お子さんの夜驚症に直面し、どうすれば良いのか悩んでいる親御さんは少なくありません。「うちの子は他の子と違うのかな?」「何か原因があるの?」と不安に思われることもあるでしょう。夜驚症は、お子さんの脳の発達段階で起こりやすい一時的な睡眠の現象であり、多くの場合は成長とともに自然に軽減していきます。しかし、目の前でお子さんがパニックになっている姿を見るのは、親御さんにとってつらいものです。
この記事では、「夜驚症になりやすい子」にはどのような特徴や原因があるのか、そしてご家庭でできる具体的な対処法について、分かりやすく解説します。また、夜驚症と間違えやすい症状や、専門医への相談が必要なケースについても触れます。この記事を読むことで、夜驚症への理解が深まり、お子さんへの向き合い方、そして親御さん自身の不安軽減につながることを願っています。
夜驚症とは?症状と一般的な年齢
夜驚症(やきょうしょう)は、睡眠中に突然、恐怖やパニック状態に陥る睡眠障害の一種です。主に、ノンレム睡眠という深い眠りの段階で起こります。お子さんは突然叫び声を上げたり、泣き叫んだり、座り込んだり立ち上がって歩き回ったりすることもあります。目は開いていることが多いですが、意識は朦朧としており、親御さんが話しかけても反応がなかったり、親を認識できないように見えたりします。脈拍や呼吸が速くなり、汗をかくこともあります。
この状態は通常、数分から長い場合で20分程度続き、その後お子さんは再び眠りにつきます。そして、朝起きても夜中の出来事を覚えていないことがほとんどです。これは、夜驚症が悪夢とは異なる大きな特徴です。悪夢はレム睡眠中に見られ、目覚めた後も夢の内容を覚えていることが多いですが、夜驚症は深いノンレム睡眠中に起こるため、意識がはっきりせず、記憶にも残りません。
夜驚症は、幼児期(3歳頃)から小学校低学年頃にかけて最もよく見られます。これは、この時期のお子さんの脳が睡眠と覚醒を切り替える機能がまだ十分に発達していないためと考えられています。思春期以降に起こることは稀で、多くの場合、成長とともに自然に改善していきます。小学校高学年になるにつれて頻度は減り、思春期に入る頃にはほとんど見られなくなるのが一般的です。
夜驚症になりやすい子の「原因」と「特徴」
夜驚症は、特定の性質を持つお子さんに起こりやすい傾向があると考えられています。いくつかの要因が組み合わさることで発生することが多く、単一の原因によるものではない場合がほとんどです。「夜驚症になりやすい子」の背景にある主な原因と、それに紐づく特徴を見ていきましょう。
脳機能の発達段階にあること
夜驚症が主に幼児期から学童期のお子さんに多く見られる最大の理由は、この時期の脳機能がまだ発達途上にあるためです。特に、睡眠中の「覚醒を抑制する機能」や「睡眠段階をスムーズに移行する機能」が十分に成熟していません。
睡眠はレム睡眠(浅い眠り、夢を見やすい)とノンレム睡眠(深い眠り、脳を休ませる)が約90分周期で繰り返されています。ノンレム睡眠はさらにいくつかの段階に分かれており、最も深い眠りが「徐波睡眠」と呼ばれる段階です。夜驚症は、この深いノンレム睡眠から覚醒する際に、覚醒が不完全な状態で起こると考えられています。つまり、体は起きかけているのに、脳の一部はまだ眠っているという「意識が朦朧とした状態」で、パニックのような行動が表出するのです。
お子さんの脳は、成長するにつれて睡眠のサイクルを調整する機能が成熟していきます。それに伴い、ノンレム睡眠からスムーズに覚醒できるようになるため、夜驚症も次第に起こらなくなります。
日中の「ストレス」や「不安」
日中に経験した強いストレスや不安は、夜驚症を誘発する重要な要因の一つです。お子さんは大人よりも感情のコントロールが難しく、些細なことでも大きなストレスに感じることがあります。
例えば、
- 幼稚園や保育園、学校での友達関係や先生との関わり
- 新しい習い事や環境の変化(引っ越し、転園・転校、兄弟の誕生など)
- 親との一時的な離別や親の忙しさからくる寂しさ
- 日中の出来事に対する消化不良(怒られた、失敗した、怖いテレビを見たなど)
- 親の不仲や家庭内の緊張感
といったことが、お子さんにとっては大きなストレスや不安の原因となり得ます。これらの感情が日中に十分に処理されず、心の奥底に残っていると、睡眠中の脳に影響を与え、夜驚症として表れることがあります。
「夜驚症になりやすい子」の中には、こうした日中のストレスや不安を言葉でうまく表現できない、あるいは我慢してしまうタイプの子もいるかもしれません。
生活習慣の乱れや睡眠不足
不規則な生活習慣や慢性的な睡眠不足は、夜驚症のリスクを高めることが知られています。睡眠の質が低下したり、睡眠リズムが崩れたりすると、深いノンレム睡眠からの覚醒が不安定になりやすいためです。
具体的には、
- 毎日寝る時間や起きる時間がバラバラ
- 寝る直前までテレビやスマートフォンを見ている
- 寝る前に興奮するような遊びをしている
- 日中の活動量が少なすぎる、または多すぎて疲労困憊している
- 昼寝が長すぎる、または遅い時間まで昼寝をしている
といった生活習慣は、お子さんの自然な睡眠リズムを乱し、夜驚症を誘発しやすくなります。特に、いつもより寝る時間が遅くなった日や、日中に強い刺激を受けた日などに夜驚症が起こりやすいと感じる親御さんもいます。
十分な睡眠時間と規則正しい生活は、お子さんの心身の健康だけでなく、安定した睡眠のためにも非常に重要です。
特定の「怖い」体験や強い「興奮」
夜驚症は悪夢とは異なり、特定の怖い夢を見たわけではないとされています。しかし、日中に経験した「怖い」出来事や、ゲームやテレビなどの刺激によって強い「興奮」状態が長引いたことが、夜驚症を引き起こす引き金となることがあります。
例えば、遊園地で非常に怖い体験をした、怖い映画やテレビ番組を見てしまった、寝る直前まで激しいゲームをしていた、運動会で大興奮した、といった経験の後、その夜に夜驚症が起こるというケースがあります。これらの強い感情体験が、睡眠中の脳の活動に影響を与え、ノンレム睡眠からの不完全な覚醒を誘発する可能性があると考えられています。
特に感受性が強いお子さんや、新しい刺激に敏感なお子さんは、こうした影響を受けやすい傾向があるかもしれません。
遺伝的な要因の可能性
夜驚症は、遺伝的な要因も関与している可能性があると考えられています。家族の中に夜驚症や、夜驚症と同じノンレム睡眠からの覚醒障害に分類される「夢遊病(睡眠時遊行症)」、あるいは他の睡眠障害(例:レストレスレッグス症候群)を持つ人がいる場合、お子さんも夜驚症になりやすい傾向があるという研究報告があります。
必ずしも遺伝するわけではありませんが、ご両親のどちらか、あるいはご家族の中に、子供の頃に夜驚症や夢遊病の経験がある方がいる場合は、お子さんもそうした体質を受け継いでいる可能性も考慮に入れて良いでしょう。これはお子さんや親御さんの責任ではなく、体質的な傾向として理解することが大切です。
原因 | 特徴を持つ子どもの傾向 |
---|---|
脳機能の発達段階 | 幼児期~小学校低学年の子ども |
日中のストレス・不安 | 感受性が強い、繊細、環境変化に敏感、我慢しやすい、感情表現が苦手な子ども |
生活習慣の乱れ | 就寝・起床時間が不規則、寝る前に刺激的な活動をする子ども |
怖い体験・強い興奮 | 感受性が強い、新しい刺激に敏感、興奮しやすい子ども |
遺伝的な要因 | 家族に夜驚症や夢遊病など睡眠障害の既往がある子ども |
上記の要因や特徴を持つお子さんがすべて夜驚症になるわけではありませんし、上記のどれにも当てはまらないお子さんが夜驚症になることもあります。あくまで「なりやすい傾向がある」という理解が重要です。最も大きな要因は、お子さんの脳が成長過程にあることそのものであることを忘れないでください。
夜驚症は「頭がいい」子や「天才」子に多い?
インターネットや書籍などで、「夜驚症は頭がいい子や天才肌の子に多い」といった情報を見聞きすることがあるかもしれません。しかし、このような俗説に科学的根拠はありません。
夜驚症は、前述の通り、主に脳の発達段階に関連して起こる睡眠現象です。知能の高さや才能とは直接的な関係はありません。脳の発達が著しい時期である幼児期から学童期のお子さんであれば、知能の高低に関わらず誰にでも起こりうるものです。
なぜこのような俗説が生まれたのかは定かではありませんが、もしかすると、感受性が豊かで様々なことを深く考えたり感じたりするタイプのお子さんが、日中のストレスや興奮を強く受け止めやすく、それが夜驚症につながりやすい、という観察から誤解されたのかもしれません。しかし、感受性が豊かなことと知能が高いことは必ずしも一致しません。
夜驚症が起こったからといって、「うちの子は天才かも!」と期待したり、「頭が悪いから起きないんだ…」と心配したりする必要は全くありません。夜驚症は、お子さんの成長の過程で起こりうる生理的な現象として捉えることが大切です。この俗説にとらわれず、お子さんの夜驚症に冷静に向き合い、適切な対応をすることが重要です。
夜驚症と「発達障害」の関係性はある?
夜驚症のお子さんを持つ親御さんの中には、「発達障害との関連があるのだろうか?」と心配される方もいらっしゃるかもしれません。結論から言うと、夜驚症そのものが発達障害の直接的な兆候である、というわけではありません。
しかし、発達障害(例:ADHD、ASDなど)を持つお子さんの中には、そうでないお子さんと比較して、夜驚症や夢遊病といった「ノンレム睡眠からの覚醒障害」が起こりやすい、あるいは併発しやすい傾向があるという研究報告もあります。
その理由として、いくつかの可能性が考えられます。
- 感覚過敏やこだわり: 発達障害のあるお子さんの中には、感覚過敏があったり、特定の物事への強いこだわりがあったりすることがあります。これにより、日中の環境からの刺激を強く受け止めすぎたり、変化への適応が難しかったりすることで、ストレスや不安を抱えやすくなることがあります。このストレスが、夜間の睡眠に影響を与える可能性があります。
- 睡眠リズムの乱れ: 発達障害のあるお子さんの中には、定型発達のお子さんと比較して、もともと睡眠の調整が難しく、寝つきが悪かったり、夜中に何度も起きたりするなど、睡眠リズムが乱れやすい傾向があると言われています。睡眠リズムの乱れは、夜驚症を含む睡眠障害全般のリスクを高める要因となります。
- 脳機能の特性: 発達障害は脳機能の特性であり、睡眠を制御する脳の部位にも何らかの影響がある可能性も考えられます。
ただし、夜驚症があるからといって、必ずしも発達障害があるというわけではありません。多くの夜驚症は、発達障害とは関係なく、定型発達のお子さんにも見られる一時的な現象です。
もし、夜驚症以外にも、日中の行動面や対人関係、コミュニケーションなどで気になる様子が見られる場合は、夜驚症のことと合わせて専門機関に相談してみることも検討しましょう。重要なのは、夜驚症だけで発達障害を判断するのではなく、お子さんの全体的な発達や日中の様子を総合的に見て判断することです。親御さんの不安が強い場合は、抱え込まずに専門家に相談することが大切です。
夜驚症が出たときの「対処法」
お子さんが夜驚症を起こしている最中の姿を見ると、親としては何とかしてあげたい、起こして安心させてあげたいと思ってしまいます。しかし、夜驚症の最中のお子さんは意識が朦朧としており、話しかけたり触ったりしても状況を理解できません。無理に起こそうとすると、かえってパニックがひどくなったり、混乱させたりすることがあります。
夜驚症が起こった際の最も重要な対処法は、「安全を確保し、静かに見守る」ことです。
安全な環境を確保し静かに見守る
お子さんが夜驚症でパニックを起こしている最中は、まずお子さんの安全を確保することを最優先に考えましょう。
- 怪我をしないように見守る: お子さんが立ち上がって歩き回る場合は、転倒したり物にぶつかったりしないように、周囲にある危険なもの(鋭利な家具の角、倒れやすいものなど)を片付けたり、優しく手を取って誘導したりします。ただし、無理に押さえつけたり、引きずったりしないように注意してください。
- 無理に話しかけない、起こさない: お子さんは親御さんの声がけに反応しなかったり、親を認識できなかったりします。これは脳がまだ眠っているためであり、愛情不足や反抗ではありません。無理に話しかけても通じませんし、強い刺激はかえってパニックを悪化させることがあります。「大丈夫だよ」「ここにいるよ」といった短い、落ち着いた声で優しく語りかける程度にとどめましょう。無理に揺り起こしたり、冷たい水をかけたりすることは絶対にしないでください。
- 静かに寄り添う: お子さんのそばで静かに見守り、落ち着くまで待ちます。優しく背中をさすったり、抱きしめたりする(ただしお子さんが嫌がらなければ)ことで、安心感につながる場合もあります。ただし、これもお子さんの反応を見ながら行い、拒否されたら無理強いしないことが大切です。
- 照明はつけない: 部屋の照明をつけると、お子さんがさらに混乱することがあります。必要最低限の常夜灯などで、足元が見える程度にしましょう。
夜驚症のエピソードは通常数分で収まり、お子さんは自然と再び深い眠りにつきます。朝起きても覚えていないため、夜中の出来事を蒸し返して話す必要はありません。お子さん自身が覚えている場合は、軽く「昨日はちょっとびっくりしちゃったみたいだけど、すぐ眠れたね。大丈夫だよ」などと安心させる言葉をかける程度にしましょう。
規則正しい睡眠習慣を整える
夜驚症の発生を減らすためには、日頃からの規則正しい睡眠習慣が非常に重要です。睡眠の質を高め、安定した睡眠リズムを整えることが、夜驚症の予防や軽減につながります。
- 毎日同じ時間に寝起きする: 休日も含めて、できるだけ毎日同じ時間に寝て、同じ時間に起きるように心がけましょう。これにより、体の内部時計(体内時計)が整い、自然な睡眠リズムが作られます。
- 十分な睡眠時間を確保する: お子さんに必要な睡眠時間は個人差がありますが、一般的に幼児期は10~13時間、学童期は9~11時間程度と言われています。お子さんが日中眠そうにしていないかなどを観察し、十分な睡眠時間が確保できているか確認しましょう。
- 寝る前のルーティンを作る: 寝る時間が近づいたら、静かでリラックスできる活動を取り入れるルーティンを作りましょう。例えば、ぬるめのお風呂に入る、絵本を読む、静かな音楽を聴く、穏やかな会話をするなどです。このルーティンを行うことで、「もうすぐ寝る時間だな」と体が認識し、スムーズに眠りに入りやすくなります。
- 寝る前の刺激を避ける: 就寝の1~2時間前からは、テレビ、スマートフォン、タブレットなどの画面を見るのを避けましょう。これらの画面から発せられるブルーライトは脳を覚醒させてしまい、寝つきを悪くする可能性があります。また、寝る直前の激しい遊びや興奮するような会話も避けましょう。
- 寝室環境を整える: 寝室は、暗く、静かで、快適な温度に保ちましょう。ぬいぐるみや寝具など、お子さんが安心できるアイテムを置くのも良いでしょう。
睡眠習慣のポイント | 具体的な実践例 |
---|---|
規則正しい時間 | 毎日決まった時間に就寝・起床(休日も大きくずらさない) |
十分な睡眠時間 | 年齢に応じた目安時間(幼児期10-13時間、学童期9-11時間)を確保 |
寝る前のルーティン | 就寝前の同じ時間に静かな活動(絵本、穏やかな会話、ぬるめのお風呂など)を取り入れる |
寝る前の刺激を避ける | 就寝1-2時間前からのメディア断ち(テレビ、スマホなど)、激しい遊びや興奮する活動を避ける |
寝室環境の整備 | 暗く、静かで快適な温度(目安18-22℃)、安心できるアイテムを置く |
昼寝の調整 | 夕方遅くの昼寝や長すぎる昼寝は夜の睡眠に影響するため、時間や長さを調整する |
日中の活動 | 適度な運動や外遊びで体を動かす(ただし寝る直前は避ける) |
これらの睡眠習慣を整えることで、お子さんの睡眠が安定し、夜驚症の頻度や重症度が軽減されることが期待できます。
ストレスを軽減しリラックスできる時間を増やす
日中のストレスや不安が夜驚症の引き金となることがあるため、お子さんが抱えるストレスを軽減し、安心感を得られる時間を増やすことも大切な対処法です。
- 日中の様子をよく観察する: お子さんが何に興味を持っているのか、何に困っているのか、どんなことにストレスを感じているのかなど、日中の様子を注意深く観察しましょう。言葉にできない気持ちを汲み取ってあげることが大切です。
- お子さんの話を聞く時間を作る: 毎日短時間でも良いので、お子さんが今日あった出来事や感じたことを話せる時間を作りましょう。「〜だったんだね」「〜って感じたんだね」と、お子さんの気持ちに寄り添って聞く姿勢が重要です。共感してもらえることで、お子さんは安心感を得られます。
- 安心できるスキンシップや触れ合いを増やす: ハグをする、手をつなぐ、膝の上に座らせてあげるなど、温かいスキンシップは、お子さんに「自分は大切にされている」「安全だ」という安心感を与えます。寝る前に優しくマッサージをしてあげるのもリラックス効果があります。
- 寝る前にリラックスできる活動を取り入れる: 絵本の読み聞かせは、お子さんを落ち着かせ、安心感を与えるのに効果的です。静かな音楽を聴く、お気に入りのぬいぐるみと一緒に過ごす、穏やかなおしゃべりをするなど、お子さんが「心地よい」「安心する」と感じる時間を持ちましょう。
- ポジティブな声かけを心がける: できたことや頑張ったことを褒めるなど、日頃からお子さんを肯定する声かけを増やしましょう。自己肯定感が高まり、不安を感じにくくなります。
- 環境の変化への配慮: 入園・入学、引っ越しなど、お子さんにとって大きな環境の変化がある際は、事前に丁寧な説明をしたり、新しい環境に慣れるまで寄り添ったりするなど、精神的なサポートをしっかりと行いましょう。
お子さんが日中に感じたストレスや不安を、寝る前に少しでも解消し、リラックスした気持ちで眠りに入れるようにサポートすることが、夜驚症の軽減につながります。
「母親のせい」「怒りすぎ」と自身を責めないために
お子さんが夜驚症を繰り返すと、「私の育て方が悪いの?」「日中怒りすぎたせいかも…」「母親失格だ」と、自分自身を責めてしまう親御さんが非常に多くいらっしゃいます。しかし、夜驚症は親の育て方が原因で起こるものではありません。前述のように、お子さんの脳の発達段階や体質、日中の出来事など、様々な要因が複合的に関わって起こる現象です。
自分を責める気持ちは、親御さん自身の心身の負担を増やし、ストレスにつながってしまいます。そのストレスが、お子さんの不安にもつながる可能性があります。
- 自分を責めないでください: 夜驚症は、親の責任ではありません。お子さんが成長している証の一つだと捉え、必要以上に深刻に考え込まないようにしましょう。
- 休息を取りましょう: 夜驚症の対応で夜中に起きなければならないと、親御さんも睡眠不足になり疲れてしまいます。可能な範囲で、パートナーや家族に協力をお願いしたり、お子さんが寝ている間に少しでも休息を取るように心がけましょう。
- 誰かに話を聞いてもらいましょう: 抱え込まずに、パートナー、家族、友人など、信頼できる人に話を聞いてもらいましょう。話すだけでも気持ちが楽になることがあります。同じように夜驚症を経験した親御さんの体験談なども参考になるかもしれません。
- 完璧を目指さない: 毎日完璧な睡眠習慣を維持したり、お子さんから一切のストレスを取り除くことは不可能です。できる範囲で取り組み、うまくいかない日があっても自分を責めすぎないことが大切です。「今日はできなかったけど、明日はまたやってみよう」くらいの気持ちで向き合いましょう。
親御さん自身が心穏やかに過ごすことが、結果としてお子さんにも安心感を与え、良い影響につながります。夜驚症は多くの子供に見られる現象であり、あなただけが抱えている問題ではないことを忘れないでください。
専門医への相談が必要な場合
多くの夜驚症は、成長とともに自然に改善していくため、特別な治療が必要ない場合がほとんどです。しかし、以下のような場合には、一度専門医(小児科医、あるいは睡眠障害を専門とする医師、児童精神科医など)に相談することを検討しましょう。
症状が「毎日」続く場合や頻繁な場合
夜驚症のエピソードがほぼ毎晩のように続く、あるいは非常に頻繁に起こる場合は、お子さんの睡眠が慢性的に妨げられている可能性があります。睡眠不足は日中の活動や発達に影響を与える可能性があるため、医師に相談して原因を探り、適切な対処法を検討することが望ましいでしょう。
怪我のリスクがある場合
夜驚症の最中に、ベッドから落ちたり、物にぶつかったりするなど、怪我をするリスクが高い行動が見られる場合は危険です。安全対策だけでは十分ではない可能性もあるため、医師に相談し、必要であれば薬物療法なども含めた対応を検討してもらう必要があります。
日常生活に支障が出ている場合
夜驚症が原因で、日中に強い眠気を感じたり、集中力が低下したり、イライラしやすくなったりするなど、お子さんの日常生活や学習に明らかな支障が出ている場合も、専門医に相談すべきサインです。睡眠の状態を詳しく調べ、日中の不調の原因が夜驚症にあるのかを確認することが重要です。
10歳以降も続く場合
夜驚症は通常、小学校高学年頃までには自然に消失していくことがほとんどです。10歳以降になっても症状が続いたり、新たに発症したりした場合は、思春期以降の夜驚症は比較的稀であるため、他の原因(例えば、睡眠時無呼吸症候群やてんかんなど)の可能性も考慮して、専門医による詳しい検査を受けることが推奨されます。
他の睡眠障害の可能性
夜驚症と似た症状でも、実際は他の睡眠障害である可能性も考えられます。例えば、
- 悪夢: 怖い夢を見て目覚め、夢の内容を覚えている。通常レム睡眠中に起こる。
- 睡眠時無呼吸症候群: 睡眠中に呼吸が一時的に止まることで睡眠の質が低下し、夜間の覚醒行動や日中の眠気を引き起こすことがある。いびきが大きい、寝ているときに息が止まるなどの特徴がある。
- てんかん: 夜間睡眠中に発作が起こり、夜驚症と似た行動が見られることがある。
これらの睡眠障害は、夜驚症とは原因や治療法が異なります。他の病気の可能性が疑われる症状がある場合は、正確な診断のために専門医の診察を受けることが重要です。
相談を検討すべきサイン | 具体的な状況 | 相談先 |
---|---|---|
頻度が高い・毎日続く | ほぼ毎晩、あるいは週に複数回、夜驚症のエピソードがある | 小児科、睡眠外来、児童精神科 |
怪我のリスクが高い | 部屋を走り回る、窓を開けようとするなど、危険な行動が見られる | 小児科、睡眠外来、児童精神科 |
日中の様子に変化がある | 日中の眠気、集中力低下、イライラ、情緒不安定などが見られる | 小児科、睡眠外来、児童精神科 |
思春期以降も続く、または新たに発症した | 10歳を過ぎても症状が見られる、あるいは思春期になってから始まった | 睡眠外来、精神科 |
他の睡眠障害や病気の可能性 | いびきがひどい、寝ているときに呼吸が止まる、日中も似たような体の動きが見られるなど | 小児科、睡眠外来(耳鼻咽喉科や脳神経内科の場合もあり) |
親御さんの不安が強い | どう対応していいか分からない、精神的に追い詰められている、育て方で悩んでいる | 小児科、地域の相談窓口、心理士・カウンセラー、児童精神科 |
専門医に相談する際は、お子さんの夜驚症が始まった時期、頻度、一回のエピソードの長さ、具体的な行動、日中の様子、ご家族の睡眠に関する既往などを詳しく伝えることができるように準備しておくと良いでしょう。
まとめ|夜驚症になりやすい子の理解と向き合い方
夜驚症は、お子さんの脳が成長する過程で起こりやすい一時的な睡眠現象であり、多くの場合、成長とともに自然に改善していきます。「夜驚症になりやすい子」には、脳機能の発達段階に加え、日中のストレスや不安、生活習慣の乱れ、強い感情体験、そして遺伝的な要因などが複合的に関わっている可能性があります。しかし、知能の高さや親の育て方が直接的な原因であるという科学的根拠はありません。
夜驚症が起こった際は、無理に起こそうとせず、安全を確保しながら静かに見守ることが最も大切です。そして、日頃から規則正しい睡眠習慣を整え、お子さんが日中のストレスを抱えすぎないように安心できる時間を増やすことが、夜驚症の予防や軽減につながります。
お子さんの夜驚症に直面すると、親御さんは不安になったり、自分を責めてしまったりしがちですが、夜驚症は親の責任ではありません。抱え込まずに、パートナーや家族に相談したり、必要であれば専門家のサポートを借りたりすることも重要です。
もし、夜驚症の症状が非常に頻繁である、怪我のリスクがある、日中の様子に支障が出ている、あるいは10歳以降も続く、他の病気の可能性が疑われるといった場合には、迷わず専門医に相談しましょう。適切な情報提供とサポートを受けることで、お子さんと親御さん両方にとって、より穏やかな日々を送ることができるはずです。
夜驚症はお子さんの成長過程の一コマです。焦らず、しかし必要なサポートはしっかりと行いながら、お子さんの健やかな成長を見守っていきましょう。
免責事項
この記事は、夜驚症に関する一般的な情報を提供するものであり、医療的な診断や治療を代替するものではありません。お子さんの夜驚症について心配な点がある場合は、必ず医師や専門家にご相談ください。