おりものの匂いは、女性の体調を知る大切なサインの一つです。
普段とは違う匂いに気づくと、「もしかして何か病気?」「他の人に気づかれていないかな…」と不安になることもあるでしょう。
しかし、おりものの匂いは体調や生理周期によって変化するものであり、必ずしも異常を示すわけではありません。
この記事では、正常なおりものの匂いの特徴から、注意が必要な異常な匂い、その原因となる疾患、そして自分でできる対策や医療機関を受診する目安について詳しく解説します。
おりものの匂いにまつわる不安を解消し、自分の体と向き合うための一助となれば幸いです。
正常なおりものの匂いとは
女性の体から分泌されるおりものは、子宮や膣からの分泌液、古くなった細胞などが混ざり合ったものです。
個人差は大きいですが、健康な状態の正常なおおりものには、特有の匂いがあります。
正常なおりものの色、状態、量
正常なおおりものの色、状態、量は、生理周期や体調によって変化します。
- 色: 透明、乳白色、淡い黄色など。下着につくと酸化してクリーム色や薄茶色に見えることもあります。
- 状態: サラサラとした水っぽいものから、とろみのあるもの、ゼリー状のものまで様々です。排卵期には卵白のように伸びる性質を持つことが特徴です。
- 量: 排卵期や生理前など、ホルモンバランスが変化する時期に増える傾向があります。妊娠初期にも増えることがあります。
これらの変化は生理的なものであり、心配のない場合がほとんどです。
大切なのは、普段の自分のおりものの状態を知っておくことです。
なぜ正常なおりものは「甘酸っぱい」匂いがするのか?
健康な女性の膣内は、デーデルライン桿菌という乳酸菌の一種によって酸性に保たれています。
このデーデルライン桿菌がグリコーゲンという物質を分解する際に乳酸を作り出すため、膣内はpH4.0〜4.5程度の弱酸性になります。
この乳酸こそが、正常なおおりものの「甘酸っぱい」匂いの正体です。
ヨーグルトやチーズのような匂いに例えられることもあります。
膣内を酸性に保つことは、外部から侵入する雑菌や病原体の増殖を防ぎ、膣を健康な状態に保つ上で非常に重要です。
したがって、正常なおおりものが「甘酸っぱい」匂いがするのは、膣の自浄作用がしっかりと働いている健康なサインと言えます。
この匂いがあること自体は全く問題ありません。
おりものの匂いがきつくなる主な原因
正常なおりものは甘酸っぱい匂いがしますが、それとは異なる不快な匂いが強くなることがあります。
これは、膣内環境が乱れ、雑菌が増殖したり、特定の菌が優位になったりすることが主な原因です。
雑菌の増殖と膣内環境の乱れ
膣内には様々な細菌が存在しており、これらがバランスを保っています。
しかし、何らかの原因でこのバランスが崩れると、通常は少量しかいない種類の雑菌が増殖し、不快な匂いを発生させることがあります。
健康な膣内はデーデルライン桿菌によって酸性に保たれていますが、アルカリ性に傾くと悪玉菌が増殖しやすくなります。
この膣内のpHバランスの乱れが、匂いがきつくなる大きな要因となります。
免疫力低下(風邪、ストレス)
風邪を引いたり、過度なストレスを抱えたりすると、体全体の免疫力が低下します。
これに伴い、膣内の免疫機能も低下し、デーデルライン桿菌などの善玉菌が減少し、悪玉菌が増殖しやすい環境になることがあります。
体調が優れない時に、おりものの匂いや量が変わったと感じる方もいるでしょう。
ムレやすい環境(下着、ナプキン)
デリケートゾーンが長時間ムレた状態にあると、温度や湿度が高くなり、雑菌が繁殖しやすい環境になります。
- 通気性の悪い下着(ナイロンや合成繊維など)の着用
- 締め付けの強い下着(ガードルなど)の着用
- 生理中のナプキンを長時間交換しない
- おりものシートを頻繁に、または長時間使用し続ける
- タイトなジーンズやストッキングの常用
などが、ムレの原因となります。
特に、生理中は経血によって膣内がアルカリ性に傾きやすく、雑菌が増殖しやすい時期でもあります。
ムレはかゆみやかぶれの原因にもなるため、注意が必要です。
生理周期による匂いの変化(生理前など)
生理周期におけるホルモンバランスの変化も、おりものの匂いに影響を与えます。
- 排卵期: おりものの量が増え、匂いを感じやすくなることがあります。
- 生理前〜生理中: 経血や剥がれ落ちた子宮内膜などが混ざり、普段の甘酸っぱい匂いとは異なる、鉄っぽい匂いや血生臭い匂いがすることがあります。
これは血液特有の匂いであり、生理的な変化です。
ただし、生理が終わっても強い悪臭が続く場合は、異常が疑われます。
これらの生理周期に伴う匂いの変化は、多くの女性が経験する自然な変化であり、病気ではありません。
更年期による匂いの変化
更年期に入り、女性ホルモン(エストロゲン)の分泌が減少すると、膣の粘膜が薄くなり、潤いが失われます(萎縮性腟炎)。
また、膣内のデーデルライン桿菌が減少し、自浄作用が低下するため、雑菌が増殖しやすくなります。
この変化により、おりものの量が減少し、乾燥を感じやすくなるだけでなく、生臭いような不快な匂いが発生することがあります。
乾燥によるかゆみや性交痛を伴うこともあります。
更年期以降の女性のおりものや匂いの変化は、年齢に伴う生理的な変化の一部ですが、不快な症状が続く場合は治療によって改善が期待できます。
要注意!異常なおりものの匂いの種類と疑われる疾患
normal なおりものとは明らかに違う、不快な匂いがする場合は、何らかの疾患が原因である可能性が高いです。
匂いの種類によって、疑われる疾患も異なります。
ここでは、特に注意が必要な異常な匂いとその原因について解説します。
生臭い・魚のような匂い(イカ臭い)
おりものから生臭い匂いや、魚が腐ったような(イカ臭いと表現されることもあります)匂いがする場合は、細菌性腟症が最も疑われます。
この匂いは、特に性行為の後や、石鹸で洗った後に強くなる傾向があります。
細菌性腟症
細菌性腟症は、膣内のデーデルライン桿菌が減少し、ガードネレラ菌などの嫌気性菌が異常に増殖することによって起こる膣炎です。
性感染症ではありませんが、性交渉によって悪化することがあります。
- 原因: 膣内の細菌バランスが崩れること。
複数の原因が組み合わさって発症することが多く、原因菌が特定されない場合もあります。 - 匂いの特徴: 生臭い、魚のような、イカ臭い匂い。
- おりものの状態: 灰色や白っぽい、サラサラとした水っぽいおりものが増えることが多いですが、おりものの変化に気づかない場合もあります。
- その他の症状: かゆみや痛みはあまり伴わないことが多いですが、軽度の不快感がある場合もあります。
細菌性腟症は自然に治ることもありますが、治療しないと骨盤内炎症性疾患などの他の感染症を引き起こすリスクが高まるため、医療機関での適切な治療(主に抗菌薬の内服や腟錠)が必要です。
強い酸っぱい匂い
normal なおりものも酸っぱい匂いですが、「強い」酸っぱい匂いや、独特の匂いがする場合は、別の原因が考えられます。
特に、カンジダ腟炎の場合に、強い酸っぱい匂いや、チーズのような匂いがすることがあります。
カンジダ腟炎
カンジダ腟炎は、カンジダという真菌(カビ)が膣内で異常に増殖することによって起こる膣炎です。
カンジダは健康な女性の膣内や皮膚、消化管などにも存在する常在菌ですが、体調不良や免疫力低下、抗生物質の服用、妊娠などをきっかけに増殖して症状を引き起こします。
- 原因: カンジダ菌の異常増殖。
免疫力低下、抗生物質の使用、妊娠、糖尿病などが誘因となることがあります。 - 匂いの特徴: 強い酸っぱい匂い、ヨーグルトやカッテージチーズのような匂い。
パンを焼くような匂いと表現されることもあります。 - おりものの状態: 白いカッテージチーズ状や酒粕状のポロポロとした塊状のおりものが特徴的です。
- その他の症状: 強いかゆみやヒリヒリ感、外陰部の赤みや腫れ、排尿時の痛み、性交痛などを伴うことが多いです。
カンジダ腟炎は比較的よく見られる疾患で、抗真菌薬の腟錠や塗り薬、内服薬で治療します。
自己判断での市販薬使用は、診断を誤る可能性や治療が不十分になる可能性があるため、医療機関で診断を受けることが推奨されます。
その他、気になる匂いと可能性のある疾患
上記以外にも、おりものの匂いが異常な場合は、様々な疾患が考えられます。
匂いの特徴から疑われる代表的な疾患をいくつかご紹介します。
匂いの特徴 | おりものの状態 | 可能性のある疾患 | 特徴・補足 |
---|---|---|---|
強い悪臭、泡状 | 黄緑色、泡状のおりもの | トリコモナス腟炎 | 性感染症。強いかゆみや痛みを伴うことが多い。パートナーも治療が必要。 |
生臭い、水っぽい、膿っぽい | 黄色〜緑色、水っぽい、膿状 | クラミジア感染症 | 性感染症。無症状の場合が多いが、進行すると不妊の原因になることも。匂いが強くなる場合がある。パートナーも治療が必要。 |
悪臭、茶褐色〜血液混じり | 茶褐色、膿状、出血が混じる | 子宮頸がん、子宮体がん | がん細胞が壊死することによる匂い。不正出血を伴うことが多い。早期発見・治療が重要。 |
生臭い、水っぽい | 量が減る、乾燥している感じも伴う | 萎縮性腟炎 | 更年期以降に多い。膣の乾燥、かゆみ、性交痛などを伴う。ホルモン補充療法などで改善が期待できる。 |
鼻を突くような匂い | 黄色〜緑色、膿状 | 淋菌感染症 | 性感染症。悪臭を伴う膿状のおりものが特徴。強い痛みや排尿痛を伴うことも。パートナーも治療が必要。 |
これらの疾患は、自己判断では診断できません。
特に性感染症は、自分だけでなくパートナーの治療も必要となるため、思い当たる症状がある場合は必ず医療機関を受診しましょう。
おりものの匂いを改善するための対策・セルフケア
不快なおおりものの匂いを軽減したり、予防したりするために、日常生活でできるセルフケアがあります。
ただし、これらの対策はあくまで補助的なものであり、疾患が原因の場合は必ず医療機関での治療が必要です。
デリケートゾーンを清潔に保つ正しい方法
清潔に保つことは大切ですが、洗いすぎは逆効果です。
膣内には自浄作用を持つ善玉菌がいるため、石鹸で洗いすぎるとこれらの菌まで洗い流してしまい、膣内環境をかえって乱してしまうことがあります。
- 洗うのは外側だけ: デリケートゾーンは、外陰部(ひだ状になっている部分や肛門側)を中心に優しく洗いましょう。
膣の内部を石鹸で洗ったり、洗浄力の強いソープを使ったりするのは避けましょう。 - 専用ソープの使用: デリケートゾーンの皮膚は敏感で、pHも他の部位とは異なります。
刺激の少ない弱酸性の専用ソープを使うのがおすすめです。
洗浄後はよくすすぎ、清潔なタオルで優しく水分を拭き取ります。 - ビデの使いすぎに注意: ビデで膣内を洗浄しすぎると、膣内の良い菌まで洗い流してしまい、かえって細菌性腟症などを招くリスクがあります。
必要な時以外は控えめにしましょう。
通気性の良い下着を選ぶ
下着はデリケートゾーンが長時間触れているものです。
通気性の悪い素材や締め付けの強いデザインはムレの原因となります。
- 素材: 綿(コットン)素材の下着は吸湿性・通気性に優れているためおすすめです。
化学繊維やレースが多いものは避けましょう。 - デザイン: 締め付けの強いガードルやボディスーツなどは、血行を悪くし、ムレを招くことがあります。
ゆったりとしたデザインのものを選びましょう。 - 就寝時: 可能であれば、就寝時は下着をつけないか、通気性の良いゆったりとしたものにすることで、デリケートゾーンを休ませるのも良い方法です。
おりものシートをこまめに交換する
おりものシートは、下着の汚れを防いだり、不快感を軽減したりするのに役立ちますが、使用方法によってはムレの原因となります。
- こまめな交換: おりものシートは、湿気を帯びやすく、雑菌が繁殖しやすい場所となり得ます。
少なくとも数時間に一度は新しいものに交換しましょう。 - 素材選び: 通気性の良い素材や、肌に優しい天然素材のものを選ぶと良いでしょう。
- 必要時以外は使わない: おりものの量が少ない時や、自宅で過ごす時間など、ムレが気にならない状況では、おりものシートの使用を控えることも検討しましょう。
生活習慣の見直し(ストレス、睡眠、食事)
体全体の健康状態は、膣内環境にも影響を与えます。
免疫力を高め、ホルモンバランスを整えることが、おりものの匂いの改善につながります。
- バランスの取れた食事: 偏りのない食事を心がけ、特にビタミンやミネラルをしっかり摂取しましょう。
腸内環境を整えるために、ヨーグルトや発酵食品など、善玉菌を増やす食品を積極的に摂ることも有効な場合があります。 - 十分な睡眠: 睡眠不足は免疫力を低下させます。
規則正しい生活を送り、十分な睡眠時間を確保しましょう。 - 適度な運動: 適度な運動は血行を促進し、ストレス解消にもつながります。
- ストレス解消: 過度なストレスはホルモンバランスや免疫力を乱します。
自分に合った方法でストレスを解消する時間を作りましょう。 - 体を冷やさない: 体が冷えると血行が悪くなり、免疫力が低下することがあります。
特に下半身を冷やさないように注意しましょう。
ズボンまで臭うほど匂いがきつい場合の注意点
「下着だけでなく、ズボンやスカートまで匂う気がする」「他の人にも気づかれているのではないか」と感じるほど匂いが強い場合、単なる生理的な変化ではなく、何らかの病気が原因である可能性が高いです。
このような場合は、自己判断で市販薬を使用したり、様子を見たりせず、早めに医療機関を受診することが非常に重要です。
医療機関を受診すべきサイン
おりものの匂いがきつい場合、以下の症状が一つでも当てはまる場合は、速やかに医療機関を受診しましょう。
- 匂いが非常に強い、不快な悪臭がする(生臭い、魚のような匂い、腐敗臭など)
- おりものの色や状態が普段と明らかに違う(灰色、黄色、緑色、泡状、カッテージチーズのような塊状など)
- おりものの量が急激に増えた、または減った
- デリケートゾーンにかゆみや痛み、ヒリヒリ感がある
- 外陰部が赤く腫れている
- 排尿時に痛みがある
- 性交時に痛みがある
- 生理とは関係ない不正出血がある
- 腹痛や発熱がある
これらの症状は、細菌性腟症、カンジダ腟炎、トリコモナス腟炎、クラミジア感染症、淋菌感染症、子宮頸がん、子宮体がんなど、様々な疾患のサインである可能性があります。
早期に診断を受け、適切な治療を開始することが、症状の改善や病気の進行を防ぐために非常に重要です。
何科に行けば良いか(婦人科)
おりものの匂いやデリケートゾーンの症状で悩んでいる場合は、婦人科を受診しましょう。
「婦人科に行くのは抵抗がある」「恥ずかしい」と感じる方もいるかもしれませんが、婦人科の医師はおりものやデリケートゾーンの悩みに日々向き合っています。
気兼ねなく相談できる雰囲気のクリニックを選んだり、女性医師がいるクリニックを選んだりするのも良いでしょう。
婦人科では、問診で症状や既往歴、生理周期などを詳しく聞き取ります。
その後、内診や超音波検査、おりものの検査(細菌検査やカンジダ検査など)を行い、診断を確定します。
性感染症が疑われる場合は、血液検査やPCR検査などを行うこともあります。
検査結果に基づいて、原因に合わせた適切な治療法(内服薬、腟錠、塗り薬など)が提案されます。
自己判断で誤った対策を続けるよりも、専門家である医師に相談することが、悩み解消への一番の近道です。
まとめ:おりものの匂いで気になることがあれば専門家へ相談を
おりものの匂いは、多くの女性が気になるデリケートな悩みです。
正常なおりものは、膣内の健康を保つデーデルライン桿菌の働きによって「甘酸っぱい」匂いがします。
これは全く心配いりません。
しかし、普段とは違う「生臭い」「強い酸っぱい匂い」などの不快な匂いがする場合、細菌性腟症やカンジダ腟炎といった疾患が原因である可能性があります。
特に、匂いが強い、おりものの色や状態が異常、かゆみや痛みなどの他の症状を伴う場合は、速やかに医療機関(婦人科)を受診することが重要です。
日頃からデリケートゾーンを正しくケアし、通気性の良い下着を選び、生活習慣を整えることは、おりものの匂いを軽減し、膣内環境を健康に保つために有効なセルフケアです。
おりものの匂いは、あなたの体の状態を知らせてくれる大切なサインです。
気になることがあれば、一人で悩まず、迷わず婦人科の専門家にご相談ください。
適切な診断と治療を受けることで、不安が解消され、快適な毎日を送ることができるはずです。
免責事項: この記事は一般的な情報提供を目的としており、医学的な診断や助言を提供するものではありません。個別の症状については、必ず医療機関で専門家の診断と指導を受けてください。