更年期を迎える頃、女性の体には様々な変化が現れます。その一つとして、多くの方が「おりものの変化」に戸惑いや不安を感じることがあります。
これまでとは違う量、色、臭い…。「これって大丈夫?」「何か病気なの?」と心配になるのは自然なことです。更年期におけるおりものの変化は、体の大きなターニングポイントである「閉経」が近づくにつれて起こるホルモンバランスの変動が大きく関わっています。
この時期のおりものの変化を知ることは、体のサインを理解し、適切に対処するために非常に大切です。このページでは、更年期におりものがどのように変化するのか、その原因や、注意すべき病気の可能性、そしてご自身でできる対策や病院に行く目安について詳しく解説します。
更年期におりものはどう変化する?
更年期とは、閉経を挟んだ前後約10年間を指します。多くの女性にとって、この時期は体内のホルモンバランスが大きく変動する期間です。特に、女性ホルモンであるエストロゲン(卵胞ホルモン)の分泌量が不安定になり、やがて大きく減少していきます。このエストロゲンの変化が、おりものに様々な影響を及ぼします。
おりものは、腟や子宮頸管から分泌される粘液、古い細胞、常在菌などが混ざり合ったもので、腟を潤し、清潔に保ち、感染から守る大切な役割を担っています。そのため、体の状態、特にホルモンバランスの変化を敏感に反映するのです。
更年期で「おりものが増える」のはなぜ?閉経前との関係
更年期の中でも、特に閉経が近づく「閉経前」の時期には、おりものの量が増えたと感じる方がいらっしゃいます。これは、エストロゲンの分泌量が不安定になることが一つの原因と考えられます。排卵期にエストロゲンが増加すると、子宮頸管からの粘液分泌が増え、おりものも増加します。更年期前であれば、エストロゲンは周期的に増減しますが、更年期に入るとその変動が不規則になることがあります。一時的にエストロゲンの分泌が増えるタイミングでは、これまでの周期とは関係なく、おりものが増えたように感じることがあります。また、心理的なストレスや体の冷えなども、自律神経の乱れを通じてホルモンバランスに影響を与え、おりものの状態に変化をもたらす可能性が指摘されています。
さらに、閉経前の不正出血がおりものと混ざり、「量が増えた」「茶色っぽいおりものが出た」と感じるケースもあります。この時期は卵巣機能が低下し、排卵が不安定になるため、子宮内膜が剥がれるタイミングが不規則になり、不正出血を起こしやすくなります。
更年期で「おりものが減る」のはなぜ?閉経後の変化
閉経を過ぎると、エストロゲンの分泌量は大きく低下し、そのまま低い状態が続きます。エストロゲンは、腟の粘膜の厚みや潤いを保つために非常に重要なホルモンです。エストロゲンが減少すると、腟の粘膜が薄くなり、弾力性や潤いが失われて乾燥しやすくなります。これを「腟の萎縮」と呼びます。
腟の粘膜が薄く乾燥すると、分泌される粘液の量も自然と減少します。そのため、閉経後は「おりものの量が減った」「サラサラになった」「乾燥する」と感じる方が圧倒的に多くなります。おりものの減少は、腟の自浄作用を低下させ、外部からの刺激や細菌感染に対して弱くなるという側面も持ち合わせています。おりものが減ることで、かゆみや痛みを伴う「萎縮性腟炎(老人性腟炎)」を発症しやすくなるのも、閉経後の特徴的な変化です。
更年期おりものの量「水っぽい」「大量」は正常?
更年期に「水っぽいおりものが大量に出る」という変化を経験することがあります。これは、先述した閉経前のホルモンバランスの不安定さによる一時的な現象である可能性も考えられます。特に排卵の有無にかかわらず、エストロゲンが一時的に上昇すると、子宮頸管からのサラサラとした粘液分泌が増加し、水っぽいおりものとして感じられます。
しかし、水っぽいおりものや大量のおりものが続く場合は、注意が必要です。例えば、細菌性腟症などの感染症や、まれに子宮頸管ポリープ、子宮頸がん、子宮体がんといった悪性腫瘍が原因である可能性も否定できません。特に、悪臭を伴う場合や、不正出血と混ざっている場合、あるいはかゆみや痛みを伴う場合は、早めに医療機関を受診することが大切です。
更年期おりものの性状「粘り」「サラサラ」の変化
おりものの性状も、更年期のホルモンバランスの変化によって変わります。一般的に、エストロゲンの分泌が多い時期(排卵期など)は、おりものは透明で粘りがあり、よく伸びるゼリー状になります。これは精子を子宮に運びやすくするための変化です。
閉経前でエストロゲンの分泌が不安定な時期は、一時的に粘り気のあるおりものが増えることもあれば、減少期にはサラサラとした水っぽいおりものが増えることもあります。
閉経後は、エストロゲンの分泌が低下するため、腟の粘膜が薄くなり、分泌される粘液も減少します。これにより、おりものは全体的に量が減り、サラサラとした水っぽい性状になる傾向があります。また、乾燥が強くなると、おりものがほとんど出ないと感じる方もいます。
更年期におけるおりものの変化まとめ(閉経前 vs 閉経後)
特徴 | 閉経前(更年期前半) | 閉経後(更年期後半) |
---|---|---|
エストロゲン | 不安定に変動(一時的に増加することもある) | 低下して低い状態が続く |
おりものの量 | 増えたり減ったり不安定。一時的に「増える」と感じることも。 | 減少する傾向が強い。ほとんど出ないと感じることも。 |
おりものの性状 | 水っぽい、粘り気があるなど不安定。 | サラサラとした水っぽい性状になる傾向。乾燥感が増す。 |
腟の状態 | 粘膜の厚みや潤いは比較的保たれているが、不安定。 | 粘膜が薄くなり、乾燥しやすくなる(萎縮)。 |
注意すべき点 | 不正出血との区別、感染症の可能性。 | 萎縮性腟炎、乾燥によるかゆみ・痛みの増加、感染症への弱さ。 |
このように、更年期のおりものの変化は個人差が大きく、閉経前と閉経後でも傾向が異なります。ご自身の体の変化を注意深く観察することが重要です。
更年期おりものの「色」と「臭い」の変化
おりものの色や臭いは、健康状態や感染症の有無を示す重要なサインです。更年期においても、これらの変化は注意深く観察する必要があります。
更年期おりものの色:黄色、茶色、その他
健康な状態のおりものは、通常、透明から乳白色で、下着に付着して時間が経つと、酸化によって薄い黄色に変色することがあります。これは自然な変化であり、心配いらないことがほとんどです。しかし、更年期に特有の要因や、病気が隠れている可能性を示す色の変化もあります。
黄色いおりもの: 下着で薄い黄色に変色するのは一般的ですが、黄色が濃い場合や、緑がかった黄色、泡状のおりものは、細菌性腟症やトリコモナス腟炎などの感染症の可能性があります。また、閉経後の腟の乾燥により、古い細胞が剥がれやすくなり、それが混ざることで黄色く見えることもあります(萎縮性腟炎の症状の一つとしても現れます)。かゆみや悪臭を伴う場合は、感染症を疑いましょう。
茶色いおりもの: 茶色いおりものは、古い血液が混ざっていることを示唆します。更年期、特に閉経前はホルモンバランスの乱れによる不正出血が起こりやすく、それがおりものと混ざることで茶色く見えることがあります。少量の不正出血であれば、経過観察で良い場合もありますが、頻繁に起こる、量が多い、あるいは閉経後に茶色いおりものが出る場合は、子宮頸管ポリープや子宮体がんなどの可能性も否定できません。特に、閉経後の出血は必ず医療機関を受診すべきサインです。
その他の色:
緑色や灰色のおりもの: 細菌性腟症やトリコモナス腟炎などの感染症の可能性が高い色です。悪臭やかゆみを伴うことが多いです。
ピンク色や赤色のおりもの: 新しい血液が混ざっていることを示します。不正出血や、性交時の摩擦による腟の傷(特に萎縮性腟炎で粘膜が薄くなっている場合)が考えられます。繰り返す場合は医療機関を受診しましょう。
白い塊状のおりもの: カッテージチーズやヨーグルトのような白い塊状のおりものは、カンジダ腟炎に典型的です。強いかゆみを伴うことが多いです。
色の変化だけでは断定できませんが、特に普段と違う色のおりものが続く場合や、他の症状(かゆみ、痛み、悪臭、不正出血など)を伴う場合は、医療機関での診察が必要です。
更年期おりものの臭い:気になる原因と対策
健康な状態のおりものは、少し酸っぱいような、特有の軽い臭いがあるのが一般的です。これは、腟内のデーデルライン桿菌という常在菌によって生成される乳酸によるもので、腟内を弱酸性に保ち、病原菌の増殖を抑える役割があります。
しかし、更年期には、おりものの臭いが変化することがあります。
酸っぱい臭い: 健康な腟内環境を保つ乳酸菌(デーデルライン桿菌)によるものです。通常は生理的な範囲の臭いであり、過度に気にする必要はありません。
生臭い臭い: 魚のような生臭い臭いは、細菌性腟症に典型的です。腟内の善玉菌が減り、代わりに増殖した悪玉菌が原因で発生します。おりものの量が増えたり、色が灰色っぽくなることもあります。
腐敗臭: 強い腐敗臭を伴うおりものは、進行した感染症や、まれに子宮や腟の悪性腫瘍が原因となっている可能性があります。早急に医療機関を受診する必要があります。
カビのような臭い: カンジダ腟炎の場合、カビのような臭いがすることがありますが、臭いよりも強いかゆみが主な症状であることが多いです。
更年期に入ると、エストロゲン減少により腟内のpHバランスが崩れやすくなり、善玉菌が減って悪玉菌が増えやすい環境になるため、感染症による臭いの変化が起こりやすくなります。
気になる臭いの対策:
- 清潔を保つ(ただし洗いすぎ注意):
デリケートゾーンはとても敏感な部分です。石鹸を使いすぎたり、ゴシゴシ強く洗ったりすると、必要な皮脂や善玉菌まで洗い流してしまい、乾燥やかゆみ、感染症を招きやすくなります。
洗浄は1日1回程度、ぬるま湯で優しく洗い流すだけで十分なことが多いです。石鹸を使う場合は、デリケートゾーン専用の弱酸性ソープを選び、泡で優しくなでるように洗い、十分に洗い流しましょう。
腟内の洗浄(ビデなど)は、医師の指示がない限り避けてください。腟内の自浄作用を妨げてしまう可能性があります。
洗浄後は、清潔なタオルで優しく水分を拭き取り、完全に乾かすことが大切です。湿った状態は細菌や真菌が繁殖しやすい環境になります。 - 通気性の良い下着を選ぶ:
締め付けの強い下着や、ナイロン・ポリエステルなどの化学繊維の下着は、デリケートゾーンのムレの原因となります。ムレはかゆみや細菌・真菌の増殖を招きやすいです。
通気性と吸湿性に優れた綿素材の下着を選びましょう。特に就寝時は、ゆったりとした下着やノーパンで過ごすことも有効です。 - おりものシートやナプキンの使用に注意する:
おりものの量が多い時や、下着の汚れが気になる時に便利なおりものシートやナプキンですが、長時間使用するとムレの原因になります。できるだけこまめに交換するか、使用しない方が良い場合もあります。
素材によってはかぶれやかゆみを引き起こすこともあるため、ご自身の肌に合うものを選び、不快感がある場合は使用を控えましょう。 - ストレスを軽減し、質の良い睡眠をとる:
ストレスや睡眠不足は、自律神経やホルモンバランスを乱し、更年期症状全般を悪化させる可能性があります。おりものにも影響を与えることがあります。
リラクゼーションを取り入れたり、趣味を楽しんだりして、ストレスを上手に解消しましょう。十分な睡眠時間を確保し、心身ともにリラックスすることが大切です。 - バランスの取れた食事と適度な運動:
栄養バランスの取れた食事は、体全体の健康を保ち、免疫力を高めるために重要です。特に、腸内環境を整える発酵食品や食物繊維を積極的に摂ることも、腟内環境に間接的に良い影響を与える可能性があります。
適度な運動は血行を促進し、ホルモンバランスを整えるのに役立ちます。無理のない範囲でウォーキングやストレッチなどを日常に取り入れましょう。 - 市販のデリケートゾーンケア用品を使う:
更年期による乾燥が気になる場合は、デリケートゾーン用の保湿ジェルやクリーム、オイルなどが市販されています。これらを使用することで、腟や外陰部の乾燥感を軽減し、かゆみや痛みを和らげることができます。
製品を選ぶ際は、弱酸性で刺激の少ないもの、無香料・無着色のものを選ぶと安心です。使用方法をよく読み、ご自身の肌に合うか確認しながら使用しましょう。ただし、症状が改善しない場合や悪化する場合は使用を中止し、医療機関を受診してください。
おりものの色や臭いは、体の状態を知るための重要なサインです。普段からご自身のおりものの状態を観察し、異常を感じたら適切に対処することが、更年期を快適に過ごすために役立ちます。
更年期のおりもの、こんな症状は病気のサイン?
更年期におけるおりものの変化の多くは、ホルモンバランスの自然な変動によるものですが、中には病気が隠れている可能性を示すサインもあります。特に、以下のような異常な特徴が見られる場合は、注意が必要です。
注意したいおりものの異常な特徴
ご自身のおりものを観察する際に、チェックすべき異常な特徴を具体的に見ていきましょう。これらの症状が一つでも見られる場合は、早めに医療機関を受診することをお勧めします。
- 量: 急激に増えた、あるいは異常なほど水っぽい・大量である。
- 色: 黄色、緑色、灰色、茶色、ピンク色、鮮やかな赤色など、普段と違う色。
- 臭い: 生臭い、腐敗臭、カビのような臭いなど、強い不快な臭い。
- 性状: サラサラの水っぽい、カッテージチーズのような白い塊状、泡状、ゼリーのような塊状など、普段と違う性状。
- かゆみ: デリケートゾーンやその周辺に強いかゆみがある。
- 痛み: 腟の入り口や内部に痛みやヒリヒリ感がある。性交時に痛みを感じる(性交痛)。
- 出血: おりものに血液が混ざっている(不正出血)。特に閉経後に出血がある場合は要注意。
茶色いおりものや血性のおりものが続く場合。 - 排尿時の不快感: 排尿時に痛みやしみたりする感じがある(排尿痛)。
頻繁に尿意を感じる(頻尿)。 - 症状が続く、あるいは悪化する: 上記のような気になる症状が数日経っても改善しない、あるいはむしろ悪化している場合。
- その他の全身症状を伴う: おりものの異常に加え、発熱、下腹部痛、腰痛などの全身症状がある場合。
- 漠然とした不安が強い: 特に明らかな異常がなくても、「何かおかしい」「もしかして重い病気なのでは?」といった漠然とした不安が強く、日常生活に支障が出ている場合も、専門医に相談することで安心できることがあります。
これらの症状は、単独で現れることもありますが、複数組み合わさって現れることもあります。例えば、黄色いおりものと生臭い臭い、強いかゆみと白い塊状のおりものなど、典型的な組み合わせは特定の感染症を示唆します。
更年期に多いおりもの関連の病気(萎縮性腟炎など)
更年期に「おりものの変化」を訴えて医療機関を受診する際に、考えられる主な病気には以下のようなものがあります。
- 萎縮性腟炎(老人性腟炎):
原因: 閉経によるエストロゲン分泌の著しい低下が最大の原因です。エストロゲンが減少すると、腟の粘膜が薄く乾燥し、弾力性が失われます。これにより、腟内の自浄作用が低下し、外部からの細菌感染に対して非常に弱くなります。
症状: おりものの減少、サラサラした水っぽいおりもの、または黄色っぽいおりもの。かゆみ、ヒリヒリ感、痛み(特に性交時)、少量の出血(特に性交後や下着に擦れた時)、頻尿や排尿時の不快感などを伴うこともあります。腟の入り口が赤く腫れることもあります。
診断: 問診で症状を確認し、内診で腟の状態(粘膜の色、厚み、乾燥の程度など)を観察します。必要に応じて、おりものを採取して細菌検査を行うこともあります。
治療: エストロゲンを腟に直接補充する局所ホルモン補充療法(腟クリームや腟錠)が一般的で効果的です。腟の粘膜を潤す保湿剤や、感染がある場合は抗菌薬や抗真菌薬が処方されることもあります。 - 細菌性腟症(さいきんせい ちつしょう):
原因: 腟内の善玉菌(デーデルライン桿菌)が減少し、特定の悪玉菌が増殖することで起こります。更年期にはエストロゲン低下により腟内のpHバランスが崩れやすいため、細菌性腟症にかかりやすくなります。
症状: 魚のような生臭いおりもの、灰白色や黄色っぽい水っぽいおりものが増えることが多いです。かゆみや痛みは少ないこともあります。
診断: おりものの性状や臭いを確認し、顕微鏡で観察したり、培養検査を行ったりして原因菌を特定します。
治療: 原因菌に対して効果のある抗菌薬(内服薬または腟錠)を使用します。 - カンジダ腟炎(かんじだ ちつえん):
原因: カンジダという真菌(カビ)が腟内で異常に増殖して起こります。カンジダは健康な女性の腟にも常在していますが、体調不良や免疫力低下、抗生物質の服用などがきっかけで増殖することがあります。更年期のストレスや免疫力低下も原因となることがあります。
症状: カッテージチーズやヨーグルトのような白い塊状のおりものが典型的です。非常に強いかゆみを伴うことが多く、外陰部が赤く腫れたり、排尿時にしみたりすることもあります。臭いは少ないか、カビのような臭いがすることがあります。
診断: おりものを採取し、顕微鏡でカンジダ菌を確認したり、培養検査を行ったりします。
治療: カンジダ菌に対して効果のある抗真菌薬(腟錠、クリーム、内服薬)を使用します。 - トリコモナス腟炎(とりこもなす ちつえん):
原因: トリコモナスという原虫が原因で起こる性感染症(STD)の一つですが、タオルや浴槽などを介して感染することもあります。
症状: 黄色っぽい緑色の泡状のおりものが増え、強い悪臭(生臭い臭い)を伴うことが典型的です。外陰部の強いかゆみや痛み、排尿時の痛み、性交痛などを伴うこともあります。
診断: おりものを採取し、顕微鏡でトリコモナス原虫を確認したり、培養検査を行ったりします。
治療: トリコモナス原虫に対して効果のある抗菌薬(メトロニダゾールなど)を内服または腟錠で使用します。パートナーも同時に治療が必要です。 - 子宮頸管ポリープ(しきゅうけいかん ポリープ):
原因: 子宮頸管の粘膜が増殖してできる良性の腫瘍です。大きさは様々ですが、数ミリから数センチになることもあります。
症状: 少量の出血(特に性交後や排便時など、ポリープに物理的な刺激が加わった時)や、おりものに血液が混ざる(茶色いおりものや血性のおりもの)ことがあります。無症状の場合も多いです。
診断: 内診で子宮頸管にポリープを確認し、診断します。
治療: 出血などの症状がある場合や、大きい場合は、外来で簡単に切除することができます。切除した組織は病理検査を行い、悪性でないことを確認します。 - 子宮頸がん、子宮体がん(しきゅうけいがん、しきゅうたいがん):
原因: 子宮頸部または子宮内膜に発生する悪性腫瘍です。
症状: 初期段階では自覚症状がないことがほとんどですが、進行すると不正出血(月経時以外に出血がある、閉経後に出血があるなど)や、異常なおりもの(血性、褐色、悪臭を伴う、水っぽい・大量など)が現れることがあります。その他、下腹部痛、腰痛なども見られることがあります。
診断: 内診、超音波検査、子宮頸部細胞診、子宮体部細胞診、組織診(生検)などの検査によって診断されます。
治療: 進行度や病理組織型によって、手術、放射線療法、化学療法などが選択されます。
更年期のおりもの変化は、これらの病気の初期症状として現れることもあります。特に、普段と明らかに違うと感じる変化や、気になる症状を伴う場合は、自己判断で様子を見すぎず、専門医に相談することが非常に重要です。定期的な婦人科検診を受けることも、病気の早期発見につながります。
更年期のおりもの、病院へ行く目安は?
更年期におけるおりものの変化は多くの女性が経験する自然な現象ですが、中には医療機関での診察が必要なサインも含まれています。「これくらいで病院に行っていいのかな?」と迷うこともあるかもしれません。ここでは、どのような症状が見られたら病院に行くべきか、その目安について詳しく説明します。
専門医の診察を受けるべき症状
以下に挙げる症状が一つでも見られる場合は、早めに婦人科を受診することを強くお勧めします。これらの症状は、単なるホルモンバランスの変化だけでなく、感染症やその他の病気が原因である可能性を示唆しています。
- おりものの量、色、臭い、性状が普段と明らかに違う:
量が急に増えたり、異常に水っぽく大量になったりした場合。
色が黄色、緑色、灰色、茶色、ピンク色、鮮やかな赤色などになった場合。
生臭い、腐敗臭、カビのような臭いなど、不快で強い臭いがする場合。
カッテージチーズのような白い塊状、泡状、ゼリーのような塊状など、普段と違う性状になった場合。 - かゆみや痛みを伴う:
デリケートゾーンや腟の強いかゆみやヒリヒリ感。
腟の痛みや性交痛。 - 不正出血を伴う:
月経期間以外に出血がある。
閉経後に出血がある(どんなに少量でも、一度は必ず医療機関を受診しましょう)。
茶色いおりものや血性のおりものが続く場合。 - 排尿時の不快感を伴う:
排尿時に痛みやしみたりする感じがある(排尿痛)。
頻繁に尿意を感じる(頻尿)。 - 症状が続く、あるいは悪化する:
上記のような気になる症状が数日経っても改善しない、あるいはむしろ悪化している場合。 - その他の全身症状を伴う:
おりものの異常に加え、発熱、下腹部痛、腰痛などの全身症状がある場合。 - 漠然とした不安が強い:
特に明らかな異常がなくても、「何かおかしい」「もしかして重い病気なのでは?」といった漠然とした不安が強く、日常生活に支障が出ている場合も、専門医に相談することで安心できることがあります。
これらの症状は、単独で現れることもありますが、複数組み合わさって現れることもあります。例えば、黄色いおりものと生臭い臭い、強いかゆみと白い塊状のおりものなど、典型的な組み合わせは特定の感染症を示唆します。
病院での診察の流れ:
- 問診: いつからどのような症状があるか、おりものの量・色・臭い・性状、かゆみや痛み、不正出血の有無、閉経の時期、現在の体調、服用中の薬、アレルギーの有無、過去の病歴(性感染症など)について詳しく聞かれます。正確に伝えるために、ご自身の症状をメモしておくと良いでしょう。
- 内診: 医師が外陰部や腟、子宮頸部の状態を視診したり、触診したりします。この際、腟の粘膜の色、厚み、乾燥の程度、分泌物の量や性状、炎症の有無などを確認します。
- おりもの検査: 必要に応じて、腟内からおりものを採取し、顕微鏡で細菌や真菌、トリコモナスなどの病原体を確認したり、培養検査を行ったりします。これにより、感染症の種類を特定し、適切な治療薬を選ぶことができます。
- その他の検査: 症状や内診所見によって、超音波検査で子宮や卵巣の状態を確認したり、子宮頸部細胞診や子宮体部細胞診を行って悪性腫瘍の可能性を調べたりすることがあります。不正出血がある場合は、これらの検査が特に重要になります。
問診や内診、検査結果をもとに、医師が診断を下し、原因に応じた治療法を提案してくれます。不安なことや疑問点は、遠慮なく医師に質問しましょう。
迷ったときは、「少しでも気になるなら受診する」というスタンスが大切です。更年期のおりもの変化の中には、早期発見・早期治療が重要な病気が隠れている可能性もあります。ご自身の体を大切にし、安心して更年期を過ごすためにも、専門医のサポートを受けることをためらわないでください。
更年期におけるおりもののお悩み対策
更年期のおりものに関するお悩みを解消するためには、日々のセルフケアと必要に応じた医療機関での治療を組み合わせることが効果的です。ここでは、ご自身でできることと、医療機関で受けられる治療法について詳しく解説します。
日常でできるセルフケア
まずは、ご自宅で日常的にできるセルフケアから見ていきましょう。これらのケアは、おりものの状態を良好に保ち、不快な症状を軽減するのに役立ちます。
- デリケートゾーンの清潔を保つ(ただし洗いすぎ注意):
デリケートゾーンはとても敏感な部分です。石鹸を使いすぎたり、ゴシゴシ強く洗ったりすると、必要な皮脂や善玉菌まで洗い流してしまい、乾燥やかゆみ、感染症を招きやすくなります。
洗浄は1日1回程度、ぬるま湯で優しく洗い流すだけで十分なことが多いです。石鹸を使う場合は、デリケートゾーン専用の弱酸性ソープを選び、泡で優しくなでるように洗い、十分に洗い流しましょう。
腟内の洗浄(ビデなど)は、医師の指示がない限り避けてください。腟内の自浄作用を妨げてしまう可能性があります。
洗浄後は、清潔なタオルで優しく水分を拭き取り、完全に乾かすことが大切です。湿った状態は細菌や真菌が繁殖しやすい環境になります。 - 通気性の良い下着を選ぶ:
締め付けの強い下着や、ナイロン・ポリエステルなどの化学繊維の下着は、デリケートゾーンのムレの原因となります。ムレはかゆみや細菌・真菌の増殖を招きやすいです。
通気性と吸湿性に優れた綿素材の下着を選びましょう。特に就寝時は、ゆったりとした下着やノーパンで過ごすことも有効です。 - おりものシートやナプキンの使用に注意する:
おりものの量が多い時や、下着の汚れが気になる時に便利なおりものシートやナプキンですが、長時間使用するとムレの原因になります。できるだけこまめに交換するか、使用しない方が良い場合もあります。
素材によってはかぶれやかゆみを引き起こすこともあるため、ご自身の肌に合うものを選び、不快感がある場合は使用を控えましょう。 - ストレスを軽減し、質の良い睡眠をとる:
ストレスや睡眠不足は、自律神経やホルモンバランスを乱し、更年期症状全般を悪化させる可能性があります。おりものにも影響を与えることがあります。
リラクゼーションを取り入れたり、趣味を楽しんだりして、ストレスを上手に解消しましょう。十分な睡眠時間を確保し、心身ともにリラックスすることが大切です。 - バランスの取れた食事と適度な運動:
栄養バランスの取れた食事は、体全体の健康を保ち、免疫力を高めるために重要です。特に、腸内環境を整える発酵食品や食物繊維を積極的に摂ることも、腟内環境に間接的に良い影響を与える可能性があります。
適度な運動は血行を促進し、ホルモンバランスを整えるのに役立ちます。無理のない範囲でウォーキングやストレッチなどを日常に取り入れましょう。 - 市販のデリケートゾーンケア用品を使う:
更年期による乾燥が気になる場合は、デリケートゾーン用の保湿ジェルやクリーム、オイルなどが市販されています。これらを使用することで、腟や外陰部の乾燥感を軽減し、かゆみや痛みを和らげることができます。
製品を選ぶ際は、弱酸性で刺激の少ないもの、無香料・無着色のものを選ぶと安心です。使用方法をよく読み、ご自身の肌に合うか確認しながら使用しましょう。ただし、症状が改善しない場合や悪化する場合は使用を中止し、医療機関を受診してください。
医療機関での治療法
セルフケアで改善しない場合や、感染症、萎縮性腟炎などの病気が診断された場合は、医療機関での専門的な治療が必要になります。
- ホルモン補充療法(HRT):
更年期におけるおりものの減少や萎縮性腟炎の主な原因はエストロゲン低下です。HRTは、不足しているエストロゲンを補充することで、これらの症状を改善する効果的な治療法です。
全身療法: エストロゲン製剤を内服、貼り薬、塗り薬などで全身に投与する方法です。更年期症状全般(ホットフラッシュ、精神症状など)の改善にも効果が期待できます。子宮がある女性には、子宮体がんのリスクを避けるために黄体ホルモン製剤も併用されるのが一般的です。
局所療法: エストロゲン含有の腟クリームや腟錠を腟内に直接投与する方法です。エストロゲンは主に腟の粘膜に作用し、粘膜の厚みや潤いを回復させます。全身への影響が少ないため、全身疾患などでHRTの全身療法が難しい方にも使用できる場合があります。萎縮性腟炎によるおりもの減少、乾燥、かゆみ、性交痛などに特に効果的です。
HRTは効果が高い反面、副作用やリスク(乳がん、子宮体がん、血栓症など)についても理解しておく必要があります。医師とよく相談し、ご自身の体質や既往歴などを考慮して、最も適した方法を選択することが重要です。 - 感染症の治療:
細菌性腟症、カンジダ腟炎、トリコモナス腟炎などの感染症が原因の場合は、原因となっている病原体に応じた薬剤が処方されます。
細菌性腟症・トリコモナス腟炎: 主に抗菌薬(抗生物質)が使用されます。内服薬や腟錠があります。トリコモナス腟炎の場合は、パートナーも同時に治療を受ける必要があります。
カンジダ腟炎: 抗真菌薬が使用されます。腟錠やクリーム、内服薬があります。
医師の指示通りに薬剤を服用・使用し、治療期間を守ることが大切です。症状が改善しても、自己判断で中止しないようにしましょう。 - 保湿剤や潤滑剤の使用:
萎縮性腟炎による乾燥感が強い場合、エストロゲン製剤が使用できない方や使用を控えたい方には、非ホルモン性の保湿剤や潤滑剤が処方されることがあります。
保湿剤は腟内の乾燥感を軽減し、潤いを保つのに役立ちます。潤滑剤は性交時の痛みを和らげるために使用されます。これらは市販もされていますが、医療機関で相談することも可能です。 - その他:
子宮頸管ポリープが見つかった場合は、切除手術が行われます。
子宮頸がんや子宮体がんなど、悪性腫瘍が診断された場合は、病気の進行度に応じて手術、放射線療法、化学療法などが専門的な医療機関で行われます。
対策の比較
更年期のおりもの対策は、症状の原因や程度によって適切な方法が異なります。以下に、セルフケアと医療機関での治療の主な違いをまとめます。
対策の種類 | 主な目的 | 効果の現れ方 | 対象となる症状 | メリット | デメリット/注意点 |
---|---|---|---|---|---|
セルフケア | 軽度の不快感軽減、予防、健康維持 | 穏やか、継続が必要 | 軽微な量・性状の変化、軽度の乾燥感・かゆみ | 手軽に始められる、費用がかからないことが多い、副作用が少ない | 改善しない場合や悪化する場合は限界がある、病気を治すものではない |
医療機関での治療 | 病気や症状の根本的な改善、感染症の治療 | 比較的速やか、原因に応じた効果 | 異常な色・臭い・性状、強いかゆみ・痛み、不正出血、萎縮性腟炎、感染症 | 原因に応じた確実な治療、医師の専門的なアドバイス | 受診の手間や費用がかかる、薬剤による副作用のリスク |
更年期のおりもののお悩みに対して、ご自身の症状を正しく理解し、必要に応じて適切なセルフケアを試み、改善が見られない場合や気になる症状がある場合は迷わず医療機関を受診することが、快適な更年期を過ごすための鍵となります。
まとめ:更年期のおりものの変化を知り、適切に対処しましょう
更年期は、女性の体にとって大きな変化の時期です。特に、女性ホルモンであるエストロゲンの分泌量の変動や減少は、おりものにも様々な影響を及ぼします。おりものの量が増えたり減ったり、水っぽくなったり乾燥したり、色や臭いが変わったりと、これまでの自分とは違う変化に戸惑いや不安を感じる方も少なくありません。
更年期のおりものの変化の多くは、ホルモンバランスの自然な変動によるものですが、中には感染症や、まれに悪性腫瘍といった病気が隠れている可能性を示すサインも含まれています。特に、おりものの色や臭いが普段と明らかに違う場合、かゆみや痛みを伴う場合、そして最も重要なのは「不正出血」が見られる場合です。閉経後に出血がある場合は、どんなに少量でも必ず医療機関を受診してください。
ご自身のおりものの状態を日頃から観察し、「いつもと違うな」と感じたサインを見逃さないことが大切です。気になる変化があった場合は、まずはデリケートゾーンを清潔に保ち、通気性の良い下着を選び、ストレスを軽減するなど、日常的なセルフケアを試みましょう。市販の保湿剤なども、乾燥感の緩和に役立つことがあります。
しかし、セルフケアで改善しない場合や、先述したような注意すべき異常な症状が見られる場合は、自己判断せずに早めに婦人科を受診してください。医師は問診や内診、必要に応じておりもの検査などを行い、症状の原因を正確に診断し、適切な治療法(ホルモン補充療法、抗生物質、抗真菌薬など)を提案してくれます。
更年期のおりもののお悩みを抱え込まず、ご自身の体のサインを理解し、適切に対処することで、更年期をより快適に過ごすことができます。不安な気持ちを解消するためにも、迷ったら専門医に相談することを躊躇しないでください。適切な情報とケアがあれば、きっと安心へとつながるはずです。
免責事項
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、医療行為や医師の診断に代わるものではありません。個々の症状や状態については、必ず専門の医療機関を受診し、医師の診断と指導に従ってください。本記事の情報に基づいて行った行為により生じたいかなる結果についても、当方は責任を負いかねます。