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腟閉鎖術とは?高齢者や性交渉不要な女性に選ばれる手術

腟閉鎖術とは、骨盤臓器脱に対する手術療法の一つです。
骨盤臓器脱は、子宮、膀胱、直腸などが本来あるべき位置から腟の方へ下垂してくる状態を指し、日常生活に大きな支障をきたすことがあります。
腟閉鎖術は、下垂した臓器を支えるために腟を縫い合わせて閉鎖する手術です。

この手術の最大の特徴は、腟を閉鎖するため、術後に性交渉ができなくなる点です。
そのため、性交渉の希望がない方や、高齢で全身状態から他の手術が難しい方などが主な対象となります。
比較的簡易な手術であり、体への負担が少ないというメリットがありますが、腟がなくなるという不可逆的な変化を伴うため、手術を選択する際には慎重な検討が必要です。

この記事では、腟閉鎖術の対象者、手術の具体的な手順、術後の生活、メリットとデメリット、そして他の骨盤臓器脱治療法との比較について詳しく解説します。
骨盤臓器脱でお悩みの方や、腟閉鎖術を検討されている方にとって、正確な情報を得るための一助となれば幸いです。

目次

骨盤臓器脱(子宮脱、性器脱など)とは?症状や原因

腟閉鎖術は、進行した骨盤臓器脱に対して行われる手術療法の一つです。
骨盤臓器脱によって日常生活に支障が出ているにもかかわらず、年齢や合併症のために他のより侵襲性の高い手術が難しい場合や、術後の性交渉を希望しない場合に選択されることがあります。
この手術は、下垂した臓器を物理的に支えることで症状を改善することを目的としています。

骨盤臓器脱は、女性の骨盤内にある臓器(子宮、膀胱、直腸など)を支える骨盤底筋群や靭帯が緩むことによって、これらの臓器が本来の位置より下がってきて、腟から外に飛び出す状態を指します。
飛び出す臓器によって、子宮脱、膀胱瘤(ぼうこうりゅう)、直腸瘤(ちょくちょうりゅう)、腟断端脱(子宮摘出後の腟壁下垂)などと呼ばれますが、これらを総称して骨盤臓器脱といいます。

主な原因としては、妊娠・出産による骨盤底筋群へのダメージが最も大きいとされています。
特に難産や多産を経験した方に多く見られます。
その他にも、加齢による組織の弾力性の低下、肥満慢性的な咳や便秘による腹圧の上昇、重労働などがリスク因子となります。
閉経後の女性ホルモンの減少も、骨盤底組織の脆弱化に関与すると考えられています。

症状は、臓器の下垂の程度によって異なりますが、初期には「何か降りてくる感じ」「股間に挟まっている感じ」といった違和感や下垂感が現れます。
進行すると、お風呂で洗っているときにピンポン玉のようなものが触れる、歩くと何かが出る、といった具体的な症状が現れます。
さらに進行すると、下着に擦れて出血したり、潰瘍ができたりすることもあります。

下垂した臓器が膀胱や尿道を圧迫することで、尿失禁(特に腹圧性尿失禁)や、逆に排尿困難頻尿などの尿の症状が出ることがあります。
直腸が下垂している場合は、便秘排便困難を訴えることもあります。

これらの症状は、横になったり休んだりすると軽減し、活動したり夕方になったりすると悪化する傾向があります。
多くの女性がこれらの症状を「年だから仕方ない」「恥ずかしい」と感じ、誰にも相談せずに我慢しているケースが多いのが現状です。
しかし、症状が進むと日常生活の質が著しく低下するため、適切な診断と治療が重要です。

腟閉鎖術の目的と概要

腟閉鎖術の主な目的は、下垂した骨盤内臓器を物理的に固定し、骨盤臓器脱に伴う症状(下垂感、排尿・排便障害など)を緩和・改善することです。
この手術は、腟壁の一部または全体を切除・剥離し、腟の前壁と後壁を縫い合わせることで腟管を閉鎖します。
これにより、下垂してきた子宮、膀胱、直腸などがこの縫合された腟壁に支えられ、骨盤内に固定されます。

手術の概要としては、全身麻酔、腰椎麻酔、あるいは硬膜外麻酔などを用いて行われ、手術時間は比較的短く済みます。
術式にはいくつかのバリエーションがありますが、大きく分けて部分閉鎖術と完全閉鎖術があります。
部分閉鎖術では腟の一部を開存させることもありますが、一般的には完全に閉鎖する術式が多く行われます。

この手術が他の骨盤臓器脱手術(例:メッシュを用いた腟壁形成術など)と大きく異なる点は、術後に腟が完全に閉鎖され、性交渉が不可能になることです。
そのため、患者さんの性生活に対する希望が、この手術の適応を判断する上で非常に重要な要素となります。

腟閉鎖術は、他の根治術(メッシュ手術など)と比較して、手術の侵襲(体への負担)が少なく、手術時間も短いため、高齢者や重い合併症(心疾患、呼吸器疾患など)を持つ方で、全身麻酔や長時間の手術に耐えられない場合に適応が検討されます。
また、手術後の再発率が比較的低いという利点もあります。

ただし、一度腟を閉鎖すると元に戻すことは困難であり、また術後に子宮や他の臓器の状態を腟から直接診察することが難しくなるという側面もあります。
したがって、手術を受ける前に、患者さん自身が手術の目的、メリット、デメリット、そして性交渉ができなくなることについて十分に理解し、納得した上で選択することが極めて重要です。
医療従事者との十分な話し合いを通じて、個々の状況に最も適した治療法を見つけることが推奨されます。

腟閉鎖術の対象となる方

腟閉鎖術は、骨盤臓器脱に悩むすべての女性に適応されるわけではありません。
この手術は、その特性上、特定の条件を満たす方に推奨される治療法です。
対象となるかどうかは、骨盤臓器脱の症状の程度、患者さんの年齢や全身状態、そして最も重要な要素である性生活への希望の有無によって総合的に判断されます。

手術を検討する症状や状態

腟閉鎖術を検討するきっかけとなる主な症状や状態は、骨盤臓器脱が進行し、日常生活に大きな支障をきたしている場合です。
具体的には以下のような状況です。

  • 強い下垂感や圧迫感: 臓器が腟から大きく飛び出し、常に股間に何か挟まっているような不快感や重圧感がある。
  • 出血や炎症: 飛び出した臓器が下着に擦れるなどして、出血したり炎症を起こしたりしている。
  • 排尿・排便障害: 臓器の下垂が原因で、排尿困難、便秘、排便時の違和感などが強く、QOL(生活の質)を著しく低下させている。
  • ペッサリー療法の困難: 保存療法であるペッサリー(腟内に挿入して臓器を支えるリング状の器具)がうまく維持できない、違和感が強い、頻繁な交換が必要で負担が大きい、などの理由で継続が難しい。
  • 重度の臓器脱: 臓器が安静時でも腟口から完全に飛び出しているような、進行した骨盤臓器脱。

これらの症状がある場合でも、すぐに腟閉鎖術が選択されるわけではありません。
まずはペッサリー療法や骨盤底筋体操などの保存療法が試みられることが一般的です。
これらの治療で十分な効果が得られない場合や、患者さんの状態によっては、最初から手術療法が検討されます。

特に高齢者の方への適応

腟閉鎖術は、特に高齢の女性において骨盤臓器脱の治療としてしばしば選択されます。
その理由は、他の多くの手術療法と比較して手術時間が短く、出血量が少なく、体への負担(侵襲)が少ないためです。
高齢の患者さん、特に複数の持病(心疾患、呼吸器疾患、糖尿病など)を抱えている方の場合、全身麻酔や長時間の手術は大きなリスクを伴うことがあります。

腟閉鎖術は、一般的に局所麻酔や腰椎麻酔でも実施可能であり、手術時間も1時間前後で済むことが多いため、これらの患者さんにとって安全に実施できる可能性が高い治療法といえます。
また、入院期間も比較的短く済む傾向があるため、早期の社会復帰(もちろん患者さんの状態による)が期待できる点も、高齢者にとってはメリットとなり得ます。

もちろん、高齢であることだけが適応基準ではありません。
全身状態が良好であれば、年齢に関わらず他の腟温存手術も選択肢となります。
あくまで、「高齢であり、他の治療が難しい、かつ性交渉の希望がない」といった複合的な要因が考慮される中で、腟閉鎖術が有力な選択肢として浮上してきます。

性交渉の希望がない方

術後の性交渉の希望がないことは、腟閉鎖術の最も重要な適応基準の一つです。
前述の通り、この手術では腟が物理的に縫合・閉鎖されるため、性交渉が不可能になります。
したがって、手術を検討する際には、患者さん本人はもちろん、パートナーがいる場合はパートナーとも十分に話し合い、性交渉の継続についてどのように考えているかを確認することが不可欠です。

性交渉の希望がない、または既に性交渉がない場合でも、この手術が適しているとは限りません。
前述の症状や全身状態、他の治療法の可能性などを総合的に考慮した上で、最も患者さんにとってメリットが大きいと判断される場合に選択されます。

また、将来的に性交渉の希望が復活する可能性や、パートナーが変わる可能性なども、患者さんが十分な情報提供を受けた上で検討すべき点です。
一度閉鎖した腟を再建することは技術的に非常に難しく、現実的ではないため、この不可逆的な変化を受け入れられるかどうかが重要な判断材料となります。

他の治療法が難しい場合

腟閉鎖術は、以下のような場合に他の骨盤臓器脱治療法(メッシュ手術や自己組織縫合術などの腟温存手術)の代替として検討されることがあります。

  • 重度の全身合併症がある: 心臓病、肺疾患、重度の糖尿病など、全身麻酔や長時間の手術が危険と判断される場合。
  • 臓器脱が重度である: 骨盤底組織の損傷が非常に大きく、他の方法では効果的な補強が難しいと予想される場合。
  • 過去に骨盤臓器脱手術を受けているが再発した: 他の手術を受けても再発を繰り返し、体への負担を最小限に抑えつつ再発率の低い治療を希望する場合。
  • メッシュ関連合併症のリスクが高い、または過去に経験している: メッシュを用いた手術に抵抗がある、または過去にメッシュによる問題(疼痛、露出など)を経験している場合。

これらの状況において、腟閉鎖術は比較的短時間かつ低侵襲で実施でき、再発率も低いという利点があるため、有力な選択肢となります。
ただし、繰り返しになりますが、性交渉ができなくなるというデメリットがあるため、医師との十分な話し合いと患者さん自身の意思決定が不可欠です。
手術のメリットとデメリットを十分に理解し、自身のライフスタイルや価値観に照らし合わせて、最適な治療法を選択することが重要です。

腟閉鎖術のメリットとデメリット

どのような医療行為にもメリットとデメリットが存在します。
腟閉鎖術も例外ではありません。
この手術を検討する際には、体への負担軽減や再発率の低さといったメリットと、性交が不可能になることなどのデメリットを十分に理解することが、患者さんにとって後悔のない選択をするために非常に重要です。

腟閉鎖術の主なメリット

腟閉鎖術には、他の骨盤臓器脱に対する手術療法と比較していくつかの顕著なメリットがあります。
これらのメリットが、特定の患者さんにとってこの手術が最良の選択となる理由です。

  • 体への負担が少ない(低侵襲性):
    腟閉鎖術は、他の手術療法(特にメッシュを用いた広範囲な再建手術など)と比較して、手術時間が短く、出血量が少ない傾向があります。
    これは、主に腟壁の粘膜を切除・縫合するという比較的シンプルな手技で行われるためです。
    この低侵襲性により、高齢者や全身状態に不安がある患者さんでも比較的安全に手術を受けることが可能です。
    麻酔も、全身麻酔だけでなく、腰椎麻酔や硬膜外麻酔で行える場合が多いのもメリットです。
  • 手術時間が短い:
    一般的に、腟閉鎖術の手術時間は1時間前後と短いです。
    手術時間が短いことは、麻酔や手術そのものによる体への負担を軽減することにつながります。
    特に高齢の患者さんや合併症を持つ患者さんにとっては、手術時間のリスクを抑えられる重要なメリットです。
  • 回復期間が比較的短い:
    低侵襲であることに伴い、術後の回復も比較的早い傾向があります。
    入院期間は数日から1週間程度であることが多く、早期に日常生活に戻れる可能性が高いです。
    もちろん、患者さんの全身状態や術後の経過によって異なりますが、一般的には他の大規模な骨盤底再建手術よりも早期回復が期待できます。
  • 再発率が低い:
    骨盤臓器脱の手術療法において、再発は患者さんにとって大きな懸念事項です。
    腟閉鎖術は、下垂の原因となっている骨盤底の支持機能そのものを回復させる手術ではありませんが、腟管を物理的に閉鎖することで、臓器が再び下垂してくるのを効果的に防ぎます。
    そのため、他の手術療法と比較して再発率が低いとされています。
    特に重度の臓器脱の場合、他の手術では再発しやすいことがありますが、腟閉鎖術は再発を抑える有効な手段となり得ます。
  • 簡易性:
    手技自体が比較的シンプルであるため、専門医であれば多くの施設で実施可能です。
    高度な技術や特殊な材料(例:メッシュ)を必要としない点も、ある意味でのメリットと言えるでしょう。
    ただし、適切な術式や縫合方法を選択するにはやはり専門的な知識と経験が必要です。

これらのメリットは、特に「全身状態が良好でなく、かつ性交渉の希望がない」という患者さんにとって、骨盤臓器脱による辛い症状から解放されるための有力な選択肢となり得ます。

知っておくべきデメリット:性交不可など

腟閉鎖術を検討する上で、最も重要かつ避けられないデメリットは、術後に腟が完全に閉鎖されるため、性交渉が不可能になることです。
これは手術の根幹に関わる変更であり、患者さんの人生に不可逆的な影響を与えます。
したがって、この点を十分に理解し、納得した上で手術を選択することが何よりも重要です。

性交不可というデメリット以外にも、以下のような点が挙げられます。

  • 性交渉の機会がなくなる:
    物理的に腟が閉鎖されるため、当然ながら腟を用いた性交渉はできなくなります。
    これは、患者さん自身の性生活だけでなく、パートナーとの関係にも影響を及ぼす可能性があります。
    手術前にパートナーとも十分話し合い、お互いの意思を確認することが不可欠です。
  • 腟からの診察が困難になる:
    術後、子宮や卵巣、膀胱、直腸などを腟から直接触診したり、超音波検査を行ったりすることが難しくなります。
    これにより、これらの臓器に異常が生じた場合(例えば、子宮がんや卵巣がんなど)、診断が遅れるリスクが全くないとは言えません。
    そのため、術後も定期的な検診(腹部からの超音波検査など)を受けることが重要になります。
  • 生理がある場合は排出経路がなくなる:
    閉経前の女性で子宮を残したまま腟閉鎖術を行った場合、子宮内膜は剥離して生理様の出血が起こりますが、排出経路がないため体内に溜まってしまう可能性があります。
    これは稀なケースですが、原則として腟閉鎖術は閉経後の女性、または既に子宮を摘出している女性が対象となります。
    閉経前の女性で行う場合は、同時に子宮摘出術を行うことが一般的です。
  • 精神的な影響:
    腟を閉鎖するという体の変化は、患者さんにとって精神的な負担となる可能性があります。「女性らしさを失った」「体に欠損ができた」と感じ、抑うつや不安を抱くこともあります。
    このような精神的な側面についても、手術前に十分に考慮し、必要であればカウンセリングなどのサポートを受けることが望ましいです。
  • 術後の特定の合併症リスク:
    後述する合併症の中には、この手術特有のリスクも含まれます。
    例えば、中央に通路を残す術式(リーブス法など)を選択した場合、そこから出血や感染が起こる可能性や、再脱出のリスクが皆無ではありません。

これらのデメリット、特に性交不可という点は、手術のメリット(体への負担軽減、再発率低下など)と天秤にかけて、患者さん自身の価値観に基づいて判断する必要があります。
医師は医学的な適応やリスクについて正確な情報を提供しますが、最終的な治療選択は患者さんの意思に委ねられます。

合併症について

どのような手術にも合併症のリスクは伴います。
腟閉鎖術も例外ではなく、頻度は低いものの、以下のような合併症が起こる可能性があります。

  • 出血:
    手術中や術後に出血が起こることがあります。
    通常は軽度ですが、稀に輸血が必要となる場合や、術後に血腫(血の塊)ができることもあります。
  • 感染:
    手術部位が細菌に感染することがあります。
    発熱や疼痛、腫れなどの症状が現れ、抗生物質による治療が必要となることがあります。
    稀に、骨盤内や全身に感染が広がることもあります。
  • 血栓症:
    特に下肢の静脈に血栓ができやすくなるリスクがあります。
    これが肺に飛ぶと肺塞栓症という重篤な状態を引き起こす可能性があります。
    手術時間が短いとはいえ、術後の安静や体質によってはリスクがあるため、予防のために弾性ストッキングの着用やフットポンプの使用、早期離床などが推奨されます。
  • 術後疼痛:
    手術部位の痛みは避けられませんが、通常は痛み止めでコントロール可能です。
    痛みが長引く場合や、非常に強い痛みの場合は、感染や血腫などの合併症が原因である可能性もあります。
  • 排尿困難・尿閉:
    手術によって膀胱や尿道の位置が変化することで、一時的に排尿が難しくなったり、全く尿が出なくなったり(尿閉)することがあります。
    多くは一時的で、カテーテルによる排尿管理で改善しますが、稀に長期間続くこともあります。
  • 再発:
    腟閉鎖術は再発率が低いとされていますが、全く再発しないわけではありません。
    特に、腟の一部を開存させた術式(部分閉鎖術)や、重度の直腸瘤などが併存している場合、稀にその部位からの再脱出や、新たな骨盤臓器脱(例:会陰ヘルニアなど)が発生する可能性もゼロではありません。
  • その他の稀な合併症:
    膀胱や直腸、尿管などの周囲臓器を傷つけてしまうリスク(損傷)、神経損傷によるしびれや痛み、麻酔による合併症なども非常に稀ではありますが起こりうる可能性はあります。

これらの合併症のリスクについて、手術前に医師から十分な説明を受け、理解することが重要です。
担当医は患者さんの全身状態や骨盤臓器脱の状態を評価し、個々の患者さんにおけるリスクを説明します。
手術を選択する際は、これらのリスクも考慮に入れる必要があります。

腟閉鎖術の具体的な手順

腟閉鎖術は、骨盤臓器脱によって下垂した臓器を支えるために、腟壁を縫合して閉鎖する手術です。
比較的簡易な手術とされていますが、手術前にはいくつかの準備が必要であり、手術自体も特定のステップを経て行われます。

手術前の準備

手術が決まったら、安全に手術を行うためにいくつかの準備が行われます。

  • 全身状態の評価:
    血液検査、尿検査、心電図、胸部レントゲン検査などを行い、患者さんの全身状態、特に心臓や肺の機能、腎臓や肝臓の機能などを確認します。
    必要に応じて、他の診療科(内科、循環器科など)の医師による診察を受けることもあります。
    これは、安全に麻酔をかけ、手術を行うために非常に重要です。
  • 骨盤臓器脱の状態評価:
    内診や超音波検査、MRI検査などによって、下垂している臓器の種類、程度、および骨盤底の状態を詳細に評価します。
    これにより、どのような術式が適しているか、他に合併している疾患がないかなどを判断します。
    尿失禁がある場合は、術後に改善するか、あるいは悪化しないかなどを予測するために尿流動態検査を行うこともあります。
  • 術前説明と同意:
    担当医から、手術の目的、具体的な手順、予想される結果、メリット、デメリット、合併症のリスク、術後の経過などについて詳細な説明を受けます。
    特に、術後に性交渉ができなくなるという点については、患者さん自身が十分に理解し、納得した上で同意書に署名することが必須です。
    質問があれば遠慮なく医師に尋ねることが重要です。
  • 禁食・禁水:
    手術前日の夜や当日の朝からは、麻酔を安全に行うために食事や水分の摂取が制限されます。
  • 腸管の前処置:
    手術部位の清潔を保つため、手術前に下剤や浣腸を用いて腸管の内容物を排泄させることがあります。
  • 剃毛:
    手術部位の感染予防のため、陰部の毛を剃ることがあります。

これらの準備は、安全で円滑な手術のために非常に重要です。
入院が必要な場合は、手術の数日前から入院して、これらの準備を進めます。

手術の流れ(術式)

腟閉鎖術にはいくつかの術式がありますが、代表的なものとしては、腟壁の粘膜を剥離・切除し、腟の前壁と後壁を縫合閉鎖するコレポクレイシス(Colpocleisis)と呼ばれる手技が一般的です。
術式には、完全に腟を閉鎖する完全閉鎖術と、中央に小さな通路を残す部分閉鎖術(リーブス法など)があります。
部分閉鎖術は、術後に子宮内膜症による出血などが起こる可能性がある場合に、その排出経路を確保するために行われることがありますが、閉経後であれば完全に閉鎖することが多いです。

一般的な手術の流れは以下のようになります。

  • 麻酔:
    全身麻酔、腰椎麻酔、または硬膜外麻酔が行われます。
    患者さんの全身状態や術式、手術時間によって選択されます。
  • 手術部位の消毒:
    手術を行う腟や外陰部を消毒します。
  • 腟壁の剥離・切除:
    下垂している臓器の位置を確認しながら、腟の前壁と後壁の粘膜を剥離または一部切除します。
    これにより、粘膜の下にある組織層が露出します。
  • 腟壁の縫合閉鎖:
    露出した前壁と後壁の組織を、吸収される糸(体内で自然に溶けてなくなる糸)を用いて何層かに分けて丁寧に縫合していきます。
    この縫合によって、腟管が物理的に閉鎖されます。
    縫合する範囲は、骨盤臓器脱の程度や術式によって異なりますが、腟全体または大部分を閉鎖します。
    必要に応じて、周囲の組織を補強する縫合も同時に行うことがあります。
    部分閉鎖術の場合は、中央部分を縫合せず、通路として残します。
  • (必要に応じて)会陰体の形成:
    腟口周囲の会陰体(腟と肛門の間の部分)が脆弱になっている場合は、これを補強する手術(会陰体形成術)を同時に行うことで、外陰部の支持性を高め、再発予防を図ることもあります。
  • 止血と確認:
    手術部位からの出血がないことを確認し、必要に応じて止血処置を行います。
  • ドレーンの留置(場合による):
    術後に出血や浸出液を体外に排出するために、一時的に細い管(ドレーン)を留置することがあります。
  • カテーテルの留置:
    術後の排尿管理のため、尿道カテーテルを留置します。
    多くの場合、術後数日で抜去されますが、排尿状態に応じて留置期間は異なります。

手術時間は通常1時間前後で終了します。
手術後はリカバリー室に移り、麻酔からの回復や全身状態の観察が行われます。

入院期間について

腟閉鎖術における入院期間は、患者さんの全身状態、手術の進行具合、術後の回復状況、および施設の方針によって異なりますが、一般的には数日(3日〜7日程度)であることが多いです。

手術翌日からは、特別な制限がない限り、早期離床(ベッドから起き上がり、歩くこと)が推奨されます。
早期離床は、血栓症の予防や腸の動きを促進するために重要です。
痛みは痛み止めでコントロールしながら、徐々に活動範囲を広げていきます。

尿道カテーテルは、術後数日で抜去し、自分で排尿できることを確認します。
排尿が難しい場合は、しばらくカテーテルを留置したり、自己導尿(自分でカテーテルを使って排尿する方法)の指導を受けたりすることもあります。

傷口からの出血や浸出液が落ち着き、自分で日常生活を送れるようになれば退院となります。
退院後も自宅での安静や活動制限が必要な期間がありますが、多くの場合、術後2週間〜1ヶ月程度で通常の日常生活に戻れるようになります。
ただし、重いものを持つなどの腹圧がかかる動作は、しばらく避けるように指導されます。

入院期間はあくまで目安であり、個々の患者さんの状態に応じて長くなる可能性もあります。
入院中、不安なことや体調の変化があれば、医療スタッフに遠慮なく相談することが大切です。

腟閉鎖術後の生活と注意点

腟閉鎖術は、骨盤臓器脱の症状を大きく改善することが期待できますが、術後には傷口の回復期間や、新しい体の状態に慣れるための期間が必要です。
特に腟が閉鎖されるという不可逆的な変化に伴う注意点があります。

回復期間の過ごし方

手術直後から退院、そして退院後の自宅での回復期間を通して、いくつかの点に注意して過ごす必要があります。

  • 術直後(入院中):
    麻酔から覚めたら、まずは安静にします。
    痛みがある場合は、点滴や内服の痛み止めで対応します。
    尿道カテーテルや、場合によってはドレーンが挿入されています。
    医師や看護師の指示に従い、早い段階でベッドから起き上がり、歩行を開始します。
    早期離床は、血栓予防や術後の回復に重要です。
    食事は、術後の状態を見ながら、水分摂取から始まり、徐々に常食に戻していきます。
  • 退院後:
    自宅に戻ってからも、無理は禁物です。
    傷口の回復には数週間かかるため、この期間は体への負担を最小限に抑えるように過ごします。
    • 安静: 十分な休息を取り、長時間の立ち仕事や歩行は避けます。
    • 活動制限: 重い物を持つこと(一般的にペットボトル2L程度以上)、腹筋に力を入れる運動、長時間前かがみになる姿勢、強い咳やいきみは、傷口に負担をかけたり、再発の原因になったりする可能性があるため、医師から許可が出るまで避けてください。
      目安として、術後1〜2ヶ月はこれらの制限が必要です。
    • 入浴: 傷口が完全に閉じるまでは、シャワーのみとし、湯船に浸かることは避けるよう指示されることが多いです。
      傷口の状態にもよりますが、通常は術後数週間で湯船に浸かれるようになります。
    • 清潔の保持: 外陰部は常に清潔に保ちます。
      ウォシュレットの使用は問題ありませんが、刺激が強すぎないように注意します。

回復期間は個人差がありますが、一般的に術後1ヶ月程度で日常生活のほとんどの動作が可能になります。
完全に体が回復し、制限がなくなるまでには2〜3ヶ月かかることもあります。
定期的な外来受診で医師に傷口の状態や回復具合を確認してもらい、指示に従うことが重要です。

日常生活での注意点(看護含む)

退院後、日常生活に戻る上での注意点や、ご家族が看護する上でのポイントです。

  • 排泄:
    術後一時的に排尿や排便が困難になることがあります。
    便秘にならないよう、水分や食物繊維を十分に摂取し、必要であれば下剤を使用します。
    排尿に関しては、自分で完全に排尿できているかを確認し、残尿感がある場合などは医師に相談します。
  • 傷口のケア:
    手術で縫合した部分は、吸収糸で縫われていることが多く、抜糸は不要な場合がほとんどです。
    傷口は清潔に保ち、異常(強い痛み、腫れ、発赤、多量の浸出液など)がないか観察します。
    シャワーなどで優しく洗い、清潔なタオルで水分を拭き取ります。
    必要に応じて、消毒や軟膏の使用を指示されることがあります。
  • 出血:
    術後しばらくは少量の出血やおりものが続くことがあります。
    これは傷口が治癒する過程で起こりうる自然な経過です。
    しかし、生理のような多量の出血や、鮮血が続く場合は、すぐに医療機関に連絡してください。
  • 再発予防:
    腟閉鎖術は再発率が低いとされていますが、再発の可能性をゼロにするものではありません。
    特に腹圧がかかる動作(重い物を持つ、強い咳、便秘によるいきみなど)は骨盤底に負担をかけるため、術後だけでなく長期にわたって避けることが推奨されます。
    適正体重の維持も重要です。
  • パートナーへの配慮:
    性交渉ができなくなることについて、パートナーがいる場合は手術前に十分話し合っているはずですが、術後も心のケアが必要な場合があります。
    お互いの気持ちを尊重し、コミュニケーションをとることが大切です。
  • 定期検診:
    術後の経過観察のため、定期的に外来を受診します。
    傷口の治癒状態や、下垂感の改善、排尿・排便の状態などを確認します。
    子宮を残した場合、子宮がん検診などは腟からの検査ができなくなるため、腹部超音波など他の方法で継続する必要があります。

ご家族が看護する際には、患者さんの訴えに耳を傾け、体調の変化に気づいてあげることが重要です。
特に高齢の患者さんの場合、遠慮して症状を我慢してしまうこともあります。
排泄状況や傷口の状態をさりげなく観察し、何かあれば医療機関に相談するよう促してあげてください。
精神的なサポートも大きな助けになります。

術後の性生活について

腟閉鎖術を受ける上で、最も重要な考慮事項は、手術後に腟が完全に閉鎖されるため、腟を用いた性交渉が不可能になるという点です。
これは手術の特性であり、避けることのできない結果です。

手術を検討する段階で、患者さん自身が性交渉に対する希望がないこと、そしてパートナーがいる場合はパートナーとも十分に話し合い、この点に同意していることが前提となります。
手術によって骨盤臓器脱の辛い症状は改善し、日常生活の質は向上する可能性がありますが、性生活の形態は不可逆的に変化します。

術後に、過去の性経験やパートナーとの関係、または「女性らしさ」といった側面に心理的な影響を感じる方もいらっしゃるかもしれません。
性交渉だけが性的な関係の全てではありませんが、大きな変化であることには違いありません。
手術を受ける前に、これらの点についても十分に考え、必要であれば専門家(カウンセラーなど)に相談することも検討できます。

医療機関では、術後の過ごし方や注意点については説明されますが、性生活の具体的な代替方法などについて専門的なアドバイスを提供しているところは限られているかもしれません。
しかし、性交渉が不可能になることによって生じる可能性のある精神的・関係性の変化についても、手術を決定する重要な要素として、医師との面談時などに率直に相談することが推奨されます。

再発の可能性

腟閉鎖術は、他の骨盤臓器脱手術と比較して再発率が低いとされています。
これは、腟管を物理的に閉鎖することで、臓器が下垂してくる経路を絶つことができるためです。
特に、過去に他の手術で再発を繰り返しているような難治性の骨盤臓器脱に対して、腟閉鎖術が高い成功率を示すことがあります。

しかし、再発の可能性が全くゼロになるわけではありません
再発の形態としては、以下のようなものが考えられます。

  • 縫合部位の離開: 非常に稀ですが、縫合した腟壁が何らかの原因(過度な腹圧、感染など)で開いてしまい、再び腟管が形成されてしまう。
  • 新たな臓器脱: 腟は閉鎖されても、その周囲の組織(例:会陰部や外陰部)が弱くなり、新たなヘルニア(脱出)を形成する。
    例えば、会陰ヘルニアなどが起こることがあります。
  • 部分閉鎖術後の通路からの脱出: 部分閉鎖術を選択した場合、残された通路からわずかに臓器が脱出してくる可能性がある。

再発のリスクを高める要因としては、術後の早期に腹圧がかかるような無理な動作をすること、慢性的な咳や便秘が続くこと、肥満などが挙げられます。

再発を予防するためには、術後の回復期間に適切な安静を保ち、その後も腹圧をかけるような動作をできるだけ避けること、便秘を予防すること、適正体重を維持することなどが重要です。
また、定期的な外来受診で医師のチェックを受けることも再発の早期発見につながります。

もし再び下垂感や違和感などの症状が現れた場合は、我慢せずに早めに医療機関に相談することが大切です。
再発した場合の治療法は、その状態や程度に応じて検討されます。

腟閉鎖術と他の骨盤臓器脱治療法との比較

骨盤臓器脱の治療法には、腟閉鎖術以外にもいくつかの選択肢があります。
大きく分けて、手術をしない「保存療法」と、手術によって骨盤底を修復する「手術療法」があります。
腟閉鎖術は手術療法に分類されますが、他の手術療法とも特徴が異なります。
どの治療法を選択するかは、患者さんの年齢、全身状態、臓器脱の程度、症状の種類、性生活への希望、そして患者さん自身の価値観などを総合的に考慮して決定されます。

ここでは、腟閉鎖術を他の代表的な治療法と比較し、その違いと、治療法選択の考え方について解説します。

手術療法(メッシュ手術など)との違い

骨盤臓器脱に対する手術療法には、腟閉鎖術以外にも様々な術式があります。
近年広く行われているのは、特殊な合成繊維のシート(メッシュ)を用いて弱くなった骨盤底を補強するメッシュ手術です。
メッシュ手術には、腟からアプローチするTVM(Tension-free Vaginal Mesh)手術や、腹腔鏡を用いて行う腹腔鏡下仙骨腟固定術(LSC)などがあります。
また、メッシュを使用せずに、患者さん自身の組織(靭帯や筋膜)を縫い合わせて補強する自己組織縫合術(例:前腟壁形成術、後腟壁形成術、腟壁形成術など)もあります。

比較項目 腟閉鎖術 メッシュ手術(腟から) 自己組織縫合術(腟から)
目的 臓器の下垂症状の改善、再発予防(物理的閉鎖) 弱くなった骨盤底の補強、解剖学的修復、症状改善 弱くなった骨盤底の補強(自己組織)、症状改善
手術時間 短い(1時間前後) やや長い(1.5〜2.5時間) やや短い〜中程度(1〜2時間)
体への負担(侵襲) 少ない 中程度 中程度
麻酔 全身麻酔、腰椎麻酔、硬膜外麻酔 全身麻酔、腰椎麻酔、硬膜外麻酔 全身麻酔、腰椎麻酔、硬膜外麻酔
術後の性交渉 不可能 可能(基本的には腟温存) 可能(基本的には腟温存)
腟の形態変化 腟が閉鎖される 腟の形態を維持 腟の形態を維持
再発率 低い 低いとされる(術式や脱出の程度による) メッシュ手術よりやや高いとされる
特有の合併症 なし(ただし、性交不可という不可逆的な変化) メッシュ露出、疼痛、感染、臓器損傷などメッシュ関連合併症 再発、血腫、感染など(メッシュ関連はない)
主な対象 高齢者、全身状態不良、性交希望なし、難治例 比較的若年〜高齢、性交希望あり、活動性あり 比較的若年〜高齢、性交希望あり、体への負担軽減を優先

腟閉鎖術とメッシュ手術・自己組織縫合術の最大の違いは、性交渉が可能かどうかです。
メッシュ手術や自己組織縫合術は、原則として腟を温存し、術後も性交渉が可能となることを目指す手術です。
一方、腟閉鎖術は性交渉を諦める代わりに、体への負担を最小限に抑え、再発率を低く抑えることを優先する手術です。

また、メッシュ手術はメッシュ関連合併症という特有のリスクがありますが、腟閉鎖術にはそのリスクはありません。
自己組織縫合術はメッシュを使わないためメッシュ関連合併症のリスクはありませんが、重度の臓器脱の場合にはメッシュ手術や腟閉鎖術よりも再発率が高くなる傾向があります。

腹腔鏡下仙骨腟固定術(LSC)は、お腹からメッシュを用いて骨盤底を補強する手術で、再発率が低いとされますが、全身麻酔が必須で、手術時間も長くなる傾向があるため、腟閉鎖術とは対象となる患者さんが大きく異なります。

保存療法(ペッサリーなど)との違い

保存療法は、手術以外の方法で骨盤臓器脱の症状を緩和する治療法です。
最も一般的な保存療法はペッサリー療法です。
ペッサリーは、医療用のシリコンなどでできたリング状やドーナツ状などの器具で、これを腟内に挿入し、下垂した臓器を物理的に支えることで症状を和らげます。

比較項目 腟閉鎖術 ペッサリー療法
治療の種類 手術療法(根治を目指す) 保存療法(症状緩和が目的)
効果 臓器の下垂を根本的に解消 臓器の下垂を一時的に支え、症状を緩和
体への負担 手術による負担(麻酔、傷口) 少ない(挿入・交換時の違和感、管理負担)
即効性 手術成功後、症状は速やかに改善 挿入後、すぐに症状が緩和されることが多い
持続性 長期的な効果が期待できる 定期的な交換や管理が必要(数ヶ月〜1年毎)
腟の形態変化 腟が閉鎖される(不可逆的) 腟の形態は変わらない
性交渉 不可能 基本的に可能(種類によっては挿入したまま可能)
リスク・注意点 手術合併症、性交不可 帯下(おりもの)の増加、腟壁のただれ・潰瘍
対象 手術適応があり性交希望なし 手術を希望しない、手術までのつなぎ、軽症〜中等症

ペッサリー療法は、手術に抵抗がある方、手術までの間症状を和らげたい方、高齢や合併症などで手術が難しい方などに適しています。
体への負担がほとんどなく、外来で簡単に開始できるメリットがあります。
しかし、これは根本的な治療ではなく、あくまで症状緩和が目的です。
定期的な交換や洗浄が必要であり、適切に管理しないと感染や腟壁のただれ、潰瘍などを引き起こす可能性があります。
また、ペッサリーがずれやすかったり、違和感が強くて継続できなかったりする方もいらっしゃいます。

腟閉鎖術は、ペッサリー療法では十分な効果が得られない場合や、ペッサリー管理が困難な場合において、かつ性交渉の希望がない方に検討される「根治的」な治療法です。

どの治療法を選択すべきか

骨盤臓器脱の治療法選択は、患者さん一人ひとりの状況に合わせて慎重に行われるべきです。
医師は医学的な観点から、臓器脱の程度、患者さんの全身状態、合併症の有無などを評価し、それぞれの治療法のメリット・デメリット、リスクについて説明します。

治療法を選択する上で重要なポイントは以下の通りです。

  • 臓器脱の程度と症状: 軽度であれば保存療法で十分な場合もありますが、重度で日常生活に大きな支障をきたしている場合は手術療法が検討されます。
  • 患者さんの年齢と全身状態: 高齢であったり、重い合併症があったりする場合は、体への負担が少ない腟閉鎖術が選択肢となる可能性が高まります。
  • 性生活への希望: これが最も重要な判断基準の一つです。 術後の性交渉を希望する場合は、腟温存手術(メッシュ手術や自己組織縫合術)が適応となります。
    性交渉の希望がない場合は、腟閉鎖術も有力な選択肢となります。
  • 患者さん自身の価値観と希望: どの治療法のリスクを許容できるか、どのような生活を送りたいかなど、患者さん自身の考えも尊重されます。
    再発のリスクよりも体への負担軽減を優先したい、メッシュを使用する手術に抵抗がある、といった希望も考慮されます。
  • 医療機関の専門性: 骨盤臓器脱の専門的な診療を行っている施設で相談することで、より多くの選択肢や、患者さんの状態に合った最新の情報に基づいた治療方針の提案を受けることができます。

最適な治療法を選択するためには、担当医と十分に話し合い、それぞれの治療法の特性を理解した上で、ご自身のライフスタイルや将来の希望に合った方法を選ぶことが大切です。
性生活への希望については、特にデリケートな問題ですが、遠慮なく医師に伝えることが、後悔のない治療選択につながります。

腟閉鎖術に関するよくある質問 (Q&A)

腟閉鎖術を検討している方や、骨盤臓器脱に悩んでいる方がよく抱く疑問について、Q&A形式で解説します。

腟閉鎖術後に生理はありますか?

原則として、腟閉鎖術は閉経後の女性が対象となる手術です。
閉経後の女性は生理が停止しているため、術後に生理の心配はありません。

もし、まだ生理のある閉経前の女性が腟閉鎖術を希望する場合、通常は同時に子宮摘出術を行います。
これは、子宮を残したまま腟を閉鎖すると、生理によって子宮内膜が剥離しても、血液の排出経路がなくなるため、体内に溜まってしまうリスクがあるからです。
溜まった血液が感染を引き起こしたり、強い痛みの原因になったりする可能性があります。

したがって、基本的には腟閉鎖術を受けた後に生理が来ることはありません。
もし閉経前で子宮を摘出せずに手術を受けた場合は、子宮からの出血があっても腟が閉鎖されているため外には出てこず、体内に溜まる可能性があります。
このような術式は稀であり、特別な理由がない限り行われません。

ご自身の状況(閉経しているか、子宮の有無など)を担当医に伝え、術後の生理について正確な情報を得ることが重要です。

手術費用はどのくらいですか?

腟閉鎖術は、健康保険が適用される手術です。
そのため、医療費の一部(通常、自己負担割合に応じて1〜3割)を支払うことになります。

手術費用は、入院期間、手術内容(腟閉鎖術単独か、会陰体形成術などを同時に行うかなど)、患者さんの全身状態、入院する医療機関の種類(大学病院か一般病院かなど)、個室を利用するかどうかなどによって変動します。

おおよその目安としては、健康保険適用後の自己負担額で、数万円〜十数万円程度になることが多いです。
ただし、これはあくまで目安であり、実際にかかる費用は医療機関によって異なります。

高額な医療費がかかった場合、高額療養費制度を利用することができます。
これは、医療機関や薬局の窓口で支払った医療費が、ひと月(月の初めから終わりまで)で自己負担限度額を超えた場合に、その超えた額が健康保険から払い戻される制度です。
この制度を利用すれば、自己負担限度額以上の医療費を支払う必要がなくなります。
自己負担限度額は、年齢や所得によって異なります。
入院前に加入している健康保険組合などに問い合わせて、高額療養費制度について確認しておくことをお勧めします。
事前に「限度額適用認定証」の交付を受けておくと、医療機関の窓口での支払いを自己負担限度額までとすることができます。

正確な手術費用や高額療養費制度については、手術を受ける予定の医療機関の医療相談室や会計窓口に問い合わせるのが最も確実です。

手術を受けられる病院は?

腟閉鎖術を含む骨盤臓器脱の手術は、主に産婦人科泌尿器科で行われます。
近年では、女性骨盤底疾患を専門とするウロギネコロジー(女性泌尿器科)ウロギネ科といった専門外来を設けている病院もあります。

腟閉鎖術は比較的簡易な術式であるため、骨盤臓器脱の手術を日常的に行っている多くの病院で実施可能です。
しかし、術式の選択や合併症への対応には専門的な知識と経験が必要です。
特に、他の複雑な骨盤臓器脱を合併している場合や、過去に手術歴がある場合などは、骨盤底疾患の専門医がいる医療機関で診察を受けることが望ましいでしょう。

手術を受けられる病院を探す際は、以下の方法が考えられます。

  • かかりつけ医に相談する: まずは普段受診している婦人科や泌尿器科の医師に相談し、専門の医療機関を紹介してもらうのが良いでしょう。
  • インターネットで検索する: 「骨盤臓器脱 手術 病院 [お住まいの地域名]」や「ウロギネ科 [お住まいの地域名]」といったキーワードで検索します。
    日本女性骨盤医学会などの学会ホームページで、専門医や認定施設を検索できる場合もあります。
  • 病院のホームページを確認する: 興味のある病院のホームページで、産婦人科や泌尿器科の診療内容、医師の経歴、専門分野などを確認します。

重要なのは、骨盤臓器脱の治療経験が豊富で、患者さんの状態や希望に応じて複数の治療選択肢(保存療法、腟温存手術、腟閉鎖術など)を提案できる医師がいる施設を選ぶことです。
受診前に電話で問い合わせて、腟閉鎖術を含めた骨盤臓器脱の治療について相談できるか確認するのも良い方法です。

FTMにおける腟閉鎖術について

腟閉鎖術は、主に骨盤臓器脱の治療として閉経後の女性を対象に行われますが、Female to Male (FTM) トランスジェンダーの方が、性別適合手術(SRS)の一環として、または性器違和感の軽減や衛生管理の目的で腟閉鎖術(または腟摘出術)を希望されるケースもあります。

FTMの方における腟閉鎖術は、骨盤臓器脱に対する手術とは目的や背景が異なります。
主な目的は以下の通りです。

  • 性器違和感(ジェンダー・ディスフォリア)の軽減: ご自身の性自認と身体の性別との不一致から生じる精神的な苦痛を和らげるため。
  • 衛生管理: 腟からの分泌物や生理(ホルモン治療によって止まることが多いが)の管理負担をなくすため。
  • ペニス形成術など他の手術との組み合わせ: 陰茎形成術(ファロプラスティやメタモイジオプラスティなど)と同時に、または関連する手術として行われることがあります。

FTMの方に対する腟閉鎖術は、一般的な骨盤臓器脱の治療を行っている医療機関では対応が難しい場合があります。
通常は、性別適合手術を専門的に行っている医療機関や、泌尿器科と連携して性別適合手術チームを持っている医療機関で実施されます。

FTMの方で腟閉鎖術を希望される場合は、まずは性別違和の診断を受け、精神科医やカウンセラーとの面談、ホルモン療法など、性別適合手術のガイドラインに基づいたプロセスを経て、専門医に相談することが重要です。
手術の目的、リスク(術後の痛み、感染、狭窄、感覚の変化など)、他の手術との組み合わせ、そして不可逆的な変化であることを十分に理解し、経験豊富な専門医と話し合いの上で慎重に決定する必要があります。

免責事項:
この記事は、一般的な情報提供を目的としたものであり、医学的なアドバイスや診断を提供するものではありません。
個々の病状や治療に関するご相談は、必ず医師または医療専門家にご相談ください。
この記事の情報に基づいてご自身で判断・行動された結果に関して、当方は一切の責任を負いません。

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