって一利なしです。
バルトリン腺嚢胞の治療法
病院では、症状や嚢胞の大きさ、再発の頻度などに応じて、以下のような治療が行われます。
薬による治療(抗生物質など)
感染を起こしてバルトリン腺膿瘍になっている場合や、感染の兆候がある場合には、抗生物質の内服薬が処方されます。痛みが強い場合は、鎮痛剤も併用します。
穿刺(せんし)・切開による排膿
膿瘍化して痛みや腫れが強い場合、局所麻酔をして注射針で内容物を吸引する穿刺や、メスで小さく切開して膿を出す切開排膿が行われます。これにより、圧迫が解消され、痛みは劇的に改善します。ただし、これらは一時的な処置であり、切開した部分がすぐに塞がってしまうと再発のリスクがあります。
バルトリン腺造袋術(ぞうたいじゅつ):根本的な手術治療
バルトリン腺嚢胞や膿瘍を何度も繰り返す場合に行われる、根本的な治療法です。局所麻酔下で嚢胞を数センチ切開し、袋の内部と皮膚を縫い合わせることで、常に分泌物の出口が開いた状態を作ります。これにより、液体が溜まらなくなり、再発を大幅に防ぐことができます。日帰りまたは短期入院で行われることが多い手術です。
その他(漢方薬、温湿布など)の効果と限界
体質改善を目的として漢方薬が処方されたり、血行を良くするために温湿布(温めること)が勧められたりすることがあります。これらはあくまで補助的な役割であり、根本的な治療ではありません。特に膿瘍化して熱を持っている場合に温めるのは逆効果になることもあります。必ず医師の指示に従いましょう。
病院に行くべき目安・タイミング
以下のような症状があれば、早めに医療機関を受診してください。
痛みや腫れがある場合
しこりに少しでも痛みを感じる、赤みや熱を持っている場合は、感染を起こしている可能性があります。放置すると激痛になる前に受診しましょう。
日常生活に影響が出ている場合
歩く、座る、自転車に乗る、性交時などに違和感や痛みがあり、日常生活に支障を感じる場合は、治療によって改善できる可能性が高いです。
症状が続く場合
痛みがなくても、しこりがなくならない、または徐々に大きくなっていると感じる場合は、一度専門医の診察を受けましょう。
何科を受診すべき?(産婦人科)
バルトリン腺嚢胞の診断・治療は産婦人科または婦人科の専門です。「こんなことで受診していいのかな」とためらわずに、気軽に相談してください。
バルトリン腺嚢胞の原因は?
バルトリン腺嚢胞の明確な原因は完全にはわかっていませんが、以下のような要因が関係していると考えられています。
ストレスとの関連性
過労やストレス、睡眠不足などで体の免疫力が低下すると、細菌に対する抵抗力が弱まり、感染を起こしやすくなることがあります。
性行為との関連性(うつるか心配な方へ)
バルトリン腺嚢胞そのものは、性感染症ではなく、パートナーにうつる病気ではありません。
ただし、性行為による刺激でバルトリン腺の開口部付近に炎症が起きたり、手指やコンドームなどに付着した細菌(大腸菌やブドウ球菌など)が開口部から侵入したりすることが、感染の引き金になる場合はあります。
バルトリン腺嚢胞の予防法
バルトリン腺嚢胞を完全に予防する方法はありませんが、リスクを減らすために日常生活で以下の点を心がけると良いでしょう。
- デリケートゾーンを清潔に保つ: ただし、洗いすぎは逆効果です。優しく洗浄しましょう。
- 通気性の良い下着を着用する: 締め付けの強い下着や、化学繊維のものを避ける。
- ストレスや疲労を溜めない: 十分な休息とバランスの取れた食事を心がける。
- 体を冷やさない: 血行不良は免疫力低下につながります。
まとめ:不安な場合は必ず医療機関へ相談を
バルトリン腺嚢胞は、痛みがないからとほっとくと、ある日突然、激しい痛みを伴う膿瘍に進行する可能性があります。また、自己判断での処置は非常に危険です。
多くの女性が経験する可能性のある疾患であり、決して珍しいものではありません。少しでも気になる症状や不安があれば、ためらわずに産婦人科を受診してください。早期に適切な診断と治療を受けることが、つらい症状を防ぎ、早期回復につながる最も確実な方法です。
—
この記事は、一般的な情報提供を目的としたものであり、医学的なアドバイスに代わるものではありません。ご自身の健康状態に関する具体的な懸念については、必ず医師または他の有資格医療従事者にご相談ください。