多くの女性が、年齢とともにデリケートゾーンの不快な症状に悩むことがあります。
特に更年期以降に増えるのが「萎縮性腟炎」です。
腟の乾燥やかゆみ、痛み、性交時の不快感など、日常生活やパートナーとの関係にも影響を及ぼすことがあるにも関わらず、「年のせいだから仕方ない」「恥ずかしくて相談できない」と一人で抱え込んでしまう方が少なくありません。
しかし、萎縮性腟炎は適切なケアや治療で改善が期待できる病気です。
この記事では、萎縮性腟炎の原因から症状、病院での治療法、市販薬や自分でできる対策、そして放置した場合のリスクについて、詳しく解説します。
もしあなたがこれらの症状に悩んでいるなら、ぜひ最後までお読みいただき、専門医に相談するきっかけにしてください。
萎縮性腟炎とは?
萎縮性腟炎(いしゅくせいちつえん)は、主に女性ホルモンであるエストロゲンの分泌が低下することによって起こる、腟や外陰部の粘膜の萎縮(やせて薄くなること)を原因とする炎症や不快な症状の総称です。かつては「老人性腟炎」とも呼ばれていましたが、閉経後の女性に限らず、エストロゲンが低下する様々な要因によって生じるため、近年では年齢にかかわらず起こりうる病気として認識されています。医学的には、腟だけでなく外陰部や尿路にも同様の変化が現れることから、「GSM(Genitourinary Syndrome of Menopause):閉経関連泌尿生殖器症候群」と呼ばれることもあります。これは、エストロゲンが腟、外陰部、尿道、膀胱などの泌尿生殖器系の健康維持に深く関わっているためです。GSMの症状は、単なる腟の不快感にとどまらず、排尿に関する悩み(頻尿、尿意切迫感、排尿痛など)や、性生活への影響(性交痛、性交時の出血など)を含む広範なものとなります。
萎縮性腟炎の原因
萎縮性腟炎の主な原因は、女性ホルモンであるエストロゲンの低下です。しかし、それ以外にもいくつかの要因が関連することがあります。
女性ホルモン(エストロゲン)の低下
女性の体は、エストロゲンによって腟や外陰部の粘膜が潤い、厚みと弾力性を保っています。また、エストロゲンは腟内の善玉菌(乳酸桿菌)の働きをサポートし、腟内を酸性に保つことで、病原菌の繁殖を防ぎ、自浄作用を維持する役割も担っています。
しかし、閉経によって卵巣機能が低下すると、エストロゲンの分泌量が劇的に減少します。これにより、腟や外陰部の粘膜は以下のような変化を起こします。
- 粘膜が薄くなる(萎縮): 表面の細胞層が薄くなり、弱くなります。
- 潤いが失われる(乾燥): 粘液の分泌が減少し、乾燥しやすくなります。
- 弾力性が低下する: 組織が硬くなり、伸びが悪くなります。
- 血管が減少する: 血流が悪くなり、栄養や酸素の供給が滞ります。
- 腟内pHが上昇する: 乳酸桿菌が減少し、アルカリ性に傾き、病原菌が繁殖しやすくなります。
これらの変化が複合的に作用し、乾燥感、かゆみ、痛み、そして炎症などの症状として現れるのです。
その他の原因
エストロゲンの低下は、閉経以外にも様々な要因で起こり得ます。
- 若年性更年期障害(早期閉経): 40歳未満で閉経を迎える場合、エストロゲンの低下が早く始まるため、萎縮性腟炎のリスクが高まります。
- 卵巣摘出術: 病気などで両側の卵巣を摘出した場合、急激にエストロゲンが低下し、更年期のような症状が現れることがあります。
- 特定の薬剤治療: 乳がん治療などでエストロゲンの作用を抑える薬剤(抗エストロゲン剤)を使用した場合や、子宮筋腫治療などで一時的にホルモン分泌を抑える治療を行った場合にも、エストロゲン低下による萎縮性変化が起こることがあります。
- 授乳期間: 産後の一時的なエストロゲン低下により、腟の乾燥などを感じることがあります。
- 過度なダイエットやストレス: これらもホルモンバランスを崩し、エストロゲン分泌に影響を与える可能性があります。
- 喫煙: 喫煙は血行を悪化させるだけでなく、エストロゲンの代謝にも影響を及ぼし、萎縮性変化を悪化させる可能性があると言われています。
これらの原因が単独または複合的に作用し、萎縮性腟炎を引き起こします。閉経後の女性に多く見られますが、年齢に関わらずエストロゲンが低下する状況では誰にでも起こりうる疾患です。
萎縮性腟炎の主な症状
萎縮性腟炎の症状は多岐にわたりますが、主に腟、外陰部、そして尿路に関連するものが挙げられます。これらの症状はQOL(生活の質)を著しく低下させる可能性があります。
腟の乾燥、かゆみ、痛み
最も一般的で初期に現れやすい症状です。エストロゲン低下により腟粘膜の潤いが失われ、薄くデリケートになることで生じます。
- 乾燥感: 常に腟の入り口や内部が乾いているような感覚があります。特に活動後や夜間に強くなることがあります。
- かゆみ: 外陰部や腟の入り口周辺に強いかゆみが生じることがあります。掻きむしってしまうと、さらに粘膜を傷つけ、症状を悪化させる悪循環に陥りやすいです。
- 痛み・つっぱり感: 腟や外陰部がピリピリしたり、ヒリヒリしたり、つっぱるような感覚があります。座っているときや歩いているとき、下着が擦れるだけでも痛みを感じることがあります。
これらの症状により、日常生活で不快感を感じることが増えます。
性交痛
萎縮性腟炎の症状の中でも、特に性生活に大きな影響を与えるのが性交痛(ディスパレウニア)です。
- 挿入時の痛み: 腟の入り口や内部が乾燥し、弾力性が失われているため、性交時の摩擦によって痛みが生じやすくなります。粘膜が薄く傷つきやすくなっているため、軽い刺激でも出血を伴うこともあります。
- 性交後の痛み: 性交による刺激で炎症が悪化し、性交後数時間または数日にわたって痛みが続くことがあります。
- 性欲の減退: 性交時の痛みが繰り返されることで、性行為自体を避けるようになり、結果的に性欲が低下してしまうことがあります。
性交痛は、女性自身の苦痛だけでなく、パートナーシップにも影響を及ぼすデリケートな問題です。これにより、性生活が困難になったり、完全に回避するようになったりする方も少なくありません。
帯下(おりもの)の変化
健康な腟では、適度な量のおりものが分泌され、腟の清潔を保つ役割をしています。しかし、萎縮性腟炎になると、おりものに変化が見られます。
- おりものの減少: エストロゲン低下により、腟の腺からの分泌が減るため、おりものの量が著しく少なくなることがあります。これにより、乾燥感がさらに増す原因となります。
- おりものの性状の変化: 粘膜の細胞が剥がれやすくなり、炎症が起きやすいため、水っぽい、黄色っぽい、または少量の出血が混じるといった変化が見られることがあります。
- 悪臭: 腟内pHがアルカリ性に傾き、病原菌が繁殖しやすくなることで、普段とは異なる悪臭を伴うおりものが増えることがあります(細菌性腟症などを合併している場合)。
おりものの変化は、自浄作用の低下を示唆しており、感染症のリスクが高まっているサインでもあります。
頻尿や排尿時の痛み(尿路症状)
萎縮性腟炎に伴う症状は、腟や外陰部だけにとどまりません。エストロゲンは尿道や膀胱の粘膜の健康にも深く関わっているため、エストロゲン低下はこれらの組織にも影響を及ぼし、尿路症状を引き起こすことがあります。これらをまとめて「GSM(閉経関連泌尿生殖器症候群)」の症状として捉えることもあります。
- 頻尿: 排尿の回数が増え、トイレが近くなります。
- 尿意切迫感: 突然強い尿意を感じ、我慢するのが難しくなることがあります。
- 排尿痛: 排尿時に痛みや不快感を感じることがあります。
- 残尿感: 排尿後も膀胱に尿が残っているような感覚があります。
- 尿失禁: 咳やくしゃみをしたとき、重いものを持ち上げたときなどに、少量または多量の尿が漏れてしまうことがあります(腹圧性尿失禁)。尿意切迫感と同時に起こる尿失禁もあります(切迫性尿失禁)。
- 繰り返す膀胱炎: 尿道や膀胱の粘膜が弱くなり、細菌感染しやすくなるため、膀胱炎を繰り返すことがあります。
これらの尿路症状は、尿路感染症や過活動膀胱など、他の疾患と間違われることもあります。萎縮性腟炎による尿路症状は、ホルモン補充療法や局所エストロゲン療法で改善することが多いですが、正確な診断のためには専門医の診察が必要です。
このように、萎縮性腟炎の症状は、デリケートゾーンの不快感から性生活の困難、さらには尿路の問題まで、女性の生活の質に様々な影響を及ぼします。これらの症状は、多くの女性が経験する可能性のあるものであり、決して恥ずかしいことではありません。
萎縮性腟炎の診断・検査
萎縮性腟炎の診断は、主に問診と内診によって行われます。これらの診察で、患者さんの症状や既往歴、そして腟や外陰部の状態を確認し、総合的に判断します。
- 問診:
現在の症状(乾燥、かゆみ、痛み、性交痛、おりものの変化、排尿に関する悩みなど)について詳しくお話を伺います。いつから、どのような時に症状が現れるか、症状の程度などを伝えます。
月経の状況、閉経時期、妊娠・出産歴、性生活についてもお伺いします。
現在服用している薬、過去にかかった病気、アレルギーについても確認します。
これらの情報から、症状がエストロゲン低下と関連している可能性を探ります。 - 内診:
腟や外陰部の状態を医師が直接目で見て、触って確認します。
腟鏡(クスコ)を使用して腟壁の状態(色、厚み、潤い、血管の目立ち具合、炎症の有無、傷つきやすさ)を観察します。
腟や外陰部の粘膜の乾燥具合、弾力性、痛みがある箇所などを確認します。
子宮や卵巣の状態も同時に確認することがあります。 - 必要に応じた検査:
通常、問診と内診で診断がつくことが多いですが、必要に応じて以下のような検査を行うことがあります。- 腟分泌物のpH測定: 萎縮性腟炎では、腟内の酸性度が低下し、pHが上昇する傾向があります。
- 腟分泌物の顕微鏡検査・細菌培養検査: おりものの異常や感染症(細菌性腟症、カンジダ腟炎など)が疑われる場合に、原因菌を特定するために行います。萎縮性腟炎により自浄作用が低下すると、他の感染症を合併しやすいため、これらの検査が有用です。
- 細胞診: 腟壁の細胞を採取し、顕微鏡で調べることで、エストロゲンによる影響の程度や、異常な細胞がないかを確認します。
- 尿検査: 尿路症状が強い場合や、尿路感染症が疑われる場合に行います。
これらの診断・検査を通じて、萎縮性腟炎であるかどうかの診断を確定し、症状の程度や他の疾患の合併の有無などを確認します。自己判断せずに専門医の診察を受けることで、正確な診断に基づいた適切な治療を受けることができます。
萎縮性腟炎の治療法
萎縮性腟炎の治療は、低下したエストロゲンを補充するホルモン補充療法(HRT)が最も効果的ですが、症状や患者さんの希望に応じて非ホルモン療法やその他の治療法も選択されます。
ホルモン補充療法(HRT)
エストロゲンを補充することで、腟や外陰部の粘膜をふっくらさせ、潤いや弾力性を回復させる根本的な治療法です。萎縮による症状(乾燥、かゆみ、痛み、性交痛、尿路症状)の改善に高い効果が期待できます。
HRTには、大きく分けて局所エストロゲン療法と全身ホルモン補充療法があります。
局所エストロゲン療法(腟剤)
腟や外陰部の患部に直接エストロゲン製剤を投与する方法です。
- 剤形: 腟錠、腟クリーム、腟リングなどがあります。
- 腟錠・腟クリーム: 週に数回、夜寝る前に自分で腟内に挿入または塗布します。
- 腟リング: 数ヶ月間、腟内に留置しておくタイプです。
- メリット:
- エストロゲンが主に患部(腟や外陰部)に作用するため、全身への影響が少ないとされています。乳がんや血栓症などのリスク増加は、全身HRTと比較して極めて低いと考えられています。
- 腟や外陰部の症状にピンポイントで効果を発揮します。
- デメリット:
- 尿路症状など、やや離れた場所の症状には全身HRTほど効果がない場合があります。
- 使用頻度(週数回)によっては、煩わしさを感じる方もいます。
- 適している方: 萎縮性腟炎の症状が主で、全身の更年期症状が軽い方、全身HRTに抵抗がある方、または禁忌となる方。
局所エストロゲン療法は、萎縮性腟炎に対する第一選択肢とされることが多い治療法です。使用方法や頻度は製剤の種類や症状によって異なるため、医師の指示に必ず従ってください。
全身ホルモン補充療法
飲み薬、貼り薬(パッチ)、塗り薬(ジェル)など、全身に作用するエストロゲン製剤を投与する方法です。子宮がある場合は、子宮内膜増殖症のリスクを避けるために黄体ホルモン製剤も併用するのが一般的です。
- 剤形: 錠剤、貼り薬(パッチ)、塗り薬(ジェル)など。毎日または一定期間ごとに使用します。
- メリット:
- 萎縮性腟炎の症状だけでなく、ほてり、のぼせ、発汗などの全身の更年期症状にも効果があります。
- 骨密度の維持や骨粗しょう症予防にも効果が期待できます。
- 尿路症状を含むGSM全体に効果が期待できます。
- デメリット:
- 乳がんや子宮体がん(黄体ホルモン併用でリスク低減)、血栓症などのリスク増加の可能性が指摘されています(ただし、使用期間や年齢、既往歴などによってリスクは異なります)。
- 定期的な健診(乳がん検診、子宮がん検診など)が必要です。
- 副作用(不正出血、乳房の張りなど)が出ることがあります。
- 適している方: 萎縮性腟炎の症状に加えて、全身の更年期症状(ホットフラッシュなど)が強い方、骨粗しょう症が心配な方。
全身HRTを選択する場合は、医師とリスクとメリットを十分に話し合い、患者さん一人ひとりの状態に合った製剤や投与方法を選択することが重要です。
非ホルモン療法(保湿剤・潤滑剤など)
ホルモン補充療法が体質的にできない方、禁忌がある方、またはホルモン治療に抵抗がある方、軽症の場合などに行われる対症療法です。萎縮自体を改善する効果はありませんが、症状を緩和するのに役立ちます。
- 腟用保湿剤: 毎日または週に数回、腟内や外陰部に塗布または挿入することで、乾燥感を和らげます。保湿効果により、かゆみやヒリヒリ感を軽減します。ノンホルモン製剤です。
- 潤滑剤(ローション・ジェル): 性交時に使用することで、摩擦を減らし、性交痛を和らげます。性交時のみに使用するもので、日常的な保湿効果はありません。水溶性のものが推奨されます。
- 腟内環境を整える腟剤(乳酸菌製剤など): 腟内のpHバランスを整え、善玉菌をサポートすることで、軽度の炎症や感染症リスクを軽減する効果が期待できるものがあります。医療用または一部市販されていますが、医師に相談の上使用するのが良いでしょう。
これらの非ホルモン療法は、ホルモン治療のような根本的な効果は期待できませんが、適切に使用することで症状を和らげ、生活の質を向上させることができます。様々な種類の製品があるため、自分の症状や好みに合ったものを選ぶことが大切です。
その他の治療法(レーザー治療など)
近年、萎縮性腟炎に対する新しい治療法として、レーザー治療が登場しています。代表的なものに、CO2フラクショナルレーザーを用いた腟のレーザー治療(例:モナリザタッチなど)があります。
- メカニズム: レーザー光を腟壁に照射することで、微細な熱ダメージを与え、粘膜のコラーゲン生成や血流を促進します。これにより、腟壁の厚みや弾力性、潤いが回復する効果が期待されています。
- メリット:
- ホルモン治療ができない方でも受けられます。
- 比較的短時間で治療が終わります。
- ダウンタイムは少ないとされています。
- デメリット:
- 保険適用外(自費診療)のため、費用が高額になります。
- 効果には個人差があります。
- 複数回の治療が必要となるのが一般的です。
- 比較的新しい治療法であるため、長期的な安全性や効果に関する十分なデータが蓄積されていない可能性があります。
- 適している方: ホルモン治療ができない方、ホルモン治療で効果不十分な方、新しい治療法を希望する方。
レーザー治療を検討する場合は、治療実績のある医療機関で、医師とリスク、メリット、費用について十分に話し合い、納得した上で受けるようにしてください。
治療法の選択肢の比較(例:主要な治療法)
治療法 | 主な作用 | 期待できる効果 | 適している方 | メリット | デメリット |
---|---|---|---|---|---|
局所エストロゲン療法 | 腟・外陰部へのエストロゲン補充 | 腟・外陰部の萎縮改善、乾燥・かゆみ・痛み・性交痛の緩和 | 萎縮症状が主、全身症状が軽い、全身HRTに抵抗がある/禁忌 | 全身への影響が少ない、患部に直接作用 | 全身症状には効果薄、使用頻度が必要 |
全身ホルモン補充療法 | 全身へのエストロゲン補充(子宮ありは黄体ホルモン併用) | 全身の更年期症状改善、骨粗しょう症予防、GSM全体の改善 | 全身症状も強い、骨粗しょう症予防もしたい | 全身の症状や骨密度にも効果 | 全身リスク(乳がん等)、定期健診必要、副作用の可能性 |
腟用保湿剤/潤滑剤 | 粘膜の保湿、摩擦軽減 | 乾燥感・かゆみ・性交痛の一時的な緩和 | 軽症、ホルモン治療ができない/抵抗がある | 手軽に始められる、ノンホルモン製剤 | 萎縮自体は改善しない、対症療法 |
レーザー治療 | 腟壁のコラーゲン生成促進、血流改善 | 腟の潤い・弾力回復、乾燥・性交痛の緩和 | ホルモン治療ができない/効果不十分、新しい治療法希望 | ホルモン治療なしで可能、比較的短時間 | 保険適用外(高額)、複数回必要、長期データ不足 |
どの治療法が適しているかは、症状の程度、合併症の有無、全身の健康状態、既往歴、ライフスタイル、そして患者さん自身の希望によって異なります。必ず医師と相談し、自分にとって最適な治療法を選択することが重要です。
萎縮性腟炎を自分で治す方法や市販薬は?
「自分で治したい」「病院に行くのは抵抗がある」と考える方もいるかもしれません。しかし、萎縮性腟炎の根本的な原因はエストロゲンの低下であり、これを完全に自力で回復させることは難しいのが現実。「自分で治す」というよりは、「症状を和らげるためのセルフケア」や「市販の補助的な製品を活用する」という視点で捉えるのが適切です。また、症状の陰に別の疾患が隠れている可能性もあるため、一度は専門医の診察を受けることを強くお勧めします。
市販薬やセルフケア製品
医療機関で処方される治療薬とは異なりますが、症状を和らげるための市販のセルフケア製品はいくつかあります。
- 腟用保湿剤・潤滑剤: 前述の「非ホルモン療法」の項目で紹介したものが、薬局やオンラインストアで市販されています。
- 保湿剤: 日常的な乾燥やかゆみに対して使用します。成分や使用感は製品によって異なります。ヒアルロン酸やグリセリンなどが含まれているものが多いです。
- 潤滑剤(ローション・ジェル): 性交時の痛みを和らげるために使用します。水溶性のものが安全で、コンドームや他の製品との併用にも適しています。
- デリケートゾーン用ソープ・ウォッシュ: 刺激の強い石鹸は粘膜を乾燥させ、症状を悪化させる可能性があります。弱酸性で低刺激のデリケートゾーン用ソープを使用することで、清潔を保ちながら粘膜への負担を減らすことができます。
- フェムケアオイル/クリーム: 外陰部の乾燥に対して、植物性のオイルやクリームで保湿ケアを行う製品もあります。
これらの製品は、あくまで症状を和らげる対症療法であり、萎縮自体を改善する効果はありません。また、製品によっては肌に合わない場合や、刺激を感じる場合もあります。使用上の注意をよく読み、異常を感じたら使用を中止してください。
エクオールやその他のサプリメント
大豆イソフラボンが腸内細菌によって代謝されてできる「エクオール」は、女性ホルモン(エストロゲン)によく似た働きをするため、更年期症状の緩和に効果が期待されています。
- エクオール: サプリメントとして市販されています。ホットフラッシュなどの全身の更年期症状に対して効果が期待されることが多いですが、一部の研究では腟の乾燥改善にも関連がある可能性が示唆されています。しかし、その効果はホルモン補充療法ほど確実ではなく、個人差も大きいです。また、日本人女性の約半数は、腸内でエクオールを作り出すことができないと言われています。
- 大豆イソフラボン: エクオールの原料となる成分です。食品(豆腐、納豆など)やサプリメントとして摂取できます。
- その他のサプリメント: プラセンタ、マカ、ビタミンEなども、女性の健康や更年期症状に良いとされることがありますが、萎縮性腟炎に対する直接的で確実な効果を示す科学的根拠は限定的です。
これらの食品やサプリメントは、あくまで「健康食品」や「栄養補助食品」であり、医薬品のように病気を治療する効果は保証されていません。萎縮した粘膜を根本的に回復させる作用は期待できません。あくまで症状の緩和や体調を整える目的の補助として捉え、過度な期待はせず、バランスの取れた食事を基本とすることが重要です。
ヨーグルトやビオフェルミンなどの乳酸菌
腟内の善玉菌である乳酸桿菌は、エストロゲンによって増殖が促進され、腟内を酸性に保つことで自浄作用を発揮しています。萎縮性腟炎ではエストロゲンが低下するため、乳酸桿菌が減少し、pHがアルカリ性に傾きやすくなります。
ヨーグルトやビオフェルミンなどに含まれる乳酸菌を摂取することで、腸内環境を整えることは全身の健康にとって重要ですが、経口摂取した乳酸菌が直接腟内の乳酸桿菌を増やし、腟内環境を劇的に改善させるという科学的根拠はまだ限定的です。
ただし、腟の健康を意識した特定の種類の乳酸菌を含む食品やサプリメントも開発されています。また、腟内に直接挿入する腟用の乳酸菌製剤(医療用または一部市販)もあり、こちらは腟内環境の改善に一定の効果が期待できます。自己判断せず、医師や薬剤師に相談の上使用するのが良いでしょう。
自分でできる生活習慣の改善
日々の生活の中でできる、症状の緩和や予防につながるセルフケアもあります。
- 清潔を保つ: デリケートゾーンは、刺激の強い石鹸を避け、弱酸性のデリケートゾーン用ウォッシュやぬるま湯で優しく洗いましょう。ゴシゴシ擦り洗いしないように注意が必要です。
- 通気性の良い下着を選ぶ: 化学繊維のぴったりした下着は蒸れやすく、かゆみや炎症を悪化させることがあります。綿などの天然素材で締め付けの少ないものを選ぶと良いでしょう。
- 体を締め付けない服装: スキニージーンズなど、デリケートゾーンを締め付ける服装は血行を妨げ、症状を悪化させる可能性があります。ゆったりとした服装を心がけましょう。
- 適度な運動: 全身の血行を促進し、ホルモンバランスを整える助けになります。特に骨盤周りの血行促進は、デリケートゾーンの健康にも良い影響を与える可能性があります。
- バランスの取れた食事: 大豆製品を積極的に摂取するなど、女性ホルモンをサポートする栄養を意識しましょう。
- 十分な睡眠とストレス管理: 不規則な生活や過度なストレスはホルモンバランスを乱し、症状を悪化させる可能性があります。質の良い睡眠を心がけ、ストレスを溜め込まない工夫をしましょう。
- 禁煙: 喫煙は血行を悪化させ、粘膜の健康を損なう大きな要因となります。禁煙は萎縮性腟炎だけでなく、全身の健康のために重要です。
- 性行為: 性行為による適度な刺激は、腟の血行を促進し、粘膜の健康維持につながる可能性が指摘されています。ただし、痛みがある場合は無理に行わず、潤滑剤を使用したり、痛みのない範囲で行ったり、まずは治療で症状を改善させてから取り組むことが大切ですとなります。
これらのセルフケアや市販製品は、あくまで医療機関での治療を補完するものとして考えましょう。症状が改善しない場合や、悪化する場合は、必ず専門医に相談してください。特に市販の「治療薬」と謳われている製品には注意が必要です。萎縮性腟炎は診断と適切な治療が重要な疾患です。
萎縮性腟炎を放置するとどうなる?
萎縮性腟炎は、命にかかわる病気ではありませんが、放置すると症状が慢性化・悪化し、生活の質(QOL)が著しく低下する可能性があります。また、合併症のリスクも高まります。
症状の悪化とQOLの低下
放置しても、エストロゲンが自然に回復することは基本的にありません。そのため、萎縮した粘膜が自然に元の状態に戻ることは期待できません。
- 乾燥、かゆみ、痛み、つっぱり感の慢性化: 軽度だった不快感が、常に感じるようになり、日常生活で常にデリケートゾーンのことが気になってしまいます。座ったり歩いたりするだけでも痛みを感じ、外出や社会活動が億劫になることがあります。
- 性交痛の悪化と性生活の困難化: 痛みが強くなり、性行為が不可能になることもあります。これにより、パートナーシップに溝が生じたり、精神的な孤立を感じたりすることがあります。
- 精神的な影響: デリケートな悩みを誰にも相談できず、一人で抱え込むことで、気分が落ち込んだり、不安が強くなったり、抑うつ状態になったりすることがあります。自己肯定感が低下することもあります。
このように、萎縮性腟炎を放置することは、身体的な苦痛だけでなく、精神的、社会的な側面にも悪影響を及ぼします。
合併症のリスク
萎縮性腟炎によって腟や外陰部の粘膜が薄く弱くなり、腟内pHがアルカリ性に傾くことは、他の疾患を合併するリスクを高めます。
- 感染症:
- 細菌性腟症: 腟内の善玉菌が減少し、悪玉菌が増殖することで起こります。おりものの量が増えたり、悪臭を伴ったりすることがあります。
- カンジダ腟炎: 免疫力の低下などにより、腟内の常在菌であるカンジダが増殖して起こります。強いかゆみや白いカッテージチーズ状のおりものが特徴です。
- 尿路感染症(膀胱炎、腎盂腎炎など): 尿道や膀胱の粘膜も弱くなるため、細菌が侵入・繁殖しやすくなります。頻尿、排尿痛、残尿感といった症状が現れ、重症化すると発熱や腰痛を伴う腎盂腎炎に至ることもあります。
- 尿失禁: 尿道や骨盤底筋の支持組織もエストロゲンの影響を受けるため、萎縮や弱化により、尿失禁のリスクが高まる可能性があります。
- 骨盤臓器脱: 骨盤底筋やそれを支える組織の弱化により、膀胱、子宮、直腸などが下がってきて腟から出てきてしまう病気です。萎縮性腟炎自体が直接の原因となるわけではありませんが、同じエストロゲン低下が関与しており、萎縮した粘膜が脱出臓器と擦れて傷つきやすくなるなど、症状を悪化させる要因となり得ます。
萎縮性腟炎の症状は、適切な治療によって改善が見込めます。放置して症状が悪化したり、他の病気を合併したりする前に、早めに専門医に相談することが、健康で快適な毎日を取り戻すための第一歩です。
萎縮性腟炎に関するよくある質問(FAQ)
萎縮性腟炎は自然に治りますか?
基本的に、萎縮性腟炎が自然に治ることは期待できません。なぜなら、主な原因が閉経などによる女性ホルモン(エストロゲン)の持続的な低下だからです。一時的なホルモン変動(授乳期など)による症状であれば、原因が解消されれば回復することもありますが、閉経後の場合は、エストロゲンが自然に十分量分泌される状態に戻ることはありません。
しかし、適切な治療やケアを行うことで、症状は大きく改善し、快適な状態を保つことが可能です。萎縮した粘膜は、ホルモン補充療法などによって回復させることができます。症状に気づいたら、「自然に治るかな」と放置せず、早めに専門医に相談することが重要です。
更年期になると性交痛があるのはなぜですか?
更年期は、卵巣機能の低下に伴ってエストロゲンが減少する時期です。前述のように、エストロゲンは腟や外陰部の粘膜の潤い、厚み、弾力性を保つために非常に重要です。エストロゲンが低下すると、これらの組織が薄く、乾燥しやすくなり、弾力性が失われます。
この状態のまま性行為を行うと、腟の入り口や内部で摩擦が起こりやすくなり、痛みを感じやすくなります。粘膜が弱くなっているため、軽い摩擦でも傷ついて出血することもあります。これが、更年期における性交痛の主な原因であり、萎縮性腟炎の典型的な症状の一つです。
性交痛は、性生活に大きな影響を与えますが、萎縮性腟炎に対する適切な治療(特に局所エストロゲン療法や潤滑剤の使用)によって、多くの場合改善が期待できます。
病院は何科を受診すればいいですか?
萎縮性腟炎やそれに伴うデリケートゾーンの症状、性交痛、更年期に関連する症状でお悩みの場合は、婦人科を受診するのが最も適切です。
婦人科医は、女性特有の病気やホルモンバランスの変化に詳しく、萎縮性腟炎の原因診断、症状の評価、そして適切な治療法(ホルモン補充療法、非ホルモン療法など)の選択と処方を行う専門家です。内診によって腟や外陰部の状態を直接確認し、他の病気との鑑別も行います。
また、泌尿器科でも頻尿や排尿痛などの尿路症状について相談することは可能ですが、これらの症状が萎縮性腟炎(GSM)によるものである場合は、婦人科でのホルモン補充療法などが根本的な治療となることが多いです。可能であれば、まずは婦人科を受診し、泌尿器科との連携が必要かどうかを相談するのが良いでしょう。
最近では、女性の健康を専門とする「女性専門外来」や「更年期外来」を設けている医療機関もあります。これらの外来では、女性ホルモンに関連する様々な悩みに対応しており、より気軽に相談しやすいかもしれません。
いずれにしても、「恥ずかしい」「年のせい」と諦めずに、専門知識を持った医師に相談することが大切です。
まとめ:萎縮性腟炎でお悩みなら専門医へ相談を
萎縮性腟炎は、女性ホルモンであるエストロゲンの低下を主な原因とする、デリケートゾーンの不快な症状や尿路症状を伴う疾患です。特に閉経後の女性に多く見られますが、更年期前でもホルモンバランスが崩れることで起こり得ます。腟の乾燥、かゆみ、痛み、性交痛、おりものの変化、そして頻尿や排尿痛など、その症状は多岐にわたり、多くの女性がひっそりと悩みを抱えています。
これらの症状は、放っておくと悪化し、日常生活や性生活の質を著しく低下させるだけでなく、細菌性腟症や膀胱炎などの感染症、さらには尿失禁などの合併症のリスクを高める可能性があります。
しかし、萎縮性腟炎は適切な診断と治療によって、症状を大きく改善させることが十分可能です。医療機関では、低下したエストロゲンを補充するホルモン補充療法(局所エストロゲン療法や全身ホルモン補充療法)が最も効果的な治療法として行われます。ホルモン治療が難しい場合や軽症の場合は、保湿剤や潤滑剤などの非ホルモン療法、あるいは新しい治療法としてレーザー治療なども選択肢となり得ます。
市販のセルフケア製品やサプリメントも、症状の一時的な緩和や体調を整える助けにはなりますが、これだけで萎縮そのものを根本的に治すことはできません。症状の裏に別の病気が隠れている可能性もあります。
もしあなたが、デリケートゾーンの不快感や性交痛、排尿の悩みなどで「これって、もしかして?」と感じているなら、一人で悩まず、ぜひ婦人科などの専門医にご相談ください。専門医はあなたの症状を正確に診断し、あなたに合った最適な治療法やケア方法を提案してくれます。勇気を出して一歩踏み出すことが、快適な日々を取り戻すための第一歩となります。
免責事項: 本記事は、萎縮性腟炎に関する一般的な情報を提供するものであり、医学的なアドバイスや診断、治療を推奨するものではありません。個々の症状や状態については個人差があります。症状でお悩みの方は、必ず医師やその他の医療専門家の診断と指導を受けるようにしてください。本記事の情報に基づいて行った行動の結果について、執筆者および公開者は一切の責任を負いかねます。