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つらい【腟炎】の原因・症状・治し方|おりもの異常やかゆみに悩む方へ

腟のあたりがかゆい、おりものの量や色、臭いがいつもと違う――。こうしたデリケートゾーンの悩みは、もしかしたら「腟炎」が原因かもしれません。腟炎は女性にとって決して珍しい病気ではなく、多くの方が一度は経験すると言われています。しかし、症状について誰かに相談しにくかったり、原因や治し方がわからず不安に感じたりすることもあるでしょう。

この記事では、腟炎の気になる症状、原因、主な種類、病院での治療法や市販薬、そしてご自身でできる予防方法までを詳しく解説します。腟炎について正しい知識を持つことで、不要な不安を減らし、適切に対処できるようになるはずです。もし今、デリケートゾーンの不調を感じているなら、ぜひ最後まで読んでみてください。そして、不安な症状がある場合は、一人で抱え込まず専門医に相談することを検討しましょう。

腟炎(ちつえん)とは、その名の通り、女性の腟に炎症が起きている状態を指します言葉です。腟は通常、デーデルライン桿菌という乳酸菌の一種が豊富に存在しており、この菌が作り出す乳酸によって腟内はpH4~5程度の弱酸性に保たれています。この酸性の環境が、外部から侵入しようとする病原菌の増殖を防ぎ、腟を健康に保つ「自浄作用」として働いています。

しかし、何らかの原因でこの腟内の環境が崩れ、常在菌のバランスが乱れたり、外部から病原体が侵入したりすると、腟に炎症が起こり、様々な不快な症状が現れます。これが腟炎です。腟炎は単なる不快感だけでなく、放置すると症状が悪化したり、他の病気につながる可能性もあるため、早期の発見と適切なケア、そして必要に応じた治療が大切になります。

目次

腟炎の主な原因

腟炎の原因は一つではなく、様々な要因によって引き起こされます。主な原因としては、以下のようなものが挙げられます。

  • 細菌や真菌(カビ)などの感染: 最も一般的な原因です。腟内に常在する菌のバランスが崩れたり、外部から病原体が侵入したりすることで炎症が起きます。
  • ホルモンバランスの変化: 特に女性ホルモン(エストロゲン)の量の変化は、腟の健康に大きく影響します。妊娠、出産、授乳、閉経などが該当します。
  • 物理的な刺激やアレルギー: 石鹸や洗浄剤による洗いすぎ、特定の化学物質、コンドームや生理用品の素材、締め付けの強い下着などによる刺激やアレルギー反応も原因になり得ます。
  • 免疫力の低下: ストレス、疲労、睡眠不足、体調不良などにより体の免疫力が低下すると、通常は問題にならない常在菌が増殖しやすくなることがあります。
  • 抗生物質の使用: 抗生物質は体に悪影響を及ぼす細菌だけでなく、腟内の善玉菌であるデーデルライン桿菌も減らしてしまうことがあります。その結果、他の菌が増殖しやすい環境になることがあります。
  • 性行為: 性行為によって外部から細菌やその他の病原体が持ち込まれたり、腟内のpHバランスが一時的に変化したりすることが原因となる場合もあります。性感染症が腟炎の症状を引き起こすこともあります。

これらの原因が単独で、または複合的に作用して腟炎を発症させます。自分の腟炎が何によって引き起こされているのかを特定することは、適切な治療や予防につながる第一歩となります。

腟炎の種類とそれぞれの特徴

腟炎の原因菌や状態によって、いくつかの種類に分けられます。代表的な腟炎の種類と、それぞれの特徴を見ていきましょう。

カンジダ性腟炎

カンジダ性腟炎は、真菌(カビ)の一種であるカンジダ菌によって引き起こされる腟炎です。カンジダ菌は健康な女性の腟や皮膚、口の中などにも存在する常在菌ですが、体の免疫力が低下したり、腟内の環境が変化したりすると異常に増殖し、症状を引き起こします。

  • 原因菌: カンジダ・アルビカンスなどのカンジダ菌
  • 主な症状:
    • カッテージチーズ状、または酒粕状の白っぽいポロポロとしたおりもの
    • 強いかゆみ(特に外陰部)
    • 外陰部の赤みや腫れ
    • 性交時の痛み
    • 排尿時の不快感や痛み
  • 特徴: 強いかゆみが主な症状として現れることが多いです。おりものの特徴的な性状も診断の手がかりとなります。再発しやすいという特徴もあります。
  • 発症しやすいタイミング: 抗生物質の服用後、体調が悪い時、妊娠中、生理前など。

細菌性腟炎

細菌性腟炎は、腟内の常在菌のバランスが崩れ、通常少量しか存在しない嫌気性菌などが異常に増殖することで起こる腟炎です。デーデルライン桿菌が減少し、腟内の酸性が弱まることが原因となります。

  • 原因菌: ガーデネラ・バジナリスなどの嫌気性菌
  • 主な症状:
    • 魚の腐ったような独特の臭いのある水っぽい、またはクリーム色のおりもの
    • おりものの量が増える
    • (かゆみはカンジダ性腟炎ほど強くないか、ほとんどないことが多い)
  • 特徴: 臭いのあるおりものが主な症状です。かゆみがあまりないため、気づきにくい場合もあります。
  • 放置した場合: 妊娠中の場合は早産のリスクを高める可能性や、子宮内膜炎、卵管炎などの骨盤内炎症性疾患を引き起こすリスクが指摘されています。

萎縮性腟炎

萎縮性腟炎は、主に閉経後の女性に起こる腟炎です。閉経により女性ホルモン(エストロゲン)の分泌が減少すると、腟の粘膜が薄く乾燥しやすくなり、弾力性が失われます。これにより、細菌感染しやすくなったり、物理的な刺激に弱くなったりして炎症が起こります。

  • 原因: エストロゲン分泌の低下(閉経、卵巣摘出など)
  • 主な症状:
    • 腟の乾燥、潤い不足
    • 性交時の痛み(性交痛)
    • かゆみやヒリヒリ感
    • 排尿時の痛みや頻尿
    • 少量の出血
    • おりものの減少または異常
  • 特徴: ホルモン環境の変化が原因であり、加齢に伴って起こりやすいです。性生活に影響が出やすいのも特徴です。

その他の腟炎

上記の3つの他に、以下のような腟炎や、腟炎に似た症状を引き起こす疾患があります。

  • トリコモナス腟炎: トリコモナス原虫という微生物によって引き起こされる性感染症(STD)です。黄緑色の泡状で悪臭のあるおりものや、強いかゆみなどが特徴ですが、無症状の場合もあります。
  • アレルギー性腟炎/接触性皮膚炎: 石鹸、ボディソープ、入浴剤、ナプキン、タンポン、コンドーム、殺精子剤などが原因で、外陰部や腟が炎症を起こすことがあります。かゆみや赤み、腫れなどが主な症状です。
  • 非特異性腟炎: 特定の原因菌がはっきりしない腟炎を指すことがあります。
  • 子宮頸管炎: 子宮の入り口(子宮頸管)に炎症が起きている状態ですが、おりものの変化や不正出血などの症状が出ることがあり、腟炎と間違えられたり、腟炎を併発したりすることもあります。クラミジアや淋菌などの性感染症が原因となることが多いです。

このように、腟炎には様々な種類があり、それぞれ原因や症状に違いがあります。ご自身の症状がどのタイプに近いのかを知ることは重要ですが、自己判断は難しいため、正確な診断には医療機関を受診することが必要です。

腟炎の代表的な症状

腟炎になると、デリケートゾーンに様々な不快な症状が現れます。特に多くの人が「おかしいな」と感じるサインは、おりものの変化かゆみ・痛みです。

おりものの変化

正常なおりものは、透明または乳白色で、少し粘り気があり、軽い甘酸っぱいような臭いがある程度です。量や粘り気は生理周期によって変化するのが普通です。しかし、腟炎が原因でおりものに異常が見られることがあります。

  • 量: いつもより明らかに増えた、または極端に減った。
  • 色: 白っぽい、黄色、緑色、灰色など、普段と違う色になった。カンジダ性では白くポロポロ、細菌性では灰色〜黄色っぽいことが多いです。
  • 性状: サラサラした水っぽい、ドロドロしている、ポロポロとした塊状、泡状など、粘り気や状態が変わった。
  • 臭い: 魚の腐ったような生臭い臭い、強い悪臭など、不快な臭いがするようになった。細菌性腟炎では特徴的な臭いがします。

これらの変化は、腟内で起きている炎症の種類や程度によって異なります。ご自身のおりものの状態を日頃から観察しておくことで、異常に早く気づきやすくなります。

デリケートゾーンのかゆみ・痛み

おりものの変化と並んで多く見られるのが、デリケートゾーン(特に外陰部や腟の入り口付近)のかゆみや痛みです。

  • かゆみ: 強いかゆみで我慢できない、焼けるようなヒリヒリとしたかゆみ、夜間に強くなるかゆみなど。カンジダ性腟炎では非常に強いかゆみが特徴的です。
  • 痛み: 腟の入り口や外陰部がヒリヒリする、ズキズキする、触れると痛い、性交時に奥が痛むまたは入り口が痛む(性交痛)、排尿時に尿がしみて痛む(排尿痛)など。萎縮性腟炎や炎症が強い場合に起こりやすい症状です。

かゆみや痛みがあると、日常生活に支障が出たり、気分が落ち込んだりすることもあります。掻きむしってしまうと、皮膚が傷ついてさらに炎症が悪化したり、別の感染を引き起こしたりするリスクもあるため、注意が必要です。

その他の症状

おりものの変化やかゆみ・痛みの他にも、以下のような症状が現れることがあります。

  • 外陰部の赤みや腫れ
  • 腟の乾燥感、潤い不足(特に萎縮性腟炎)
  • 排尿時の不快感や頻尿(膀胱炎のような症状が出ることも)
  • 下腹部の軽い痛みや違和感
  • 少量の不正出血(特に性交後や閉経後の萎縮性腟炎)

これらの症状は、他の婦人科疾患や泌尿器系の疾患でも起こりうるため、自己判断せずに医療機関で正確な診断を受けることが重要です。

腟炎はなぜ起こる?リスク要因

腟炎になりやすい、あるいは再発しやすい人には、いくつかのリスク要因が考えられます。ご自身の生活を振り返り、心当たりがないかチェックしてみましょう。

  • 免疫力の低下:
    • ストレス、疲労、睡眠不足: 体全体の免疫機能が低下し、腟の自浄作用も弱まります。
    • 体調不良、特定の疾患: 風邪をひいている時、糖尿病などで血糖値が高い状態も、カンジダ菌などが増殖しやすい環境を作ることがあります。
  • ホルモンバランスの変化:
    • 妊娠: ホルモンバランスが大きく変化し、腟内のグリコーゲンが増えることでカンジダ菌が繁殖しやすくなります。
    • 生理前後: ホルモンバランスや腟内のpHが変化しやすい時期です。
    • 閉経: エストロゲン減少により腟が萎縮し、乾燥しやすくなります。
    • 経口避妊薬(ピル)の使用: ホルモンバランスに影響を与えることがあります。
  • 薬剤の使用:
    • 抗生物質: 善玉菌を減らしてしまい、他の菌が増殖する隙を与えます。
    • ステロイド剤: 免疫抑制作用により、カンジダ菌などが増殖しやすくなることがあります。
  • 不適切なデリケートゾーンケア:
    • 洗いすぎ: 必要以上に洗ったり、洗浄力の強すぎる石鹸を使ったりすると、腟内の善玉菌まで洗い流してしまい、乾燥やバリア機能の低下を招きます。
    • 不潔: 排泄後の拭き方が不適切(後ろから前に拭く)などにより、肛門周囲の細菌が腟に侵入することがあります。
  • 服装や下着:
    • 締め付けの強い下着や服装: 通気性が悪くなり、湿気がこもりやすいため、カンジダ菌などが繁殖しやすい環境になります。
    • 化学繊維の下着: 綿などの天然素材に比べ通気性が劣ることがあります。
    • 濡れた水着や下着を長時間着用: 湿った状態が続くことで菌が増殖しやすくなります。
  • 性行為:
    • 不特定多数との性行為や、パートナーが変わった際に新たな病原体が持ち込まれるリスクがあります(性感染症としての腟炎の場合)。
    • コンドームや殺精子剤へのアレルギー反応。
  • その他: タンポンや生理用ナプキンを長時間交換しない、温水洗浄便座の使いすぎなども腟内の環境に影響を与える可能性があります。

これらのリスク要因を避ける、あるいは改善することは、腟炎の予防や再発防止に繋がります。

腟炎の検査と診断

腟炎かな、と思ったら、まずは医療機関を受診して正確な診断を受けることが大切です。自己判断で市販薬を使用したり、様子を見すぎたりすると、症状が悪化したり、別の病気を見落としたりする可能性があります。

病院では、主に以下の方法で検査と診断が行われます。

問診・視診

医師が患者さんから現在の症状(おりものの状態、かゆみ・痛みの程度、いつからか、きっかけに心当たりがあるかなど)、既往歴、アレルギーの有無、服用している薬、生理周期、妊娠の可能性、性生活の状況などを詳しく聞き取ります。

次に、外陰部の状態や、内診台で腟内の様子を視診します。赤みや腫れ、おりものの状態などを医師が目で確認します。

おりもの検査

腟炎の診断で最も重要となるのが、おりもの検査です。内診台で腟鏡を使って腟内を広げ、専用の綿棒などでおりものを採取します。この検査はほとんど痛みはありませんが、少し不快に感じる方もいるかもしれません。

採取されたおりものは、顕微鏡で直接観察したり、培養検査に回されたりします。

  • 顕微鏡検査: おりものを顕微鏡で観察し、カンジダ菌の菌糸や芽胞、トリコモナス原虫、細菌(特に細菌性腟炎の原因となる嫌気性菌の増加や、デーデルライン桿菌の減少)などを確認します。比較的短時間で結果が出ることが多いです。
  • 培養検査: おりものを特定の培地で培養し、どのような菌がどのくらい増殖しているかを調べます。カンジダ菌の種類を特定したり、抗生物質の効き具合(薬剤感受性)を調べたりする場合に行われることがあります。結果が出るまでに数日かかることがあります。

また、性感染症の可能性が疑われる場合は、クラミジアや淋菌などの検査が追加で行われることもあります。

これらの検査結果と、問診・視診の結果を総合的に判断して、腟炎の種類や原因が特定され、適切な治療法が決定されます。

腟炎の治療法

腟炎の治療は、その原因となっている種類によって異なります。多くの場合、原因菌や炎症を抑えるための薬物療法が行われます。

病院での治療

病院で処方される薬には、主に内服薬と腟坐剤・クリームがあります。

内服薬

全身に作用する飲み薬です。

  • 抗生物質: 細菌性腟炎や、トリコモナス腟炎などの性感染症が原因の場合に使われます。原因菌の種類によって、様々な種類の抗生物質が使い分けられます。指示された期間、きちんと服用することが重要です。
  • 抗真菌薬: カンジダ性腟炎で、腟坐剤やクリームでの治療が難しい場合や、他の部位(皮膚など)にもカンジダ症がある場合などに処方されることがあります。
  • ホルモン剤: 萎縮性腟炎の場合、不足しているエストロゲンを補充するためにホルモン剤(内服薬、貼り薬、塗り薬など)が使用されることがあります。

腟坐剤・クリーム

腟に直接挿入する薬(腟坐剤)や、外陰部に塗る薬(クリーム)です。原因菌がいる場所に直接作用するため、効果が早く現れやすく、全身への影響が少ないのが特徴です。

  • 抗真菌薬(腟坐剤、クリーム): カンジダ性腟炎の治療の第一選択肢です。カンジダ菌の増殖を抑え、殺菌する成分が含まれています。腟坐剤は夜寝る前に挿入することが多く、クリームは外陰部のかゆみや炎症を抑えるために使用されます。治療期間は製品によって異なりますが、数日間から1週間程度が一般的です。生理中は使用できない薬もあるため、医師や薬剤師の指示に従ってください。
  • 抗生物質(腟坐剤、クリーム): 細菌性腟炎の治療に使われることがあります。
  • ホルモン剤(腟坐剤、クリーム): 萎縮性腟炎に対し、腟の乾燥や萎縮を改善するために使用されます。

治療期間や使用方法を守ることが、症状をしっかり改善させ、再発を防ぐために非常に重要です。症状が軽くなったからといって途中でやめてしまうと、菌が完全に死滅せず、再発の原因になることがあります。

腟炎の市販薬について

ドラッグストアや薬局で市販されている腟炎の治療薬もあります。しかし、自己判断で使用する前に、市販薬で対応できるケースと、そうでないケースを理解しておくことが大切です。

市販薬で対応できるケース

一般的に、市販薬として認められている腟炎治療薬は、主にカンジダ性腟炎の再発の場合に限り対応可能です。

  • 医療機関でカンジダ性腟炎と診断され、治療を受けて治癒した経験がある
  • 今回も前回のカンジダ性腟炎の症状(特徴的なおりものや強いかゆみ)とよく似ている

このようなケースであれば、市販の抗真菌薬(腟坐剤やクリーム)で対応できる場合があります。

市販薬の種類と選び方

市販されているカンジダ性腟炎の薬は、医療用医薬品と同じ成分(ミコナゾール、クロトリマゾールなど)を含む腟坐剤やクリームが中心です。

  • 腟坐剤: 腟内に挿入し、腟内のカンジダ菌に直接作用させます。1日1回、連日使用するものや、1回の使用で効果が持続するものなどがあります。
  • クリーム: 主に外陰部のかゆみや赤みに塗布します。腟坐剤とセットで使うこともあります。

市販薬を選ぶ際は、ご自身の症状が本当にカンジダ性腟炎の再発によるものか慎重に判断し、不安な場合は薬剤師に相談してください。また、以下の点に注意が必要です。

  • 初めて腟炎の症状が出た場合: 自己判断せず、必ず医療機関を受診してください。カンジダ以外の原因(細菌性腟炎や性感染症など)の可能性があり、市販薬では治せません。
  • 症状が重い場合や、改善が見られない場合: 市販薬を使用しても症状が悪化したり、数日経っても改善しなかったりする場合は、別の原因が考えられるか、市販薬では効果が不十分である可能性があります。速やかに医療機関を受診してください。
  • 妊娠中または妊娠の可能性がある場合: 必ず医師に相談してください。自己判断での市販薬使用は避けてください。
  • 生理中の使用: 多くの市販の腟坐剤は生理中は使用できません。パッケージの説明や薬剤師の指示を確認してください。

細菌性腟炎や萎縮性腟炎は、市販薬では治療できません。 これらの腟炎が疑われる症状がある場合は、必ず医療機関を受診してください。

自分でできるケアと注意点

腟炎の治療と並行して、あるいは予防のために、ご自身でデリケートゾーンのケアを行うことも大切です。

  • 清潔を保つ: デリケートゾーンは毎日洗うことが基本です。ただし、腟内は洗わないようにしてください。外陰部をやさしく洗いましょう。
  • 洗浄剤の選び方: 刺激の少ないデリケートゾーン専用のソープを選ぶのも良いでしょう。一般的なボディソープや石鹸は洗浄力が強すぎたり、添加物が刺激になったりすることがあります。
  • 洗いすぎない: 過度な洗浄は腟内の善玉菌まで洗い流してしまい、かえって腟炎になりやすい状態を作ることがあります。優しく、撫でるように洗いましょう。
  • 拭き方: 排泄後は、前から後ろに向かって拭きましょう。肛門周囲の細菌が腟に侵入するのを防ぐためです。
  • 通気性を良くする: 綿などの天然素材で、締め付けすぎない下着を選びましょう。スカートなど風通しの良い服装もおすすめです。
  • 湿った状態を避ける: 汗をかいたり、水着などで濡れたりした後は、できるだけ早く着替えましょう。生理中のナプキンもこまめに交換することが大切です。
  • 休息と栄養: 体調を整え、免疫力を維持することも重要です。十分な睡眠をとり、バランスの取れた食事を心がけましょう。
  • ストレス管理: ストレスは免疫力に影響します。自分に合った方法でストレスを解消しましょう。

これらのセルフケアは腟炎の予防や症状緩和に役立ちますが、症状が続いたり悪化したりする場合は、必ず医療機関を受診してください。根拠のない民間療法や、刺激の強い物質をデリケートゾーンに使うことは避けてください。

腟炎は自然に治る?放置のリスク

「少し様子を見れば治るかな?」と考える方もいるかもしれません。腟炎は自然に治る可能性はあるのでしょうか。また、放置するとどのようなリスクがあるのでしょうか。

自然治癒の可能性

腟炎が軽度の場合や、一時的なホルモンバランスの乱れなど、原因が自然に解消されるものであれば、症状が自然に改善することもあります。例えば、軽い体調不良が原因だった場合、体調が回復すれば腟の自浄作用も回復し、症状が落ち着くことがあります。

しかし、これは全ての腟炎に当てはまるわけではありません。特に感染性の腟炎(カンジダ性、細菌性、トリコモナスなど)は、原因となる菌や原虫がいる限り、自然に完全に治癒することは難しい場合が多いです。むしろ、時間が経つにつれて原因菌が増殖し、症状が悪化してしまうことの方がよくあります。

放置した場合のリスク

腟炎を放置することには、いくつかのリスクが伴います。

  • 症状の悪化: かゆみや痛みが強くなったり、おりものの異常がひどくなったりして、日常生活に支障をきたすことがあります。
  • 慢性化・再発: 症状が一時的に落ち着いたように見えても、原因が取り除かれていないため、症状がぶり返したり、再発を繰り返したりしやすくなります。
  • 他の部位への炎症の広がり: 腟の炎症が子宮頸管、子宮、卵管、卵巣など、より上の臓器に広がってしまう可能性があります。これを骨盤内炎症性疾患と呼びます。骨盤内炎症性疾患は強い腹痛や発熱を伴うことがあり、重症化すると不妊の原因になったり、命に関わる場合もあります。
  • 性感染症の見落とし: 腟炎の原因が、実はトリコモナスやクラミジア、淋菌などの性感染症である可能性も少なくありません。これらの性感染症を放置すると、自分自身の健康を損なうだけでなく、パートナーに感染させてしまうリスクもあります。また、不妊の原因となることもあります。
  • 妊娠への影響: 妊娠中に細菌性腟炎などを放置すると、早産や前期破水のリスクを高める可能性が指摘されています。
  • QOL(生活の質)の低下: 不快な症状が続くことで、気分が落ち込んだり、性生活に影響が出たりして、生活の質が低下します。

このように、腟炎は放置せずに適切に対処することが非常に重要です。特に、初めての症状や、症状が重い場合、自己判断に迷う場合は、必ず医療機関を受診しましょう。

妊婦さんの腟炎について

妊娠中は、ホルモンバランスが大きく変化することから、腟炎になりやすい時期と言えます。妊娠中の腟炎には、特有の特徴や注意点があります。

妊娠中の腟炎の特徴

妊娠中は、女性ホルモンであるエストロゲンの分泌が増加します。これにより、腟の粘膜が厚くなり、腟内にグリコーゲンという糖分が増えます。グリコーゲンは、腟内の善玉菌であるデーデルライン桿菌の栄養源となりますが、同時にカンジダ菌などの他の菌の栄養源ともなります。そのため、妊娠中は特にカンジダ性腟炎になりやすい傾向があります。

また、妊娠中は体の免疫機能も通常とは異なる状態にあるため、普段は問題にならないような菌にも感染しやすくなることがあります。おりものの量が増えることも多いため、正常な変化なのか、腟炎によるものなのか、判断が難しい場合もあります。

胎児への影響と治療

妊娠中の腟炎の中には、母体だけでなく、胎児や妊娠の経過に影響を与える可能性のあるものがあります。

  • カンジダ性腟炎: 一般的に、胎児への直接的な影響は少ないと考えられています。しかし、出産時に産道感染を起こし、赤ちゃんにカンジダ症(例えば、口腔カンジダ症:いわゆる「がーぜ病」や、おむつかぶれなど)を引き起こす可能性があります。妊婦さんのカンジダ性腟炎は、出産までに治療しておくことが望ましいとされています。
  • 細菌性腟炎: 細菌性腟炎は、早産や前期破水のリスクを高める可能性があるという報告があります。そのため、妊娠中に細菌性腟炎が診断された場合は、適切な抗生物質による治療が行われることが多いです。
  • トリコモナス腟炎やその他の性感染症: これらの感染症も、早産や低出生体重児のリスクに関連する可能性が指摘されており、妊娠中でも安全性が確認されている薬剤で治療が行われます。

妊娠中の腟炎の治療は、お腹の赤ちゃんへの影響を考慮しながら行う必要があります。 自己判断で市販薬を使用したり、自己流のケアをしたりすることは絶対に避け、必ず妊婦健診を受けている産婦人科医に相談してください。医師は、妊婦さんでも安全に使える腟坐剤や内服薬などを適切に処方してくれます。不安なこと、疑問なことは遠慮なく医師に質問しましょう。

腟炎の予防方法と日常生活の注意点

腟炎は繰り返しやすいという特徴もあります。一度治っても、再発を防ぐための日頃からの予防やケアが大切です。

デリケートゾーンの正しいケア

腟炎予防の基本は、デリケートゾーンを清潔に保ちつつ、腟内の良い環境を壊さないようにケアすることです。

  • 毎日洗う: 外陰部は毎日優しく洗いましょう。汚れや分泌物を洗い流すことで、菌の繁殖を防ぎます。
  • 腟内は洗わない: 腟内には自浄作用があります。内部まで洗浄する必要はありませんし、かえって常在菌のバランスを崩してしまうリスクがあります。
  • 洗浄剤の選び方: 弱酸性で低刺激性のデリケートゾーン専用ソープを使うのがおすすめです。ボディソープや石鹸はアルカリ性のものが多く、デリケートゾーンのpHバランスを崩す可能性があります。香料や着色料などの添加物が少ないものがより安心です。
  • 優しく洗う: 指の腹で優しく撫でるように洗いましょう。ナイロンタオルなどでゴシゴシ洗うのは、皮膚を傷つけたり乾燥させたりするので避けてください。
  • しっかり洗い流す: 洗浄剤が残らないように、ぬるま湯で丁寧に洗い流しましょう。
  • 優しく拭く: 清潔な柔らかいタオルで、ゴシゴシこすらず、水分を吸い取るように優しく拭きましょう。
  • 拭き方の方向: 排泄後は、必ず前から後ろ(腟から肛門の方向)に拭きましょう。

生活習慣の改善

体全体の健康状態を良好に保つことも、腟の健康につながります。

  • バランスの取れた食事: 偏りのない食事を心がけ、特に免疫力を高めるビタミンやミネラルをしっかり摂りましょう。
  • 十分な睡眠と休息: 疲労や寝不足は免疫力を低下させます。質の良い睡眠を確保しましょう。
  • ストレスをためない: ストレスは体調や免疫力に悪影響を与えます。適度な運動や趣味など、ご自身に合った方法でストレスを解消しましょう。
  • 規則正しい生活: 生活リズムを整えることも体調管理には重要です。
  • 体を冷やさない: 体が冷えると血行が悪くなり、免疫機能が低下することがあります。
  • 締め付けの少ない、通気性の良い服装・下着: 下着は綿製品などがおすすめです。スカートなど通気性の良い服装を選びましょう。
  • 濡れたものを長時間着用しない: 濡れた水着や下着、汗をかいた衣服などを長時間着ていると、蒸れて菌が繁殖しやすくなります。

再発防止のために

一度腟炎になった方は、体質的に再発しやすい傾向があるかもしれません。再発を繰り返さないためには、治療後のケアや、ご自身の体の状態に気を配ることが大切です。

  • 治療は最後までしっかり行う: 症状がなくなっても、医師から指示された期間、薬の使用を続けることが重要です。原因菌を完全に死滅させないと、すぐに再発してしまうことがあります。
  • 体調管理: ストレス、疲労、睡眠不足などが再発の引き金になることがあります。日頃から体調管理に気を配りましょう。
  • 乳酸菌の活用: 腟内の善玉菌を増やす目的で、乳酸菌を含む食品(ヨーグルトなど)を摂ったり、乳酸菌のサプリメント(デリケートゾーン用のものなど)を試したりするのも良いでしょう。ただし、効果には個人差があります。
  • 性感染症のチェック: 性感染症が原因で腟炎を繰り返す場合は、パートナーと一緒に検査・治療を受ける必要があることもあります。
  • 気になる症状があれば早めに受診: 「前と同じ症状かも?」と思ったら、悪化する前に早めに医療機関に相談しましょう。早期発見・早期治療が、重症化や慢性化を防ぐ鍵となります。

予防を心がけていても、体調の変化などで腟炎になってしまうことはあります。ご自身を責めすぎず、適切な対処を行うことが大切です。

腟炎かなと思ったら?病院に行く目安

デリケートゾーンのちょっとした不調はよくあることですが、「これは腟炎かもしれない」「病院に行った方が良いかな」と迷うこともあるでしょう。どのような症状が出たら医療機関を受診すべきか、目安を知っておきましょう。

こんな症状が出たら受診

以下のような症状が見られる場合は、自己判断せずに医療機関を受診することをおすすめします。

  • おりものの量、色、性状、臭いが明らかにいつもと違う
    特に、量が増えた、色が黄色・緑色・灰色になった、ポロポロした塊が出た、魚のような強い臭いがするなど。
  • デリケートゾーンに強いかゆみや痛みがある
    我慢できないほどのかゆみ、焼けるようなヒリヒリとした痛み、性交時の痛みなど。
  • 外陰部が赤く腫れている
  • 排尿時に痛みや不快感がある
  • 市販薬を使ってみたが、症状が改善しない、または悪化した
  • 腟炎の症状が初めて出た
  • 腟炎を繰り返す
  • 妊娠中または妊娠の可能性がある
  • 性行為の後に症状が出た、またはパートナーに何らかの症状がある
  • 上記以外でも、デリケートゾーンに「いつもと違うな」「何かおかしいな」と感じる不快な症状がある

これらの症状は、腟炎だけでなく、性感染症やその他の婦人科疾患、泌尿器系の疾患などによっても起こり得ます。原因を正確に診断し、適切な治療を受けるためには、専門医の診察が不可欠です。

特に、初めて症状が出た場合や、いつもと違う症状の場合は、自己判断で市販薬を使わず、必ず医療機関を受診してください。安易な自己判断は、適切な治療の機会を逃し、症状を長引かせたり、他の人に感染を広げたりするリスクにつながります。

何科を受診すべき?

腟炎やデリケートゾーンの症状に関する相談は、婦人科または産婦人科を受診しましょう。これらの科では、女性の生殖器に関する専門知識を持った医師が、適切な検査と診断、治療を行ってくれます。

初診の場合、内診台での診察やおりもの検査が必要になることが一般的です。抵抗がある方もいるかもしれませんが、これらの検査は正確な診断のために非常に重要です。診察を受ける際は、いつからどのような症状があるか、何か心当たりがあるかなどを具体的に医師に伝えるようにしましょう。

まとめ:腟炎について不安を感じたら専門医へ相談しましょう

腟炎は、多くの場合、適切な診断と治療によって改善する病気です。しかし、原因は様々であり、見た目や症状だけでご自身がどのタイプの腟炎なのか、あるいは他の病気ではないのかを正確に判断することは非常に難しいです。

おりものの変化やかゆみなど、デリケートゾーンの不快な症状は、誰にも相談しにくく、一人で悩んでしまいがちです。しかし、放置してしまうと症状が悪化したり、繰り返したりするだけでなく、子宮や卵巣に炎症が広がったり、性感染症を見逃したりするリスクもあります。特に妊娠中の腟炎は、赤ちゃんに影響する可能性もゼロではありません。

この記事でご紹介したように、腟炎には様々な種類があり、それぞれ治療法が異なります。市販薬で対応できるのは、あくまでカンジダ性腟炎の再発など、限られたケースのみです。

もし今、デリケートゾーンに気になる症状があるなら、不安を抱え込まず、ぜひ婦人科または産婦人科を受診することを検討してください。専門医に相談することで、正確な診断を受け、ご自身の状況に合った適切な治療やケアの方法を知ることができます。恥ずかしいと感じる必要はありません。医師は多くの女性のデリケートゾーンの悩みに向き合っています。

腟炎は、早めに気づいて適切に対処すれば、ほとんどの場合きちんと治ります。ご自身の体を大切に、専門家のサポートを受けながら、健やかな毎日を送りましょう。

【免責事項】
この記事は一般的な情報提供を目的としており、個々の症状や状況に対する医学的アドバイスではありません。診断や治療については、必ず医療機関で医師の診察を受けてください。この記事の情報に基づいた行動によるいかなる結果についても、当方は責任を負いかねます。

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