突発的に襲い来る、目の奥をえぐられるような激しい痛み。それが群発頭痛です。片頭痛や緊張型頭痛とは異なる特徴を持ち、そのあまりの痛みに七転八倒する方も少なくありません。この頭痛は、特定の期間に集中して発作を繰り返すという独特のパターンを示します。この記事では、群発頭痛とはどのようなものか、その症状、原因、診断、そして最新の治療法について、分かりやすく解説します。激しい痛みに悩まされている方、ご家族に群発頭痛の方がいらっしゃる方は、ぜひ参考にしてください。
群発頭痛とは
群発頭痛とは?その定義と特徴
群発頭痛は、国際頭痛分類において一次性頭痛(他の病気が原因ではない頭痛)の一つに分類されています。最も特徴的なのは、その名の通り、発作が一定期間に集中して「群発する」ことです。この群発期は通常、数週間から数ヶ月間続きますが、その期間中はほぼ毎日、決まった時間帯に激しい頭痛が繰り返されます。
群発頭痛の痛みは非常に強く、日常生活に支障をきたすレベルをはるかに超えることがほとんどです。痛みが生じる場所や、痛みに伴って現れる症状も独特であり、他の一般的な頭痛とは明確に区別されます。
群発頭痛の期間とパターン(群発期、寛解期、慢性群発頭痛)
群発頭痛は、群発期と呼ばれる活動期と、痛みが治まる寛解期を繰り返すことが典型的です。
- 群発期: 発作が集中して起こる期間です。国際頭痛分類の診断基準では、7日間から1年間の期間に発作が起こる場合を群発期と定義しています。この期間中は、多くの場合、1日に1回以上の頻度で発作が起こります。発作が起きやすい時間帯も人によって決まっており、特に夜間や睡眠中に出現しやすい傾向があります。群発期の長さは人によって異なりますが、平均すると1〜3ヶ月程度が多いとされています。
- 寛解期: 群発期が終了し、頭痛発作が完全に消失している期間です。診断基準上は、痛みのない期間が1ヶ月以上続く場合を寛解期と定義します。寛解期の長さも人によって異なり、数ヶ月で次の群発期が始まる人もいれば、何年も、あるいは何十年も発作が起こらない人もいます。
- 慢性群発頭痛: 痛みのない寛解期を挟まずに、1年以上にわたって群発期が続いている状態を慢性群発頭痛と呼びます。これは群発頭痛全体の約1割程度と比較的少なく、難治性のケースが多いとされています。
この群発期と寛解期を繰り返すパターンは、群発頭痛の診断において非常に重要な情報となります。
片頭痛や緊張型頭痛との違い
群発頭痛は、片頭痛や緊張型頭痛といった他の一次性頭痛とは、痛みの性質や随伴症状、発作パターンなどが大きく異なります。これらの違いを理解することは、適切な診断と治療につながります。
特徴 | 群発頭痛 | 片頭痛 | 緊張型頭痛 |
---|---|---|---|
痛みの性質 | 非常に激しい、突き刺すような、焼けるような | 中等度~重度、ズキズキとした拍動性 | 軽度~中等度、締め付けられるような圧迫感 |
痛みの部位 | 常に片側、目の奥やこめかみ周辺 | 片側が多い(両側の場合もあり)、こめかみ、側頭部 | 両側が多い、頭全体、後頭部、首筋 |
痛みの持続時間 | 15分~3時間(通常30分~1時間) | 4時間~72時間 | 30分~7日間(通常数時間~数日) |
発作頻度 | 群発期に1日に1~8回 | 月に数回~週に数回 | ほぼ毎日(慢性の場合) |
随伴症状 | 同側の目の充血、涙、鼻水、鼻づまり、まぶたの下垂、顔面の発汗 | 吐き気、嘔吐、光過敏、音過敏 | なし(肩こりや首の痛みを伴うことが多い) |
体を動かすと | 痛みが悪化することが多い、じっとしていられない | 痛みが悪化する | 痛みが変化しない、または軽くなることがある |
発作パターン | 特定の期間(群発期)に集中 | 不定期、生理周期やストレスと関連することが多い | ストレスや疲労と関連、持続的であることが多い |
特に、痛みの場所が常に同じ側の目の奥であること、激しい痛みに伴って同側の顔面に自律神経症状が現れること、そして発作が特定の期間に集中することが、群発頭痛の診断において重要な鍵となります。片頭痛のようにじっとしている方が楽になるのではなく、あまりの痛みに部屋を歩き回ったり、頭を抱えたりする方も少なくありません。
群発頭痛の主な症状
群発頭痛の症状は、その激しい痛みと、痛みに伴って出現する特徴的な顔面の自律神経症状によって定義されます。
激しい痛みの特徴(片側、眼窩部、側頭部など)
群発頭痛の最も顕著な症状は、言葉に尽くしがたいほどの耐え難い激しい痛みです。「目をえぐられるような」「キリで突き刺されるような」「焼けつくような」などと表現されることが多く、その痛みはしばしば「自殺頭痛(Suicide Headache)」という異名で呼ばれるほど深刻です。
- 痛みの部位: 痛みは常に頭部の片側に起こります。特に目の奥(眼窩部)やこめかみ(側頭部)、おでこ(前頭部)にかけて集中することが多いですが、頬や顎、首筋に広がることもあります。重要なのは、発作ごとに痛む側がほとんど変わらないということです。片頭痛のように左右交互に痛むことは非常に稀です。
- 痛みの性質: 痛みは拍動性(ズキズキ)というよりは、持続性の強い痛みであることが多いですが、突き刺すような鋭い痛みや締め付けられるような感覚を伴うこともあります。痛みのピークは比較的早く訪れ、発作持続時間を通して強い痛みが続きます。
- 痛みの程度: 痛みは非常に激しく、日常生活や仕事を中断せざるを得ないほどです。あまりの痛みに、じっとしていられず、壁に頭を打ち付けたり、床をのたうち回ったりする方もいるほどです。
発作の持続時間は国際頭痛分類では15分から3時間と定義されていますが、多くの場合、30分から1時間程度で自然に治まります。しかし、その短時間の痛みが強烈であるため、患者さんにとっては非常に苦痛な体験となります。
付随する症状(眼の充血、涙、鼻水など)
群発頭痛の痛みに伴って、痛みと同じ側の顔面に様々な自律神経症状が出現するのが大きな特徴です。これらの症状は痛みの開始と同時に現れ、痛みが治まるとともに消失することがほとんどです。
代表的な付随症状は以下の通りです。
- 目の充血: 痛みのある側の白目が赤く充血します。
- 涙: 痛みのある側の目から多量の涙が出ます。
- 鼻水: 痛みのある側の鼻から水っぽい鼻水が出たり、鼻が詰まったりします。
- まぶたの下垂(眼瞼下垂): 痛みのある側の上まぶたが垂れ下がります。
- 顔面の発汗: 痛みのある側の額や顔面に汗をかきます。
- 瞳孔の縮小(縮瞳): 痛みのある側の瞳孔が小さくなります。
これらの症状は、頭部の血管や神経を制御する自律神経の異常によって引き起こされると考えられています。激しい痛みに加えてこれらの症状が伴うことで、診断の重要な手がかりとなります。
群発頭痛の原因と誘発因子
群発頭痛の正確な原因は、残念ながらまだ完全には解明されていません。しかし、近年の研究によって、脳の特定部位や神経系の機能異常が関与していることが明らかになりつつあります。
原因は不明だが関与が考えられる神経系
現在、群発頭痛の原因として最も有力視されているのは、脳の深部にある視床下部(hypothalamus)の機能異常です。視床下部は、体温や睡眠、食欲、ホルモンバランスなど、体の様々な生体リズムを調節している重要な部位です。群発頭痛の発作が特定の時間帯(特に夜間や睡眠中)に起こりやすいこと、そして群発期が特定の季節や時期に現れやすいことなどが、視床下部が関与している証拠と考えられています。
また、痛みの信号を伝える三叉神経(trigeminal nerve)と、顔面の血管や涙、鼻水などを制御する自律神経系も深く関わっています。群発頭痛の発作時には、三叉神経が刺激されるとともに、その近くを通る自律神経も活性化され、痛みや顔面の付随症状を引き起こすと考えられています。
これらの神経系の複雑な相互作用が、群発頭痛の独特な発作パターンや症状を生み出していると考えられていますが、なぜ特定の期間にこれらの異常が起こるのかは、まだ分かっていません。遺伝的な要因も関与している可能性が指摘されています。
飲酒や喫煙などの誘発因子
群発期にある患者さんの場合、特定の因子が頭痛発作を誘発することが知られています。これらの誘発因子は、群発期以外の寛解期にはほとんど影響しないのが一般的です。
主な誘発因子は以下の通りです。
- アルコール: 少量の飲酒でも、発作を誘発することが非常に多いです。特に、ワインやビールなどの醸造酒よりも、ウイスキーや日本酒などの蒸留酒の方が誘発しやすいという報告もあります。群発期に入ったら、原則として飲酒は控えるべきです。
- 喫煙: 喫煙者の方に群発頭痛が多い傾向があることが知られており、喫煙そのものが発作を誘発する可能性も指摘されています。群発期には禁煙が推奨されます。
- ニトログリセリン: 狭心症などの心疾患の治療に使われる薬剤で、血管を拡張させる作用があります。この薬剤は群発頭痛の発作をほぼ確実に誘発することが知られています。心疾患をお持ちでニトログリセリンを服用している方が群発頭痛を発症した場合、治療には十分な注意が必要です。
- ヒスタミン: アレルギー反応に関わる物質ですが、血管拡張作用があり、人によっては発作を誘発することがあります。
- 高地への移動: 気圧の変化が発作を誘発することがあります。
- 特定の臭い: 香水やシンナーなどの強い臭いが引き金になることがあります。
これらの誘発因子は、脳血管や神経系に影響を与えることで発作を引き起こすと考えられています。群発期にはこれらの因子を意識的に避けることが、発作の回数を減らす上で重要です。
なりやすい人の特徴(性別、年齢層など)
群発頭痛は、誰にでも起こりうる病気ですが、特定の属性の人に多く見られる傾向があります。
- 性別: 群発頭痛は、男性に圧倒的に多い頭痛です。かつては男性対女性の比率が6対1とも言われていましたが、最近の研究では女性の診断例も増えており、比率は約3対1程度と考えられています。それでも、片頭痛が女性に多いのと対照的に、男性に多いのが群発頭痛の特徴です。
- 年齢層: 発症しやすい年齢は20代から40代と、比較的若い世代に多い傾向があります。ただし、小児から高齢者まで、幅広い年齢層で発症する可能性があります。
- 体格: やや筋肉質で、がっしりした体格の人に多いという報告があります。
- 喫煙習慣: 喫煙者に群発頭痛の有病率が高いことが知られています。
- 家族歴: 約5%の患者さんに、家族にも群発頭痛の人がいるという報告があり、遺伝的な要因の関与も示唆されています。
ただし、これらの特徴に当てはまらない人でも群発頭痛を発症することはありますし、これらの特徴があるからといって必ず群発頭痛になるわけではありません。あくまで統計的な傾向です。
群発頭痛の診断方法
群発頭痛の診断は、その特徴的な症状と発作パターンに基づき、主に医師による問診と診察によって行われます。特定の検査で確定診断ができるものではありません。
医師による問診と診察
頭痛専門医や神経内科医は、患者さんから頭痛の詳細を詳しく聞き取ることで、群発頭痛を疑います。問診で確認される主な内容は以下の通りです。
- 痛みの性質: どのような痛みか(突き刺すような、焼けるようななど)。
- 痛みの程度: どれくらい痛いか(安静にしていられるか、動きたくなるかなど)。
- 痛みの部位: 頭のどのあたりが痛いか、片側か両側か、痛む側はいつも同じか。
- 痛みの持続時間: 発作が始まってから治まるまでどのくらいかかるか。
- 発作の頻度: 1日に何回くらい起こるか、群発期に毎日起こるか。
- 発作の時間帯: 1日のうちでどの時間帯に起こりやすいか(特に夜間や睡眠中)。
- 付随症状: 痛みに伴って、目の充血、涙、鼻水、まぶたの下垂などの症状があるか。
- 発作の誘発因子: アルコールや喫煙などで発作が誘発されるか。
- 発作のパターン: 特定の期間(群発期)に集中して起こり、痛みのない時期(寛解期)があるか。群発期はどのくらいの期間続くか。
- 既往歴: これまでに経験した病気や怪我、服用中の薬など。
- 家族歴: 家族に同じような頭痛の人がいるか。
これらの問診内容と、顔面の自律神経症状などの診察所見を総合的に判断し、国際頭痛分類の診断基準に照らし合わせて診断が行われます。患者さん自身が、ご自身の頭痛の特徴を詳しく医師に伝えることが、正確な診断のために非常に重要です。可能であれば、頭痛が起こった日時、持続時間、痛みの程度、症状などを記録した頭痛ダイアリーを付けていくと、診察の際に役立ちます。
画像検査(MRI、CT)の必要性
群発頭痛は一次性頭痛であり、脳自体に異常があるわけではありません。したがって、診断のために必ずしも画像検査(MRIやCT)が必要というわけではありません。
しかし、以下のような場合には、二次性頭痛(他の病気が原因で起こる頭痛)を除外するために、画像検査が行われることがあります。
- 典型的な群発頭痛のパターンや症状から外れる場合: 例えば、痛みが両側性である、痛む側が頻繁に変わる、付随症状がはっきりしないなど。
- 初めての頭痛発作で、特に症状が非典型的である場合。
- 神経学的な異常所見(手足の麻痺やしびれ、言葉の障害など)を伴う場合。
- 高齢で初めて頭痛を発症した場合。
これらのケースでは、脳腫瘍や脳血管の異常など、命にかかわる病気が隠れている可能性も考慮し、念のために画像検査を行って他の原因がないことを確認します。典型的な群発頭痛であれば、問診と診察だけで診断がつくことも少なくありません。
群発頭痛の治療法
群発頭痛の治療は、大きく分けて発作が起こったときに痛みを抑える「急性期治療」と、群発期の発作回数を減らしたり、期間を短縮したりするための「予防療法」の2つの柱があります。
発作を止めるための急性期治療(トリプタン製剤、酸素吸入療法)
群発頭痛の発作は突然始まり、短時間でピークに達するため、速効性のある治療が必要です。一般的な鎮痛薬はほとんど効果がありません。
トリプタン製剤
片頭痛の治療にも用いられるトリプタン製剤は、群発頭痛の急性期治療において最も効果的な薬剤の一つです。血管を収縮させたり、痛みの伝達を抑えたりする作用があります。
- 注射剤: スマトリプタンの皮下注射が最も速効性があり、群発頭痛の発作に対して高い効果が期待できます。通常、注射後数分から15分程度で効果が現れます。患者さん自身が自宅で自己注射することも可能です。
- 点鼻薬: スマトリプタンやゾルミトリプタンの点鼻薬も、内服薬に比べて吸収が早く、効果が期待できます。注射が苦手な方や、注射ほどではないが速効性を求める場合に用いられます。
- 内服薬: 内服薬のトリプタン製剤は、効果発現までに時間がかかるため、群発頭痛の急性期治療としては注射剤や点鼻薬ほど有効でない場合が多いです。
トリプタン製剤は血管を収縮させる作用があるため、心臓病や脳卒中の既往がある方、高血圧の方などは使用に注意が必要です。必ず医師の指導のもとで使用してください。
酸素吸入療法
高濃度酸素吸入は、群発頭痛の急性期治療として非常に有効で、副作用も少ない治療法です。フェイスマスクを用いて、毎分7~15リットルの流量で15分間、高濃度(100%)の酸素を吸入します。
- 効果: 多くの患者さんで、酸素吸入開始から数分で痛みが軽減または消失します。特に、発作のごく初期に開始すると効果が高いとされています。
- 利点: 副作用がほとんどなく、トリプタン製剤が使用できない方や、トリプタン製剤で効果不十分な方にも有効な場合があります。携帯用の酸素ボンベを使用すれば、自宅や職場でも実施可能です。
- 注意点: 高濃度の酸素吸入には、医師の処方と指導が必要です。また、専用の吸入器が必要となります。
その他の急性期治療
トリプタン製剤や酸素吸入で効果が得られない場合や、特別な事情がある場合には、以下のような治療法が検討されることもあります。
- エルゴタミン製剤: 血管収縮作用を持つ薬剤ですが、副作用(吐き気、手足のしびれなど)が比較的多く、トリプタン製剤が主流となる以前によく使われていました。現在でも、特定の状況で使用されることがあります。
- リドカイン点鼻: 局所麻酔薬であるリドカインを鼻腔内に点鼻することで、一時的に痛みを和らげる効果が期待できる場合があります。
発作を予防するための予防療法
群発期に入ると、発作がほぼ毎日繰り返されるため、発作そのものを止める治療だけでなく、発作の回数を減らしたり、痛みの程度を軽くしたりするための予防療法も重要です。予防療法は、群発期が始まる前や、群発期に入ってから開始し、群発期が終了するまで継続します。
主に使用される薬剤
予防療法には様々な薬剤が使用されますが、最も効果が期待されるのは以下の薬剤です。
- ベラパミル: カルシウム拮抗薬と呼ばれる種類の薬剤で、高血圧や不整脈の治療にも使われます。群発頭痛の予防薬として最もよく用いられ、多くの患者さんで効果が認められます。ただし、心臓の動きを抑える作用があるため、服用開始前や用量変更時には心電図検査を行い、心臓への影響を確認する必要があります。
- ステロイド: 短期間では非常に高い効果が期待できる薬剤です。特に、群発期が始まったばかりで症状が非常に強い場合に、短期間(数日〜2週間程度)集中的に使用されることがあります。ただし、長期にわたる使用は副作用(満月様顔貌、骨粗鬆症、糖尿病など)のリスクが高いため、注意が必要です。
- 炭酸リチウム: 気分安定薬として使われる薬剤ですが、慢性群発頭痛の予防に有効な場合があります。血中濃度を適切に保つ必要があるため、定期的な血液検査が必要です。副作用(手の震え、吐き気など)にも注意が必要です。
- トピラマート: てんかんの薬として使われる薬剤ですが、片頭痛の予防薬としても有効であり、群発頭痛の予防にも効果が期待できる場合があります。
これらの薬剤は、医師が患者さんの病状や全身状態を考慮して選択し、用量を調整します。予防療法は、群発期が終わるまで自己判断で中止せず、医師の指示通りに続けることが重要です。
その他の予防法
薬物療法以外では、神経ブロックや外科的な治療法も研究されていますが、これらは限られた状況で専門医によって検討される治療法であり、一般的な予防法ではありません。
予防療法の目的は、発作をゼロにすることよりも、発作の回数を減らし、急性期治療の効果を高め、患者さんの苦痛を軽減することにあります。
群発期に気をつけたい日常生活
群発期に入ると、普段は何ともないようなことが発作の引き金になることがあります。群発期を乗り切るためには、日常生活でいくつか注意すべき点があります。
避けるべきこと(飲酒、喫煙など)
前述の「誘発因子」の項目でも触れましたが、群発期においては特定の行動が発作を誘発しやすくなります。特に注意すべきは以下の点です。
- 飲酒: 群発期に入ったら、アルコールは原則として完全に控えるべきです。少量でも発作を誘発する可能性が非常に高いため、禁酒は必須と考えられます。
- 喫煙: 喫煙者の方は、群発期には禁煙することが強く推奨されます。喫煙そのものが発作を誘発する可能性があり、また群発頭痛になりやすい体質とも関連が指摘されています。
- 特定の薬剤: 血管拡張作用のあるニトログリセリンは、群発期の発作をほぼ確実に誘発します。心臓病などで服用している場合は、必ず医師に相談し、代替薬について検討してもらう必要があります。
- 急激な温度変化: 熱いお風呂やサウナに入る、冷たいものを急に飲む、寒い場所から急に暖かい場所へ移動するなど、急激な温度変化は発作の引き金になることがあります。
- 高地への移動: 登山や飛行機での移動など、気圧の変化がある環境も避けた方が良い場合があります。
これらの誘発因子は、群発期が終われば影響しなくなることがほとんどですが、群発期の間は特に意識して避けるようにしましょう。
睡眠との関係
群発頭痛は、睡眠中、特に夜間の同じ時間帯に発作が起こりやすいという特徴があります。これは、脳の概日リズムを司る視床下部が関与しているためと考えられます。
- 規則正しい睡眠: 睡眠不足や、逆に寝過ぎは、視床下部のリズムを乱し、発作を誘発する可能性があります。群発期には、毎日できるだけ同じ時間に寝て、同じ時間に起きるなど、規則正しい睡眠習慣を心がけることが重要です。
- 昼寝: 長時間の昼寝も夜間の睡眠リズムを崩し、発作を誘発することがあります。群発期には、昼寝は避けた方が無難です。
- 夜間の発作対策: 夜間に発作が起こりやすい方は、寝る前に急性期治療薬(特に効果が速く持続時間が短い注射剤や点鼻薬)を手元に準備しておくなど、対策を立てておくと安心です。
睡眠は群発頭痛の発作と密接に関わっているため、群発期には睡眠のリズムを整えることが発作予防の一助となります。
群発頭痛に関するよくある疑問
群発頭痛はその独特な症状や経過から、患者さんやご家族にとって不安や疑問が多い病気です。ここでは、群発頭痛に関するよくある疑問にお答えします。
群発頭痛は完治しますか?
群発頭痛は、現在のところ医学的に「完治」を定義することが難しい病気です。発作が起きない寛解期が長期間続くことはありますが、いつまた次の群発期が始まるかは予測できません。中には、生涯に一度きりの群発期で終わる人もいれば、高齢になるまで何年も、何十年も群発期と寛解期を繰り返す人もいます。
しかし、「完治」は難しくても、適切な治療法によって発作の頻度や痛みの程度を大幅に軽減し、日常生活への影響を最小限に抑えることは可能です。発作が起きたときの急性期治療と、群発期における予防療法を組み合わせることで、多くの患者さんが群発期を乗り越えることができます。
したがって、「完治」というよりは、「寛解」や「良好なコントロール」を目指す病気と理解するのが適切でしょう。
難病指定されていますか?
残念ながら、群発頭痛は日本の「難病」には指定されていません(令和6年4月現在)。
難病に指定されると、医療費助成などの支援制度の対象となりますが、群発頭痛は現在の制度ではその対象外です。このため、治療にかかる医療費は、通常の医療保険の適用はありますが、自己負担分が発生します。
患者さんの中には、その激しい痛みや治療の困難さから、難病指定を求める声もありますが、現在のところ指定には至っていません。
群発頭痛で死亡することはありますか?
群発頭痛そのものが直接的な原因となって死亡することはありません。群発頭痛は脳の機能異常によるものと考えられており、脳出血や脳梗塞のように脳組織を破壊したり、命にかかわるような合併症を引き起こしたりする病気ではありません。
しかし、あまりにも激しい痛みに耐えかねて、自殺念慮を抱いたり、実際に自殺を試みたりする患者さんがいることが指摘されています。このため、「自殺頭痛」という異名があるほどです。群発頭痛の痛みは想像を絶するものであり、患者さんの精神的な負担は非常に大きいことを理解する必要があります。
もし、ご自身やご家族が群発頭痛の痛みに苦しみ、精神的に追い詰められていると感じたら、ためらわずに医師や精神科医に相談することが重要です。痛みのコントロールだけでなく、精神的なサポートも併せて行うことが、患者さんのQOL(生活の質)を保つ上で非常に大切です。
終息の症状はありますか?
群発期が終息し、寛解期に入る前に、何らかのサインや症状が現れるか、という疑問を持つ方もいらっしゃるかもしれません。しかし、特定の「終息の症状」や明確なサインのようなものは、ほとんどありません。
群発期が終息する際は、以下のようなパターンをたどることが多いです。
- 発作の頻度が徐々に減っていく: 毎日起こっていた発作が、2日に1回、3日に1回と間隔が空いていく。
- 痛みの程度が軽くなる: 発作が起こっても、以前ほど痛みが強くないと感じるようになる。
- 発作の持続時間が短くなる: 痛みの持続時間が以前より短くなる。
このように、発作が徐々に弱まっていき、最終的に完全に消失して寛解期に入る、という経過をたどることが一般的です。しかし、何の前触れもなく、突然発作が起こらなくなるという場合もあります。
スマホは原因になりますか?
スマートフォンやパソコンの使用そのものが、群発頭痛の直接的な原因になるとは考えられていません。群発頭痛の原因は、脳の視床下部を中心とした神経系の機能異常にあると考えられています。
ただし、長時間のスマホやパソコンの使用は、眼精疲労や肩こり、首の痛みを引き起こすことがあります。これらの症状は、特に緊張型頭痛の増悪因子となることが知られています。また、夜遅くまでスマホを使うことで睡眠不足になったり、睡眠のリズムが乱れたりすることも、群発頭痛の発作を誘発する可能性があります。
したがって、スマホが直接の原因ではありませんが、使い方によっては間接的に頭痛を悪化させたり、発作の引き金になったりする可能性はゼロではないと言えるでしょう。群発期には、規則正しい生活と十分な睡眠を心がけることが重要であり、その観点からはスマホの使い過ぎに注意することも大切です。片頭痛のように光や音に過敏になる「光過敏」「音過敏」は、群発頭痛では一般的ではありません。
診断・治療は専門医へ
群発頭痛の診断と治療は、専門的な知識と経験が必要です。その激しい痛みや独特な経過から、他の頭痛と間違われやすく、適切な治療にたどり着くまでに時間がかかることも少なくありません。
医療機関を受診する目安
以下のような症状がある場合は、群発頭痛の可能性を疑い、早めに医療機関を受診することを強くお勧めします。
- これまでに経験したことのないような、非常に激しい頭痛
- 急に始まった激しい頭痛で、時間とともに悪化する
- 頭痛が常に頭部の片側だけに起こる
- 頭痛が目の奥やこめかみのあたりに集中している
- 頭痛発作が短時間(15分〜3時間)で治まることが多い
- 頭痛発作中に、痛みと同じ側の目の充血、涙、鼻水、鼻づまり、まぶたの下垂などの症状を伴う
- 頭痛発作が、特定の期間(数週間〜数ヶ月)に集中して毎日またはほぼ毎日起こる
- 頭痛発作が夜間や睡眠中に起こりやすい
- アルコールや喫煙で頭痛が誘発される
これらの特徴に当てはまる場合は、群発頭痛の可能性が高いと考えられます。特に、頭痛専門医や神経内科医がいる医療機関を受診することをお勧めします。専門医であれば、群発頭痛の診断基準に精通しており、適切な問診と診察によって正確な診断を行い、最新の治療法を提供してくれます。
「ただの頭痛だから」「市販薬でごまかせるだろう」と思わずに、まずは専門医に相談することが、激しい痛みから解放される第一歩となります。
まとめ
群発頭痛は、その名の通り、特定の期間に集中して発作を繰り返す非常に激しい頭痛です。常に頭部の片側、特に目の奥やこめかみに突き刺すような痛みが起こり、痛みと同じ側の顔面に目の充血、涙、鼻水などの自律神経症状を伴うのが特徴です。
原因はまだ完全には解明されていませんが、脳の視床下部や三叉神経、自律神経の関与が考えられています。群発期には、アルコールや喫煙などが発作を誘発することが知られています。
診断は主に医師による問診と診察によって行われ、発作パターンや症状の詳細を正確に伝えることが重要です。治療法としては、発作時に痛みを速やかに抑えるトリプタン製剤の注射や点鼻薬、酸素吸入療法といった急性期治療と、群発期の発作頻度を減らすためのベラパミルやステロイドなどによる予防療法があります。これらの治療法を適切に組み合わせることで、激しい痛みをコントロールすることが可能です。
群発頭痛は完治が難しい病気ですが、適切な治療を受ければ痛みを抑え、日常生活への影響を最小限に抑えることができます。激しい頭痛や、この記事で解説したような特徴的な症状にお悩みの方は、一人で悩まずに、必ず頭痛専門医や神経内科医に相談してください。早期に正確な診断を受け、適切な治療を開始することが、痛みの苦痛を和らげる上で非常に重要です。
免責事項: 本記事は一般的な情報提供を目的としており、個々の患者さんの症状に対する診断や治療法を示すものではありません。実際の診断や治療は、必ず医師の判断のもとで行ってください。