広汎性発達障害(PDD:Pervasive Developmental Disorders)という言葉を聞いたことがありますか?これはかつて使われていた発達障害の診断名で、現在は主に「自閉スペクトラム症(ASD:Autism Spectrum Disorder)」という診断名に含まれています。社会的なコミュニケーションや対人関係の困難、特定の興味やこだわり、想像力の偏りといった特性が見られる障害の総称でした。この記事では、広汎性発達障害の定義や具体的な特徴、現在主流となっている自閉スペクトラム症(ASD)や注意欠如・多動症(ADHD)との違い、診断方法、そして年齢に応じた支援について詳しく解説します。
広汎性発達障害とは?基本的な定義
広汎性発達障害(PDD:Pervasive Developmental Disorders)は、かつて精神疾患の診断基準であるDSM-IV-TR(Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders, Fourth Edition, Text Revision)において使用されていた診断カテゴリーの一つです。このカテゴリーに含まれる発達障害は、単一の症状ではなく、複数の領域(社会性、コミュニケーション、想像力・遊び)にわたって質的な偏りや困難が見られることが特徴でした。
PDDという名称には、「広汎性(ひろはんせい)」という言葉が含まれていますが、これは文字通り、発達の様々な側面、あるいは生活の様々な場面にわたって障害の特性が見られることを意味します。特定の機能だけがうまく働かないのではなく、人との関わり方、言葉の使い方、遊びや興味の持ち方など、その人の基本的な認知や行動のスタイル全体に影響を与える特性群と考えられていました。
DSM-IV-TRでは、広汎性発達障害は以下の5つの診断名に細分化されていました。
- 自閉症
- アスペルガー症候群
- 小児期崩壊性障害
- レット症候群
- 特定不能の広汎性発達障害
しかし、その後の研究の進展により、これらの診断名で分けられた人々の間には連続性があり、明確な境界線を引くことが難しいことが分かってきました。それぞれの診断基準を満たすか満たさないかというよりも、特性の現れ方にグラデーションがあるという理解が深まったのです。
こうした背景から、2013年に改訂されたDSM-5(Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders, Fifth Edition)では、レット症候群を除く上記の診断名が統合され、「自閉スペクトラム症(ASD:Autism Spectrum Disorder)」という一つの診断名になりました。
自閉スペクトラム症(ASD)の「スペクトラム」という言葉は、「連続体」「幅広い分布」といった意味を持ちます。これは、ASDの特性が一人ひとり異なり、その程度や組み合わせも多様であることを示しています。知的発達の遅れの有無や、言語発達の状況によって「自閉症」や「アスペルガー症候群」といった以前の診断名で呼ばれていた人たちも、現在では「自閉スペクトラム症」として捉えられています。
現在、医療現場や公的な機関では、DSM-5に基づいた自閉スペクトラム症(ASD)という診断名が主に使われています。しかし、以前からの診断名である広汎性発達障害(PDD)や自閉症、アスペルガー症候群といった言葉も、まだ一般的に使われることがあります。特に、DSM-5以前に診断を受けた方や、その家族、支援者の中では、以前の診断名で呼ばれることも少なくありません。そのため、これらの言葉が指す概念が現在の自閉スペクトラム症(ASD)と関連が深いことを理解しておくことが重要です。
この「自閉スペクトラム症(ASD)」の診断基準では、特性は大きく分けて以下の2つの領域に整理されています。
- 社会的コミュニケーションおよび対人相互作用における持続的な問題
- 限定された、反復的な様式の行動、興味、活動
DSM-IV-TRの「社会性」「コミュニケーション」「想像力・遊び」という3つの領域から、「社会性」と「コミュニケーション」を1つの領域にまとめ、「想像力・遊び」と「限定された興味・こだわり」をもう1つの領域に統合した形と言えます。
広汎性発達障害(PDD)という言葉は過去のものとなりつつありますが、それが指していた「社会性やコミュニケーション、こだわりといった特性によって生活に困難が生じる発達障害」という本質的な理解は、現在の自閉スペクトラム症(ASD)にも引き継がれています。大切なのは診断名そのものよりも、その人がどのような特性を持っていて、どのような困難を抱えやすいのかを理解し、必要な支援につなげていくことです。
広汎性発達障害の主な特徴と症状
かつて広汎性発達障害(PDD)として診断されていた人々に共通して見られた特性は、現在の自閉スペクトラム症(ASD)の診断基準にも引き継がれています。これらの特性は、主に以下の3つの領域(DSM-IV-TRに基づく分類)で捉えられていました。現在のASDの診断基準(DSM-5)では、これらを「社会的コミュニケーションおよび対人相互作用」と「限定された反復的な様式の行動、興味、活動」の2つの領域に整理していますが、理解を深めるために、ここではPDDの3領域に沿って具体的な特徴を見ていきましょう。
社会性(対人関係)の困難
広汎性発達障害(現在の自閉スペクトラム症)のある方にとって、人との関わり方は生まれつき「分かりにくい」と感じることが多いとされます。これは、相手の気持ちや意図を察したり、その場の雰囲気を感じ取ったりすることが苦手であることに関係しています。具体的な困難としては、以下のようなものが挙げられます。
- 非言語的コミュニケーションの理解・使用の困難: 相手の表情、声のトーン、ジェスチャーなどから感情や意図を読み取ることが難しいことがあります。逆に、自分の感情を表情や声で表現することが苦手な場合もあります。
- 仲間との関係性の構築の困難: 他の子どもと一緒に遊ぶよりも一人で遊ぶことを好んだり、遊びのルールや暗黙の了解を理解するのが難しかったりします。集団の中にいても孤立してしまうことがあります。
- 情動の相互性の欠如: 自分の関心のあることばかり一方的に話したり、相手が興味を持っているかどうかに気づきにくかったりします。相手との間で感情や興味を自然にやり取りする「キャッチボール」のようなコミュニケーションが苦手な場合があります。
- 視線(アイコンタクト)が合いにくい: 相手の目を見て話すことが難しかったり、視線が定まらなかったりすることがあります。これは、相手の視線から情報を得るのが難しい場合や、単に視線を合わせることに強い不快感を感じる場合など、理由は様々です。
これらの困難は、決して本人が「人と関わりたくない」と思っているわけではありません。むしろ、どのように関われば良いのかが分からず、混乱したり、失敗したりすることへの不安から、人との関わりを避けるように見えることもあります。場の空気が読めず、不適切な発言をしてしまったり、冗談が通らなかったりすることもあり、周囲からは「変わった人」「協調性がない」と見られてしまい、孤立につながることも少なくありません。
コミュニケーションの困難
言語的なコミュニケーションと非言語的なコミュニケーションの両方に困難が見られることがあります。
- 言葉の発達の遅れ: 発達早期に言葉が出てくるのが遅れたり、言葉を話し始めても独特な言い回しや使い方をしたりすることがあります(例:オウム返し、作った言葉を使うなど)。
- 会話の始まり、維持、終了の困難: 自分から話しかけることが苦手だったり、会話のテーマを一方的に変えてしまったり、相手の発言の意図を理解できずに会話が成り立たなかったりします。会話の終わらせ方が分からず、話が長くなってしまうこともあります。
- 言葉の文字通りの理解: 比喩表現、皮肉、社交辞令などを額面通りに受け取ってしまい、混乱することがあります。「後でね」と言われると、具体的な時間を確認しないと不安になったり、「ちょっといい?」と言われただけで深刻な話かと思い込んでしまったりします。
- 声のトーン、大きさ、リズムの偏り: 単調な話し方になったり、状況にそぐわない声の大きさで話したりすることがあります。質問されても、まるで教科書を読んでいるかのような抑揚のない話し方になる場合もあります。
- 非言語的コミュニケーションの使用の困難: 自分の気持ちを表情やジェスチャーで表すことが苦手だったり、相手の表情やジェスチャーから気持ちを読み取ることが難しかったりします。これにより、コミュニケーションが円滑に進まない原因となります。
言葉を話せる場合でも、その言葉を使って他者と気持ちを通わせたり、共感したり、抽象的な概念を理解したりといった、より高度なコミュニケーションに難しさが見られるのが特徴です。
限定された興味・こだわりと想像力の欠如
特定の物事への強い興味や、繰り返し行う行動、想像力を使った遊びの苦手さなどが見られます。
- 特定のものへの強いこだわり: 興味の対象が非常に限定的で、それ以外のものには見向きもしないことがあります。恐竜、電車、昆虫、特定のキャラクターなど、興味を持ったものについては驚異的な知識を持つことがあります。そのことについて延々と話し続けたり、関連するものを集め続けたりします。
- ルーティンや規則への強い固執: 毎日同じ道順で登校する、食事の順番が決まっている、遊びの手順が決まっているなど、特定のやり方や順序に強くこだわります。これが崩れると強い不安を感じ、パニックになることがあります。
- 変化への強い抵抗: 予定の変更、環境の変化(部屋の模様替え、転居、新しいクラスなど)に非常に強い抵抗を示します。見通しが立たない状況に不安を感じやすく、事前に詳しく説明されても慣れるのに時間がかかります。
- 反復的な行動や動き: 手をひらひらさせる(フラッピング)、体を揺らす(ロッキング)、ジャンプを繰り返す、特定の音を出し続けるなど、同じ動きや行動を繰り返すことがあります。これは気持ちの切り替えが難しかったり、不安を鎮めるための自己刺激行動であったりする場合が多いです。
- 想像力を使った遊びの困難: ごっこ遊びや見立て遊び(例:積み木を車に見立てて走らせる)など、想像力やシンボルを使って遊ぶことが苦手な場合があります。おもちゃを本来の機能とは違う使い方(例:ミニカーを並べるだけ、電車の車輪だけをひたすら回す)をしたり、特定の動作を繰り返したりする遊びを好むことがあります。
これらの特性は、単なる「好きなこと」や「習慣」とは異なり、それ以外の選択肢を受け入れにくく、柔軟な対応が難しいという点に特徴があります。強いこだわりやルーティンは、本人にとっては安心感を得るための重要な手段である場合が多いです。
その他の特性(感覚の問題など)
上記の3つの主要な領域以外にも、広汎性発達障害(現在の自閉スペクトラム症)のある方には様々な特性が見られることがあります。
- 感覚過敏・鈍麻: 特定の音、光、匂い、味、触感に対して過敏すぎたり(聴覚過敏で特定の音が苦手、服のタグが気になる、特定の食材が食べられないなど)、逆に鈍麻すぎたり(痛みや暑さ寒さに気づきにくい、特定の刺激を常に求めるなど)することがあります。これらの感覚の偏りが、日常生活での困難や、特定の場所・活動への抵抗につながることがあります。
- 運動の不器用さ: 体全体の協調運動や、手先の細かい動きが苦手な場合があります。走ったり跳んだりするのが苦手、球技が苦手、箸の使い方がぎこちない、ボタンを留めるのが難しい、文字を書くのが苦手など、様々な形で現れます。
- 睡眠や食事の偏り: 寝つきが悪く夜中に何度も起きてしまう、特定の食材しか食べない偏食がひどい、といった問題を抱えることがあります。
- 突発的な行動: 危険の予測が苦手で、急に走り出す、衝動的な行動をとるといったことがあります。
これらの特性の現れ方、組み合わせ、程度は一人ひとり大きく異なります。診断名だけを見て画一的に判断するのではなく、その人がどのような特性を特に強く持っているのか、それによってどのような困難を抱えているのかを個別に理解することが何よりも大切です。
ASD(自閉スペクトラム症)と広汎性発達障害の違い
先述の通り、かつて「広汎性発達障害(PDD)」と呼ばれていた診断カテゴリーは、2013年に改訂されたDSM-5において、主に「自閉スペクトラム症(ASD)」という一つの診断名に統合されました。したがって、現在では医学的・公的な診断名としては「広汎性発達障害」は使われず、「自閉スペクトラム症(ASD)」が主流となっています。
この変更の背景には、研究の進展により、従来のPDDの下位分類(自閉症、アスペルガー症候群など)の間には明確な境界線がなく、特性が連続的に存在するという理解が広まったことがあります。つまり、「自閉症」「アスペルガー症候群」「特定不能の広汎性発達障害」といった分類よりも、特性の程度や組み合わせに幅がある一つの連続体(スペクトラム)として捉える方が、実態に合っていると考えられたためです。
具体的に、診断基準はどのように変わったのでしょうか。DSM-IV-TRの広汎性発達障害の診断基準と、DSM-5の自閉スペクトラム症の診断基準の主な違いを見てみましょう。
項目 | DSM-IV-TR(広汎性発達障害) | DSM-5(自閉スペクトラム症) |
---|---|---|
診断カテゴリー | 広汎性発達障害(PDD)というカテゴリー内に複数の下位分類がある(自閉症、アスペルガー症候群など) | 自閉スペクトラム症(ASD)という一つの診断名に統合。特性の重症度や知的・言語能力の状況は付記される。 |
診断に必要な主要な特性の領域 | 以下の3つの領域における質的な偏り: 1.社会性の問題 2.コミュニケーションの問題 3.限定された興味・こだわり、想像力の欠如 |
以下の2つの領域における持続的な困難: 1.社会的コミュニケーションおよび対人相互作用における持続的な問題 2.限定された、反復的な様式の行動、興味、活動 |
3つの領域から2つの領域への変更 | 社会性とコミュニケーションが分けて評価されていた。 | 社会性とコミュニケーションを統合し、「社会的コミュニケーションおよび対人相互作用」として一つの領域で評価するようになった。 |
診断基準の具体的な項目数 | 各下位分類ごとに複数の具体的な項目が設定されていた(例:自閉症は合計6項目以上必要) | 各主要領域(1と2)に複数の具体的な項目が設定され、診断にはそれぞれの領域で一定数以上の項目を満たす必要がある(合計5項目以上)。 |
感覚の問題の扱い | 明示的な診断基準項目としては含まれていなかったが、臨床的な特徴として広く認識されていた。 | 「限定された、反復的な様式の行動、興味、活動」の領域の中に、感覚刺激への過敏性または鈍感性、感覚に対する異様な興味などが項目として追加された。 |
重症度の評価 | 下位分類名によってある程度示唆されていた(例:自閉症はアスペルガーより重いと捉えられがち) | 特性の重症度を3段階(レベル1:支援が必要、レベル2:かなりの支援が必要、レベル3:非常に大きな支援が必要)で付記するようになった。 |
知的障害、言語障害との併存 | 別途併存診断として行われた。 | 自閉スペクトラム症の診断に加えて、知的障害や言語障害の併存の有無を併記するようになった。 |
このように、DSM-5では、診断名が統合されただけでなく、診断基準の具体的な項目や、特性の捉え方にも変更が加えられました。特に、社会性とコミュニケーションを一つの領域としたこと、感覚の問題が診断基準項目として正式に追加されたこと、そして重症度を段階的に評価するようになった点は大きな変化と言えます。
現在、「広汎性発達障害」という言葉を使う場合は、DSM-IV-TR時代の診断名や概念を指していることが多いです。しかし、現代の診断基準に基づいた「自閉スペクトラム症(ASD)」の理解が、その人の特性や必要な支援を考える上ではより適切と言えます。専門機関に相談する際には、現在の診断名である「自閉スペクトラム症」という言葉を使う方が、スムーズに話が進むでしょう。
ADHDと広汎性発達障害の違い
広汎性発達障害(現在の自閉スペクトラム症:ASD)と、注意欠如・多動症(ADHD:Attention-Deficit/Hyperactivity Disorder)は、どちらも発達障害に含まれますが、その核となる困難の特性は異なります。しかし、両方の特性を併せ持っている「併存(合併)」することも多く、一見すると似たような行動が見られることもあるため、混同されやすいことがあります。
ASDとADHDの主な違いをまとめると、以下のようになります。
項目 | 自閉スペクトラム症(ASD) | 注意欠如・多動症(ADHD) |
---|---|---|
核となる困難 | 社会的コミュニケーションおよび対人相互作用の困難、限定された興味・こだわり、反復行動 | 不注意、多動性、衝動性 |
対人関係 | 他者との相互的な関わりが苦手(場の空気が読めない、相手の気持ちを察しにくい、一方的な会話など) | 人との関わり自体は好きだが、衝動的な発言や行動、約束事を守れないなどでトラブルになりやすい。話を聞くのが苦手。 |
コミュニケーション | 言葉の字面通りの理解、非言語的な表現の読み取り困難、独特な言葉遣いや声のトーン | 相手の話を最後まで聞けない、話しすぎてしまう、遮ってしまう、思ったことをすぐに口に出す衝動的な発言 |
興味・関心 | 特定の分野に強いこだわりを持つ(特定のテーマについて深く掘り下げ、それ以外の関心が薄い) | 様々なことに興味を持つが、すぐに飽きてしまい、一つのことを継続するのが難しい。興味の対象が次々と変わる。 |
行動特性 | ルーティンへの固執、変化への抵抗、反復的な行動(体の揺れなど) | じっとしているのが苦手、落ち着きがない、そわそわする、順番を待てない、危険を考えずに行動する衝動性 |
注意の向け方 | 興味のあることには過度に集中できるが、興味のないことには全く注意を向けられない(過集中と不注意) | 興味の有無に関わらず、注意を持続させたり、衝動を抑えたりすることが難しい。気が散りやすい。 |
整理整頓 | こだわりが強い場合、特定のルールに基づいた整理整頓をする場合があるが、不器用さから苦手なことも。 | 片付けが苦手、物をなくしやすい、順序立てて作業を進めるのが苦手 |
診断基準 | DSM-5の「社会的コミュニケーションおよび対人相互作用」「限定された、反復的な様式の行動、興味、活動」の項目を満たす | DSM-5の「不注意」「多動性・衝動性」の項目を満たす。症状の出現時期や持続期間なども基準に含まれる。 |
併存の可能性 | ADHDの特性を併せ持つことがある。 | ASDの特性を併せ持つことがある。DSM-5ではASDとADHDの併存診断が可能になった。 |
具体的な例で違いを考える:
- 集団行動:
- ASD: ルールや指示が曖昧だとどうすれば良いか分からず戸惑う。他の子とどう関われば良いか分からず、一人でいることを好む。自分の遊び方にこだわり、他の子と合わせるのが難しい。
- ADHD: じっとしていられず立ち歩く。先生の話を聞き飛ばす。他の子が話しているのに割り込む。順番を待てず先にやってしまう。
- 会話:
- ASD: 自分の好きなテーマについて一方的に話し続ける。相手の表情や声のトーンの変化に気づかず、話が噛み合わない。冗談を真に受けてしまう。
- ADHD: 相手の話を最後まで聞かずに話し出す。質問の途中で答えを言ってしまう。話があちこちに飛ぶ。
- 興味・関心:
- ASD: 特定の電車の種類について全部分類できるほど詳しい。それ以外の遊びには興味を示さない。
- ADHD: 新しいゲームにすぐ飛びつくが、数日で飽きて次のゲームに移る。宿題を始めるまでに時間がかかり、始めてもすぐに別のことに気が散る。
併存について:
ASDとADHDは、それぞれ異なる神経発達の偏りですが、診断基準が改訂され、両方の診断が併存することが認められるようになりました(DSM-5以降)。これは、ASDの特性とADHDの特性の両方を同時に持っている人がいることを意味します。例えば、「人との関わりは苦手で強いこだわりがあるが、同時に衝動的で落ち着きがない」といったケースです。
併存している場合、それぞれの特性が互いに影響し合い、困難がより複雑になることがあります。例えば、ASDの特性から来るコミュニケーションの苦手さに、ADHDの特性から来る衝動性が加わると、人間関係でのトラブルがより起こりやすくなる、といったことが考えられます。
診断の際には、どちらか一方の診断だけでなく、両方の特性の有無を丁寧に評価することが重要です。また、支援を考える上でも、ASDとADHDそれぞれの特性を踏まえ、 tailor-made(一人ひとりに合わせた)のアプローチを行う必要があります。
広汎性発達障害に含まれた旧診断名
広汎性発達障害(PDD)は、2013年のDSM-5への改訂によって、自閉スペクトラム症(ASD)という一つの診断名に統合されました。しかし、DSM-IV-TRが使用されていた時代には、PDDの下位分類としていくつかの異なる診断名が存在しました。これらの旧診断名は、現在のASDを理解する上で、特性の現れ方の多様性を示すものとして知っておくと役立ちます。
広汎性発達障害に含まれていた主な旧診断名は以下の4つです(レット症候群は現在、神経発達症群の別のカテゴリーに分類されることが一般的です)。
自閉症
最も古くから知られている診断名です。かつては「カナー型自閉症」とも呼ばれ、レオ・カナーという医師が1943年に報告した症例に由来します。
自閉症の診断は、以下の3つの領域全てにおいて著しい質的な偏りが見られることを特徴としていました。
- 社会的相互交渉における質的な障害: 人との関わりが著しく苦手。視線が合わない、抱きつかれるのを嫌がる、他の子に関心を示さない、など。
- コミュニケーションにおける質的な障害: 言葉の発達の遅れまたは欠如。言葉があっても会話が成り立たない、オウム返し、独り言、独特な言い回しなど。
- 限定され、反復的で常同的な様式の行動、興味、活動: 特定のものへの強いこだわり、同じ行動を繰り返す、変化を極端に嫌がる、手や体をひらひらさせる常同行動など。
自閉症と診断される子どもは、知的発達に遅れを伴う場合が多く、言葉の発達も遅れるケースが一般的でした。これらの特性が比較的早期から目立つことが多かったのも特徴です。
アスペルガー症候群
ハンス・アスペルガーという医師が1944年に報告した症例に由来します。アスペルガー症候群は、自閉症と同様に、社会性と限定された興味・こだわりの領域に質的な偏りが見られる点が共通していました。しかし、自閉症との決定的な違いは、言語発達の明らかな遅れを伴わないという点でした。
アスペルガー症候群と診断される子どもは、年齢に応じた言葉の能力を持っているため、一見するとコミュニケーションに問題がないように見えやすいです。しかし、会話の意図を理解する、場の空気を読む、非言語的なサインを読み取る、といった言葉の裏にある意味や社会的な文脈を理解することに難しさがありました。また、知的発達に遅れを伴わない、あるいはむしろ高い知的能力を示す人も少なくありませんでした。
「空気が読めない」「一方的に話しすぎる」「特定の趣味に異常なほど詳しい」といった特徴が目立つことが多く、思春期以降や大人になってから社会生活での困難が顕在化して診断に至るケースも少なくありませんでした。
小児期崩壊性障害
非常に稀な診断名で、「ヘラー症候群」とも呼ばれました。これは、発達の早期(通常は2歳以降、10歳以前)に、いったん正常な発達を遂げた後に、それまでに獲得した能力(言葉、社会性、排泄機能、運動能力など)が著しく後退し、自閉症のような特性が現れるという極めて特異な経過をたどる場合に使用されました。
急激な能力の喪失は、周囲に大きな衝撃を与え、原因不明の発達の退行として捉えられました。自閉症よりも予後が厳しいとされることが多かったですが、その原因や病態については不明な点が多く、診断されるケースも非常に少なかったです。
特定不能の広汎性発達障害
上記の「自閉症」「アスペルガー症候群」「小児期崩壊性障害」の診断基準の全ては満たさないものの、広汎性発達障害に特徴的な社会性、コミュニケーション、または限定された興味・こだわりといった領域に質的な偏りが見られ、それが生活に困難を引き起こしている場合に使用された診断名です。
例えば、社会性とコミュニケーションには困難があるが、こだわりや反復行動はそれほど目立たない、といったケースや、社会性の困難はあるが診断基準の項目数を全ては満たさない、といったケースがこの診断に含まれました。
DSM-IV-TRの診断基準が厳密すぎたために、実態としては発達障害の特性を持っているにも関わらず、いずれの診断にも当てはまらない場合に便宜的に使用されることもあり、「広汎性発達障害(特定不能)」と診断された人は少なくありませんでした。
なぜ統合されたのか?
これらの旧診断名がDSM-5で自閉スペクトラム症(ASD)に統合されたのは、前述の通り、これらの特性が連続的に存在し、診断名によって明確に区別することが困難であることが明らかになったためです。例えば、「言語発達の遅れの有無」だけで自閉症とアスペルガー症候群を分けるのは、その境界線が曖昧で、個々の特性を捉える上であまり意味がないと判断されました。
現在の自閉スペクトラム症(ASD)という診断名は、これらの旧診断名が指していた特性の多様性を含んだ広い概念であり、知的・言語能力の状況や特性の重症度を付記することで、一人ひとりの状態をより詳細に表現しようとしています。
したがって、現在では「私はアスペルガー症候群です」「この子は自閉症です」といった診断名は使われませんが、これらの旧診断名が指していたような「言葉の遅れはないが社会性が苦手なタイプ(旧アスペルガー症候群に近い)」「言葉の遅れがあり、こだわりも強いタイプ(旧自閉症に近い)」といった、特性の現れ方のタイプを理解するための参考にはなります。
広汎性発達障害の診断方法
現在では「自閉スペクトラム症(ASD)」として診断されますが、ここではかつての広汎性発達障害、すなわち現在のASDの診断がどのように行われるかについて説明します。発達障害の診断は、血液検査や画像検査のような客観的な指標で確定できるものではなく、専門家による総合的な評価によって行われます。主に、医師(精神科医、児童精神科医など)が中心となり、必要に応じて心理士、言語聴覚士、作業療法士などの専門職と連携しながら診断が進められます。
診断プロセスは、通常以下のような流れで行われます。
- 予診・予約: まずは医療機関や専門機関に連絡し、相談の予約をします。受診の際には、本人の発達の様子や困りごと、生育歴などをまとめた書類(問診票や生育歴シート)の記入を求められることが多いです。
- 詳細な問診: 医師や心理士が、本人や保護者から、発達の様子、現在の困りごと、症状が現れた時期、家族歴などについて詳しく聞き取りを行います。特に、乳幼児期からの社会性、コミュニケーション、遊び方、こだわり、感覚、運動などに関する具体的なエピソードが重要視されます。可能であれば、保護者が作成した養育者面接用のチェックリストや、母子手帳、保育園や学校での記録なども参考にされます。
- 行動観察: 診察室やプレイルームなどでの本人の様子を専門家が観察します。保護者とのやり取り、指示への反応、遊び方、他の人(専門家)との関わり方、特定の刺激に対する反応(感覚過敏・鈍麻など)などを観察し、診断基準に照らし合わせます。年齢が低い子どもの場合は、遊びの場面での観察が特に重要になります。
- 心理検査・発達検査: 本人の年齢や状態に応じて、様々な検査が実施されます。
- 知能検査: WISC(ウィスク)、WAIS(ウェイス)など。本人の全体的な知的能力や、能力の凸凹(得意なことと苦手なことの差)を把握するために行われます。
- 発達検査: 新版K式発達検査、DN-CASなど。乳幼児期から学齢期の子どもの発達段階を評価します。
- 自閉スペクトラム症に特化した検査:
- **ADOS-2(自閉症診断観察尺度 改訂版):** 半構造化された観察・評価ツール。専門家が本人と特定のやり取りをしながら、社会的交流やコミュニケーション、反復行動などを評価します。診断の精度を高めるために国際的に広く用いられています。
- **ADI-R(自閉症診断面接 改訂版):** 保護者に対して、本人の生育歴について特定の質問を行う構造化面接。社会的交流、コミュニケーション、限定された興味・こだわりに関する情報収集に役立ちます。
- **PARS-TR(広汎性発達障害評定尺度 改訂版):** 主に保護者への質問紙形式の検査で、特性の有無や程度を評価します。
- **その他の心理検査:** 性格検査、質問紙検査など、併存しやすい他の精神疾患(うつ病、不安障害、ADHDなど)の可能性を探るために行われることもあります。
- 情報収集: 必要に応じて、幼稚園、保育園、学校、職場など、本人が普段過ごしている場所での様子について、関係者から情報提供を依頼することがあります。家庭以外の場所での行動や対人関係の状況を知ることは、診断の裏付けとして非常に重要です。
- 診断とフィードバック: 上記で得られた様々な情報(問診、観察、検査結果、他からの情報)を総合的に判断し、診断基準(DSM-5)に基づいて診断が確定されます。診断が確定したら、医師から本人や保護者に対して、診断名、特性、なぜその診断に至ったのか、今後の見通しなどについて説明(フィードバック)が行われます。同時に、診断された特性を踏まえて、どのような困難が生じやすく、どのような支援が考えられるかについての情報提供や、今後の支援計画についての相談が行われます。
診断の難しさ:
発達障害の診断は、特に以下の点で難しさを伴うことがあります。
- 特性の現れ方の多様性: 前述の通り、ASDの特性は一人ひとり異なり、その程度や組み合わせも様々です。定型発達の人との境界線も曖昧な場合があり、診断が難しいケースも存在します。
- 年齢による変化: 特性は年齢や環境によって現れ方が変化します。幼少期にはっきりしていた特性が目立たなくなったり、逆に思春期や成人期になってから社会的な困難が顕在化したりすることがあります。
- 他の障害や疾患との合併・鑑別: 発達障害は、ADHD、知的障害、学習障害、精神疾患(うつ病、不安障害、強迫性障害など)と併存することが非常に多いです。また、これらの他の障害や疾患の症状と間違えやすいこともあります。正確な診断のためには、これらの可能性も考慮して慎重な鑑別診断を行う必要があります。
- 大人の診断の難しさ: 大人の場合、幼少期の情報が得にくかったり、長年の経験から特性をある程度カバーする術を身につけていたりするため、診断が難しくなることがあります。本人の主観的な困りごとだけでなく、客観的な情報(過去の記録や家族からの情報など)が重要になります。
したがって、発達障害の診断は、単一の検査結果だけで行われるものではなく、専門家チームによる多角的な視点からの慎重な評価が不可欠です。信頼できる医療機関や専門機関で診断を受けることが重要です。
広汎性発達障害のある方への治療・支援
広汎性発達障害(現在の自閉スペクトラム症:ASD)は、病気のように「治す」ものではなく、生まれつきの脳の特性によるものです。そのため、「治療」というよりも、特性から生じる困難を軽減し、本人が社会に適応し、より豊かに生きられるようにするための「支援」が中心となります。支援は、本人の年齢、特性の程度、困りごとの内容、生活環境などに応じて、個別に行われることが重要です。
主な支援方法としては、以下のようなものがあります。
- 療育・教育的支援:
- 早期療育: 乳幼児期から就学前にかけて行われる支援。遊びや集団活動を通して、社会性やコミュニケーション、運動機能などの発達を促します。親子教室、個別セッションなど、様々な形態があります。早期に始めるほど、その後の発達に良い影響を与えると考えられています。
- ソーシャルスキルトレーニング(SST): 対人関係を円滑に進めるための社会的なスキル(会話の仕方、相手の気持ちを推測する、断り方、感情のコントロールなど)を、ロールプレイングなどを通して具体的な練習を行うプログラムです。子どもから大人まで幅広い年代で行われます。
- ペアレントトレーニング: 発達障害のある子どもの保護者を対象に、子どもの特性への理解を深め、具体的な関わり方や子育ての方法を学ぶプログラムです。肯定的な行動を増やす、困った行動への対処法などを実践的に学びます。
- 認知行動療法(CBT): 思考パターンや行動パターンに働きかけ、困難な状況への対処法を学ぶ心理療法。特に、発達障害に併存しやすい不安やうつ、強迫性障害などに対して効果が期待できます。
- TEACCHプログラム: 自閉症スペクトラムの人々の特性に合わせて、物理的環境やスケジュールを構造化し、視覚的な手がかりを多く用いることで、本人が見通しを持って安心して活動できるようサポートする教育的アプローチです。
- 学校での支援: 通級による指導、特別支援学級・学校、個別教育支援計画の作成、学校内での環境調整(席順、休憩時間の過ごし方など)、教師や友人の理解促進など。一人ひとりのニーズに応じたきめ細やかな支援が行われます。
- 環境調整:
- 物理的環境の調整: 感覚過敏がある場合、特定の音や光を避けるための配慮(イヤーマフの使用許可、照明の調整)、集中しやすいように衝立で区切るなど。整理整頓が苦手な場合は、収納場所を分かりやすく表示するなども有効です。
- 構造化と視覚的サポート: 見通しを持って行動できるよう、一日のスケジュールや活動の手順を文字や絵カードで示す。曖昧な指示ではなく、具体的で分かりやすい言葉で伝える。
- 人間関係の調整: 職場で適切な役割分担や業務指示の方法について配慮を求める、学校でトラブルになりやすい状況を避けるためのサポートを行うなど。
- 薬物療法:
- 発達障害そのものを治す薬はありませんが、発達障害に併存しやすい症状や疾患(ADHDの不注意・多動性、不安、うつ、イライラ、てんかん、睡眠障害など)に対して、それぞれの症状を緩和するために薬が処方されることがあります。例えば、ADHDを併発している場合は、不注意や多動性を軽減する薬が有効な場合があります。薬の服用にあたっては、必ず医師の指示に従い、効果と副作用を慎重に検討することが重要です。
- 相談支援:
- 専門機関への相談: 医療機関、発達障害者支援センター、児童相談所、精神保健福祉センター、地域の相談支援事業所など、様々な専門機関があります。診断に関する相談だけでなく、生活全般の困りごと、就労、家族関係など、幅広い相談に対応しています。
- 当事者会・家族会: 同じような特性や悩みを抱える当事者同士、家族同士が情報交換したり、支え合ったりする場です。孤立を防ぎ、経験談から学ぶことができます。
- 就労支援:
- ハローワーク、就労移行支援事業所、地域障害者職業センターなど: 発達障害のある方の就職活動をサポートしたり、職場での定着のための支援(ジョブコーチ支援など)を提供したりする公的なサービスがあります。本人の特性や能力に合った仕事探し、必要な配慮について職場と調整するサポートなどが行われます。
これらの支援を効果的に行うためには、まず本人の特性を正しく理解することから始まります。何が苦手で、何が得意なのか、どのような状況で困りやすいのかをアセスメントし、その人に合った個別の支援計画を立てることが重要です。また、支援は本人だけでなく、家族や職場、学校など、周囲の環境全体で行われることが望ましく、関係者間の連携が非常に大切になります。診断は、適切な支援に繋がるための一つのステップと言えます。
大人・子供における広汎性発達障害の特徴と対応
広汎性発達障害(現在の自閉スペクトラム症:ASD)の特性は、一生を通じて見られますが、その現れ方や、それによって生じる生活上の困難は、年齢や発達段階によって変化します。幼少期に目立った特性が、成長とともに目立たなくなることもあれば、逆に、子どもの頃には気づかれにくかった特性が、複雑な社会生活を送る中で顕在化することもあります。
ここでは、大人と子ども、それぞれの年代における特性の現れ方と、必要な対応・支援について見ていきましょう。
大人の広汎性発達障害
大人の発達障害は、近年、その存在が広く知られるようになってきました。子どもの頃に診断されず、大人になってから初めて診断を受けるケースも少なくありません。これは、知的な遅れがない場合や、子どもの頃は比較的軽度で大きな問題にならなかった特性が、就職、結婚、子育てなど、より複雑な社会生活を送る中で困難として現れてくるためです。
大人のASDに多く見られる特徴や困りごと:
- 職場での人間関係: 職場の暗黙のルールや人間関係の機微が理解できず、同僚や上司との関係構築に苦労する。報連相(報告・連絡・相談)が苦手、指示の意図が理解できない、一方的な話し方をしてしまう、といった問題が生じやすい。
- 業務遂行: マルチタスクが苦手、優先順位をつけるのが難しい、計画通りに物事を進められない、細部にこだわりすぎて全体が見えなくなる、といった業務遂行上の困難が見られることがある。ルーティンワークは得意だが、急な変更や臨機応変な対応が苦手。
- 日常生活の困難: 部屋の片付けが苦手で散らかってしまう、金銭管理が難しい、時間管理が苦手で遅刻が多い、健康管理がおろそかになる、といった生活上の課題を抱えることがある。
- 感情のコントロール: 自分の感情をうまく認識したり、表現したりするのが苦手。強いストレスがかかると、感情が爆発したり、フリーズして動けなくなったりすることがある。
- 孤立感: 人との関わりに困難を感じやすく、友人関係や恋愛関係の構築・維持が難しい。趣味や関心はあっても、それを他者と共有したり、共感し合ったりすることに難しさを感じ、孤立感を深めてしまうことがある。
- 二次障害: 長年、自分の特性に気づかずに困難を抱え続けたり、周囲から理解されずに責められたりする経験から、うつ病、不安障害、適応障害などの精神疾患を併発しやすい。これが「二次障害」と呼ばれます。
大人のASDへの対応・支援:
- 自己理解: まずは自身の特性を正しく理解することが出発点です。診断を受けることによって、長年抱えていた生きづらさの原因が分かり、安心感を得られることがあります。自分の得意なこと、苦手なこと、どのような状況で困りやすいかを把握し、セルフケアの方法を見つけることが重要です。
- 環境調整・合理的配慮: 職場や家庭で、自身の特性に合った環境を整える工夫をします。騒音が苦手なら耳栓を使う、タスク管理のためにツールを活用する、指示を文書でお願いするなど。職場においては、障害者雇用枠での就労や、一般雇用でも合理的配慮の提供を求めることができます。
- 相談機関の利用: 発達障害者支援センター、精神保健福祉センター、地域の障害者相談支援事業所など、大人の発達障害を専門とする相談機関を利用します。就労相談、生活相談、医療や福祉サービスの情報提供など、幅広いサポートが受けられます。
- 専門的なプログラム: SSTや認知行動療法など、対人スキルやストレスコーピングスキルを学ぶためのプログラムに参加することも有効です。
- 当事者会・家族会: 同じ特性を持つ人やその家族との交流は、孤立感を和らげ、具体的な対処法を学ぶ機会となります。
- 医療機関との連携: 困りごとが強い場合や二次障害を併発している場合は、精神科や心療内科を受診し、専門家のアドバイスや治療(薬物療法など)を受けます。
子供の広汎性発達障害(チェックリストへの言及)
子どもの広汎性発達障害(現在の自閉スペクトラム症)は、発達の早期から兆候が見られることがあります。保護者が「もしかしたら?」と気づくことが多いのは、主に以下の点です。
子供のASDに多く見られる特徴や気づきのサイン:
- 乳幼児期:
- 目が合いにくい、抱っこされるのを嫌がる。
- 人見知りや後追いをしない、あるいは極端にする。
- あやしてもあまり笑わない、表情が乏しい。
- 指さしをしない、共同注意(興味のあるものを指さして親と共有する)が少ない。
- 言葉の出が遅い、またはオウム返しが多い。
- 名前を呼んでも振り返らない(聴力に問題がない場合)。
- 特定の音や感触をひどく嫌がる、または特定の刺激を常に求める。
- 同じ遊び方を繰り返す、おもちゃを本来の遊び方ではなく並べる、回すなど。
- 変化を嫌がる、特定のルーティンにこだわる。
- 幼児期・学童期:
- 一方的な会話が多い、友達とのごっこ遊びが難しい。
- 場の空気が読めない、他の子の気持ちが分からない。
- 集団行動のルールについていけない。
- 特定の興味に没頭し、他のことに全く関心を示さない。
- 運動が不器用、体の動かし方がぎこちない。
- 感覚過敏・鈍麻が日常生活に影響する(給食が食べられない、特定の服が着られないなど)。
- パニックやかんしゃくを起こしやすい(特に予期せぬ変更や感覚的な刺激に対して)。
これらのサインに気づいたら、一人で抱え込まずに専門機関に相談することが大切です。
子供のASDへの対応・支援(チェックリストへの言及を含む):
- 早期発見と早期支援: 発達の偏りに早期に気づき、適切な支援を早期に始めることが、子どものその後の発達にとって非常に重要です。早期からの適切な支援は、二次的な問題を予防し、適応力を高めることにつながります。
- 乳幼児健診や就学時健診: 自治体で行われる健診では、発達の様子をチェックします。気になる点があれば、専門機関を紹介してもらうことができます。
- チェックリスト: 保護者や保育士、教師が子どもの発達や行動の特性を確認するためのチェックリストがいくつかあります。例えば、乳幼児期のASDの可能性を示唆するM-CHAT(Modified Checklist for Autism in Toddlers)などがあります。これらのチェックリストは、あくまで「気づきの目安」であり、診断を確定するものではありません。気になる点があった場合は、必ず専門家(医師や発達相談員など)に相談することが重要です。
- 専門機関への相談: 保健センター、児童相談所、発達障害者支援センター、医療機関(小児科、児童精神科)などで発達に関する相談ができます。専門家によるアセスメントを受け、必要に応じて診断や療育・支援に繋がります。
- 療育: 発達支援センターや児童発達支援事業所、放課後等デイサービスなどで、遊びや集団活動、専門プログラム(SST、感覚統合療法など)を通して、社会性やコミュニケーションスキル、日常生活スキルなどを伸ばす支援を受けます。
- 学校での支援: 子どもの特性やニーズに合わせて、通級指導教室での個別指導や集団指導、特別支援学級への就学、特別支援学校への就学といった選択肢があります。通常学級に在籍する場合でも、個別の教育支援計画を作成し、学校全体で本人をサポートします。教師やクラスメイトへの特性に関する理解を促すことも重要です。
- 保護者への支援: ペアレントトレーニングなどを通して、子どもの特性理解と適切な関わり方を学びます。保護者自身のストレスケアも重要です。
大人の場合も子どもの場合も、大切なのは「できないこと」に注目するだけでなく、その人の「得意なこと」や「好きなこと」を活かし、それを伸ばしていく視点を持つことです。特性を否定するのではなく、理解し、受け入れた上で、本人が生きやすい環境を整え、必要なサポートを提供することが、豊かな人生を送るために不可欠です。
【まとめ】広汎性発達障害(ASD)への理解と適切な支援が大切
広汎性発達障害(PDD)という診断名は現在では使われなくなり、主に自閉スペクトラム症(ASD)として捉えられています。これは、かつてPDDに含まれていた自閉症、アスペルガー症候群などの診断が、特性の現れ方に連続性がある一つの発達特性群として理解されるようになったためです。
自閉スペクトラム症(ASD)の主な特性は、社会的コミュニケーションや対人関係の困難、そして限定された興味・こだわりや反復行動です。これらに加えて、感覚の偏りや運動の不器用さなどが見られることもあります。これらの特性の現れ方や程度は一人ひとり大きく異なり、「スペクトラム」という言葉が示す通り、多様な人々が含まれます。
ASDは病気ではなく、生まれつきの脳の特性によるものです。「治す」というよりは、特性から生じる日常生活や社会生活での困難を軽減し、本人が自分らしく、安心して暮らせるようにするための「支援」が不可欠です。
診断は、医師や心理士などの専門家が、問診、行動観察、各種検査など、多角的な情報に基づいて総合的に行います。診断を受けることは、自身の特性を理解し、適切な支援やサービスに繋がるための重要なステップとなります。
支援は、子どもの場合は早期発見・早期療育が重要であり、学校での教育的支援や家庭での関わり方の工夫が中心となります。大人の場合は、就労、人間関係、生活管理など、年齢に応じた課題に対するサポートや、利用できる社会資源(相談機関、就労支援など)の活用が鍵となります。
ASDの特性を持つ人々が社会で孤立せず、持てる力を発揮して生活していくためには、本人や家族の努力に加え、周囲の人々の正しい理解と温かいサポートが何よりも大切です。もし、ご自身やご家族、周囲の人に気になる特性がある場合は、一人で悩まず、専門機関に相談してみることをお勧めします。
免責事項: 本記事は、広汎性発達障害(自閉スペクトラム症)に関する一般的な情報提供を目的としています。特定の個人への診断や治療を推奨するものではありません。個別の状況については、必ず専門家(医師、心理士など)にご相談ください。情報の正確性には努めておりますが、診断基準や支援制度は変更される可能性があります。最新の情報は、専門機関や公的機関にご確認ください。