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【女性の悩み】腟弛緩症かも?出産後の膣のゆるみや排便困難の原因と対策

多くの女性が誰にも相談できずに一人で抱え込んでいる「腟のゆるみ」のお悩み。
これは「腟弛緩症」と呼ばれる状態かもしれません。
腟弛緩症は、出産や加齢などが原因で腟がゆるみ、様々な不快な症状を引き起こす疾患です。
しかし、適切な知識を持ち、専門医に相談することで、症状の改善や生活の質の向上を目指すことが可能です。
この記事では、腟弛緩症の原因やメカニズム、具体的な症状、ご自身でできるチェック方法、そして最新の治療法まで、専門医の視点から分かりやすく解説します。
もしあなたが腟のゆるみやそれに伴う症状にお悩みでしたら、ぜひこの記事を参考に、一歩踏み出してみてください。

腟弛緩症の定義とメカニズム

腟弛緩症(Vaginal Relaxation Syndrome: VRS)は、腟壁や周囲の組織が弾力性を失い、緩んでしまう状態を指します。
これは病気というよりは、機能的な変化と捉えられることが多いですが、女性の体と心に大きな影響を与えることがあります。
腟のゆるみは、腟の直径が広がり、腟壁の摩擦が減少することで生じます。

このゆるみには、骨盤底筋群の機能低下が深く関わっています。
骨盤底筋群とは、骨盤の底にあるハンモック状の筋肉の集まりで、子宮や膀胱、直腸などの臓器を支えたり、尿や便をコントロールしたりする重要な役割を担っています。
腟もこの骨盤底筋群によって支えられています。
しかし、骨盤底筋群が弱くなったり損傷したりすると、腟をしっかりと支えきれなくなり、腟壁もたるんでゆるみが生じます。

腟弛緩症は、見た目では分かりにくいことも多く、主に自覚症状として認識されます。
性交時の感覚の変化や、立ち上がった時、歩いている時に腟のゆるみや異物感を感じることがあります。

腟弛緩症の主な原因(出産・加齢・肥満など)

腟弛緩症は、いくつかの要因が複合的に関連して発生することが多いです。
主な原因としては、以下のようなものが挙げられます。

  • 出産: 経腟分娩は、腟や骨盤底筋群に大きな負担をかけます。
    特に難産であったり、赤ちゃんが大きかったり、分娩時間が長かったりした場合、筋肉や靭帯が引き伸ばされたり損傷したりするリスクが高まります。
    複数回の出産を経験することも、腟弛緩症のリスク因子となります。
  • 加齢: 年齢を重ねると、全身の筋肉量や筋力が低下するのと同様に、骨盤底筋群も衰えていきます。
    また、女性ホルモン(エストロゲン)の分泌量が閉経期に向けて減少することで、腟壁や骨盤底組織のコラーゲンが減少し、弾力性が失われることも大きな原因となります。
  • 肥満: 過体重や肥満は、常に骨盤底に大きな負担をかけます。
    これにより、骨盤底筋群が疲弊し、機能が低下しやすくなります。
  • 慢性的な咳や便秘: 長期間にわたる慢性的な咳(喘息や喫煙などによる)や、排便時に強くいきむ習慣がある場合、腹圧が繰り返し骨盤底にかかり、骨盤底筋群を弱める原因となります。
  • 重労働: 重いものを持ち上げる機会が多い仕事や日常生活も、腹圧を高め、骨盤底に負担をかける可能性があります。
  • 遺伝的要因: 生まれつき結合組織が弱いなど、体質的な要因が関連していることも考えられます。

これらの原因が単独あるいは複数組み合わさることで、腟や骨盤底筋群の構造が変化し、腟弛緩症が引き起こされます。

関連する骨盤臓器脱(膀胱瘤・直腸瘤・腟脱など)

腟弛緩症は、しばしば骨盤臓器脱の前段階であったり、同時に発症したりすることがあります。
骨盤臓器脱とは、骨盤内の臓器(膀胱、子宮、直腸など)が本来の位置から下垂し、腟壁を押し下げて腟口から飛び出してくる状態です。
骨盤底筋群やそれを支える靭帯が弱くなることで起こります。

腟弛緩症と関連性の深い骨盤臓器脱の種類には、以下のようなものがあります。

  • 膀胱瘤(ぼうこうりゅう): 膀胱が下垂し、腟の前壁を押し出す状態です。
    尿漏れや頻尿、排尿困難などの症状を伴うことがあります。
  • 直腸瘤(ちょくちょうりゅう): 直腸が下垂し、腟の後壁を押し出す状態です。
    排便困難、残便感、指で腟壁や会陰部を押さないと便が出にくい(用手圧迫)などの症状を伴うことがあります。
  • 子宮脱(しきゅうだつ): 子宮が下垂し、腟口から出てくる状態です。
    下垂が進むと、常に腟口からピンポン玉のようなものが出ているような感覚や、下着が擦れて出血することもあります。
  • 腟脱(ちつだつ): 子宮摘出術を受けた後に、腟の先端が下垂してくる状態です。

腟弛緩症は、骨盤底筋群の機能低下による「ゆるみ」が主体ですが、骨盤臓器脱は臓器そのものの下垂が主体です。
しかし、どちらも骨盤底の支持機能の低下が根本にあるため、合併して起こることが多く、症状も似ている場合があります。
特に、直腸瘤は腟弛緩症の症状である「排便困難」や「残便感」と強く関連しており、腟のゆるみを感じている方が直腸瘤を合併しているケースも少なくありません。

腟のゆるみを感じる症状

腟のゆるみを感じる主な症状は以下の通りです。

  • 性交時の感覚の変化: 最も多くの女性が気づく症状です。
    性交時に腟の締まりがなくなり、スカスカする、パートナーに物足りなさを感じさせそう、と感じることがあります。
    また、挿入時の摩擦感が減少したり、性感を得にくくなったりすることもあります。
    パートナーからも指摘されるケースもあります。
  • 腟からの空気漏れ(腟鳴): 特に運動中や性交中に、腟から空気が漏れるような音(おならのような音)がすることがあります。
    これは、ゆるんだ腟内に空気が入り込みやすくなるために起こります。
  • 立ち上がる、歩く、動く時の違和感: 立つ、座る、歩く、階段を昇り降りするといった日常動作の中で、腟がゆるんでいるような、何か挟まっているような、あるいは垂れ下がっているような不快な感覚を覚えることがあります。
  • 異物感や下垂感: 腟の中に何かがあるような感じや、腟全体が下がってくるような感覚を覚えることがあります。
    これは骨盤臓器脱が合併している場合により強く感じられる傾向があります。
  • タンポンが落ちやすい: 生理中にタンポンを使用する際に、以前よりも落ちやすくなったと感じることがあります。

これらの症状は、特に夕方になると強くなる傾向があります。
これは、日中の活動で骨盤底筋群が疲れてくるためと考えられます。

排尿・排便に関する症状(尿漏れ・便秘・残便感)

腟弛緩症は、骨盤底筋群の機能低下と関連しているため、尿や便のコントロールに関わる症状が現れることも少なくありません。

  • 腹圧性尿失禁: 咳やくしゃみ、笑ったり、重いものを持ち上げたり、急に立ち上がったりした時に、お腹に力が入る(腹圧がかかる)ことで、意図せず尿が漏れてしまう症状です。
    軽度の場合もあれば、日常生活に支障をきたすほど漏れることもあります。
  • 切迫性尿失禁: 急に強い尿意を感じ、「間に合わないかも」と思ってトイレに駆け込むものの、間に合わずに漏らしてしまう症状です。
    これは骨盤底筋だけでなく、膀胱の過活動も関連していることがあります。
  • 頻尿: トイレに行く回数が増える症状です。
    膀胱の下垂や、骨盤底筋の機能低下が原因で膀胱をしっかりと支えきれないことが影響している場合があります。
  • 排尿困難: 尿を出すのに時間がかかったり、お腹に力を入れないと出にくかったりする症状です。
    膀胱瘤が進行すると起こることがあります。
  • 便秘: 骨盤底筋群がうまく機能しないと、排便時に直腸や肛門を適切にリラックスさせたり収縮させたりすることが難しくなり、便秘を引き起こすことがあります。
  • 残便感: 排便後も直腸に便が残っているような感覚を覚えることがあります。
    これは直腸瘤の典型的な症状の一つです。
  • 排便困難(用手圧迫): 便を出す際に、腟壁や会陰部(腟と肛門の間)を指で押さないと便が出にくい、という症状です。
    これは直腸瘤が原因で、便が直腸の瘤状になった部分に引っかかってしまうために起こります。

これらの症状は、腟のゆるみそのものだけでなく、骨盤底筋群全体の機能低下や、骨盤臓器脱の合併を示唆している可能性があります。

便が拭ききれない・平べったい便の原因とも関連?

腟弛緩症、特に直腸瘤を合併している場合、排便に関するさらに具体的な悩みが現れることがあります。

  • 便が拭ききれない: 排便後、肛門周囲が汚れてしまい、何度拭いてもきれいにならないと感じることがあります。
    これは、直腸瘤によって直腸が完全に空にならず、少量の便が残ってしまうことや、骨盤底筋の機能低下により肛門括約筋の働きが十分でないことが原因で起こりえます。
  • 平べったい便: 便の形状が平たくなったり、細くなったりすることがあります。
    これも、直腸瘤によって直腸が圧迫されたり、通過する空間が狭くなったりすることで起こる可能性があります。

これらの症状は、多くの女性が恥ずかしくて誰にも相談できずに一人で悩んでいることが多いですが、実は直腸瘤などの骨盤底の機能障害と関連している可能性が高い症状です。

性生活への影響と悩み

腟弛緩症は、性生活に大きな影響を与え、女性の自信やパートナーシップに影を落とすことがあります。

  • 自信の低下: 腟のゆるみを感じることで、「自分は女性として魅力がなくなったのではないか」「パートナーに満足してもらえないのではないか」といった不安や劣等感を抱き、性生活に消極的になってしまうことがあります。
  • 性交痛: 腟のゆるみそのものが直接の原因ではありませんが、腟の乾燥や萎縮が合併している場合、性交痛を伴うことがあります。
    また、精神的なストレスが性交痛を引き起こすこともあります。
  • パートナーシップへの影響: 腟のゆるみについてパートナーに相談できない、あるいはパートナーから指摘されて傷ついた、といった経験は、お互いの関係性に溝を作ってしまう可能性があります。
    性生活の頻度が減少したり、性的なコミュニケーションが減ったりすることで、パートナーシップ全体に影響が及ぶことも考えられます。
  • 性感の低下: 腟のゆるみにより、性交時の摩擦感が減少し、オーガズムを感じにくくなることがあります。
    これは、性的な満足度を低下させる要因となります。

性に関する悩みは非常にデリケートであり、一人で抱え込みがちですが、これらの悩みも腟弛緩症の重要な症状の一つです。
専門医はこれらの悩みにも寄り添い、適切なアドバイスや治療を提供することが可能です。

自分でできる腟弛緩症セルフチェック(直腸瘤症状チェックを含む)

ご自身の腟の状態や骨盤底筋の機能について、簡単にチェックできる項目を以下に示します。
当てはまる数が多いほど、腟弛緩症や骨盤底機能障害の可能性が高いと考えられます。

項目 はい いいえ
性交時に腟の締まりがない、スカスカする感じがする。
性交時にパートナーに物足りなさを感じさせていそうだと感じる。
運動中や性交中に腟から空気が漏れるような音がすることがある。
立ち上がる、歩く、動く時に腟がゆるんでいるような違和感がある。
腟の中に何か挟まっているような、垂れ下がっているような感覚がある。
生理中にタンポンが以前より落ちやすくなったと感じる。
咳やくしゃみ、笑った時などに尿が漏れることがある。
急に尿意を強く感じて、トイレまで間に合わないことがある。
尿を出すのに時間がかかる、お腹に力を入れないと出にくい。
便秘がちである。または排便に時間がかかる。
排便後も直腸に便が残っているような残便感がある。
便を出す際に、腟壁や会陰部を指で押さないと出にくいことがある。
排便後、何度拭いても肛門周囲がきれいにならないことがある。
便の形状が平たくなったり、細くなったりすることが多い。
腟のゆるみや関連症状によって、性生活に影響が出ている。

チェックが多いほど、腟弛緩症や骨盤底筋機能障害の可能性が高まります。
特に、直腸瘤の症状チェック(残便感、用手圧迫、便が拭ききれない、平べったい便)に当てはまる場合は、専門医への相談を強くお勧めします。
これらのチェックリストはあくまで目安であり、診断ではありません。
正確な診断と適切なアドバイスを受けるためには、医療機関を受診することが重要です。

問診と内診による診断

医療機関を受診したら、まずは医師による丁寧な問診が行われます。
問診では、以下のようなことを聞かれます。

  • 具体的な症状の内容(いつから、どのような時に、どの程度感じるか)
  • 症状が日常生活や性生活にどのように影響しているか
  • 出産の経験(回数、分娩方法、難産の有無など)
  • これまでの病歴や手術歴(特に婦人科や泌尿器科関連)
  • 現在服用している薬
  • 排尿・排便の習慣や悩み
  • 過去の骨盤底筋トレーニングの経験
  • 喫煙習慣や慢性的な咳の有無
  • ご家族に同様の症状の方がいるか

正直に、包み隠さず話すことが重要です。
恥ずかしいと感じる方もいらっしゃるかもしれませんが、医師は多くの患者さんの悩みに接していますので安心して相談してください。

問診の後、内診が行われます。
内診では、視診と触診によって腟や外陰部の状態、骨盤底筋群の筋力、そして骨盤臓器(膀胱、子宮、直腸など)の下垂の有無や程度を確認します。

  • 視診: 外陰部の状態や、腟口から臓器が出てきていないかなどを確認します。
    咳をしたり、お腹に力を入れたりした時に、腟壁や臓器が下垂する様子を観察することもあります。
  • 触診: 指を腟に挿入し、腟壁のゆるみの程度や、骨盤底筋群の収縮力を確認します。
    「締めてください」「緩めてください」といった指示に合わせて、骨盤底筋を意識して動かすように促されることがあります。
    これにより、骨盤底筋の機能状態を評価します。
    また、直腸側から触診して直腸瘤の有無や程度を確認することもあります。
    子宮や膀胱の位置、硬さなども同時に確認します。

内診は、腟弛緩症の診断や骨盤臓器脱の程度の評価において、非常に重要な検査です。

その他の検査

問診と内診である程度の診断は可能ですが、症状の詳細を把握したり、他の疾患を除外したりするために、追加で検査が行われることがあります。

  • 尿流量測定・残尿測定: 尿漏れや排尿困難の症状がある場合に行われます。
    トイレで排尿する際に、尿の勢いや量を測定し、排尿後に膀胱内に尿がどのくらい残っているかを超音波などで測定します。
    これにより、膀胱の機能や排尿障害の有無を評価します。
  • 膀胱鏡検査: 頻尿や血尿などの症状がある場合、膀胱や尿道の状態を直接観察するために行われることがあります。
  • 超音波(エコー)検査: 骨盤内の臓器(膀胱、子宮、卵巣、直腸など)の状態や位置を確認するために行われます。
    経腟超音波や経腹超音波などがあります。
  • MRI検査: 骨盤底全体の構造や、骨盤臓器脱の詳細な状態をより正確に把握するために行われることがあります。
    特に複雑なケースや手術を検討する際に有用です。
  • 排泄機能検査(ウロダイナミクス検査など): 尿漏れや排尿困難の原因を詳しく調べるために、膀胱の働きや尿道の抵抗などを測定する専門的な検査です。
  • 直腸肛門機能検査: 便秘や排便困難の症状がある場合、直腸の感覚や肛門括約筋の働きなどを詳しく調べるために行われることがあります。

これらの検査は、すべての患者さんに行われるわけではなく、個々の症状や医師の判断によって必要性が検討されます。

保存的治療(骨盤底筋トレーニング・フェミクッションなど)

保存的治療は、手術を行わずに症状の緩和を目指す治療法です。
軽度から中等度の腟弛緩症や骨盤臓器脱に有効な場合が多く、また手術後の再発予防にも重要です。

  • 骨盤底筋トレーニング: 最も基本的かつ重要な保存的治療法です。
    骨盤底筋群を意識的に収縮・弛緩させる運動を繰り返し行うことで、筋力と引き締め効果を高めます。
    継続することで、腟のゆるみの改善や尿漏れの軽減、骨盤臓器の下垂予防に効果が期待できます。
    • トレーニング方法の例:
      1. 仰向けになり、膝を立てます。
      2. 息を吐きながら、腟・尿道・肛門をキュッと締め上げるように力を入れます。
        まるで尿や便を我慢するような感覚です。
      3. 力を入れたまま5秒キープします。
      4. 息を吸いながら、ゆっくりと力を抜きます。
        完全にリラックスさせることが重要です。
      5. これを10回繰り返します。
      6. 慣れてきたら、力を入れたまま10秒キープしたり、立った状態や座った状態で行ったり、短く素早く締めたり緩めたりする運動(クイックフラックス)を組み合わせたりします。
    • ポイント: 毎日、朝晩など決まった時間に行うことが大切です。
      日常生活の中で(例えば、信号待ちやエレベーターの中など)意識して行う習慣をつけるのも良いでしょう。
      正しい方法で行えているか不安な場合は、専門のリハビリテーションスタッフや医師の指導を受けることをお勧めします。
      バイオフィードバック療法や電気刺激療法を併用することもあります。
  • ペッサリー: 骨盤臓器脱の治療に用いられる医療機器です。
    リング状やキューブ状など様々な形があり、腟内に挿入して下垂した臓器を支えることで、腟のゆるみ感や下垂感を軽減します。
    毎日ご自身で着脱するもの、数ヶ月に一度医療機関で交換するものなどがあります。
    腟弛緩症そのものを治すわけではありませんが、症状の緩和に有効な選択肢です。
  • フェミクッション: 下着の上から装着し、クッションで腟口を物理的に支えることで、骨盤臓器脱による不快感や下垂感を軽減するサポート装具です。
    ペッサリーの使用が難しい方や、特定の活動時のみ使用したい方などに有用です。
  • 生活習慣の改善: 前述の原因で挙げたような、腹圧をかける機会を減らすことも重要です。
    具体的には、
    • 便秘を解消し、排便時に強くいきまないようにする(食物繊維を多く摂る、水分を十分に摂る、適度な運動を行うなど)。
    • 慢性的な咳がある場合は治療する。
    • 重いものを持ち上げる際は、腹圧をかけすぎないように注意する。
    • 適正体重を維持する。
    • 禁煙する。

手術療法について

保存的治療では症状が改善しない場合や、骨盤臓器脱が進んでいる場合、症状が重く日常生活に大きな支障をきたしている場合には、手術療法が検討されます。
手術の目的は、下垂した臓器を本来の位置に戻し、骨盤底の支持構造を再建することです。
腟弛緩症そのものに対しても、緩んだ腟壁を修復する手術が行われることがあります。

  • レクトシール(直腸瘤)に対する手術: 直腸瘤が主な症状(特に排便困難や残便感、用手圧迫)の原因となっている場合、直腸瘤を修復する手術が行われます。
    最も一般的な術式は後方腟壁形成術(こうほうちつへきけいせいじゅつ)です。
    これは、腟の後壁を切開し、たるんだ腟壁や直腸周囲の弱くなった組織を縫い縮めることで、直腸瘤を修復し、腟の後壁を補強する手術です。
    この手術は、腟のゆるみ(特に後方)の改善にもつながります。
  • その他の手術方法: 合併している骨盤臓器脱の種類や程度によって、様々な術式が選択されます。
    • 前方腟壁形成術(ぜんぽうちつへきけいせいじゅつ): 膀胱瘤を修復する手術で、腟の前壁を切開し、膀胱を支える組織を補強します。
    • 腟式子宮全摘術+骨盤底形成術: 子宮脱がある場合、子宮を摘出し、同時に腟壁の形成や骨盤底の補強を行います。
    • メッシュ手術(腹腔鏡下仙骨腟固定術など): 弱くなった自己の組織の代わりに、ポリプロピレン製のメッシュを用いて骨盤底の支持構造を補強する手術です。
      以前は経腟的にメッシュを挿入するTVM手術が広く行われていましたが、メッシュ関連の合併症が問題視されるようになり、現在は腹腔鏡下や開腹による仙骨腟固定術(Sacrocolpopexy)など、特定の状況でのみ慎重に選択されるようになっています。
    • 自己組織縫合術: メッシュを使用せず、患者さん自身の組織(靭帯や筋肉など)を縫い合わせて骨盤底を補強する手術です。
      メッシュ関連合併症のリスクはありませんが、自己組織が再び弱くなることによる再発の可能性はあります。

どの手術が適しているかは、患者さんの年齢、全身状態、活動レベル、骨盤臓器脱の種類と程度、過去の手術歴などを考慮して、医師と十分に相談して決定されます。
手術の合併症や再発のリスクについても理解しておくことが重要です。

注射・レーザー治療

近年、腟弛緩症や腟萎縮に対する比較的低侵襲な治療法として、注射療法やレーザー治療が登場しています。
これらは手術ほどの劇的な効果は期待できない場合もありますが、メスを使わずに治療を受けたい方や、手術が難しい方にとって新しい選択肢となります。

  • ヒアルロン酸注入: 腟壁に医療用のヒアルロン酸を注入することで、腟壁に厚みと弾力性を持たせ、腟のボリュームを回復させます。
    これにより、性交時の摩擦感の改善や、腟のゆるみ感の軽減が期待できます。
    効果は一時的であり、数ヶ月から1年程度で吸収されるため、継続的な治療が必要です。
    局所麻酔で短時間で行えます。
  • 炭酸ガスレーザー治療(腟レーザー): 腟壁に特殊な炭酸ガスレーザーを照射することで、腟壁のコラーゲン生成を促進し、腟壁の厚みや弾力性を改善します。
    これにより、腟の引き締め効果や乾燥の改善、性交時の感覚改善などが期待できます。
    複数回の照射が必要となることが多く、効果には個人差があります。
    麻酔は不要な場合が多く、外来で手軽に受けられる治療法です。

これらの治療は、比較的新しい分野であり、長期的な効果や合併症に関する十分なエビデンスがまだ蓄積中のものもあります。
治療を受ける際は、その効果やリスクについて医師から十分に説明を受け、納得した上で選択することが重要です。

自己ケア・生活習慣の見直し

治療法と並行して、あるいは治療後も継続すべき重要なのが自己ケアと生活習慣の見直しです。
これらは、症状の改善を助け、治療効果を維持し、再発を予防するために欠かせません。

  • 骨盤底筋トレーニングの継続: 保存的治療としてだけでなく、手術後も継続することで、骨盤底筋の機能を維持・向上させ、再発予防につながります。
  • 健康的な食生活: 食物繊維を豊富に含む食品(野菜、果物、きのこ、海藻類など)を積極的に摂り、水分を十分に摂ることで、便秘を予防し、排便時のいきみを減らしましょう。
  • 適度な運動: 全身の健康維持に加えて、体幹を鍛える運動は骨盤底筋のサポートにもつながります。
    ただし、腹圧がかかりすぎる激しい運動(腹筋運動、重量挙げなど)は、症状が悪化する可能性があるので注意が必要です。
    ウォーキングや水泳、ヨガ、ピラティスなどが推奨されます。
  • 体重管理: 適正体重を維持することで、骨盤底にかかる負担を軽減できます。
  • 正しい排便習慣: 便意を感じたら我慢せず、リラックスできる体勢で排便するように心がけましょう。
    長時間トイレに座ったり、強くいきんだりするのは避けましょう。
  • 重いものを持ち上げる際は注意: やむを得ず重いものを持ち上げる際は、膝を曲げてしゃがみ、骨盤底筋を意識的に締めるように意識しましょう。
    可能であれば、誰かに手伝ってもらったり、台車などを利用したりする工夫も有効です。
  • 正しい姿勢を意識する: 普段から良い姿勢を保つことも、骨盤底にかかる負担を分散させるのに役立ちます。
    猫背や前かがみの姿勢は、腹圧がかかりやすくなる可能性があります。

これらの自己ケアと生活習慣の見直しは、日々の積み重ねが大切です。
無理なく続けられる範囲で、ライフスタイルに取り入れていきましょう。

泌尿器科・婦人科・ウロギネ専門医について

腟弛緩症や関連する症状について悩んだ時、何科を受診すれば良いのか迷う方もいるかもしれません。
主に以下の科が考えられます。

  • 婦人科: 腟のゆるみや性交時の悩み、子宮脱や腟脱など、女性器に関する症状が主な場合は、婦人科を受診するのが一般的です。
    多くの婦人科医は、骨盤底機能障害に関する基本的な知識を持っています。
  • 泌尿器科: 尿漏れや排尿困難など、排尿に関する症状が主な場合は、泌尿器科を受診するのが良いでしょう。
    男性の疾患を扱うイメージが強いかもしれませんが、女性の排尿トラブルも専門分野です。
    膀胱瘤に対する知識や治療経験が豊富な医師もいます。
  • 女性泌尿器科・ウロギネコロジー(ウロギネ)専門医: 泌尿器科と婦人科の両方の知識を持ち、女性特有の骨盤底機能障害(尿漏れ、骨盤臓器脱、腟弛緩症など)を専門とする医師です。
    「ウロギネ外来」や「女性専門外来」などを設けている医療機関もあります。
    腟のゆるみや骨盤底機能障害の症状は、泌尿器科的症状(尿漏れなど)と婦人科的症状(子宮脱など)が複合的に現れることが多いため、ウロギネ専門医は最も包括的な診断と治療を提供できる可能性が高いと言えます。
    特に、症状が複雑であったり、複数の臓器の下垂が合併していたり、過去に治療を受けたが改善しなかった・再発したといった場合には、ウロギネ専門医を受診することをお勧めします。

どの科を受診すべきか迷う場合は、かかりつけの婦人科医や泌尿器科医にまず相談してみるか、お住まいの地域のウロギネ専門医をインターネットなどで検索してみるのが良いでしょう。
恥ずかしがらずに、まずは専門家に相談することが大切です。

症状の進行とQOLの低下

腟弛緩症は、自然に改善することは少なく、多くの場合、時間とともに症状がゆっくりと進行します。
特に、原因となる要因(加齢、肥満、慢性的な腹圧など)が継続していれば、腟のゆるみはさらに悪化する可能性があります。

症状の進行は、以下のような形でQOL(生活の質)を著しく低下させます。

  • 不快感の増強: 腟のゆるみ感、異物感、下垂感などが強くなり、常に気になってしまうようになります。
  • 尿漏れの悪化: 腹圧性尿失禁の回数や量が増えたり、切迫性尿失禁が加わったりすることで、外出を控えるようになったり、旅行や運動などを楽しめなくなったりします。
  • 排便困難の悪化: 便秘がひどくなったり、用手圧迫なしでは排便が非常に困難になったりすることで、日常生活に大きな負担がかかります。
  • 性生活への影響: 性交時の満足度がさらに低下したり、性交渉そのものを避けるようになったりすることで、パートナーとの関係性にさらに影響が出ることがあります。
  • 精神的な苦痛: 症状による不快感や不安、羞恥心から、抑うつ状態になったり、引きこもりがちになったりすることもあります。

これらの症状が進行すると、日常生活や社会活動が制限され、精神的な負担も大きくなります。

関連疾患リスクの増加

腟弛緩症を放置し、骨盤底筋の機能低下や骨盤臓器の下垂が進むと、以下のような関連疾患のリスクが増加します。

  • 骨盤臓器脱の進行: 腟のゆるみの根本にある骨盤底の支持機能の低下が続けば、膀胱瘤、直腸瘤、子宮脱、腟脱といった骨盤臓器脱がさらに進行し、腟口から臓器が大きく飛び出すような状態になるリスクが高まります。
    進行した骨盤臓器脱は、痛みや出血、歩行困難などを引き起こし、最終的には手術が必要になる可能性が高くなります。
  • 尿路感染症: 膀胱瘤により膀胱が完全に空にならない(残尿が生じる)と、細菌が繁殖しやすくなり、膀胱炎などの尿路感染症を繰り返すリスクが高まります。
  • 皮膚炎や潰瘍: 骨盤臓器が腟口から飛び出して下着と擦れると、粘膜が傷ついて炎症を起こしたり、潰瘍ができたりすることがあります。
  • 腎機能への影響(稀): 非常に稀ですが、重度の子宮脱や腟脱により尿管が圧迫され、腎臓で作られた尿が膀胱に流れにくくなり、水腎症や腎機能障害を引き起こす可能性もゼロではありません。

このように、腟弛緩症は放置することで、症状が悪化するだけでなく、様々な関連疾患のリスクを高めてしまいます。
症状に気づいたら、できるだけ早期に専門医に相談し、適切な対策や治療を開始することが、これらの問題を予防し、健康な毎日を送るために非常に重要です。

妊娠・出産前後からできる対策

妊娠と出産は、骨盤底筋群に大きな負担をかける機会です。
この時期から意識的にケアを行うことが、その後の腟弛緩症や骨盤臓器脱の予防に繋がります。

  • 妊娠中の骨盤底筋トレーニング: 妊娠中から骨盤底筋トレーニングを行うことで、出産に備えて骨盤底筋群の柔軟性と筋力を高めることができます。
    これにより、分娩時の負担を軽減し、産後の回復を助ける効果が期待できます。
    ただし、医師や助産師の指導のもと、無理のない範囲で行うことが重要です。
  • 適切な体重管理: 妊娠中の過度な体重増加は、骨盤底への負担を増やします。
    医師や助産師の指導に基づき、適切な体重増加量を心がけましょう。
  • 産後の骨盤底筋トレーニング: 出産後、体の回復を待ってから(一般的には産褥期を過ぎてから)、できるだけ早期に骨盤底筋トレーニングを開始することが非常に重要です。
    出産によって弱くなった骨盤底筋群の回復を促進し、将来的な腟弛緩症や骨盤臓器脱の予防に大きく貢献します。
    毎日続けることが大切です。
  • 排便・排尿習慣の注意: 産後は便秘になりやすい方もいますが、排便時に強くいきむのは避けましょう。
    水分や食物繊維を十分に摂り、必要に応じて医師に相談して便秘薬などを利用しましょう。

日常生活での注意点

妊娠・出産期だけでなく、日頃からの生活習慣も腟弛緩症の予防に関わってきます。

  • 骨盤底筋トレーニングの習慣化: 特に加齢に伴う筋力低下を緩やかにするため、日常的に骨盤底筋トレーニングを続けることが推奨されます。
    テレビを見ながら、歯磨きをしながらなど、隙間時間を活用して行う習慣をつけましょう。
  • 体重管理: 適正体重を維持することは、骨盤底だけでなく全身の健康のためにも重要です。
  • 便秘や慢性の咳の改善: 便秘がある場合は食事や運動などで改善を目指し、難しければ医療機関に相談しましょう。
    慢性的な咳がある場合も、原因疾患を治療することが骨盤底への負担軽減につながります。
  • 重いものを持ち上げる際の工夫: 重いものを持ち上げる際は、できるだけ膝を使い、腰や骨盤底に急激な負担がかからないように注意しましょう。
    可能であれば、誰かに手伝ってもらったり、台車などを利用したりする工夫も有効です。
  • 正しい姿勢を意識する: 普段から良い姿勢を保つことも、骨盤底にかかる負担を分散させるのに役立ちます。
    猫背や前かがみの姿勢は、腹圧がかかりやすくなる可能性があります。

これらの予防策は、腟弛緩症だけでなく、骨盤臓器脱や尿漏れといった他の骨盤底機能障害の予防にも繋がります。
今日からできることから始めてみましょう。

改善例と治療効果

多くの腟弛緩症の患者さんは、適切な治療やケアによって症状の改善を実感できます。

  • 保存的治療による改善: 軽度から中等度の腟弛緩症や骨盤臓器脱の場合、骨盤底筋トレーニングを継続することで、骨盤底筋の筋力が向上し、腟のゆるみ感が軽減したり、尿漏れの回数や量が減ったりすることが期待できます。
    排便習慣の見直しによって、排便困難や残便感が改善する方もいます。
    これらの効果は、数ヶ月から半年、あるいはそれ以上の期間をかけて徐々に現れることが多いです。
  • 手術療法による改善: 手術は、下垂した臓器を解剖学的に正しい位置に戻し、骨盤底の支持構造を再建するため、症状の劇的な改善が期待できます。
    特に、直腸瘤によって長年悩まされていた排便困難や残便感が、後方腟壁形成術によって完全に消失したという症例は多く見られます。
    手術によって臓器の下垂感がなくなり、性交時の感覚が改善したという方もいます。

治療効果の現れ方や程度は、個々の症状の重症度、骨盤底の状態、選択された治療法、そして患者さんの年齢や全身状態などによって異なります。
しかし、多くの場合は治療を受けることで、症状が軽減され、日常生活や性生活の質が向上します。

再発の可能性と予防策

残念ながら、腟弛緩症や骨盤臓器脱は、一度治療しても再発する可能性があります。
特に、骨盤底筋の根本的な弱さや、加齢、慢性的な腹圧などの原因が残っている場合、再発のリスクは高まります。

例えば、直腸瘤の手術(後方腟壁形成術)によって排便困難が改善しても、その後の生活で再び強くいきむ習慣を続けたり、体重が増加したり、骨盤底筋トレーニングを怠ったりすると、時間が経ってから再び直腸瘤が再発したり、別の臓器(膀胱や子宮)が下垂してきたりすることがあります。

再発を予防するためには、治療後の継続的なケアが非常に重要です。

  • 骨盤底筋トレーニングの継続: 治療によって症状が改善した後も、骨盤底筋トレーニングを毎日続けることを習慣にしましょう。
    これは、骨盤底筋の筋力を維持し、再度のゆるみや下垂を防ぐための最も重要な予防策です。
  • 生活習慣の維持: 便秘予防、適正体重の維持、禁煙、重いものを持ち上げる際の注意など、前述の予防策を継続して行うことが、再発リスクを減らすことに繋がります。
  • 定期的な検診: 治療を受けた医療機関で、定期的に骨盤底の状態をチェックしてもらうことも大切です。
    症状がなくても、早期に変化に気づくことで、重症化する前に対応できます。
  • 症状が出たら早期に相談: もし、治療後に再び腟のゆるみや関連症状を感じるようになったら、我慢せずに早めに医療機関に相談しましょう。
    早期に発見すれば、比較的簡単な治療で対応できる場合もあります。

治療によって症状は改善しますが、骨盤底は日々の生活の中で常に負担にさらされています。
治療後の適切なケアと予防策を継続することが、良好な予後を維持するために非常に大切です。

腟弛緩症は、多くの女性が経験する可能性のある一般的な悩みです。
腟のゆるみ、尿漏れ、排便困難、そして性生活への影響など、様々な不快な症状を引き起こし、女性のQOLを著しく低下させることがあります。
しかし、これは決して恥ずかしいことではなく、年齢や出産の経験がある女性にとっては起こりうる自然な変化の一部とも言えます。

最も重要なのは、一人で悩みを抱え込まず、専門家に相談することです。
腟弛緩症は、原因や症状の程度によって、保存的治療から手術療法、注射・レーザー治療まで、様々な治療法や改善策があります。
ご自身の症状に合わせた最適な方法を選択することで、辛い症状を軽減し、生活の質を大きく向上させることが可能です。

特に、尿漏れや排便困難を伴う場合、あるいは腟の中に何か触れるような感覚がある場合は、骨盤臓器脱が合併している可能性も考えられます。
これらの症状は、放置すると進行してしまうこともあります。

この記事を読んで、ご自身の症状が腟弛緩症かもしれないと感じた方、あるいはセルフチェックで気になる項目が多かった方は、ぜひ一度、婦人科や泌尿器科、特に女性泌尿器科やウロギネを専門とする医師にご相談ください。
専門医は、あなたの悩みに真摯に耳を傾け、正確な診断に基づいた適切なアドバイスと治療法を提案してくれます。

あなたの悩みを解決し、より快適な毎日を送るために、最初の一歩を踏み出しましょう。

免責事項:

本記事で提供する情報は一般的な医学的知見に基づくものであり、個々の症状や状態に応じた診断、治療を保証するものではありません。
特定の症状にお悩みの方や、治療法の選択については、必ず専門の医療機関にご相談ください。
治療方法の効果や副作用には個人差があります。

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