WISC検査(ウィスク検査)は、お子さま一人ひとりの「得意なこと」「苦手なこと」を理解するための知能検査です。
学習のつまづきや行動の背景にある認知特性を知る手がかりとなり、お子さまに合った効果的なサポート方法を検討する上で非常に役立ちます。
この記事では、WISC検査の目的、測定できる能力、検査内容、結果の見方、費用、受けられる場所、そして検査結果が示唆することについて、専門家の視点から分かりやすく解説します。
お子さまの成長や学びについて「もしかしたら」と感じている方、WISC検査を検討されている方は、ぜひ参考にしてください。
WISC検査(ウィスク検査)とは?知能検査の目的
WISC(Wechsler Intelligence Scale for Children:ウェクスラー児童用知能検査)検査は、世界的に広く用いられている児童向けの代表的な知能検査です。
この検査の主な目的は、お子さまの全体的な知的な能力(IQ)を測定することに加え、認知機能のさまざまな側面を詳しく分析することにあります。
単に数値としてのIQを出すだけでなく、「どのように考えて問題を解決するのか」「情報をどのように処理するのか」といった、お子さまの得意な認知のスタイルや、苦手としている認知機能の特性を理解することに重点が置かれています。
WISC検査の結果は、お子さまの学習面や生活面での困りごとの原因を探るヒントになったり、お子さまの強みを活かし、苦手な部分をサポートするための具体的な方法を検討する上で非常に重要な情報源となります。
医療機関や教育機関、相談機関などで専門家(公認心理師、臨床心理士、言語聴覚士、医師など)によって実施されます。
WISC検査で何がわかる?4つの指標と全検査IQ
WISC検査では、全体的な知的能力を示す「全検査IQ(FSIQ)」に加え、認知機能をより詳しく分析するための4つの主要な指標が得られます。
これらの指標を見ることで、お子さまの認知特性のプロファイル(得意・苦手のパターン)を把握することができます。
WISC検査の4つの主要指標(言語理解、知覚推理、ワーキングメモリ、処理速度)
WISC-V(ファイブ:現行版)では、主に以下の4つの主要指標が測定されます。
これらの指標の得点を見ることで、認知能力のバランスや特徴を理解することができます。
- 言語理解指標(VCI:Verbal Comprehension Index)
言葉の知識、言葉を使った推理力、応用力などを測る指標です。
語彙力や抽象的な概念を理解する能力、言葉で説明された内容を理解し、考える力などが含まれます。
この指標が高いお子さまは、言葉を使った説明をよく理解したり、自分の考えを言葉で表現することが得意な傾向があります。
逆に低い場合は、言葉の意味の理解や、口頭での指示を聞き取ることに難しさを感じることがあります。 - 視空間指標(VSI:Visual Spatial Index)
目で見た情報(図形やパターン)を正確に認識し、空間的な関係性を理解・操作する能力を測る指標です。
パズルを組み立てたり、図形を模写したり、地図を理解したりする能力などが含まれます。
この指標が高いお子さまは、図工や算数・数学の図形問題などで強みを発揮しやすい傾向があります。
低い場合は、視写や板書の書き写し、図形の理解などで困難を感じることがあります。 - 流動性推理指標(FRI:Fluid Reasoning Index)
新しい情報や未知の問題に対して、論理的な推論を用いて規則性を見つけ出し、問題を解決する能力を測る指標です。
これまでに経験したことのない課題でも、既にある知識や情報を組み合わせて解決策を見つけ出す力などが含まれます。
この指標は、新しいことを学ぶ際の柔軟性や問題解決能力と関連が深いです。 - ワーキングメモリ指標(WMI:Working Memory Index)
頭の中で一時的に情報を保持し、それを操作・処理する能力を測る指標です。
例えば、先生の話を聞きながら板書を書き写す、複数の指示を覚えて順番通りに行う、計算の途中の数を覚えておく、といった日常的な活動に不可欠な能力です。
この指標が低いと、忘れっぽい、不注意が多い、指示を聞き漏らす、計算ミスが多いといった困りごとにつながることがあります。
WISC検査における全体的なIQ(全検査IQ)
WISC検査では、前述の主要指標とは別に、全体的な知的能力の目安として「全検査IQ(FSIQ)」が算出されます。
全検査IQは、お子さまの全般的な認知能力の高さを示す数値であり、平均を100として算出されます。
得点の範囲は、一般的に85~115が平均的な範囲とされています。
ただし、全検査IQはあくまで全体的な目安であり、お子さまの認知特性のすべてを示すものではありません。
特に、主要指標間で得点の大きなバラつきがある場合は、全検査IQだけを見ても、お子さまの得意・苦手を正確に捉えることは難しいです。
例えば、言語理解は非常に高いのに、処理速度が極端に低いといった場合、全検査IQは平均的でも、特定の学習場面で大きな困難を感じることがあります。
そのため、WISC検査の結果を解釈する際には、全検査IQだけでなく、4つの主要指標の得点のバランスや、さらに詳細な下位検査の得点パターンを総合的に見ることが非常に重要になります。
専門家は、これらの情報からお子さまの認知プロファイルを読み解き、具体的な支援策を検討していきます。
WISC検査の対象年齢
WISC検査は、6歳0ヶ月から16歳11ヶ月のお子さまを対象とした知能検査です。
この年齢範囲内のお子さまであれば、検査を受けることができます。
就学前のお子さまや、高校生以上の方には、それぞれ別の知能検査(WPPSIやWAIS)が用いられます。
- WPPSI(Wechsler Preschool and Primary Scale of Intelligence): 2歳6ヶ月から7歳3ヶ月のお子さまが対象
- WAIS(Wechsler Adult Intelligence Scale): 16歳0ヶ月から90歳11ヶ月の方が対象
したがって、WISC検査は主に小学生から中学生のお子さまの知的な特性を評価するために使用される検査と言えます。
WISC検査の具体的な内容と下位検査
WISC検査は、専門家(公認心理師、臨床心理士など)と受検者であるお子さまが1対1で行います。
検査は、さまざまな課題を含む複数の「下位検査」から構成されており、所要時間は通常60分〜90分程度です(お子さまの集中力や進捗によって異なります)。
検査は、パズルを組み立てたり、言葉の意味を答えたり、計算問題を解いたり、記号を書き写したりと、多様な形式で行われます。
これら複数の下位検査の合計得点から、前述の4つの主要指標得点と全検査IQが算出されます。
WISC検査 言語理解の検査項目
言語理解指標を測定する下位検査の例としては、以下のようなものがあります。
- 類似: 2つの言葉(例:「りんご」と「バナナ」)がどのように似ているかを説明する。
- 単語: 言葉の意味を説明する。
- 知識: 一般的な知識に関する質問に答える(例:「日本の首都は?」)。
- 理解: 社会的な状況や慣習について質問に答えたり、常識的な判断を求められたりする(例:「なぜ信号で止まるの?」)。
これらの課題を通じて、言葉の知識量、言葉を使った推論能力、抽象的な概念を理解する力などが評価されます。
WISC検査 知覚推理の検査項目
知覚推理指標(WISC-Vでは視空間指標と流動性推理指標に分かれています)を測定する下位検査の例としては、以下のようなものがあります。
- 積み木模様: 見本と同じ模様になるように、赤と白の積み木を制限時間内に並べ替える。
- 図形推理: 未完成の図形を見て、どこにどんな図形が入ると完成するかを選ぶ。
- 行列推理: パターンに従って並んだ図形を見て、次にくる図形を推測する。
- 重さ: 天秤の絵を見て、どちらが重いかなどを推測する。
- 絵の概念: 複数の絵を見て、共通する概念を言葉で説明する。
これらの課題を通じて、視覚的な情報を処理する能力、空間認識能力、論理的な推論能力などが評価されます。
WISC検査 ワーキングメモリの検査項目
ワーキングメモリ指標を測定する下位検査の例としては、以下のようなものがあります。
- 数唱: 聞いた数字の羅列を、そのまま、または逆の順序で繰り返す。
- 語音整列: ランダムに提示された数字とひらがなを、まず数字を昇順に、次にひらがなを五十音順に並べて言う。
これらの課題を通じて、一時的に情報を記憶し、それを頭の中で操作・処理する能力(聴覚性ワーキングメモリ)が評価されます。
WISC検査 処理速度の検査項目
処理速度指標を測定する下位検査の例としては、以下のようなものがあります。
- 符号: 簡単な数字や図形に対応する記号を覚え、制限時間内に正確に書き写す。
- 記号探し: 見本と同じ記号が記号の羅列の中に含まれているかを探し、印をつける。
これらの課題を通じて、視覚的な情報を素早く正確に処理する能力、注意力、簡単な課題を効率的にこなす能力などが評価されます。
これらの多様な下位検査を行うことで、お子さまの認知機能のさまざまな側面にアプローチし、より詳細な認知特性を把握することが可能になります。
WISC検査 結果の見方と解釈
WISC検査の結果は、専門家によって分析され、通常「結果報告書」としてまとめられます。
この報告書には、全検査IQ、主要指標得点、下位検査得点、そしてそれらの解釈が含まれます。
結果を理解し、適切に活用するためには、専門家による丁寧な説明を聞くことが非常に重要です。
WISC検査 指標得点と下位検査得点の解釈方法
WISC検査の得点は、平均を100、標準偏差を15として算出されます。
主要指標得点と全検査IQは、この尺度で示されます。
下位検査得点は、平均を10、標準偏差を3として算出されます。
- 主要指標得点・全検査IQ:
- 130以上:非常に高い
- 120~129:高い
- 110~119:平均の上
- 90~109:平均
- 80~89:平均の下
- 70~79:低い
- 69以下:非常に低い
- 下位検査得点:
- 13以上:得意
- 8~12:平均的
- 7以下:苦手
これらの得点を見ることで、お子さまの各認知機能が、同じ年齢の子どもたちの集団と比較してどの程度の位置にあるかが分かります。
重要なのは、それぞれの得点の数値だけでなく、他の指標や下位検査の得点との比較です。
WISC検査 得点のバラつきからわかること
WISC検査の結果を解釈する上で特に重要視されるのが、指標得点間や下位検査得点間の「バラつき(差)」です。
得点のバラつきが大きい場合、全体的な知的能力は平均的であっても、認知機能に凹凸(得意な部分と苦手な部分の差)があることを示唆しています。
例えば、言語理解の得点が非常に高いのに、ワーキングメモリや処理速度の得点が低い場合、以下のようなことが考えられます。
- 言語理解が高い: 言葉の意味を理解したり、言葉で表現したりするのは得意。
- ワーキングメモリが低い: 聞いた指示を覚えたり、複数の情報を同時に扱ったりするのが苦手。
- 処理速度が低い: 見た情報を素早く処理したり、簡単な作業を正確に素早くこなしたりするのが苦手。
このようなお子さまは、「話はよく理解できるのに、板書を写すのが遅い」「複雑な指示を聞き間違える」「計算はできるのに、計算に時間がかかる」といった困りごとを抱えやすい可能性があります。
得点のバラつきを見ることで、お子さまの「なぜかうまくいかない」という困りごとの背景にある認知の特性を理解する手がかりが得られます。
WISC-IV 知能検査 結果の見方
WISC-IVは、WISC-Vの前のバージョンです。
WISC-IVでも4つの主要指標(言語理解、知覚推理、ワーキングメモリ、処理速度)が算出されますが、含まれる下位検査や一部の解釈の仕方がWISC-Vとは異なります。
WISC-IVの知覚推理指標は、WISC-Vの視空間指標と流動性推理指標を合わせたような能力を測っていました。
また、WISC-IV独自の指標として「絵の概念」「行列推理」などが含まれていました。
もし、過去にWISC-IVを受けたことがある場合、WISC-Vとは得点の意味合いや解釈の焦点が若干異なることを理解しておく必要があります。
結果報告書を見る際は、どのバージョンの検査を受けたのかを確認し、そのバージョンの基準に沿って解釈することが重要です。
WISC-V 知能検査 結果の見方
現行版であるWISC-Vは、WISC-IVから改訂され、より現代の認知心理学の知見が反映されています。
WISC-Vでは、前述の通り言語理解、視空間、流動性推理、ワーキングメモリ、処理速度の5つの主要指標を基本とします(算出される指標は状況により異なります)。
特に、WISC-Vでは「視空間」と「流動性推理」が独立した指標として評価されるようになったため、目で見た情報を空間的に処理する能力と、論理的に推論する能力をより細かく区別して評価できるようになりました。
WISC-Vの結果を見る際は、各主要指標の得点に加え、これらの指標間で有意な差があるかどうか、さらに各指標を構成する下位検査の得点のパターンを詳しく見ることが重要です。
これにより、お子さまの認知プロファイルをより精緻に捉え、強みと弱みを具体的に把握することができます。
WISC検査で処理速度だけ低い場合について
WISC検査結果で、処理速度指標(PSI)だけが他の指標に比べて著しく低いというパターンが見られることがあります。
他の指標(言語理解、視空間、流動性推理、ワーキングメモリ)は平均的または平均より高いにも関わらず、処理速度だけが低い場合、以下のような特性が考えられます。
- 情報を理解したり考えたりする力はあるが、アウトプットに時間がかかる:
見たり聞いたりした内容を理解し、頭の中で考えること自体は問題なくても、それを言葉で説明したり、書き写したり、作業として実行したりするのに時間がかかる傾向があります。 - 簡単な作業でも時間がかかる:
例えば、ドリルを解く、漢字を練習する、ノートを整理するといった、比較的単純で反復的な作業に時間がかかるため、宿題が終わらなかったり、授業についていくのが難しくなったりすることがあります。 - 疲労しやすい:
処理に時間がかかる分、認知的なエネルギーをより多く使うため、疲れやすい、集中力が持続しにくいといった側面があることもあります。 - 時間制限のある課題が苦手:
テストなどで時間制限があると、本来持っている能力を発揮しきれないことがあります。
処理速度の低さは、知的な能力が低いことを意味するものではありません。
認知機能の一つの側面に特徴があるということです。
このような場合、学習面では「問題の数を減らす」「時間制限を緩和する」「書く量を減らす」「タブレットなどのICT機器を活用する」といった配慮や工夫が有効な場合があります。
結果を基に、お子さまの特性に合ったサポート方法を検討することが大切です。
WISC検査を受ける場所と費用
WISC検査は、どこでも受けられるわけではありません。
専門的な知識と技術を持つ心理専門職がいる、特定の機関で実施されます。
また、費用についても、機関や目的によって異なります。
WISC検査を受けられる専門機関(病院、教育支援センターなど)
WISC検査は、主に以下の機関で受けることができます。
- 医療機関(精神科、心療内科、小児科、脳神経外科など):
発達に関する相談を受け付けている病院で実施されることが多いです。
医師の診察を経て、検査が必要と判断された場合に検査が受けられます。
発達障害の診断プロセスの一環として行われることもあります。 - 発達障害者支援センター、児童相談所:
公的な機関で、発達に関する相談や支援を行っています。
相談の一環として検査が実施されることがあります。
利用料が無料の場合や、比較的安価な場合がありますが、混雑していることも多いです。 - 教育センター、教育支援センター:
各自治体が設置している機関で、子どもの教育に関する相談を受け付けています。
不登校や学習のつまづきに関する相談の中で、検査が提案されることがあります。
こちらも公的な機関のため、費用が無料または安価なことが多いです。 - 民間の心理相談室、クリニック:
民間のカウンセリングルームや心理クリニックでもWISC検査を実施している場合があります。
予約が取りやすい、待ち時間が短いといったメリットがある一方、費用は比較的高額になる傾向があります。
検査を希望する場合は、まずはかかりつけ医や学校の先生、地域の相談窓口などに相談してみるのが良いでしょう。
WISC検査の費用はいくら?保険適用や無料の場合
WISC検査の費用は、検査を受ける機関や、検査を受ける目的によって大きく異なります。
一般的に、費用の目安は以下のようになります。
検査機関 | 目的 | 費用目安 | 保険適用 |
---|---|---|---|
医療機関 | 診断のため | 5,000円~15,000円程度 | 条件による |
発達障害者支援センター | 相談・支援の一環 | 無料~数千円程度 | 基本なし |
教育支援センター | 教育相談の一環 | 無料~数千円程度 | 基本なし |
民間の心理相談室 | カウンセリング・特性理解のため | 20,000円~50,000円程度 | 基本なし |
保険適用について:
医療機関で「医師が診断のために必要と判断し、検査を実施した場合」には、医療保険が適用されることがあります。
この場合、3割負担などで検査を受けることができます。
ただし、保険適用となるかは医師の判断によります。
単に「子どもの特性を知りたい」といった目的で、診断を伴わない場合は保険適用とならないことが一般的です。
無料の場合:
児童相談所や教育支援センターなどの公的な機関では、相談の一環として無料で検査を受けられる場合があります。
ただし、利用者が多く、予約が取りにくかったり、結果が出るまでに時間がかかったりすることがあります。
検査を検討する際は、事前に希望する機関に問い合わせて、費用、保険適用の有無、予約の状況などを確認することをおすすめします。
WISC検査予約から結果報告までの流れ
WISC検査を受ける一般的な流れは以下のようになります。
- 相談・問い合わせ:
お子さまのことで気になる点があれば、まずはかかりつけ医、学校の先生、地域の相談窓口(発達障害者支援センターや教育支援センターなど)、または直接検査を実施している医療機関や民間の相談室に相談・問い合わせをします。 - 予約・申し込み:
検査の必要性が検討された場合、検査の予約を行います。
予約の際に、検査の目的、費用、持ち物、事前の準備などについて説明があります。 - 事前の問診票記入など:
検査当日までに、お子さまの生育歴、発達の様子、日頃の様子、困っていることなどを記入する問診票(インテークシート)の提出を求められることがあります。
これは、検査者がお子さまを理解し、検査結果を解釈する上で重要な情報となります。 - 検査当日:
お子さまが検査を受けます。
検査時間は通常60分〜90分程度ですが、お子さまの様子を見ながら休憩を挟むなどして進められます。
保護者は基本的に検査には同席せず、待合室などで待ちます。 - 結果の分析・報告書の作成:
検査後、専門家が検査結果を分析し、報告書を作成します。
この分析には時間がかかるため、検査当日に結果が分かるわけではありません。 - 結果報告(フィードバック):
後日、保護者(必要に応じてお子さま本人も)に対して、検査結果の説明が行われます。
報告書を見ながら、全検査IQや各指標得点の意味、得点のバラつきから考えられるお子さまの特性、そしてそれを踏まえた具体的な支援方法や関わり方について、専門家から詳細な説明を受けます。
この際に、疑問点を積極的に質問することが大切です。
機関によっては、結果報告までに数週間から数ヶ月かかる場合もあります。
予約時や検査当日に、結果報告の時期についても確認しておくと良いでしょう。
WISC検査のメリット
WISC検査を受けることには、お子さまにとって、そして保護者や周囲の大人にとって、多くのメリットがあります。
- お子さまの認知特性を客観的に把握できる:
言葉の理解力、目で見た情報の処理能力、記憶力、処理の速さなど、お子さまの知的な側面における強みと弱みを数値として客観的に捉えることができます。
「なんでうちの子はこれが苦手なんだろう?」という疑問の答えが見つかるかもしれません。 - 困りごとの背景にある原因を理解する手がかりになる:
例えば、「勉強についていけない」という困りごとがあったとき、それが「授業内容を理解できない(言語理解の苦手)」のか、「板書を写すのが遅い(処理速度の苦手)」のか、「先生の話を最後まで聞けない(ワーキングメモリの苦手)」のかなど、具体的な原因を探るヒントが得られます。 - お子さまの強みを活かしたサポート方法が見つかる:
得意な認知機能が明らかになれば、そこを起点とした効果的な学習方法や関わり方を検討できます。
例えば、視覚的な理解が得意なら、絵や図を使った説明を増やす、といった具体的な支援策につながります。 - 苦手な部分への具体的な支援策が見つかる:
苦手な認知機能に対して、どのような工夫やトレーニングが有効かを検討できます。
例えば、ワーキングメモリが苦手なら、一度に伝える指示の数を減らす、メモを取る練習をするといった対応が考えられます。 - 保護者や周囲の理解が深まる:
検査結果を通じて、お子さまの特性に対する理解が深まります。
「努力が足りない」と思っていたことが、認知機能の特性によるものだと分かれば、お子さまを責めるのではなく、適切なサポートを考える方向へ意識が変わります。 - 学校や他の支援機関との連携がスムーズになる:
WISC検査の結果報告書は、お子さまの特性を具体的に伝えるための共通言語となります。
学校の先生や他の専門家と情報共有する際に役立ち、一貫性のあるサポート体制を築きやすくなります。 - お子さま自身の自己理解につながる(年齢による):
年齢や理解度に応じて、お子さま自身に検査結果を分かりやすく伝えることで、「自分はこういうところが得意なんだ」「こういうところがちょっと難しいんだ」と自己理解を深めるきっかけになることがあります。
これは、自己肯定感を育み、自分の特性と向き合っていく上で大切なステップです。
WISC検査は、診断そのものではありませんが、お子さまの「取扱説明書」を手に入れるようなものです。
その結果をどう活かすかが最も重要であり、適切な理解と活用によって、お子さまの成長をより良くサポートできるようになります。
WISC検査のデメリット
WISC検査は有益な情報をもたらしますが、検査を受ける前に知っておくべきデメリットや注意点も存在します。
WISC検査を受けるデメリットとは?
- 費用がかかる:
公的な機関でなければ、費用が高額になることがあります。
保険適用になる場合も限定的です。 - 予約が取りにくい場合がある:
特に医療機関や公的な機関では、検査を受けたいという希望者が多く、予約が数ヶ月待ちになることも珍しくありません。 - 検査結果に一喜一憂してしまう可能性がある:
IQという数値が出ることに対して、保護者が過度に心配したり、逆に期待しすぎたりすることがあります。
数値はあくまで一つの側面であり、お子さまのすべてを表すものではないことを理解しておく必要があります。 - お子さまに負担がかかる場合がある:
検査時間は60分〜90分と長く、お子さまにとっては慣れない場所で、見知らぬ大人と向き合い、集中力を要する課題に取り組むため、疲れてしまったり、緊張したりすることがあります。
お子さまの体調や気分を考慮して実施する必要があります。 - 検査結果が現状のすべてではない:
検査はあくまで特定の時期の、特定の状況下での結果です。
お子さまは成長していく過程にあり、検査結果は変化する可能性があります。
また、検査当日の体調や気分によっても結果が左右されることがあります。 - 検査結果だけで診断はできない:
WISC検査は知能検査であり、発達障害などの診断を確定するものではありません。
診断には、医師による診察、行動観察、保護者からの情報など、様々な要素を総合的に判断する必要があります。
検査結果は診断のための一つの参考資料として位置づけられます。 - 結果の解釈には専門知識が必要:
検査結果報告書は専門用語が多く含まれており、保護者だけでは正確な解釈が難しい場合があります。
専門家から丁寧に説明を聞くことが不可欠です。
これらのデメリットを理解した上で、WISC検査を受ける目的を明確にし、信頼できる専門家がいる機関を選ぶことが大切です。
検査結果をネガティブに捉えすぎず、お子さまへの理解を深め、前向きなサポートにつなげる視点を持つことが何よりも重要です。
WISC検査結果と関連する発達特性(ADHD、ギフテッドなど)
WISC検査の結果は、特定の発達特性を持つお子さまに特徴的なパターンを示すことがあります。
ただし、WISC検査の結果だけで発達障害の診断が確定するわけではありません。
あくまで、診断を検討する上での有力な情報の一つとして活用されます。
WISC検査結果から見るADHDの傾向
ADHD(注意欠如・多動症)の特性を持つお子さまのWISC検査結果には、いくつかの傾向が見られることがあります。
ただし、すべてのADHDのお子さまに当てはまるわけではなく、個人差が大きいことに注意が必要です。
ADHDのお子さまに見られることのある傾向としては、以下のようなパターンが挙げられます。
- ワーキングメモリ指標(WMI)や処理速度指標(PSI)が他の指標に比べて低い:
不注意や衝動性といった特性が、情報を一時的に保持・操作する能力(ワーキングメモリ)や、簡単な作業を素早く正確に行う能力(処理速度)の低さとして現れることがあります。 - 指標間での得点のバラつきが大きい:
全体的なIQは平均的でも、特定の指標(特にWMIやPSI)が低い一方で、言語理解や知覚推理などが平均的なために、得意・不得意の差が大きく出る場合があります。
この凹凸が、日常生活や学習での困りごとにつながることがあります。 - 下位検査でのバラつき:
特にWMIやPSIを構成する下位検査(数唱、語音整列、符号、記号探しなど)で、ムラがあったり、集中力が持続しにくいために十分な得点が得られなかったりすることがあります。
もちろん、これらのパターンが見られたからといって必ずADHDであるというわけではありません。
また、ADHDのお子さまの中には、WISC検査結果で目立った凹凸が見られない場合もあります。
WISC検査結果は、あくまで専門家が他の情報(保護者からの生育歴、行動観察、学校での様子など)と合わせて総合的に判断するための材料となります。
WISC-IV 知能検査とギフテッド
「ギフテッド」とは、平均よりも著しく高い知的能力や特定の才能を持つお子さまを指す言葉です。
日本ではまだ十分に認知されていない概念ですが、海外では早期からの才能教育や支援が重要視されています。
WISC検査は、ギフテッドを判断する上でも重要な情報源となります。
特に、全検査IQが非常に高い(例えば130以上など)場合、ギフテッドの可能性が検討されます。
しかし、ギフテッドのお子さまの中には、全検査IQはそれほど高くないものの、特定の主要指標(例えば言語理解や知覚推理)や一部の下位検査で非常に高い得点を示す「特定分野での突出した才能」を持つ場合もあります。
WISC-IVの頃から、指標得点のバラつきが大きいお子さまの中に、平均的な知能検査結果では捉えきれない認知の特性を持つお子さまがいることが注目されていました。
WISC-Vでは、視空間と流動性推理が分離したことで、より細やかな認知プロファイルの把握が可能になり、特定の思考パターンを持つギフテッドのお子さまの理解にも繋がると考えられています。
ギフテッドのお子さまも、認知の凹凸や高い知能ゆえの適応の困難(「二重の例外性」などと呼ばれます)を抱えることがあるため、WISC検査の結果を詳細に分析し、その特性を理解した上で適切な教育的配慮や支援を検討することが重要です。
WISC検査結果からわかるその他の発達特性との関連
WISC検査結果は、ADHDやギフテッドだけでなく、他の様々な発達特性との関連を示唆することもあります。
- 限局性学習症(LD):
特定の学習領域(読み、書き、計算など)に困難がある場合、WISC検査で特定の指標や下位検査の得点が低いパターンを示すことがあります。
例えば、読み書きの困難がある場合、処理速度やワーキングメモリ、言語理解の一部が低いといった関連が見られることがあります。 - 自閉スペクトラム症(ASD):
ASDのお子さまのWISC検査結果は非常に多様ですが、全体的なIQに比べて言語理解と他の指標(特に視空間や流動性推理)との間に大きな差が見られたり、特定の知覚的な課題や論理的な推理課題で非常に高い能力を示す一方で、ワーキングメモリや処理速度に課題が見られたりするなど、特徴的なプロファイルを示すことがあります。
社会的コミュニケーションの困難が、言語理解の一部に影響を与える可能性も指摘されています。
繰り返しになりますが、WISC検査の結果だけで診断は下されません。
あくまで、お子さまの認知特性を理解し、専門家が他の情報と合わせて総合的に判断するためのツールです。
検査結果を基に、お子さまの特性に合った具体的な支援や関わり方を専門家と一緒に考えていくことが最も重要です。
WISC検査に関するよくある質問(FAQ)
WISC検査について、よく寄せられる質問とその回答をまとめました。
WISC検査は大人も受けられますか?
WISC検査は、6歳0ヶ月から16歳11ヶ月のお子さまを対象とした検査です。
大人が知能検査を受ける場合は、WAIS(Wechsler Adult Intelligence Scale:ウェクスラー成人用知能検査)という別の検査が用いられます。
WAISは16歳0ヶ月から90歳11ヶ月の方が対象です。
したがって、大人の方はWAIS検査を受けることになります。
WAIS検査もWISCと同様に、全般的な知的能力や認知機能の各側面を評価するための検査です。
WISC検査は発達障害の診断に必須ですか?
WISC検査は、発達障害の診断に必ずしも必須というわけではありませんが、診断を検討する上で非常に有用な情報を提供するため、多くのケースで実施されています。
発達障害の診断は、医師が診察、保護者からの情報(生育歴、日頃の様子)、行動観察、他の検査結果などを総合的に判断して行います。
WISC検査で得られる認知特性に関する情報は、お子さまの困りごとの背景にあるメカニズムを理解する上で重要なヒントとなります。
例えば、学習の困難が知的な遅れによるものなのか、それとも特定の認知機能(ワーキングメモリや処理速度など)の特性によるものなのかを区別するために役立ちます。
したがって、WISC検査は「診断を確定させる唯一の検査」ではなく、「診断プロセスにおいてお子さまの認知的な側面を詳しく知るための重要なツールの一つ」として位置づけられます。
WISC検査結果が悪かった場合の対応は?
WISC検査で得られるのは、あくまでお子さまの認知特性の「今」の姿です。
「悪かった」という表現よりも、「得意な部分と苦手な部分が明らかになった」と捉えるのが適切です。
得点が平均より低かったとしても、それはお子さまの全体的な価値や可能性を決めるものではありません。
もし検査結果から、特定の認知機能に課題が見られた場合、以下のような対応が考えられます。
- 結果を正しく理解する:
専門家から丁寧な説明を聞き、得点が低いことが具体的にどのようなことを意味するのか、お子さまの日常生活や学習にどう影響しているのかを理解します。 - 苦手な部分への具体的なサポートを検討する:
専門家(心理士、医師、言語聴覚士、作業療法士など)や学校の先生と連携し、検査結果で明らかになった苦手な部分を補うための具体的な支援方法や工夫を検討します。
例えば、視覚的な情報処理が苦手なら、口頭での説明を増やしたり、指示を細かく区切ったりするなどの対応が考えられます。 - 強みを活かす:
得意な部分を積極的に活用できるような環境を整えたり、得意な分野を伸ばす機会を提供したりします。 - 適切な環境調整を行う:
ご家庭や学校など、お子さまが多くの時間を過ごす環境において、お子さまの特性に合わせた物理的・人的な調整を行います。 - 必要に応じて他の専門機関に相談する:
検査結果を基に、医療機関での詳しい診察や診断、療育、学習支援など、他の専門的なサポートが必要となる場合もあります。
検査結果は、お子さまへの理解を深め、より良い未来へとつなげるためのスタート地点です。
「悪かった」と落ち込むのではなく、お子さまの特性を知る貴重な機会と捉え、前向きにサポートを検討することが大切です。
WISC検査の再検査は可能ですか?
WISC検査の再検査は可能です。
ただし、以下の点に注意が必要です。
- 適切な間隔をあける:
検査の内容を覚えてしまっている可能性があるため、一般的に1年から2年程度の期間をあけて実施することが推奨されます。
特にWISC検査は下位検査の内容が具体的なため、短期間での再検査は正確な結果が得られにくい可能性があります。 - 再検査の目的を明確にする:
再検査を行う目的は何かを明確にすることが重要です。
例えば、- お子さまの成長に伴う認知特性の変化を知りたい場合。
- 前回の検査時の体調や環境が結果に影響した可能性が考えられる場合。
- 支援やトレーニングを行った結果、認知機能に変化が見られたかを確認したい場合。
といった目的が考えられます。
- 専門家と相談する:
再検査が必要かどうか、適切なタイミングはいつかについて、必ず専門家(前回検査を実施した専門家や主治医など)と相談して決定してください。
お子さまの成長や環境の変化に伴い、認知特性の見え方が変わることもあります。
再検査が有効な場合もありますが、不必要な検査は避けるためにも、専門家の意見を聞くことが大切です。
WISC検査 まとめ
WISC検査は、お子さまの知的な側面における得意・苦手を多角的に理解するための、非常に有効なツールです。
全検査IQだけでなく、言語理解、視空間、流動性推理、ワーキングメモリ、処理速度といった主要な認知機能の指標、さらには個々の下位検査の得点パターンを分析することで、お子さま一人ひとりの独自の認知プロファイルを把握することができます。
この検査結果は、お子さまがなぜ特定の学習や活動で困難を感じるのか、あるいはどのような場面で力を発揮できるのかといった「困りごとの背景」や「強み」を理解する上で重要な手がかりとなります。
そして、得られた情報を基に、ご家庭や学校でのお子さまへの関わり方、学習方法の工夫、必要な支援(合理的配慮など)を具体的に検討していくことが可能になります。
WISC検査は、医療機関、発達障害者支援センター、教育支援センター、民間の心理相談室などで受けることができますが、費用や予約の状況は機関によって異なります。
検査を受ける際は、まず専門家(医師、心理士、学校の先生など)に相談し、検査の目的や受けられる場所、費用についてよく確認することが大切です。
検査結果は、あくまで現時点での認知特性を示すものであり、お子さまのすべてを決めるものではありません。
結果に一喜一憂するのではなく、お子さまへの理解を深める機会として捉え、強みを活かし、苦手な部分をサポートするための前向きなステップとして活用していくことが最も重要です。
もし検査結果の解釈や、今後の対応について不安がある場合は、遠慮なく専門家に相談し、お子さまに合った最善の方法を見つけていきましょう。
【免責事項】
本記事は、WISC検査に関する一般的な情報提供を目的としており、医学的な診断や助言を代替するものではありません。
WISC検査の実施、結果の解釈、およびそれに基づく支援については、必ず専門の医師や心理専門職にご相談ください。
検査結果の捉え方や必要な支援は個人によって大きく異なります。
本記事の情報に基づいて読者が行った行為によって生じた、いかなる損害に関しても、当方は一切の責任を負いかねます。