ASD(自閉スペクトラム症)とADHD(注意欠陥・多動性障害)は、どちらも発達障害に分類される神経発達症です。
似たような特徴が見られることもあり、違いが分かりにくいと感じる方も少なくありません。
しかし、それぞれの特性には明確な違いがあり、その違いを理解することは、本人や周囲の人がより生きやすくなるための第一歩となります。
この記事では、ASDとADHDそれぞれの基礎知識から、社会性、コミュニケーション、興味・関心、注意力、衝動性、感情調整、謝罪・ミスへの対応といった様々な側面における違いを詳しく解説します。
また、両方の特性を併せ持つ「併存」についても触れ、自己診断の限界と専門機関での診断の重要性についてもご説明します。
最後までお読みいただくことで、ASDとADHDの違いを深く理解し、ご自身や周囲の方への適切な対応や支援に繋げるヒントを見つけられるでしょう。
ASD(自閉スペクトラム症)とADHD(注意欠陥・多動性障害)の基礎知識
まず、ASDとADHDがそれぞれどのような障害なのか、基本的な情報を見ていきましょう。
ASD(自閉スペクトラム症)とは
ASD(Autism Spectrum Disorder:自閉スペクトラム症)は、対人関係や社会的なコミュニケーションの困難、特定の物事への強いこだわりや反復行動、感覚の偏りなどを特徴とする神経発達症です。
スペクトラムという言葉が示す通り、これらの特性の現れ方や程度は一人ひとり大きく異なり、知的発達の遅れを伴う場合と伴わない場合があります。
ASDの診断は、DSM-5(精神疾患の診断・統計マニュアル 第5版)の診断基準に基づいて、専門医が行います。
この基準では、以下の2つの領域での持続的な困難が見られることが要件となります。
- 社会的コミュニケーションおよび対人的相互作用における持続的な欠陥
- 限定された、反復的な様式の行動、興味、活動
これらの特性は幼少期から見られますが、社会的な要求が高まるにつれて顕著になることが多いとされています。
ASDの主な特性
ASDの主な特性は多岐にわたりますが、代表的なものとして以下の点が挙げられます。
- 社会的コミュニケーション・対人関係の困難:
- 非言語コミュニケーション(表情、ジェスチャー、アイコンタクトなど)の理解や使用が苦手。
- 場の空気を読むことや、相手の気持ちを推測することが難しい。
- 会話の始め方や終わらせ方、話題の選び方などが定型的でない。
- 一方的に話し続けたり、自分の興味のある話題に固執したりする傾向。
- 他者との感情的な交流が苦手。
- 集団行動が苦手で、一人でいることを好むことがある。
- 限定された興味・こだわり、反復行動:
- 特定の事柄(電車、昆虫、歴史上の人物など)に対して非常に強い興味を持ち、深い知識を持つ。
- 決まった手順やルーティンにこだわり、変更を嫌う。
- 特定の行動(手をひらひらさせる、体を揺らすなど)を繰り返すことがある(常同行動)。
- 物の配置や順番などに強いこだわりを持つ。
- 感覚の偏り:
- 特定の音、光、感触などに極端に敏感(感覚過敏)であったり、逆に鈍感(感覚鈍感)であったりする。
- 特定の食べ物の食感や匂いを極端に嫌うことがある。
これらの特性は、日常生活や社会生活において様々な困難を引き起こす可能性がありますが、一方で特定の分野で才能を発揮する要因となることもあります。
ASDの旧称・分類(アスペルガー症候群など)
ASDは、かつてはいくつかの異なる診断名で呼ばれていました。
- 広汎性発達障害(PDD: Pervasive Developmental Disorders): 自閉症、アスペルガー症候群、特定不能の広汎性発達障害、レット症候群、小児期崩壊性障害などが含まれていました。
- 自閉症: 知的障害を伴うことが多いとされていました。
- アスペルガー症候群: 知的発達の遅れを伴わない自閉症とされ、特に高い言語能力を持つ場合に診断されることがありました。
DSM-5が2013年に改訂された際に、これらの診断名が「自閉スペクトラム症(ASD)」として統合されました。
これは、自閉症の特性が連続体(スペクトラム)として捉えられるようになったためです。
現在では、知的発達の程度や言語能力の有無などによって、ASDの中でも「知的障害を伴う/伴わない」「言語能力を伴う/伴わない」といった形で詳細に分類されることが一般的です。
ADHD(注意欠陥・多動性障害)とは
ADHD(Attention-Deficit/Hyperactivity Disorder:注意欠陥・多動性障害)は、「不注意」「多動性」「衝動性」といった特性が持続的に見られ、生活や学習、仕事などに困難をきたす神経発達症です。
これらの特性は幼少期に始まり、成長とともに現れ方が変化することがありますが、成人期まで持続する場合も多くあります。
ADHDの診断も、DSM-5の診断基準に基づいて専門医が行います。
診断基準では、以下の2つの領域のうち、いずれかまたは両方において、年齢や発達レベルに見合わない頻度と程度で特性が見られることが要件となります。
- 不注意
- 多動性・衝動性
これらの特性は、家庭や学校、職場など、複数の場面で見られることが重要です。
ADHDの主な特性(不注意、多動性、衝動性)
ADHDの主な特性は、大きく分けて以下の3つに分類されます。
- 不注意:
- 集中力が続かず、気が散りやすい。
- 細かいミスが多い。
- 物事を順序立てて行うのが苦手。
- 整理整頓が苦手で物をなくしやすい。
- 指示を聞き漏らす、または従えない。
- 面倒な課題や長時間の活動を避けがち。
- 多動性:
- じっとしていることが苦手で、そわそわしたり落ち着きがない。
- 座っていても手足をもじもじさせたり、体を揺らしたりする。
- 席を離れるべきではない場面で席を離れる。
- 静かに遊ぶことや余暇活動を楽しむことが苦手。
- 常に何かしていないと気が済まない。
- 過度に喋る。
- 衝動性:
- 考える前に発言したり行動したりする。
- 他人の話を遮ったり、順番を待てなかったりする。
- 危険な行動をためらわずに行ってしまう。
- 感情の起伏が激しく、かっとなりやすい。
- 欲求のコントロールが難しい。
これらの特性の現れ方は、年齢や環境によって変化します。
例えば、子どもの頃は多動性が目立っても、成人すると落ち着きが見られるようになる一方で、不注意や衝動性が課題として残ることがあります。
ADHDのサブタイプ
DSM-5では、見られる特性の組み合わせによってADHDを以下の3つのサブタイプに分類しています。
- 混合型: 不注意、多動性、衝動性の両方の特性基準を満たす場合。
最も一般的なタイプです。 - 不注意優勢型: 不注意の特性基準は満たすが、多動性・衝動性の基準は満たさない場合。
以前はADD(注意欠陥障害)と呼ばれることもありました。
落ち着きがないといった外見的な特徴が目立たないため、見過ごされやすいことがあります。 - 多動性・衝動性優勢型: 多動性・衝動性の特性基準は満たすが、不注意の基準は満たさない場合。
子どもの頃によく見られるタイプですが、成人期までこのタイプが持続することは比較的少ないとされています。
どのサブタイプに該当するかによって、日常生活でどのような困りごとが起こりやすいかが異なります。
ASDとADHDの主な違いを比較解説
ASDとADHDは、どちらも脳機能の発達の仕方の違いによるものですが、その特性の現れ方には多くの違いがあります。
ここでは、様々な側面から両者の違いを比較しながら解説します。
社会性・対人関係における違い
特性 | ASD(自閉スペクトラム症) | ADHD(注意欠陥・多動性障害) |
---|---|---|
対人関係 | 関係を築くこと自体に困難を感じることが多い。 | 関係を築く意欲はあるが、維持や深めることが苦手な場合がある。 |
社会的スキル | 暗黙のルールや場の空気を読むことが苦手。 | ルールを理解していても、衝動性により逸脱したり失言したりしやすい。 |
共感性 | 他者の気持ちや意図を推測することが難しいことがある。 | 共感する能力はあるが、不注意や衝動性で相手の気持ちを汲み取れないことがある。 |
集団行動 | 集団で過ごすことよりも一人を好む傾向がある。 | 集団に馴染むことはできるが、騒がしくしたりトラブルを起こしたりしやすい。 |
ASDの人は、対人関係そのものに対する興味が薄かったり、関係を築くためのスキルが定型発達の人とは異なったりすることが多いです。
例えば、「挨拶はなぜするのか」「雑談の意味が分からない」といったように、社会的な慣習や非言語的なコミュニケーションを理解することに困難を感じることがあります。
そのため、人間関係を築くことに苦労したり、孤立したりすることがあります。
一方、ADHDの人は、人との関わりを持つこと自体は好きで、積極的に話しかけたり輪に入ろうとしたりする傾向があります。
しかし、不注意から相手の話を聞き漏らしたり、衝動的に失言をしてしまったり、約束を忘れたりすることで、人間関係を維持することが難しくなる場合があります。
相手の気持ちを推測する能力はあっても、自分の衝動性を抑えられないことで、結果的に相手を傷つけたり、トラブルになったりすることがあります。
コミュニケーションにおける違い
特性 | ASD(自閉スペクトラム症) | ADHD(注意欠陥・多動性障害) |
---|---|---|
会話の内容 | 自分の興味のある話題に固執したり、一方的に話したりしやすい。 | 話題が次々と飛んだり、結論なく話したりしやすい。 |
話し方 | 声のトーンや抑揚が一定、早口、独特な言い回しなど、定型的でない場合がある。 | 興奮すると早口になったり、言葉を選ばずに話したりしやすい。 |
聞き方 | 相手の話の意図や感情を読み取ることが苦手。 | 集中力が続かず、途中で飽きたり、聞き漏らしたりしやすい。 |
非言語 | アイコンタクトが少ない、表情が乏しい、ジェスチャーが少ないなど。 | 落ち着きがなく、そわそわしたり、人の話を遮ったりしやすい。 |
言葉の解釈 | 比喩や皮肉、冗談などを文字通りに受け取ることが多い。 | 文脈を理解する能力はあるが、不注意で誤解することがある。 |
コミュニケーションのスタイルも、両者で異なります。
ASDの大人の喋り方の特徴
ASDの特性を持つ大人の喋り方には、以下のような特徴が見られることがあります。
- 一方的または特定の話題への固執: 自分の好きなことや知っていることについて、相手の反応を気にせずに一方的に話し続けたり、繰り返し同じ話題に戻ったりします。
- 単調な声のトーンや抑揚: 感情が声に乗りにくく、機械的なトーンや抑揚の少ない話し方になることがあります。
- 早口またはゆっくりすぎる話し方: 会話のペースを相手に合わせるのが苦手で、極端に早口になったり、間が多すぎたりすることがあります。
- 独特な言葉遣いや言い回し: 定型発達の人が使わないような専門用語を多用したり、比喩や慣用句を文字通りに解釈したりすることがあります。
- 質問への直接的な回答: 質問に対して、必要以上に詳細に説明したり、文脈を無視して正直すぎる回答をしたりすることがあります。
これらの特徴は、コミュニケーションの意欲がないわけではなく、定型発達の人が無意識に行っている「相手に合わせた話し方」や「暗黙のルール」を理解・実行することが難しいことに起因します。
ADHDのコミュニケーション傾向
ADHDの特性を持つ人のコミュニケーション傾向は、主に不注意と衝動性の影響を受けます。
- 話題が飛びやすい: 一つの話題に集中することが難しく、話している途中で別のことを思い出したり、目についたものに気を取られたりして、話が次々と飛んでしまいます。
- 結論がない/まとまらない: 話を整理して伝えるのが苦手で、思いついたことから順に話すため、結局何が言いたいのか分かりにくくなることがあります。
- 衝動的な発言: 相手の話が終わる前に話し始めたり、質問されてすぐに考えずに答えてしまったりします。
失言や不適切な発言をしてしまうこともあります。 - 聞き漏らしや上の空: 相手の話を集中して聞くことが難しく、重要な部分を聞き逃したり、話している間に別のことを考えてしまったりします。
- 過度に喋る: 興奮したり緊張したりすると、マシンガンのように喋り続けたり、大きな声になったりすることがあります。
ADHDの人のコミュニケーションの困難は、主に注意や衝動のコントロールが難しいことに起因します。
悪気はないのに、結果的に相手とのコミュニケーションがうまくいかないと感じることが多いようです。
興味・関心やこだわりにおける違い
特性 | ASD(自閉スペクトラム症) | ADHD(注意欠陥・多動性障害) |
---|---|---|
興味の対象 | 狭く深い特定の分野に強い興味を持つ。 | 幅広い対象に興味を持つが、飽きやすく長続きしないことが多い。 |
こだわり | 特定のルールや手順、物事に強くこだわる。 | 興味が移り変わるため、特定のこだわりを持つことは少ないが、過集中が見られる。 |
変化への対応 | 予定や環境の変化に非常に弱い。 | 新しいもの好きで変化に対応しやすいが、ルーティンをこなすのが苦手な場合がある。 |
ASDのこだわりが強い特性
ASDの最も特徴的な特性の一つが「こだわり」です。
- 特定の興味対象への没頭: 鉄道、昆虫、アニメ、特定の歴史上の出来事など、ごく限られた特定の分野に対して非常に強い興味を持ち、時間を忘れて没頭します。
その知識は専門家顔負けであることも少なくありません。 - ルーティンや手順へのこだわり: 毎日の生活の中で決まった手順やルーティン(例: 通勤ルート、食事の順番、物の配置など)を重視し、それが崩れると強い不安や混乱を感じます。
- 同一性へのこだわり: 物事が常に同じであること、変化しないことを好みます。
予期せぬ変更やサプライズを嫌う傾向があります。
この「こだわり」は、安心感を得るためや、予測可能な世界を維持するための重要な手段であることが多いです。
ADHDとこだわり(過集中など)
ADHDの人には、ASDのような特定の物事への強いこだわりはあまり見られません。
むしろ、様々な物事に興味が移り変わりやすく、飽きっぽいという側面があります。
しかし、ADHDの人にも「過集中」と呼ばれる状態が見られることがあります。
- 過集中: 自分が強い興味を持った対象や、締め切りが迫っているなど特定の条件下では、驚異的な集中力を発揮し、時間を忘れて没頭することがあります。
周囲の声が全く聞こえなくなったり、休憩や食事を忘れてしまったりするほどです。
この過集中は、ASDのこだわりによる没頭と似ているように見えることがありますが、ASDのこだわりが「特定の手順やルール、対象への持続的な執着」であるのに対し、ADHDの過集中はその時の興味や状況によって「突発的かつ一時的に高い集中力が発揮される状態」という点で異なります。
過集中が終わると、一転して集中力が全く続かなくなるという波があるのも特徴です。
注意力・集中力における違い
特性 | ASD(自閉スペクトラム症) | ADHD(注意欠陥・多動性障害) |
---|---|---|
注意の向け方 | 特定の細部に注意が向きやすいが、全体像を捉えるのが苦手な場合がある。 | 注意が散漫で、複数の情報に同時に注意を向けるのが難しい。 |
集中力 | 興味のあることには驚異的な集中力を発揮する(過集中とは異なる持続性)。 | 興味のないことには集中力が続かないが、興味のあることには過集中が見られる。 |
切り替え | 一つのことに集中すると、別のことへの切り替えが非常に苦手。 | 一つのことに集中するのが苦手で、注意が次々と移り変わりやすい。 |
注意の向け方や集中力の持続にも違いがあります。
ASDの人は、興味のあることや特定の作業には非常に高い集中力を発揮し、細部まで徹底的に取り組むことができます。
しかし、関心のないことや、全体像を把握して複数の要素に同時に注意を向けるような状況は苦手な傾向があります。
また、一度何かに集中すると、そこから別のタスクへ注意を切り替えることが難しい、あるいは時間がかかるという特徴があります。
これは、脳の注意の焦点が狭く、そこから離れるのが難しいイメージです。
ADHDの人は、そもそも一つのことに注意を集中させ続けることが苦手です。
外部からの刺激(音、視覚情報など)や内部からの刺激(考え事、空腹感など)によって容易に注意が逸れてしまいます。
複数の情報を同時に処理したり、優先順位をつけて作業したりすることも苦手な傾向があります。
しかし、前述のように、自分が非常に興味を持ったことに対しては、周囲が驚くほどの「過集中」を発揮することがあります。
ADHDの人の注意は、一点に深く集中するというよりは、様々なものへ「飛び回りやすい」イメージです。
衝動性の現れ方の違い
特性 | ASD(自閉スペクトラム症) | ADHD(注意欠陥・多動性障害) |
---|---|---|
衝動性 | ルールや予測不可能な事態への不安から、衝動的な行動は比較的少ない傾向。 | 考えずに行動したり発言したりすることが多い。 |
パニック | 予測外の出来事や感覚的な刺激への過剰反応としてパニックになることがある。 | 欲求不満や感情の起伏から、衝動的に怒りや癇癪を起こすことがある。 |
衝動性はADHDの主要な特性の一つですが、ASDの人にも衝動的に見える行動が現れることがあります。
ただし、その背景やメカニズムは異なります。
ADHDの衝動性は、脳の前頭前野の機能差により、行動や思考を制御するブレーキがかかりにくいことに起因します。
そのため、思いついたことをすぐ口に出す、列に割り込む、危険な行動をためらわない、感情的にかっとなる、といった形で現れます。
これは、意図的にルールを破っているというよりは、衝動を抑えることが物理的に難しい状態です。
一方、ASDの人が衝動的に見える行動をとる場合、その背景には別の理由があることが多いです。
例えば、感覚過敏による苦痛から逃れるために突然その場から走り去ったり、予測不可能な状況や予定の変更に対する強い不安からパニックになったりすることがあります。
これは、衝動そのものというよりは、感覚や認知の特性、あるいは不安への対処として現れる行動と言えます。
ルールや予測可能な状況を好むASDの人は、ADHDの人ほど突発的で予測不能な行動を頻繁にとることは少ない傾向があります。
感情調整や癇癪について
特性 | ASD(自閉スペクトラム症) | ADHD(注意欠陥・多動性障害) |
---|---|---|
感情の理解 | 自分や他者の感情を認識したり、表現したりすることが難しい場合がある。 | 感情を認識することはできるが、そのコントロールが難しい。 |
感情の表現 | 感情を表に出すのが苦手、あるいは状況にそぐわない表現になることがある。 | 感情がストレートに出やすく、怒りや喜びなどが爆発的に現れることがある。 |
癇癪/パニック | 強い不安や感覚刺激への反応として、フリーズしたりパニックになったりしやすい。 | 欲求不満や衝動性の影響で、かっとなったり激しい怒りを示したりしやすい。 |
感情の調整や、それがうまくいかない時に起こる癇癪やパニックの現れ方も異なります。
ASDの人がカッとなりやすい背景
ASDの人が「カッとなる」ように見える場合、その背景には以下のような要因が考えられます。
- 感情の認識・表現の困難: 自分が今どのような感情を感じているのか、それをどう表現すれば良いのかが分からないため、感情が溜まりやすく、限界に達すると突然爆発したように見えます。
- コミュニケーションの困難: 自分の要求や気持ちを言葉でうまく伝えられないため、フラストレーションが溜まり、それが怒りとして表れることがあります。
- 予測不可能な状況への不安: 予定の変更や予期せぬ出来事、理解できない状況などに対して強い不安を感じ、それがパニックや癇癪に繋がることがあります。
- 感覚過敏: 特定の音、光、匂い、感触などが苦痛となり、その刺激から逃れたい、あるいは我慢の限界に達して、衝動的に反応することがあります。
ASDの人の感情的な爆発は、多くの場合、コミュニケーションの困難、環境の変化への弱さ、感覚過敏といった根深い特性が原因となっています。
ADHDの衝動性と感情
ADHDの人の感情調整の困難は、主に衝動性の影響が大きいです。
- 感情の起伏が激しい: ちょっとしたことで喜びや悲しみ、怒りといった感情が強く表れ、それが顔や態度にストレートに出やすい傾向があります。
- かっとなりやすい: 欲求不満を感じたり、思い通りにならないことがあると、感情的なブレーキがかかりにくいため、かっとなったり、激しい怒りを示したりしやすいです。
- すぐに立ち直る: 感情的な爆発があっても、その感情が長引きにくく、比較的早く気持ちを切り替えることができる場合が多いです。
ADHDの人の感情的な反応は、瞬間的な衝動や感情の制御の難しさから生じることが多いです。
ASDのような不安や感覚的な苦痛が直接の原因となることは比較的少ないと言えます。
謝罪やミスへの対応の違い
特性 | ASD(自閉スペクトラム症) | ADHD(注意欠陥・多動性障害) |
---|---|---|
ミスへの認識 | 自分がミスをしたことに気づきにくいことがある。意図的に悪かったわけではないと考える。 | ミスに気づくことはあるが、不注意や衝動性によるものが多く、反省が続かないことがある。 |
謝罪 | なぜ謝る必要があるのか理解できなかったり、定型的な謝罪が難しかったりする。 | 謝罪の必要性は理解できるが、タイミングを逃したり、その場しのぎになったりすることがある。 |
改善行動 | ルールとして理解すれば、再発防止に努めることができる。 | 同じミスを繰り返しやすい。対策を立てるのが苦手な場合がある。 |
自分がミスをした時の対応や謝罪の仕方にも違いが現れることがあります。
ASDの人が謝れない理由
ASDの人が謝罪を苦手とする、あるいは謝らないように見える場合、その背景には以下のような理由が考えられます。
- 社会的なルールの理解不足: 「謝罪」がどのような状況で必要とされ、どのような意味を持つのか、その社会的ルールを理解するのが難しい場合があります。
- 自分の行動の意図: 悪気がなく、意図的に相手を傷つけようとしたわけではないのに、なぜ謝らなければならないのかが理解できないことがあります。
- 言葉で気持ちを伝える難しさ: 申し訳ないという気持ちがあっても、それを適切な言葉で表現することが難しい場合があります。
- 正直さ: 自分が本当に悪いと思っていない場合に、形だけの謝罪をすることが苦手です。
- 完璧主義/間違いを認められない: 間違いを認めること自体に強い抵抗を感じる場合があります。
ASDの人が謝らないのは、多くの場合、コミュニケーションや社会的なルールの理解といった特性に関連しています。
ADHDの人が謝罪を苦手とすることがある理由
ADHDの人が謝罪を苦手とすることがある場合、その背景には以下のような理由が考えられます。
- 不注意によるミス: 不注意や衝動性によってミスをすることが多く、そのたびに深く反省しても、すぐに忘れてしまったり、再び同じミスを繰り返したりすることがあります。
これにより、謝罪に対する重みが薄れたり、「どうせまた失敗するし…」と諦めのような気持ちになったりすることがあります。 - 衝動的な発言・行動: 考えずに行動した結果トラブルになり、謝罪が必要になった場合、その場で謝罪の必要性は理解できても、適切な言葉が出てこなかったり、タイミングを逃したりすることがあります。
- 感情の起伏: 怒りや欲求不満から衝動的に行動した結果、相手を傷つけた場合、瞬間的には反省しても、感情が冷めるとすぐに別のことに気が移り、反省の気持ちが持続しないことがあります。
- 面倒に感じる: 謝罪やその後の関係修復といったプロセスを面倒に感じ、避けようとすることがあります。
ADHDの人の謝罪に関する困難は、主に不注意や衝動性、感情のコントロールといった特性に関連しています。
悪気がない場合が多いですが、結果的に無責任に見えたり、反省していないように見えたりすることがあります。
ASDとADHDは併存することがある?(混合型)
以前はASDとADHDは同時に診断されないと考えられていましたが、DSM-5の改訂以降、両方の診断基準を満たす場合は「併存」として診断されるようになりました。
これは、ASDとADHDがそれぞれ独立した特性を持ちつつも、一部重複する部分があったり、両方の特性が同時に現れたりすることがあるという理解が進んだためです。
ASDとADHDの併存(混合型)とは
ASDとADHDの併存は、文字通り、ASDの特性とADHDの特性の両方が、診断基準を満たす程度で同時に見られる状態を指します。
DSM-5のADHDのサブタイプの一つである「混合型」はADHDの中での分類ですが、ここで言う併存は「ASDとADHDという異なる診断が同時に成立する」ことを意味します。
例えば、「対人関係の困難や特定のこだわりといったASDの特性」と、「不注意や衝動性、多動性といったADHDの特性」の両方が見られる場合、専門医によってASDおよびADHDと併存診断されることがあります。
併存する場合に見られる特徴
ASDとADHDが併存する場合、それぞれの特性が組み合わさることで、より複雑な形で困りごとが現れることがあります。
以下のような特徴が見られることがあります。
- コミュニケーションの混乱: ASDの特性による「一方的な話し方」や「場の空気を読まない発言」に、ADHDの特性による「話題の飛びやすさ」や「衝動的な口出し」が加わることで、会話がより成り立ちにくくなる。
- 集中力と注意力の矛盾: ASDの特性による「興味のあることへの強い集中力」と、ADHDの特性による「不注意や気が散りやすさ」が同時に存在し、極端な過集中と全く集中できない状態を行き来する。
- こだわりの強さと衝動性: ASDの特性による「強いこだわりやルーティンへの固執」がある一方で、ADHDの特性による「衝動性」により、そのこだわりを守れなかったり、予期せぬ行動をとってしまったりする。
- 感情調整の難しさ: ASDの特性による「感情の認識・表現の困難」や「不安への弱さ」に、ADHDの特性による「感情の起伏の激しさ」や「かっとなりやすさ」が加わり、感情のコントロールがさらに困難になる。
- 感覚過敏と多動性: ASDの特性による「特定の感覚刺激への過敏さ」があり、その刺激から逃れるために、ADHDの特性による「多動性」が強く現れる。
このように、両方の特性が同時に存在することで、それぞれの特性が単独で現れる場合とは異なる、あるいはより大きな困難が生じることがあります。
併存による困りごとと影響
ASDとADHDの併存は、日常生活、学習、仕事、人間関係など、様々な側面に大きな影響を与える可能性があります。
- 学業・仕事: 不注意や集中力の困難(ADHD)に加え、指示を文字通りに受け取ってしまう(ASD)、変化に対応できない(ASD)といった特性が組み合わさることで、学習や仕事の進行がより困難になることがあります。
スケジュール管理やタスク管理も非常に難しくなります。 - 人間関係: コミュニケーションの困難(ASD)に、衝動的な発言や行動(ADHD)が加わることで、人間関係の構築・維持が極めて難しくなることがあります。
孤立したり、トラブルに巻き込まれたりするリスクが高まります。 - 日常生活: 片付けが苦手(ADHD)であると同時に、特定の物へのこだわりが強く物を捨てられない(ASD)といった特性があると、部屋が物で溢れかえってしまうなど、日常生活の管理が難しくなります。
- 精神的な健康: 特性の現れ方が複雑であるため、周囲からの理解が得られにくく、自己肯定感が低下したり、二次障害(不安障害、うつ病など)を発症したりするリスクが高まります。
併存している場合は、それぞれの特性に合わせた対応や支援を組み合わせる必要があるため、単独の場合よりも専門的なアプローチが求められることが多いです。
自己診断の限界と専門機関への相談・診断の重要性
インターネットや書籍などでASDやADHDに関する情報を得ることは、自己理解の第一歩として非常に役立ちます。
しかし、これらの情報だけで自己診断を行うことには、大きな限界と危険が伴います。
なぜ自己診断は難しいのか
- 情報不足と誤解: 診断基準や特性に関する情報が断片的であったり、インターネット上の情報が必ずしも正確でなかったりするため、正しい理解に基づいた判断が難しい。
- 主観的な判断: 自分の特性を客観的に評価することは非常に困難です。
困りごとだけに着目したり、逆に都合の良い部分だけを過大評価したりする可能性があります。 - 他の可能性を見落とす: 発達障害の特性と似たような症状が、他の精神疾患(うつ病、不安障害など)や、生育環境、ストレスなどによって現れることもあります。
専門知識がなければ、これらの可能性を見落としてしまう危険があります。 - 特性の程度の判断: ASDやADHDの診断は、特性が「生活や学習、仕事などに支障をきたしているかどうか」が重要な要素です。
単にいくつかの特性に当てはまるだけでなく、その程度や頻度、複数の場面での持続性などが専門的な視点から判断されます。
自己判断ではこの程度の評価ができません。
安易な自己診断は、間違った自己理解に繋がったり、不必要な不安を抱えたり、本当に必要な支援や治療を受ける機会を逃したりする可能性があります。
診断を受けるメリット
専門機関で正確な診断を受けることには、多くのメリットがあります。
- 正確な自己理解: なぜ特定の状況で困難を感じるのか、自分の行動や考え方の背景にある特性を正確に理解できます。
これは、自分自身を受け入れ、前向きに特性と向き合っていくための基盤となります。 - 適切な支援・対策へのアクセス: 診断に基づいて、それぞれの特性に合わせた具体的な対処法や、日常生活・社会生活での困難を軽減するための環境調整、合理的配慮、専門的な支援(ソーシャルスキルトレーニング、認知行動療法など)を受けることができます。
- 二次障害の予防・治療: 発達障害による困難が原因で生じる不安障害やうつ病などの二次障害のリスクを減らし、すでに発症している場合は適切な治療に繋げることができます。
- 周囲の理解と協力: 診断名があることで、家族、学校、職場などの周囲の人も本人の特性を理解しやすくなり、適切なサポートや配慮を得られやすくなります。
- 公的な支援の利用: 診断によって、障害者手帳の取得、障害福祉サービスの利用、雇用に関する支援など、様々な公的な支援制度を利用できる場合があります。
診断はあくまで「診断名」であり、その人自身を定義するものではありません。
重要なのは、診断を通じて自分の特性を理解し、自分らしく生きるための道を探ることです。
専門機関の選び方と受診の流れ
ASDやADHDの診断や相談ができる専門機関には、精神科、心療内科、発達障害者支援センターなどがあります。
- 医療機関(精神科、心療内科): 診断や投薬治療(ADHDの場合)、心理療法などを受けることができます。
発達障害を専門としている医療機関や医師を選ぶことが重要です。
インターネットで「(お住まいの地域) 発達障害 診断 病院」などで検索したり、かかりつけ医や地域の相談窓口に相談したりして情報を集めましょう。 - 発達障害者支援センター: 発達障害のある方やその家族からの相談に応じ、情報提供、助言、専門機関への紹介などを行います。
診断はできませんが、最初に相談する場所として適しています。 - 精神保健福祉センター: 心の健康に関する相談や情報提供を行っています。
受診の流れ(一般的な例):
- 情報収集と予約: 専門機関を探し、電話やウェブサイトで予約を入れます。
初診は予約が取りにくい場合があるので、時間に余裕を持って行動しましょう。 - 問診票の記入: 受診前に、生育歴、現在の困りごと、家族構成などを記入する問診票が渡されることが多いです。
具体的に記述できるように、事前に情報を整理しておくと良いでしょう。 - 医師による問診: 医師が問診票の内容や本人からの聞き取り、家族からの情報などを参考に、特性や困りごとについて詳しく尋ねます。
幼少期からのエピソードが診断に重要になるため、可能であれば幼少期をよく知る家族などに同席してもらったり、情報提供をお願いしたりすると良いでしょう。 - 心理検査・発達検査: 必要に応じて、知能検査や性格検査、特性の偏りを調べる検査などが行われることがあります。
- 診断と説明: 問診や検査結果を総合的に判断して、医師が診断を行います。
診断名だけでなく、どのような特性があり、それがどのように困りごとに繋がっているのか、今後の対応や支援について詳しく説明があります。
疑問点があれば遠慮なく質問しましょう。 - 今後の支援計画: 診断後、本人や家族の希望も踏まえながら、医療的なケアだけでなく、福祉的な支援や社会資源の活用など、今後のサポート計画を立てていきます。
診断を受けることは、自分自身を理解し、より良い未来を築くための重要なステップです。
一人で悩まず、専門家のサポートを得ることを検討しましょう。
まとめ:asd adhd 違いを理解し、適切な対応・支援へ
ASD(自閉スペクトラム症)とADHD(注意欠陥・多動性障害)は、どちらも神経発達症ですが、社会性、コミュニケーション、興味・こだわり、注意力、衝動性、感情調整、謝罪・ミスへの対応など、様々な側面で異なる特性が見られます。
特性 | ASD(自閉スペクトラム症) | ADHD(注意欠陥・多動性障害) |
---|---|---|
主な困難 | 対人関係、コミュニケーション、変化への対応、感覚過敏など | 不注意、多動性、衝動性、感情のコントロールなど |
興味・こだわり | 特定の狭い分野に深く没頭。ルーティンや同一性を好む。 | 幅広い対象に興味が移り変わりやすい。特定の状況で過集中が見られる。 |
コミュニケーション | 非言語や場の空気の理解が苦手。一方的になりがち。比喩を文字通り解釈。 | 集中して聞くのが苦手。衝動的な発言や話題の飛びやすさ。 |
衝動性 | 不安や感覚刺激への反応としてパニックになることはあるが、行動自体は予測可能を好む。 | 考えずに行動・発言。感情の起伏が激しい。 |
謝罪・ミス対応 | 社会的なルールの理解や言葉での表現が苦手な場合がある。悪気がなかったと考える。 | 不注意でミスが多く、反省が続かないことがある。衝動的な言動で謝罪が必要になりがち。 |
両者は異なる特性を持つ一方で、両方の特性が同時に見られる「併存」の場合もあり、その場合はさらに複雑な困難が生じることがあります。
インターネット上の情報だけでの自己診断には限界があり、正確な診断は専門機関での受診が必要です。
診断を受けることは、自身の特性を正しく理解し、適切な支援や対応に繋げるための重要なステップです。
困りごとを抱えている場合や、自身の特性について深く知りたい場合は、一人で抱え込まず、精神科、心療内科、発達障害者支援センターなどの専門機関に相談してみましょう。
ASDとADHDの違いを理解することは、ご本人だけでなく、ご家族や周囲の人が適切な関わり方を見つけるためにも非常に役立ちます。
それぞれの特性を理解し、尊重し合うことで、誰もが自分らしく生きられる社会に繋がることを願っています。
免責事項: 本記事は、ASDとADHDの違いに関する一般的な情報提供を目的としています。
医学的な診断や助言を行うものではありません。
自身の特性や困りごとについて不安がある場合は、必ず専門医療機関にご相談ください。