生理用品の入手が困難であることによって、多くの女性や月経のある人々が健康、教育、社会生活において困難を抱える「生理の貧困」。これは、単に経済的な問題に留まらず、ジェンダー、健康、人権など、様々な側面が複雑に絡み合った社会課題です。
近年、日本でもこの問題への関心が高まり、メディアやSNSで取り上げられる機会が増えてきました。
本記事では、「生理の貧困」がなぜ起こるのか、日本の現状はどうなっているのか、そしてこの問題に対してどのような対策が取られているのか、さらに私たち一人ひとりに何ができるのかを詳しく解説します。
この問題について理解を深め、解決に向けた一歩を踏み出すきっかけとなれば幸いです。
生理の貧困とは?定義と背景
「生理の貧困(Period Poverty)」とは、経済的な理由などから生理用品を手に入れられない、あるいは手に入れるために他の生活必需品(食料、光熱費など)を我慢しなければならない状況を指します。
これは、生理がある期間を衛生的に、尊厳を保って過ごすことが困難になる深刻な問題です。
生理は、多くの女性や月経のある人々にとって毎月訪れる自然な身体の機能ですが、そのためのケアに必要な生理用品は、日常生活を送る上で欠かせない必需品でありながら、購入には継続的な費用がかかります。
この問題の背景には、様々な要因が存在します。
経済的な困難、生理用品の価格、生理や生理用品に関する情報や教育の不足、そして生理が依然としてタブー視されがちな社会的な雰囲気などが複合的に影響しています。
特に、経済的に脆弱な立場にある人々にとって、生理用品の費用は大きな負担となり、生活を圧迫する要因の一つとなり得ます。
なぜ生理用品が入手できないのか?原因を探る
生理用品が入手できない原因は一つではありません。
複数の要因が重なり合い、生理の貧困を引き起こしています。
最も直接的な原因は、やはり経済的な困難です。
低所得、不安定な雇用、非正規雇用、ひとり親家庭の増加、あるいは予期せぬ失業や病気、災害などが家計を圧迫し、生理用品に充てる予算がなくなってしまうケースです。
特に、食料や家賃、光熱費といった生命維持に関わる費用が優先される中で、生理用品は後回しにされがちです。
また、生理用品の価格自体も原因の一つです。
生理用品は毎月継続して必要になるにも関わらず、医薬品ではないため軽減税率の対象外となっている国が多く、消費税が課税されます(日本も標準税率)。
この「生理用品税(Tampon Tax)」は、必需品である生理用品に税金がかかることへの批判として世界的に問題視されています。
価格帯も幅広く、安価な製品もありますが、多くの人々が品質や肌への影響を考慮して製品を選ぶため、一定の費用負担が発生します。
さらに、生理に関する情報や教育の不足も原因となり得ます。
生理が恥ずかしいものとして語られにくいため、困っていることを周囲に相談できなかったり、安価な代替品や公的な支援制度があることを知らなかったりする場合があります。
特に子どもや若者においては、学校での性教育・健康教育が生理のケアについて十分にカバーしていない場合、適切な対処法を知らずに困難を抱え込む可能性があります。
物理的な入手困難も一部で存在します。
地方やへき地、あるいは特定の環境下(災害時の避難所など)では、必要な時にすぐに生理用品を購入できる場所が限られている場合があります。
また、精神疾患や身体的な障がいによって、買い物に出かけること自体が困難な人々もいます。
これらの経済的、構造的、情報的、物理的な障壁が複雑に絡み合い、生理の貧困という問題を生み出しているのです。
相対的貧困との関連性
生理の貧困は、しばしば「相対的貧困」と密接に関連しています。
相対的貧困とは、その国の所得の中央値の半分に満たない所得で暮らす状態を指します。
絶対的貧困のように生命維持が危ぶまれるほどの状態ではなくても、社会の大多数から見て著しく低い所得で生活しているため、普通の生活を送る上で必要とみなされる様々なもの(教育、文化活動、必需品など)を手に入れることが難しくなります。
生理用品は、現代社会において多くの人々が「普通の生活」を送る上で不可欠と考える必需品です。
しかし、相対的貧困層にとっては、この必需品でさえも負担となることがあります。
食費や教育費、医療費など、他の様々な支出との間で常に優先順位をつけなければならない状況の中で、生理用品の購入はしばしば後回しにされます。
例えば、子どもがいる相対的貧困世帯では、子どもの学用品や給食費、習い事の費用などを捻出することが優先され、保護者自身の生理用品代が削られてしまうことがあります。
また、複数の生理のある家族がいる場合、それぞれの生理用品を十分に用意することが経済的に困難になり、家族間で分け合ったり、交換時期を延ばしたりせざるを得ない状況も起こり得ます。
このように、相対的貧困は、生理用品の購入を困難にするだけでなく、生理期間を衛生的に過ごせないことによる健康問題、学校や職場への欠席による学習機会・労働機会の損失など、生理の貧困が引き起こす様々な悪影響をさらに深刻化させる可能性があります。
生理の貧困を解決するためには、単に生理用品を配布するだけでなく、その背景にある相対的貧困の問題にも目を向け、所得向上や社会保障の強化といった根本的な対策も同時に進める必要があるのです。
生理の貧困の現状
生理の貧困は、遠い国の問題ではなく、私たちの社会にも存在する深刻な現実です。
日本国内でも、様々な調査によってその実態が明らかになってきています。
日本の生理の貧困の割合は?実態調査から
日本国内で生理の貧困に関する全国的な詳細な公的統計はまだ少ない状況ですが、近年、学生団体やNPO、地方自治体などが独自に調査を実施し、その実態が徐々に明らかになっています。
例えば、ある学生団体が2021年に行ったオンラインアンケート調査では、回答者の約2割が生理用品の購入に苦労した経験があると答えています。
特に学生や非正規雇用、低収入の人々の間でその割合が高い傾向が見られました。
また、別のNPO法人が実施した調査では、コロナ禍において収入が減少し、生理用品の購入がより困難になったという声が多く寄せられています。
これらの調査結果から、日本においても相当数の女性や月経のある人々が、経済的な理由から生理用品の入手に困難を感じていることが分かります。
特に、非正規雇用やフリーランス、学生、ひとり親家庭など、経済的に不安定な立場にある人々は、生理の貧困に陥りやすいリスクが高いと言えます。
また、地方やへき地では、店舗へのアクセスや種類の選択肢が限られることも、物理的な入手の困難さにつながる場合があります。
これらの実態調査は、これまで見過ごされてきた「生理の貧困」が、日本社会においても深刻な社会課題であることを浮き彫りにしています。
生理の貧困の具体例
生理の貧困に直面している人々は、様々な困難を抱えています。
具体的な例をいくつか紹介します。
ある高校生の事例です。
ひとり親家庭で経済的に厳しく、アルバイトで家計を助けています。
生理用品代を母親に頼むのが申し訳なく、学校にある無料の生理用品を数枚もらったり、交換頻度を減らしたりしてしのいでいます。
体育の授業や部活動中も、漏れが心配で十分に参加できなかったり、友達との外出を断ったりすることもあります。
若い女性の事例です。
非正規雇用で収入が不安定なため、生理用品代を節約するために、トイレットペーパーを丸めて代用したり、古いタオルや布を洗って繰り返し使ったりしています。
しかし、これは不衛生であり、かぶれやかゆみといった肌トラブル、さらには感染症のリスクも高まります。
また、経血漏れが心配で、仕事中も常に落ち着かず、集中力を保つことが難しい状況です。
ひとり親の母親の事例です。
複数の子どもを抱え、パートの収入だけでは家計が厳しく、食費を削って生理用品を買わざるを得ない月もあります。
自分だけでなく、思春期の娘もいるため、必要な生理用品の種類や量も増え、さらに負担が増しています。
娘にも十分な生理用品を用意してあげられないことに罪悪感を抱いています。
これらの事例は、生理の貧困が単に生理用品がないという問題だけでなく、衛生状態の悪化による健康問題、学校や職場への欠席による学習・労働機会の損失、精神的なストレスや羞恥心、自己肯定感の低下など、様々な困難につながることを示しています。
これは個人の問題ではなく、社会全体で取り組むべき課題なのです。
世界の生理の貧困の現状(アメリカなど)
生理の貧困は、日本に限った問題ではなく、世界中で多くの人々が直面している地球規模の課題です。
特に開発途上国では、生理用品の入手が困難であることに加え、トイレや水道といった衛生設備へのアクセスも限られているため、より深刻な状況が見られます。
しかし、経済的に豊かな先進国においても、生理の貧困は存在します。
例えば、アメリカでは、生理用品の購入が困難な人が多く存在することが報告されており、一部の州では生理用品への課税を撤廃したり、学校や公共施設での生理用品の無償配布を進めたりする動きが出ています。
特に、低所得者、ホームレス、学生、刑務所に収容されている女性などの間で、生理の貧困が問題となっています。
イギリスでは、「生理の貧困」という言葉が広く認識され、政府が生理用品の無償配布プログラムを導入するなど、国を挙げた対策が進められています。
スコットランドでは、2020年に世界で初めて、生理用品を無償で提供することを義務付ける法律が成立しました。
これらの世界の状況は、経済格差が存在する限り、生理の貧困は普遍的に起こりうる問題であることを示唆しています。
同時に、多くの国でこの問題に対する認識が高まり、具体的な対策が進められていることは、日本が今後対策を強化していく上での参考になります。
国際的な視点を持つことは、生理の貧困問題をより深く理解し、効果的な解決策を見出すために重要です。
生理の貧困による影響
生理の貧困は、単に生理用品が入手できないというだけでなく、人々の心身の健康、教育機会、社会生活、そして経済的な側面にまで、多岐にわたる深刻な影響を及ぼします。
心身の健康への影響
生理用品の不足や不適切な使用は、直接的に健康問題を引き起こします。
生理用品の交換頻度を減らしたり、トイレットペーパーや古布といった代替品を使用したりすることは、不衛生な状態を招き、細菌感染や皮膚炎(かぶれ、かゆみ)、さらには尿路感染症や性器感染症のリスクを高めます。
これらの感染症は、放置するとより重篤な健康問題につながる可能性があります。
また、生理の痛みを我慢したり、適切なケアができなかったりすることは、体調の悪化や倦怠感を引き起こし、日常生活に支障をきたします。
さらに、生理の貧困は精神的な健康にも大きな影響を与えます。
生理用品がないことへの不安や羞恥心、他人に相談できない孤立感、そして生理期間中に起こる不快感や痛みを我慢しなければならないストレスは、精神的な負担となります。
生理が来るたびに経済的な不安を感じたり、不衛生な状態を強いられたりすることは、自己肯定感を低下させ、うつ病や不安障害などの精神疾患のリスクを高める可能性も指摘されています。
特に思春期の子どもにとっては、自尊心や自己イメージの形成に悪影響を与える可能性があります。
教育機会・社会生活への影響
生理用品がない、あるいは十分な量が手元にない状況は、学校や職場、その他の社会活動への参加を妨げます。
経血漏れへの不安から、学校や会社を休む、外出を控える、スポーツや趣味の活動に参加しないといった選択をせざるを得なくなることがあります。
これは、学習機会の損失、キャリア形成への悪影響、社会的な孤立につながります。
特に学生にとっては、生理期間中の欠席や授業への集中困難が、学業の遅れにつながり、将来の進路に影響を与える可能性があります。
また、友人との交流や部活動への参加を避けるようになることで、社会性の発達にも悪影響が出ることが懸念されます。
働く人々にとっては、生理期間中の欠勤やパフォーマンスの低下が、評価や昇進に影響したり、雇用の不安定化につながったりする可能性もあります。
また、生理用品を持参できないことで、職場での人間関係に影響が出ることも考えられます。
このように、生理の貧困は、個人の心身の健康を損なうだけでなく、教育や社会生活の機会を奪い、将来の可能性を狭める深刻な問題なのです。
生理用品へのアクセスは、教育を受ける権利、働く権利、健康で文化的な最低限度の生活を送る権利に関わる問題と言えるでしょう。
生涯にかかる費用は?
生理用品は、生理が始まる思春期から閉経までの長期間にわたって必要になる継続的な支出です。
生理が始まる平均年齢を12歳、閉経を平均50歳と仮定すると、約38年間にわたって生理期間があります。
生理期間は平均して月に約5日間、生理用品にかかる費用は個人差がありますが、仮に1回の生理で500円~1000円程度かかるとすると、年間で6,000円~12,000円程度の費用が発生します。
これを38年間積み上げると、生理用品にかかる生涯費用は、最低でも約23万円、多い場合は約45万円以上になる計算になります。
これはあくまで生理用品単体の費用であり、生理痛を緩和するための医薬品や、生理期間中に体調が悪くなった場合の医療費、下着や寝具の交換費用などは含まれていません。
この数十万円という金額は、所得水準が高い人々にとっては比較的負担が少ないかもしれませんが、低所得者や経済的に困難な状況にある人々にとっては、非常に大きな負担となります。
この生涯にわたる生理用品の費用が、貧困をさらに深刻化させ、他の生活必需品の購入を圧迫する要因の一つとなっているのです。
生理用品が生活必需品でありながら、継続的に費用がかかる性質を持つことが、生理の貧困という問題を生む構造的な要因の一つと言えます。
項目 | 概算費用(年間) | 概算費用(生涯 38年間) |
---|---|---|
生理用品(安価な場合) | 6,000円 | 228,000円 |
生理用品(一般的な場合) | 12,000円 | 456,000円 |
生理痛薬、その他 | (個人差あり) | (個人差あり) |
※上記はあくまで一般的な目安であり、使用する生理用品の種類(ナプキン、タンポン、月経カップ、吸水ショーツなど)や生理の周期・量、個人の選択によって費用は大きく変動します。
生理の貧困への対策・解決策
生理の貧困は、個人の努力だけで解決できる問題ではありません。
行政、企業、NPO、そして私たち一人ひとりが連携し、様々な角度からのアプローチが必要です。
近年、日本国内でもこの問題への認識が高まり、具体的な対策が講じられるようになってきました。
生理用品の無償配布はなぜ必要か
生理用品の無償配布は、生理の貧困に対する最も直接的かつ緊急性の高い対策の一つとして世界的に注目されています。
なぜ無償配布が必要なのでしょうか。
- 第一に、経済的な負担を軽減するためです。
生理用品の費用は、特に経済的に困難な状況にある人々にとって大きな負担です。
無償で提供することで、この負担を軽減し、食料や教育など他の必要な支出に費用を充てられるようになります。 - 第二に、健康と衛生を確保するためです。
無償配布により、人々は適切な生理用品を必要な量だけ使用できるようになります。
これにより、不衛生な代替品の使用を防ぎ、感染症や肌トラブルのリスクを低減し、生理期間を衛生的に過ごせるようになります。 - 第三に、尊厳を保持し、社会参加を促進するためです。
生理用品がないことによる不安や羞恥心は、人々の尊厳を傷つけ、社会生活から遠ざける要因となります。
生理用品が無償で手に入る環境は、こうした精神的な負担を軽減し、学校や職場、地域活動などへの参加を後押しします。
生理期間中も安心して過ごせることは、「生理の尊厳(Menstrual Dignity)」を守る上で非常に重要です。
無償配布の方法としては、学校や公共施設(公民館、図書館、役所など)のトイレへの設置、福祉窓口での配布、NPOなどを通じた配布など、様々な形が考えられます。
それぞれの対象者や状況に応じて、最もアクセスしやすい方法で提供することが重要です。
ただし、無償配布だけが唯一の解決策ではありません。
生理用品の価格そのものを引き下げるための税制の見直しや、所得向上支援、生理に関する正しい情報提供なども併せて行う必要があります。
行政・自治体の取り組み
近年、日本国内の多くの自治体が生理の貧困問題に対する取り組みを始めています。
主な取り組みとしては、以下のようなものがあります。
- 生理用品の無償配布: 公共施設(学校、公民館、図書館、女性センター、子育て支援施設など)のトイレや窓口で、生理用品を必要な人に無償で配布する取り組みが広がっています。
緊急時や困ったときにすぐに手に取れるように、目立たない場所に設置したり、窓口で声をかけやすいように配慮したりする工夫が見られます。 - 相談窓口の設置: 生理用品に関する困りごとだけでなく、経済的な問題や健康に関する相談も受け付ける窓口を設置したり、既存の相談窓口で生理用品の支援について案内したりしています。
- 啓発活動: 生理の貧困問題について、市民や職員の理解を深めるための講演会や研修、情報発信などを行っています。
- フードバンクなどとの連携: 食料支援を行う団体と連携し、生理用品もセットで配布する取り組みも行われています。
国レベルでは、内閣府男女共同参画局が「生理の貧困」に関する実態把握を進め、地方公共団体への情報提供や好事例の紹介などを行っています。
また、学校における生理用品の提供に関するガイドラインの策定なども検討されています。
これらの行政・自治体の取り組みは、生理の貧困に直面している人々への直接的な支援として非常に重要です。
しかし、財源や配布方法、対象者の把握など、課題も存在するため、継続的かつ効果的な支援体制を構築していくことが求められます。
企業・NPOの活動
行政だけでなく、多くの企業やNPOが生理の貧困問題の解決に向けて積極的に活動しています。
企業の取り組みとしては、以下のようなものがあります。
- 生理用品の寄付: 自社製品である生理用品を、生理の貧困に取り組むNPOや自治体に寄付する活動です。
- キャンペーンの実施: 売上の一部を生理の貧困支援に充てるキャンペーンや、製品パッケージを通じて問題への認知向上を図る取り組みです。
- 職場での生理用品提供: 従業員向けに職場のトイレに生理用品を設置するなど、社内における「生理の尊厳」に配慮した環境整備です。
- 情報発信: オウンドメディアやSNSを通じて、生理の貧困問題に関する情報発信を行い、啓発活動に協力します。
NPOの取り組みは、より草の根的かつ多様な形で行われています。
- 生理用品バンクの運営: 寄付された生理用品を集約し、必要としている団体や個人に配布する活動です。
フードバンクのように、生理用品を必要としている人のもとへ届ける役割を担います。 - 学校での配布支援: 学校と連携し、生徒への生理用品の配布や、生理に関する教育プログラムを提供します。
- アウトリーチ活動: 支援が必要な人々に直接アクセスし、生理用品や情報を提供する活動です。
- 政策提言: 生理の貧困問題の現状を行政や社会に訴え、制度改善や新たな政策の導入を提言します。
- 啓発イベントの開催: 一般市民向けに、生理の貧困に関する理解を深めるためのイベントやワークショップを開催します。
このように、企業とNPOはそれぞれの強みを活かし、生理の貧困に多角的にアプローチしています。
企業の資金力や製品力、NPOの現場での活動力や専門性が組み合わされることで、より効果的な支援が実現しています。
主体 | 主な活動内容 | 強み | 課題 |
---|---|---|---|
行政 | 生理用品の無償配布(公共施設)、相談窓口、啓発活動、フードバンク連携 | 公的なネットワーク、予算、制度設計の可能性 | 財源、対象者の把握、制度設計の柔軟性 |
企業 | 生理用品の寄付、キャンペーン、職場での提供、情報発信 | 資金力、製品、広報力、従業員への影響 | 本業との関連性、継続性、社会的意義の明確化 |
NPO | 生理用品バンク、学校連携、アウトリーチ、政策提言、啓発イベント | 現場力、専門性、草の根活動、柔軟性 | 資金調達、人員、活動範囲の拡大 |
生理の尊厳(Menstrual Dignity)について
「生理の貧困」という言葉が問題を浮き彫りにする一方で、この問題の解決が目指す究極の目標は、「生理の尊厳(Menstrual Dignity)」が守られる社会の実現にあると言えます。
生理の尊厳とは、生理のあるすべての人が、経済的、社会的、文化的、そして個人的な要因に妨げられることなく、生理期間を健康に、衛生的に、尊厳をもって過ごせる権利と状態を指します。
これは単に生理用品を手に入れることだけを意味するのではなく、以下の要素を含みます。
- 生理用品へのアクセス: 適切で安全な生理用品を、経済的な負担なく入手できること。
- 衛生設備へのアクセス: 清潔で安全なトイレ、水、石鹸が利用できること。
- 情報と教育: 生理に関する正確な情報や、適切な生理ケアに関する知識を得られること。
- 健康管理: 生理痛やPMSなどの生理に関連する健康問題について、適切な医療やケアを受けられること。
- スティグマからの解放: 生理に関する偏見やタブーがなく、オープンに話せる社会環境であること。
生理の貧困は、これらの生理の尊厳を構成する要素のうち、主に生理用品への経済的・物理的なアクセスを妨げる問題です。
しかし、生理の貧困の解決は、単に生理用品を配布するだけでなく、生理に関するスティグマ(負の烙印)をなくし、正しい知識を広め、安心して生理について話せる雰囲気を作ることも含みます。
生理の尊厳という概念は、生理の貧困問題が単なる物質的な不足の問題ではなく、人権やジェンダー平等に関わる問題であることを明確にします。
生理があることで差別されたり、活動が制限されたりすることなく、誰もが生理期間中も安心して日常生活を送り、自己肯定感を保てる社会を目指すことが、生理の貧困解決の根幹にある考え方です。
私たちにできること
生理の貧困は、社会全体で取り組むべき問題ですが、私たち一人ひとりにもできることがあります。
大きな行動でなくても、小さな一歩が問題解決につながります。
まず、問題について知り、関心を持ち続けることが重要です。
メディアやSNSなどで生理の貧困に関する情報を積極的に収集し、現状や影響について理解を深めましょう。
友人や家族、職場の同僚など、身近な人との会話の中で生理の貧困について話題にすることも、問題の認知度を高める上で有効です。
次に、具体的な支援行動です。
- 生理用品の寄付: 自治体やNPOが生理用品の寄付を受け付けている場合があります。
自宅に余っている生理用品や、購入した新品の生理用品を寄付ボックスに入れることで、必要としている人々の手に届けることができます。
寄付を受け付けている場所や方法は、各自治体や団体のウェブサイトで確認できます。 - 資金的な寄付: 生理の貧困に取り組むNPOや支援団体に寄付を行うことも、活動を支える重要な手段です。
少額でも継続的な寄付は、団体の安定した運営に貢献し、より多くの人々への支援につながります。 - 署名活動やキャンペーンへの参加: 生理用品の無償配布や減税などを求める署名活動や、啓発キャンペーンに参加することで、問題解決に向けた社会的な動きを後押しできます。
- 職場の同僚や学校の友人への配慮: もし身近な人が生理用品に困っているかもしれないと感じたら、そっと声をかけたり、生理用品をシェアしたりすることも、直接的な支援となります。
ただし、プライバシーに配慮し、相手が嫌がるような詮索は避けるべきです。
職場のトイレに生理用品を常備することを会社に提案するなど、環境改善を働きかけることも可能です。 - 生理についてオープンに話す: 生理をタブー視せず、体調の変化や必要なケアについてオープンに話せる雰囲気を作ることが、スティグマをなくし、困っている人が声を上げやすい環境につながります。
特に男性も、生理について正しい知識を持ち、理解を深めることが重要です。
これらの行動は、一つ一つは小さなことかもしれませんが、集まることで大きな力となります。
生理の貧困は、誰にとっても起こりうる可能性のある問題であり、すべての人に関係する問題です。
できることから始め、誰もが生理期間を尊厳をもって過ごせる社会の実現を目指しましょう。
生理の貧困に関するよくある質問
生理の貧困について、よく寄せられる質問とその回答をまとめました。
生理用品は贅沢品?
いいえ、生理用品は贅沢品ではなく、健康で衛生的な生活を送る上で不可欠な生活必需品です。
生理がある人々は、生理期間中、経血の処理のために生理用品を必要とします。
生理用品がなければ、日常生活を送ることや、学校や職場に行くことが困難になります。
食料や衣類と同様に、基本的な生活を維持するための物品です。
男性も関わるべき問題?
はい、生理の貧困は女性だけの問題ではなく、社会全体で取り組むべき問題です。
生理の貧困は、経済格差、教育、健康、人権、ジェンダー平等など、様々な社会課題と関連しています。
生理用品が手に入らないことによって、学校に行けない、仕事に行けないといった状況は、本人だけでなく家族や社会全体にも影響を及ぼします。
男性も含めたすべての人がこの問題について理解を深め、関心を持つことが、解決への第一歩となります。
男性も、パートナーや家族、友人、同僚が生理用品に困っている可能性があることを知り、配慮や支援を行うことができます。
学校での配布は効果がある?
学校での生理用品の無償配布は、特に経済的に困難な状況にある学生にとって非常に効果的な支援策の一つです。
学校は多くの学生が日々通う場所であり、生理用品が必要になった時にすぐに手に入れられる環境を作ることは、学生が安心して学校生活を送り、学習機会を失わないために重要です。
また、学校での配布は、困っていることを周囲に知られずに生理用品を入手できるという点でもメリットがあります。
ただし、配布方法や場所については、学生のプライバシーに配慮し、アクセスしやすいように工夫が必要です。
寄付は本当に役に立つ?
はい、生理用品や資金の寄付は、生理の貧困に苦しむ人々への直接的な支援として大いに役に立ちます。
寄付された生理用品は、行政やNPOを通じて必要としている人々に届けられます。
資金的な寄付は、NPOが生理用品を購入したり、配布活動を行ったり、啓発活動を展開したりするための重要な資金源となります。
個人からの小さな寄付も、集まることで大きな支援の力となります。
寄付を行う際は、信頼できる団体や自治体を選ぶことが重要です。
どんな生理用品を寄付すればいい?
寄付する生理用品は、未使用・未開封の新しいものに限ります。
種類については、特定の製品に限定せず、様々なサイズやタイプの生理用品(昼用、夜用、多い日用、おりものシートなど)があると、受け取る側が必要なものを選べるため喜ばれます。
特にナプキンは広く使われているため需要が高い傾向がありますが、タンポンや月経カップ、吸水ショーツなど、多様な選択肢があることも重要です。
どのような生理用品が必要とされているか、寄付を受け付けている団体に事前に確認するとより効果的です。
【まとめ】生理の貧困は身近で深刻な問題
「生理の貧困」は、経済的な困難から生理用品が手に入らない、あるいは手に入れるために他の生活必需品を我慢しなければならない状態であり、世界中で多くの人々が直面している深刻な社会課題です。
日本においても、経済格差の拡大や雇用の不安定化などを背景に、相当数の人々が生理用品の入手に困難を感じているという実態が、様々な調査によって明らかになっています。
生理の貧困は、単に生理用品がないという問題に留まらず、不衛生な状態での生理期間を強いられることによる心身の健康への悪影響、学校や職場への欠席による学習機会や社会参加の機会の損失、精神的なストレスや自己肯定感の低下など、多岐にわたる深刻な影響を人々に及ぼします。
特に、成長期の子どもや経済的に脆弱な立場にある人々にとって、その影響はより深刻です。
この問題の解決には、行政、企業、NPO、そして私たち一人ひとりの協働が必要です。
行政や自治体による生理用品の無償配布や相談窓口の設置、企業やNPOによる生理用品の寄付や啓発活動など、様々な対策が進められています。
これらの取り組みは、生理の貧困に直面している人々への直接的な支援として非常に重要です。
そして、私たち一人ひとりにできることもたくさんあります。
生理の貧困という問題について知り、関心を持ち続けること。
生理用品や資金の寄付を通じて支援すること。
友人や家族と生理についてオープンに話すこと。
職場のトイレに生理用品を設置するなど、身近な環境を改善すること。
これらの小さな行動の積み重ねが、社会全体の意識を変え、問題解決に向けた大きな力となります。
生理の貧困をなくし、誰もが生理期間を健康に、衛生的に、そして何よりも尊厳をもって過ごせる社会を実現するために、まずはできることから一歩を踏み出しましょう。
これは、すべての人に関わる重要な課題です。