鼠径リンパ肉芽腫は、性感染症の一種で、特に鼠径部(股の付け根)のリンパ節の腫れを特徴とする病気です。クラミジア・トラコマチスという細菌の特定のタイプによって引き起こされます。この病気は、感染しても初期症状が目立たないことが多く、発見が遅れるとリンパ節の腫れが進行したり、慢性的な合併症を引き起こしたりする可能性があります。
鼠径部の腫れや性器の異常など、気になる症状がある場合は、早期に適切な診断と治療を受けることが非常に重要です。この記事では、鼠径リンパ肉芽腫の段階別の症状、原因、診断・治療法、そして鼠径部リンパ節が腫れる他の病気との違いについて詳しく解説します。
鼠径リンパ肉芽腫とは?病気の概要
鼠径リンパ肉芽腫(そけいりんぱにくげしゅ、Lymphogranuloma venereum: LGV)は、クラミジア・トラコマチスという細菌によって引き起こされる性感染症(STI)です。ただし、一般的な性器クラミジア感染症の原因となるクラミジア・トラコマチスとは異なる、特定の血清型(主にL1、L2、L3)によって発症します。これらの血清型は、性器や直腸、リンパ組織に対して、より侵襲性が高い(組織に入り込んで病変を起こしやすい)という特徴があります。
感染は主に性行為(膣性交、アナルセックス、オーラルセックスなど)によって、粘膜の接触を介して起こります。感染した部位から病原体が体内のリンパ系に入り込み、特に鼠径部のリンパ節に炎症を引き起こし、特徴的な腫れや痛みを伴う病変を形成します。
この病気は、特に熱帯や亜熱帯地域に多く見られますが、近年では世界的に、特に男性間性交渉者(MSM)の間で増加傾向が報告されています。
放置すると、鼠径部のリンパ節の腫れが持続したり、破れて膿が出たりするだけでなく、リンパの流れが慢性的に滞ることで、下肢や性器の腫れ(象皮病)や直腸の炎症・狭窄といった重篤な合併症を引き起こす可能性があります。そのため、早期の正確な診断と適切な治療が不可欠です。
鼠径リンパ肉芽腫 段階別の症状
鼠径リンパ肉芽腫の症状は、病気の進行に応じて段階的に現れるのが特徴です。感染から症状が出現するまでの潜伏期間は、一般的に数日から数週間程度ですが、リンパ節の腫れなどの顕著な症状が現れるのは、感染から数週間から数ヶ月後になることが多いです。
病気の経過は大きく分けて第1期と第2期に分けられます。
第1期の症状:初期の経過
第1期は、病原体が体に侵入した場所、つまり感染局所に症状が現れる段階です。主に性器、肛門周囲、直腸、まれに口腔内などに病変が生じます。
- 小さないびらんや水疱、丘疹、潰瘍: 感染した部位に、直径数ミリメートル程度の小さないびらん(ただれ)、水疱(みずぶくれ)、丘疹(ブツブツ)、または潰瘍(ただれてえぐれたような状態)が現れます。
- 痛みがほとんどない、または軽微: これらの初期病変は、多くの場合、痛みがほとんどありません。あっても軽微な不快感程度であるため、気づかずに見過ごされてしまうことが少なくありません。
- 短期間で自然に消失: 通常、第1期の病変は出現してから数日から1週間程度で自然に消えてしまいます。症状が軽いうえにすぐに消えるため、「何かできたけど治った」程度に思ってしまい、感染に気づかないまま次の段階に進んでしまうケースが多く見られます。
男性では陰茎や陰嚢に、女性では膣壁、子宮頸部、外陰部などに病変が現れやすいですが、女性の場合は症状が内側に出やすく、さらに気づきにくい傾向があります。アナルセックスによる感染の場合は、肛門周囲や直腸に病変が生じることがあります。
この第1期を見過ごしてしまうことが、診断の遅れにつながり、第2期の重い症状を招く原因の一つとなります。
第2期の症状:鼠径リンパ節の腫れと全身症状
第2期は、病原体がリンパ系を通じて拡がり、特に鼠径部のリンパ節に強い炎症を引き起こす段階です。感染から数週間から数ヶ月後に発症することが多いです。この段階で、多くの人が異常に気づき、医療機関を受診します。
鼠径リンパ節の腫れ・痛み
鼠径リンパ肉芽腫の第2期で最も特徴的な症状は、鼠径部のリンパ節の腫れです。
- 鼠径部の強い腫れ: 股の付け根にあるリンパ節が、1つまたは複数、大きく腫れ上がります。片側にだけ現れることが多いですが、両側に腫れが見られることもあります。
- 触ると硬く、痛みを伴う: 腫れたリンパ節は触ると硬く、強い痛みを伴うのが特徴です。歩行時や触れるだけで痛むことがあります。
- 「バボ」(Bubo)の形成: 腫れたリンパ節が周囲の組織と癒着して、触ると塊のように感じられる状態を「バボ」と呼びます。鼠径リンパ肉芽腫のバボは、皮膚の下でソーセージのように細長く触れたり、鼠径靭帯を境に上下に分かれて触れたりすることがあります。特に後者は「溝徴候(Groove sign)」と呼ばれ、鼠径リンパ肉芽腫に特徴的な所見の一つとされています。
- 化膿しやすい: 腫れたリンパ節の内部では炎症が強く、化膿しやすい性質があります。
発熱などの全身症状
リンパ節の炎症が強くなると、全身に影響が及び、様々な全身症状が現れることがあります。
- 発熱: 多くのケースで発熱を伴います。微熱から高熱まで程度は様々です。
- 倦怠感: 体がだるく、疲れやすいと感じることがあります。
- 頭痛、関節痛、筋肉痛: インフルエンザのような、全身の痛みやこわばりを伴うことがあります。
- 体重減少: 炎症が長く続くと、体重が減少することもあります。
- 肝臓や脾臓の腫れ: まれに、肝臓や脾臓が腫大することもあります。
これらの全身症状は、リンパ節の腫れと同時期、あるいは少し遅れて現れることが多いです。
自潰排膿(破れて膿が出る状態)
腫れて化膿した鼠径リンパ節は、自然に皮膚が破れて、内部に溜まった膿や液体(漿液)が流れ出すことがあります。この状態を「自潰排膿(じかいはいのう)」と呼びます。
- 皮膚の破れ: 腫れたリンパ節の表面の皮膚が薄くなり、破れて開口部ができます。
- 膿や漿液の排出: 開口部から、黄白色や血が混じった膿や透明な液体が出てきます。
- 複数の排出口: 1つの腫れから複数の穴が開いて排膿が続くことがあり、この状態が「ジョウロの口」のように見えることもあります。
- 治癒の遅延: 一度自潰排膿すると、傷口が閉じにくく、治癒に時間がかかるようになります。慢性的な排膿が続き、皮膚に瘢痕(傷跡)が残ることもあります。
特にアナルセックスによる感染の場合、鼠径部ではなく肛門周囲や直腸のリンパ節が腫れることがあり、直腸炎、肛門周囲膿瘍、痔瘻(じろう)のような症状を呈することもあります。この場合、診断がより困難になることがあります。
鼠径リンパ肉芽腫の主な原因
鼠径リンパ肉芽腫の原因は明確です。特定の細菌感染によって引き起こされます。
病原体:クラミジア・トラコマチス
鼠径リンパ肉芽腫の原因となるのは、クラミジア・トラコマチスという細菌です。ただし、クラミジア・トラコマチスには様々な「血清型」があり、それぞれ引き起こす病気が異なります。
- 一般的なクラミジア感染症(性器クラミジア、咽頭クラミジアなど): これらの感染症は、クラミジア・トラコマチスの血清型DからK、またはA、B、Cによって引き起こされます。これらは主に性器や喉の粘膜に感染し、多くの場合、尿道炎や子宮頸管炎などを引き起こしますが、鼠径リンパ節を大きく腫れさせることは稀です。
- 鼠径リンパ肉芽腫: 鼠径リンパ肉芽腫は、クラミジア・トラコマチスの血清型L1、L2、L3によって引き起こされます。これらのL型血清型は、D~K型などと比較して、組織やリンパ系への侵入性が高く、感染した部位から容易にリンパ節に到達し、強い炎症や破壊を引き起こす能力を持っています。
つまり、同じクラミジア・トラコマチスでも、原因となるタイプが異なるということです。
感染経路は、主に性的な接触です。
- 性行為: 感染者との膣性交、アナルセックス(肛門性交)、オーラルセックス(口腔性交)を通じて、病原体が性器、肛門、直腸、または口腔の粘膜から体内に侵入します。
- 粘膜接触: 傷口や皮膚の小さな損傷部を通じて感染することもありますが、稀です。
感染した人が自覚症状がない場合でも、性行為を通じてパートナーに感染を広げる可能性があります。そのため、感染が判明した場合は、パートナーの検査と治療も同時に行うことが非常に重要となります。
鼠径リンパ肉芽腫の診断と検査
鼠径リンパ肉芽腫の診断は、患者さんの訴える症状や病歴、そして特定の検査結果を総合的に判断して行われます。第1期の症状が見過ごされやすいため、特に第2期の鼠径リンパ節の腫れが見られる場合に、鼠径リンパ肉芽腫を疑って検査を進めることが一般的です。
診断のステップとしては、まず医師による問診、視診、触診が行われます。
- 問診: いつ頃からどのような症状があるか(鼠径部の腫れ、痛み、性器の異常など)、性行為の経験(時期、パートナーの数、行為の種類など)、海外渡航歴、他の病気の既往歴、現在服用中の薬などを詳しく聞き取ります。特に、第1期の症状として現れる可能性のある、痛みのない小さないびらんや潰瘍がなかったかどうかも確認されますが、患者さん自身が気づいていないことも多いです。
- 視診・触診: 鼠径部リンパ節の腫れの有無、大きさ、硬さ、痛み、可動性(動くかどうか)、皮膚の状態(発赤、腫れ、自潰の有無など)を観察し、触って確認します。性器や肛門周囲、直腸、口腔内など、感染が疑われる部位に初期病変や他の異常がないかどうかも調べます。
これらの診察に加えて、診断を確定するために以下のような検査が行われます。
どのような検査が行われる?
鼠径リンパ肉芽腫の診断には、病原体を直接検出する検査や、病原体に対する抗体を調べる検査が用いられます。
- 病原体検査(核酸検出検査):
- これが最も診断価値の高い検査です。鼠径リンパ肉芽腫の原因であるクラミジア・トラコマチスのL型血清型(L1、L2、L3)を検出します。
- 検査材料: 鼠径リンパ節の腫れから穿刺して採取した膿やリンパ液、自潰した部分からの分泌物、性器や肛門周囲の初期病変(いびらんや潰瘍)からの擦過物、直腸や咽頭の分泌物などが用いられます。
- 検査方法: 主にPCR法(ポリメラーゼ連鎖反応法)などの核酸増幅法が使われます。これらの方法は、ごく少量の病原体DNAから検出できるため感度が高く、L型血清型を特定することも可能です。
- 血清検査(抗体検査):
- 病原体に対する体の免疫応答として作られる抗体を血液中で調べます。主に補体結合反応(CFT)やELISA法などが用いられます。
- 陽性であれば、過去または現在のクラミジア・トラコマチス感染を示唆しますが、L型血清型以外のクラミジア感染でも陽性になることがあるため、この検査単独で鼠径リンパ肉芽腫と確定診断することは困難です。通常、病原体検査や臨床症状と組み合わせて判断されます。抗体価の推移をみることで、活動性の感染かどうかの判断材料とすることもあります。
- 組織検査(生検):
- 診断が困難な場合や、リンパ腫など他の疾患との鑑別が必要な場合に、腫れたリンパ節の一部を採取して病理組織学的な検査を行うことがあります。鼠径リンパ肉芽腫では、リンパ節に特徴的な炎症性の変化が見られます。
- 他の性感染症の検査:
- 鼠径リンパ肉芽腫に感染している人は、他の性感染症(梅毒、HIV、淋菌感染症など)に同時に感染している可能性も高いため、これらの検査も併せて行うことが推奨されます。
これらの検査結果と、患者さんの臨床症状、病歴などを総合的に評価して、最終的な診断が下されます。特に核酸検出検査でクラミジア・トラコマチスのL型血清型が検出されれば、診断は確定となります。
鼠径リンパ肉芽腫の治療法
鼠径リンパ肉芽腫と診断された場合、適切な抗菌薬治療によって治癒が期待できます。治療の目的は、病原体を排除し、症状を改善させ、後遺症や合併症を防ぐことです。
主な治療薬と治療期間
鼠径リンパ肉芽腫の治療には、病原体であるクラミジア・トラコマチスに効果のある抗菌薬が使用されます。
- 第一選択薬:
- 主にテトラサイクリン系の抗菌薬が使用されます。中でもドキシサイクリンが推奨される薬剤の一つです。通常、1日2回、少なくとも21日間以上の服用が必要です。比較的長期間の服用が必要となります。
- テトラサイクリン系の薬剤は、細菌のタンパク質合成を阻害することで効果を発揮します。
- 代替薬:
- テトラサイクリン系薬剤が使用できない場合(妊娠中、特定の病気があるなど)や、効果が不十分な場合には、マクロライド系の抗菌薬(例: アジスロマイシン、エリスロマイシンなど)や、サルファ剤とトリメトプリムの合剤などが代替薬として用いられることがあります。アジスロマイシンは、テトラサイクリン系よりも短い投与期間(例えば週1回3週間など)で済む場合もありますが、効果や投与量については医師の判断が必要です。
治療期間は最低でも3週間と比較的長く、症状が改善しても、病原体が体内に残っている可能性があるため、医師から指示された期間は必ず最後まで薬を飲み切ることが非常に重要です。自己判断で服用を中止すると、再発したり、病原体が排除されずに慢性化したりするリスクが高まります。
リンパ節の腫れに対する処置:
腫れた鼠径リンパ節(バボ)が大きく、強い痛みがあったり、化膿して膿が溜まっていたりする場合には、薬物療法と並行して外科的な処置が必要になることがあります。
- 穿刺(せんし): 注射針を刺して、リンパ節に溜まった膿やリンパ液を吸引除去する方法です。痛みの軽減や化膿の進行を防ぐ目的で行われます。
- 切開・排膿: 自潰してしまった場合や、穿刺では不十分な場合に、皮膚を切開して膿を排出させる処置です。ただし、リンパ液が持続的に漏れ出す(リンパ瘻)などのリスクもあるため、慎重に行われます。
重要なのは、これらの外科的な処置だけでは病原体は排除されないため、必ず抗菌薬治療と併せて行う必要があるということです。
パートナーの治療:
鼠径リンパ肉芽腫は性感染症であるため、感染が判明した場合は、性行為のパートナーも検査を受け、必要であれば同時に治療を開始することが極めて重要です。パートナーが感染している可能性が高く、治療しなければピンポン感染(お互いに再感染を繰り返すこと)の原因となったり、他の人に感染を広げたりすることになります。パートナーへの連絡と受診勧奨については、医療機関に相談することも可能です。
治療後には、症状の改善を確認するために再診が必要です。病原体が完全に排除されたかどうかを確認するための検査が行われる場合もあります。
鼠径部リンパ節が腫れる他の原因との違い
鼠径部のリンパ節が腫れるという症状は、鼠径リンパ肉芽腫に特有のものではありません。様々な原因で起こりうる症状です。そのため、鼠径部のリンパ節の腫れが見られた場合、鼠径リンパ肉芽腫以外の病気との鑑別(区別)が非常に重要になります。自己判断せず、必ず医療機関を受診して正確な診断を受ける必要があります。
鼠径部リンパ節が腫れる主な他の原因としては、以下のようなものがあります。
- 感染症:
- 下肢や足の怪我、虫刺され、毛嚢炎(毛穴の炎症)など、鼠径部より下(下肢、足、外陰部、肛門周囲など)に感染や炎症がある場合、その病原体や炎症物質に対する反応として、近くの鼠径リンパ節が腫れることがあります。これは「反応性リンパ節炎」と呼ばれ、原因となっている感染や炎症が治まれば、リンパ節の腫れも自然に引いていくことが多いです。
- 全身性のウイルス感染症(風邪、インフルエンザなど)によって全身のリンパ節が腫れる際に、鼠径部も含まれることがあります。
- 性感染症(STI):
- 鼠径リンパ肉芽腫以外にも、鼠径部のリンパ節が腫れる性感染症があります。
- 悪性腫瘍:
- リンパ節自体が悪性化する病気(リンパ腫)や、他の部位からがんがリンパの流れに乗って転移してきた場合(転移性リンパ節)、鼠径部のリンパ節が腫れることがあります。
これらの疾患と鼠径リンパ肉芽腫を区別するためのポイントをいくつかご紹介します。
鼠径部リンパ腫の症状は?
鼠径部リンパ腫は、リンパ節の組織が悪性化する病気、あるいは全身のリンパ組織が悪性化する病気の一部分として鼠径部のリンパ節が腫れる状態です。
- 腫れの性状: 通常、リンパ腫によるリンパ節の腫れは、鼠径リンパ肉芽腫のような強い痛みや発熱を伴わないことが多いです(進行期や特定のタイプを除く)。触ると硬く、周囲の組織と癒着してあまり動かない(可動性が低い)傾向があります。一つだけでなく、複数のリンパ節が連なって腫れることもあります。
- 経過: ゆっくりと進行することが多く、痛みがないために気づくのが遅れることもあります。
- 全身症状: 進行すると、原因不明の発熱(特に夜間)、寝汗、体重減少といった全身症状(B症状)を伴うことがあります。
- 診断: 最終的な診断には、腫れたリンパ節の一部を採取して顕微鏡で詳しく調べる生検(組織検査)が必須です。
鼠蹊部リンパが腫れる性病(梅毒など)
鼠径部リンパ節が腫れる可能性のある他の性感染症には、以下のようなものがあります。
疾患名 | 病原体 | 鼠径部リンパ節腫脹の特徴 | 主な感染局所の症状 | 診断方法 |
---|---|---|---|---|
鼠径リンパ肉芽腫 (LGV) | クラミジア・トラコマチス (L1, L2, L3型) | 強く腫れ、痛みを伴う。化膿しやすく、自潰排膿することも。特徴的な「バボ」を形成。 | 第1期:痛みのない小さないびらん、水疱、潰瘍 (見過ごされやすい)。直腸炎なども。 | 感染局所やリンパ節からの病原体PCR検査、血清検査。 |
梅毒 (第1期) | 梅毒トレポネーマ | 無痛性の腫れ。硬いしこりのように触れる(硬性下疳の近くのリンパ節)。 | 硬性下疳:痛みのない硬いしこりや潰瘍が、性器、口、肛門などにできる。 | 梅毒血清反応 (STS, TPHA/TPPA)、暗視野顕微鏡検査、PCR検査。 |
性器ヘルペス | 単純ヘルペスウイルス (HSV) | 軽度~中等度の腫れ。痛みは通常あるが、LGVほどではないことが多い。 | 性器や肛門周囲に、痛みを伴う水疱や潰瘍が多発する。発熱などの全身症状を伴うことも。 | ウイルス分離、抗原検出、PCR検査、抗体検査。 |
軟性下疳 | Haemophilus ducreyi (ヘモフィルス・デュクレイ) | 強く腫れ、痛みを伴う。化膿しやすく、自潰排膿することも。 | 性器に痛みを伴う柔らかい潰瘍ができる(複数のこともある)。 | 潰瘍からの病原体培養、PCR検査。 |
これらの病気は、リンパ節の腫れの性状(痛みがあるか、硬さ、動きやすさなど)や、感染局所の病変の有無や種類、全身症状の有無などで鼠径リンパ肉芽腫と区別されます。しかし、症状だけでは判断が難しいため、正確な診断には病原体を特定するための検査が不可欠です。
鼠径部のリンパ節の腫れは、放置すると重篤な病気の発見が遅れる可能性もあるため、「性病かもしれない」「ただの疲れかな」などと自己判断せず、早めに医療機関を受診して正確な診断を受けることが最も重要です。
鼠径リンパ肉芽腫に関するよくある質問
鼠径リンパ肉芽腫について、患者さんや一般の方からよく寄せられる質問とその回答をまとめました。
リンパ肉芽腫の症状は?(全体像)
鼠径リンパ肉芽腫の症状は、病気の進行段階によって異なります。
- 第1期(初期): 感染した部位(主に性器、肛門周囲、直腸、まれに口腔内)に、痛みのない小さないびらんや潰瘍などができます。しかし、症状が軽微で短期間で自然に消えるため、多くの場合、患者さんはこの段階に気づきません。
- 第2期(進行期): 感染から数週間~数ヶ月後に、鼠径部(股の付け根)のリンパ節が大きく腫れ、強い痛みを伴います。触ると硬く、周囲と癒着して動かない「バボ」と呼ばれる特徴的な腫れを形成することがあります。進行すると化膿して皮膚が破れ、膿が出てくることもあります(自潰排膿)。この段階では、発熱、倦怠感、頭痛、関節痛などの全身症状を伴うこともあります。
- 慢性期: 適切な治療を受けずに放置すると、リンパの流れが悪くなり、下肢や性器のむくみ(リンパ浮腫、象皮病)、直腸の炎症や狭窄、瘻孔(ろうこう:臓器と臓器の間や臓器と皮膚の間にできる管状の穴)形成などの重篤な合併症を引き起こす可能性があります。
このように、鼠径リンパ肉芽腫は、初期症状が非常に軽微なため見過ごされやすく、気づいたときにはリンパ節の腫れがかなり進行していることが多い病気です。
鼠径リンパ肉芽腫の病原体は何ですか?
鼠径リンパ肉芽腫の病原体は、クラミジア・トラコマチスという細菌です。
ただし、同じクラミジア・トラコマチスでも、一般的な性器クラミジア感染症やトラコーマ(目の感染症)を引き起こすタイプ(血清型D~K、A~C)とは異なります。鼠径リンパ肉芽腫は、特に侵襲性の高い血清型L1、L2、L3によって引き起こされます。これらのL型血清型は、他のタイプよりもリンパ組織に入り込んで炎症を起こしやすい性質を持っています。
感染は主に性行為(膣性交、アナルセックス、オーラルセックス)によって起こり、感染局所からリンパ系を通じて鼠径部のリンパ節に到達し、病気を発症させます。
女性の症状は男性と違う?
女性の場合も男性と同様に第1期と第2期の症状がありますが、症状の現れ方が異なる場合があります。
- 第1期: 女性の場合、性器(外陰部、膣、子宮頸部)にできる初期病変が男性に比べて見えにくい場所にできやすく、痛みがほとんどないため、さらに気づかれにくい傾向があります。
- 第2期: 鼠径リンパ節の腫れが起こることが多いですが、アナルセックスによる感染の場合は、直腸や骨盤内のリンパ節が腫れることもあります。この場合、鼠径部の腫れは目立たず、腹痛、下痢、血便、粘液便、テネスムス(便意があるのに排便できない不快感)といった直腸炎の症状が強く出ることもあります。直腸炎は女性や男性間性交渉者(MSM)に多く見られます。
- 合併症: 女性の場合も、放置するとリンパの流れが悪くなり、外陰部の腫れ(象皮病)、膣や直腸の狭窄、瘻孔形成などが起こる可能性があります。
このように、女性では鼠径部のリンパ節の腫れが目立たない場合でも、直腸の症状や他の部位のリンパ節腫脹が起こることがあるため、診断が遅れることがあります。
潜伏期間はどれくらい?
鼠径リンパ肉芽腫の潜伏期間(病原体に感染してから最初の症状が出るまでの期間)は、一般的に数日から数週間程度です。
ただし、これは第1期(初期病変)が現れるまでの期間を指します。多くの人が気づく第2期(鼠径リンパ節の腫れ)が現れるまでには、感染から数週間から数ヶ月(平均1~3ヶ月程度)かかることが多いです。第1期の症状が軽微で見過ごされることが多いため、患者さん自身は鼠径部のリンパ節が腫れて初めて「何かおかしい」と気づくことになります。
自然に治ることはある?
鼠径リンパ肉芽腫は、自然に改善することもありますが、放置することは推奨されません。
第1期の初期病変は自然に消失することが多いですが、病原体が体から完全に排除されたわけではありません。病原体はリンパ系を通じて体内に残り、時間の経過とともに第2期の鼠径リンパ節の腫れや全身症状を引き起こします。
第2期のリンパ節の腫れも、一時的に軽快することがあっても、病原体が体内に残っている限り、再発したり、慢性化して治癒に時間がかかったりするリスクがあります。また、放置することで、前述のようなリンパ浮腫や直腸狭窄といった重篤な合併症を発症する可能性が高まります。
したがって、鼠径リンパ肉芽腫が疑われる、または診断された場合は、病気の進行や合併症を防ぐため、必ず医療機関で適切な抗菌薬治療を受ける必要があります。
鼠径リンパ肉芽腫が疑われる場合は医療機関へ
鼠径リンパ肉芽腫は、早期に発見し適切な治療を行えば完治が期待できる病気です。しかし、初期症状が軽微で気づきにくく、放置するとリンパ節の腫れが進行したり、重篤な合併症を引き起こしたりするリスクがあります。
もし、以下のような症状に心当たりがある場合は、決して自己判断せず、速やかに医療機関を受診して相談してください。
- 鼠径部(股の付け根)に硬く、痛みを伴う腫れがある
- 過去に性器や肛門周囲に、痛みのない小さないびらんや潰瘍があったが、すぐに消えた
- 発熱、倦怠感、関節痛などの全身症状がある
- アナルセックスの経験があり、腹痛、下痢、血便などの直腸炎のような症状がある
- 鼠径部の腫れから膿が出ている
受診する科としては、泌尿器科(特に男性)、婦人科(特に女性)、皮膚科、または感染症内科などが考えられます。性感染症を専門とするクリニックでも相談できます。恥ずかしいと感じるかもしれませんが、医療機関ではプライバシーに配慮した対応がなされますのでご安心ください。
医師は、症状や性行為歴などを詳しく聞き取り、必要な検査(病原体検査、血清検査など)を行って診断を確定します。もし鼠径リンパ肉芽腫と診断された場合は、適切な抗菌薬治療が開始されます。パートナーへの感染拡大を防ぐため、パートナーの検査と治療も同時に行うことが推奨されます。
鼠径リンパ肉芽腫の早期診断と早期治療は、患者さん自身の体の負担を軽減し、後遺症や合併症を防ぐために非常に重要です。また、適切な治療によって病原体を取り除くことは、パートナーや他の人々への感染拡大を防ぐことにもつながります。
鼠径部のリンパ節の腫れは、鼠径リンパ肉芽腫以外にも様々な原因で起こりえますが、どのような原因であれ、体の異常を示すサインです。心配な症状がある場合は、放置せず、ぜひ勇気を出して医療機関の専門医に相談してみてください。
免責事項
この記事で提供する情報は、鼠径リンパ肉芽腫に関する一般的な知識の提供を目的としており、医学的な診断や治療を推奨するものではありません。個々の症状や状態については、必ず専門の医療機関を受診し、医師の診断と指導を受けてください。この記事の情報に基づいて行った行為や判断によって生じたいかなる結果についても、当方は一切の責任を負いかねます。