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生理休暇は誰でも取れる?有給?無給?|労働基準法と申請方法を解説

生理休暇は、女性が月経期間中に体調不良となった際に取得できる休暇制度です。
労働基準法で定められており、働く女性が健康を保ちながら就業を継続するために重要な権利の一つです。
しかし、その内容や取得方法、賃金の扱いなどについて、正確に理解されていないケースも少なくありません。

本記事では、生理休暇に関する労働基準法の規定、取得条件、申請方法、賃金に関するルール、そして企業が注意すべき点や制度の現状・課題について、専門家監修のもと、分かりやすく解説します。
生理休暇について正しく理解し、適切に制度を活用・運用するための参考にしてください。

目次

生理休暇とは?法律上の位置づけ

生理休暇の定義と目的

生理休暇は、働く女性の健康を守るために設けられた制度です。
月経に伴う体調不良は個人差が大きく、中には通常の勤務が困難になるほどの症状に悩まされる女性もいます。
このような状況で無理をして就業することで、健康を害したり、業務効率が著しく低下したりすることを防ぐため、生理休暇が認められています。

この制度の主な目的は以下の通りです。

  • 女性労働者の健康保護: 月経時の体調不良による身体的・精神的な負担を軽減し、健康を維持・回復させること。
  • 就業の継続支援: 月経という避けられない生理現象による体調不良を理由に、不当な不利益を受けたり、就業を断念せざるを得なくなったりすることを防ぎ、長期的なキャリア形成を支援すること。
  • 快適な労働環境の整備: 月経随伴症状に悩む女性が、安心して必要な時に休暇を取得できるような、理解と配慮のある職場環境を促進すること。

生理休暇は、他の一般的な休暇とは異なり、特定の生理現象に基づいて認められる特別な休暇であるという点が特徴です。

労働基準法における生理休暇の規定

労働基準法第68条は、生理休暇について以下のように定めています。

使用者は、生理日の就業が著しく困難な女性が休暇を請求したときは、その者を生理日に就業させてはならない。

この条文から、生理休暇の重要なポイントがいくつか読み取れます。

  1. 請求権: 生理休暇は、女性労働者からの「請求」があって初めて使用者に就業させない義務が生じます。労働者自身が「生理日の就業が著しく困難である」と感じた場合に、自らの意思で請求する必要があります。
  2. 対象者: 生理日の就業が「著しく困難な女性」が対象です。これは、月経期間中の女性すべてに一律に与えられるものではなく、個々の症状に基づいて判断されるべきものです。
  3. 使用者の義務: 請求があった場合、使用者はその女性労働者を生理日に就業させてはなりません。これは使用者の義務であり、正当な理由なく請求を拒否することは労働基準法違反となります。
  4. 日数: 条文には「生理日」とあるだけで、具体的な日数の上限は定められていません。これは、生理に伴う症状の程度や期間が個人によって異なることを考慮したものです。

労働基準法は、あくまで生理休暇の最低基準を定めたものです。
企業によっては、就業規則で労働基準法を上回る手厚い規定を設けている場合もあります。
例えば、一定日数を有給とする、といった取り扱いです。

生理日の就業が著しく困難とは?

労働基準法第68条に規定される「生理日の就業が著しく困難」という状態の解釈は、生理休暇制度において非常に重要です。
この「著しく困難」の判断は、医学的な診断基準や客観的な証拠のみに限定されるものではありません。

具体的には、以下のような状態が含まれると考えられます。

  • 身体的な症状: 激しい月経痛(下腹部痛、腰痛など)、頭痛、吐き気、めまい、倦怠感、貧血などにより、通常の業務を遂行することが困難な状態。
  • 精神的な症状: 月経前症候群(PMS)や月経困難症に伴うイライラ、気分の落ち込み、集中力の低下などが著しく、業務に支障をきたす状態。

重要なのは、この判断は労働者本人の申告に基づき、個々の状況に応じて行われるべきであるということです。
一律の基準を設けることは難しいため、労働者本人が「著しく困難である」と感じ、休暇が必要であると判断した場合に、その意思が尊重されるべきと考えられています。

企業側は、労働者からの請求があった際に、この「著しく困難」の程度を過度に詮索したり、医学的な証明を厳格に求めたりすることは、制度の趣旨に反する可能性があります。
ただし、後述するように、不正取得の疑いがある場合など、限定的な状況では対応が必要となることもあります。
原則としては、労働者の自己申告を尊重する姿勢が求められます。

生理休暇の取得条件と請求方法

生理休暇は、労働基準法で定められた労働者の権利ですが、取得するためにはいくつかの条件を満たし、適切な手続きを踏む必要があります。

生理休暇の対象となる人

生理休暇を取得できるのは、生理日の就業が著しく困難な「女性労働者」です。

ここでいう「女性労働者」には、正社員だけでなく、パートタイマー、アルバイト、契約社員、派遣社員など、雇用形態にかかわらず、すべての女性労働者が含まれます。
日雇労働者であっても、継続的に雇用されている場合は対象となります。

また、「生理日」とは、医学的な月経期間のみを指すのではなく、月経に伴う体調不良が生じる期間全体を指すと考えられています。
例えば、月経開始前から強い症状が出る場合や、月経終了後も体調が優れない場合など、個人の症状に応じて判断されます。

生理休暇はどのように請求するのか

生理休暇は「請求」することによって発生する権利です。
労働基準法には請求方法に関する詳細な定めはありませんが、一般的には以下のいずれかの方法で請求することになります。

  • 口頭での請求: 上司や人事担当者などに直接、生理休暇を取得したい旨を伝える方法です。急な体調不良の場合などに用いられます。
  • 書面での請求: 休暇申請書やメールなどで、生理休暇を申請する方法です。就業規則で書面での申請を義務付けている企業もあります。
  • 社内システムでの申請: 多くの企業では、勤怠管理システムを通じて休暇を申請する仕組みを導入しています。生理休暇の項目がある場合は、これを利用します。

請求のタイミングについても法律上の定めはありませんが、企業の就業規則で「事前に〇日前までに」といったルールが定められている場合があります。
しかし、生理に伴う体調不良は予測が難しいため、急な請求であっても、それが正当な理由によるものであれば企業は拒否できません。

重要なのは、生理休暇の請求があったこと、そしてそれが生理日の就業困難を理由とするものであることが、使用者側に明確に伝わるようにすることです。

会社への具体的な伝え方(申請方法)

会社に生理休暇を申請する際は、以下のような点に留意するとスムーズです。

  1. 取得したい日を明確に伝える: 「〇月〇日の生理休暇を取得したいです。」といったように、いつ休暇を取りたいのかを具体的に伝えます。
  2. 理由を簡潔に伝える: 「生理痛がひどく、就業が困難なため、生理休暇をお願いします。」など、生理に伴う体調不良であることを理由として伝えます。詳細な症状をすべて説明する必要はありませんが、就業が著しく困難であるという状況が伝わるようにすると良いでしょう。
  3. 緊急の場合は迅速に連絡する: 当日朝に体調不良となった場合は、可能な限り早い段階で、電話やメールなど会社が定める緊急連絡手段で連絡します。
  4. 就業規則や社内ルールを確認する: 企業ごとに申請方法や必要な手続き(誰に連絡するか、どのシステムを使うかなど)が定められている場合があります。事前に就業規則などを確認しておくと迷わずに済みます。

会社によっては、生理休暇の申請フォームを用意していることもあります。
申請の際に、症状の程度や具体的な内容まで詳しく記述することを求める企業もあるかもしれませんが、労働者にはそこまで詳細に申告する義務はありません。
就業が著しく困難であることさえ伝えれば、基本的に申請は有効です。

診断書は必要か?

労働基準法では、生理休暇の請求にあたって診断書を提出することを義務付けていません。

これは、「生理日の就業が著しく困難」であるかどうかの判断は、労働者本人の主観的な要素も含むため、一律に医学的な証明を求めることが制度の趣旨にそぐわないからです。
また、毎回診断書を取得することは労働者にとって経済的・時間的な負担となり、制度利用をためらわせる要因にもなりかねません。

したがって、原則として、企業が労働者に対して生理休暇取得のために診断書の提出を求めることはできません。
もし企業が診断書の提出を義務付け、提出しないことを理由に生理休暇の取得を認めない場合は、労働基準法違反となる可能性があります。

ただし、就業規則に診断書の提出に関する規定がある場合や、あまりにも頻繁に生理休暇が取得され、その理由に合理的な疑義が生じるような特別なケースにおいては、労使間で話し合い、診断書の提出について合意が形成される可能性はゼロではありません。
しかし、これはあくまで例外的な対応であり、基本的には診断書は不要であると理解しておくべきです。

企業側は、診断書の提出を求めない代わりに、労働者との信頼関係に基づいて制度を運用することが望まれます。

取得できる日数の上限

労働基準法第68条には、生理休暇を取得できる日数に関する具体的な上限は定められていません。
条文にあるのは「生理日」という言葉のみです。

これは、生理に伴う体調不良の程度や期間が個人によって大きく異なるため、画一的な日数制限を設けることが現実的ではないという考え方に基づいています。
したがって、生理日の就業が著しく困難である状態が続く限り、必要な日数を取得できるということになります。

例えば、月経期間が長く、その期間中ずっと体調不良が続く場合や、月に複数回体調不良となる(例えば、月経前後の期間も含む)場合など、症状に応じて1回の月経で数日間の休暇が必要となることもあります。

ただし、無制限に取得できるという意味ではありません。
「著しく困難」な状態が継続していることが前提となります。
企業によっては、就業規則で「1回の生理につき〇日まで」といった目安を定めている場合もありますが、これはあくまで目安であり、労働基準法を上回る制限を課すことはできません。

長期にわたって頻繁に生理休暇を取得する必要がある場合は、背景に月経困難症などの病気が隠れている可能性も考えられます。
その場合は、医療機関を受診することや、企業と協力して働き方や環境について話し合うことも重要になります。

生理休暇中の賃金は?有給か無給か

生理休暇を取得する際に、多くの人が気にするのが賃金についてです。
生理休暇は、労働基準法によって取得が認められていますが、休暇中の賃金については法律でどのように定められているのでしょうか。

労働基準法上の賃金の定め

労働基準法第68条は、生理休暇中の賃金について以下のように定めています。

使用者は、生理日の就業が著しく困難な女性が休暇を請求したときは、その者を生理日に就業させてはならない。

この条文には、賃金に関する規定がありません。

つまり、労働基準法は「生理休暇を与えなければならない」という義務を使用者に課していますが、その休暇期間中の賃金を支払うかどうかの義務は定めていないのです。

したがって、労働基準法上は、生理休暇を無給としても差し支えないことになっています。

生理休暇を有給とするか無給とするか

生理休暇中の賃金については、労働基準法が使用者の判断に委ねているため、企業ごとに扱いが異なります。

  • 無給とする企業: 労働基準法の最低基準に則り、生理休暇期間中の賃金を支払わないとする企業が最も多いと考えられます。この場合、休暇を取得した時間または日数分の賃金が控除されます。
  • 有給とする企業: 労働基準法を上回る手厚い措置として、生理休暇を全日または一部有給とする企業も存在します。これは、企業の福利厚生の一環として行われるものであり、法律上の義務ではありません。有給とする場合、賃金の計算方法(所定労働時間分の賃金を支払うなど)は就業規則で定められます。

どちらの取り扱いをするかは、企業の就業規則によって定められています。
生理休暇を取得する前には、自社の就業規則で生理休暇に関する規定を確認することが重要です。
就業規則に明記されていない場合は、慣例や会社の方針を確認する必要があります。

賃金から控除されるケース

生理休暇を無給としている企業で休暇を取得した場合、以下のような形で賃金から控除されるのが一般的です。

  • 月給制の場合: 月給から、生理休暇を取得した時間または日数分の賃金が差し引かれます。控除額の計算方法は就業規則に定められています。例えば、「1日の控除額は、月給を所定労働日数で割った額とする」といった規定があります。
  • 時給制・日給制の場合: 働かなかった時間または日数に対しては賃金が発生しないため、その分だけ賃金が少なくなります。

賃金が控除されるかどうかは、あくまで就業規則の定めによります。
就業規則で「生理休暇は有給とする」と定められていれば、賃金は控除されません。

生理休暇は欠勤扱いになる?

生理休暇を無給とする場合、実質的に賃金が発生しないという点では「欠勤」と似た状態になります。
しかし、生理休暇は労働基準法で保障された「休暇」であり、正当な理由に基づく欠勤とは区別されるべきものです。

項目 生理休暇 欠勤
労働基準法上の位置づけ 法定休暇(第68条) 法定の休暇ではない
取得理由 生理日の就業が著しく困難な場合 自己都合、病気、慶弔など企業規定による
企業側の義務 請求があれば就業させてはならない(義務) 企業が許可するかどうかは企業規定による
賃金 法定では無給で可(企業による) 原則無給(企業規定による)
扱い 休暇として扱われるべき 就業しなかった状態

無給の生理休暇であっても、無断欠勤や正当な理由のない欠勤とは異なり、労働者の正当な権利行使です。
したがって、生理休暇を取得したことをもって、懲戒処分の対象としたり、査定で不当に低い評価をつけたりすることは、労働基準法違反(不利益取扱い)となる可能性があります。

企業は、無給の生理休暇を「欠勤」として扱う場合でも、その性質が他の欠勤とは異なることを認識し、不当な不利益が生じないように配慮する必要があります。

賞与や評価への影響

生理休暇が生涯賃金やキャリアに影響を与える可能性も考慮する必要があります。
特に、無給の生理休暇を取得した場合、それが賞与や人事評価に影響するかどうかが懸念されます。

  • 賞与への影響: 賞与の算定基準として、欠勤日数(または出勤率)を考慮する企業は多くあります。生理休暇を無給としている場合、その日数・時間分が欠勤日数として算入され、結果として賞与額が減額される可能性はあります。ただし、生理休暇を取得したこと自体を理由として、他の要素(業績や貢献度など)とは無関係に不当な減額を行うことは、不利益取扱いに該当する可能性があります。
  • 人事評価への影響: 人事評価において、勤務態度や貢献度などを評価する際に、生理休暇の取得日数が考慮される可能性もあります。しかし、これも同様に、生理休暇を取得したこと自体を理由として、業務遂行能力や実績とは無関係に低い評価をつけることは不当な不利益取扱いに該当する可能性があります。

企業は、生理休暇の取得が、賞与や評価において不当な不利益につながらないように、評価基準や算定方法を明確にし、公平な取り扱いを徹底する必要があります。
生理休暇は正当な権利行使であるという認識を企業全体で共有することが重要です。

企業が生理休暇に関して注意すべきこと

企業は、労働基準法で定められた生理休暇に関する規定を遵守し、女性労働者が安心して制度を利用できる環境を整備する責任があります。
生理休暇に関する企業側の注意点について解説します。

労働基準法違反になるケース(取得拒否など)

企業が生理休暇に関して労働基準法に違反する代表的なケースは以下の通りです。

  • 生理休暇の請求を拒否する: 生理日の就業が著しく困難な女性労働者から生理休暇の請求があったにもかかわらず、「人手が足りない」「忙しい」などの理由で休暇の取得を認めないことは、労働基準法第68条違反となります。
  • 診断書の提出を義務付ける: 労働基準法は診断書の提出を義務付けていないにもかかわらず、診断書がないと生理休暇を認めないとする運用は不適切です。原則として、労働者の自己申告を尊重する必要があります。
  • 就業規則に反する運用: 就業規則で生理休暇を有給と定めているにもかかわらず、無給で処理するなど、就業規則の内容を下回る扱いは許されません。
  • 生理休暇を取得したことを理由に解雇する: 生理休暇の取得を理由とした解雇は不当解雇となり、労働基準法第68条にも違反します。
  • 特定の雇用形態の労働者を対象外とする: パートやアルバイトなど、雇用形態にかかわらずすべての女性労働者が生理休暇の対象であるにもかかわらず、一部の労働者を除外する扱いは不適切です。

これらの行為は、労働基準監督署からの是正勧告の対象となったり、労働者からの訴訟につながったりする可能性があります。

取得を妨げる不利益な取り扱い

企業は、生理休暇を取得した労働者に対して、そのことを理由とする不利益な取り扱いをしてはなりません。
労働基準法第68条に直接の罰則規定はありませんが、解雇やその他の不利益取扱いは、労働契約法や男女雇用機会均等法などの観点からも問題となります。

不利益な取り扱いの例としては、以下のようなものがあります。

  • 減給・降格: 生理休暇を取得したことを理由に、基本給や役職手当を減額したり、役職を降格させたりすること。
  • 賞与・昇給での不当な評価: 生理休暇の取得日数を過度に重視し、他の従業員と比較して不当に低い評価をつけ、賞与や昇給に差を設けること。
  • 配置転換・異動: 生理休暇を頻繁に取得することを理由に、本人の意に反する部署への配置転換や不利益な業務への異動を命じること。
  • その他: 退職勧奨、ハラスメント、昇進・昇格の機会を奪うことなど。

企業は、生理休暇が労働者の正当な権利であることを理解し、取得したことで不当な扱いを受けることがないよう、人事評価制度や賃金規程などを適切に整備・運用する必要があります。
特に、評価者となる管理職への周知徹底が不可欠です。

不正取得への対応策

生理休暇は労働者の自己申告に基づいて取得できるため、残念ながら中には不正に取得しようとするケースも存在する可能性はあります。
しかし、企業が不正取得を疑ったとしても、安易に診断書の提出を求めたり、取得を拒否したりすることはできません。

不正取得が疑われる場合の対応は非常に慎重に行う必要があります。

  1. まずは労働者の申告を尊重する: 原則として、労働者が「生理日の就業が著しく困難である」と申告した場合は、その意思を尊重し、休暇を認めます。
  2. 就業規則の確認と周知: 就業規則に生理休暇に関する規定(申請方法、賃金など)が明確に定められているか確認し、全従業員に周知します。不正取得は就業規則違反となり得ることを示唆します。
  3. 状況の確認(慎重に): あまりにも不自然な状況が続く場合など、客観的な事実に基づき合理的な疑義がある場合に限り、本人に事実関係を確認することが許容される可能性があります。しかし、これはプライベートな事柄に深く立ち入ることになるため、極めて慎重に、人権に配慮して行う必要があります。過度な詮索や問い詰めはハラスメントとなり得ます。
  4. 就業規則に基づく対応: 明らかに不正取得であると判断できる客観的な証拠がある場合は、就業規則の懲戒規定に基づいて対応することも不可能ではありません。しかし、生理休暇の性質上、不正を証明することは極めて難しく、対応を誤ると不当解雇やハラスメントとして訴えられるリスクが高まります。

不正取得への対策としては、個々の労働者を厳しく取り締まるよりも、生理休暇を取得しやすい雰囲気や、体調不良を正直に申告できる信頼関係を醸成することの方が重要であると言えます。
また、病気休暇や半日有給休暇など、生理休暇以外の多様な休暇制度を整備することで、安易な不正取得を防ぐことにもつながります。

企業に求められる環境整備と配慮

女性労働者が生理休暇を適切に利用し、安心して働ける環境を整えることは企業の重要な役割です。
具体的には、以下のような環境整備と配慮が求められます。

  1. 就業規則での明確化と周知: 生理休暇に関する規定(対象者、申請方法、賃金の扱いなど)を就業規則に明確に定め、全従業員に周知します。特に、管理職に対しては、制度の趣旨や適切な運用方法について研修を行うなど、理解を深める機会を設けることが重要です。
  2. 相談しやすい雰囲気づくり: 月経随伴症状はデリケートな問題であり、同僚や上司に相談しにくいと感じる女性も多くいます。女性従業員が気軽に相談できる窓口(産業医、保健師、相談員など)を設置したり、男女問わず生理に関する正しい知識を共有したりすることで、心理的なハードルを下げ、安心して生理休暇を申請できる雰囲気を作ります。
  3. 柔軟な働き方の検討: 生理日の就業が「著しく困難」であっても、症状の程度によっては、完全な休暇ではなく、以下のような柔軟な働き方が可能な場合もあります。
    • 在宅勤務: 自宅で体調を調整しながら業務を行う。
    • 時短勤務: 午前中だけ、午後だけといった短い時間だけ勤務する。
    • 業務内容の調整: 身体的な負担の少ない業務に変更する。

    企業は、労働者と話し合い、可能な範囲でこれらの選択肢を提供することを検討できます。

  4. 代替要員の確保や業務分担の見直し: 生理休暇を取得しやすい体制を整えるためには、特定の個人に業務が集中しないよう、日頃から業務の標準化や複数人での担当、代替要員の確保などを行っておくことが有効です。
  5. 健康管理支援: 月経困難症などの症状が重い労働者に対しては、医療機関への受診を勧めたり、産業医との面談機会を設けたりするなど、健康管理の観点からの支援も有効です。

企業がこのような環境整備と配慮を行うことは、女性労働者のエンゲージメント向上、離職率の低下、そして企業全体の生産性向上にもつながるでしょう。

生理休暇の現状と課題

労働基準法で定められている生理休暇ですが、その制度は十分に活用されているとは言えない現状があります。
取得率の低さには、さまざまな要因が複合的に絡み合っています。

生理休暇の実際の取得率

厚生労働省が実施している調査によると、生理休暇の取得率は非常に低い水準で推移しています。
例えば、「女性雇用管理基本調査」などの過去の調査結果を見ても、生理休暇を「請求できる」と回答した事業所は多いものの、実際に「取得した労働者がいる」と回答した事業所の割合は全体の数パーセント程度に留まっています。
そして、その取得した労働者についても、年間を通じて数日、あるいは1日だけといった、取得日数も限定的である傾向が見られます。

この低い取得率は、生理に伴う体調不良を抱えながらも、多くの女性が休暇を取得せずに就業している実態を示しています。

取得が進まない背景にある要因

生理休暇の取得が進まない背景には、以下のような様々な要因が考えられます。

  • 制度に関する認知不足: 生理休暇という制度があることを知らない、あるいは知っていても詳しい内容(取得条件や賃金の扱いなど)を理解していない女性労働者が少なくありません。
  • 周囲の理解不足と偏見: 月経随伴症状に対する周囲(上司、同僚、特に男性)の理解が十分でない場合があります。「生理は病気ではない」「誰にでもあること」といった誤った認識や、「生理痛くらいで休むのは甘えだ」といった偏見が存在し、申請をためらわせる要因となっています。
  • 申請しにくい雰囲気: 職場全体の雰囲気として、「休みにくい」「迷惑をかけてしまう」と感じる女性が多くいます。特に、人手不足の職場や、自分の業務を他の人に任せるのが難しい状況では、体調が悪くても無理をして出勤してしまう傾向があります。
  • プライバシーの問題: 生理という非常に個人的な体調不良を理由に休暇を取得することに抵抗を感じる女性もいます。上司に症状を説明したり、診断書の提出を求められたりすることへの不安も申請をためらわせる要因となります。
  • 賃金に関する問題: 生理休暇を無給としている企業が多いことも、取得率の低さにつながっています。休暇を取得すると収入が減ってしまうため、生活への影響を考えて無理に出勤を選択する女性が多くいます。
  • 不利益取扱いへの懸念: 休暇を取得したことで、人事評価が下がったり、昇進・昇格の機会が失われたりするのではないかという不安を抱く女性もいます。
  • 代替休暇の利用: 年次有給休暇や病気休暇など、生理休暇以外の休暇制度を利用して体調を調整している女性もいます。これらの休暇は生理休暇よりも利用しやすい、あるいは賃金が保障されるといったメリットがあるため、そちらを選択するケースも見られます。

これらの要因が複合的に作用し、生理休暇制度は十分に活用されていないのが現状です。

生理休暇に関する誤解(「甘え」論など)

生理休暇に対する誤解、特に「甘え」であるという見方は、制度の適切な運用や取得の促進を妨げる大きな要因となっています。

「生理痛なんて誰にでもある」「生理は病気じゃないのに休むなんて」といった意見は、月経随伴症状の個人差の大きさや、それがもたらす就業困難の実態を十分に理解していないことから生まれます。
月経困難症などにより、日常生活や就業に著しい支障をきたすほどの症状に悩まされる女性がいるという現実を無視した見方です。

また、「生理休暇を取得されると業務が回らなくなる」「男性にはない特権だ」といった不公平感や反発を生むこともあります。
しかし、生理休暇は男性にはない生理現象に伴う困難に対応するための制度であり、男女間の機会均等を実質的に保障するための側面も持ち合わせています。

このような誤解や偏見を解消するためには、企業や社会全体で、月経に関する正しい知識を共有し、多様な体調の人が働きやすい環境を整備することの重要性について理解を深める必要があります。
生理休暇は「甘え」ではなく、女性労働者の健康を守り、安心して就業を継続するための、労働基準法で認められた正当な権利であるという認識を広めることが課題です。

海外における生理休暇の事例

生理休暇制度は、日本だけでなく他の国々でも導入されていますが、その内容や取得状況は様々です。
いくつかの国の事例を見てみましょう。

制度の内容 賃金扱い 備考
日本 生理日の就業が著しく困難な女性が請求できる。 法定では無給で可(企業の就業規則による) 取得率は低い。制度の認知度や職場での理解に課題。
スペイン 月経困難症などの症状が重い女性に対し、医師の診断書に基づき、必要な期間の休暇を取得できる。 国の社会保障制度から賃金が補償される(初日から)。 2023年に導入された先進的な制度。生理の辛さを病気として扱い、社会全体で支援する姿勢が見られる。
韓国 月経中の女性が請求できる月1日の休暇。 法定では無給。 多くの企業が無給としているため、取得率は低い。セクハラや不利益取扱いに関する問題も指摘されることがある。
台湾 月経中の女性が請求できる月1日の休暇(年間3日まで)。病気休暇とは別に取得可能。年間3日を超える場合は病気休暇としてカウント。 年間3日までについては賃金の半額を支払う。4日目以降は通常の病気休暇扱い。 病気休暇とは別に、生理に特化した休暇として一定の賃金保障がある点が特徴。アジアの中では比較的進んだ制度と言える。
インドネシア 月経中の女性が請求できる月2日の休暇。 有給。 労働法で明記されており、有給で取得できる点が特徴。ただし、中小企業などでは制度が十分に運用されていない場合もある。
ザンビア 「母の日」として月1日の休暇が認められている(主に女性労働者のための休暇として生理休暇的に利用されることが多い)。 有給。 生理休暇という直接的な名称ではないが、実質的に生理に伴う体調不良に対応するための休暇として利用されることが多い。有給である点も特徴。

これらの事例を見ると、国によって制度の内容や賃金の扱いが大きく異なることが分かります。
特にスペインのように、月経に伴う困難を病気として捉え、診断書を要件としつつも賃金を社会保障で補償するなど、より踏み込んだ支援を行っている国もあります。

日本の生理休暇制度は、労働基準法制定時から存在する比較的歴史のある制度ですが、賃金が無給で差し支えないことや、診断書不要の原則が、取得率の低さや誤解につながっている側面もあるかもしれません。
海外の事例を参考に、日本の制度が今後どのように発展していくべきか、議論の余地があると言えます。

まとめ:生理休暇制度の正しい理解促進

生理休暇は、労働基準法によって保障された、働く女性の健康を守るための重要な権利です。
生理日の就業が著しく困難な女性が請求した場合、企業は就業させてはならず、正当な理由なく取得を拒否することは法律違反となります。

しかし、生理休暇の取得率は低い現状にあり、その背景には、制度自体の認知不足、周囲の理解不足、申請しにくい職場の雰囲気、無給であることが多い賃金の問題、そして「甘え」といった誤解など、様々な要因があります。

生理休暇制度がより効果的に活用されるためには、企業と労働者の双方が、以下の点について正しい理解を深める必要があります。

  • 労働者側: 生理休暇は労働基準法で認められた正当な権利であること、生理日の就業が著しく困難であれば取得できること、原則として診断書は不要であることなどを正しく理解し、体調が悪い時には遠慮なく申請すること。ただし、企業の就業規則を確認し、定められた手続きに従うことも重要です。
  • 企業側: 生理休暇は労働者の権利であり、請求があれば拒否できない義務であること。生理休暇の取得を理由とした不利益な取り扱いは許されないこと。生理に伴う症状には個人差があることを理解し、安易な「甘え」といった見方をせず、プライバシーに配慮しながら労働者の申告を尊重すること。就業規則で生理休暇に関する規定を明確にし、全従業員、特に管理職に周知徹底すること。労働者が安心して休暇を取得できる相談しやすい雰囲気づくりや、可能な範囲での柔軟な働き方の選択肢の提供などを検討すること。

生理休暇制度の正しい理解を促進し、職場での相互理解と配慮が進むことで、女性労働者が心身ともに健康に、そして安心して能力を発揮しながら働き続けることができる社会の実現につながるでしょう。
企業には、単に法律を遵守するだけでなく、多様な従業員一人ひとりが働きやすい環境を主体的に整備していく姿勢が求められます。

(注:本記事は生理休暇に関する一般的な情報を提供するものであり、個別の状況に関する法的な助言ではありません。
具体的な判断や対応については、専門家や労働基準監督署にご相談ください。
また、関連する法令やガイドラインは変更される可能性があります。
最新の情報をご確認ください。)

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