更年期を迎える頃、女性の体は大きな変化を経験します。その一つが、性行為に関する悩みです。性欲の変化、痛み、乾燥といった問題は、多くの女性が経験しながらも、人には話しにくいと感じているデリケートなテーマです。
しかし、これらの悩みは決して特別なことではなく、更年期による体の変化によって起こる自然な反応です。適切な知識を持ち、必要な対処法を知ることで、更年期以降も自分らしい性生活を送ることは十分に可能です。
この記事では、更年期障害が女性の性行為に与える影響、具体的な悩みの原因と対処法、そして専門家への相談について詳しく解説します。
更年期障害が女性の性行為に与える影響
更年期は一般的に閉経を挟んだ前後10年、多くの場合は45歳から55歳頃を指します。この時期、女性ホルモンであるエストロゲンの分泌量が急激に減少することで、体にさまざまな変化が現れます。これらの変化は、性行為にも大きな影響を与える可能性があります。
女性ホルモン減少による体の変化
更年期にエストロゲンが減少すると、女性の体全体に影響が出ますが、特に性器周りの組織に顕著な変化が見られます。エストロゲンは、膣や外陰部の粘膜の健康、弾力、潤いを保つために重要な役割を果たしています。その分泌量が減ると、以下のような変化が起こりやすくなります。
- 膣壁が薄くなる(萎縮): 膣の粘膜が薄く、デリケートになります。
- 膣の弾力や柔軟性が失われる: 硬くなり、伸びにくくなります。
- 膣の潤いが減少する: 自然な潤いがなくなり、乾燥しやすくなります。
- 外陰部の組織の変化: 小陰唇や大陰唇が痩せて小さくなることがあります。
- 尿道の組織の変化: 尿道も薄くなり、膀胱炎や尿漏れを起こしやすくなることがあります。
これらの変化は、性行為時の不快感や痛みの原因となるだけでなく、日常生活におけるデリケートゾーンの不快感(かゆみ、ヒリつきなど)にもつながることがあります。
性欲の変化:したい/したくない
更年期における性欲の変化は、女性によって大きく異なります。「性欲がなくなった」「性行為をしたいと思わなくなった」と感じる方もいれば、「性欲が増した」「性行為を楽しめるようになった」と感じる方もいます。また、性欲自体は変わらなくても、体の変化(痛みや乾燥)によって性行為から遠ざかってしまうこともあります。
- 性欲が低下する要因: エストロゲンの減少自体が性欲に関連する可能性が指摘されていますが、それ以上に体の不調(ホットフラッシュ、睡眠障害、疲労感など)、精神的な変化(イライラ、不安、抑うつ)、パートナーシップの変化、そして性行為に伴う痛みや不快感が大きな要因となります。性交痛がある場合、痛みを避けるために無意識のうちに性行為を避け、結果的に性欲が低下したように感じることがあります。
- 性欲が増加または維持される要因: 更年期を機に育児が落ち着いたり、仕事や趣味に時間を使えるようになったりと、生活環境の変化が精神的なゆとりを生み、性欲に良い影響を与えることもあります。また、ホルモンの影響だけでなく、パートナーとの関係性や、自分自身のセクシュアリティに対する向き合い方なども性欲に影響します。
性欲の変化は複雑であり、ホルモンバランスだけでなく、心理的、社会的、関係性など、多くの要因が絡み合っています。
膣の乾燥・萎縮
膣の乾燥と萎縮は、更年期に多くの女性が経験する、性行為における最も一般的な悩みの原因の一つです。エストロゲンの減少により、膣壁の細胞の厚みが減り、グリコーゲンという物質の産生が低下します。グリコーゲンは膣内の常在菌であるデーデルライン桿菌の栄養となり、乳酸を産生することで膣内を酸性に保ち、病原菌の繁殖を防いでいます。グリコーゲンが減るとデーデルライン桿菌が減少し、膣内のpHバランスが崩れて乾燥が進みます。
乾燥が進んだ膣は、性行為の際に十分な潤滑が得られず、摩擦による痛みや不快感を引き起こします。また、膣壁が薄く、弾力も失われるため、傷つきやすくなります。これが「膣萎縮(ちついしゅく)」と呼ばれる状態です。膣萎縮は進行すると、性行為だけでなく、椅子に座る、歩くといった日常的な動作でも不快感や痛みを感じることがあります。
性交痛や出血
膣の乾燥や萎縮が進むと、性行為の際に性交痛や出血が起こりやすくなります。潤滑が不足していると、陰茎の挿入時に摩擦が生じ、膣の入り口付近や内部に痛みを伴うことがあります。また、薄くデリケートになった膣壁は傷つきやすく、挿入やピストン運動によって小さな傷ができ、出血につながることがあります。
性交痛は、性行為への不安や恐怖心を高め、さらに性欲を低下させる悪循環を生む可能性があります。痛みがあるから性行為を避ける、避けることで膣の萎縮がさらに進む、というパターンに陥ることも少なくありません。痛みの場所や種類(入り口が痛い、奥が痛い、ヒリヒリする、ズキズキするなど)は個人差がありますが、いずれの場合も放置せずに対処することが重要です。
挿入が困難になる原因
膣の乾燥や萎縮が進行すると、性交痛だけでなく、そもそも挿入自体が困難になることがあります。膣壁の柔軟性が失われ硬くなること、膣の入り口が狭く感じられること、そして十分な潤滑がないことが複合的に作用し、挿入を試みても強い痛みや抵抗を感じてしまうためです。
また、骨盤底筋の緊張も挿入困難の原因となることがあります。性交痛への不安から、無意識のうちに骨盤底筋に力が入ってしまい、膣がさらに狭くなってしまうのです。これは心因性の要素も絡む場合があり、体の変化だけでなく精神的なケアも重要になることがあります。
更年期女性の性行為に関する悩みと原因
更年期における性行為の悩みは、身体的な変化だけでなく、精神的な要因やパートナーシップの問題も複雑に絡み合っています。ここでは、よくある悩みの具体的な原因について掘り下げます。
性行為を「したくない」と感じる理由
「性行為をしたくない」「性欲がなくなった」と感じる背景には、様々な要因があります。
- 身体的な不快感: 先述の通り、性交痛や乾燥、不快感がある場合、性行為を億劫に感じたり、避けたいと思ったりするのは自然なことです。痛い思いをすることが分かっているのに、積極的にしたいとは考えにくいでしょう。
- ホルモンバランスの変化: エストロゲンだけでなく、性欲に関わる他のホルモン(テストステロンなど)も加齢とともに減少する可能性があります。直接的な影響は個人差が大きいですが、全く無関係ではありません。
- 更年期特有の症状: ホットフラッシュ、寝汗、疲労感、関節痛、気分の落ち込みなど、更年期の他の症状が辛い時期は、性行為どころではないと感じることがあります。体調が優れない時は、どうしても性的な関心は薄れがちです。
- 精神的な変化: 更年期は人生の節目でもあり、自身の老化を受け入れたり、今後の人生について考えたりする時期です。自身の体に対する自己肯定感が低下したり、「女性として見られていないのでは」といった不安を感じたりすることも、性欲や性行為への意欲に影響を与えることがあります。
- パートナーシップの変化: 長年連れ添ったパートナーとの関係性や、性的なマンネリなども影響します。更年期の体の変化についてパートナーに理解してもらえない、あるいはパートナー側も性的な悩みを抱えているといった場合、お互いに性行為から遠ざかってしまうことがあります。
- 過去の経験や価値観: 性行為に対するネガティブな経験や、「性行為は若い人がするもの」「閉経したら必要ない」といった固定観念が、性行為への抵抗感につながることもあります。
これらの要因が単独であるいは複数組み合わさることで、「性行為をしたくない」という気持ちにつながります。
性行為を「したい」と思うことはある?
更年期であっても、性行為を「したい」と感じる女性はたくさんいます。性欲や性行為への意欲は、年齢だけで決まるものではありません。更年期以降も性行為を楽しむことは、心身の健康維持やパートナーシップの深化にも繋がる可能性があります。
「したい」と思う背景には、以下のような要因が考えられます。
- 心身の健康状態が良い: 更年期症状が比較的軽い、あるいは適切に対処できている場合、心身のコンディションが良く、性的な活動への関心も維持されやすい傾向があります。
- 良好なパートナーシップ: パートナーとのコミュニケーションが良好で、お互いを思いやり、性の悩みについてもオープンに話し合える関係性は、性行為への前向きな気持ちを育みます。
- 自己肯定感の維持: 更年期による体の変化を受け入れつつ、自身の女性性やセクシュアリティに対して肯定的な捉え方ができている場合、性行為を楽しむことに抵抗を感じにくいでしょう。
- 性行為のポジティブな経験: 過去に性行為で快感や満足感を得た経験がある場合、更年期以降もそれを再び得たいという気持ちがモチベーションになります。痛みの対処法を知ることで、再び性行為を楽しめるようになったという方もいます。
- 新たな性の探求: 挿入以外のスキンシップや、新たな快感の探求など、性行為の定義を広げることで、パートナーとの性の繋がりを楽しむ可能性が広がります。
性欲や「したい」という気持ちは、単なる生理的な欲求だけでなく、愛情、親密さ、安心感、自己肯定感など、様々な感情や経験によって形作られるものです。
性交痛・出血が起こる原因
性交痛や出血の主な原因は、前述の通り、更年期による膣の乾燥と萎縮です。
- 乾燥: 潤滑が不足しているため、摩擦が生じ、ヒリヒリとした痛みや灼熱感を感じます。
- 萎縮: 膣壁が薄く、弾力がないため、挿入や動きによって膣壁が伸びずに引っ張られたり、裂けたりしやすくなります。これにより、痛みに加えて出血が起こることがあります。
- 炎症: 乾燥や萎縮によって膣内のバリア機能が低下すると、細菌感染などを起こしやすくなり、炎症による痛みや不快感が生じることがあります(萎縮性膣炎)。
- 骨盤底筋の緊張: 性交痛への不安から骨盤底筋が過度に緊張し、膣の入り口を狭めてしまうことで痛みが増強されることがあります。
- 心理的な要因: 過去の痛みの経験や、性行為に対するネガティブな感情が、痛みを増幅させたり、筋肉の緊張を引き起こしたりすることがあります。
出血は少量で自然に止まることが多いですが、繰り返し起こる場合や量が多い場合は、他の原因(子宮頸管ポリープや子宮がんなど)の可能性も否定できないため、婦人科を受診して確認することが重要です。
濡れない悩みの原因
「濡れない」という悩みも、更年期女性によく見られます。性的な興奮を感じても、以前のように自然に潤滑が得られない、あるいは全く濡れない、といった状態です。
この主な原因も、エストロゲン分泌の低下による膣粘膜の変化です。エストロゲンは、性的な刺激に対する膣壁の血行を促進し、分泌腺からの潤滑液の分泌を促す作用があります。エストロゲンが減少すると、この反応が鈍くなり、十分な潤滑が得られにくくなります。
しかし、「濡れない」原因はこれだけではありません。
- 精神的な要因: ストレス、疲労、不安、パートナーとの関係性の問題、自己肯定感の低下なども、性的な興奮や潤滑に影響を与えます。心がリラックスしていないと、体も十分に反応しないことがあります。
- 前戯不足: 性的な興奮を高めるための十分な前戯がない場合、潤滑が得られにくいことがあります。更年期以降は、以前よりも前戯に時間をかける必要があると感じる方もいます。
- 薬剤の影響: 抗うつ薬や一部の降圧剤など、特定の薬剤の副作用として性的な機能が低下したり、乾燥しやすくなったりすることがあります。
- その他の健康問題: 糖尿病や神経系の疾患など、他の健康問題が血行や神経機能に影響を与え、「濡れない」原因となる可能性もあります。
「濡れない」ことは、多くの場合、体の変化と精神的な要因が複合的に絡み合って起こります。この悩みを抱えることは、自身の女性性やパートナーシップに自信をなくす原因にもなりかねません。
更年期女性が性行為を行うメリット・効果
更年期における性行為は、悩みや困難を伴う場合もありますが、それらを乗り越えて性生活を続けることには、心身両面に多くのメリットがあると考えられています。
性行為が心身にもたらす良い影響
性行為やパートナーとの親密な触れ合いは、更年期女性の心身に様々な良い影響をもたらす可能性があります。
- ストレス軽減: 性行為中に放出されるエンドルフィンなどの脳内物質は、幸福感をもたらし、ストレスや不安を和らげる効果があると言われています。親密なスキンシップは、オキシトシン(愛情ホルモン)の分泌を促し、安心感やリラックス効果をもたらします。
- 自己肯定感の向上: 性的な活動を楽しむことは、自身の女性性や魅力を再確認することにつながり、自己肯定感を高めます。パートナーから愛されている、求められていると感じることは、精神的な安定をもたらします。
- パートナーシップの強化: 性行為は、パートナーとの絆を深める重要なコミュニケーションの一つです。お互いを求め合い、触れ合うことで、関係性の満足度を高め、精神的な繋がりを強化することができます。性の悩みについてもオープンに話し合い、共に解決しようと努力するプロセス自体が、パートナーシップをより強固にする可能性があります。
- 心血管系の健康: 適度な運動となる性行為は、心拍数を上げ、血行を促進するため、心血管系の健康維持に貢献する可能性が示唆されています。ただし、持病がある場合は医師に相談が必要です。
- 睡眠の質の向上: 性行為後のリラックス効果により、睡眠の質が向上することがあります。
骨盤底筋を鍛える効果(尿漏れ改善など)
性行為中の膣の収縮や、オルガズムに伴う骨盤底筋の活動は、骨盤底筋を自然に鍛える効果があると考えられています。骨盤底筋は、膀胱や子宮、直腸を支える筋肉群で、加齢や出産によって緩みやすくなります。骨盤底筋の衰えは、尿漏れ、頻尿、子宮脱や膀胱瘤などの原因となります。
性行為によって骨盤底筋が活性化されることで、これらの症状の予防や改善に繋がる可能性があります。特にオルガズム時の骨盤底筋の強い収縮は、効果的なトレーニングとなり得ます。ただし、性行為だけで骨盤底筋を十分に鍛えるのは難しい場合が多く、骨盤底筋トレーニングを併せて行うことがより効果的です。
若返りやアンチエイジング効果はある?
性行為が直接的な「若返り」や「アンチエイジング」をもたらすという科学的に確立された証拠は限定的ですが、間接的な効果は期待できるかもしれません。
- ホルモンバランス: 性行為や親密な触れ合いは、一部のホルモン(オキシトシン、DHEAなど)の分泌を促す可能性が指摘されています。これらのホルモンは、気分や活力に関連しており、結果的に活き活きとした印象を与えるかもしれません。
- 血行促進: 性行為による血行促進は、肌のターンオーバーを助けたり、細胞への栄養供給を改善したりする可能性が考えられます。
- 精神的な活力: 性生活を楽しむことは、精神的な満足度を高め、ポジティブな気持ちを維持することに繋がります。精神的な活力は、外見にも良い影響を与えることがあります。
- 質の良い睡眠: 性行為後のリラックス効果による質の良い睡眠は、体の修復や再生に不可欠であり、結果的に健康的な肌や体を保つ助けになります。
ただし、これらはあくまで間接的な影響であり、「性行為をすれば若返る」と断言できるものではありません。最も重要なのは、性行為を通じて得られる心身の健康、幸福感、そしてパートナーシップの質の向上であり、それが結果的にQOL(Quality of Life:生活の質)を高め、活き活きとした毎日を送ることに繋がる、と考えるのが適切でしょう。
更年期女性の性行為の悩みへの対処法
更年期における性行為の悩みは、適切な知識と対処法によって軽減・改善することが十分に可能です。一人で抱え込まず、できることから試してみることが大切です。
パートナーとのコミュニケーションの重要性
更年期の性に関する悩みを抱える女性にとって、パートナーとのコミュニケーションは何よりも重要です。体の変化や性欲の変化についてオープンに話し合うことで、誤解を防ぎ、お互いの気持ちを理解し合うことができます。
- 正直に気持ちを伝える: 性交痛があること、以前より濡れにくくなったこと、性欲の変化などを正直に伝えましょう。恥ずかしいと感じるかもしれませんが、パートナーに知ってもらうことで、協力して解決策を探ることができます。
- 悩みを共有する: 性に関する悩みは、パートナーも抱えている可能性があります。お互いに抱えている悩みを共有し、支え合う姿勢が大切です。
- 性行為のあり方について話し合う: 挿入にこだわる必要はありません。スキンシップ、マッサージ、オーラルセックスなど、挿入以外の方法で親密さを表現することも可能です。お互いが心地よく、満足できる方法を一緒に探しましょう。
- 感謝や愛情を伝える: 性行為だけでなく、日頃から感謝の気持ちや愛情を言葉や態度で伝え合うことで、二人の絆が深まり、性的な関係にも良い影響を与えることがあります。
パートナーとのコミュニケーションは、性的な悩みの解決だけでなく、二人の関係性をより豊かなものにするための基盤となります。
保湿剤・潤滑剤の使用
膣の乾燥に対しては、保湿剤や潤滑剤の使用が非常に有効です。ドラッグストアや薬局、オンラインなどで手軽に入手できます。
- 膣用保湿剤: 毎日または定期的に使用することで、膣の乾燥を和らげ、膣壁の潤いや弾力を改善する効果が期待できます。ジェルやクリーム、座薬タイプなど様々な種類があります。長期的なケアに適しています。
- 性交時用潤滑剤: 性行為の直前に使用することで、摩擦を軽減し、性交痛を防ぎます。水溶性、シリコンベース、オイルベースなどがあります。コンドームを使用する場合は、水溶性かシリコンベースの潤滑剤を選びましょう(オイルベースはコンドームを劣化させる可能性があります)。
これらの製品を使用することに抵抗を感じる方もいるかもしれませんが、体の自然な潤いが不足している状態を補うためのものであり、決して恥ずかしいことではありません。パートナーと話し合い、お互いに使いやすいものを選んでみましょう。
骨盤底筋トレーニング
骨盤底筋トレーニングは、膣や尿道を支える骨盤底筋群を強化するための体操です。膣の引き締め効果や、尿漏れ、性交痛の軽減に繋がる可能性があります。
- 基本的な方法: 椅子に座るか横になり、息を吐きながら、膣、尿道、肛門を同時に締めるように力を入れます。そのまま数秒キープし、ゆっくりと力を抜きます。これを10回程度繰り返します。
- 日常に取り入れる: 電車に乗っている時や信号待ちなど、日常生活の合間に意識して行うことができます。
- 効果: 継続することで、骨盤底筋の筋力がアップし、膣の感覚が変化したり、尿漏れが改善したりといった効果が期待できます。性交痛の原因が骨盤底筋の緊張にある場合にも有効なことがあります。
骨盤底筋トレーニングは即効性があるわけではありませんが、継続することで体の変化を感じられる可能性があります。専門家(助産師、理学療法士など)から指導を受けることも可能です。
サプリメントの活用(濡れない悩みなど)
市販されているサプリメントの中には、更年期症状や性に関する悩みにアプローチすると謳われているものがあります。例えば、大豆イソフラボンやエクオール、マカ、プラセンタなどが挙げられます。
- 大豆イソフラボン・エクオール: エストゲンと似た働きをすることから、更年期症状の緩和が期待されています。膣の乾燥や性交痛に対して、ある程度の効果を感じる方もいるかもしれません。ただし、効果には個人差が大きく、エクオールは腸内細菌の種類によって体内で産生できる人とできない人がいます。
- その他の成分: マカやプラセンタは、疲労回復や滋養強壮に良いとされ、結果的に性的な活力に繋がる可能性はありますが、直接的に「濡れない」悩みを解決する科学的な根拠は乏しいです。
サプリメントは医薬品ではないため、効果の現れ方や程度には個人差があります。過度な期待はせず、バランスの取れた食事や十分な睡眠、適度な運動といった基本的な健康管理を前提として、補助的に利用を検討するのが良いでしょう。服用中の薬がある場合は、飲み合わせについて医師や薬剤師に相談してください。
医療機関での治療法の検討
セルフケアだけでは悩みが改善しない場合や、症状が重い場合は、医療機関での治療を検討することが重要です。婦人科や更年期外来を受診しましょう。
医療機関では、更年期による膣や外陰部の変化に対して、以下のような治療法が提供されています。
- ホルモン補充療法(HRT): エストロゲンを補充する治療法です。全身投与(飲み薬、貼り薬、塗り薬)は、ホットフラッシュなど全身の更年期症状に効果があるだけでなく、膣の乾燥や萎縮の改善にも効果的です。ただし、全ての人に適用できるわけではなく、副作用のリスクや禁忌もあるため、医師との相談が必要です。
- 局所エストロゲン療法: 膣や外陰部に直接エストロゲンを塗布または挿入する治療法です。塗り薬(クリーム、ジェル)、膣錠、膣用リングなどがあります。全身への影響が非常に少ないため、ホルモン補充療法ができない方でも使用できる場合が多いです。膣の乾燥、萎縮、性交痛、萎縮性膣炎に対して高い効果が期待できます。
- DHEA膣坐剤: エストロゲンやテストステロンの前駆体であるDHEAを膣に挿入する薬剤です。膣内でこれらのホルモンに変換され、膣や外陰部の状態を改善します。局所エストロゲン療法と同様に全身への影響は少ないとされています。
- レーザー治療: 膣の粘膜にレーザーを照射し、組織の再生を促す治療法です。コラーゲンの生成を促進し、膣の弾力や潤いを改善する効果が期待されています。比較的新しい治療法であり、保険適用外の場合が多いですが、痛みが少なく、効果を感じやすいという声もあります。
- PRP(多血小板血漿)療法: 自身の血液から抽出したPRPを膣壁に注入し、組織の修復や再生を促す治療法です。性交痛や乾燥の改善が期待されます。こちらも保険適用外で、効果には個人差があります。
これらの治療法は、医師の診察のもと、症状や体の状態に合わせて選択されます。恥ずかしがらずに、まずは医師に相談してみることが大切です。
対処法 | 具体的な方法 | 効果の期待度(個人差あり) | メリット | デメリット |
---|---|---|---|---|
パートナーとのコミュニケーション | 体や性の悩みを正直に話し合う、性のあり方について一緒に探求する | 高い | 関係性の改善、精神的な負担軽減 | 勇気が必要、パートナーの理解が得られない可能性 |
保湿剤・潤滑剤 | 膣用保湿剤の日常的な使用、性交時用潤滑剤の使用 | 高い | 即効性がある(潤滑剤)、手軽に入手可能 | 一時的な効果(潤滑剤)、製品選びが必要、抵抗感がある人もいる |
骨盤底筋トレーニング | 膣や尿道、肛門を締める体操の継続 | 中程度 | 尿漏れ改善、膣の引き締め、自己管理 | 効果が出るまで時間がかかる、継続が必要 |
サプリメント | 大豆イソフラボン、エクオールなどの摂取 | 個人差大 | 手軽に始められる | 効果が限定的、医学的根拠が乏しいものもある、飲み合わせに注意が必要 |
ホルモン補充療法 (HRT) | 全身投与(飲み薬、貼り薬など) | 高い | 全身症状と性器周りの改善 | 副作用リスク、禁忌がある、医師の処方が必要 |
局所エストロゲン療法 | 膣錠、クリーム、リングなどを使用 | 高い | 性器周りの症状に特化、全身への影響が少ない | 医師の処方が必要、継続が必要 |
DHEA膣坐剤 | DHEAを膣に挿入 | 高い | 性器周りの症状に特化、全身への影響が少ない | 医師の処方が必要、比較的新しい治療法 |
レーザー治療 | 膣粘膜へのレーザー照射 | 中程度〜高い | 比較的痛みが少ない、組織再生を促す | 保険適用外が多い、複数回の施術が必要な場合がある |
PRP療法 | 自身の血液から抽出したPRPを膣壁に注入 | 中程度〜高い | 組織修復・再生を促進 | 保険適用外、比較的新しい治療法 |
閉経後の女性の性行為に関する疑問
「閉経したら、もう性生活は終わりなの?」といった疑問や不安を持つ方もいるかもしれません。閉経は妊娠の可能性がなくなるという大きな変化ですが、それが直ちに性生活の終了を意味するわけではありません。閉経後の性に関するよくある疑問について解説します。
閉経したら避妊は必要ない?
閉経とは、月経が12ヶ月以上ない状態を指し、卵巣機能が停止して排卵が行われなくなることを意味します。したがって、閉経後であれば原則として妊娠の可能性はありません。
ただし、閉経の診断は遡って行われるため、「月経が来なくなったから」といってすぐに避妊を止めて良いわけではありません。一般的に、最終月経から満1年間月経がなければ閉経と診断されます。この1年間は、稀に排卵が起こる可能性もゼロではないため、避妊を継続することが推奨されます。特に40代後半で月経不順になった場合などは、閉経移行期であり、まだ妊娠の可能性が残っていることがあります。
閉経の診断を受けて医師から避妊の必要がないと言われるまでは、自己判断で避妊を中止しないようにしましょう。
閉経後も性感染症の予防は必要か
はい、閉経後も性感染症の予防は必要です。閉経によって妊娠の可能性はなくなりますが、性行為による性感染症(STI: Sexually Transmitted Infections)のリスクは存在し続けます。
むしろ、閉経後は膣の乾燥や萎縮によって膣粘膜が薄く傷つきやすくなるため、感染症に対するバリア機能が低下し、かえって感染リスクが高まる場合もあります。
パートナーが複数いる場合や、新たなパートナーとの関係が始まった場合などは、年齢に関わらずコンドームの使用や、必要に応じた検査を行うなど、性感染症の予防を意識することが非常に重要です。
閉経後の性生活の現状
「閉経後の女性は性生活を送っていない」というイメージがあるかもしれませんが、実際には多くの女性が閉経後もパートナーとの性的な関係を続けています。厚生労働省の調査などを見ると、性に関する関心やパートナーとの性的な接触の頻度は年齢とともに低下する傾向がありますが、閉経後も一定数の女性が性生活を送っており、その割合は近年増加傾向にあるとも言われています。
閉経後の性生活を続けるかどうか、その頻度や内容は、個人の価値観、パートナーとの関係性、健康状態などによって大きく異なります。痛みや不快感といった身体的な問題、あるいは性欲の変化といった精神的な問題が性生活の妨げとなることもありますが、これらは適切な対処によって改善できる可能性があります。
閉経は性生活の終わりではなく、性のあり方を見つめ直し、パートナーと共に新たな形を探求する機会と捉えることもできます。挿入だけにとらわれず、お互いが心地よいと感じるスキンシップや親密な時間を大切にすることで、性生活を続けることも可能ですし、それが二人の関係性をより豊かなものにする場合もあります。
専門家への相談と治療
更年期における性行為の悩みは、体の変化が原因であることが多く、我慢したり一人で悩んだりする必要はありません。専門家である医師に相談することで、適切な診断と治療を受けることができます。
どんな時に医師に相談すべきか
以下のような場合は、我慢せずに医療機関(婦人科、更年期外来など)への相談を検討しましょう。
- 性交痛が頻繁に起こる、あるいは痛みが強い: 性行為を試みるたびに痛い、痛みのせいで性行為を避けてしまう、といった状態が続く場合。
- 膣の乾燥や不快感が日常生活にも影響している: 性行為時だけでなく、普段からデリつき感、かゆみ、ヒリつきなどを感じる場合。
- 出血が繰り返し起こる: 性行為の度に出血したり、性行為とは関係なく不正出血がある場合。
- 性欲の低下が深刻で、自分自身やパートナーシップに影響を与えている: 性欲が全くなくなってしまい、それが悩みになっている、パートナーとの関係に溝ができていると感じる場合。
- セルフケア(保湿剤や潤滑剤など)だけでは改善しない: 市販の製品を試しても、悩みが解決しない場合。
- 体の変化や性に関する悩みについて、誰かに話を聞いてほしい、アドバイスが欲しい: 信頼できる相談相手がいない、あるいは専門家の意見を聞きたいと感じる場合。
これらのサインは、「医療的なサポートが必要かもしれない」という体からのメッセージです。
婦人科での相談内容と診察
婦人科を受診する際は、具体的にどのような悩みを抱えているのかを医師に伝えましょう。
- 相談内容:
- 性交痛があること(痛みの場所、種類、頻度など)
- 膣の乾燥や潤滑不足について
- 性欲の変化について
- 閉経や更年期症状全般について
- パートナーシップの悩み
- 試したセルフケアとその効果
- 期待する治療法や生活への影響
- 診察:
- 問診: 現在の症状、既往歴、内服薬、ライフスタイル、パートナーとの関係性などについて詳しく聞かれます。
- 内診: 膣や外陰部の状態(乾燥、萎縮、炎症の有無など)を視診や触診で確認することがあります。痛みがある場合は無理せず伝えましょう。必要な場合は、子宮頸がん検診や感染症の検査なども同時に行うことがあります。
- ホルモン検査: 採血で女性ホルモンなどの値を調べることもありますが、更年期の診断は症状と年齢が重視されるため、必須ではありません。
「恥ずかしい」と感じる方もいるかもしれませんが、婦人科医は女性の体の専門家であり、性に関する悩みも日常的に相談を受けています。デリケートな話に配慮して聞いてくれる医師を選びましょう。更年期外来を設けている医療機関では、より専門的な相談が可能です。
更年期性行為に関する治療法(ホルモン補充療法など)
医療機関で提供される更年期性行為に関する主な治療法は、前述の「医療機関での治療法の検討」で詳しく解説した通りです。
- 局所エストロゲン療法: 膣や外陰部への直接的な治療。乾燥、萎縮、性交痛に高い効果。
- DHEA膣坐剤: 局所療法の一つ。
- ホルモン補充療法(HRT): 全身投与。全身の更年期症状と性器周りの症状両方に効果。
- レーザー治療: 膣粘膜の再生を促す。
- PRP療法: 組織修復・再生を促す。
これらの治療法に加えて、精神的なサポートやカウンセリングが有効な場合もあります。また、性交痛が骨盤底筋の緊張による場合は、理学療法士による骨盤底筋のリラクゼーション指導などが有効なこともあります。
重要なのは、これらの治療法によって、更年期以降も性行為に伴う不快感や痛みを軽減し、性生活を諦める必要はない、ということです。自身の体と向き合い、パートナーと支え合いながら、専門家の力を借りてより良い性生活を送るための選択肢があることを知っておきましょう。
【まとめ】更年期障害と女性の性行為の悩みは解決できる
更年期障害は、女性の体に様々な変化をもたらし、性行為に関する悩みの原因となることが少なくありません。性欲の変化、膣の乾燥・萎縮、性交痛や出血、挿入困難といった問題は、多くの女性が経験しながらも、なかなか人に相談できずに抱え込んでしまいがちです。
しかし、これらの悩みの多くは、更年期によるホルモンバランスの変化やそれに伴う体の変化によって引き起こされる自然なものです。そして、適切な対処法を知り、実践することで、症状を和らげ、性生活の質を改善することが十分に可能です。
セルフケアとしては、パートナーとのオープンなコミュニケーション、膣用保湿剤や性交時用潤滑剤の使用、骨盤底筋トレーニングなどが有効です。これらの方法で改善が見られない場合や、症状が重い場合は、我慢せずに婦人科や更年期外来を受診しましょう。医療機関では、ホルモン補充療法や局所療法、レーザー治療など、様々な選択肢があり、個々の症状や状態に合わせた治療を受けることができます。
閉経後も性感染症の予防は必要ですが、妊娠の心配がなくなることで、より安心して性生活を楽しめるようになる方もいます。年齢に関わらず、自分自身とパートナーにとって心地よく、満足できる性生活を送ることは、心身の健康やパートナーシップの維持にとって大切な要素となり得ます。
更年期における性に関する悩みは、一人で抱え込む必要はありません。体の変化は自然なことであり、それを乗り越えるための方法はたくさんあります。この記事を参考に、ご自身の体と心、そしてパートナーシップと向き合い、必要であれば専門家のサポートを借りながら、より豊かな人生を送るための一歩を踏み出してください。
免責事項: 本記事は一般的な情報提供を目的としており、医学的な診断や治療を推奨するものではありません。個々の症状については、必ず医師の診察を受け、専門家のアドバイスに従ってください。記載されている効果や効能は、個人差があり、全ての人に当てはまるものではありません。